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三田祭論文

日本の水産資源から見る持続的漁業

慶應義塾大学経済新人会貿易研究部 2 班

伊藤 田中 津軽 橋本

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目次

1. はじめに ... 5 2. 現状分析 ... 6 2.1 我が国における水産業の現状 ... 6 2.1.1 漁獲高の推移 ... 6 2.1.2 漁業従事者・操業漁船数の推移 ... 7 2.1.3 漁業従事者の収入の推移 ... 8 2.2 我が国の資源管理制度 ... 9 2.2.1 日本政府の実施する公的制度 ... 9 2.2.2 日本政府が行う主要な政策・漁獲可能量制度(TAC)について ... 9 3. 問題意識 ... 11 4. 原因分析 ... 13 4.1 国の漁業管理体制の甘さ ... 14 4.2 不合理な漁業運営 ... 19 5. 政策提言 ... 26 5.1 国の漁業管理体制の甘さの改善 ... 26 5.1.1.ABC を超える漁獲枠の改正 ... 26 5.1.2. TAC の対象魚種が尐ない ... 28 5.1.3 TAC 法の不備・漁獲量管理の甘さ ... 28 5.2.1 油費高騰 ... 30 5.2.2 未成魚の段階で魚を獲ってしまう ... 31 5.2.3 乱獲を防ぐために ... 32 6. 参考文献 ... 38

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最後に ... 41 2 班班員・執筆者紹介(50 音順) ... 41

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現状分析

•漁獲高、漁労所得などの減尐

•見えてくる漁業全体の不振

•TACという仕組み

問題意識

•経済的側面

•政治的側面

•社会的側面

原因分析

•漁業不振の原因としての乱獲

•乱獲の原因として国の管理体制と漁業者の経

営状況を分析

•負のスパイラル

政策提言

•TACという仕組みの改善

•IVQ方式の導入

•IQ/ITQ方式の導入

本論文の流れ

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1. はじめに

私たち2 班は今回、三田祭論文を執筆するに際して「水産業」という島国である日本 とは切っても切り離せないこの重要な産業について注目し今後どのような形であるべ きかについて考察した。 最初にいま日本の漁業がどのような状況にあるのか、その全体像の把握に努めること と共に問題点を見出すことに始まった。そして全体的にこの産業が低迷しているという 事実を確認し、日々報じられているような漁業の危機について実際に認識することとな った。またこの問題が当然、日本という国のレベルで扱う必要がある問題であることに 気づいた。なぜなら漁業の不振はこの海洋国家にとって魚の自給に直接結びつき、また それは国家の食料政策に大きく影響を及ぼすからだ。 その後は浮かび上がったその問題がなぜ起こるのかという部分に注目したのだが、 この部分で日本の現行政策に関して重大なことを発見したのである。それは現行政策に 見える不備だった。そこで他国で成功している先行例、特に漁業大国であるノルウェー など、または多くの専門書に書いてある解決への道筋を踏まえて、将来的に日本の漁業 はどのような形が最も望ましいのか考えて提言を加えた一つの考察としたのが本論文 である。

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2. 現状分析

2.1 我が国における水産業の現状

2.1.1 漁獲高の推移

始めに我が国の漁業生産高の推移を見ていきたい。対象としているデータは水産庁海 面漁業の状況に関してまとめたものである。海面漁業というのは文字通り海面で行われ る漁業であり、湖沼や河川で行われる内水面漁業とは異なるものであると定義されてい る。 図2-1我が国の海面漁業生産高の推移(単位:トン) 出典:平成26 年度水産白書「沿岸漁家の漁労所得推移」 公表日平成 27 年度 5 月 22 日 データを参照するとすべての分野で減尐の傾向が見られ、特に人の手が通常の漁よ り入る養殖業でさえ多尐の上下は見られるものの通して考察してみると減尐の傾向を 示しているのがわかる。遠洋漁業は排他的経済水域が設定されて以降、日本国船籍の船 が他国領土から200 カイリのエリアで操業できなくなったので漁業可能領域が狭まり やりづらくなったのでその減尐は致し方ないところがあるが、その反面、我が国も広大 な排他的経済水域を有する海洋国家となったわけで、そうした面があるにもかかわらず 沖合漁業や沿岸漁業においても減尐傾向がみられるということはなにか根本的な原因 があると考えられる。 0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000 漁獲高 (単位: トン ) 年度

日本の漁獲高の推移

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2.1.2 漁業従事者・操業漁船数の推移

前項の漁業生産高を見るだけでは確実な考察はできないので漁業従事者の推移を考 察することとする。以下を参照してほしい。 漁業従事者数においても減尐傾向がみられる。 出典:平成26 年度水産白書「沿岸漁家の漁労所得推移」公表日 平成 27 年度 5 月 22 日 動力漁船の欄を主に見てもらいたいのだがこちらも減尐の一途をたどっている。この データと前項のデータのみを見てみるとただ従事者・漁船数が減ったから漁獲量も減尐 0 20000 40000 60000 80000 100000 120000 140000 160000 180000 200000 平成5年 平成10年 平成15年 平成20年 平成25年 船舶数 (単位:隻 ) 年度

漁業船舶数

図2-2 漁業従事者の推移 (単位:人) 図2-3 漁業船舶数の推移 (単位:隻) 0 50000 100000 150000 200000 250000 平成16年 平成21年 平成22年 平成23年 平成24年 平成25年 平成26年 従 事 者数 (単位:人 ) 年度

従事者数の推移

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8 したように見える。しかし日本の漁業の根本的な問題はこうも簡単に片付くものだろう か。わたくしはそこでもう一つのデータに着目した。

