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第 1 章 試練を迎えるグローバル経済の現状と課題 第 図 / 中国の物価の推移 2020 SDR (4) 我が国との戦略的互恵関係の構築に向けて 1 環境 エネルギー分野で我が国企業に期待される活躍の場 (a) 科学的発展観の実践に向けて SCE 69

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1章

で4.58兆元となっており、目標を大幅に上回るペース となっている(第1-2-3-39図)。また、企業の利益は減 少に転じているが、債務残高は大きく膨らんでいる (第1-2-3-40図)。政府は貸出し構造の最適化を行うこ ととしており、三農、中小企業等への金融支援を強化 する一方で、エネルギー多消費、高汚染、生産能力過 剰業種・企業への貸出しを厳格に抑制することとして いる。 (c)後退する過剰流動性、インフレリスク 中国政府は、足下では、金融緩和政策により、マ ネーサプライを増加させているが、2008 年の前半ま では、マネーサプライの増加は、民間金融機関に大量 に蓄積された流動性が、貸出しによって市中に放出さ れ、不動産価格の高騰や株式市場の加熱を招くなどイ ンフレ圧力を増加させると考えられる懸念材料であっ た。インフレ圧力については、政府及び人民銀行が、 金融引締め等を通じて抑制に努めてきたが、2008 年 は、食料、資源価格の上昇が鈍化し、海外への資金流 出等から過剰流動性によるインフレ圧力は低下してい る。なお、海外への資金流出については、外貨準備高 の増加分から貿易収支と対内直接投資実行額を除いた 額(第1-2-3-41図中その他)が2008年後半からマイナ スとなっており、海外へ資金流出していると考えられ る。 このように足下ではインフレの懸念は低下している が(第1-2-3-42図)、過剰なまでの貸出しの増加は、長 期的にはインフレ圧力をもたらすだけでなく、生産効 率の低い投資を助長することとなり、中国経済の発展 の妨げになることが懸念される。 ⑧貿易の人民元決済の拡大 世界経済危機の影響で欧米地域向けの貿易が鈍化す るなか、対外貿易の安定化を図るための措置として、 2009年4月8日の中国国務院常務会議で貿易代金の決 済を人民元でも行える制度を試験的に導入する方針が 決定された。対象となるのは長江デルタの上海市と珠 江デルタの広州市、深圳市、珠海市、東莞市の5市に よる香港との貿易となっている。 また、昨年来、中国は、韓国、インドネシア、ベラ ルーシ、アルゼンチン、香港、マレーシアの6か国・ 地域と総額6,500億ドルとなる2国間通貨スワップ協 定を締結し、2国間における貿易決済が行えることと なっている。これまで貿易の決済はドル等の国際通貨 に限られていたが、人民元建て決済により為替変動リ スクの回避、外貨両替コストの節約等の改善が見込ま 第1-2-3-39図/中国の金融機関貸出、 マネーサプライの推移 2006 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 2007 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 2008 1 2 3 2009 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1.89 29.8 25.5 10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 30 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 1.8 2.0 金融機関新規貸出(右目盛) 金融機関貸出残高 マネーサプライ(M2) 前年同月比(%) (兆元) 資料:中国人民銀行。 第1-2-3-40図/中国の工業企業の債務残高と 利益の推移 23.4 −37.3 −30 −20 −10 0 10 20 30 1 − 3 1 − 6 1 − 9 1 − 12 1 − 3 1 − 6 1 − 9 1 − 12 1 − 3 1 − 6 1 − 9 1 − 12 1 − 3 1 − 6 1 − 9 1 − 12 1 − 3 1 − 3 1 − 6 1 − 9 1 − 12 2004 2005 2006 2007 2008 2009 −50 −40 −30 −20 −10 0 10 20 30 40 50 企業債務残高 企業利益(右目盛) (兆元) 備考:対象は国有企業及び営業利益 500 万元以上の非国有企業。 資料:CEIC Databese から作成。 前年同期比(%) 第1-2-3-41図/中国の外貨準備高の増減と 主な要因 −800 −600 −400 −200 0 200 400 600 800 12 11 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 123456789101112123456789101112123456789101112123 2009 2008 2007 2006 2005 その他 対内直接投資実行額 貿易収支 外貨準備前月比増減 資料:中国人民銀行、中国海関統計、中国商務部から作成。 (億ドル)

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れる。中国国務院は上海を2020年までに国際金融セ ンターとする計画を示しており、上海は今後、アジア における人民元の流通の中心となり、国際金融セン ターとしての地位が高まることが期待されている。 さらに、中国人民銀行(中央銀行)の周小川総裁は ドル基軸通貨体制の限界を指摘する論文を発表し、基 軸通貨を発行する国だけで世界に対して流動性を提供 するとともに、通貨価値の安定を行うことは不可能で あり、国際通貨基金 SDR(特別引出権)制度の拡充 を訴えるなど、ドル基軸通貨体制に疑義を唱えた。人 民元建て貿易決済は、人民元の国際化に向けた一歩で あり、通貨の国際的な地位を高めるが、一方で、経 済・金融政策に対して外部からの影響を受ける可能性 が高まることになる。 (4)我が国との戦略的互恵関係の構築に向けて ①環境・エネルギー分野で我が国企業に期待される活 躍の場 (a)科学的発展観の実践に向けて このように拡大する中国経済において、我が国企業 等の活躍が期待される分野として、環境・エネルギー 分野が挙げられる68。中国では、経済の拡大に伴っ て、消費するエネルギーの量や環境への負荷等が大き くなってきている。中国のエネルギー消費量は、2008 年に28.5億トンSCE69となり世界第2位のエネルギー 消費国となっている。輸入しているエネルギー資源 は、石炭が 5,102 万トンで世界 3 位、石油が 1 億 6,316 万トンで世界3位(第1-2-3-43表)、天然ガスが698万 トンで世界14位の輸入規模となっている(いずれも 2007年)70。また、中国のエネルギー消費の主な原料 となる石炭については(第 1-2-3-44 図)、2008 年に 27.93億トン生産71するなど、主に自国で生産してい るが、石炭による火力発電は、気候変動問題の原因と いわれる二酸化炭素排出量が多く、積極的な削減に向 けた取組が必要とされる。 そこで、中国政府は、エネルギー消費効率が高く、 環境との調和の取れた経済成長を目指し、第11次5か 年計画において、GDP当たりのエネルギー消費量を、 2010年までに2005年比で20%削減する目標を掲げて おり(第1-2-3-45図)、削減に向けた様々な取組が行わ れている。例えば、北京や上海等ではバスやタクシー にハイブリッド車の導入を推進し、次世代自動車の利 用を推進するほか、冷蔵庫や洗濯機等の家電製品につ いても省エネルギーに関する技術開発を推進してお り、エネルギー効率を示すラベルの普及等を推進して いる。2006 年からは省エネ人材育成として、中国か ら我が国に約300名の研修生が派遣され、2007年の中 国省エネ法改正に貢献した。さらにエネルギー管理士 68 中国に進出した日系企業への有望分野に関するアンケートでは「環境・省エネルギー技術」が一位(日本経済新聞2009年4月14日中 国進出日本企業アンケート)。

69 SCE(Standard Coal Equivalent)は、標準石炭換算量。

70 United Nations Statistics Division Commodity Trade Statistics Database. 71 CEIC Database. 第1-2-3-42図/中国の物価の推移 資料:CEIC Database から作成。 −1.2 −0.7 23.3 −1.7 9.1 −1.1 −5.0 0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 12 11 10 9 2006 8 7 6 5 4 3 2 1 9101112 2007 8 7 6 5 4 3 2 1 9101112 2008 8 7 6 5 4 3 2 1 2009 2 3 1 前年同月比 (%) CPI総合 コア(食料品、エネルギー除く) 食料 光熱費 −7.4 −6.0 −4.5 35.1 −19.9 −10.2 −2.7 −0.1 −1.4 −20 −15 −10 −5 0 5 10 15 20 25 30 35 40 12 11 10 9 8 7 6 2006 5 4 3 2 1 6789101112 2007 5 4 3 2 1 6789101112 2008 2009 5 4 3 2 1 12 3 (年) 前年同月比(%) 資料:CEIC Database から作成。 うち衣類 うち加工品 うち採掘品 生産者物価 うち耐久消費財 消費財 うち原材料 生産財 10.3 −15.0 15.7 −3.5 23.5 −6.6 26.8 −11.9 −6.6 −15 −10 −5 0 5 10 15 20 25 30 12 11 10 9 8 7 2006 6 5 4 3 2 1 789101112 2007 6 5 4 3 2 1 789101112 2008 2009 6 5 4 3 2 1 12 3 前年同月比(%) 企業商品価格指数 農産品 鉱業品 エネルギー 加工品 (年) 資料:CEIC Database から作成。

