第2章 海外投資戦略の争点
第1節 はじめに 第1章において、海外投資と経営の概念が明らかにされ、企業のグローバル 化の現状と、なぜグローバル化する必要があるのかを概観し。しかし、この理 解はマクロ的なものであり、実際にグローバル化が必要であるといえるか否か、 海外投資をする必要があるといえるか否かは、個別企業の問題である。 そこで、第2章では個別企業が海外投資を検討する場合、如何なる視点で企 業の経営環境を検討するのが適切であるのか、海外投資を決断した場合、実務 的にはどのような観点から投資戦略を検討し、海外現地法人設立の手続を進め ればよいのかについて検討する。具体的には、第一に、海外投資戦略の立案過 程に基づき、(1)企業の海外投資戦略分析、(2)経営環境評価(カントリー・リ スク分析)、(3)フィージビリティ・スタディ、(4)企業のアセスメント、(5) 戦 略目標(市場とターゲティング・ポリシー、マーケティング)を検討し、第二 に、海外投資の手続実務を検討する。 第2節 海外投資戦略の立案 2.1 企業の海外投資戦略分析 企業の海外投資戦略分析を検討するとき、どのような方法と順番でこれを 行うのが適当であるか。このことを述べるのは、海外投資を検討する場合、 当然ながらプランニングが必要であるからである。このプランニングの内容 と順番が適当でなければ、結果として得られる解答(戦略)が不適であると いうことになりかねない。そこで、企業の海外投資戦略分析を検討するには、 先人の先行研究を参考にするのが適当である。多くの企業の事例分析から適 切な戦略立案プロセスの研究がなされているからである。 この点について、シュウェンディマン(J.S.Schwendiman)は、国際コ ーポレート・プランニング・プロセスはどうあるべきかについての研究を著 している19。図2−1でシュウェンディマンの国際コーポレート・プランニ ング・プロセスを示し、どのような争点があるかを明らかにした後、個別企 業の視点から、海外投資戦略の立案過程を検討することとする。19 J.S.Schwendiman, “International Strategic Planning: Still in Its Infancy?” Worldwide P & I Planning, Sept.-Oct. 1971.
図2−1 国際コーポレート・プランニング・プロセスの理想型 A 環境アセスメント 1 国別地域別の全般的・経済的・政治的・社会的展望(問題?) 2 現在の事業分野別分析 3 技術動向と予測 4 当該企業の事業分野以外の市場分析――多角化の可能性 5 当該産業の世界的展望――コストと価格 B 企業(事業部)アセスメント 1 産業としてまた同業他社との対比における企業の強い点、弱い点の国別分析 2 経営資源――財政、人。Etc, 3 短期計画的視点からの評価 4 長期実行計画の進展 C 戦略目標の設定 1 企業アセスメントと可能な代替案の分析を通じてトップ経営陣によって設定さ れる 2 地理的戦略 3 プロダクト戦略 4 多角化戦略 5 撤退戦略 6 優先順位の設定 D 長期実行プログラムと戦術計画の策定および実施 1 上記 A、B、C 段階の結果を踏まえて 2 全社、事業部(または地域)別、国別組織のレベルで各々のより狭い拘束条件ま たは目標内で 3 国際事業ユニットによる設備投資計画、流動資産管理計画 (出所)山崎清・竹田志郎編『テキストブック国際経営(新版)』有斐閣、1982 年、143 頁。 シュウェンディマンによると、第一に企業とその産業を取り囲む環境お よび企業の強い点、弱い点を査定し、第二にその分析結果に基づいて戦略 目標を設定する。戦略目標の選択設定は、目標達成のために可能な代替案 を通じて、地理的セグメント別、プロダクト別などで行われ、その中に多 角化戦略も撤退戦略も含めて設定される。
2.2 経営環境評価(カントリー・リスク分析) リスク・マネジメントという言葉がある。このリスク・マネジメントとは 何か。この解答について、必ずしも明確な定義があるわけではない。非常に 広範な概念である。一般的には、この広範な概念であるリスク・マネジメン トの中で、何を中心的課題として捉えるかにより範囲が異なる。 国際取引に関していえば、例えば、カントリー・リスク、与信リスク、取 引形態、債権保全策、債権回収策、為替リスク、国際倒産などが挙げられる 20。 狭義のリスク・マネジメントの意義は、次の通りである。 ①将来生じるかもしれないトラブルや紛争、そしてこれによってもたらさ れる経済損失を未然に回避し、②回避できないまでもこれを軽減すること、 そして、③生じたトラブルや紛争について最も有効かつ効率的な対処をする こと、すなわち投資や債権を出きるだけ回収することにある。 この講義では、リスク・マネジメントについてより広範な概念として捉え るほうが適当であろう。すなわち、上述した概念のほかに、海外投資の販売 現地化戦略、企業内のリスク・マネジメント、異文化コミュニケーションな どをも含めたものとする。これらについては、章節を改めて叙述する。以下 では、リスク・マネジメントのうちカントリー・リスクについて取り上げる。 <カントリー・リスク> 外国企業が対中直接投資を行う際に考慮することは、カントリー・リス クということであり、それがないにこしたことはないが、そのような国は ありえない。したがって、リスクもなるべく少ないところ、原材料やエネ ルギーなどが長期かつ安定的に確保されるところ、政治、経済が安定して いるところ、企業の採算がとれるところなど、何を重視するかということ と総合評価如何によって進出の意思決定をおこなうのが一般的である。 カントリー・リスクを評価するには、各国の産業政策および外資導入政 策の動向を概観し、当該国の外資導入の現状と問題点を主として政策変更 の観点からとらえることが必要である。 カントリー・リスクを評価することは、海外投資する場合の基本的な問 題であるが、しばしばこれらの問題を十分に把握せずに投資をする企業が 見られる。図2−2(次頁)は、外資系企業における経営資源と海外投資 を行なう際の経済環境評価因子の代表的なもの(ごく一部である。)を図 示したものである。それぞれの因子が、外資系企業の経営に与える経済的 影響を再評価してみることが必要であろう。 20 例えば、富澤敏勝『国際取引とリスク・マネジメント』(悠々社、1994 年)などがある。
図2−2 経済環境評価因子 株 主 投資会社 WTO加盟発足に伴い、各国の海外投資会社の存在意義 (独資・合弁) にも変化が生じるだろう。また、投資会社を取り巻く 市 場 取締役会 経済環境評価(政治・経済・社会的因子)でもプラス・ 取締役 マイナスの動きはある。 経営目標と経営戦略 WTO発足で変わる経営環境評価ポイント 外資系企業 1.政治的因子 ①政治の安定→ 地方主義 現地法人社長 ②愛国主義 → 拝外主義 (基礎的経営資源) (経営管理) ③官僚主義 → 縦割り行政 労働者 人事労務管理 2.経済的因子 ①国際収支 → 外為決済 貨 幣 財 務 管 理 ②経済成長 → 実質的成長 市 場 マーケティング ③通貨交換性→ 資金借入れ 原 料 生 産 計 画 3.社会的因子 ①人口・失業→ 雇用不安 機 械 生 産 管 理 ②所得格差 → 地域主義 カントリー・リスクや投資事業評価リスクのチェックリストやチェック・ポイン トと呼ばれるものは各種ある。そして、このリストに基づきカントリー・リスクが採 点される。この採点方法、基準にも学者やコンサルタント・ファームにより作成され たものも各種ある。そのすべてを紹介する必要もなく、その余裕もないところ、以下 では投資環境リスクのチェックリストおよびカントリー・リスクの採点基準として米 国のビジネス・インターナショナル社が作成しているものをそれぞれ表2−1、表2 −2で紹介する21。 21 山崎清・竹田志郎編『テキストブック国際経営(新版)』有斐閣、1982 年、265、267−269 頁。
