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大学野球選手の投球側肩関節における上腕骨頭-肩甲骨関節窩後縁の骨間距離と外旋角度との関係

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 138 47 巻第 2 号 138 ∼ 145 頁(2020 年) 理学療法学 第 47 巻第 2 号. 研究論文(原著). 大学野球選手の投球側肩関節における上腕骨頭−肩甲骨 関節窩後縁の骨間距離と外旋角度との関係* ─投球レイトコッキング相の肩関節肢位を模した MRI 研究─. 髙 橋   真 1)# 岩 本 浩 二 2) 門 間 正 彦 3) 水 上 昌 文 2). 要旨 【目的】大学野球選手における投球側肩関節の外旋角度の増大に伴う上腕骨頭−肩甲骨関節窩後縁の骨間 距離(以下,PGHD)を明らかにすることである。【方法】対象は大学野球選手 11 名の投球側肩関節 11 肢とした。MRI 撮像時の肩関節肢位は肩 90°外転位から 90°,100° ,110°外旋位の 3 肢位とし,各肢位の PGHD を計測した。 【結果】PGHD は肩関節 90°外旋位よりも 110°で有意に低値だった。【結論】肩関節 外旋角度が増大すると,上腕骨頭と肩甲骨関節窩後縁が接近した。 キーワード 肩関節,肩関節外旋角度,上腕骨頭−肩甲骨関節窩後縁の骨間距離. 他の先行研究においても,解剖学的にその病態が確. はじめに. 認. 1)6‒8). されているため,投球障害肩の理学療法とその.  インターナルインピンジメントは Walch ら 1)によっ. 予防には肩関節外転,外旋位における上腕骨頭と肩甲骨. てはじめて提唱され,肩関節外転および外旋位において. 関節窩後縁の接近状態および距離に着目した調査研究が. 上腕骨大結節の腱板付着部と肩甲骨関節窩後上縁が接触. 重要である。. もしくは衝突し,腱板関節面が挟み込まれる現象であ.  レイトコッキング相における上腕骨頭と肩甲骨関節窩. る。この肩関節外転,外旋位における上腕骨頭と肩甲骨. 後縁が接近する要因として,肩関節の前方不安定性によ. 関節窩の衝突部位に関して,一致した見解は得られてい. る肩甲上腕関節の過度な外旋. ない. 1‒9). が,近年,MRI や CT,有限要素法解析など. 4)6). や後方関節包拘縮によ. る肩甲骨関節窩に対する上腕骨頭の後上方への変位. 7‒9). の評価機器により,投球のレイトコッキング相における. などが挙げられる。. 肩関節外転,外旋運動で生じる応力は上腕骨頭の後外側.  屍肩を用いたレイトコッキング相の肩関節外転,外旋. 上方や肩甲骨関節窩の後部に集中しているとの報告. 2)3). 肢位を模した研究において,Rizio ら. 6). は肩甲上腕関節. がある。この肩関節外転,外旋位における上腕骨頭と肩. の前方不安定性が上腕骨頭と肩甲骨関節窩後縁の接近に. 甲骨関節窩後縁の衝突は後上方関節唇損傷や上腕骨頭の. 起因し,後上方関節唇のひずみを増大させると報告して. 骨嚢腫などの病因となる *. 2‒5). ため問題視されている。. Effect of Glenohumeral External Rotation Position on the Posterior Glenohumeral Distance in the Throwing Shoulders of College Baseball Players: An MRI Study of the Simulated Late Cocking Phase during Baseball Throwing 1)医療法人社団ひたちの整形外科リハビリテーション科 (〒 300‒1207 茨城県牛久市ひたち野東 3‒2‒1) Makoto Takahashi, PT, MS: Department of Rehabilitation, Hitachino Orthopedic Clinic 2)茨城県立医療大学保健医療学部理学療法学科 Koji Iwamoto, PhD, Masafumi Mizukami, PhD: Department of Physical Therapy, Ibaraki Prefectural University of Health Sciences 3)茨城県立医療大学保健医療学部放射線技術科学科 Masahiko Monma, PhD: Department of Radiological Sciences, Ibaraki Prefectural University of Health Sciences # E-mail: mtakahashi606@gmail.com (受付日 2019 年 6 月 17 日/受理日 2019 年 11 月 18 日) [J-STAGE での早期公開日 2020 年 2 月 18 日]. いる。同様に,Mihata ら. 7). も肩甲上腕関節の後方関節. 包拘縮および前方不安定性が上腕骨頭と肩甲骨関節窩後 縁の接触圧を高めると報告している。これらの屍研 究. 6)7). はインターナルインピンジメントの定義に近い方. 法であるが,屍肩の関節内や後上方関節唇に圧力検出器 (pressure sensor)や可変磁気抵抗検出器(differential variable reluctance transducer)を挿入して得られた知 見であるため,生体で同様の方法を用いて調査すること は不可能である。また,屍肩の研究は肩関節に付着する 腱板筋群以外の肩関節周囲筋を取り除いていること,対 象の屍肩の平均年齢が高いため,若年層の肩関節の構造 や関節包を構成するコラーゲン線維の伸長性が異なる. 10).