2.1.3 漁業従事者の収入の推移

出典:平成26 年度水産白書「沿岸漁家の漁労所得推移」公表日 平成 27 年度 5 月 22 日 上記のデータを参照してみると収入までもが減尐している。通常、漁船数・従事者数 によって漁獲高が減尐するならば収入は変動するだろうか、加えて年々下がるような変 動の仕方はするだろうか。そこで私たちはこの原因を単なる漁船数・従事者数の減尐に 伴う漁獲高の現象以外の原因に求めたのである。 そこで第一に出てきたのが乱獲による資源減尐の可能性だ。それはなぜかというとまず 乱獲は大きく二つに大別される。一つ目は成魚の乱獲である。成魚は単価も高くサイズ も大きい。ゆえに成魚が乱獲されると高単価、サイズ大の魚の水揚げが減り、結果とし て収入も漁獲高も減尐へと向かっていく。これは上記のグラフの図2-1 および図 2-4 のグラフの結果に即する。また成魚の乱獲の結果、未成魚の乱獲も起きるわけであるが、 未成魚は単価も安くサイズも小さいため獲っても獲っても収入増にはつながらず、漁獲 高の増加には貢献せず、それどころか成魚・未成魚全体の水揚げを押し下げてしまうの 図2-4 漁業従事者の収入の推移 (単位:万円) 220 230 240 250 260 270 280 平成15年 平成20年 平成21年 平成22年 平成23年 平成24年 平成25年 収入額 (単位:万円 ) 年度

漁家の収入額推移

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9 である。これもまた図2-1、図 2-4 のグラフに即する。ゆえに我々は乱獲を要因とし て考えた。ではなぜ乱獲は起きるのか。まず日本の現行制度から見ていこうと思う。

2.2 我が国の資源管理制度

2.2.1 日本政府の実施する公的制度

我が国政府の実施する公的制度は主に三種類に区別されている。 インプットコントロール(投入量規制) ⇒漁船隻数、トン数、漁具・漁法、隻日数を規定することにより制限をかける方法。 テクニカルコントロール(技術的規制) ⇒漁期、漁場を定め、網目の大きさも規定することで制限をかける方法。 アウトプットコントロール(産出量規制) ⇒漁獲可能量(TAC)制度、個別漁獲割当方式(IQ)の導入による漁獲制限。 以上のように大きく3 つの側面で公的制度が設けられているが本論文では特に直接的 に、かつ最も漁業資源管理に影響をもたらす本邦政府の制度、漁獲可能量制度について 注目した。

2.2.2 日本政府が行う主要な政策・漁獲可能量制度(TAC)について

我が国の漁獲高・乱獲を管理するシステム、それは漁獲可能量制度(通称 TAC)といい 主な水産資源7 種類について規制をかけている。この制度導入のきっかけになったのは 1983 年の国連海洋法条約への締結だ。国連海洋条約は世界の海の憲法と呼ばれる国際 法で「海は全人類のものであり、国家は海洋の利用に関して、人類に対する義務を有す る」という基本理念に基づいている。これによって 12 海里の領海と 200 海里の排他 的経済水域を決定できる権利と同時に、持続的に維持・管理する責任を負うことになっ たことがある。

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10 その選定基準には採捕量及び消費量が多く、国民生活上又は漁業上重要であるために資 源状況が悪く緊急に管理を行う必要があり、我が国周辺水域で外国漁船による操業が行 われているなどの観点がある。その調査結果をもとに指定が行われている。対象魚種は サンマ、マアジ、サバ類、マイワシ、スルメイカ、スケトウダラ、ズワイガニの7 魚種 である。その規制の具体的な内容に関しては「海洋生物資源保存法第3条第3項」より 生物学的許容漁獲量:(ABC Allowable Biological Catch)等の科学的知見を基礎とした 漁業経営の状況等を勘案して設定される年間漁獲量の上限である。魚種ごとに設定され たTAC は、漁業種類別あるいは都道府県別に配分された後、漁業者団体によって主に 管理される。また「海洋生物資源の保存及び管理に関する法律」に基づく産出量規制と して、年間の採捕量の上限を定めている。また、同法に基づき投入量規制として、漁獲 努力量の総量規制(TAE)制度も導入されている。以上が本邦政府によって現在行われ ている具体的施策である。ではなぜこのような政策が行われているにも関わらず漁獲高 の減尐は起きているのだろうか。そして漁獲高の減尐はどのような問題を引き起こす可 能性があるのだろうか。

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3. 問題意識

現状分析の項で触れていたような、乱獲状態に伴う漁獲高の減尐が続いた場合の影響 を経済、政治、社会、三つの側面から分析した。 ①経済的側面 我が国には島国である歴史から魚を食べる習慣が根強く残っており、それを自前で調 達しなければならないとすると、輸入に傾かなくてはならなくなる。しかし、2000 年 代になって発生したBSE や鳥インフルエンザによる『肉離れ』や、健康志向の高まり によって、世界中で魚類に対する需要が上昇している。例として図3-1 でも示したノル ウェー産のサバについて見てみよう。 日本はノルウェーから長年大量のサバを輸入してきたが、現在その輸入量は落ちてきて いる。2004 年までは年間 15 万トン程度で安定していた輸入は最近では 5.6 万トン前後 に激減した。世界中でノルウェー産のサバに対する需要が激増したためで、以前はキロ 図3-1 ノルウェー産サバの輸出入量推移