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1章

の育成も行っていくこととなっている。 また、外資系企業の中国への投資についても新エネ ルギー事業や環境保護分野への投資が奨励され、ハイ テク産業や環境保護に関する企業への優遇税制の適用 等72の取組が行われている。こうしたなかで、我が 国が現在利用している省エネルギー・環境技術を普及 させることによって、エネルギー消費効率を高めるこ とができる可能性があり、積極的な対応が求められ る。 さらに、第11次5か年計画では、水の汚れの度合い を示す指標である化学的酸素要求量(COD)を2010 年までに2005年比で10%削減することや、酸性雨を もたらす原因となっている二酸化硫黄の排出量につい て、2010年までに2005年比で10%削減することを目 標に掲げている(第1-2-3-46図)。これまで産業の発展 に伴い高度化されてきた我が国の環境技術の普及によ り、これらの環境保全に向けた効果を高めることがで きる可能性がある。 (b)日中省エネ・環境総合フォーラム 環境・エネルギー分野に関する我が国と中国との取 組の一つとして、日中省エネ・環境総合フォーラムが 2006年から毎年開催されている。本フォーラムでは、 我が国及び中国の官民のリーダーが参加し、省エネル ギー・環境分野に関する政策、経験、技術などについ て意見交換等を行っている。2008年は11月に東京で 第3回のフォーラムが開催され、民生(ビル)省エネ モデル事業や日本最先端オゾン技術による中国の湖沼 等の水質改善等の19件の協力について日中間で合意 72 省エネルギー、環境保護に関する企業に対して、法人税率25%を15%に優遇するなどの措置が取られている。 第1-2-3-43表/石油輸入量ランキング (2007年) 順位 国名 輸入量(万トン) 1 米国 52,139 2 日本 20,169 3 中国 16,316 4 韓国 11,788 5 ドイツ 10,516 6 イタリア 8,886 7 フランス 8,101 8 スペイン 5,799 9 オランダ 5,703 10 シンガポール 5,129 備考:HS コード 2709 を集計。 資料:国連「Comtrade Database」から作成。 第1-2-3-44図/中国のエネルギー消費に占める 各資源の割合(2007年) 石炭 69.5% 石油 19.7% 天然ガス 3.5% 7.3%水力 資料:CEIC Database から作成。 第1-2-3-45図/中国のエネルギー消費量と GDP当たりエネルギー消費量 13.9 14.3 15.2 17.5 20.3 22.5 24.6 26.6 13.9 8.7 5.6 10.7 0.0 −1.8 −5.4 −10.1 16.8 0 5 10 15 20 25 30 2008 2007 2006 2005 2004 2003 2002 2001 2000 −5 0 5 10 15 20 エネルギー消費量 GDP当たりエネルギー消費量(2005年比、右目盛) (%)

備考:SCE(Standard Coal Equivalent)は、標準石炭換算量。 資料:中国国家統計局から作成。 2010 年までに−20% を目標 −25 −20 −15 −10 (億トンSCE) 28.5 第1-2-3-46図/中国の化学的酸素要求量 (COD)の推移 備考:化学的酸素要求量(COD)は、水の汚れ度合を示す指標であり、    汚れが化学的に分解されるときに使われる酸素量の濃度を表す。 資料:中国国家統計局「中国統計年鑑」(各年版)、中国環境保護部 Web    サイト。 2.2 −5.7 −5.3 0.0 −2.3 2005 年までに−10% 目標 1.0 −3.3 −0.7 0 200 400 600 800 1,000 1,200 1,400 1,600 (万トン) (%) 2008(年) 2007 2006 2005 2004 2003 2002 2001 2000 −12 −10 −8 −6 −4 −2 0 2 4 化学的酸素要求量(COD) 2005年比(右目盛) −6.6

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されるなど、これまでの産業分野の省エネに加え、民 生分野、水処理分野及び地方への展開といった分野へ の取組が協議され、協力の分野、テーマ、参加プレー ヤーに広がりが出てきている。 ②市場としての中国 環境・エネルギー分野を中心に、中国における我が 国企業の活躍が期待される一方で、我が国では、中国 に対して、今までの製造拠点としてだけではなく、販 売拠点としての期待も高まっている73。 中国への対内直接投資の契約件数を見ると、2006 年頃までは製造業の投資が小売業や卸売業等といった 第三次産業を大幅に上回っていたが、2007年以降は、 第三次産業が製造業を上回っている(第1-2-3-47図)。 2008年以降、良品計画、ファーストリテイリング、 イオン等が出店の加速を表明したほか、これまで直営 店により展開していたセブン-イレブンがフランチャ イズ店を始めるなど市場としての中国の成長力に注目 が集まっている。また、我が国企業の中国現地法人の 販売先について見ると、売上総額に占める中国現地向 け販売の割合が年々増加しており、2007 年度はその 割合が6割にまで達している(第1-2-3-48図)。 ③現地人材の活用 中国の市場としての魅力が高まるとともに、中国を 中国国内市場向けの研究開発拠点としてとらえる企業 も少なくない。日本経済新聞の中国進出日本企業アン ケートによると、54社中14社の企業が、「中国国内市 場向けの研究開発」を中国拠点の役割として挙げてい る。中国市場向けの商品開発・設計や基礎研究等に中 国の優秀な人材を活用し、国際競争力の強化につなげ る動きが広まっている。すでに欧米諸国では、中国で の研究開発拠点の確立に伴い中国の豊富な人材を活用 するため、研究開発分野での共同プロジェクトや中国 国内の人材育成等で連携を強めており、我が国でも中 国の人材の活用が求められる。 中国では教育発展計画に基づき、大学のレベル向上 等を進めており、中国における大学卒業者数は 2000 年の95万人から、2008年の512万人と5倍以上に増加 している。 しかし、中国に進出した日本企業にとって、人事労 務管理は大きな課題の一つでもある。日本経済新聞社 の中国進出日本企業アンケート74では、現地での事 業展開で最も困っていることとして、5割以上の企業 が「幹部育成」を挙げており、「優秀な人材のつなぎ とめ」や「人材の採用」も上位に入っている。こうし た人材関連の問題については、中国の大学生への就職 人気アンケート75でも見て取れる。就職先人気上位 73 日本経済新聞(2009年4月14日)中国進出日本企業アンケートでは、中国に進出した日系企業への中国拠点の役割について「中国国内 市場向けのマーケティング・営業」が最も多く回答企業の79.6%で、「中国国内市場向けの製造」が67.3%、「輸出のための製造」は 51.0%(複数回答有)。 74 日本経済新聞2009年4月14日中国進出日本企業アンケート。 75 スウェーデン資本のコンサルティング会社によるアンケートで、中国国家重点大学に指定されている大学のうち70大学を対象として いる。1万6,815人のアンケート結果を集計し、人気就職先100社等を発表している(アンケート実施期間は、2008年1月から4月)。 第1-2-3-47図/中国の対内直接投資 (契約件数)の推移 18632486 0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000 7,000 8,000 9,000 1 − 3 4 − 6 7 − 9 10 − 12 1 − 3 4 − 6 7 − 9 10 − 12 1 − 3 4 − 6 7 − 9 10 − 12 1 − 3 4 − 6 7 − 9 10 − 12 1 − 3 4 − 6 7 − 9 10 − 12 1 − 3 2009 2008 2007 2006 2005 2004 製造業 第三次産業 資料:中国商務部から作成。 (件) 第1-2-3-48図/日系製造業の中国現地法人の 販売先 3.7 5.1 6.9 3.2 4.2 5.4 9.8 6.4 53.5 54.9 56.4 60.6 0 2 4 6 8 10 12 14 18 16 2006 年度 2007 年度 2005 年度 2004 年度 40 42 44 46 48 50 52 54 56 58 60 62 備考:現地販売比率=現地販売額 ÷ 総売上高。 資料:経済産業省「海外事業活動基本調査」から作成。 (兆円) (%) 輸出 現地販売額 現地販売比率(右目盛)