(2) 大学野球選手の投球側肩関節に関する研究. 139. 図 1 MRI 撮像時の測定肢位 自家製傾斜台を用いて肩関節 90°外転位から 90°,100° ,110°外旋位に設定し, ベルトにて肩甲骨下角,胸椎を固定.. ことなどの理由から,屍肩と同様の結果が生体で得られ るか疑問が残る。さらに,Halbrecht ら. 5). は,MRI 所. 対象と方法. 見から投球痛のない大学野球選手の投球側肩関節は非投. 1.対象. 球側肩関節と比較して,後方関節唇損傷と上腕骨頭の骨.  研究協力者は首都大学野球連盟 1 部リーグの大学野球. 嚢腫を認めたと報告していることから,屍肩がこれらの. 部に所属する投球痛を伴わない男子 11 名(右利き 10 名,. 投球側肩関節の器質的変化を再現できていないことも屍. 左利き 1 名)とし,投球側肩関節 11 肢を対象とした。. 研究の課題である。. 平均年齢は 19.6(19 ∼ 21)歳,身長は 172.1 ± 3.0 cm,.  一方,野球選手を対象とした MRI 研究. 5)11)12). は,. 2 体 重 は 70.4 ± 4.2 kg,BMI は 23.8 ± 1.4 kg/m , 野 球. 腱板断裂や関節唇損傷などのインターナルインピンジメ. 経験年数は 12.1 ± 1.7 年,ポジションは投手 2 名,捕手. ントの病態や上腕骨大結節と肩甲骨関節窩上縁に挟まれ. 1 名,野手 8 名であった。除外基準は,測定時痛や肩関. た軟部組織に着目した調査研究であり,上腕骨頭と肩甲. 節手術の既往を有するものとした。また,Hill-Sachs 損. 骨関節窩後縁の骨間距離といった骨の接近状態を定量化. 傷や骨性 Bankart 損傷などの骨形態に影響を及ぼす病. した研究は少ない。この上腕骨頭と肩甲骨関節窩後縁の. 変は除外した。. 骨間距離は,肩関節内に挟み込まれる軟部組織の状態を 反映する指標ではないが,骨の接近状態を定量化するこ. 2.MRI 撮像. とで衝突によって生じる骨病変の原因を解明する一助と.  Open MRI は日立 AIRIS Vento 0.3-tesla を用いた。画. なる。さらに,投球のレイトコッキング相に類似した肩. 像検査者は放射線技師 1 名とし,MRI 信号の受信には. 関節肢位から外旋角度を変えた調査研究は少ないため,. 肩関節コイルを用いて,Gradient echo 法における T2*. 検査者の任意で肩関節外旋角度を調整できる Open MRI. 画像(撮像視野 220 mm,繰り返し時間 600 msec,エ. の研究は,この投球相における上腕骨頭と肩甲骨関節窩. コー時間 11 msec,スライス厚 4 mm,スライス間隙. 後縁の接近状態に関する新たな知見となる。. 4 mm,スキャン時間 3 分 53 秒)のシーケンスにより,.  本研究の目的は,Open MRI を使用して,野球選手に. 各条件につき約 12 スライスの水平断像を撮像した。位. おける投球側肩関節の外旋角度の増大に伴う上腕骨頭と. 置決め撮像は矢状面にて肩甲上腕関節中央を基準にして. 肩甲骨関節窩後縁の骨間距離を明らかにすることである。. 水平断面を決定した。撮像した画像所見のうちもっとも. インターナルインピンジメントの発生メカニズムの一端. 上腕骨大結節が明瞭に描出された画像データを端末上に. を客観的に定量化し,肩関節外旋角度の増大に伴う上腕. 取り込み,画像解析ソフトを用いて解析した。撮像肢位. 骨頭と肩甲骨関節窩後縁の接近状態を分析することは投. (図 1)はレイトコッキング相の肩関節肢位を再現する. 球障害肩の理学療法を展開するうえで重要な知見となる。. ため. 13)14). ,腹臥位にて肩関節 90° 外転位から 90° ,100°,.

