研究報告
湯たんぽによる寝床内温度の経時的変化と
保温範囲
Effective and Safer Usage of Hot-Water Bottles:Changes over Time in Bed Temperature and Thermal Insulation
大
Yuki Onishi西由紀
1)杉
Yoshie Sugimoto本吉恵
2)網
Hizuru Amijima島ひづる
3)大
Hideo Onishi西英雄
4)安全で効果的な湯たんぽの貼用方法の基礎的資料を得るために,湯温 60℃と 80℃の湯たんぽを 用いて寝床内の保温範囲,快適な温度への到達時間・持続時間,保温量などの寝床内温度の経時的な 変化を測定し比較検討した.その結果,寝床内の温度は両湯温とも実験開始から 10 分までに急激に 上昇し,その後緩やかに下降した.また,湯たんぽ周囲から離れるほど寝床内温度は低下し保温量も 少なくなることが明らかとなった.さらに,快適な寝床温度(32~34℃)は湯温 60℃では 5 cm, 80℃では 10 cm の位置に湯たんぽを貼用することで約 20 分後に得られ,約 4.5 時間程度持続す ることが判明した.一方,60℃でも湯たんぽの表面温度は最高で 44.5℃まで上昇し,43℃以上の 表面温度が 110 分間持続していることから低温熱傷の危険性があると考えられる.安全で効果的な 貼用方法を検討するためには寝床内温度の変化を考慮することが重要である. キーワード:湯たんぽ,温罨法,寝床内温度,保温範囲
The purpose of this study was to explore safer and effective usage of hot-water bottles filled with various temperature of water (60 and 80℃).
To do this, we measured the change over time of temperature in the bed. Specifically we measured quantity of thermal insulation; range of thermal insulation; when a comfortable temperature was reached and its duration. In bottles filled with water whose temperature was 60 and 80 ℃, the temperature in the bed increased rapidly for 10 minutes from the start of the experiment. After that it decreased slowly.
Results indicated that the temperature in the bed decreased with distance from the circumference of the hot-water bottle, as did the quantity of thermal insulation. In addition, a comfortable bed temperature (32-34 ℃) was obtained by putting a hot-water bottle of 60 ℃ for 20minutes at a position of 5cm from the soles of the feet. The comfortable temperature continued for approximately 4 hours 30 minutes. With a 60℃ hot-water bottle the surface temperature of the bottle rose to a maximum of 44.5℃ and continued above 43℃ for 110 minutes, so we thought there was a risk of a low temperature scald. It is important to consider changes in bed temperature to
受付日:2007 年 12 月 17 日 受理日:2010 年 1 月 15 日
1)前大阪大学医学部附属病院 Former Osaka University Hospital
2)大阪府立大学看護学部 Department of Nursing, Osaka Prefecture University 3)兵庫医療大学看護学部 Department of Nursing, Hyogo University of Health Sciences
