5. 政策提言
5.1 国の漁業管理体制の甘さの改善
5.2.3 乱獲を防ぐために
最後に、乱獲を防ぐために日本のとるべき抜本的な改革を説明する。現在の日本の漁 業はTACの取り扱いにオリンピック方式を採用している。オリンピック方式のまま漁 を続けていれば、漁師たちは自らの取り分を多くしようとしてどんな魚であろうと競い 合って獲ってしまう。そこで、一国内のTACを漁業者別、または漁船別に振り分けて
漁を行うIQ/ITQ方式で取り扱うべきだ。
図5-5 主要国における漁業管理制度の
出典:日本経済調査協議会・水産業改革高木委員会
図5-4の通り、日本を除く先進国はみなTACの管理手法をIQ(Individual Quota)また
はITQ(Individual Transferable Quota)方式にしている。
IQ方式とは、政府によって経営体に漁獲枠(IQ)をあらかじめ配分することで、過剰 な競争を防ごうという考えである。他の漁業者に漁獲枠を奪われるおそれがないので、
漁業者は、与えられた漁獲枠の範囲で収入を増やすような操業が可能になる。IQ方式 の場合、他の漁業者との競争がないために、オリンピック方式のように、漁期のはじめ に集中することはない。むしろ、漁獲が集中して単価が下がれば、漁獲を控えるように なるだろう。また、漁業者は漁獲能力に対する過剰な投資を控えることが出来る。漁業 者は、与えられた漁獲枠から得られる利益を増やそうとすることになる。過剰な漁獲能 力を増やすためでなく、獲れた魚の質を上げて漁獲の単価を上げるために投資をするこ とになる。例えば、馬力を上げたり、網の大規模化をする代わりに、船上冷凍設備や、
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魚を傷めずに水揚げをするための真空ポンプに投資が出来る。その結果、漁獲量が同じ であっても、漁業の収益は上がっていく。
また、ITQ方式はIQ方式の進化型である。ITQ方式は、漁業者又は漁船ごとの割当 量に譲渡性を付与し、ある漁業者が自分に割り当てられた全量を消化する見込みがない 場合等には、割当量を他の漁業者に譲渡することができるようにしたものである。
手法 概要
オリンピック方式 漁獲可能量を個々の漁業者等に割り当て ることなく自由競争の中で漁業者の漁獲 を認め、漁獲量の合計が上限に達した時 点で操業を停止させることによって漁獲 可能量の管理を行うもの。
個別割当(IQ)方式 漁獲可能量を漁業者又は漁船ごとに割り 当て、割当量を超える漁獲を禁止するこ とによって漁獲量の管理を行うもの。
譲渡性個別割当(ITQ)方式 漁業者又は漁船ごとの割当量に譲渡性を 付与し、ある漁業者が自分に割り当てら れた割当量の全量を消化する見込みがな い場合等には、割当量を他の漁業者に譲 渡することができるようにしたもの。
出典:「平成20年9月11日水産庁個別割当(IQ)方式・譲渡性個別割当(ITQ)方式」より筆者まと め
IQ/ITQ方式のメリットは・・・
① 個々の漁業者に一定の漁獲量が割り当てられるため、漁獲競争が排除され、過剰投 資が抑制される。
② 各漁船が割り当てられた漁獲量をできる限り低コストで高い魚価が得られる時期に 計画的に使うことが可能となるなど、操業の効率性の改善が図られる。
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③ 割当量が利権化し資産価値として認められることにより資金の借入れが容易になる。
④ ITQの場合には、割当量の全量を消化する見込みがない場合には、割当量を他の漁 業者に譲渡することにより、無駄のない資源利用が期待できるとともに、割当量の売買 等を通じて効率的な漁業者に割当量が集中し、構造転換が促進される。
の4点である。つまり、資源の乱獲防止、そして漁獲増大の歯止め、高品質ならびに高 価格での販売、無駄な操業の削減と抑制による燃油削減や労働の減尐、コスト削減、加 えて何度も投網する過重労働からの解放という労働環境の改善につながる。計画的な生 産ができ、経営の安定化が図られる。そして、何よりも資源の回復、保護、持続的利用 を促進する。