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12 あたり130 円程度だった輸入単価が 200-300 トン前後に高騰、『買い負け』状態で輸 入したくてもあまりできない状態だという。また、2010 年のワシントン条約締結会議 において提案された大西洋クロマグロの禁輸政策はご存知だろうか。乱獲により激減し た大西洋クロマグロの保護を考えるNGO が商業的な国際取引を禁じようとしたものだ。 結局その提案は理性を欠いているとして否決されたが、自然保護の観点から輸入がスト ップされるということは、自然資源である魚類においては十分考えたられる事態である。 輸入量の減尐は国内市場に出回る魚介類の高騰に直結してしまうだろう。 ②政治的側面 漁獲量の減尐により、魚類輸出量世界第12 位の漁業大国として対外的に比較優位を 持っていた日本が、漁獲量の減尐により海外に魚介類を輸出できなくなってしまう可能 性がある。すると、対外関係現状持っている優位性を持っている優位性を多尐失う可能 性が考えられる。 ③社会的側面 国内近海における漁獲高が減尐してしまうと、国内市場に従来出回っていた魚で、 人々が口にすることが尐なくなる魚が出現してしまい、魚食文化の衰退に繋がる可能性 がある。 主に、以上あげたような三つの側面から影響が生じてくると考えたため、今回我々は、 魚介類の乱獲とそれに伴う漁獲高の減尐が問題意識となると考えた。

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4. 原因分析

現状分析、問題意識で述べた通り現在日本の漁業は衰退の一途をたどっている。漁獲 量の減尐はなぜ起こっているのか。その主たる原因は、漁業者が乱獲に走ってしまうこ とにある。下の図4-1 を見てほしい。 図4-1 スケトウダラ日本海北部系群の資源量と漁獲割合の推移 出典:「平成25 年度全国資源評価会議 資料」 資源量および漁獲割合 平成 25 年 10 月 31 日公表 図4-1 から、1998 年以降から 2006 年あたりにかけて資源量が減っているのに、漁獲 割合が減ることはなく、むしろ上昇していっているのがわかる。歯止めのかからない漁 家の乱獲がさらなる資源量の低下、ひいては資源量低下による漁獲量の低下を招いてい るのである。 では、なぜ漁家は乱獲に走ってしまうのか。その構造的な要因を、国の漁業管理体制 の甘さ(政府側に起因するもの)と、漁業者の不合理な漁業運営(漁業者側に起因する もの)の2つの側面から分析した。前者の視点からみえてきた要因としては、

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14 ① ABC を超える漁獲枠設定 ② TAC 対象魚種の尐なさ ③ TAC 法の不備 ④ ずさんな漁獲量把握方法 ⑤ オリンピック方式 の5つがあげられる。また、後者の視点からみえてきた要因として、 ⑥ 油費高騰 ⑦ 未成魚の段階で魚を獲ってしまう ⑧ 限定的な漁業資源利用 の3つがあげられる。漁業者側に起因する3つの要因は、直接的には収益減尐の原因で ある。そして収益の減尐によって、漁業者は目先の利益に走って乱獲をしてしまうと考 えられる。よってこれら3要因については、乱獲を助長する収益減尐の原因として分析 する。ここからは上記8つの要因について説明していこうと思う。

4.1 国の漁業管理体制の甘さ

① ABC を超える漁獲設定 日本では毎年研究者が集まってそれぞれの魚種に対して持続的に漁獲可能な量を 推定していて、これを「生物学的許容漁獲量(ABC、Acceptable Biological Catch)」 と呼ぶ。ABC は、毎年の漁獲量がその魚種の増加分以下にとどまるならば、その集 団の維持に悪影響を与えないとする考え方に基づく。ABC を超える漁獲は資源の持 続性を損なう可能性があるので、漁獲枠をABC 以下に抑える必要がある。しかし、 日本では慢性的にABC を超過した漁獲枠が設定されてきた。 下にスケトウダラのTAC、ABC の推移(図 4-2)と資源量と漁獲割合(図 4-3)を 示した。図4-2 は、科学者が勧告した生物学的許容漁獲量(左の棒グラフ)と国が設 定した漁獲枠(右の棒グラフ)を示したものである。本来は、右の棒が左の棒よりも

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15 低くなるはずだが、そうはなっていない。科学者の勧告を無視した、過剰な漁獲枠が 設定されているのがわかる。図4-1 を見ると、資源が直線的に減尐する過程で、漁獲 割合は下がっていない。どうして漁獲にブレーキがかからなかったかというと、図 4-2 の通り持続性を無視した漁獲枠が設定され続けているからである。資源の持続性 を無視したTAC 設定が、乱獲の一要因となっている。 図4-2 スケトウダラ日本海北部系群の ABC(科学者が勧告した生物学的許容漁獲量) とTAC(国が設定した漁獲枠) 出典:水産庁「平成18~25 年度 すけとうだら漁獲可能漁(TAC)案について」 平 成18 年 2 月、平成 19 年 2 月、平成 20 年 2 月、平成 21 年 2 月、平成 22 年 2 月、平 成23 年 2 月、平成 24 年2月、平成 25 年 2 月公表 ② TAC 対象種が尐ない 日本で漁獲される水産物は200 種類に及ぶのに、TAC 対象魚種がマアジ、マイワシ、 スケトウダラ、スルメイカ、ズワイガニ、マサバおよびゴマサバ、サンマたったの7 魚 種しかない。これら7 種の国内漁獲量は、国際的資源管理の対象となるカツオ、マグロ 年 (万トン)

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16 類を除いたTAC 対象となりうる魚種の漁獲量のまだ約 5 割しか占めていない。(図4-3 参照)日本で水揚げされている約半数の魚については乱獲の規制がない。 図 4-3 沖合漁業の我が国漁業生産量に占める割合および沖合漁業生産量の主要魚種別内訳 の推移 遠洋、沿岸漁業についても同様に漁業生産量の約50%をTAC 対象外魚種が占めてい る。 出典:農林水産省「漁業・養殖業生産統計」に基づき作成 ➂ TAC 法の不備 海洋生物資源の保存および管理に関する法律(TAC 法)では、漁獲枠が設定されてい る7 魚種のうち、スケトウダラとサンマを除く 5 魚種に関しては、以下の 6 点に関す る法的な拘束力が最初から除外されている。 1.基本計画等の達成のための措置 2.採捕の数量又は漁獲努力量の公表 3.助言、指導又は勧告 4.採捕の停止等