4)県立広島大学大学院総合学術研究科 Program in Health and Welfare, graduate school of comprehensive scientific research, Prefectural University of Hiroshima
連絡先:大西由紀 〒 723-0045 広島県三原市田野浦 1-3-1-304 TEL:090-1326-5009 E-mail:[email protected]
Ⅰ.はじめに
罨法とは,身体の一部に温度(寒冷・温熱)刺激を与 え,血管・循環器系,筋系,神経系に作用し鎮痛や 消炎などの効果を期待する治療法である(岡本・荒井 1993).また,対象者の痛みや末梢循環不全によって 生じた冷感や不快感などの患者の訴えの改善につなが り安楽に対する効果も大きいと期待されている.これ らの効果とともに,温熱刺激を与える湯たんぽは,用 具の入手しやすさや取り扱いの簡便さも相俟って施 設・家庭で幅広く用いられている.しかし,貼用にあ たっては,湯温度,貼用位置,カバーや寝具の用い方 などはさまざまである.湯温は湯たんぽの材質の影響 を受けるが,50℃前後から 80℃と幅は広い. 罨法に関する研究は,湯たんぽによる刺激の生体へ の影響を皮膚温,皮膚血流量,寝床内温度,主観的感 覚等を測定から検討した報告(工藤ら 1997;坂田・野 村 2002;長谷部 2003),さらに湯たんぽによる疼痛の 緩和,腸蠕動や排便の促進,血管拡張などの効果に関 する報告(深井ら 1996;橋本ら 1997;酒井ら 1998)も なされている. また,貼用位置は,新生児を収容するコット内の温 度に関する先行研究において,皮膚面から 10 cm 以 上離れると効果がないことを指摘している(岩本・阪 口 1990)が,成人を対象としたベッドでは大きさや高 さなどの条件が異なるため,その結果をそのまま利用 することはできない. 湯たんぽの効果を最大限に生かすために,どのよう な貼用方法をとればよいのかを検討するには,湯たん ぽによる寝床内気候,特に温度がどのような変化を 示すか明らかにすることが必要である.また,湯た んぽによる熱傷事故が少なからず報告(岩永ら 2004; 高山・岩永 2004)され,熱傷事故の原因として身体と の接触による低温熱傷があげられている(高山・岩永 2004)ことから,安全の観点からの貼用方法を検討す ることも重要である.Ⅱ.目的
より安全で効果的な湯たんぽの貼用方法を検討する 基礎的資料を得るために,最適温度への到達時間・持 続時間,寝床内温度の経時的な変化,保温量など明ら かにすることを目的とした.Ⅲ.方法
1.実験条件 実験に用いた湯たんぽは,プラスチック製(23.5 cm × 約 27.5 cm× 約 10 cm,容量 2 L,タンゲ社製)で あり,カバーの生地は綿で厚さ 10 mm の湯たんぽ袋 を用いた. 実験は「病院空調設備の設計・管理指針」(日本医 療福祉設備協会 2004)に示されている病室の標準的な 温度条件を参考に,室温を 22 ~ 24℃になるように調 節した.実験に用いた寝床はベッドにマットレス(リ カーマットレス,KE-703,ポリエステル 100%,パ ラマウントベッド社製)を敷き,その上にマットレス パッド(側地綿 100%,中綿綿 100%,キルティング 製,西川産業社製)をかけ,シーツ 2 枚と毛布 2 枚(毛 100%,東亜紡織社製)を敷き,最後にスプレッドをか けた.このような環境においてベッドを作成し,そ の中にモデル人形を寝かせた.モデル人形の足元か ら 30cm の所に湯たんぽを設置した(図 1).ベッドを 2 台作成した.湯の温度は最もよく用いられる 60℃と 80℃を設定した.それら 2 種類の湯たんぽは同時に挿 入し,測定を実施した.explore safer usage of hot-water bottles.
Key words:hot-water bottles,temperature in bed,range of thermal insulation
湯たんぽ 30cm
2.測定項目と測定方法 湯たんぽの表面温度および寝床内の温度は,デジ タル温度計(テルモファイナーCTM-303,PD-K161, テルモ社製)を用いた.測定位置は,湯たんぽから 0 cm,5 cm,10 cm,15 cm,25 cm の位置に温度セン サーを留置し測定した.湯たんぽから 0 cm の距離を 湯たんぽの表面温度とし,湯たんぽカバーの上から測 定した(図 2). 測定間隔は,実験開始から 1 時間までは 5 分間隔 で,1 時間以降は 30 分間隔で測定した.60℃,80℃ ともにそれぞれ実験を 5 回繰り返し,得られた測定値 の平均値を算出し検討した.また,湯たんぽによる全 体の保温効果をみるために,寝床内温度の温度分布を グラフより求め,実験開始から終了時までの時間に対 する温度分布から下記の式(1)で求めた Th(t)を保温 量(℃・min)と仮定し算出した. Th(t)=
