中学校理科 における電気分解教材 に関す る研究
一生徒 の実態調査 を踏 まえた総合的理科教材研究の試み一
理科教育研究室
子キ
Study on teaching material of electrolysis at lower secondary science
――
Comprehensive study on the basis of the survey of student's■
lisconception―Ryoichi SuGIMOTO,Yoko UETA
は じめ に 最近 の理科教育学研究 は
,従
来 の自然科学重視やカ リキュラム重視 の理科 の立場か ら,オ
ズボー ンら (1988)の構成主義的理科学習論 に端 を発 した理科の認知論的アプローチによる一連 の研究が 中心 にな りつつある。我国で は森本 ら (1988)の中学生の粒子概念 の習得 に関す る基礎的研究や, 福岡 ら (1989)による概念地図法 による実証的研究 にみ られ るように,学
習者 の既有の概念やフレ ームワークを重視 し,子
供 の実態 を把握する研究方法が注 目されている。構成主義的学習論や認知 科学の成果が取 り入れ られ,子
供 の立場 に立 った指導法やカ リキュラムの改善 な どが提案 されつつ ある。 しか しなが ら,児
童・ 生徒 の ミスコンセプションや既有の概念 な どの実態調査 に重点がおか れ,こ
れに基づ く具体的な日常 の理科授業 に役立つ教材研究 はあまりなされていないのが現状であ る。 また,近
年,理
科教育 にお ける環境教育が重視 され,酸
性雨やオ ゾン層の破壊 な ど,要
因が複 雑な現象 を取 り上 げることが多 くなってお り,マ
クロな環境問題 の要因な どを指導す るためには, 分子やイオンな どの ミクロな粒子概念が生徒 に十分形成 されていなけれ ばな らない と考 える。 本研究で は中学校理科の化学変化 とイオ ンにおける電気分解 に関す る単元 を取 り上 げ,子
どもの 粒子概念の習得状況 を把握す るため,オ
ズボーンらの調査な どを参考 にし,生
徒の実態か ら,具
体 的な教具開発 までの総合的な理科教材研究 を試みた。 中学校理科の目標(5)化学変化 とイオ ンにおける「電気分解 とイオ ン」 には,「電気分解 の実験 を 行い,電
極 に物質が生成することを見 い出す とともに,こ の実験結果か らイオ ンの存在 を知 ること」 と述べている。中学校で は電気分解 での両極 の生成物質の観察か ら,電
解質 の水溶液中のモデルを 考 えることによってイオ ンの存在 を理解 させ ることを目的 としている。 さらに高等学校 で は電気分Department of Science Education,Faculty of Education,「 rOttOri university,lFottOri,680
4鳥取県郡家町立 中央中学校 (非常勤)
良
陽
本
田
杉
植
98
杉本良―・ 植田陽子:中学校理科における電気分解教材に関する研究 解 を電子の授受 に関係す る酸化還元反応 の一例 として扱い,フ
ァラデーの法則 に も触れ るようにな っている。 このように,電
気分解 の内容 は物質 の粒子概念 を学習す る上で基礎的であ り重要な内容 である。 研究の方法 としては,生
徒の実態調査 の後,今
までの教科書 に取 り上 げ られた電気分解教材 を調 査 し,そ
の内容,特
に実験方法,安
全への配慮等 を比較考察 した。 次 に,大
部分の教科書で採用 されている塩化銅水溶液 の電気分解実験 の問題点 として,塩
素ガス の発生 による生徒 の健康面への影響があげられ,ま
た,塩
化銅水溶液が青色であるため,生
成す る 銅の付着 の様子が分か りに くい ことな どがあげられ る。 この教材が持つ これ らの問題点 について実 験 を行 って検討 し,電
極 に物質が生成す ることを視覚的に確認 しやす くかつ安全 に生徒実験で きる 教具 を開発 した。I
電 流 お よ び粒 子 概 念 に 関 す る生 徒 の 実 態 調 査 電気分解教材 は,電流の流れ る向 きや強 さ及び物質 の粒子性 の2つの概念が組 み合わされてお り, 事前 に複雑 な概念の習得 を必要 としているため,中
学生 にとってつ まず きやすい単元であると考 え る。電流 については小学校 中・ 高学年 と中学校2年
で,物
質の粒子性 について は中学校2年
で学習 することになっている。オズボー ンら(1988,p23)は
,“沸騰水中の大 きな泡 についての認識調査" と “電流 についての認識調査"を
報告 している。 それによると,沸
騰水中の大 きな泡 を水蒸気 と答 えたのは,中
学生で は約10%,物
理履修 中の高校生で も30∼40%で
あった。 また,電
流の流れ る強 さは一定で,向
きは十極か ら一極 であると答 えたのは,中
学生で30∼40%,物
理履修 中の高校生で は約60%で
あった。 この結果か ら,電
流及び物質の粒子性 の概念が十分定着 していない ことが分か る。1
実態調査の方法 電流の流れ る向 きと強 さ及び電気分解装置 についての理解,塩
化銅水溶液 の電気分解での電極棒 の質量変化や水溶液 の色 の変化 についての理解,さ
らにイオ ンと原子 の関係 についての理解度 を調 べ るため,中
学校1年
生か ら3年
生 までに質問紙法で調査 を行 った。 調査内容 は資料血1,No 2に
示す。調査用紙配1は
オズボー ンらの調査問題 の一部 を使用 し,中
学校1年
生か ら3年
生 までを,配
2は
三宅征夫 (1988)の調査問題 の一部 を使用 した。 また,No 2 は3年
生 のみを対象 とした。 (1)調査対象者 調査 は表1に示す鳥取大学教育学部附属中学校 の生徒1年生か ら3年
生 までの453名を対象 とし た。 中学校1年生 中学校2年生 中学校3年生 合 計 男 子 242 女 子 211 合 計 表1
調査対象者数鳥取大学教育学部研究報告 教育科学 第 35巻 第
1号
(1993) (2)調査時期 調査 は平成4年
5月 下旬か ら6月 上旬 にか けて附属中学校理科教官 に依頼 して行 った。 0)調査時期の各学年の進度 調査 を行 った時期での各学年の授業 の進度及びそれ までに学習 した単元 を表2に示す。 表2