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1章

50社のなかには日系企業は1社もなく、他国の外資系 企業が27社を占めている。また、中国企業は23社を 占めており、中国企業も外資系企業に匹敵するほどの 魅力を持つようになったと見ることもできる。日系企 業の人気が低い要因として、年功序列や終身雇用を特 徴とした日本型の雇用慣行と中国の雇用慣行に大きな 差があることが挙げられる。リクルートワークス研究 所のアンケート76によると、勤務先選択にあたり中 国人は日本人と比較して、賃金や福利厚生を重視する という特徴があり(第1-2-3-49図)、退職理由では、賃 金への不満や昇進への余地といった内容が上位に挙げ られている(第1-2-3-50表)。一方で、中国に拠点を置 く日系企業では、管理職の中国人比率が70%を超え、 現地化を進めている企業が16.7%存在するものの、そ の比率が10%に満たない企業が35.2%存在するなど、 全体としては中国人が管理職に登用されることが多い とはいまだいえない状況となっている(第1-2-3-51図)。 こうしたギャップを埋めるには、雇用慣行等に対する 相互理解が必要であり、中国からの留学生や日本での 在住経験者等の積極的な活用や管理職への登用も重要 と考えられる。 ④高まる中国企業の技術競争力 日本企業や欧米企業が中国に研究開発拠点を設置す ることで中国国内への技術移転が進むなど、全般的に 中国企業の技術競争力は高まっている。中国における 76 2008年8月から10月にかけて、中国の上海の20∼30代の社会人と日本の首都圏の20∼30代の正社員に対するオンライン調査。 第1-2-3-49図/日本人と中国人の勤務先選択理由 36.6 32.7 24.7 23.0 27.319.8 45.6 12.6 26.9 9.8 86.9 83.1 76.8 70.7 77.3 65.0 85.1 59.0 69.2 40.2 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 仕事内容 勤務地 (%) 資料:リクルートワークス研究所「中国・人と組織の実態調査」から作成。 n= 日本:1647、中国:1000 重視・計 非常に重視 勤務時間 ・休日 福利厚生賃金・ 会社の規模・ 知名度 中国 日本 中国 日本 中国 日本 中国 日本 中国 日本 第1-2-3-50表/日本人と中国人の退職理由 上位5項目(複数回答:%) 中国(n=1000) 日本(n=1647) 賃金への不満 46.3% 会社の将来性や方向性への不安 30.9% 自分が昇進する余地がない から 39.1% 勤務条件(勤務時間、休日数、勤務地など)への不満 25.0% よりよい会社が見つかった から 33.2% よりよい仕事や会社が見つかったから 25.0% 能力や専門性が仕事にいか せないから 26.4% 仕事を通じて成長感を実感できなかったから 24.8% 会社の将来性や方向性への 不安 25.0% 精神的にきつい仕事だから 23.7% 資料:リクルートワークス研究所「中国・人と組織の実態調査」から作成。 第1-2-3-51図/日系企業の中国現地法人の 管理職以上の中国人比率 n=162 10% 未満 35.2% 70% 以上 16.7% 50% ∼ 70% 未満 7.4% 30% ∼ 50% 未満 11.1% 10% ∼ 30% 未満 29% 資料:リクルートワークス研究所「中国・人と組織の実態調査」から作成。 第1-2-3-52図/中国の研究開発費の内訳 (2007年) 外資系企業 615 億元 (29%) 内資企業 1,497 億元 (71%) 資料:中国国家統計局「中国統計年鑑」から作成。

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企業の研究開発費の総額は、2000 年以降、毎年 30% 前後の高い伸びを示している。その総額は2007年に は 2,112 億元(約 3 兆円)に達しており、そのうち外 資 系 企 業 に よ る も の が 約 3 割 を 占 め て い る( 第 1-2-3-52図)。 また、加工貿易における部品等の輸入額に対する製 品等の輸出額の比率は年々上昇しており(第1-2-3-53 図)、中国からの輸出製品の付加価値が高まってきて いることを示している。例えば、我が国と中国の米国 向けの輸出について、カラーテレビの単価を見るとそ の差は縮まってきており(第1-2-3-54図)、特に技術・ 資本集約型産業の競争力は高まっていると考えられ る。 さらに、競争力を高めた中国企業による海外進出等 も増加している。中国政府は対外直接投資の拡大を目 指す「走出去」戦略77によって中国企業の海外進出 等を積極的に推進しており、対外直接投資額は 2003 年から 2008 年の 5 年間で約 14 倍に拡大している(第 1-2-3-55図)(中国による対アフリカ直接投資の増大に ついては、本節6.コラム11で紹介)。2008年に中国企 業が海外プロジェクトで得た売上高は、前年同月比 39.4%の566億ドルとなり、海外で獲得した新規受注 額は、同34.8%の1,046億ドルにも上っている78⑤求められる投資環境の整備 技術力の向上により中国の競争力が高まっている一 77 「走出去」戦略は、輸出拡大による諸外国との貿易摩擦や一部の産業における過剰生産応力、資源不足の深刻化等の問題を、中国企業 の海外進出によって改善、解決しようというねらいから、2000年の全人代で正式に提起され、対内直接投資に比べて少ない対外直接 投資の拡大を目指している。 78 中国商務部「2008年我国対外承包工程、労務合作和設計諮問業務統計」。 第1-2-3-53図/中国の加工貿易の貿易額推移 6,752 3,784 1.8 0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000 7,000 8,000 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 1 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 1.6 1.7 1.8 1.9 加工貿易輸出額 加工貿易輸入額 付加価値比率(右目盛) 備考:加工貿易額は、加工組立品と輸入材組立品の合計額。    付加価値比率=加工貿易輸出額 ÷ 加工貿易輸入額。 資料:中国海関総署「中国海関統計」から作成。 (億ドル) (倍) 第1-2-3-54図/日本と中国の米国向け輸出に おける単価比較 6.8 6.1 5.9 6.2 4.7 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0 2003 資料:財務省「貿易統計」、中国海関総署「中国海関統計」から作成。 2004 日本の単価 ÷ 中国の単価 2005 2006 2007 (倍) 第1-2-3-55図/中国の対外直接投資(金融除く) の推移(フロー) 合計 407 0 50 100 150 200 250 300 350 400 450 2008 2007 2006 2005 2004 2003 その他 不動産 運輸・倉庫・郵便 リース・広告 卸売・小売 製造業 鉱業 (億ドル) 資料:中国商務部「中国対外直接投資統計」から作成。 第1-2-3-56図/中国の各地域の最低賃金 0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000 北京 天津 河北内蒙古上海 福建 湖北深セン広西 海南 重慶 貴州 雲南 チベット青海 2005 2006 2007 2008 (元/月) 資料:CEIC Database。

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1章

方、これまで中国の競争力向上の一つの大きな要因と されていた労働コストの優位性については、中国の各 地域で最低賃金が大幅に上昇していること(第1-2-3-56 図)や中国の労働力人口が2015年から減少に転じる ことが見込まれている(第1-2-3-57図)など、今後労 働集約型産業の国際競争力は次第に弱まっていくとみ られる79。 労働コストの上昇以外にも、中国への投資環境への 課題として法制の運用の不透明さなどが挙げられてお り(第1-2-3-58図)、中国における労働争議の数も増加 している(第1-2-3-59図)。また、中国における外資系 企業でも赤字を計上している企業は決して少なくはな い。赤字企業に占める外資企業の割合は年々増加して おり、2008年には赤字企業のうち約4分の1が外資系 企業となっている(第1-2-3-60図)。これまで優遇され ていた外資系企業の法人税率についても、2008年1月 から 5 年以内に 15%80から 25%に引き上げられるこ ととなっているなど、外資系企業にとって中国の投資 環境は厳しさを増している。 中国への対内直接投資は全体では増加しているが、 我が国や米国、ドイツ等の先進国からの投資は減少傾 向で推移している(第1-2-3-61図)。産業構造の高度化 が必要な中国にとって、外国資本は今後とも必要な存 在であり、引き続き外国投資を引きつけるためにも、 法制度の運用や模倣品対策等を含め事業環境の一層の 整備が必要である。 このため、我が国としては、日中韓投資協定交渉や 日中韓ビジネス環境改善アクション・アジェンダの フォローアップを実施しており、日中ハイレベル経済 対話や各種定期協議等の様々な場を通して、中国に対 して投資環境改善の働きかけを行っている。 79 中国社会科学院工業経済研究所「中国製造業の国際競争力:変化と趨勢」(2009年) 80 一部地区等では法人税率24%。 第1-2-3-57図/中国の労働人口の推移 −5 0 5 10 15 20 1 9 5 5 1 9 6 0 1 9 6 5 1 9 7 0 1 9 7 5 1 9 8 0 1 9 8 5 1 9 9 0 1 9 9 5 2 0 0 0 2 0 0 5 2 0 1 0 2 0 1 5 2 0 2 0 2 0 2 5 2 0 3 0 2 0 3 5 2 0 4 0 2 0 4 5 2 0 5 0 前期比(%)