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17 5.割り当てによる採捕の制限 6.採捕の数量又は漁獲努力量 報告義務もなければ、助言も指導もしない。採捕数量の公表義務もなく、採捕の停止義 務もない。漁獲枠を超えて漁をした者に対して公的な措置がとれなくなっているのであ る。 漁獲枠を超えたのに、政府が取り締まりをしなかった例がある。2007 年 2 月にサバ 類の漁獲量が漁獲枠を超過した。水産庁は漁業者に自主的な漁獲停止を要請したのみで、 取り締まりをしなかった。その結果、サバの漁獲量が6 万トンも超過するという事態が 起こった。2008 年 8 月には、沿岸漁業のマイワシ太平洋系群の漁獲が、漁獲枠を超過 した。その後も漁獲は続けられて、最終的には漁獲枠の2 倍近く水揚げしてしまった。 これらの超過漁獲には何のペナルティもないので、文字通り「漁獲枠を無視して獲った もの勝ち」となってしまい、乱獲競争を加速させてしまうのである。 ④ 漁獲量管理の甘さ 日本の漁獲統計は、漁業組合の報告を集計するだけで、実際の水揚げと報告内容が一 致しているかどうかは誰も確認していない。漁業組合と仲買人が口裏を合わせて漁獲量 を過尐申告した場合に確認するすべがない。これでは知らず知らずのうちに乱獲を見逃 してしまう可能性がある。 日本の漁獲統計の問題が顕在化したのはミナミマグロ。2005 年1月に開催されたみ なみまぐろ委員会(CCSBT)年次会合で、オーストラリアは日本の市場調査で、TAC を大幅に超えるミナミマグロが流通している可能性を示唆。これを受け、2005 年末に 水産庁が日本船の水揚げ量の調査を実施したところ、漁獲枠を超過した水揚げが明らか になった。(図4-4)

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18 図4-4 CCSBT のレポート

出典:「Report of the Thirteenth Annual Meeting of the Commission」 2006 年 10 月公表 をもとに作成

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19 ⑤ オリンピック方式 オリンピック方式とは、全体の漁業枠を決めて、漁獲量の合計が上限に達した時点で 操業を停止させるもの。漁業者は解禁と同時に一斉に漁を開始して、全体の漁獲量が漁 獲枠に達したら漁は終了となる。この制度下だと、個別の漁業者に漁獲枠が設定されて おらず、上限に達する前にライバルよりもより早くより多く獲ろうと努力するので、結 果として乱獲競争に拍車をかけているといえる。

4.2 不合理な漁業運営

⑥ 油費高騰 図4-5 を見ると、近年支出における油費の割合が上昇している。現状分析で述べた近 年減尐しつつある漁労所得と併せて考えると、油費の増加が漁業経営を圧迫しているこ とが分かる。 漁業者たちが油費高騰に悲鳴を上げた例としては、2008 年 7 月 15 日、JF(全国漁業 協同組合連合会)など 12 団体がまとまってストライキとして全国一斉休漁を実施した ものがある。燃油価格上昇の影響はどの産業にも等しくふりかかったのに、その中でこ とさらに漁業の窮状が目立ったのは、支出に占める油費の割合がもともと高いからであ る。図4-5 で 2013 年の油費が占めている割合 20%は、漁労支出項目の中で最大の割合 を占めている。

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20 図4-5 沿岸漁船漁家の油費とその漁労支出に占める割合 出典:「平成26 年度水産白書 参考図表」沿岸漁船漁家の漁業経営状況の推移 平成27 年度 5 月 22 日公表 より作成 ⑦ 未成魚の段階で魚を獲ってしまう 4.1 の①TAC 法の不備で述べたように、日本では公的機関による漁獲規制がほとんど 存在しない。サイズ規制もなくTAC 対象外の魚はもちろん TAC 対象の魚種でも全体 としての漁獲枠が決められているだけで、個人レベルにおいては漁獲量の規制がない完 全な早いもの勝ちである。この制度下では、他の漁船より資源を先に獲って漁獲の最大 化をはかるため、未成魚保護への関心が低下し、安価な未成魚段階でも乱獲してしまう。 日本と欧州のサバ漁業を比較してみる。日本のサバ資源は乱獲によって、激減している (図4-6)。漁獲規制が不十分な中で、未成魚の段階で大半が漁獲されている(図 4-7)。 運良く生き残った尐数の親が何とか資源を支えている状況である。一方、欧州のサバ資 源は、厳しい漁獲枠で管理されており、資源量が安定している。十分な親を取り残した 上で、増えた分だけ漁獲をするようになっている。欧州の漁業者は、脂ののった大型の サバを日本に売って、大きな利益を得ているのに対し、日本は高く売れる大型魚に成長 するまで待てず、0 歳魚でも見境なく獲ってしまっている。しかし結局、サバの未成魚 は日本では食用にならないので、ほとんどが養殖の餌になるか、アフリカなどに安い価

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格で輸出されており、ほとんど利益にならない。図4-9 をみると、生食用になる500 g以上の大型魚の漁獲は1割以下である。

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図4-6 日本と欧州のサバの資源量と親魚量の推移 (横軸:年次)

出典:平成19年資源評価票およびReport of the Mackerel Working Group, ICES, CM から大和総研作成

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23 図4-7 日本と欧州のサバの漁獲の年齢組成の推移

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24 図4-8 サバのサイズ別水揚げ量(価格:円/kg) 出典:漁業情報サービスセンター2 ⑧ 特定資源の限定利用による価格下落 沿岸の漁業資源利用の一般的なパターンは、経済的価値の高い資源に漁獲圧力が特に高 くなる。漁が解禁されると、特定漁場に多くの漁船が殺到し、来遊してきた魚を集中漁 獲する。これらが一気に市場に出回ることで魚価が値崩れをおこす。こうして漁業収入 が減尐し、経営が圧迫されることで再び乱獲に走ってしまうのである まとめ ここまで見てきたように、日本は漁業者間の早獲り競争を抑制するしくみがきわめて 不十分である。いったんTAC の量が決まると、漁業者は早い者勝ちで獲ろうとする。 のんびりかまえていたのでは、ライバルばかりが漁獲をあげ、自分が獲らないうちに