表2−1 投資環境リスクのチェックリスト 経済的要因 経済的要因経済的要因 経済的要因 GNP の規模と予想成長率 現行開発計画の有無 経済の安定度一般 輸出入に対する相対的依存度 外貨ポジンヨソ 国際収支見通し 通貨の安定性・通貨交換性 元本・利益送金規制 経済構造のバランス(工業―農業―商業) 会社製品のための市場規模,成長率 人口の規模,成長率 1 人あたり所得,成長率 所得分配 関税同盟加入の現状と見通し 政治的要因 政治的要因政治的要因 政治的要因 政府の形態と安定性 階級対立の存否 特別の政治・人権・社会問題 民間投資および外国からの投資に対する政府, 顧客および競合相手の態度 国有化の脅威の有無 国営産業の有無 国営産業に対する取扱いの優遇,中立性 小規模グループ間での力の結集 投資母国との友好条約または居住条約 政府の支出政策・計画の健全度 官庁の繁雑な事務手続きからの解放 行政手続きの公正さと実直さ 外国人に対する差別の度合い 裁判所の公正さ 明快かつ近代的な投資関係法規 会社製品が特許を受けられる可能性 価格統制の有無 100%外資に対する制限 地理的要因 地理的要因地理的要因 地理的要因 輪送効率(鉄道,水路,高速道路) 港湾施設 自由港,自由加工区,保税倉庫 輸出市場に対する用地の近接度 供給者,顧客に対する用地の近接度 原料供給地に対する近接度 現存のサポーティソグ・インダストリー 国産原材料の利用可能性 動力,水,ガスの利用可能性 諸施設の利用可能性 廃棄物処理施設 産品輸出入の容易度 工場用地入手の迅速性 適当な土地のコスト 労働上の要因 労働上の要因 労働上の要因 労働上の要因 新親会杜の属する国の言語を話す経営幹部,技 術者,事務員の利用可能性 熟練労働者の利用可能性 半熟練・未熟練労働者の利用可能性 工員の生産性水準 訓練施設 労働供給増の見通し すべてのレベルでの熟練度と訓練度 労使関係の平穏度 闘争的ないし共産主義者主導の労働組合の有無 経営に対する労働側の発言力の程度と内容 雇用・解雇の自由 強制および任意の付加給付 社会保障諸税 付加給付を含む総経費(他の工場用地と比較) 強制または慣行上の利益分配 税制上の要因 税制上の要因 税制上の要因 税制上の要因 税率のトレンド(法人・個人所得,資本,源泉徴収, 売上げ,消費,賃金,資本利得,通関,その他の間 接税および地方税) 税に対する倫理一般 税務当局の公正さと清廉さ 輸出所得と海外稼得所得に対する課税 新規事業に対する税制上の恩典 減価償却率 損金繰越しおよび繰戻し 投資母国その他との租税条約 輸入産品を輸出したときの公租公課の払戻 関税保護の利用可能性 資金上の要因 資金上の要因 資金上の要因 資金上の要因 現地資金の利用可能性 現地資金の借入コスト 通常の現地資金借入条件 現地で通貨交換性ある通貨を利用しうる可能性 近代的な銀行制度 新規事業に対する政府の信用傑与助成 輸出金融,保険の利用可能性と費用 資金源からみた借入国としての評価 事業上の要因 事業上の要因 事業上の要因 事業上の要因 投資母国政府の投資保険の利用可能性 事業倫理一般 マーケティソグ・分配システムの状態 行政手続きは簡単で効率的か? 当該企業の属する産業部門における通常の利益 マージン 当該企業の属する産業部門における競争状況, カルテル化されるか? 反トラスト法,制限的取引慣行法はどうか, それは投資母国の法律と低触するか? 派遺幹部と家族にとって快適さの享受可能性
表2−2 カントリー・リスクの採点基準 因子 因子 因子 因子 点数点数 点数点数 因子因子 因子因子 点数点数 点数点数 政治・法律・社会因子 政治・法律・社会因子政治・法律・社会因子 政治・法律・社会因子 (1)政治の安定度 a.長期安定が保障される b.強力な政権だが諸組織が脆弱 c.選挙による政権だがイデオロギー に振り回されやすい d.内部派閥抗争が活発 e.(内外からの)崩壊の可能性強し (2)国有化の可能性 a.おそれなし b.特定企業への国家の参加' c.特定企業の完全接収 d.基幹産業部門全般の国有化 e.大規模の国有化 (3)資本移動に関する制限 a.いかなる送金にも制限なし b.管理は最小限 c.資本の流出および(または)流入 に若干の制限 d.利益送金と元本償還に厳格な制限 e.いかなる送金も認めず (4)外資に対する願望 a.いかなるタイプの外資にも制限な し b.奨励措置を備えた有利な環境 c.外資選別的な投資政策 d.外資にとって気乗りのしない環境 e.外資に対して敵視的な環境 (5)外国側の所有度に対する制限 a.外資側の出資比率に上限なし b.現地側の出資を望むが要件でない c.多数ないし基幹的な産業で現地側 の過半数出資を要求 d.合弁を強く要求 e.外資はマイノリティのみ許可 (6)外資系企業の拡張に対する制限 a.拡張に政府の制限なし b.拡張に障害あり(例:反トラスト、環 境問題) c.特定の産業部門に対して制限 (7)事業に対する政府の干渉 a.フリー・エンタープライズ・シ ステム b.政府の統制は限られている (例:価格統制) c.政府の干渉は強力だが選別的 d.厳しい統制経済 (8)国内の騒擾・破壊活動の可能性 a.騒擾のおそれなし 15 10 8 5 2 15 12 9 6 3 15 12 9 6 3 10 8 6 4 2 10 8 6 4 2 8 5 3 8 6 4 2 8 b.社会不安のケースが若干あり c.破壊活動,誘拐の可能性が強い d.社会革命ないし内乱の可能性あり (9)許認可手続きの遅延 a.非能率のところなし b.ときどき遅れる c.いらいらするほど非能率 (10)文化の相互作用 a.文化とビジネスの考え方がつかみ やすい b.自信をもって親密な関係をつくる のがむずかしい c.その国の文化に同化が不可能 商業因子 商業因子 商業因子 商業因子 (1)GNP で示した現在の市場規模 a.5000 億ドル超 b.1000∼5000 億ドル c.500∼1000 億ドル d.100∼500 億ドル e.100 億ドル未満 (2)年間平均実質 GNP 成長率(最近 5 年 間) a.高成長(8%超) b.良好(5∼8%) c.普通(3∼5%) d.低い(3%未満) (3)年間平均実質 GNP 成長率(次の 5 年 間) a.高成長(8%超) b.良好(5∼8%) c.普通(3∼5%) d.低い(3%未満) (4)1 人あたり所得で示した現在の市場 密度 a.6,000 ドル超 b.4,000∼6,000 ドル c.2,000∼4,O00 ドル d.1,000∼2,000 ドル e.1,000 ドル未満 (5)貿易に対する制限 a.制限なし b.わずかな制限 c.かなりの制限 d.厳しい制限 (6)地場資本の利用可能性(次の 3 年間) a.潤沢かつ安価 b.補助金も利用可能(低コスト)だが限 定的 c.利用可能だがコスト高 d.取得困難 6 4 2 6 4 2 5 3 1 12 9 6 3 1 8 6 4 2 8 6 4 2 12 9 6 3 1 12 9 6 3 12 9 6 3