資料:国連「World Population Prospects」から作成。

労働力人口は 減少に転じる 第1-2-3-58図/日本企業が挙げる中国への 事業展開における主な課題の推移 0 10 20 30 40 50 60 70 80 (%) 2003 年度 (427 社)(423 社)2004 年度(380 社)2005 年度(351 社)2006 年度(336 社)2007 年度(285 社)2008 年度 法制の運用が不透明 知財の保護が不十分 労働コストの上昇 代金回収が困難 資料:JBIC「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告」から作成。 第1-2-3-59図/中国における労働争議受理件数 備考:2008 年は前年の未結案件を含む。 資料:中国労働・社会保障部「労働・社会保障事業発展統計広報」から    作成。 13.5 15.5 18.4 22.6 26.0 31.4 44.7 50.0 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 2007 96.4 2008 2006 2005 2004 2003 2002 2001 2000 (万件)

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2008年1月、中国政府は、ITセキュリティ製品への強制認証制度(CCC:China Compulsory Certification)を 導入し、2009年5月1日から実施する旨、公表した。その後、日米欧などの懸念表明を受け、2009年4月、中国 は、当該強制認証制度を、対象を政府調達に限定した上で、2010年5月から実施する旨改めて公表した。政府調 達に限定したとしても、認証取得の際に、中国の独自基準に適合することを義務づけ、その適合性を審査する中 国の機関に対し、ソフトウエアの設計図等の技術情報の提出や、工場の実地検査などを義務づけるものであり、 中国との貿易やハイテクビジネスへの影響、知的財産保護の観点など問題点が多い。このため、我が国は、米欧 等とも連携しつつ、日中首脳会談、日中ハイレベル経済対話等の場で制度を導入しないよう再考を強く申し入れ ている。

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IT セキュリティ製品への強制認証制度(CCC)について

インドは、1947年の建国以来40年余りにわたって 社会主義型の混合経済体制81をとってきたが、各種 補助金や公共事業支出の増加によって財政赤字が拡 大、さらに1990年の湾岸戦争により原油価格高騰や 出稼ぎ労働者からの送金減少などで経常収支が大幅に 悪化し、深刻な外貨危機に陥った。 これを契機として、インドは 1991 年に①金融・為 替政策(為替レートの切下げ、変動相場制への移行、 銀行活動の自由化)、②財政赤字の削減、③産業・貿 易規制の緩和(外資の一部自動認可、産業ライセンス 廃止等)を中心とする経済改革を断行、その後インド は好調な経済成長を続け 2008 年の名目 GDP は 1 兆 2,000億ドルに達している。これは、アジアの中では 日本、中国に次いで第 3 位の規模であり、ASEAN10 か国分(1 兆 5,000 億ドル)に迫る額である82。特に 2003年度83以降の5年間は、おう盛な家計消費と高い 投資率を背景として、平均成長率9%の高い経済成長 を記録した(第1-2-4-1図)。 インド経済は、原油等一次産品の価格高騰により 2008年度上半期から景気は減速していたが、世界的 な金融・経済危機の影響を受けて、下半期には景気の 減速感が一層強まった。その結果、2008 年度のイン

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世界経済減速の影響を受けつつも比較的堅調なインド経済

81 混合経済体制とは、市場経済を基本としつつも、政府が大規模かつ積極的に市場経済に介入する経済体制を指す。 82 IMF“World Economic Outlook Database, April 2009”より。

83 インドにおける年度は、4月から翌年3月。 第1-2-3-61図/中国の対内直接投資動向 1,083 36.5 29.4 9.0 0 200 400 600 800 1,000 1,200 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 0 10 20 30 40 50 60 70 総額 日本(右目盛) 米国(右目盛) ドイツ(右目盛) (億ドル) (億ドル) 資料:CEIC Database から作成。 第1-2-3-60図/中国の赤字企業に占める 外資系企業の割合 0.0 2000 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ 2001 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ 2002 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ 2003 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ 2004 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ 2005 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ 2006 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ 2007 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ 2008 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ 2009 Ⅰ 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 35.0 28.7 (%) 資料:CEIC Database から作成。

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ドの経済成長率は6.7%にまで落ち込んだ。 しかし、インドは輸出依存度が比較的低いこと(第 1-2-4-2図)、11億人を超える人口からなる巨大な消費 市場を有すること、若年層人口が多く(第1-2-4-3図)、 安定的な労働供給が可能であることなどから、中長期 的には堅調な経済成長が続くとの期待が大きい。 (1)インド経済の特徴 ①内需主導型の経済成長 インドの需要項目別GDP成長率を見ると、個人消 費と固定資本形成(設備投資)が成長をけん引してい ることが分かる(第1-2-4-4図)。また、実質GDPに占 める個人消費及び投資の割合は、2007 年度にはそれ ぞれ57.1%及び31.6%と内需が全体の約9割を占めて いる。こうしたことから、インド経済は、内需中心の 経済構造と言える。 しかしながら、世界的な金融・経済危機の影響によ り、2008年度の第3四半期には設備投資が大きく縮小 し、成長率の鈍化傾向が続いている。これは、世界的 な信用収縮の影響を受けて流動性が低下し、設備投資 のための資金が不足したためと見られる。 ②サービス産業がけん引する経済成長 内需主導型経済のインドでは、1991 年の経済改革 以降、サービス産業が経済成長をけん引してきた。実 質GDP成長率の産業別寄与度を見ると、商業、ホテ ル、輸送・通信、金融、不動産といったサービス産業 の寄与が最も高くなっており、近年のインド経済の堅 調な成長はサービス産業によってけん引されていると 言える84(第1-2-4-5図)。 84 2007年度の実質GDPを産業別に見ると、サービス産業の占める割合が57%(工業26%、農林水産業17%)と最も大きくなっており、 インド経済はサービス産業中心の経済であることが分かる。 第1-2-4-1図/インドの実質GDP成長率の推移 5.8 0 2 4 6 8 10 12 2001 ⅠⅡⅢⅣ Ⅳ 2002 ⅠⅡⅢⅣ 2003 ⅠⅡⅢⅣ 2004 ⅠⅡⅢⅣ 2005 ⅠⅡⅢⅣ 2006 ⅠⅡⅢⅣ 2007 ⅠⅡⅢⅣ 2008 ⅠⅡⅢⅣ 資料:CEIC Database から作成。 (前年同期比、%) 第1-2-4-2図/各国の輸出依存度の比較 22.4 シンガポール 香港 マレーシアベトナム ドイツ 韓国 中国 EU27 英国インド 日本ブラジル 米国 0 50 100 150 200 250 備考:ここでの輸出依存度は、2007 年の「財・サービス輸出/ 名目GDP」。 資料:国連「National Accounts Main Aggregates Database」から作成。

(%) 第1-2-4-3図/インドの年齢階層別男女人口 (2005年) 8 6 4 2 0 0 2 4 6 8 0−4 10−14 20−24 30−34 40−44 50−54 60−64 70−74 80−84 90−94 100+ (年齢) (千万人) 備考:中位推計の数字。

資料:国連「World Population Prospects:The 2008 Revision」から作成。

女性 男性 第1-2-4-4図/インドの実質GDP成長率と 需要項目別寄与度 −8 −6 −4 −2 0 2 4 6 8 10 12 14 2001 ⅠⅡⅢⅣ 2002 ⅠⅡⅢⅣ 2003 ⅠⅡⅢⅣ 2004 ⅠⅡⅢⅣ 2005 ⅠⅡⅢⅣ 2006 ⅠⅡⅢⅣ 2007 ⅠⅡⅢⅣ 2008 ⅠⅡⅢⅣ Ⅳ 純輸出 誤差脱漏 奢侈品 在庫変動 資本形成 政府支出 個人消費 実質GDP 資料:CEIC Database から作成。 (前年同期比、%) 純輸出 個人消費 政府支出 資本形成 (年度)