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25 TAC 上限に達してしまうからである。漁業者にとって、魚は現金と同じ価値をもつ。 魚が成長してより価値がでるのを待ってからとろうと思っても、他の誰かにとられてし まう。大勢の漁業者が魚を奪いあった結果、成熟前にほとんどの個体がとられてしまい、 価値が出るまで魚が残らない。値段が高い大型魚が獲りつくされ、獲れる魚の単価は下 落する。単価の減尐、油費高騰などによる収益低下を補うために、さらに多くの魚を獲 ろうとする。こうして、資源の減尐と漁獲物の小型化が同時進行しながら漁業収益は落 ちていく。個々の漁業者がみずからの短期的利益を追求した結果、漁業全体の長期的、 持続的な利益が損なわれている。このように、国の漁業管理の甘さに起因する漁業者の 不合理な経営によって、収益低下(燃油費高騰、未成魚で高く売れない時期にとってし まう、限定的な資源に漁獲が集中)→漁獲圧上昇→資源低下→収益低下・・・という乱 獲スパイラルに日本の漁業は陥っているのである。(図4-9) 図4-9 乱獲スパイラルの模式図

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5. 政策提言

この章では原因分析で挙げられた乱獲を引き起す原因を、どのようにして解決してい くかということと、今後の日本漁業のとるべき政策についてノルウェーの例を使って説 明していく。

5.1 国の漁業管理体制の甘さの改善

5.1.1.ABC を超える漁獲枠の改正

ABC は科学的に、これ以上とってしまったら乱獲であると示す指標である。そのた め、日本のTAC を ABC 以下までに下げる必要がある。実際、日本と同じく漁業大国 である国々はTAC<ABC を守って漁業をしている。国連海洋法条約の批准・発効を機 に、我が国だけでなく海外でもABC と TAC による資源管理が行われているが、ABC を超えてTAC を設定するようなことは、ノルウェー、アイスランド、アメリカなどに おいても例がない。具体例を挙げると、アメリカでは2007 年に過剰漁獲の解消や漁獲 管理制度の見直しなどを行ったマグナソン・スティーブンス漁業保存管理法において、 科学的根拠を重視した資源管理の徹底を図るため、ABC を超えて TAC を設定してなら ないと明確に規定した。下の図5-1 はアメリカの OFL、ABC および TAC である。OFL とは、過剰漁獲水準であり、資源の減尐をもたらす漁獲量のことである。

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27 図5-1 アメリカ アラスカ湾底魚の OFL、ABC および TAC 出典:農林水産業の活性化に向けて 日本のとは異なり厳重にTAC が ABC を超えないように設定されており、尚且最終漁 獲漁がABC を超えていない。日本は国際基準で資源管理が遅れをとっているので、早 急に改善されなければいけない。 しかし、1996 年に資源管理法の制定により 19 年経つが未だに TAC が ABC を下回 らないのには理由がある。実際のTAC の設定は、漁業経営の事情等を勘案しつつ水産 政策審議会(水産基本法の規定によりその権限に属させられた事項を処理するほか、農 林水産大臣又は関係各大臣の諮問に応じ、同法律の施行に関する重要事項を調査審議す る機関)の意見を聴いて設定されており、そのため、ABC を上回る状況がいまだに生じ ている。言い換えると、水産庁は資源回復よりも漁業者の経営事情を優先するスタンス にあると言える。資源の不足が深刻化する現代では、漁業者の経営事情よりも資源回復 に重きを置かなくてはいけない。

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5.1.2. TAC の対象魚種が少ない

日本で漁獲される魚は約200 種にも及ぶのに、TAC の対象に指定されているのはた ったの7 種なので、TAC 対象魚の枠を増やす必要がある。水産庁が定めている TAC 対 象となる魚種の設定基準としては、 ①漁獲量が多く、経済的価値が高い魚種 ②資源状況が極めて悪く、緊急に保存・管理を行うべき魚種 ③我が国周辺で外国漁船により漁獲が行われている魚種 とされており、これらの基準のいずれかに該当する魚種で、ABC が算定されている魚 種はTAC 対象魚種となることが可能である。現状の TAC 設定魚種に関して、水産庁 は「そもそもTAC 制度は、その実施の条件や関係漁業に与える影響等に鑑みると、す べての資源に適用できるものではない」など、設定魚種の拡大に消極的な見解を示して いる。 しかいながら、水産庁の資料「TAC 制度等の検討に係る有識者懇談会」によると、漁 獲上位30 種(ホタテガイ、オキアミ類を含む。)で海面総漁獲量の 80%強を占め、 上位20 種でも 75%を占めており、その各魚種の漁獲量の大半を3~4種類の漁業種 類で漁獲している。このため、尐なくとも上位20 種は「漁獲量が多く、経済的価値が 高い魚種」というTAC 対象魚種の基準に該当する。また、それらの大半が 3~4 種類 の漁業種類で漁獲されていることは、水産庁の指摘する「TAC 制度の実施による関係 漁業に与える影響」も限定された状態にあると言えよう。そのためTAC 対象魚種の拡 大は充分に可能と言える。