調査時期 における各学年の授業の進度 学 年 調査時期 まで に学暫 した内容 (第1分野 につ いて) 第1学
年 第1分野 に関 して は まだ学習 していなか った。 第2学
年 物質 とその変化,物
質 の量,力
と圧力,物
質 と原子 第3学
年 物質 とその変化,物
質 の量,力
と圧力,物
質 と原子熱 と電 流,水
溶液 とイオ ン2
調査結果 と考察 調査配1の全体集計及び学年集計の結果 を表3に示す。調査No 2の結果 は表5に示す。 ア 調査問題No lの結果 調査配1で
は,電
流の保存性 (設問I,H),物
質 の粒子性 (設問Ⅲ,Ⅵ
),日
常生活 の応用 (設 問Ⅳ,Ⅵ
l),電解質 と電流 (設問V)な
どの理解 について聞いた。 (1)電流の保存性の理解 調査血1の設問Iで閉回路 の電流の流れ について「電流の流れ る向 きが十か ら一極である」 こと が理解で きているか を調べた。選択肢 の(3ち (4)を選 んだ生徒の合計が85,8%で
あることか ら,流
れ る向 きは理解 していると思われる。 しか し,「回路 の中の電流の強 さは直列 な らどこで も等 しい」こ とは,設
問Iで
向 きを正 し く答 えた生徒 の内27.2%が
誤 った選択 をしていた。誤答 として「電流 の 流れ は帰 りの導線 で は少 な くなっている」と答 えている。「電流 は消耗 され る」とい う素朴概念 をも っていることが分か る。 さらに設問Hに
おいて(C)の選択者が23.1%と い うことか ら電流 の量 につい て正 しい理解 をしていない ことが分か る。 これ は生徒が回路 の中を流れ る電流 は同 じである とは考 えないで,豆
電球が光 るために電流 を多 く使 うので帰 りの導線で少な くなった と考 えたため と思わ れる。 このような ミスコンセプションを修正す るには,中
学校2年
で電流 について学習す る とき, 実際 に電流計 を用いて回路の中の数か所 を測定 して確かめさせ ることが必要である。 また,同
じ電 流の流れで も,設
問Ⅳで51.2%し
か「バ ッテ リーだけで は閉回路 にな らない」 ということが分か っ ていなかった。設聞Vに
なると「電流 は流れている」と記載 してあるにも関わ らず,全体で35.1%し
か 正答で きなかった。 No lの設問I及びHの
結果 をクロス集計 した ものを表4に示す。 これによると,下
学年 よ り上学 年の方力×4)及de)を
選 び,正
答率が高 くなっていることが分かる。特 に2年
で回路 について学習 し ていた3年
生 は,72.5%が
正 しく答 えていた。 しか し,設
問Ⅳで は,ど
の学年で も43∼56%の
生徒 しか答 えられていないことか ら,回
路 につい て理解 して も,実
生活での応用がで きていない もの と思われ る。100
杉本良―・植田陽子:中学校理科における電気分解教材 に関する研究 表3
実態調査の全体集計及び学年別集計の結果(No l)*は正答を示す。 問題 番号 回答番号 第1学
年 第2学
年 第3学
年 全 体 集 計 人 数 比 (%) 人 数 'ヒ (%) 人 数 'ヒ (%) 人 数 比 (%) (I) (1) (2) (3)(4)*
(1)(3)
(1)(4)
(2)(3)
(2)(4)
(3)(4)
無 答 3 ・5 50 77 2 3 2 3 1 0 0.0 11.5 27.7 55.4 0.7 0.7 0。7 1.4 0.0 2.0 (II) * 答 a ・b 一 c ・ d 一 e 鉦 小 4 2 19 4 118 1 1 1 21 4 118 4 0.7 0,7 14.1 2.7 79.2 2.7 8 4 104 14 315 5 1.9 0。9 23.1 3.2 69.7 1.2 (III) (a)(b)*
(C) (d)(a)(b)
(a)(C)(b)(d)
無 答 55 88 1 11 0 0 1 0 30 08 1 7 0 0 0 2 (IV) (a)(b)*
(C)(b)(C)
無 答 21.8 53.8 24.4 0.0 0.0 35.3 43.2 20.2 0.0 0.7 20 84 41 1 3 23.2 51.2 24.1 0.2 0.8 (V) (a)(b)*
(C) 無 答 53 87 15 1 117 19 8 5 78.5 12.8 5.4 3.4 256 159 30 8 56.5 35。1 6.6 1.8 (VI) (a) (b)(C)*
(d) 答 無 12.8 23.7 17.3 25,0 21.2 3.4 10.8 64.9 3.4 17.6 7.7 13.0 47.0 11.1 21.2 (VII) -1 (a)(b)*
(C) 無 答 15 117 9 8 10。1 78.5 6.0 5.4 150 225 67 20 32.5 48.7 14.5 4.3硼
・ 2
(a)*
(b) (C) 無 答 82 42 31 1 52.5 26.9 19,9 0.6 100 24 22 11 63.7 15。3 14.0 7.0鳥取大学教育学部研究報告 教育科学 第 35巻 第
1号
(1993) 表4
電流の流れる向 きと強 さに関する実態調査の結果 (No lの(1)(II)の
クロス集計) (I)(II) 第1学
年 第2学
年 第3学
年 人 数 'ヒ (%) 人 数 比(%) 人 数 比 (%) (1)(a) (1)(C) (1)(e)(2)(a)
(2)(b)
(2)(C)
(2)(d)
(2)(e)
(3)(a)
(3)(C)
(3)(d)
(3)(e)
(4)(a)
(4)(b)
(4)(C)
(4)(d)
(4)(e)
無 答 0 1 2 0 0 7 1 7 2 23 3 20 . . 30 . 44 ・3 0.0 0.6 1.3 0.0 0.0 4.5 0.6 4.5 1.3 14.7 1.9 12 8 0.6 0.6 19.2 0.6 28.2 8.3 3 0 0 1 1 4 0 m 2 9 1 29 0 0 6 3 73 5 2.0 0.0 0.0 0.7 0.7 2.7 0.0 7.4 1.4 6.1 0,7 19.6 0.0 0.0 4.1 2.0 49.3 3.4 5 0 0 0 0 1 1 1 0 7 2 6 2 1 2 1 8 2 3.4 0.0 0.0 0.0 0.0 0.7 0.707