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インドの貿易収支は、恒常的に輸入が輸出を上回る 赤字構造となっている。特に2008年には貿易赤字が さらに拡大している。経常収支は、IT サービスのア ウトソーシング等によるサービス収支と、海外出稼ぎ 労働者からの送金を中心とする経常移転収支が黒字で あり、経常収支の赤字拡大を抑制していることが分か る(第1-2-4-6図)。 ③産業動向 (a)ITサービス産業 インド経済をけん引するサービス産業の中でも、と りわけ、ソフトウェア開発やビジネス・プロセス・ア ウトソーシング(BPO)85等のITサービス産業は、欧 米市場への輸出にけん引される形で売上高を伸ばして きた。 また、IT のオフショアアウトソーシング86におけ る世界市場は、2006年の2,490億ドルから2010年には 4,500億ドルに拡大すると見込まれており、インドは アウトソーシング先の地域として世界トップのシェア (11.5%)を占め、2010年まで世界トップを維持する と見込まれている87。 NASSCOM(インド・ソフトウェアサービス協会) によれば、2008年度のソフトウェア開発やBPO等の ITサービスの輸出額(推計)は 470 億ドルに達する (第1-2-4-7図)。しかし対前年比でみると伸びは鈍化し ている。これは、インドのITサービス輸出の60%を 米国向けが占めていること、銀行・金融・保険業が海 外顧客の 41%を占めていることなどから、米国発の 世界的な金融・経済危機の影響88が現れているもの とみられる(第1-2-4-8図、第1-2-4-9図)。 世界同時不況の下で、2009年以降は世界的にITサー ビスへの支出が抑制されるとする見方がある一方で、 コスト削減や業務効率化を進める企業89が増加すれ 85 ビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)とは、例えばコールセンター等のバックオフィス業務を外部へ委託することを指す。 86 海外企業に業務を委託することを指す。 87 経済産業省(2008)「BPO(業務プロセスアウトソーシング)研究会報告書」より。 88 金融・経済危機の影響は、米国で就労するインド人IT技術者の失業危機にも及んでいる。米国は2009年2月に成立した景気刺激法に おいて、財政支援を受ける企業がH1-Bビザ(専門職の就労ビザ)で働く外国人労働者を直接雇用することを禁じた。NASSCOMによ れば、H1-Bビザ受給者の11%をインド人IT技術者が占めている(2009年3月12日プレスリリース)。

89 例えば、米IBMは北米のIT事業従業員を約5,000人削減し、削減分の業務をインドに移管する見通しと報じられた(Wall Street Journal インターネット版2009年3月25日付記事)。 第1-2-4-5図/インドの実質GDP成長率と 産業別寄与度 −4 −2 0 2 4 6 8 10 12 2001 Ⅰ Ⅳ ⅡⅢⅣ 2002 ⅠⅡⅢⅣ 2003 ⅠⅡⅢⅣ 2004 ⅠⅡⅢⅣ 2005 ⅠⅡⅢⅣ 2006 ⅠⅡⅢⅣ 2007 ⅠⅡⅢⅣ 2008 ⅠⅡⅢⅣ 地域・社会・個人サービス 建設業 鉱業 金融・保険・不動産・ビジネスサービス業 電力・ガス・水道 農林水産業 商業・ホテル・輸送・通信 製造業 実質GDP 資料:CEIC database から作成。 (前年同期比、%) (年度) 製造業 地域・社会 ・個人サービス 金融・保険・ 不動産・ビジネス サービス 商業・ホテル・ 輸送・通信 サービス 建設業 農林水産業 第1-2-4-6図/インドの経常収支 −146 −400 −300 −200 −100 0 100 200 300 (億ドル) Ⅳ Ⅲ Ⅱ Ⅰ ⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢ 2008 (年度) 2007 2006 資料:CEIC Database から作成。 2005 2004 2003 2002 2001 2000 貿易収支 経常移転収支 経常収支 サービス収支 所得収支 経常移転収支 サービス収支 貿易収支 所得収支 第1-2-4-7図/インドのIT産業売上高及びIT輸出 の前年比伸び率 26.9 12.8 7.3 0 10 20 30 40 50 60 70 80 輸出前年比伸び率 (右目盛) エンジニアリングサービス、 R&D、ソフトウェア輸出 BPO 輸出 ハードウェア 国内 その他 ITサー ビス国内 その他 IT サービス 輸出 2008 年度 2007 年度 2006 年度 2005 年度 2004 年度 0 5 10 15 20 25 30 35 40 輸出 国内 (前年比、%) (十億ドル) 備考:1.2008 年度は 2009 年 2 月公表の推計値。    2.前年比伸び率はその他 IT サービス輸出、BPO 輸出、エンジニ   アリングサービス・R&D・ソフトウェア輸出の合計が対象。 資料:NASSCOM「IT‐BPO Industry Factsheet2009」から作成。

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ばBPO等これら業務のアウトソーシング需要が増加 する可能性もあることから、世界同時不況はインドの IT産業にとってはむしろ好機であるととらえる見方 もある90(b)製造業 2007年度の実質GDPに占める製造業の割合は26% と、サービス産業(56%)の約半分にとどまっている。 しかしながら、経済のけん引役となっているITサー ビス産業には部材製造加工の中小企業や物流産業のよ うないわゆるすそ野産業の広がりがない。NASSCOM によれば、2007年度のIT産業における直接雇用は約 220万人にとどまり、間接雇用を含めても 1,000 万人 程度にとどまる91。人口の増加に伴い、若年就労者数 の一層の増加が見込まれる中、現在の産業構造では余 剰労働力を吸収しきれず、失業者の増大により社会不 安が増す可能性がある92。今後の安定的な成長を達成 するためには製造業の育成による雇用創出が課題と なっている93

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1982年にスズキ自動車がインドに進出して以来、インドは、海外技術者研修協会(AOTS)などの地道な努力 もあり、日本型の「すり合わせ型ものづくり」の素地を育んできた。インド政府が2007年1月に発表した自動車 政策(Automobile Mission Plan)でも、インドはすり合わせ型ものづくりの強みを発揮できる小型車のハブとし て自らを位置づけている。トヨタ自動車も、2007年8月、日本国外では初めてとなる「ものづくり」の専門技能 の教育を目的とした「トヨタ工業技術学校」をインドに開校した。インドには、デミング賞受賞歴のあるチェン ナイの地場自動車部品メーカー大手ラーネ・グループがあるなど、日本型すり合わせ型ものづくりへの親和性が 高く、インドのごく地方の企業にも日本の生産管理方式を自習して「KAIZEN」や「5S」の標語を掲げるものが ある。 消費者ニーズの「厳しさ」の点でも日本と親和性がある。「安物買いの銭失い」を嫌い、高くても長持ちする

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インドは日本型ものづくりの後継者?

90 NASSCOM(2009)“Indian IT-BPO Industry Factsheet2009”。 91 前掲、NASSCOM(2009)。 92 独立法人中小企業基盤整備機構Webサイト。 93 製造業の発展の阻害要因としては、1991年まで続いた混合経済体制の下で、公共部門を肥大化させる一方で、小規模工業部門が過度に 優遇されたため、生産の拡大や生産性向上へのインセンティブが阻害されたことが一因と考えられる。一方で、近年では製薬産業や鉄 工業などで、国際的に競争力の高い企業も育ちつつある。 第1-2-4-8図/インドのIT-BPOサービス 輸出先の地域別シェア(2007年度)

資料:NASSCOM「Indian IT‐BPO industry    Factsheet2009」から作成。 米国 60% 欧州 31% (うち英国が 19%) その他 9% 第1-2-4-9図/インドのIT-BPOサービス輸出に おける業種別シェア(2007年度)

備考:IT services、BPO、Engineering Services and R&D,    Software Products の輸出合計。

資料:NASSCOM「Indian IT‐BPO Industry Factsheet2009」    から作成。 銀行・金融 ・保険 41% 全体: 404 億ドル ハイテク・ 電気通信 20% 製造業 17% 小売 8% ヘルスケア 3%航空・輸送 3% 建設 3%その他 5%

