博士(環境科学)宇田川佑介 学位論文題名
A study of modulation in interannual seaーice patterns in the Southern Ocean in association
with large一scale atmospherlCmodeShift
(南太洋における海氷変動パターンの変調と大気大循環パターンの シフトに関する研究)
学位論文内容の要旨
南大洋 はほ ば季節 海氷 域であ り、 面積も 大き く年々 変動 する。 海氷 生成域 は 南極底 層水 が作ら れ、 大気海 洋間 の熱交 換が 活発で あり 、赤道 域と 共に気 候 変動を 駆動 してい る。 南大洋 にお ける海 氷の 変動は 全球 的な気 候形 成に大 き く関与 し、 南大洋 の海 氷の年 々変 動と大 気場 の関連 性を 研究す るこ とは地 球 の気候 変動 メカニ ズム の解明 に通 ずる。 その 南大洋 の気 候形成 メカ ニズム は2っの 仮 説 が 提 唱 さ れ てい る 。 一 っは南 極周 極波動 くACW)と呼 ばれ 、海氷 の 張り出 しな どの年 々偏 差がお よそ4年周 期で変 動し 、東西 波数2で南 極大陸 の 周 り を 東 向 きに8年 で1周 す る[White and Peterson,1996]。 一方はAntar ctic Dipole,ADPと 呼ば れ、海 氷の 張り出 し等の年々偏差は東西波数2を形成 す る。し かし その変 動は 西南極 で顕 著とな り、 弱い東 進成 分を含 む準 定在波 で あ る[Yuan and Martinson,2000]。 エ ル ニ ー ニ ヨ 現象 が 大 気 場 を 通じて 南 大洋ヘ 伝播 するPacific South Amerlcan (PSA)テレ コネ クショ ンパ ターン が 海氷量 偏差 の強制 源で ある。 そこ で本研 究で は、よ り長 期に渡 る海 氷デー タ を 解 析 す る こ と で 、 こ の ニ っ の 仮 説 の 解 決 に 取 り 組 ん だ 。 冬季に おけ る海氷 デー タのEOF解析 の結 果、1984年 〜19 94年に かけ てのみ 海 氷 量 偏 差 は 連続 的 に 東 進 し て いた こ と が わ か っ た 。同 様 に 大 気 場 (高度 場 )にっ いて のEOF解析を 行っ た結果 、長 期間デ ータ では第1モー ドに は南半 球 環状モ ード(SAM)と呼ぱ れる 中高緯 度に 韜ける シー ソーパ ター ンが、 第2モ ー ドにはPSAパ ター ンが抽 出さ れた。 しか し海氷場が回転している.1984 ‑19 94年 に か け て のみEOF解 析を 行 う と 第1モ ードと 第2モ ード が逆転 する ことが わ かった 。そ して海 氷量 偏差パ ター ンの東 進は 、約4年周期 で変 動して いたP SAパター ンに よる温 度移 流と風 応カ に対す る海 氷場の 応答 であっ た。 っまり 海 氷 場 はACWの よ う に 東 進し て い る 時期は ある が、そ の期 間は限 られ た。振 幅 も 西 南 極 で のみ 大 き く 、ACWとADPを 足 し 合 わ せ た よう な 特 徴 を 示 してい
た。弱い東進モードと定在モードから形成されるADPの東進成分が、この期 間は強くなっていたとも言えよう。また海氷量偏差パターンの年々変動の変 調(非回転期間→回転期間→非回転期間)に関連して、10年規模の大気大循 環モードのシフトの存在も明らかになった。
次に本研究では長期(1958‑2007)における大気大循環モードのシフトの要 因にっいても考察を行った。まずPSAパターンの分散が大きかった時期(1984