∫
360 0 Δt×f(t)dt ―(1) Th(t):保温量(℃・min),f(t):寝床内温度の温 度分布,Δt:測定間隔(min),t:測定時間(min)を 示す.なお,この定積分にはシンプソンの台形公式を 当てはめて計算を行った.Ⅳ.結果
1.湯温 60℃の湯たんぽによる寝床内温度の経時的 変化 湯温 60℃で作成した湯たんぽによる寝床内温度の 経時的変化を,湯たんぽからの距離 5 cm,10 cm, 15 cm,25 cm 別に示した(図 3).また,湯たんぽ貼 用時の温度を基準として各距離における寝床内温度の 差を経時的に示した(図 4). 湯たんぽの表面温度および湯たんぽから 5 cm,10 cm,15 cm,25 cm の距離のどの位置においても,実 験開始から 5 分までに急激な寝床内温度の上昇がみら れ,一定の温度を保持した後,温度は緩やかに下降し た. また,湯たんぽの表面温度は平均で 43℃以上の温 度が 110 分間持続した. 寝床内温度が一定の温度を保つ時間を湯たんぽか らの距離別にみると,湯たんぽから 5 cm の距離では 32.7 ~ 33.2℃の温度を 85 分間(1 時間 25 分)持続し, 湯たんぽから 10 cm の距離では,30.1 ~ 30.5℃の温 度を 155 分間(2 時間 35 分)持続していた.湯たんぽ から 15 cm 以降の距離では,最高値でも 30℃を超え ることはなかった.湯たんぽから 25 cm の距離では, 実験開始温度から最高で 1.5℃上昇するだけにとど まった. 湯たんぽから 5 cm の距離では開始から 20 分で 32.0℃に到達し,32 ~ 33℃を 250 分間(4 時間 10 分) 持続した. 2.湯温 80℃の湯たんぽによる寝床内温度の経時的 変化 湯温 80℃で作成した湯たんぽによる寝床内温度の 湯たんぽ 0 cm 5 cm 10 cm 15 cm 25 cm 図2 湯たんぽの表面温度および寝床内温度の測定位置 0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 0 100 200 300 400 経過時間(min) 温度(℃) 0cm 5cm 10cm 15cm 25cm 図3 湯温 60℃の湯たんぽによる寝床内温度の経時的変化 0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 0 50 100 150 200 250 300 350 400 経過時間(min) 温度変化(℃) 0cm 5cm 10cm 15cm 25cm 図4 湯温 60℃の湯たんぽ貼用時の温度を基準とした寝 床内温度変化経時的変化を,湯たんぽからの距離 5 cm,10 cm, 15 cm,25 cm 別に示した(図 5).また,湯たんぽ貼 用時の温度を基準として各距離における寝床内温度の 差を経時的に示した(図 6). 湯たんぽの表面温度は実験開始から 5 分までに,ま た湯たんぽから 5 cm,10 cm,15 cm,25 cm の距離 では実験開始から 10 分までに,急激な寝床内温度の 上昇がみられ,それぞれ一定の温度を保持した後,温 度は緩やかに下降した.表面温度は 50℃以上の温度 が 110 分間持続した. 寝床内温度が一定の温度を保つ時間を湯たんぽから の距離別にみると,湯たんぽから 5 cm の距離では, 36.8℃の温度を 20 分間持続した.湯たんぽから 10 cm の距離では,32.6 ~ 32.7℃の温度を 25 分間持続し た.湯たんぽから 15 cm 以降の距離では,最高値で も 30℃を超えることはなかったが,湯たんぽから 25 cm の距離では,湯温 60℃と同様に 80℃でも実験開 始温度から最高で 1.8℃上昇するにとどまった. 湯たんぽから 10 cm の距離では開始から 25 分で 32.0℃に到達し,32~33℃を 275 分間(4 時間 35 分)持 続した. 3.保温量 湯たんぽによる全体の保温効果をみるために,寝床 内温度の温度分布をグラフより求め,実験開始から終 了時までの時間に対する保温量を算出し,その結果を 図 7に示した. 保温量は,湯温 60℃,80℃ともに湯たんぽから距 離が離れるにつれて指数関数的に少なくなっていっ た.湯たんぽから 5 cm 離れると,どちらの湯温もと もに保温量は約 1/3 に減少した.保温量は,回帰曲線 (指数関数)から湯たんぽからの距離が遠くなるにつれ て,湯温 60℃,80℃ともにどちらも著しく小さくなっ た.