因子 因子 因子 因子 点数点数 点数点数 因子因子 因子因子 点数点数 点数点数 (7)労働力の利用可能性(次の 5 年間) a.熟練・未熟練労働力ともに豊富 b.熟練労働力が不足 c.逼迫かつコスト高 d.きわめて逼迫 (8)労働力の安定度(次の 5 年間) a.きわめて安定 b.組合は活発だが信頼できる労働者 c.労働不安が頻発 d.政治的動機に基づくストライキが 続く (9)法人税水準(次の 5 年間) a.低い(所得税 35%未満) b.普通(所得税 35∼50%) c.高い(所得税,少なくとも 50%) (10)インフラストラクチュアの質(次の 5 年間) a.良好なサービスがいつでも得られ る b.適切だが特定のものが欠けている c.不適切 通貨・ 通貨・通貨・ 通貨・金融金融金融金融因子因子因子因子 (1)年間インフレーション(最近 3 年間) a.低い(4%未満) b.普通(4∼8%) c.高い(8∼15%) d.急速(15%超) (2)年間インフレーション(次の 3 年間) a.低い(4%未満) b.普通(4∼8%) c.高い(8∼15%) d.急速(15%超) (3)切下げの回数(過去 10 年間) a.切下げなし b.切下げ 1∼2 回 c.操作が予報できるほど下向き d.切下げ 3 回 e.切下げが打ち続く (4)切下げの率(過去 10 年間) a.ゼロ b.5%まで c.5∼10% d.10∼2026 e.20%超 (5)通貨の見通し(次の 3 年間) a.終始一貫して強い通貨 b.ときどき弱くなる c.操作が予報できるほど弱い d.通貨価値の下落が打ち続くことが 予想される 12 9 6 3 12 9 6 3 8 4 2 6 4 2 8 6 4 2 16 10 5 2 5 4 3 2 1 5 4 3 2 1 16 12 8 4 (6)全体的な国際収支(次の 3 年間) a.終始黒字で強い b.1 回から 2 回の赤字が予想される c.赤字状態が打ち続く (7)対外債務状況 a.返済処理可能 b.返済に若干の困難 c.債務不履行回避のために厳しい措 置が必要 (8)外貨準備/輸入率(過去 12 ヵ月) a.きわめて良好(3 ヵ月またはそれ以 上) b.満足(2∼3 ヵ月) c.不満足(2 ヵ月未満) (9)外貨準備/輸入率(次の 12 ヵ月) a.きわめて良好(3 ヵ月またはそれ以 上) b.満足(2∼3 ヵ月) c.不満足(2 ヵ月未満) (10)外国通貨への免換性(次の 3 年間) a.交換自由 b.わずかに制限あり c.特定の送金に厳しい制限あり d.すべての送金に事前の承認 エネルギーの脆弱性 エネルギーの脆弱性 エネルギーの脆弱性 エネルギーの脆弱性 (1)エネルギーの需要からみた輸入原油 への依存度 a.自給ないし輸出余力あり b.低い(1∼25%の輸入原油依存) c.普通(26∼50%) d.高い(50%超) (2)総輸出額に占める輸入原油勘定の比 率(過去 3 年間) a.軽微(0∼5%) b.普通(6∼20%) c.大きい(21∼35%) d.35%超 (3)代替エネルギー資源の開発(最近 3 年 間) a.石油自給(代替物開発の必要なし) b.かなり進捗 c.代替エネルギー計画はほとんどな いか,まったく開発されていない (4)エネルギー消費総額のなかで代替エ ネルギーを利用する比率(次の 10 年 間) a.石油自給(代替物開発の必要なし) b.高い(エネルギー消費の 10%超) c.普通(5∼10%) d.低い(0∼5%) 12 6 2 8 5 2 6 4 2 8 5 2 16 12 8 4 14 10 6 2 12 8 4 1 6 4 1 8 6 3 1
2.3 フィージビリティ・スタディ フィージビリティ・スタディ(以下、「F/S」という。)を行う目的は、 合弁事業を実施していく上で、経済的、財務的、技術的に可能かどうか、 また、投資環境およびその周辺の経営に関する環境がどうであるかを判断 し、合弁契約書を始めとする関連契約に記載するべき事項を明確にするこ とにある。このF/Sは、企業の設立申請時に企業設立認可機関に提出し なければならない書類の一つでもある。国連工業開発機構(UNIDO) は、「工業F/Sマニュアル」22を参考に F/S を作成することを推奨して いる。この F/S の主な項目は、以下の通りである。 F/S報告書 第1章 総説明 第6章 プロジェクトの設計 1.可能性研究チーム(または調査委託先) 1.技術計画 2.プロジェクトの背景および関係資料 2.設備計画 3.可能性研究の概説、結論(または建議) 3.環境汚染の対策案 第2章 合弁各当事者の現状 4.土木建設施工案 1.日本側合弁当事者 第7章 管理機構および従業員 2.外国側合弁当事者 1.管理機構 3.日外合弁当事者の合弁の目標 2.従業員および養成 第3章 市場予測および生産計画 3.管理費用見積 1.市場予測 第8章 プロジェクトの実施計画 2.販売計画 1.プロジェクトの実施進度予測 3.生産計画 2.プロジェクトの実施措置 第4章 物資供給計画 3.プロジェクトの実施費用見積 1.物資明細表および特徴 第9章 投資総額および資本の調達 2.物資供給計画 1.総投資費用の見積 3.物資供給費用 2.資本の調達 第5章 工場地の選択 第 10 章 財務分析及 1.工場地の選択の条件 1.財務予測 2.工場地の平面図 2.財務分析 3.工場費用見積 3.国民経済分析ほか
22 W.Behrens, P.M.Hawranek Manual for the Preparation of Industrial Feasibility Studies UNIDO, 1991。こ のマニュアルに基づき、F/S 報告書を作成し、財務分析を行うことが求められる。財務分析を行うソフトを UNIDO は開発している。
2.4 企業のアセスメント 企業のアセスメントとは、シュウェンディマンの国際コーポレート・プラ ンニング・プロセスによれば、(1)産業としてまた同業他社との対比におけ る企業の強い点、弱い点の国別分析、(2)経営資源――財政、人。Etc,、(3)短 期計画的視点からの評価、(4)長期実行計画の進展である。 このうち、ここでは(1)産業としてまた同業他社との対比における企業の 強い点、弱い点の国別分析という視点から企業戦略のあり方、位置づけを検 討する。(2)経営資源――財政、人。Etc,、(3)短期計画的視点からの評価、(4) 長期実行計画の進展については、あまりに個別企業の課題といえるので、 個々では叙述しない。 産業としてまた同業他社との対比における企業の強い点、弱い点の国別分 析とは何か。企業が当該国(本国および外国・地域)においてどのように位 置づけられるかということである。この場合も各国(日本)の産業構造や企 業の技術力により、大きく異なり一般的な判断はしえない。しかし、個別企 業がこれを自ら判断しようとする場合の判断基準はある程度示すことがで きる。 これには、ハーバード大学のレイモンド・バーノン(R.Vernon)のプロ ダクトサイクル論23を適用するのが分かりやすいと考える。そして、さらに 企業の海外拠点で企業利益を如何に獲得するかを考える上で不可欠である ところ、海外投資先として中国が有望視されていることは前述した。そこで、 ここでは中国への投資という視点から、企業の戦略のあり方を分析する。企 業戦略の検討は、国別に異なるが、多くの企業から注目されている中国であ り、この中国市場をめぐって外国企業間の市場占有競争も激しい。とりわけ 中国は外資導入で発展してきた。そこで、ここでは中国を対象として企業戦 略のあり方を検討する意味があると考える。 中国は、1978 年以降外資導入をもって経済のけん引役としている。横田 は、次のように述べる。 「中国においても 1978 年末に経済改革・対外開放政策を採用してから、そ の初期段階では労働集約的産業である紡織産業が比較優位にあり、外国・地 域からの直接投資を中心に大きな発展をみた。中国の工業化は日本の場合と 異なって外資主導型の発展パターンであり、それは外資系企業を中心に工場 を沿海地域に立地し、原材料も持ち込んで現地の安い労働力を利用して加工 し、製品は輸出するというものであった。また産業転換も日本のような技術 や資本の高度化にともなって変化していくという段階を経ずに、ある時点か らは同時進行の「圧縮された工業化」という形態をとっている。つまり、外