5.1.3 TAC 法の不備・漁獲量管理の甘さ

TAC の対象魚のスケトウダラとサンマ以外の残り5種も TAC 法に組み込むべきであ る。日本と比較してノルウェーは徹底した報告義務や監視がなされている。

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29 ○一次販売(販売団体を通じたオークション)の情報が漁船毎の漁獲実績として政府に 報告され、IVQの管理に利用されている ○各漁船の漁獲は洋上及び水揚げ場において検査される他、水揚げ後の流通についても 監視が及んでいる(漁獲の90%以上は輸出に向けられる) 出典:ノルウェーの漁業管理について 図5-2 ノルウェーにおける漁獲・流通の監視取締体制と漁獲物の販売フロー 出典:ノルウェーの漁業管理について しかし日本で徹底的な監視を行うとすれば莫大なコストが懸念される。なぜなら、日 本はノルウェーと比べて圧倒的に漁業者数が多いからだ。下の図5-3 を見ると日本の漁 業者数はノルウェーの約11 倍であることがわかる。

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30 図5-3 日本とノルウェーの漁業構造の比較 出典:勝川俊雄公式サイト この問題を解決するために、アメリカの例を参考にすべきだ。アメリカでは、漁業者を 団体化して、団体ごとに漁獲枠を設定することで、割当量の配分の簡潔化、モニタリン グの効率化を実現している。日本もアメリカのように漁業者を団体化することで、コス トの削減ができる。

5.2.1 油費高騰

資源の枯渇が懸念されている現代に、油費の高騰は避けては通れない道である。TAC をオリンピック方式のまま続けていたら、各々の漁業者が船を出して一斉に出して次々 に漁獲してしまう。そのため、あまり収穫がないにもかかわらず燃料費がかさんでしま う。そこで、漁船の数を減らしてできる限り尐ない数の漁船で大規模に量を行うべきで ある。 この方針はすでにノルウェーで採用されている。ノルウェーではIVQ 方式で漁がお こなわれている。IVQ とは、Individual Vessel Quota の略称であり、漁船別漁獲割当 という意味である。IVQ 方式では、一国での漁獲割当を個々の漁船へと振り分けられ る。原則漁業者によるIVQ(漁船別漁獲割当)の売買は禁止であるが、過剰な漁獲能 力を温存せず削減するために、漁船を破棄する場合に限り、複数の漁船のIVQ を一隻 に統合し、過剰な漁業者の退出を促進することができる。よって、国内の多すぎる漁船 の数は減り、漁の効率化が図られる。

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5.2.2 未成魚の段階で魚を獲ってしまう

ノルウェーではIVQ を導入することによって、漁船ごとに割り当て量が定められる ため、その値をオーバーしないように効率の良い漁業をすることになる。つまり、資源 の乱獲防止、そして十分な親の魚を残すことで漁獲増大の歯止めをし、高品質ならびに 高価格での販売が可能となる。 図5-4 6年間待ってからヨコワを獲るシミュレーション 出典:勝川俊雄公式サイト マグロの小さいころの姿をヨコワという。1歳の生まれたばかりのヨコワを漁獲せず に6 年間待ったら、ヨコワの個体数は1本いたとしたら 0.28 本となる。だが、単価は 1 ㎏あたり 5,000 円になり約 10 倍にも跳ね上がる。つまり、資源の乱獲防止、そして 漁獲増大の歯止め、高品質ならびに高価格での販売が可能となるのだ。

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5.2.3 乱獲を防ぐために

最後に、乱獲を防ぐために日本のとるべき抜本的な改革を説明する。現在の日本の漁 業はTAC の取り扱いにオリンピック方式を採用している。オリンピック方式のまま漁 を続けていれば、漁師たちは自らの取り分を多くしようとしてどんな魚であろうと競い 合って獲ってしまう。そこで、一国内のTAC を漁業者別、または漁船別に振り分けて 漁を行うIQ/ITQ 方式で取り扱うべきだ。 図5-5 主要国における漁業管理制度の 出典:日本経済調査協議会・水産業改革高木委員会

図5-4 の通り、日本を除く先進国はみな TAC の管理手法を IQ(Individual Quota)また はITQ(Individual Transferable Quota)方式にしている。

IQ 方式とは、政府によって経営体に漁獲枠(IQ)をあらかじめ配分することで、過剰 な競争を防ごうという考えである。他の漁業者に漁獲枠を奪われるおそれがないので、 漁業者は、与えられた漁獲枠の範囲で収入を増やすような操業が可能になる。IQ 方式 の場合、他の漁業者との競争がないために、オリンピック方式のように、漁期のはじめ に集中することはない。むしろ、漁獲が集中して単価が下がれば、漁獲を控えるように なるだろう。また、漁業者は漁獲能力に対する過剰な投資を控えることが出来る。漁業 者は、与えられた漁獲枠から得られる利益を増やそうとすることになる。過剰な漁獲能 力を増やすためでなく、獲れた魚の質を上げて漁獲の単価を上げるために投資をするこ とになる。例えば、馬力を上げたり、網の大規模化をする代わりに、船上冷凍設備や、

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33 魚を傷めずに水揚げをするための真空ポンプに投資が出来る。その結果、漁獲量が同じ であっても、漁業の収益は上がっていく。 また、ITQ 方式は IQ 方式の進化型である。ITQ 方式は、漁業者又は漁船ごとの割当 量に譲渡性を付与し、ある漁業者が自分に割り当てられた全量を消化する見込みがない 場合等には、割当量を他の漁業者に譲渡することができるようにしたものである。 手法 概要 オリンピック方式 漁獲可能量を個々の漁業者等に割り当て ることなく自由競争の中で漁業者の漁獲 を認め、漁獲量の合計が上限に達した時 点で操業を停止させることによって漁獲 可能量の管理を行うもの。 個別割当(IQ)方式 漁獲可能量を漁業者又は漁船ごとに割り 当て、割当量を超える漁獲を禁止するこ とによって漁獲量の管理を行うもの。 譲渡性個別割当(ITQ)方式 漁業者又は漁船ごとの割当量に譲渡性を 付与し、ある漁業者が自分に割り当てら れた割当量の全量を消化する見込みがな い場合等には、割当量を他の漁業者に譲 渡することができるようにしたもの。 出典:「平成 20 年 9 月 11 日水産庁個別割当(IQ)方式・譲渡性個別割当(ITQ)方式」より筆者まと め IQ/ITQ 方式のメリットは・・・ ① 個々の漁業者に一定の漁獲量が割り当てられるため、漁獲競争が排除され、過剰投 資が抑制される。 ② 各漁船が割り当てられた漁獲量をできる限り低コストで高い魚価が得られる時期に 計画的に使うことが可能となるなど、操業の効率性の改善が図られる。