Ⅴ.考察
1.湯たんぽによる寝床内温度の経時的変化 今回の実験結果より,湯たんぽによる寝床内温度は 湯温 60℃,80℃ともに実験開始から 10 分までに急激 に温度が上昇し,その後一定の温度を推移した後,緩 やかに温度が下降していくことがわかった.この結果 は,先行研究(岩本・阪口 1990;長谷部 2003)の結果 ともほぼ一致していた.このことから,湯たんぽの表 面温度や寝床内温度は,湯温にかかわらず作成から 10 分ほどで温度上昇が最高になり,その後一定の温 度を保ち緩やかに下降していくという経過をたどるこ とが考えられる.湯温 60℃,80 度の湯たんぽともに, 実験開始温度と比較すると,実験終了の 6 時間後も寝 床内温度は上昇しているため,湯たんぽは比較的長時 間保温することができる.また一定の温度を保つ時間 0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 0 100 200 300 400 経過時間(min) 温度(℃) 0cm 5cm 10cm 15cm 25cm 図5 湯温 80℃の湯たんぽによる寝床内温度の経時的変化 図6 湯温 80℃の湯たんぽ貼用時の温度を基準とした寝 床内温度変化 0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 35.0 0 100 200 300 400 経過時間(min) 温度変化(℃) 0cm 5cm 10cm 15cm 25cm y=14754e-0.6409x R2= 0.9631 y=9337.2e-0.6769x R2=0.9667 0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 0cm 5cm 10cm 15cm 25cm 湯たんぽからの距離(cm) 保温量(℃ ・min) 60℃ 80℃ 指数(80℃) 指数(60℃) 図 7 湯温 60℃および 80℃の湯たんぽによる保温量は,湯温 60℃においては湯たんぽから 5 cm の距離で 85 分間,10 cm と 15 cm の距離で 155 分間と長時間 であることがわかった.一方で湯温 80℃において湯 たんぽから 5 cm の距離では 20 分間,10 cm の距離 で 25 分間と短く,一定の温度を保つ時間は湯温 80℃ よりも 60℃のほうが長いことがわかった.このこと は,熱伝導自体には熱が温度の高いものから低いもの へと移動する性質(平田 2002)があり,図 5 より湯温 80℃が湯たんぽによる寝床内温度上昇が大きかったた めに,熱伝導が早く起こり,一定の温度を保つ時間が 60℃と比較して短かったと考えられる.寝床内温度全 体の保温量や温度上昇は湯温の高い 80℃のほうが大 きいため,寝床内温度を急速に上昇させることを目的 に湯たんぽを用いるのであれば,湯温の高い 80℃の ほうがより適している. 2.湯たんぽからの距離と寝床内温度の関係 湯たんぽから距離が離れるにつれて,湯温 60℃, 80℃ともに寝床内温度と保温量が減少している.特に どちらの湯温も湯たんぽから 5 cm 離れると,回帰曲 線(指数関数)から保温量は約 1/3 に著しく減少した. このような実験結果から,湯たんぽによる温度や保温 量は,湯たんぽからの距離により変化していくことが 考えられる. 先行研究も器具から 10 cm 以上離れると効果は得 られない(岩本・阪口 1990)としており,湯たんぽか らの距離と保温効果について検討している.本研究の 結果より,成人用のベッドにおいても保温量・寝床内 温度から,湯たんぽは設置した周囲の範囲しか保温効 果はないことが考えられる.そのため,保温目的で湯 たんぽを使用する際には,湯たんぽを足元に近い位置 に置く必要がある. 快適な寝床内気候は温度 32 ~ 34℃であるとの報告 (中嶋 1952)から,32 ~ 34℃の温度で湯たんぽによる 寝床内温度上昇の効果があると考えると,湯温 60℃ では,湯たんぽから 5 cm の距離で 32.7 ~ 33.2℃の温 度を持続しているが,それより遠い距離では保温力は 持続していない.そのため,湯温 60℃では湯たんぽ から 5 cm までの範囲で湯たんぽによる保温効果があ ると考えられる. 一方,湯温 80℃では,湯たんぽから 10 cm の距 離で 32.6 ~ 32.7℃を持続しており,湯たんぽから 10 cm までの範囲で湯たんぽによる保温効果があると考 えられる.