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(2)世界的な金融・経済危機とインド経済 2008年9月のリーマンブラザーズ破綻直後は、イン ド経済は大きな影響を受けないとの見方が大勢を占め ていた。その根拠として、①金融機関のバランスシー トが比較的健全である(不良資産の保有高が少な い)95点、②内需主導型経済であり、輸出依存度が比 較的低い点が挙げられていた。しかし、おう盛な設備 投資需要を支える資金を海外資金に大きく依存するな ど金融面を中心に世界経済との連動を深めていたこと から、インド経済もまた世界同時不況の影響を免れて はいない。 ①金融と実体経済への影響 (a)金融への影響 金融危機の影響を受けたのはまず金融部門である。 リーマン・ショック以降の世界的な信用収縮を受け て、主に外国機関投資家による投資資金の引上げが起 こったため96、国内の流動性が低下し、企業の資金調 達がひっ迫した。証券発行や借入等による国外からの 資金調達が困難になり、同時に国内銀行の融資態度も 厳しくなった。2008年10∼12月期の資本収支は、証 券投資の流出超過や対外借入の縮小等の結果、1998 年 7 ∼ 9 月 期 以 来 10 年 ぶ り の 赤 字 を 記 録 し た( 第 1-2-4-10図)。 また、外国資本の流出に伴い、為替と株価97が急 落した(第1-2-4-11図)。 (b)実体経済への影響 次に世界金融危機の影響を受けたのが実体経済であ る。主要な輸出市場である米国・欧州市場の需要減退 により、主要輸出品である宝飾品や繊維製品等の輸出 が大幅に落ち込み、財輸出額は2008年10月以降、減 少を続けている(第 1-2-4-12 図)。また、IT サービス をはじめとするサービス輸出及び出稼ぎ労働者からの 海外送金も減少したことから、2008年10∼12月期の 経常収支赤字は約 146 億 4,400 万ドルに拡大した98。 鉱工業生産も減速が続いており、企業活動の低迷が顕 著となっている(第1-2-4-13図)。 消費者向けローンの収縮により自動車、住宅等の耐 久消費財の販売が伸び悩み、自動車販売台数は4か月 連続で前年比を下回るなど、個人消費の減速が見られ た。ただし、自動車国内販売は2009年2月以降増加に 転じており、後述の政府による減税措置等の景気刺激 日本製品への信奉、日本ブランドへの信頼は、今後中間層の爆発的な台頭が期待されるインドにあって、日本企 業にとって極めて心強い状況である。また、各企業の取組にもよるが、中国や東南アジア諸国に比べ、知的財産 の保護は比較的強いとされる。 インドでは、現場での日々の義務(Duty)への専心が美徳とされ、お金儲け(結果)以上に与えられた職務 の完遂に力点が置かれる職業倫理94が広く見られ、製造業の成長に大いにプラスに寄与することが期待される。 インドは、熟練工の多能工化などの課題は残るが、潜在的には日本のすり合わせ型ものづくりを継承しつつ、新 しい「カイゼン」を進める能力の双方を兼ね備えている。インドは意外と「すり合わせ型ものづくり」の有力な 後継者となるかもしれない。 94 インド人の聖典として愛読される「バガヴァッド・ギーターBhagavad gita」には、「あなたの職務は行為そのものにある。決してその 結果にはない。行為の結果を動機としてはいけない。また無為に執着してはならぬ。」(岩波文庫・上村勝彦訳p.39)と記されている。 95 インドの金融機関は、行政(財務省及びインド準備銀行)による強力な規制・監督の下にあったために、サブプライム住宅ローン問題 による金融機関への直接的な影響はほぼなかったとされる(現地銀行へのヒアリング)。 96 なお、2008年度以降インド政府が金融引き締め(金利の引上げ)を強めたことから、その頃から証券投資を始めとして海外資本の流出 傾向が強まった。 97 2007年のピーク時に2万ポイントを超えていたSENSEX指数は、2009年はじめには半分以下まで落ち込んだ。 98 中東地域での出稼ぎ労働者の送金額減少の背景には、原油価格下落の影響もあったとされる(インド準備銀行Webサイト)。 第1-2-4-10図/インドの資本収支 −150 −100 −50 0 50 100 150 200 250 300 350 Ⅳ Ⅲ Ⅱ Ⅰ ⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢⅣⅠⅡⅢ 2008 2007 2006 2005 2004 2003 2002 2001 2000 外国直接投資 証券投資 その他資本 商業借入等 銀行資本 資本収支 (億ドル) 証券投資 商業借入等 銀行資本 その他資本 (年度) 外国直接投資 資料:CEIC Database から作成。

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策が一定の効果を挙げているものと考えられる(第 1-2-4-14図)。 ②インドの経済対策 インド政府は、世界的な金融収縮による国内経済へ の影響を抑えるため、2008年10月以降、政策金利を 段階的に引下げるとともに、2009年3月までに三度に 渡り景気刺激策99を発表した。 99 2008年12月7日、2009年1月2日及び2月24日の3回。 第1-2-4-11図/インドの為替・株価の推移 インドルピー(右目盛) SENSEX 株価指数 資料:CEIC Database から作成。 0 5,000 10,000 15,000 20,000 25,000 (ポイント) (ルピー/ 1ドル) 12 11 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 1234567891011121234567891011121234567891011121234567891011121234567891011121234567891011121234567891011121234567891011121234 2009 2008 2007 2006 2005 2004 2003 2002 2001 2000 30 35 40 45 50 55 第1-2-4-12図/インドの輸出入額 前年同月比伸び率 −40 −20 0 20 40 60 80 12 11 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 123456789101112123456789101112123 2009 2008 2007 2006 −20 −10 0 10 20 30 40 資料:CEIC Database から作成。 (前年同月比、%) (十億ドル) 貿易収支(右目盛) 輸出 輸入 第1-2-4-13図/インドの鉱工業生産指数の前年同月比伸び率 資料:CEIC Database から作成。 −4 −2 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 (前年同月比、%) 2009 2008 2007 2006 2005 2004 2003 2002 2001 12 11 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 123456789101112123456789101112123456789101112123456789101112123456789101112123456789101112123456789101112123

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(a)金融引き締め政策から金融緩和政策への転換 インド準備銀行は、2008 年度上半期にはインフレ 対策として金融引き締めを図っていたが、2008年9月 のリーマン・ショック以降は、海外資本の流出による 流動性不足に対応するため金融緩和政策に転換し、政 策金利の引下げ100を相次いで実施するとともに、海 外金融機関からの借入規制の緩和も行った。しかし、 銀行の貸出金利の低下ペースは鈍く、金融機関の融資 態度が依然慎重であることがうかがえる(第1-2-4-15 図)。2008年上半期の最大の懸念であったインフレが 沈静化傾向にあることを受け、インド準備銀行は段階 的に政策金利の引き下げを実施したが、産業界は更な る金利引下げを求めている。 (b)減税措置 インド政府は、期限付きの減税措置として、物品税 の引下げ(14 → 8%)、サービス税の引下げ(12 → 10%)を実施した。 (c)インフラ開発への資金支援 インド政府は、インド・インフラ金融公社(IIFCL) による計4,000億ルピー(約8,000億円)の免税公債発 100 2008年9月には9.0%であったレポレートは、2009年4月には4.75%にまで引き下げられた。 第1-2-4-14図/インドの自動車販売台数の推移 輸出 国内 国内前年同月比(右目盛) 輸出前年同月比(右目盛) 0 20 40 60 80 100 120 2009 2008 2007 2006 2005 2004 2003 2002 −40 −20 0 20 40 60 80 100 120 (万台) (前年同月比、%) 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 資料:CEIC Database から作成。 国内 輸出 輸出前年同月比(右目盛) 国内前年同月比(右目盛) 第1-2-4-15図/インドの政策金利及び銀行貸出金利の推移 備考:レポレートは中央銀行が市中銀行に貸し出す短期レート。 資料:CEIC Database から作成。 預金準備率 レポレート プライムレンディングレート 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 (%) 1 2 3 4 5 6 7 8 9101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9101112 1 2 3 4 2009 2008 2007 2006 2005 2004 2003 2002 2001 預金準備率 レポレート プライムレンディングレート