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34 ③ 割当量が利権化し資産価値として認められることにより資金の借入れが容易になる。 ④ ITQ の場合には、割当量の全量を消化する見込みがない場合には、割当量を他の漁 業者に譲渡することにより、無駄のない資源利用が期待できるとともに、割当量の売買 等を通じて効率的な漁業者に割当量が集中し、構造転換が促進される。 の4 点である。つまり、資源の乱獲防止、そして漁獲増大の歯止め、高品質ならびに高 価格での販売、無駄な操業の削減と抑制による燃油削減や労働の減尐、コスト削減、加 えて何度も投網する過重労働からの解放という労働環境の改善につながる。計画的な生 産ができ、経営の安定化が図られる。そして、何よりも資源の回復、保護、持続的利用 を促進する。 なぜIQ/ITQ 方式を導入するのか。それは、かつて日本と同じような乱獲による資源 の縮小が問題となったノルウェーで1977 年に個別的な割当を設けることで、資源管理 に成功したからである。ノルウェーの場合、各漁船に漁船別漁獲割当(IVQ:Individual Vessel Quota)を割り当てて TAC を遵守している。ノルウェーの漁業方針を簡単に言 うと「供給量を安定させ、単価を上げる」である。ノルウェーでは年に1回漁業関係者 で集まり、漁獲規制に関してのミーティングが開かれる。参加者は、漁業関係者、科学 者、環境NGO、行政官となっている。環境 NGO と行政官は傍聴、科学者は助言をす るのみ。ここでノルウェーの漁業政策が方向づけられ、漁獲枠も決められる。 ノルウェーの場合、水産資源のほとんどをEU と共有しているので、国としての漁獲量 はEU との交渉により外交的に決まる。そこで決まった漁獲枠を国内でどう配分するか がこのミーティングの役目である。減船時に限りIVQ を同じ地域・グループ内の別の 漁船に移動させることが認められている。 下の図5-6 はノルウェーの漁業者のミーティングで決められた 2007 年のタラの TAC である。

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35 図 5-6 ノルウェーのタラの漁獲枠の国内配分 日本ではトロールや巻き網などの大型漁船が国の漁獲量の7割で、沿岸の小規模漁業者 の漁獲割合(図でいう伝統漁法)は3割である。 伝統漁法の中でも、船の規模や漁具によってさらに細かく漁獲枠が分類されている。 それらの漁獲枠の配分は、すべて漁業者の話し合いで決まり、行政官や科学者は口出し しない。行政官の役割は、ここで決まった配分を遵守するように法的な手続きを行い、 監視・取り締まりをするだけである。 漁具についても、使用するものは漁業者が提案し、それの管理効果を科学者が評価しレ ポートを作成する。そのレポートを参考にして漁業者が話し合い、規制を導入し漁業が 決まる。

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図5-7 ノルウェーの漁業生産量、生産額及び漁家の推移

図5-8 ノルウェーの漁船漁業における利益率

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37 図5-7、図 5-8 を見てみると、最も経済的に漁業が不振だった 1970 年代にくらべて 2000 年代には、生産量・生産額・利益率および魚価が上昇している。 ABC を考慮して今よりも低い TAC を設定し、それを各漁業者、または漁船に割当て れば今よりも各漁業者は利益を得られないよう思われがちだが、そのようなことはない。 個別に漁獲枠が振り分けられたあと、漁業者同士で割当量を相談して決められるように し、またオリンピック方式とは違い早い者勝ちで漁をする必要がなく、長期的に漁がで きるために魚が大きくなってから水揚げできるので効率的な漁が実現され図5-7 の通 り利益率が上昇するのだ。 また、ノルウェーはほぼ禁漁にするという政策もとった。この政策は当時漁業者たち から多くの批判が寄せられた。しかし、政府は魚が獲れない間は漁業者に補助金を与え、 漁を抑制させたり、漁業から撤退しようとする者には漁業から撤退しても生活ができる ように海底油田の会場作業員などの職に転所できるよう職業訓練させた。政府は漁業者 の社会福祉を保障しつつ禁漁を実施した。具体的には、1980年代に12億クローネ (約200億円)の補助金が導入された。今では世界的な魚の需要が高まっているので ノルウェーは補助金を受け取らずとも採算がとれている。 以上のように、長期的な漁業を続け、日本の水産業を安定的なものにしていくには、 無駄のない効率的な漁業をし、資源を守る管理をしなくてはならない。

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6. 参考文献

ISFJ 政策フォーラム 2014 同志社大学 伊多波良雄研究会 農林水産分科会発表論文 「日本の漁業問題を考える 持続可能な漁業の実現にむけて」 勝川俊雄『漁業という日本の問題』、東京都:NTT 出版株式会社 2012 年 佐野雅昭「日本人が知らない漁業の大問題」東京都:新潮社 2015 年 水産庁「平成26 年度水産白書」沿岸漁家の漁労所得推移 公表日 平成 27 年度 5 月 22 日 2015 年 10 月 28 日閲覧 農林水産省大臣官房食料安全保障課 「平成 26 年度食料自給表」2015 年 11 月 01 日閲覧 農林水産委員会調査室 橋本貴義 「我が国の水産資源管理制度の現状と課題 ~ノルウェーの制度を紹介しながら~」 八木庸夫『漁民』、東京都:北斗書房 1992 年 山下東子『魚の経済学 第2版』、東京都:日本評論社 2012 年 「平成25 年度全国資源評価会議 資料」 資源量および漁獲割合 平成 25 年 10 月 31 日 公表 http://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/kannri/bunkakai_60/pdf/8_shiryou-2-4_60kanri. pdf 2015 年 10 月 27 日 閲覧