〜1994)と小さかった時期(1974〜1984)での平均場の違いを調べたところ、中 部熱帯太平洋域と南太平洋収束帯の東側に韜ける海水面温度(SST)が有意に19 84〜1994年の方が大きかった。そこで大気大循環モデルを用いて、その海域 のSSTのみを1℃ 増加(+1℃run)、 減少( ・1℃run)させたモデル実験を行 った。その結果・1℃runと比べ、+1℃runのPSAを含む渦成分の寄与率が大き く、降水活動の両実験の平均値の差では、中部熱帯太平洋において有意な差 が見られる。・1℃runに比べSST分布を1℃上昇させた海域の北側において対 流活動が活発になっていることが考えられ、PSAパターンの活動が活発にな るには、中部熱帯太平洋のSSTの上昇が重要である可能性が示された。以上 から、大気場の大循環モードのシフトにはこの海域の海水面温度の変動が重 要であることが示唆された。
また本研究では、大気大循環モードのシフトの要因のーっとして考えられ るSAMとPSAの 非線 形作用 にっ いても 解析し た(SAMとSPAは線 形的に は独 立 である )。その結果、PSAの変動性(分散)とSAMの位相には正の有意な 相関関係があることがわかった。っまり、PSAパターンの位相が正もしくは 負の値(土0.5標準偏差以上)の時、SAMの位相は正になりやすい傾向にある。
またPSAパターンの位相が小さ詮正もしくは小さな負の値(土0.5標準偏差以 内)の時には、SAMの位相が負になりやすいという関係である。このメカニ ズムとしては、PSAパターンに伴う擾乱による運動量輸送の結果、東西風が 変化し、その東西風分布がSAMの位相決定に寄与しているためであった。た だし、この寄与はSAMの位相を絶対的に決めるものではなく、部分的な寄与 であった。SAMの位相決定の主要メカニズムは大気の内部力学の結果である と考えられる。
最後に、本研究での成果は、地球の気候変動メカニズムの解明への一歩で あ り、地 球温暖化問題解決ヘ向けた科学的側面からの寄与が期待される。
学位論文審査の要旨 主査 教授 山崎孝治 副査 教授 大島慶一郎 副査 准教授 青木 茂
副査 教授 見延圧士郎(理学研究院)
副査 教授 立花義裕(三重大学大学院 生物資源学研究科)
学位論文題名
A study of modulation in interannual sea―ice patterns in the Southern OceanlnaSSOCiation
Withlarge―SCaleatmOSpherlCmodeShift
(南太洋における海氷変動パターンの変調と大気大循環パターンの シフトに関する研究)
南 大 洋 はほ ぼ季節 海氷 域であ り、 面積も 大き く年々 変動 する。 海氷 生 成域は 南極 底層水が作られ、大気海洋間の熱交換が活発であり、赤道域と 共に気 候変 動を駆動している。南大洋における海氷の変動は全球的な気候 形成に 大き く関与し、南大洋の海氷の年々変動と大気場の関連性を研究す ること は地 球の気候変動メカニズムの解明に通ずる。その南大洋の気候形 成 ヌ カ ニズ ム は2つの 仮 説 が 提 唱 さ れて い る 。 一 っ は 南 極周 極 波 動(AC W)と呼 ばれ 、海氷 の張 り出し など の年々 偏差 がおよそ4年周期で変動し、
東西 波 数2で 南 極 大 陸 の 周 り を東 向 き に8年 で1周する[White and Peter son,1996]。一方 はAntarctic Dipole,ADPと 呼ばれ、海氷の張り出し等 の年々 偏差 は東西 波数2を形 成する 。し かしそ の変動は西南極で顕著とな り、 弱 い 東進 成分を 含む 準定在 波で ある[Yuan and Martinson,2000]。 工ル ニ ー ニョ 現象が 大気 場を通 じて 南大洋 へ伝 播するPacific South Am erlcan (PSA)テレコ ネク ション パタ ーンが 海氷 量偏差 の強 制源で ある 。 そこで 本研 究では、より長期に渡る海氷データを解析することで、このニ つの仮 説の 解決に 取り 組んだ 。