0.0 4.7 1,3 4.0 1.3 0.7 8.1 0.7 72.5 1.3 修)物質の粒子性 の理解 物質の粒子性 について全体的にみると,設
聞Шで65。8%,設
間Ⅵで は47.0%し
か正答で きていな かった。「水 は粒子で はない」((a)を選択)と考 えている生徒 は7.7%で
あったが,水
分子 と何 か他 の 物か らで きている と考 えた り,水分子 と水か らで きてい ると考 えている生徒が全体 の24.1%あ
った。 学年別 にみると, 2, 3年
生 は物質 と原子 の単元 で水が沸騰す ると水蒸気が出ることを学習 して いたので,正
答率 は73.0%と他 の学年に比べて高かったと検定結果 は, 1-2年
生間で有意差 はあ るが,2-3年
生間では見 られない。(1-2年
F=1.530,P<0.05*キ
,2-3年
,F=0.208,P>
0.05)。 しか しいずれの学年 も2割
以上 の生徒が(a)「空気」 と答 えていた。 これ は,実
生活 の中で身近 にみ られ る気体が空気であ り,既
有 の概念 として水 の中には空気が入 っていると考 えた り,小
学校以来 の空気の実験 な どで水中か ら泡 を出す実験 な どの経験か ら,沸
騰す ると空気 の泡が発生する と考 え ているな ど日常知が原因 と思われ る。 純粋 の水 の粒子性 を聞いた血1のⅥ よ り「物質 と原子」の単元 の中で物質 の三態 について学習 し たばか りの2年
生が64.9%,電
気分解 について学習 した後 の3年
生 において も60.4%の
正答率 だっ た。 この設間で は無回答者が多かったが,生
徒が調査用紙 に示 した選択肢以外 にどの様 な純粋 な水 への概念 を持 っているかは本調査で明 らかにで きなかった。102
杉本良―・植田陽子:中学校理科における電気分解教材 に関する研究 0)電解質 と電流 についての理解 について 電解質 と電流 についての理解 については,表
3において設問Vで
(a)を選 んでいる生徒が学年進行 に従い多 くなっていた。 これ は特 に3年
生が電解質・ 非電解質 について学習 しているためである。2年
生で も58.1%が
(a)を選んでいた。 しか し, 2年
生 は電解質・ 非電解質 について学習 していない にも関わ らず,こ のような結果が得 られたのは興味深い。正答 の(b)を選択 した1年
生が55.8%と 2,3年
生 に比べて多かった理由はこの調査だけで は明 らかで はないが,理
科学習す ることによ り,か
えって誤 った概念 を習得 した ことにな り,正
しい概念が形成 されていない ことが分か る。特 に3年
生が78.5%も誤 っているのは興味深 い。 この ことは,電
流の概念 について閉回路上の どの部分で も 同 じ電流が流れているとい うことが,未
だ十分理解で きていない ことを示 してお り,電
気分解 の単 元の指導の困難 さを示 していると考 える。 設問Ⅶ において1・2年
生 は電解質・ 非電解質 について学習 していないため,砂
糖水 と食塩水 を 同質 の もの と考 え,区
別 されてないのが特徴的であった。3年
生 になると8割
の生徒が正 しく答 え られていた。 これ は,水
溶液 とイオ ンの単元 において,水
に溶 ける物質 は電解質 と非電解質 に分か れ ることの学習 によるところが大 きい と考 えられ る。 イ 調査問題No 2の結果 調査配2の結果 を表5に示す。設問1で
は学習 した結果 について,設
問Hで
は電気分解装置 につ いて,設
問Ⅲで は原子 とイオ ンの関係の理解度 をそれぞれ調べた。 (1)塩化銅水溶液 の電気分解 の理解 表 5よ り設問Iの171において十極 の正答率 は61.1%,一極 の正答率 は57.7%で
あった。 両極 の正解者 をクロス集計で集計 し,表
6に示 した。その結果,両
電極棒 の質量変化 は46.3%し
か正 し く答 えていなかった。 これ よ り,電
極 と生成物が関連付 けて学習 されていない ことが うかが える。誤答 として は,l /1及び(f)すなわち,十極 に銅が一極 に塩素が生成す る と,質
量変化 を逆向 きに 表5
調査用紙No 2の 集計の結果 (3年生のみ) *は
正答 を示す。 問題番号 回答番号 人 数 ,ヒ(%) 問題 番号 回答番号 人 数 ,ヒ(%) 全 国調査 (I) (ア) 十極 (a) (b) (C) 鉦 小 * 答 29.5 8.1 61.1 1.3 * 答 鉦 小40
43.0 16.8 0,0 10。1 26.2 9。3 30.7 29 9 13.4 14.1 2.5m
切
劫
(d) *
(e) (f) 答 鉦 小 57.7 14.1 27.5 0.7 (IⅡ) (a)1.失
って その他 65.1 34.9 (I) (イ) 青→透 明 青→水色 水色→無 そ の 他 無 答 41.6 31.6 14.1 6.7 6.0 (III) (b)1.得
て その他 82.6 17.4 (III) (C)2.失
って その他 131 18 87.9 12.1鳥取大学教育学部研究報告 教育科学 第 35巻 第
1号
(1993) 103
記 していた生徒が多かつた。つ ま り,電
流の流れる向 きと電子の流れ は逆であることが, 2年
で学 習 した とき,定
着 していなか った もの と思われ る。水溶液 の色 の変化 に関 しては, 8割
以上が正解 していた。 鬱)原子 とイオ ンの関係 の理解 No 2設 問Ⅲで は「イオ ンは原子 と電子でで きている」 ことについての理解度 を調べた。銅 イオン と塩素イオンと電子の関係 は8割
以上正答で きていた。 これ よ リイオ ンと電子 の関係 をとらえるこ とがで きていた。 しか し,設
間Iにおいて両極 の生成物 を正 し く理解で きていない,つ
まり,イ
オ ンが引かれてい く極 を正 しく答 え られない とい うことは,こ
れ ら2つを関連付 けて学習で きていな いことを示 している。 ●)電気分解装置 についての理解 設聞 Ⅱで(1)やは)を選 んでいる生徒がほ とん どいない ことか ら,閉