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39 水産庁「平成18~25 年度 すけとうだら漁獲可能漁(TAC)案について」 平成18 年 2 月、平成 19 年 2 月、平成 20 年 2 月、平成 21 年 2 月、平成 22 年 2 月、平成 23 年 2 月、平成 24 年2月、平成 25 年 2 月公表 http://www.jfa.maff.go.jp/j/suisin/s_tac/kanren/ 2015 年 10 月 27 日 閲覧

「Report of the Thirteenth Annual Meeting of the Commission」

http//www.ccsbt.org/userfiles/file/docs_english/meetings/meeting_reports/ccsbt_13/repor t_of_SAG7.pdf 2006 年 10 月公表 2015 年 10 月 27 日 閲覧 「平成26 年度水産白書 参考図表」沿岸漁船漁家の漁業経営状況の推移 http://www.jfa.maff.go.jp/e/annual_report/2014/pdf/26suisan-sankou.pdf 平成27 年度 5 月 22 日公表 2015 年 10 月 27 日 閲覧 三重大学 勝川俊雄「日本の漁業管理の現状と課題」 katukawa.com/?p=660 2015 年 10 月 27 日 閲覧 水 産 庁 「 個 別 割 当 (IQ) 方 式 譲 渡 性 個 別 割 当 (ITQ) 方 式 に つ い て 」 http://www.jfa.maff.go.jp/j/suisin/s_yuusiki/pdf/siryo_12.pdf#search='IQ%E6%96%B9% E5%BC%8F%E3%81%A8%E3%81%AF' 総合研究開機構(NIRA) http://www.nira.or.jp/pdf/nogyo4.pdf 「 ノ ル ウ ェ ー の 漁 業 お よ び 資 源 管 理 に つ い て 」 http://www.jfa.maff.go.jp/j/kanri/other/pdf/2data3-1.pdf#search='%E8%B3%87%E6%BA %90%E7%AE%A1%E7%90%86+%E3%83%8E%E3%83%AB%E3%82%A6%E3%82%A7 %E3%83%BC+%E6%BC%81%E6%A5%AD'

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40 個別漁獲割当の隠された目的 http://www.anlyznews.com/2012/05/blog-post_9963.html 勝川俊介公式サイトIQ(個別割り当て)方式 http://katukawa.com/?p=352 役 立 つ デ ー タ ク リ ッ ピ ン グ 世 界 の 水 産 資 源 管 理 http://www.nissui.co.jp/academy/data/04/data_vol04.pdf#search='%E3%83%8E%E3%83 %AB%E3%82%A6%E3%82%A7%E3%83%BC+%E8%B3%87%E6%BA%90%E7%AE%A 1%E7%90%86' 日 本 の 漁 業 管 理 の 現 状 http://www.oecc.or.jp/pdf/kaiho/OECC68/68p10.pdf#search='%E6%97%A5%E6%9C%AC %E3%81%AE%E6%BC%81%E6%A5%AD%E7%AE%A1%E7%90%86%E3%81%AE%E7 %8F%BE%E7%8A%B6' TAE 制度とは-コトバンク https://kotobank.jp/word/TAE%E5%88%B6%E5%BA%A6-184310 日本漁業の驚愕的な凋落の現状(その 2) http://harumi-sushi.sakura.ne.jp/zoho_sonogo/sonogo_36.html 資 源 回 復 計 画 が 予 想 通 り 破 た ん し て 、 青 森 県 の イ カ ナ ゴ が 禁 漁 と な っ た http://katukawa.com/?p=5116

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最後に

貿易研究部に入ってから半年以上が立ち、前期での班発表・夏休み中の個人レジュメを 経て今回三田論文の執筆にとりかかったわけだが、多尐の経験を踏んでいるとはいえ30 ペ ージ以上にわたる論文の執筆は班員にとって未知の世界であったし、実際あたった資料や 論文の数は前例がないほど多く、それらを理解しまとめあげる作業は過去の論文以上のも のとなった。 一方でその編集の膨大さから班員の協力が不可欠となり研究部同期同士のつながりが深 まったのは言うまでもない。夜遅くまで執筆した人がいたり、土日にも関わらず班でメデ ィアに集まって構想を練ったりして、個人でもチームでも協力の姿勢が取れたのは来年度 以降、新しい部員が入ってきてからまた新しく研究部を作り上げるのに役立つに違いない。 そういった意味で三田論文というのは年度を締めくくるイベントとしてふさわしいもの であると考えるし、その執筆は必ず意味のあるものとなるだろう。 最後に、普段、直接指導してくれている二年生の先輩方と福田さんはもちろんのこと、 お忙しい中でも三田部会に足を運んでいただき指導してくださる諸先輩方にこの場を借り てお礼を申し上げたい。ありがとうございました。

2 班班員・執筆者紹介(50 音順)

伊藤なおみ(商1) 田中佑芽(商1) 津輕健介(経1) 橋本裕喜(政1)

図 4-4  CCSBT のレポート
図 4-6  日本と欧州のサバの資源量と親魚量の推移  (横軸:年次)
図 5-4 の通り、日本を除く先進国はみな TAC の管理手法を IQ( Individual Quota) また
図 5-7  ノルウェーの漁業生産量、生産額及び漁家の推移

参照

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