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行を認めた。この市場調達により集められた資金は、 銀行を通してインフラ開発事業に融資される。 ③財政赤字の拡大 一連の財政支出の拡大により、財政赤字は拡大して いる。インド財務省によれば、2008 年度の財政赤字 は対GDP比6%101と、政府目標の2.5%を大きく上回 る見込みである。インド政府は、財政責任・予算管理 法(FRBMA)に基づき財政赤字の抑制を図っている が、今後、財政赤字の拡大が続けば、インドの持続的 成長への不安要素となり得るため注意が必要である。 (3)期待される巨大消費市場としてのインド インド経済は、外需依存度が低く、人口増加ととも に一層の消費拡大が見込まれることから、長期的には 底堅い成長を続けると期待される。 ①世界第2位の人口と豊富な若年層 インドの消費を中心とした内需主導経済を支えるの が、年間1,600万人のペースで増加し続ける102巨大な 人口である。インドの総人口は、インド中央統計局に よれば、2008 年には約 11 億 4,800 万人であり103、中 国に次いで世界第2位の規模である。国連の予測によ れば2030年頃には中国を抜き、世界第1位の巨大人口 国家になることが予測されている(第1-2-4-16図)。ま た、インドでは30歳以下の若年層が人口の6割に達す ることから、高齢化の進行が諸外国に比べ比較的緩や かなことに加え、安定的な労働力の供給と消費の拡大 が見込まれ、今後の成長を後押しするものと考えられ る。一方、こうした生産年齢人口の急増を消費のけん 引役とするためには、これら労働力人口を吸収する膨 大な雇用を創出することが必要である。 ②消費市場の拡大 民間調査機関の予測によれば104、インドの中間層 (年収20∼100万ルピー。日本円で40∼200万円程度) は、2005 年時点でおよそ 1,300 万世帯、5,000 万人だ が、2025年には総人口の41%に相当する5億8,300万 人に達するとしている。また、世帯可処分所得が5,001 ドル以上の人口は、2008年時点ですでに2億人を超え ているとする推計もある(第1-2-4-17図)。 (a)好調な自動車及び携帯電話市場 インドにおける消費市場の拡大は、自動車及び二輪 車の販売台数や、携帯電話の契約者数の拡大にも現れ ている(第1-2-4-18図、第1-2-4-19図)。 携帯電話契約者数は、2008年末に2億5千万人を超 え、前年から約8千万人増加した。 乗用車については、国内の乗用車におけるメーカー 101 インド財務省Webサイト(2009年2月16日の暫定予算案発表)。なお、OECD“Economic Outlook2009”によれば、2008年度の州政 府も含めた公的セクターの赤字はGDPの10%以上になると推計されている。

102 国連“World Population Prospects:The 2008 Revision Population Database”による。2005∼2010年の間の1年間あたり人口増加数。 103 インド中央統計局による2008年中央値。

104 Mckinsey Global Institute(2007)“The ‘Bird of Gold’:The Rise of India s Consumer Market”。

第1-2-4-16図/日本・中国・インドの総人口及び 生産年齢人口予測 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 40 45 50 55 60 65 70 75 (億人) (%) 備考:中位推計の数字。生産年齢人口は 15 歳∼ 64 歳の人口。

資料:国連「World Population Prospects:The 2008 Revision」から作成。

1950−19551955−19601960−19651965−19701970−19751975−19801980−19851985−19901990−19951995−20002000−20052005−20102010−20152015−20202020−20252025−20302030−20352035−20402040−20452045−2050 2050 インド人口 中国人口 日本生産年齢人口比率(右目盛) 日本人口 インド生産年齢人口比率(右目盛) 中国生産年齢人口比率(右目盛) 日本 インド 中国 第1-2-4-17図/家計所得に占める可処分所得別の 家計人口推移(インド) 2.4 2.9 1.1 5.7 6.8 8.3 0.2 0.3 1.9 0.030.02 0.07 0.16 0.01 0.03 0.01 0.02 0.05 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1,000$以下 5,001 ∼ 15,000$ 35,001 ∼ 55,000$ 1,001 ∼ 5,000$ 15,001 ∼ 35,000$ 55,001以上 (億人) 1990 年 備考:上記の数値は、世帯可処分所得の家計比率 × 人口で算出。 資料:Euromonitor International(2008)「World Consumer Lifestyle    Databook 2009」から野村総合研究所作成。

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別シェアを見ると、我が国企業も高いシェアを有して いる(第1-2-4-20図)。自動車産業は低価格帯の小型車 を中心として市場の成長性が期待されていることか ら、海外メーカーの進出が相次いでおり、今後競争が 激化していくことが予想される105。 なお、インド政府は小型自動車等の生産・輸出を促 進するとの目標106を掲げている。2007年度の乗用車 販売台数を見ると、国内販売が約150万台であるのに 対し輸出は約20万台と少ないものの、ヒュンダイや マルチスズキなどを中心に欧州、中東、アフリカ市場 に向けた輸出が徐々に拡大傾向にある(第1-2-4-21図)。 日系企業の製造拠点は内陸のデリー近郊に集中してお り、インフラの不足は輸出のボトルネックになってい るが、後述するデリー・ムンバイ間産業大動脈構想を はじめとする今後のインフラ整備により、港湾へのア クセス改善が期待される。 (b)貧困の解消 インドでは、1日2ドル以下で生活する人が人口の8 割と言われる107など、国全体としては依然として貧 困層が多い。今後も安定的に内需を拡大していくため には、貧困の解消が重要である。 105 また、インド最大の国内自動車メーカーであるタタ・モーターズが、二輪車からの乗り換え需要を狙った超低価格小型車「ナノ」の 生産販売を開始したことから、新たな購入層の開拓が進む可能性もある。

106 インド重工業国営企業省が中期的な自動車産業戦略としてとりまとめた「Automotive Mission Plan 2006-2016」では、小型車、MUV、 二輪車、三輪車、トラクター及び部品の製造・輸出を促進するための施策を勧告している。 107 近藤正則(2008)「インドの躍進と日本への影響」。 第1-2-4-18図/インドの携帯電話契約者数の推移 5 10 22 37 59 105 172 258 0 50 100 150 200 250 300 (百万人) 2008年 2007年 2006年 2005年 2004年 2003年 2002年 2001年 備考:各年の 12 月時点における契約者数。 資料:CEIC Database から作成。 第1-2-4-19図/インドの乗用車・ 二輪車販売台数の推移 138 155 20 22 849 807 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200 2007 2006 2005 2004 2003 2002 2001 0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 (万台) (万台) 資料:CEIC Database から作成。 (年度) 乗用車両(輸出) 乗用車両(国内) 二輪車(右目盛) 第1-2-4-20図/インドのメーカー別 自動車販売シェア(2007年) Honda SIEL(ホンダ) 3.0% GM India 3.0% Toyota Kirloskar(トヨタ) 2.7% FordIndia 2.0% その他 4.6% Maruti Udyog (スズキ) 35.7% Hyundai Motor India 10.1% Mahindra & Mahindra 8.7% Ashok Leyand 3.8% 日系の シェアは約 42% Tata Motors 26.3% 資料:FOURIN「世界自動車統計年鑑 2008」から作成。 第1-2-4-21図/インドのメーカー別 乗用車輸出台数の推移 12.7 24.4 5 6 19.6 31.2 0 5 10 15 20 25 30 35 2008 2007 2006 2005 2004 2003 2002 (万台) (年) 備考:1.メーカーは、2008 年の乗用車輸出台数上位 5 社。 2.乗用車輸出合計は、その他メーカー輸出を含めた乗用車の全体 輸出台数。 資料:CEIC Database から作成。 トヨタ ヒュンダイ マルチスズキ タタ 乗用車輸出合計

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1章

(4)我が国との関係 ①巨大消費市場への期待とインフラへの不安 我が国からインドへの直接投資額及び貿易額は急速 に増加している(第1-2-4-22図、第1-2-4-23図)。特に 直接投資額の推移を見ると、中国・ASEANへの直接 投資額に迫る勢いで急拡大している。我が国の対イン ド直接投資残高を見ると、自動車産業をはじめとする 輸送機械器具や電気機械器具への直接投資が大きな割 合を占めている(第1-2-4-24図)。しかし、近年では金 融・保険業や化学・医療などへの直接投資も拡大する など、投資分野の多様化が進みつつある。このように 我が国との経済関係が密接なインドとの間で我が国は 現在、経済連携協定(EPA)交渉を行っており、2008 年12月には第11回交渉会合を開催した。 国際協力銀行が日系企業に対して実施した海外直接 投資アンケート調査108の結果によれば、インドは中 国に次いで最も有望な投資先と見なされている。1位 の中国は前年より得票率を減少させている一方で、イ ンドは得票率を年々増加させており、2008 年の得票 率は中国とほぼ拮抗している(第1-2-4-25図)。また、 インド市場を有望とする理由には、「市場の成長可能 性」が最も多くなっている(第1-2-4-26図)。 ただし、インドでの具体的な事業計画があるとする 企業が着実に増加している一方で、有望と回答した企 業のうち、実際に、具体的な事業計画を有する企業は 半数以下にとどまっている。インドの課題について は、「インフラの未整備」が最多である。特に整備が 必要なインフラとして指摘されているのが、道路 (84%)、電力(74%)、水(47%)などである。こう 108 国際協力銀行によれば、アンケートの回答は2008年7月から8月にかけて回収されたもの。 第1-2-4-22図/我が国の対インド貿易額の推移 0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 14,000 資料:財務省「貿易統計」から作成。 (年) (億円) 輸出 輸入 8,186 5,442 2008 2007 2006 2005 2004 2003 2002 2001 2000 輸入 輸出 貿易総額 第1-2-4-23図/我が国のインド・中国・ASEAN 向けの対外直接投資額の推移 597 597 1,782 1,782 5,429 5,429 7,172 7,172 7,3057,305 5,575 5,575 8,090 8,090 9,169 9,169 0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000 7,000 8,000 9,000 7,262 7,262 298 298 10,000 (億円) 2008 年 2007 年 2006 年 2005 年 資料:財務省/日本銀行「国際収支統計」から作成。 インド 中国 ASEAN 6,700 6,700 6,5186,518 第1-2-4-24図/我が国の対インド直接投資残高 (2007年) その他産業 204 金融・ 保険業 527 卸売・小売業 211 輸送機械器具 2,456 電気機械 器具 664 一般機械器具 288 資料 : 日本銀行「国際収支統計」から作成。 (単位:億円) 合計: 4771 億円 化学・ 医薬 406 第1-2-4-25図/日系企業の直接投資有望国・ 地域の得票率の推移 備考:数字は当該国・地域を中期的(今後 3 年程度)に有望と回答した 事業者数を、同設問に回答した事業者数で割った比率。 資料:国際協力銀行「2008 年度海外直接投資アンケート(第 20 回)」 から作成。 91 82 77 68 63 30 36 47 50 58 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 (%) 2008 年 2007 年 2006 年 2005 年 2004 年 中国 インド ベトナム ロシア タイ 中国 インド