23 R.Vernon, “International Investment and International Trade”, Quarterly Journal of Economics, May 1996.
資系企業が様々な業種に万遍なく参入している様子をみることができる。」24 ここで「圧縮された工業化」とは、どのような状態をいうのか。バーノン のプロダクト・サイクル論25の適用を考えてみると理解しやすいだろう。バ ーノンのプロダクト・サイクル論とは、製品の市場における発展、衰退過程 を述べたものであり、次の通りに説示される。先進国のプロダクト・ライフ・ サイクルは、新製品→成熟製品→標準化製品という3つの段階を経過する26。 これを国際経済の側面から見れば、新製品開発→内需向け生産→輸出成長→ 成熟(対外直接投資)→逆輸入という推移が観察されるというものである。 この理論の適用を日本企業の行動を定式化する枠組みとして主張されたも のが雁行形態論(追いつき型プロダクト・サイクル論)である。雁行形態論 によると、遅れて工業化に乗り出した国が外国で開発された新製品を導入し、 徐々に輸入代替を進めて、海外輸出の道をたどることになる。国際経済の側 面からはこの過程は、輸入→輸入代替→輸出成長→成熟(対外直接投資)→ 逆輸入という形で示される(巻末図2−3「国際化の進展過程」参照。この 図は、筆者がバーノンのプロダクト・サイクル論に基づき、他の国際化にか かわる要素を加筆し、作成したものである。)。 日本企業は当初、日米企業間の技術格差を反映して、「低品質・低価格」 製品をもって米国市場に参入したため、寡占体制下にある米国企業の「高品 質・高価格」製品と直接競合することはなかった。しかし、日本企業が米国 企業との技術格差を解消・逆転し、かつ、日本生産立地を最大限に活用した 上で低価格を実現することによって「高品質・低価格」製品を引き出し、こ の製品をもって米国市場に参入した段階で米国企業、ひいては、それを一部 として含む寡占産業と真正面から競合し、これを一気に圧迫することになっ た。 以上のように説明されるプロダクト・サイクル論の中国における適用はど うか。プロダクト・サイクルの全過程が同時進行で発現しているといえる。 先進諸国から技術導入の段階になる製品もあれば、成熟した製品となり、海 外に市場を求めはじめている製品、更には自主開発レベルに達している製品 もある。中国の外資導入がこのようなプロダクト・サイクル的発展を可能に している。 24 横田高明「中国繊維産業の発展と日本企業の対応」『経済学論纂(中央大学)』第 41 巻第 6 号(2001 年 3 月) 57 頁。
25 R.Vernon, International Investment and International Trade in the Product Cycle, Quattery Journal of
Economics, 1966,May. 門田安弘「生産戦略の国際化」柴川林也、高柳暁編著『企業経営の国際化戦略』(同文舘 出版、1987 年)137−156 頁。
2.5 戦略目標(市場とターゲティング・ポリシー、マーケティング) (1) はじめに この戦略目標で意識される内容は、市場の確保または市場の創造というこ とであり、このためのマーケティングとターゲティング・ポリシーである。 シュウェンディマンの国際コーポレート・プランニング・プロセスとは異な る争点を取り上げる。 このことを叙述するのは、海外戦略上最も重要であるのが、如何に市場を 確保し、または創造するかであり、このためのマーケティングとターゲティ ング・ポリシーは如何になされるべきであるかということである方である。 海外投資に成功した企業は、いずれも市場の確保が有効になされている。一 方、失敗した企業は、しばしば相手国にだまされたであるとか、パートナー 企業にだまされたとか、労働者が勤勉に働かないとか発言し、自己の責任に 帰さないようなことをいう。しかし、実際上は当該企業のフィージビリテ ィ・スタディが極めて不十分であり、とりわけこの中で市場確保・創造努力 がなされておらず、当然ながらマーケティングとターゲティング・ポリシー もないことに失敗の最大の原因がある。 そこで、ここでは、第一に、(1)マーケティングとは何か、第二に、(2) タ ーゲティング・ポリシーの考え方、第三に、(3)マーケティングとターゲテ ィング・ポリシーによって市場はどのように確保・創造されるかについて検 討する。以下では、この争点を明らかにするため、実際の企業のマーケティ ングを見ながら検討する。 (2) マーケティングとは何か アメリカ・マーケティング協会(AMA)によると、「マーケティングとは、 個人または組織の目標を達成する取引を実現するためにアイデア、商品、サ ービスなどのコンセプト、価格、プロモーション、流通などを計画、実行す るプロセス」であるという。 田村正紀は、「マーケティングは、企業の製品の市場創造を担当する活動 である。その内容は、製品開発、販路選択、価格設定、公告・販売促進、営 業、物流、顧客サービス、市場調査などを含んでいる。」という27。 International Marketing を行う場合、何が明らかにならなければならな いか28。マーケティングは、中国語では「市場調査」という概念になる。す なわち、企業が開発した製品を販売していく市場領域を決め、販売の標的を 決めるための市場動向、消費者行動を分析していくことを中国語で「市場調 査」といい、いわゆるマーケティングの意として扱われている。 27 田村正紀『マーケティング論』放送大学教育振興会、1999 年、9 頁。
マーケティングを行なう場合、企業(業種)およびその製品(生産財か消 費財かなど)により各々手法も異なる。ごく一般的なマーケティング・プロ グラムを示すと以下の図2−4のようになる。ここで留意されるのは、マー ケティングの中でも、販売ルートの確立や販売進策をどのように決定してい くかということである。 図2−4 マーケティング・プログラムの概要 マーケティング・プログラム マーケティングの目標 1.製品開発・計画 ―製品の特性などの決定と認識 2.価格戦略 消費者行動と市場環境 3.流通戦略 ―流通チャネル、販売タイプ、物的流通 4.プロモーション戦略 ―人的販売、広告、販売促進 マーケッティング戦略の形成 (3) 事例研究:マーケティングと販売の現地化戦略 マーケティングを行ない、販売戦略を確立していく中で、販売手段をどう するかも非常に重要な問題となる。ここで販売手段とは、販売体制ないしは 販売業務管理、営業員の養成・管理のことをいう。 以下、中国市場で成功を収めた①サントリーの「卸フランチャイズ制」、 ②コカ・コーラの試験販売システム、③コダックの融資・独立支援制度によ る販売手段確立手法、および④コーセーのマーケティング手法とこの結果の 適用事例について見てみたい。 ここで中国をケースとして取り上げるのは、以下の理由による。中国は、 社会主義計画経済から社会主義市場経済へ、中低所得国かた高所得国へ、資 本市場法典の未整備から整備へというよにイノベーション創出のメカニズ ムの発展過程にあると考えられるところ、この中でとりわけ資本主義市場法 典が整備された日本企業をはじめ先進資本主義国企業においては発想し得 ない事業展開方法、企業戦略のアイデアが出てきている。日本企業にとって は、発想の転換を図る上で参考になると考えるからである。