回路 でなければ電流が流れない ことはほぼ理解 していると考 え られ る。 しか し,(2),131で は電気分解 によって気体が生成するとき ガラス管が爆発 して しまう危険があることが予想で きていない。正答 の低)を選択 した ものが10.1%
と少なかった。すなわち,実
験 の実際的な知識や技能が身 についていないために,正
答率が低かっ たもの と思われ る。国立教育研究所 の昭和62年の全国調査 (三宅他,1988)の
正答率 は中学校2年
計1592人で行われ,14.1%(男
子18.0%女
子11.0%)で
ある。 これ は,電
気分解学習前の ものであ るため,低
いのは当然 と考 えられ る。 しか し,本
調査 において も学習後 の定着率が低 い ことは注 目 に値す るものである。 また,(2)を選択 した ものが43.0%と多かったが,水
の電解装置 な どを念頭 に お くために誤 って選択 された ものであろう。また,全
国平均で も30.7%と一番多かった。すなわち; 学習 した ことによ りか えって誤概念 に導いた可能性 を示唆 している。 (No 2の(1)(ア)の クロス集計) (I)(ア) 十極 ―極 第3学
年 人 数 とヒ(%)(a)(d)
(a)(e)
(a)(f)
(b)(e)
(C)(d)
(C)(e)(C)(f)
無 答 3.3 8,7 17.4 8.0 46.3 4.9 10 1 1.3 ウ 生徒 の実態調査か らみた教材 に対す る必要条件 以上の調査結果 より,電
気分解 の単元 において,生
徒が理解 しやすい教材 を開発 した り,指
導方 法を改善するときには,以
下 の4点
を考慮 しなければな らない と考 える。 まず,生
徒が事前 に習得 していなければな らない内容 として,104
杉本良―・植田陽子 :中学校理科における電気分解教材 に関する研究│ l①
電流の流れは十極か ら一極であ り,電
子の流れはその逆であることを再確認 させること│
l②
イオンの極性 と引かれる電極 は異符号であるという基礎的概念を定着させること│
次に,実
験の工夫 として,l③
極と生成物とを混同しないように両極で生成する物質は明確で観察しやすいこと
l④
一人一人が直接観察でき
,個
別化がはかれること
これ らの結果 に基づいて教材 を開発す ることによ り,物
質の粒子概念,
とりわ け電気分解 に関連 した事項 を生徒 に分か りやす く指導す ることがで きると考 える。H
教 科 書 に お け る電 気 分 解 教 材 の 変 遷 と比 較1
教科書分析の方法 中学校学習指導要領 は現在 までに と5回
改訂 されて きている。昭和33年以後 の教科書(検定年度, 昭和43年,昭
和46年,昭
和50年,昭
和53年,昭
和55年,平
成元年,平
成4年
)の7種
類 について啓林 館,教
育出版,大
日本図書,東
京書籍,学
校図書 の5社
の教科書発行会社 の ものを用いた。電気分 解教材及び実験法 を一覧表 にして比較 した。実験法 のなかで は特 に両極 の発生物質 の調べ方 に注 目 した。2
教科書分析の結果 と考察 表7に教科書の発行年 と電気分解 に用い られ る物質 の化学式 を,表
8にそれぞれ各教科書会社 の 教材 の変遷及び観察方法の違いについて まとめた ものを載せた。 表 7よ り,未
調査の もの もあるが,昭
和53年以後の教材 は徐々 に塩化銅水溶液 に移行 されている 表7
教科書における電気分解に使用される物質名の変遷 発行年 啓林館 教育 出版 大 日本図書 東京書籍 学校図書 昭和43年(1968) NaCl(飽和) NaCI HCI NaCl(20%)昭和46年(1971)
HCI(5%)
CuC12 HClZnC12 PbClク CuC12
HCI
CuC12 昭和50年(1975) CuC12 CuC12 HCI
ZnC12 PbC12 CuC12 希
HCI
昭和53年(1978)CuC12(1%)
HCi CuC12 CuC12昭和55年(1980)
CuC12(1%)
CuC12(10%) NaCI CuC12 CuC12 FeC12平成元年(1989)
CuC12(1%)
CuC12(10%) CuC12(10%) CuC12 FeC12 CuC12鳥取大学教育学部研究報告 教育科学 第 35巻 第
1号 (1993) 105
表8
教科書 における電気分解教材の変遷 ホ溶液暢陵%) 出版社名 電 源 ―極 物 質 の調 べ 方 十極物質の調べ方 有無換気に対する注意の,においの調べ方 備 考 昭 和 3 3 年 学 習 指 導 要 領 昭 和 4 3 年 検 定 済 食塩水 教育出版 アルコールランプを近づける フェノールフタレイン液を消下 書インキの脱色,におし 食塩水(20% 学 校 図書 マッチを近づける フエノールフタイン液を滴下 リトマス紙の変色,に おし 希塩酸 六日本国書 啓林館 乾電池3ケ 電極付近の水溶液の色 とにおし 食塩水0朗欄) マッチを近づける フエノールフタレイン液を鴻下 をこお い 十極…成素棒―極…水銀 昭 和 4 8 年 学 習 指 導 要 領 昭 和 4 6 年 検 定 済 塩酸 塩化第二銅 塩化亜鉛 教育出版 気体が可燃性か どうか 炭素棒表面の物質が塩 酸,硝酸に対する反応 におい ヨウカカ リウムデンプ ン紙の色の変化 3物質の比較 希塩酸 塩化第二銅 学校図書 析 出物 の色マ ッチ を近 づ け る 濃 硝 酸 との反 応 水 溶 液 の色,にお い暮
″
雪
畠
稚
盤
窯
彦
危険性 塩 化 鉛(飽和 の1/2) 六日本図書 蒸発皿 にいれて加熱 して様子を見 る 水溶液の色,におい 塩素(5%) 啓林館 マッチを近づける におい,インキの色の変化 塩 化 銅(10%) 東京書籍 電極棒 の表面の変化 水溶液のにおい,色 実験 の後始末 に対する注意 昭 和 5 2 年 学 習 指 導 要 領 昭 和 5 5 年 検 定 済 塩化銅 (10%)継
教育出版 析出物の色 │に おヤ、 インキの色の変化 手 で あお い で か ぐ(図)爛