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したなか、我が国はODA等を通じ、インドのインフ ラ整備に積極的に取り組んでおり、投資環境の整備を 目指している。 ②インフラ状況 インドの国土面積は3,287万平方キロメートルで、 ロシアを除くヨーロッパの面積とほぼ同じである。広 大な国土に大都市圏が分散しており、それらを連結す る鉄道や道路網等のインフラ改善が重要課題となって いる。 前述のアンケート結果にも表れているとおり、イン ドではインフラ不足が課題となっている。インド政府 も、持続的な経済成長を実現するためにインフラ整備 への投資拡大を目指している。第 11 次 5 か年計画 (2007∼2012年)では、期間中のインフラ投資所要額 を約5,000億ドルと見積もっており、2005年度には対 GDP比6%であったインフラ投資額を、2011年度まで に9%まで引き上げることを目標としている。また、 計画中で特に投資需要が高いとされている分野は電 力、道路・橋、通信、鉄道などで、全体の投資額に占 める割合はそれぞれ 33%、15%、13%、13%とされ ている。 インド政府は財政的な余裕に乏しいことから、巨額 のインフラ資金需要をまかなうために官民パートナー シップ(PPP)を最大限活用したい考えであり、第11 次5か年計画では、中央政府、州政府、民間の支出負 担割合は37%、32%、30%としている。 以下ではインドのインフラ状況を概観する109(a)道路 道路について見ると、インドは 2007 年度時点で総 延長距離334万kmの道路網を有しており、道路は国 道、州道、都市内道路等で構成される。これらの道路 網のうち、国道はわずか2%だが、総交通量の40%程 度を担っている。なお、国道は32%が1車線である。 インド政府は主要都市を結ぶ国道を複数車線化するプ ロジェクトを進めるなど改善に努めているが、交通量 の増大により渋滞が深刻となっている。 (b)電力 電力については、電力供給が慢性的に不足してい る。電力セクターの問題には、政治的な理由から低く 抑えられた農民向けの電力料金と、それに伴う州政府 電力公社(SEB)の財政破綻状態により、発電所の新 規建設等、設備投資が十分にできないことが背景にあ ると言われる110(c)鉄道 インドの鉄道事業は、国営のインド鉄道会社による 独占事業となっている。インド政府はムンバイ・デ リー間及びデリー・コルカタ間を結ぶ幹線貨物専用鉄 道(DFC)の整備を計画しており、このうち、デ リー・ムンバイ間の優先整備区間については、後述の デリー・ムンバイ間産業大動脈構想の一環として、我 が国からの円借款による協力が表明されている。 (d)港湾 デリーは内陸に位置するため、ムンバイ港が実質的 な最寄り港となっているが、輸送インフラの整備が遅 れていることから、輸送に時間を要している。一方、 チェンナイは大型の港湾を有しており、日系企業の集 積が進んでいるタイやASEANと地理的に近いことも あり、今後製造業の輸出拠点としても注目が高まって いる111109 インド財務省「Economic Survey2007-2008」。 110 前掲、近藤正則(2008)。 111 みずほ総合研究所(2008)「インド市場に挑む日系企業PartⅡ」。 第1-2-4-26図/日系企業による直接投資有望国・ 地域の理由 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 (%) 安価 な労働 力 優秀 な人材 市場 の現状規模 市場 の拡大可能性産業集積 がある インフラ 整備 投資 にかかる 優遇税制 がある 政治・社会情勢 が安定 中国(n=294) インド(n=269) ベトナム(n=150) タイ(n=129) ロシア(n=129) ベトナム 中国 インド ロシア タイ 備考:1.数字は当該項目を「良い」と回答した事業者の比率。    2.「n」は回答事業者数。 資料:国際協力銀行「2008 年度海外直接投資アンケート(第 20 回)」 から作成。

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③我が国による協力 (a)デリー・ムンバイ間産業大動脈構想 インドの投資環境整備のために、我が国もODA等 を活用して協力に取り組んでいるところである。特 に、我が国企業の直接投資を促進するためにはインフ ラ不足の解消が重要である。インドのインフラ整備の ため、日印両政府は「デリー・ムンバイ間産業大動脈 構 想(Delhi-Mumbai Industrial Corridor(DMIC) Project)」による開発を進めている(第1-2-4-27図)。 本構想は、デリーとムンバイ間に位置する 6 州112の 工業団地・港湾を貨物専用鉄道と道路で結びつけ、一 大産業地域として開発するために、民間資本や PPP 方式を活用してインフラの重点的な整備を図ろうとす るものである。本構想の実現により、工業用地の不足 や電力・水のインフラ不足が解消され、我が国企業を 含め海外企業にとって投資環境の改善が期待される。 また、インド側にとってはインフラ整備により国際競 争力のある製造業の発展を促し、雇用の拡大と輸出拡 大の効果が期待できる113。 2008年10月に、日印両政府はプロジェクト開発ファ ンド(PDF)の共同設立に向けた覚書が関係者間で調 印されたことを歓迎し、先行実施案件(アーリーバー ド・プロジェクト)の支援を決定した。アーリーバー ド・プロジェクトは17件が策定され、うち5件が日系 企業とのつながりが見込まれるプロジェクトである。 本構想の一部と位置づけることにより、州政府を含め インド側の協力のもとで進められることから、日系企 業におけるアーリーバード・プロジェクトの積極的活 用が期待される。2009 年以降、マスタープランの作 成と個別プロジェクトの形成が進められる予定であ る。 (b)円借款供与 インドは、2003年度以降6年連続で、我が国最大の 円借款供与国となっている。2008 年度の我が国から の円借款供与額は約2,360億円であった114。貧困削減 112 ウッタル・プラデシュ、ハリヤナ、ラジャスタン、グジャラート、マディヤ・プラデシュ、マハラシュトラの6州。 113 本構想の目標として、今後5年間で、雇用潜在力2倍、工業生産量3倍、輸出量4倍を掲げている。 114 外務省(2008)「政府開発援助(ODA)国別データブック2008」。 第1-2-4-27図/デリー・ムンバイ間産業大動脈構想 自動車 自動車部品 自動車 自動車部品 自動車 化学 自動車部品 バンガロール 赤線 青線 貨物専用鉄道の路線 国道8号線 …主要都市進出企業業種

(出所)Investment Commission of India

日系企業の関心 デリー ○工業用地の不足、電力・水のインフラ不足 ○「インドの向こうの市場」へのリーチ確保。  低付加価値製品にとって輸送費低減は不可 欠。欧米自動車メーカーは臨海地域に立地。 ○潜在的投資家にとって、インフラ・工業団 地をはじめとする投資環境整備の必要性。 コルカタ ムンバイ チェンナイ インド側関心 ○中央政府主導の広域開発計画 ○民活によるインフラ整備 “Infrastructure-led Development” ○国際競争力のある製造業の育成 ・若年労働者層対策、貿易赤字対策 ○デリー周辺の土地不足 ・農業従事者対策

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