① サントリーの独自の「卸フランチャイズ(FC)制」 「卸フランチャイズ(FC)制」とは何かを紹介する前に、販売業務管 理とは、何かについて紹介しておく。この管理概念が、「卸フランチャイ ズ(FC)制」の基礎になっているからである。販売業務管理とは、何か。 すなわち販売店や営業員の管理のことであり、販売店や営業員をいかに管 理すればよいかということである。この管理手法について、簡単に図示(図 2−5)する。 図2−5 販売管理図 ①計画の策定 販売計画 ②販売予算編成 ③販売予測策定 ④実施計画の策定 ここで最も重要なのは、 ①販売費用管理 営業員の管理である。職 ②ユーザー管理 掌を明確化し、年俸制の 販売管理 販売活動管理 ③販売分析 導入、評価制度、奨金制 ④営業員の行動管理 度などを採用。 ⑤販売促進管理 ⑥販売店のクレーム処理 ①目標実績の評価分析 ここで管理するのは、販 販売実績管理 売額だけでなく、客数、 ②販売情報の収集・管理 購入単価、個人のイメー ジなども含む。 サントリーは、中国において大衆価格帯に参入して成功している。しかし、 真の強みは、既存の中国の流通機構に挑戦したことであろう。小規模販売と 直接取引し、現在 110 社をサントリー系として組織化したことである。卸問 屋の従業員採用ではサントリーが人選し、卸が雇用し、給与は卸が支給する が、業績に連動したインセンティブを与えるボーナスはサントリーが支払う という独自の「卸フランチャイズ(FC)制」を採用。このアイデアの結果、 サントリーの製品は上海市内に約 3 万店ある雑貨店のほぼ 100%を網羅して いる。 海外投資する対象国・地域であって中国や東南アジアのような発展途上 国・地域の場合、各種法制が不備であるといえる。この場合、法律の規定が ないということがある。このとき、外資を積極的に導入し、自国・地域の経 済発展に資したい側としては、外資の各種アイデアを積極的に採用しようと
することがある。このアイデアは、日本や外国企業からよりも当該国・地域 の従業員から生まれることも多い。従業員を如何に活かすかも企業の経営戦 略にかかわる問題である。 従来の卸売業や小売業の利用だけでなく、自社の販売ルートを確立するこ と、すなわち、直販店や営業員29を確保することは、商品価格の管理や直接 の消費者およびこの消費者のニーズを知る上で重要なことである30。 ② コカ・コーラの試験販売システム、 サントリーと同様の戦略が、コカ・コーラ社にも見られる。それは、試験 販売システムの構築である。次のような方法を、試験販売システムという。 例えば北京の場合、エージェントが北京の約 1500 の商店を毎週訪問し、翌 週の注文を受ける。コカ・コーラの社員が商店の冷蔵庫を開け、広告・商品 29 営業員の管理に関しては、営業管理者が営業員に対して、行動指示を与えることが必要である。この行動指示 の内容には、(1)顧客欲求、目的についての情報収集、(2)顧客との個人的友好関係の育成、(3)好ましい印象の創造、 (4)購買決定のキーパーソンの確認、(5)潜在売上高の評価、(6)自社についての顧客の態度の評価、(7)継続訪問の 素地をつくる、(8)次回訪問の約束を取り付けることなどある(田村正紀『マーケティング論』放送大学教育振興 会、1999 年、97 頁)。 30 営業員管理においては、営業員にいかなる営業活動の準備をさせるべきかの検討が必要となる(田村正紀『マ ーケティング論』放送大学教育振興会、1999 年、96 頁)。 (1)営業活動の準備 携帯する営業商品の選択、営業用資料の準備、顧客の事前調査、営業活動の計画、 事前営業研修など ↓ ↓↓↓ (2)見込み顧客の選別と アプローチ 潜在顧客への訪問、顧客の現場情報の収集、面識を得るための接待、キーパーソン (購買決定者)の識別 ↓↓↓ ↓ (3)商談 製品プレゼンテーション、取引条件(価格、取引ロット、納品の時期と頻度、手形 サイトなど)の提案 ↓↓↓↓ (4)クロージング 取引条件の交渉と譲歩、顧客信頼の創造、取引契約の締結 ↓↓↓↓ (5)アフターフォロー 注文のチェック、発送・発注書の作成、出荷問題の処理、納品作業、製品設置の監 督・製品保守作業、製品テスト、陳列準備と製品配置、顧客苦情処理、売掛金回収、 顧客への定期訪問、関係強化のための接待、顧客信頼の維持・強化 営業員に評価指標を課すことも必要である(田村、104 頁)。例えば、次のとおりの指標が考えられる。 評価指標 定義 訪問活動と生産性 日当たり訪問件数 顧客あたり訪問件数 新規訪問率 ヒット率 顧客開発率 目標売上達成率 昨対比売上高 顧客浸透率 新規開拓率 経費比率 売上経費率 訪問あたり経費率 顧客訪問件数/勤務日数 訪問件数/顧客数 潜在顧客訪問件数/訪問数 注文数/訪問件数 実現売上高/目標売上高 実現売上高/昨年度売上高実績 販売顧客数/顧客総数 新規顧客売上高/総売上高 当該営業マン経費/売上高 当該営業マン経費/訪問数
のディスプレイをチェックし、自社および他社商品の売れ行きをチェックし ている。また、店頭でコップ販売用の小樽セットを商店に販売する許可を取 得している。 ③ コダックの融資・独立支援制度 コダックは、1994 年に北京、上海、広州などの主要都市を核として、周 辺地区に放射線状に販売拠点を拡大する方針をたて、6年間で全国 500 都 市に 5000 余の「特急カラープリント店」を設立した。この戦略において特 筆されるのが、2000 年 5 月にコダックが中国工商銀行上海銀行と締結した 融資支援契約である。この契約は、工商銀工はコダックが推薦するカラープ リント店主にプリント設備の購入資金を融資するというものである。融資金 額は最高で設備価格の 90%までとし、最長 3 年間の返済期限を認める。一 般労働者の独立、「起業夢」を助けるものである。コダックにしてみれば「借 鶏生卵」ようなもので、この戦略により、市場の占有率は 1993 年の 26%か ら 2000 年には 53%にのぼった。 如何に有効な販売ルートと販売促進の現地化戦略が構築できるか。 コダックは、アジア地区の総本部を香港から上海に移し、中国全国に 18 の事務所を設立した。販売ルートの現地化とこの管理も現地化する。さらに この事務所に地域ごとに販売決定権を付与している。各地の事務所に製品ご とに市場部を設置し、この市場部が、関係業務に責任を負う。各地の変化す る市場動向に対して、柔軟な対応を可能にしている。富士フィルムが、香港 の富士撮影器材有限会社を総代理店として、対中販売を管理し、中国国内の 代理店に販売決定権を付与していないのとは対照的である。 販売戦略を構築する場合、仕入から販売までの商取引慣行を把握するとい うことも重要である。 ③ コーセーのマーケティングとターゲティング・ポリシー コーセー(中国語で「高絲」という。)は、中国の国有企業である孔鳳春 化化粧品廠と 1988 年に折半出資の合弁会社「春絲麗有限会社」を設立した。 現在、増資により日中の出資比率は、日本側 90%に対し中国側 10%になっ ている。 コーセーは、次のようなモニター調査を行った。開発した製品の販売ター ゲットは、どの層か。自社のプログラムに狂いはないか。このようなことを 確認し、ターゲットに適した広告など販売プロモーション・プランを策定す る際に行なわれるのがモニター調査である。北京(当代商城、パークソン、 双安商城、西単)、上海(伊勢丹1号店、伊勢丹2号店、新世界百貨、華聯 百貨)、成都(太平洋、パークソン、人民商場)の3都市の百貨店来店者に 対して実施された。