最適な温度範囲に到達するまでの時間は, 湯温 60℃では,湯たんぽから 5 cm の距離で 20 分, 湯温 80℃では,湯たんぽから 10 cm の距離で 25 分後 であることから,湯たんぽを貼用してから快適な温度 になるまでに 25 分前後必要であると考えられるため, 事前にベッドを準備する場合などはその時間を考慮し て湯たんぽを貼用することが必要である.また,持続 時間は湯温 60℃では 32 ~ 33℃を 250 分間(4 時間 10 分)持続し,湯温 80℃では,32 ~ 33℃を 275 分間(4 時間 35 分)持続したことから,保温効果を維持でき る時間は,4 時間 30 分程度であると考えられるため, 湯たんぽの交換時期は貼用後 4 時間~ 4 時間 30 分間 程度を目安にすればよいと考えられる. 3.湯たんぽによる低温熱傷の危険性 臨床で多く使用される温度である湯温 60℃でも, 今回の実験結果より湯たんぽの最高表面温度は 44.5℃ であり,43℃以上の温度が 110 分間持続している.低 温熱傷とは,通常損傷を起こさない程度の低温(40 ~ 45℃)が長時間作用して起こる熱傷様の損傷と定義さ れている(後藤ら 2000).通常,成人の皮膚が損傷を 受けることなく長時間の温熱刺激に耐えうる最高温 度は 43.3℃とされている(杉野ら 1999).また,42℃ 5 時間の加温で低温熱傷の可能性が高いとしている報 告(飯田・山本 2004)もある.前述した結果からの温 度や時間から考えると,湯たんぽによる低温熱傷の 危険性は湯温 60℃でも十分にあるということが考え られる.湯たんぽによる熱傷事故の報告(高山・岩永 2004)もある.湯たんぽによる保温効果を得るために は,足元近くに湯たんぽを置く必要があり,低温熱傷 を生じる危険性がある.実際に湯たんぽによる熱傷事 故の原因をみても,湯たんぽとの直接接触が多くみら れている.その理由としては,離していたが体動など で知らぬ間に接触していたという事例もある.長時間 湯たんぽを使用する際に低温熱傷を予防するために は,熱源を身体から離すことが湯たんぽによる低温熱 傷を防ぐ方法として報告されている.しかし,一般的 なベッドの大きさと臥床中の体動を考えると,湯たん ぽを身体から離していても接触する可能性は十分考え られる.また,湯たんぽによる熱傷を起こした患者 は,高齢者や意識障害者,麻痺患者など低温熱傷を起 こしやすい特性をもった患者が多数を占めているとい う結果が出ている.しかしその一方で,健康な成人が 睡眠中に湯たんぽによる低温熱傷を起こした事例も報 告(昆ら 1991)されている.以上のことより,体温よ
り温度の高い湯を使う以上,誰でも低温熱傷を起こす リスクが生じることを十分考慮する必要がある. 4.より安全で効果的な湯たんぽの貼用方法 湯たんぽは,使用目的に合わせて貼用時間や使用方 法も変えていくべきであるという報告(高山ら 2004) がある.急速に寝床内温度を暖めたい場合には 60℃ と 80℃であれば,より湯温の高い 80℃を選択すれば より速く寝床内温度を暖めることができる.そして, 図 3~図 6 より,一定の温度を保つ時間が長いほう がよい場合には,60℃を選択すればより長い時間温度 を一定に保つことができる.また,快適な寝床内温度 を考慮した貼用方法を検討した場合,60℃では湯たん ぽを身体から 5 cm に,80℃では湯たんぽから 10 cm の位置で貼用し,湯たんぽの交換は 4 時間~4 時間 30 分間後に実施することがよいであろう.快適温度を床 に入る時点で求める場合は,20 ~ 25 分前から貼用し ておくとよい. 湯たんぽの湯温,貼用位置・時間は,目的に沿って 検討することが重要と考えるが,高齢者や意識障害 者,感覚・知覚障害者,麻痺患者など低温熱傷のリス クが高い患者への使用時には,十分な注意が必要であ る. また,湯たんぽにより上昇した表面温度の温熱を伝 わりにくくするために,湯たんぽのカバーを厚い生地 のものに変えることや湯たんぽを身体から離して置い ても体動などにより接触する可能性があり,定期的に 湯たんぽの位置を観察し,湯たんぽが直接皮膚に接触 していないか確認する必要がある.また,一定の時間 になれば湯たんぽを取る,あらかじめ患者が臥床する 前に湯たんぽを置いておき,臥床したら湯たんぽを取 るなどの方法が考えられる. 今回の実験は,〈モデル人形を使用していることの 実験の限界〉プラスチック製の湯たんぽでしか行って いないが,湯たんぽにはゴム製・金属製のものがあ る.器具の材質の違いで熱伝導は変動することが予測 され実験値にも影響することが考えられる.今後は器 具を変えて表面温度や寝床内温度を測定していくこと で,より発展的な湯たんぽの有効利用への基礎資料が 得られると考えられる.