食 塩 大日本国書 図より01 Aと02A 電極付近 の様子の変化 手であおいでか ぐ(図) 手であおいでか ぐ(図) ステンレススチールの 電極 塩化飼(1%) 啓林館 3V 電極表面の様子 スポイ トで水溶液をと りにおいをか ぐ(文章) 塩化銅 (10%) 塩化鉄 (20%) 東京書籍 3∼6V 電極付近の水溶液のにおい,電極 の様子の観察 換気 に十分気 をつけ , 深 く吸い込 まず手であ おいでか ぐ程度(文章) 平 成 元 年 検 定 済 塩化銅 (10%) 教育出版 両睡付近の水溶液及び塩化銅水溶液 を 試験管にとり,におい,色の比較憲
雲
陰
警謝
惣冬
警子曽
1露標
】
糧
塞
水
溶
液の
に
ス ポ イ トで水 溶 液 を と り手 で あ お い で にお い をか ぐ(図と文 章) 塩化銅 (10%) 学校図書 3-6V辞 鎗魂可議璽
鶏ご
れて
露
手 で あ お い で か ぐ(図) 塩化銅 (10%) 大日本図書 両電極の変化,においの観察及び電極棒の表面 にで きた物質を取 り出し試験管の底でこする 手 で あ お いで か ぐ(図) 塩化銅の合成におい て換気の良いところ で実験を行い塩素を 吸わないように注意 塩化銅(1%) 啓林館 乾電池2ケ 離 兜可
胃F孵
?麓
競 露 % % 銅 鉄 塩 塩 東京書籍 6V 電極の変化の観察,におし におい 析出物 の色 換気に十分気 をつけ, 深 く吸い込 まないよう にする(文章) 手であおいでか ぐ(図) 電極 に鉛筆 の芯 を 使用 平 成 元 年 度 学 習 指 導 要 領 平 成 4 年 検 定 済 塩化銅 教育出版 大日本図書 電極棒,電極付近│ におい,色をもとの〕 析出物の色 変化の観察 化銅水溶液 と比較 手であおいでにおいを か ぐ(図と文章) 塩酸(約9%) 電極の変化の観察 ヤッチを近づける 水性ペ ンで色をつけたろ紙の色の変化 換気に十分気をつける塩素 は有毒なので強 く 吸わない(文章) 手であおいでか ぐ(図) 他の例 として 塩化銅水溶液の電 気分解 を写真で記 載 塩 酸(10%) 学校図書 05A 気体 に点火する 気体のにおいをか ぐ 手 で あ お い で か ぐ(図) H型電解装置使用 塩化銅(1%) 啓林館 炭素棒 について物質の 色髪花
い
,インクの色の
スポイ トで水溶液を取りにおいをか ぐ(文章) 実験中は換気に十分注 意する(文章) 塩化銅 (10%) 東 京 書 籍 6V 電極の変rt 付着物 をろ紙 の上に落I とし試験管でこする に おt 換気に十分注意 して, 深 く吸い込 まないよう にする(文章) 手であおいでか ぐ(図)106
杉本良―・ 植田陽子:中学校理科における電気分解教材に関する研究 ことが分かる。 この原因の一つ として考 えられ ることは指導書 の内容があげられる。昭和33年度改 訂の指導要領 によると,「塩化ナ トリウムの電気分解 によってで きる物質 を調べ ること」 となってい る。昭和43年,昭
和52年,平
成元年改訂 の指導要領 には特 に記載 はない。 しか し,昭
和45年 中学校 指導書で は,実
験例 として塩化銅及び塩酸 を挙 げている。また,昭
和52年指導要領 の展開には,「素 材 としては塩酸,塩
化銅水溶液 の電気分解が挙 げ られ る」 とあった。平成4年
版 の教科書 にな り, 塩酸が2社
で扱われているの は,平
成元年版中学校理科指導書 において「実験 に用いる電解質 は¨・ イオンの記号 について は1価
のイオンを扱 う程度 に とどめる」 と記載があることを意識 した もの と 考 えられ る。別 の原因 として は,学
校現場でのエーズによると思われ るもので,塩
化銅の実験 が, 安全で確実であ り,薬
品が安価で,実
験器具や材料が容易 に手 に入 り,鮮
やかな実験がで き,生
徒 に とって効果的であった ことによるもの と考 えられ る。 次に安全 について は,表
8に示すように,昭
和55年 の教科書 まで は十極 に生成す る物質が塩素 に も関わ らず,換
気 に対す る注意や臭いの嗅 ぎ方の記載がなかった。そのほか塩化銅水溶液 の電気分 解 に関 して,一極 は炭素棒 の色 の変化 を,十極 は臭 いや脱色反応 によって生成物 を調べ るのはどの教 科書 もほぼ同様 であつた。 III 電 気 分 解 教 材 の 実 験 に よ る検 討 次に,実
際の実験 を行 い,塩
化銅水溶液の電気分解 に関す る実験 を定性的,定
量的,さ
らに安全 性な どの観点か ら,そ
の教材性 を再検討 した。1
塩化銅水溶液の濃度及び塩素ガスの安全性の検討 ア 炭素棒 を用いた実験 教科書 に述べ られているビーカー と市販 の戊素棒 を用い る実験方法 について,そ
の濃度 と塩素ガ スの濃度 を検討 した。 (1)塩化銅水溶液の濃度 塩化銅(6水
和物,試
薬一級)12.68gを
蒸留水 に溶か し,全
量 を100mlに した10%塩
化銅水溶液 と,塩化銅1.268gを 溶か し,全 量 を100mlに した1%塩
化銅水溶液 を80mAで
電気分解 した。その際, 水溶液 の色及び一電極棒への銅 の付着の見 えやす さの程度 を濃度 の違いで比較するために10分毎 に 50分間観察 した。 その結果,い
ずれ も銅 の付着が観察で きるが, 1%濃
度の方が優れているように 思われた。 9)塩素ガスの安全性 と適切 な電流値の検討 塩化銅水溶液 の電気分解で は,一
極 に銅,十極 に塩素が発生す る。塩素 は常温で黄緑色 を呈 し,激
しい刺激臭 を持つ重い気体 である。毒性が きわめて強 く,こ
れを吸 うと呼吸器 を侵 され る。塩素ガ スが人体 に及 ぼす症状 について表9に示 した。この表 より,電気分解で発生する塩素の濃度がl ppm
以下であれば,実
験 中での塩素ガスの人体への影響 は少ない と考 えられ る。 教科書で は,電
源装置 を用いて3∼
6V,乾
電池3個
を電源 とするか,記
述がないかのいずれか であった。電流 を調べてみるとお よそ100mA,200mAの
二種 に分 けることがで きる。また この実験 は,50分
とい う限 られた授業時間の中で行われ,この時間の中で実験装置 を組 み立て,電
流 を流 し, 銅の生成 と+極
での塩素の生成 とを観察 し,ま
とめることを考慮す る と,電