① ① ① ① 顧客年齢顧客年齢顧客年齢 顧客年齢 フリー客 年 齢 北京 上海 成都 小計 BA に 薦められて 合 計 人 数 構成比 (%) 20 歳以下 10 17 10 37 37 74 12.7 21∼25 62 48 52 162 138 300 51.5 26∼30 20 35 21 76 50 126 21.6 31∼35 4 18 3 25 13 38 6.5 36∼40 2 7 1 10 6 16 2.7 41 歳以上 1 5 13 19 9 28 4.8 無回答 0 0 0 0 1 1 0.2 合 計 99 130 100 329 254 583 100.0 ② ② ② ② 職業職業職業 職業 職業分類 フリー客 構成% BA 構成% 小計 構成% 国有企業/国家機関 96 29.09 45 17.79 141 24.19 外資系企業 117 35.45 137 54.15 254 43.57 私営企業 57 17.27 35 13.83 92 15.78 その他 52 15.76 32 12.65 87 14.92 無回答 8 2.42 4 1.58 9 1.54 合 計 330 100.0 253 100.0 583 100.0 ③ ③ ③ ③ 顧客月収顧客月収顧客月収 顧客月収 フリー客 個人月収 北京 上海 成都 小計 BA に 薦められて 合 計 人 数 構成比 (%) 500 元以下 3 15 3 21 13 34 5.8 500∼1000 25 5 32 112 106 218 37.4 1001∼1500 36 25 57 118 96 214 36.7 1501∼2000 21 2 19 42 23 65 11.2 2001∼2500 8 2 8 18 7 25 4.3 2500 元以上 4 1 10 15 8 23 4.0 無回答 2 1 0 3 1 4 0.7 合 計 99 101 129 329 254 583 100.0 ④ ④ ④ ④ 世帯月収世帯月収世帯月収 世帯月収 家族全体の月収 フリー客 構成% BA 構成% 小計 構成% 1500 元以下 76 23.10 70 27.56 146 25.0 1500∼ 3500 144 43.77 120 47.24 264 45.3 3501∼ 5000 61 18.54 38 14.96 99 17.0 5001∼ 7000 19 5.78 14 5.51 33 5.7 7001∼10000 14 4.26 3 1.18 17 2.9 1 万元以上 10 3.04 4 1.57 14 2.4 無回答 5 1.52 5 1.97 10 1.7 合 計 329 100.0 254 100.0 583 100.0
「春絲麗有限会社」のターゲットは、以下の図2−6に示す通りである。 図2−6 「春絲麗有限会社」のターゲット 競争相手:資生堂、ウェラ 5∼10%:輸入品の購入層 キスミー、ナリス、 60%:100∼150 元の合弁企業製品 中国国産ブランド P&G 工員:問屋ルートの 50 元 以下の商品 1920 年代、GM の子会社社長をしていたアルフレッド・スローンは、当時、経営危 機に陥っていた GM 再建を託され「組織研究」を通じて統一された組織の重要性を述 べ、企業体の編成を実現するという革新をした。スローンのもう一つの革新は、組織 と需要予測、生産、マーケティングを合致させたことである。自動車の需要には「需 要のピラミッド」が存在し、それぞれの生産とマーケティングに対する計画的戦略が 必要だということを明らかにした。この需要ピラミッドとは、以下の図2―7とおり のものである31。 図2−7 需要ピラミッドと価格帯(1924 年頃) 高級車 キャデ ラック ($2,985) ビュイック ($965 or 1,295) オークランド 中級車種 ($945) オールズモービル ($750) シボレー ($510) 大衆車 最高級車キャデラックが最も高価格・少量生産であり、T 型フォードに対抗するシボレーが 低価格で大量生産された(米倉・168 頁)。 31 米倉誠一郎『経営革命の構造』岩波書店、1999 年、165-168 頁。
(4) 市場確保・市場創造力 日本企業にとって海外投資時の市場は、日本国内と海外市場の2つがある ことになる。このとき、日本企業に指摘されるのは、市場確保力に欠けてい るということである。製品開発能力、技術開発能力そのもので外国企業との 差がついているとは思いにくい32ところ、なぜ日本企業は上記のような評価 をされるのか。このことから想起されるのは、日本企業の市場創造力・支配 力の弱さである。 フィンランドの小さな会社にすぎなかったノキアがわずか 10 年で世界シ ェア 30%を超えるまでに至った背景には、足りない技術や部品、生産設備、 生産技術を他社から調達したことが大きいといえる33。 マーケティングやターゲティング・ポリシーの脆弱さや製品開発能力、技 術開発能力そのもので外国企業との差がつきはじめているのではないかと いうことが想定される。 <アジア価格の襲来と「日本的高価格」の敗北> 中国製住まい・身の回り品がなぜ日本市場に参入できるようになったのか。 この点を考えるには、当該分野の特徴を明らかにすることがはじめに必要で ある。 住まい・身の回り品には、どのような特徴があるか。 一般に特徴といったとき、製品の生産から消費までを考えると、①製品の 固有の特徴、②メーカーの特徴、③流通の特徴がある。家具など日本の伝統 産業品について検討するには、この3つの特徴を把握しなければならない。 以下、①、②、③について述べる。全品目について叙述する紙幅がないので、 家具を例にとって検討する。 ①製品の特徴に関しては、住まいという生活様式や身に付けたりするもの であるから、日本人特有の「感性」が重要視されると考えられていた。この ため、外国製品が日本市場に参入するのは難しいから、安泰と考えていた。 ②メーカーの特徴に関しては、地場の中小企業が多い。地場産業は、必ずし も全国展開していないという事情がある。当該分野は、海外事業展開とも無 縁と考えていた。③流通の特徴に関しては、卸売業が大きなウェイトを占め ていた。 ここで、生産立地転換のサイクル・モデルの適用という視点から若干の指 摘をする。日本企業は、一般的にどのような生産立地転換をしてきたであろ うか。日本企業は当初、日米企業間の技術格差を反映して、「低品質・低価 格」製品をもって米国市場に参入したため、寡占体制下にある米国企業の「高 品質・高価格」製品と直接競合することはなかった。しかし、日本企業が米 32 伊丹敬之+一橋 MBA 戦略ワークショップ『企業戦略白書Ⅰ』東洋経済新報社、2002 年、235 頁。 33 伊丹敬之+一橋 MBA 戦略ワークショップ『企業戦略白書Ⅰ』東洋経済新報社、2002 年、236 頁。
国企業との技術格差を解消・逆転し、かつ、日本生産立地を最大限に活用し た上で低価格を実現することによって「高品質・低価格」製品を引き出し、 この製品をもって米国市場に参入した段階で米国企業、ひいては、それを一 部として含む寡占産業と真正面から競合し、これを一気に圧迫することにな った。 以上のように説明されるプロダクト・サイクル論の当該分野における適用 はどうか。上記①から③の特徴がある故に、当該分野では、やはり無縁と考 えられていたのではないか。ところが、当該分野でもチャイナ・ショックが 起こった。 チャイナ・ショックとは何か。如何なる現象をいうのか。 中国製品は、まず品質がよくない、家具など日本人固有の感性が重要視さ れるものは、中国など外国で作られたものでは受入れられないという意識が あるところ、これが崩壊したということである。 「品質が違うから価格差は当然」は通用しない。中国企業は日本企業など 西側諸国企業のOEMで成長した。例えば、多くの台湾企業は繊維やスポー ツシューズ、電機などの分野において、米メーカー向けに相手先ブランドで 生産するOEMビジネスで成長してきた。 愛媛県今治市は国内タオルの約6割を生産する日本一のタオル産地だ。と ことが、大手タオル製造業の旭染織(東予市)が 2000 年末に生産拠点をす べて大連市に移した。今までは今治へのこだわりもあって生産の移管は部分 的にとどめていたが、コストが安いことと労働力の確保といった理由から、 全面的な中国への生産拠点の移管となった34。 日本人の感性についても、日本企業が進出し、日本人が設計から指導した ものであれば、日本人の感性のものが生産されるのも当然であろう。中国人 技術者、労働者が、日本人技術者の指導を真剣に学び、適応、受入れるよう になったことも大きい。 前述の通り、当該分野の中国製品が、日本市場に参入できるようになった のは、当該分野で中国に事業展開してきた企業があるからである。これら企 業は、どのような戦略を持って中国に進出し、事業展開を行ってきたのかを 明らかにする。つぎに、これから中国事業展開を考える企業は、どのような 戦略を持って望めばよいかについての視点を提示する。 ① パートナーは中国 当該分野の海外事業展開は、どうか。今後、海外事業展開を計画する企業 にとっても、パートナー(合弁企業のパートナーという意味ではなく、より 広義のパートナー)はやはり中国であろう。 大塚家具の 2000 年 12 月期の売上高は 659 億円である。このうちアジア 34 『日本経済新聞』2001 年 3 月 24 日。