なぜIQ/ITQ方式を導入するのか。それは、かつて日本と同じような乱獲による資源
の縮小が問題となったノルウェーで1977年に個別的な割当を設けることで、資源管理 に成功したからである。ノルウェーの場合、各漁船に漁船別漁獲割当(IVQ:Individual
Vessel Quota)を割り当ててTACを遵守している。ノルウェーの漁業方針を簡単に言
うと「供給量を安定させ、単価を上げる」である。ノルウェーでは年に1回漁業関係者 で集まり、漁獲規制に関してのミーティングが開かれる。参加者は、漁業関係者、科学
者、環境NGO、行政官となっている。環境NGOと行政官は傍聴、科学者は助言をす
るのみ。ここでノルウェーの漁業政策が方向づけられ、漁獲枠も決められる。
ノルウェーの場合、水産資源のほとんどをEUと共有しているので、国としての漁獲量 はEUとの交渉により外交的に決まる。そこで決まった漁獲枠を国内でどう配分するか がこのミーティングの役目である。減船時に限りIVQを同じ地域・グループ内の別の 漁船に移動させることが認められている。
下の図5-6はノルウェーの漁業者のミーティングで決められた2007年のタラのTAC である。
35 図 5-6 ノルウェーのタラの漁獲枠の国内配分
日本ではトロールや巻き網などの大型漁船が国の漁獲量の7割で、沿岸の小規模漁業者 の漁獲割合(図でいう伝統漁法)は3割である。
伝統漁法の中でも、船の規模や漁具によってさらに細かく漁獲枠が分類されている。
それらの漁獲枠の配分は、すべて漁業者の話し合いで決まり、行政官や科学者は口出し しない。行政官の役割は、ここで決まった配分を遵守するように法的な手続きを行い、
監視・取り締まりをするだけである。
漁具についても、使用するものは漁業者が提案し、それの管理効果を科学者が評価しレ ポートを作成する。そのレポートを参考にして漁業者が話し合い、規制を導入し漁業が 決まる。
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図5-7 ノルウェーの漁業生産量、生産額及び漁家の推移
図5-8 ノルウェーの漁船漁業における利益率
出典:Directorate of Fisheries, Norway
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図5-7、図5-8を見てみると、最も経済的に漁業が不振だった1970年代にくらべて2000 年代には、生産量・生産額・利益率および魚価が上昇している。
ABCを考慮して今よりも低いTACを設定し、それを各漁業者、または漁船に割当て
れば今よりも各漁業者は利益を得られないよう思われがちだが、そのようなことはない。
個別に漁獲枠が振り分けられたあと、漁業者同士で割当量を相談して決められるように し、またオリンピック方式とは違い早い者勝ちで漁をする必要がなく、長期的に漁がで きるために魚が大きくなってから水揚げできるので効率的な漁が実現され図5-7の通 り利益率が上昇するのだ。
また、ノルウェーはほぼ禁漁にするという政策もとった。この政策は当時漁業者たち から多くの批判が寄せられた。しかし、政府は魚が獲れない間は漁業者に補助金を与え、
漁を抑制させたり、漁業から撤退しようとする者には漁業から撤退しても生活ができる ように海底油田の会場作業員などの職に転所できるよう職業訓練させた。政府は漁業者 の社会福祉を保障しつつ禁漁を実施した。具体的には、1980年代に12億クローネ
(約200億円)の補助金が導入された。今では世界的な魚の需要が高まっているので ノルウェーは補助金を受け取らずとも採算がとれている。
以上のように、長期的な漁業を続け、日本の水産業を安定的なものにしていくには、
無駄のない効率的な漁業をし、資源を守る管理をしなくてはならない。
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