流 を流 している時間 は鳥取大学教育学部研究報告 教育科学 第 35巻 第
1号
(1993) 表9
塩素濃度 と人体の症状(日化防災資料による) 人 体 の 症 状 (許容濃度) 刺激感がある 粘膜 に強い炎症がお こる 短時間で生命危険・気管支炎・肺出血がお こる 1時間で窒息死 即死 1.0 3.0 10.0 30.0 300 900 10分程度 と考 えられ る。そ こで,100mlビ
ーカーに1%塩
化銅水溶液100mlをいれ,10分間観察する ことにした。3V,6Vの
二 つの場合 において,ビ
ーカーか らO cm及
び ビーカーか ら10cmは
なれ た ところで,換
気 あ り,な
しの場合 について,気
体検知管(100m1/ス トロー ク)を用いて5分,10分
, 20分と塩素の濃度測定 を行 った。 またその ときの電流 をテスターを用いて測定 した。 次 に,10分
問電流 を流 した後 ビーカー上 の気体 を手であお ぎ,ビ
ーカーか ら2cm,5cm,10cm離
れた地点で検知管 を用いて塩素濃度の測定 を行 った。 これ を換気な しで, 3V, 6Vで
測 った後, 換気扇 を回 しなが ら同様 に行 った。 結果 を表10から表■ に示 した。換気な し,換
気 あ りのいずれ も手であおがない ときは,ビ
ーカー か ら離れ ると塩素ガスは検 出されなかった。手であおいだ ときは,5 cm離
れて も塩素ガスは検出さ れなかった。 表10
ビーカーか らの距離 と濃度の測定結果 (10分後) ビーカーか らの距離 2 cm 5 cm 10cm 3V 6V 3V 6V 3V 6V 換気 な しの塩 素 ガス 濃度 (即m) 換気 あ りの塩 素 ガス 濃度 (即m) 表11
塩素ガスの濃度測定結果 換気 な し 換 気 あ り讃
ビーカーか らO cm ビー カー か ら10clll ビーカー か らOcm ビー カ ー か ら10( V m , 6 価3 V
鰤
V め 6 輸 V m , 3 m V mナ 6 価 V m , 3 輸 V D 6 的 V m , 3 働108
杉本良―・植田陽子:中学校理科における電気分解教材 に関する研究 イ ホルダー芯 を電極棒 に用いた実験 教科書では電極棒 に炭素棒 を用いていた。 しか し,炭
素棒 の表面が粗 いため,水
溶液中にある電 極棒への銅の付着が見 えに くかった。 そこで,平
成元年度か ら平成4年
度使用東京書籍 の教科書 に 記載 されていた鉛筆 の芯 を用い ることにした。 しか し,鉛
筆の芯 は加工 の施 されている鉛筆 の木 を はが さな くてはな らず,適
当 とはいえない。 そ こで,同
様 に炭素 を多 く用 いてカロエ してある製図用 ホルダー芯 を用いることにした。これ は,径2mm×
長 さ13cmの
ホルダー芯6本
入 りで200円であ り,100mlビ
ーカーを使用す るときには長 さ6 cmに
切 って用いると6組
で きる。炭素棒が10本,5組
で 180円と同程度の価格である。ホルダー芯 を電極 の材料 として用いるに当たって,次
の点 について炭 素棒 と比較することにした。l①
陰極棒への銅の付着が観察しやすいこと
l②
陰極棒に生成する銅が定量的であること
(ファラデーの法則を満たすこと
) (1)実験 方 法"
ホルダー芯を電極棒 とし① の検証方法,1%塩
化銅水溶液を100mlビ ーカーに入れたものに,80mA電
流を流 し 10分毎に50分間観察 し,写
真 を撮 った。 は)②
の検証方法 ・未処理のホルダー芯を電極棒 として,図
1の ような装置を組み立て,電
極棒 をつるした針金を 電子天郡(±3mgの
誤差範囲)の皿上に渡 した。電子天神をパソコンと連結 して40mAの
電流を 30分間流 した時の,電
極棒の重量変化を測定 した。 このとき,水
溶液の入ったビーカーは,摂
氏30.0度の恒温槽水浴中においた。 ・ 次に,未
処理の災素棒で行った。 ・ ホルダー芯及び戊素棒 を30分間煮沸 し,そ
れを電極棒 とした。 7_/ パ ソ コ ン 電源装置 電子てんびん 図1
電極棒の質量変化測定装置鳥取大学教育学部研究報告 教育科学 第35巻 第
1号
(1993) ・ ホルダー芯 を10分 間空煎 りした もの を1時
間煮 沸 して電極棒 とした。 (2)実験 結果①の結果を写真
1-2に
示す。電極はホルダー芯である。
② の結果 未処理 の時,炭
素棒,ホ
ルダー芯 ともに陰極棒 か ら気体が発生 し,生
成 した銅の重 さを測 ること がで きなかった。 電極棒か ら気体が発生 しな くなるまで約1時
間煮沸 した後,30分
間電極棒 を水の中に放置 した電 極棒 での結果 は表12に載せた。Og点
を示す時間 は減少 し,グ
ラフも直線 になった。炭素棒 で はフ ァラデーの法則 の理論値 と+2.4%の
誤差であった。しか しホルダー芯では+12.2%の
誤差 を示 した。 そこでホルダー芯 を10分間空煎 りして煮沸,放
置 した ものを用いると誤差 は+2.1%と
なった。結果 は表13に示 した。 表12
煮沸後水浴中の炭素棒及ぴ表
13
空煎煮沸 したホルダー芯での ホルダー芯の定量結果(30.0°C′eO分間′40mA)
定量結果(30.0°C,30分
間,40mA)試料番号 炭素棒(g) ホルダー芯(g) No l No 2 No 3 No 4 No 5 No 6 No 7 0.027 0.022 0,025 0,026 0.023 0,025 0.022 0.028 0.031 0.026 0.031 0.029 0.030 0.027 平均値 0.0243g 0.0288g 標 準偏差 1.83mg 1.81mg 理論値 0,0237g 0.0237g 誤差(g)
+2.4%
+12.2%
試料番号 ホルダー芯(g) No l No 2 No 3 No 4 No 5 0.024 0.021 0.025 0.025 0.028 平均値 0.0242g 標準偏差 1.72mg 理論値 0.0237g 誤差(%)+2.1%
杉本良―・ 植日陽子 :中学校理科における電気分解教材 に関す る研錠
2
ホルダ■芯を電極棒にした教具の開発
次の4点 を中学校理科における電気分解の教材・教具
│の条件とした
.。①使用する教材・教具が生徒にとって身近なものであること