製家具の輸入額は 60 億円だが、5 年間に 200 億円、全体の 20%にまで拡大 する計画だという35。大塚家具のように地場産業として活動している家具産 業も海外進出し、生産立地の世界的配置の再構築を図るべきである。 ② 市場をリードする 上記の通り、パートナーが中国である場合、どのような戦略で市場を開 拓し、リードして行けばよいのだろうか。このことを検討せずして、対中 事業展開はできない。 a)クリエティブな企業 例えば、SP 商品について考えてみたい。SP 商品の企画は、変化に富ん でいる。同じようなものを大量につくるのではなく、顧客の要望や予算に 応じて、ティッシュケースからポーチ、財布、ぬいぐるみ、文房具、ライ ター、タオルなどを幅広く手がけなければならない。企画を練り、アイデ アを提案するクリエティブな感覚が必要だ。ノイエ(本社、東京都)の生 き残り策は、デザインなどに関して日本では技術的に対応できないような オリジナルの企画をし、これを中国のグレードの高いで生産することであ る。海外生産している雑貨品に、携帯ストラップ(3000 本)、米国レクサ スの取扱説明手帳(10 万個)、ランドリーバッグ、T シャツ(1 万枚)な どがある。工程分析し、採算ベースに合うものであることが必要であるが、 今や技術レベルは、中国のほうが上のものも多いという36。 SP 商品の企画は、変化に富んでいる。同じようなものを大量につくる のではなく、顧客の要望や予算に応じて、ティッシュケースからポーチ、 財布、ぬいぐるみ、文房具、ライター、タオルなどを幅広く手がけなけれ ばならない。企画を練り、アイデアを提案するクリエティブな感覚が必要 だ。今までは、価格勝ち組が市場を主導してきた。スーツ、外食産業など、 低価格は大量仕入れ、大量生産によって導き出されるだけに、勝ち組が流 行を作り、事実上の市場価格を決める。この傾向は、まだ続くだろう。し かし、中長期的には、クリエティブな企業が市場をリードする。 35 『日本経済新聞』2001 年 4 月 11 日。 36 タオル業界は中国からの輸入品の急増に歯止めをかけるために、緊急輸入制限措置(セーフガード)の発動を 国に要請した。しかし、保護主義的な手法では問題は解決しない。中国に工場進出している愛媛県の企業で作る 中国進出タオル企業連絡協議会は、セーフガードに反対する文書を経済産業相に提出した。同協議会は、「海外進 出した企業が損害を受け、対応が遅れ競争力が低下している企業が保護される」と反発する(『日本経済新聞』2001 年4月 15 日)。
図2−8 ノイエの経営戦略 中国 日本 海外市場 加工 新製品開発・企画・デザイン 販路拡大 新素材発掘 新素材による新製品開発 セールス・プロモーション 販路拡大 2.6 事業の再構築:再考 上述の状況を理解した上で、どのような意識をもって、どのような事業展 開を構築することが可能であろうか。以下、この点を考えてみたい。 (1) 起業家精神 P・ドラッガーは、『経済人の終焉』で、「企業規模が大きくなると、企業 を動かすエンジンである“個人の創意”が働かなくなる」ということを述べ ている。企業体質の変革を迫られる中、「起業家精神」を発揮し、新製品開 発、新販路の開拓などを行うような海外事業展開戦略が求められる。 イノベーションという概念の重要性を説いたヨゼフ・シュムペーターによ ると、イノベーションには、(1)新しい製品導入、(2)新しい生産手段の導入、 (3)新しいマーケットの発見、(4)新しい原料や半製品の導入、(5)新しい組織 の導入という 5 つの指標があり、この5つの組み合わせもイノベーションで あるという37。このイノベーションを駆使して、価値創造・知識創造をする 人が起業家である38。 技術・資本集約型の中小企業においては、今日の苦境から脱出する手立て がある程度見られるような気がする。しかし、労働集約型の企業はどうであ ろうか。多くの中小企業研究においても、技術集約型ないし固有技術をもつ 中小企業は、その基盤技術を活用して、新製品開発で磨きをかけている企業 が紹介されている。ところが、内需型の労働集約型地場産業である中小企業 となると、その起業家ぶりが紹介されたり、再活性化の提言がなされている ようには見えない。外国企業とのコスト競争に負け、空洞化するしかないの であろうか。内需型の地場産業であっても国際経営を展開することは可能で あろうし、その中で新たなマーケティングができ新事業の構築もできるので はないかと考える。 37 米倉誠一郎『経営革命の構造』岩波書店、1999 年、7頁。 38 米倉誠一郎『経営革命の構造』岩波書店、1999 年、7-8 頁。
経営者とくに過去に成功体験をもつ経営者は、自分自身が新しい変革を阻 害する要因となることを常に自覚しなければならない39。 (2) 中国、アジア太平洋地域への進出 今や中国や東アジア地域が、日本の中小企業にとって大きなライバルにな っている。 日本の中小企業、特に労働集約型の中小企業が明確な経営戦略を持ち、国 内の担う部門と海外事業を考えていかなければ、日本の中小企業が単に空洞 化するだけという事態になりはしないだろうか。 日本を含めてアジア各国の経営者に「アジア的価値」は何かと問えば、強 い政府や民主など政治的側面よりは、勤勉な(時には過剰な)労働や家族の 絆といった社会的側面が答えとなって返ってくる。要するに勤勉な低賃金労 働者を雇用し、製品コストを下げようということなのである。 企業の経営課題を克服するのも結局は、このようなアジア的価値観に頼ら ざるをえないのだろうか。必ずしもそうとは思われない。対中ビジネスを例 にとっても、中国を製品の輸出先とする視点や、製品のコスト削減のための 委託加工先、あるいは合弁企業を設立して安い製品を買取ったり、中国国内 市場に販売していく出先機関とするなどいろいろな視点がある。 従来の内需型の企業であっても、最近はローコスト経営を念頭にファブレ ス企業(日本国内に工場を持たず、工場は外国に置く企業。日本は主として 製品開発部門を置く)へと変身している企業も少なくない。アジア・中国投 資は、いずれ海外投資ではなくなる日がくるであろう。メイド・イン・アジ ア/チャイナの時代が来ている。 日本企業が、中国・アジアへの投資によるブーメラン効果を不安に感じた ときがあった。また、積極的なファブレス工場化している企業もあるが、や はり大半の企業経営者にとっては、海外投資は国内の空洞化、雇用不安をも たらすことも懸念材料の1つであろう。ある中小企業経営者は、「海外展開 も考えなくはないが雇用確保を考えるとなかなか決断ができない」と自らの ジレンマを口にする。また、海外進出しようにも既にその資金や体力がない ともいう。十分に理解できる発言ではある。 しかし、積極的な視点から海外事業展開を考えれば、日本国内の工場とア ジアに立地した工場の業務分担、すなわち、生産品目やグレードの差別化や、 開発部門を日本に残し、生産部門をアジアに移転するなどの方法がありはし ないだろうか。 既存の技術、既存の市場に依存していては、次の展開をなすすべがなくな りかねない。このことからしても原材料や新素材などの資源や人的資源(低 賃金労働だけでなく異なる感性をもった新製品開発のアイデアを生むよう 39 米倉誠一郎『経営革命の構造』岩波書店、1999 年、145 頁。