冬 季 に お け る 海 氷デ ー タ のEOF解 析 の 結 果、1984年 〜1994年に かけ て のみ 海 氷 量偏 差は連 続的 に東進 して いたこ とが わかっ た。 同様に 大気 場
(高度場)についてのEOF解析を行った結果、長期間データでは第1モー ドには南半球環状モード(SAM)と呼ばれる中高緯度におけるシーソーバタ ーンが、第2モードにはPSAバターンが抽出された。しかし海氷場が回転 している1984〜1994年にかけてのみEOF解析を行うと第1モードと第2モ ードが逆転することがわかった。そして海氷量偏差バターンの東進は、約 4年周期で変動していたPSAバターンによる温度移流と風応カに対する海 氷場の応答であった。っまり海氷場はACWのように東進している時期は ある が、そ の期間 は限られた。振幅も西南極でのみ大きく、ACWとADP を足し合わせたような特徴を示していた。弱い東進モードと定在モードか ら形成されるADPの東進成分が、この期間は強くなっていたとも言えよ う。また海氷量偏差バターンの年々変動の変調(非回転期間→回転期間→
非回転期間)に関連して、10年規模の大気大循環モードのシフトの存在 も明らかにぬった。
次に本研究では長期(1958‑2007)における大気大循環モードのシフト の要因についても考察を行った。まずPSAバターンの分散が大きかった時 期(1984〜1994)と小さかった時期(1974〜1984)での平均場lの違いを調べ たところ、中部熱帯太平洋域と南太平洋収束帯の東側における海水面温度 (SST)が有意に1984ん1994年の方が大きかった。そこで大気大循環モデル を用いて、その海域のSSTのみを1℃増加(+1℃run)、減少(・1℃run) させたモデル実験を行った。その結果・1℃runと比ベ、+1℃runのPSAを 含む渦成分の寄与率が大きく、降水活動の両実験の平均値の差では、中部 熱帯太平洋において有意な差が見られる。‐1℃runに比べSST分布を1℃上 昇させた海域の北側において対流活動が活発になっていることが考えられ、
PSAバターンの活動が活発になるには、中部熱帯太平洋のSSTの上昇が重 要である可能性が示された。以上から、大気場の大循環モードのシフトに は こ の 海 域 の 海 水 面 温 度 の 変 動 が重 要 で あ る こ とが 示 唆 さ れ た。
また本研究では、大気大循環モードのシフトの要因のーっとして考えら れ るSAMとPSAの 非 線形 作用 につい ても解 析した (SAMとSPAは線形 的 には 独立で ある) 。その結果、PSAの変動性(分散)とSAMの位相には 正の有意な相関関係があることがわかった。っまり、PSAバターンの位相 が正もしくは負の値(土0.5標準偏差以上)の時、SAMの位相は正になり やすい傾向にある。またPSAバターンの位相が小さな正もしくは小さな負 の値(士0.5標準偏差以内)の時には、SAMの位相が負になりやすいとい う関係である。このメカニズムとしては、PSAパターンに伴う擾乱による 運動量輸送の結果、東西風が変化し、その東西風分布がSAMの位相決定 に寄与しているためであった。ただし、この寄与はSAMの位相を絶対的 に決めるものではなく、部分的な寄与であった。SAMの位相決定の主要 ヌ カ ニ ズ ム は 大 気 の 内 部 力 学 の 結 果 で あ る と 考 え ら れ る 。
最後に、本研究での成果は、地球の気候変動メカニズムの解明への一歩 であり、地球温暖化問題解決へ向けた科学的側面からの寄与が期待される。
審査委員一同は,これらの成果を高く評価し,また研究者として誠実 かつ熱心であり,大学院博士課程における研鑽や修得単位などもあわせ,
申請者が博士(環境科学)の学位を受けるのに充分な資格を有するものと 判定した。