②構造が簡単で使用が容易であること
③短時間で両極の生成物が観察でき
,何
度も使用できること
④安全に実験できるこ―
と
1個別化を図るために
,塩化銅水溶渋を 内径
3:Oc“,高 さ6.Ocmの サンプルびんに―
いれる
,ことにし
た。電源には単―乾電池
?∼
3個用いたと電極棒はホルダエ本を用いて回路を組み立てた。塩素ガ
スー
リ潰度測定は
,サ
ンプルびんのふたを閉めたときと開けたときとで
,5分
Ⅲ
10分と検知管を用い
て行つたょ
―
測定 はサンプルびんの真上を手で仰 ぎ
,ピ
ンから
2tOc14のところで行つた。
また
,水
溶液の色の変化
,銅
│の生成の様子を
10分毎に写真に撮って観察 した。
電流は単一乾電池 2個 のとき
30mA 3個
のとき
50mAで
ある
.。ふたの有無及び塩素ガス
│の測定結果
を表
14に記したも
表14
サンプル瓶とホルダエ芯を用いた教具での塩素ガス濃度測定 結果 乾電池2個(30mA) 乾電池3個(「D04AJ ふた蕪 し ふた有 り ふた無 し ふた有 り5分
後 0.2pp4 0.3pp血 0,7ppal 1.0帥 101分 後 0.5pOm 1.Oppn 1.2ppn 1.7ppm次に,10分 毎に撮影した写真の
0分,10九
20分,4o分 のものを写真
3-6に
示 した。
写真3 1%CuC12サ
ンプル瓶(0升
) 写真4 1%CuC12サ
ンプル瓶(10分) 佐 側に比較のために1%CuC12水溶液を置いた)鳥取大学教育学部研究報告 教1育科学 第35巻 第
1号
(1993)3
開発 した電気分解教材・教具に関する考察
先に述べた電気分解の教打・教具の持つ条件で掲げたものの内
,「①使用する教材
・ 教具が生徒に
とって身近なものであること」及び「②構造が筒単で使用が容易であること」については
,十
分満
たしていると考える。「③短時間で両極の生成物が観察でき
,何
度も使用で
'きること」についても同
様であるが塩化銅水溶液の濃度 は10%よ り
1%の
方が銅の生成が確認しやすかった。しかも
,塩
化
銅水溶液の色が薄 くなる という変化はビーカーを用いる実験では分かりにくかった。サンプルびん
を用いた教材は色の変化及び銅の生成の どちらも観察 しやすかった。また
.,ホルダー芯なら二度実
験しても
,銅
を拭き取れば再び電極棒 として使うことができる。
「④安全に実験できること」については
,塩
素ガスの生成がビーカーの真上で
lo分以上電流を流
した
.とき,人体への毒性が強い濃度が検出された。しかし,電極棒から2 cm以 上離して行えば,塩
素ガスは安全範囲内である。塩素は0.2ppm程 度の濃度でも十分に臭いを調べることができた。教科
書に記載のある “
十分な換気"と は
,換
気扇のみを回すだけでは換気無 しの時と比べて塩素ガス濃
度に変化はみられなかったので換気扇だけでは十分な―
換気 とはいえない。塩素ガス濃度はぜ―カー
を用いたときより高かつたが人体への影響 はない範囲だった。サンプルびんの蓋をしていると瓶の
外には塩素の臭いはせず
,蓋
を開けたとき塩素の臭いがすることにより各自が一極の銅の生成と十
極の塩素の生成を区別して
,じ
っくり観察できると考えられる。また,こ の実験器具を用いると実
験の準備が簡単でぅ臭いをか ぐのに周辺が動いても影響が少ないと考―
えられる。
IV
結論
本研究では
,ま
ず
,電
流及び電気分解め学習内容への生徒の理解度を調べるために実態調査を行
すた。それによつて
,電
気分解においてイオン引かれていく極 と
,両
極棒でのイオンの電子の授受
によって分子及び原子になるということとが,関連付けて学習されていないことが分かつた。また
,電気分解の実験に際して
,①電流の流れは
+極
から一極であり
,電
子の流れはその逆であることを再確認させること。
②イオンの極性 と引かれる電極は異符号であるという基礎的概念を定着させること。
写真5 1%CuCLサ
ンプル瓶120■)写真
6 1%CuCち
サンプル瓶
“
0分)112
杉本良―・ 植田陽子 :中学校理科における電気分解教材に関する研究 ③極 と生成物 とを混同 しないように両極で生成する物質 は明確で観察 しやすい こと。 ④一人一人が直接観察で き,個
別化が はかれ ること。 などを考慮す ることが必要である。 教科書の比較 において平成4年
版 の教科書 には手で扇 ぐことや,換
気 についての注意の記載 はあ つたが,電
極棒 と測定場所 の記載 はなかった。本研究で塩素ガス濃度 を測定 した結果,測
定場所 に よっては人体 に影響があることが分かった。理科教科書 における電気分解教材 の変遷 を調べ ると, 塩化銅水溶液が15年以上 も主要 な教材 として用い られて きていることが分かった。 しか し,塩
素ガスの発生が人体 へ影響 を及ぼす ことが考 えられたため,最
後 に塩化銅水溶液 の電 気分解教材の検討及び教材・教具 の開発 を行 った。その結果,塩
化銅水溶液 の電気分解で は,塩
素の 臭いを調べ る場所 に注意 を払 えばl ppm以
内に抑 えられ人体への影響 はないことが分かった。また,10%塩
化銅水溶液で は水溶液 の青色 のため銅 の生成が分か りに くいが1%水
溶液 を用い ると明確 に 確認で きた。 さらに,電
極棒 に製図用 ホルダー芯 を用いる と,よ
り銅が確認 し易 くなることが分か った。ホルダー芯 とサ ンプル瓶 を用いた教具 を開発 した ところ,塩
素ガス濃度 は安全範囲内であ り, 銅の生成 も明確であった。 さらに,水
溶液 の色 の変化が確認 し易 く,実
験 の個別化が図れ る教材で ある。 おわ りに 電気分解 と同様 に,イ
オンの概念を捉えさせるため教材 として,イ
オン泳動がほとんどの教科書 に掲載されていた。電解質中のイオン泳動の教材の検討や教材開発は野口輝臣(1976),斉藤孝雄(1979), 国本道仁(1990)ら により行われている。それに比べると,電
気分解教材 についての研究 はあまりな されていないように思われる。本研究では塩化銅水溶液の電気分解についてのみ検討を行ったが, 他の電気分解教材に用いる化合物 として重元典昭(1981)に より,ヨ