Ⅵ.結論
安全で効果的な湯たんぽの貼用方法の基礎的資料 を得るために,湯温 60℃と 80℃の湯たんぽを用いて 寝床内の保温範囲,快適な温度への到達時間・持続時 間,保温量などの寝床内温度の経時的な変化を測定し 比較検討した.その結果,以下のことが明らかとなっ た. 1)湯たんぽによる寝床内温度は,湯温 60℃,80℃ ともに 10 分までに急激に温度が上昇し,その後一定 の温度を保持した後,緩やかに温度が下降した. 2)湯温 60℃のほうが,80℃よりも一定の寝床内温 度を保つ時間が長かったが,両温ともに実験終了後の 6 時間後も寝床内温度は上昇していた. 3)快適な寝床温度(32 ~ 34℃)は,湯温 60℃では 5 cm,80℃では 10 cm の位置に湯たんぽを貼用するこ とで約 20 分後に得られ,約 4.5 時間程度持続していた. 4)60℃でも,湯たんぽの最高表面温度は 44.5℃で あり,43℃以上の温度が 110 分間持続していた.その 結果から湯たんぽによる低温熱傷の危険性は,湯温 60℃でも十分にあるということが考えられる. 文献 深井喜代子,阪本みどり,田中美穂(1996):水又は運動負荷と 温罨法の健康女性の腸音に及ぼす影響,川崎医療福祉学会誌, 6 (1),99-106. 後藤稠(編者代表)(2000):最新医学大事典,1160,医歯薬出版, 東京. 長谷部佳子,中山栄純,佐藤千史(1999):温罨法が就床中の生 体の快適感,体温,皮膚血流量に及ぼす影響,日本看護研究 学会雑誌,22(5),37-45. 長谷部佳子(2001):温罨法が就床中の生体に与える影響に関す る基礎的・応用的研究,日本看護研究学会雑誌,24(3),62-64. 長谷部佳子(2003):温罨法が就床中の生体に与える影響に関す る基礎的・応用的研究,日本看護研究学会雑誌,26(5),45-57. 橋本喜美子,中谷公子,廣木光子,他(1997):新生児の出生直 後の保温方法の検討 湯タンポ・ネオシルバー・電気毛布の 比較,第 28 回日本看護学会集録(母性看護),27-29. 平田雅子(2002):NEW ベッドサイドを科学する―看護にいかす 物理学―,86,学習研究社,東京. 飯田智恵,山本昇(2004):低温熱傷発症条件に関する実験的検 討,日本看護研究学会雑誌,27(1),43-50. 岩本仁子,阪口禎男(1990):コットの warming-up に関する基 礎的研究 新生児収容前の保温,日本看護研究学会雑誌,13 (2),7-14. 岩永秀子,高山栄,山本昇(2004):ゴム製湯たんぽの安全な使 用方法の検討―湯たんぽ表面温度とマウス皮膚組織への影響 ―,日本看護研究学会雑誌,27(4),53-59. 昆雅子,中坂昭一郎,佐々木優子(1991):回復術直後の腹帯の 必要性の一考察,日本手術医学会雑誌,24(1),137-140. 工藤せい子,工藤公子,阿部テル子,他(1997):湯たんぽの保 温性についての検討,看護技術,43(5),513-520. 中嶋朝子(1952):寝床気候の研究,京都府立医科大学雑誌,52, 51-76.岡本陽子,荒井博子(1993):基礎看護技術(廣川看護テキスト), 239,廣川書店,東京. 大久保憲(代表)(2004):病院空調設備の設計・管理指針検 (HEAS-02-2004),日本医療福祉設備協会,東京. 酒井司,吉川厚重,上村哲司,他(1998):高齢者の広範囲熱傷 の 1 例,聖マリ医学,52. 坂田五月,野村志保子(2002):湯たんぽと電気毛布の保温効果 と生体への影響,看護技術,48(7),105-111. 杉野佳江編(1999):基礎看護学 2 第 4 版(標準看護学講座 13 巻),465-477,金原出版,東京. 高山栄,岩永秀子(2004):湯たんぽに関する看護技術の安全性 の検討―臨床における湯たんぽの使用状況と熱傷事故の実態 調査から―,日本看護学教育学会誌,13(3),19-27.