な人材)を海外に求めることが可能であろう。また、生産拠点および市場を 日本と海外の両方にもつことで、生産調整もできるようになる。 (3) 日本企業の生き残りの道 以下では、主として労働集約型の中小企業の課題克服という視点から、ど のような国際経営戦略やマーケティング戦略があるのか、若干の具体例を見 ながら考えてみたい。 ①「企業内地域分業」あるいは「企業内国際分業」 a) 製品開発企業(チャレンジャー) 企業経営の再構築が求められている中で、内需型企業であれ外需型企 業であれ、経営者にとってのキーワードは、顧客のニーズに応え、ある いは顧客をリードするための「新製品開発」である。 この新製品開発のアイデアの素材が海外になくはない。米国のシリコ ンバレーの経営者の半数以上が中国系やインド系の人々である。米国で 成功するのは、規制が緩和されており、外国人による起業が容易である ということもあるが、製品に対する発想が異なるということも大きい40。 日本の大手電気メーカーが中国・北京の清華大学と合弁し、ソフト開 発に取組んだりしているのも日本人にない発想を中国人に期待しての ものである。あるコンピュータソフトの開発会社は、日本の開発部門の 技術者共通語が中国語になっているという。 中国人や東南アジアの人々の発想に期待するだけでなく、海外に偏在 する資源の発掘・開発なども考えられる。食品メーカーが、日本にはな い食材を中国や東南アジアに求めて各種の健康食品を開発しているの もこの狙いである。 製品開発企業は、すなわちチャレンジャーである。このチャレンジャ ーを支援する日本政府や地方自治体の制度も活用できるはずである。 伊丹敬之+一橋 MBA 戦略ワークショップは、以下のように述べる。 「なかでも脆弱なのは、日本は高級品、中国は普及品、といった製品セグメ ントによる棲み分けである。このような棲み分けは、技術やブランド力など で格差が存在する場合に可能となる。だが、この格差はキャッチ。アップの 課程で一時的に生じるものであることも多く、将来的に格差が維持できなく なる可能性も高い。時間の経過とともに、棲み分けによる共存関係から直接 40 中国の事例ではないが、例えば、英国でオリジナル・スポーツカーの生産・販売を始めた株式会社トミタ夢 工場のような会社もある。同社は、1980 年代後半に日本でチューニングカー(改造車)を手がけ、1988 年に 日本発の公認チューニングカー「トミーカイラM30」を発表した。スポーツカーをオリジナリティーとアイ デアで独自開発することが夢であったのだが、日本の自動車に対する規制の多さと煩雑さから、英国での事業 展開を決意した。英国の産業政策は、小規模会社に対する規制が非常に小さいことも理由であった。1995 年 に英国で 400 台の注文を受け、1996 年に「TOMITA AUTO UK」を設立し、同年 10 月に生産を開始し てから現在までに 150 台を生産している(『海外投資ガイド』No.142(中小企業事業団、1998 年 1 月)。
的な競合関係へと変化する可能性が高いのである。」41 「そこで日本企業が取り組むべき課題は、中国をはじめとするアジア諸国と 日本の間での分業関係をダイナミックなものとしてとらえるとともに、共存 共栄を可能とする、“相手を取り込んだ”分業構造を維持・構築することで あろう。それは、互いに仕事の流れの中でつながり合い依存し合うような、 なんらかの工程間分業(例えば、日本は部品やソフトを提供して中国は最終 製品の組立を担当する)という形の分業である。」42 b)ファブレス企業への転換 最近の新しい傾向として、進取の気質をもち、積極的に海外展開を 図っている企業も少なくない。日本国内での設備投資が採算に合わな くなった今、国内には工場を持たずに、生産部門を全て海外に移転し、 生き残りを図り、さらに事業拡大を行おうとしているファブレス企業 が増えつつあることも周知の通りである43。 ② 技術移転とシステム・インテグレーション 科学技術庁科学技術研究所が『外国技術導入の動向分析』をしている。 これによると、最近ではアジアからの技術導入も少なくなくなってきてい る。 日本企業がアジア地域に生産拠点を移転するとともに、技術移転努力し てきたものが結実しつつあるということであろうか。アジア地域の技術水 準が確実に高まってきている。 自動車部品メーカーの海外展開に新しい可能性が見られる。 自動車部品メーカーが、海外へ事業展開していく理由について、ある一 次下請けの部品メーカーでは「自動車メーカーは、われわれを救ってはく れない。取引先は自分で開拓しなければならない。20 年近くの信頼関係 も、不況の前では全く意味を持たないことがわかった」と、その進出の動 機を語っている。 部品メーカーの海外進出については、日本の国内外ともにカーメーカー のコストダウン要求に応じるために、国内の空洞化の懸念はあるが海外に 出ていかなければならなくなっているのが現状であるとの認識のされ方 が多数である。 しかし、今日の部品メーカーの海外進出は、海外進出を始めた当初のカ ーメーカーへ追随したかたちのものから、系列を離れて広くユーザーを開 41 伊丹敬之+一橋 MBA 戦略ワークショップ『企業戦略白書Ⅰ』東洋経済新報社、2002 年、36 頁。 42 伊丹敬之+一橋 MBA 戦略ワークショップ『企業戦略白書Ⅰ』東洋経済新報社、2002 年、37 頁。 43 ファブレス工場については、例えば、関満博『フルセット型産業構造を超えて』(中公新書、1993 年)などが ある。
拓するために海外進出を果たそうとしているものが多くなりつつある。東 南アジア諸国への直接投資についていえば、部品メーカーもカーメーカー と同様にBBC(Brand to Brand Complementation)による部品補完体 制やCPET(Common Effective Preferential Tariff:共通効果特恵関 税)のスキームにより市場が各国別から域内全体へと拡大され、スケール メリットが追求できるようになったことも大きな要因であるといえよう。 ASEAN は、2001 年 11 月にブルネイで開催した首脳会議で、中国との 自由貿易協定(FTA)を以後 10 年以内に締結する方針を打ち出した。中 国との競争激化、海外投資の中国への集中の懸念なども言われるが、中国 との市場統合によるスケールメリットのほうが大きいとの判断が勝って いる。 コンピュータ産業は、今、大きな構造上の変革を遂げようとしている。 コンピュータ産業は、これまでNECやIBMといったメーカーに対して、 やはり自動車産業と同様に系列の部品メーカーが存在し、ここから部品が 供給されていた。ところが、最近ではこのような構造が改革されつつある。 部品メーカーから系列外への組立てに対しても部品が供給されるシステ ムができつつあり、さらに、組立てメーカーと系列外の部品メーカーをマ ッチングするようなシステム・インテグレート・サービス(system integrate service)会社も生まれつつある。これにより最終製品のコスト ダウンが図られ、今まで以上の品質向上も達成されようとしている。 この時、企業集団や系列を離れた部品のシステム・インテグレーション が行われ、水平協業型の産業構造が形成されることによって、部品工業の パフォーマンスが図られ、自動車産業全体が再構築される。他の産業分野 でも同様のことがいえよう。 ③ 企業内、企業外での仲間仕事=共同事業、共同受注 日本の若者の中国を見る目が変わってきた。数年前までは中国は、社会 主義の経済発展が遅れ、生活水準も左程高くない国というイメージがあっ たところ、最近の日本の若者は発展著しく、ファッションも華やかな上海 や深框などをテレビで見ることが多いせいか、内陸部のまだ貧しい地方都 市を見ると、中国にもこんな貧しいところがあるのかと驚きの目で見る。 また、中国でビジネスチャンスを見つけるのだと、中国に職を求めるもの も少なくない。 中小企業経営者も中国や東南アジアあるいはその他諸国・地域を視察す る際に、自社の製品の販売相手や同業者の工場の視察だけでなく、異業種 を積極的に視察してはどうだろうか。海外の異業種の製品や工場を視察す る中で、自社の技術が視察工場でこのような方面で活かされそうだと感じ 技術供与をしたり、あるいは反対に自社製品に異業種の技術が活かされそ うだと感じることもありそうだ。新製品開発のアイデアに結びつくことも