ウ化亜鉛が報告されている。ヨ ウ化亜鉛ではヨウ素 と亜鉛による合成から電気分解までを連続 して行えるとしている。実際にやっ てみると+電
極棒付近の水溶液が褐色 を帯び,一
極には針状の亜鉛の生成が観察された。 ヨウ素は ヨウ素デンプン反応で,亜
鉛 は濃塩酸を加 えて水素の発生で調べることとしている。 しか し,薬
品 の価格が高いこと,溶
液が無色であることなどの欠点 も見 られる。 今後の課題 として,開
発 した教具を実際の授業場面で適用 し,そ の効果を確かめる必要があるが, それ と同時に,Ⅳ
の①,②
の条件 を克服する理科の指導過程や授業改善 を必要 としている。効果的 な理科指導のために,こ
のような生徒の認識 を調査 し,教
科書の教材 を検討 し,ま
た,さ
らに実際 に実験 を行い,検
証 してい く総合的な教材研究が行われる必要がある。そして,生
徒 に適 した,よ
り優れた教材を開発 してい くことが今後 とも理科教育の重要な課題である。 謝辞 :生徒に対するアンケー ト調査にご協力頂いた鳥取大学附属中学校橋本隆校長先生をはじめ, 同校の理科の先生方に厚 く感謝申し上げます。 引用・ 参 考文 献R Ottorne&P Freyberg(1985):''Learning in Science:The implication of Children's Science'',Heinemann,(森 本信也,堀哲夫訳「子 ども達 はいかに科学理論 を構成するか―理科の学習論―」,1988,東洋館出版社
鳥取大学教育学部研究報告 教育科学 第 35巻 第
1号
(1993) 113
国本道仁(1990) 版社 神津住夫(1976) 斉藤孝雄 l1979):「 視覚 にうったえた化学概念・化学現象の とらえさせ方について」,理
科教育資料89,研究集録,第
■集,pp.47∼ 49,広 島県理科教育センター 竹林保次 (1973):「 化学精義I」,pp 85∼91,培風館 永田義夫 (1969):「 中学校理科指導要領の展開―理科編―」,pp.93∼96,明治図書 野口輝臣(1976):「 イオンの移動の研究」理科教育資料,pp.87∼90,広島県理科教育センター福岡敏行,広瀬聡子(1989): rconcept Mapに よる概念の分析 I― 第 6学 年児童の水溶液概念の分析」
,横
浜国立大 学教育実践研究指導センター,第
5巻,p81. 三角省三 (1983):「 基礎分析化学」,pp 333∼ 335,pp.134∼ 190,広 川書店 三宅征夫 (1988):「 理科教育における認知的能力,実
験 に関する能力及び科学的態度の相互関連に関する研究」昭和 61年度科研報告書,課題番号61580262 森川久雄 (1977)i「 改訂中学校学習指導要領の展開理科編」,pp.94∼96,明治図書 守永健― (1972):「 基礎化学選書 9酸化 と還元」,pp 182∼ 208,裳 華房 森本信也,森藤義孝(1988):「中学生における粒子概念の習得に関する基礎的研究」,日本理科教育学会研究紀要,第
29巻 2号 ,p.1. 文部省編 (1978):「 中学校指導書理科編」,pp.48∼51,大日本図書 文部省編 (1989):「 中学校学習指導要領」,pp.50∼51,大蔵省印刷局 文部省編 (1989):「 高等学校学習指導要領解説 理科編理数編」,p92,実
教出版 文部省編 (1989):「 中学校指導書理科編」,pp.47∼50,学校図書 (1993年4月20日受理) 「身近な素材 を生かした化学教材の研究」,p88∼95,全国理科教育センター研究協議会,東
洋館出 「イオ ン伝導 とイオンの泳動」理科教育資料83研究要録第 8集 pp.83∼86 広島県理科教育センタ電流と物質に関けるアンケー ト 次の質問で,適当と思われる番号や記号を0で園んで下さい。 導線に脚嘔流の流れは全くない。 の方へ向かつて流れる。
げ
0)競
朗 脇 加 閣 断 した通 りである。電流の流れは「帰りのュ 導線では少なくなっている。 (H)これは,3個の乾電池の入った懐中電灯の図です。乾篤池の中を流れる電流につい(a)lEE粧
流れる轍 渤 撮 も強い。 ① 2の乾電池を流れる電読力逓 も強い。 (0この乾電池を流れる電流が最も強い。 Q)1と3の中 ,盟漁調Mり電流よりも強い。 (c)どの柳 も同じである。 (Ⅲ)電気ポットでお湯を沸胸サ 時,水り中から大きな泡力そ てきます。 この融 ま,次に挙げたうちの何だと思いますか? ① 欽(b)嫌
(0熟Q)酸
素または水策 F ヽ ミ 排 瀬 ︱ ・ 誌 田 覇 椒 中 ■ 報 薄 悩 摯 再 村 耳 か 酬 ゆ 哺 蝉 革 再 涸 軒 が 載 沸 述 華 ド 謎 叫 甑 粛 旨 ド ≫ り と Q 学年__紅 (
男子,女子 ) (V)完全に充電した1個の自動車用パッテリ→があるが,まだ自動車に取りつけられて いません。それは,草庫のいすの上に置いてあり,ま だ接続されていないままです。 ′ヽッテリ‐には,電満が流れていますか? =
尚,こ れはアンケー トですので,気機に,思つた通りに答えて下さい。 (I)図に示されたように,帥
堀蠅球に接続されています。豆電球にと却ユカhD力わ 韓 魂 醐 導線の電流の流れを最もよく表しているのは次のどの国だとあなたは思いますか? (つ 乾電池の図の下の部分に接続した(2)電
流の崚れは両方の導線とも重電球 Q)流れている。 ① 瀬 ていない。 (0わ からない。 (Ⅶ)砂糖水・食塩本は電流を通すと思いますか? 砂糖水について ⊂)通す (b)通さない (のわからない 食塩水について 0)通す0)通
さない(0わ
からない 自動車用 ′くッ,リー (V)2本の鋤 ウ`ッテリーの電極に接続されています。その金属棒は,下の図に示 したように融 中に鞠 扶 っています。 電流がバッテリーからα隅梓へと,Aの導線廷流れているとき,あなたは次のどの 意見中 か? Q鴻鰯膀抑 ているか流れていない力│よ,潜液の種類による。 Φ)溶液中には電流満流れているに違いない。(0灘
中に醐 誠れれていないだろう。 (Ⅵ)あ なたが,純粋な本の国を最も精密に詳しく書くとしたら,下の図でどれが一番あ なたの考えるものに近いですか? 縫枠 な水の 入 った ビー カー (a)◇ 水
以上ご協力あリカ主とうございました。
鳥取大学教育学部研究報告 教育科学 第35巻 第