(3) 140. 理学療法学 第 47 巻第 2 号. 図 2 後方関節唇病変 陰性所見(左図):肩甲骨関節窩後縁が嘴状(非投球側・左肩). 陽性所見(右図):肩甲骨関節窩後縁が曲線状(投球側・左肩).. 110°外旋位の 3 肢位とし,肩関節外旋角度の設定には. (External rotation:以下,ER)と内旋可動域(Internal 9)15)16). 。. 10°,20°の自家製傾斜台を使用した。撮像中は肩甲骨下. rotation:以下,IR)を測定した. 角と胸椎をベルトにて固定し,肩関節外旋角度変化に伴. 2)Horizontal flexion test(以下,HFT). う肩甲胸郭関節の内旋,外旋,前傾,後傾ならびに体幹.  背臥位にて肘関節 90°屈曲位,肩関節 90°屈曲位の肢. 回旋が起きないようにした。投球側肩関節 11 肢は 110°. 位から,検査者が肩甲骨外側縁を押さえて肩甲胸郭関節. 以上の外旋可動域を有していたため,90°,100°,110°. の外転と上方回旋を抑制し,肩甲胸郭関節の代償運動が. 外旋位の 3 肢位で MRI 撮像を行った。しかし,非投球. 起きない範囲で他動的な最大水平屈曲可動域を測定し. 側肩関節 9 肢は外旋可動域が 110°未満であったため,. た. 非投球側肩関節の MRI 撮像は 100°以上の外旋可動域を.  これらの関節可動域測定は関節誘導者と角度測定者の. 有する 6 肢に行い,90°と 100°外旋位の 2 肢位で計測. 2 名で計測し,計測器具は傾斜角度計を使用して,1°単. した。. 位で記録した。. 16)17). 。.  画像解析の信頼性について,我々はパイロットスタ ディで,Spin echo(SE)法による T1,T2 強調画像と. 4.画像所見. Gradient echo(GRE)法による T2* 画像を用いて解析. 1)後方関節唇病変(図 2). した。T1,T2 強調画像と比較して,T2* 画像は MRI.  後方関節唇病変の判別は肩甲骨関節窩後縁が嘴状に描. 測定時に生じるアーチファクトに強く,骨の辺縁や腱. 写された画像所見を陰性とし,滑らかな曲線状に描出さ. 板,関節包,関節唇などの軟部組織が明瞭に描写された。. れた画像所見は陽性とした。. また,肩関節を外旋すると,上腕骨大結節を含むスライ. 2)上腕骨頭の骨病変(図 3). ス面が変化することがあるが,その場合はもっとも上腕.  上腕骨頭の骨病変の判別は MRI 所見から上腕骨頭の. 骨大結節が明瞭に描出されるスライス面を基準にした。. 輝度変化を認める骨病変が確認された画像所見を陽性と. しかし,肩関節外旋により肩甲骨関節面の位置は変化し. した。. なかったことから,容易に上腕骨頭と肩甲骨関節窩後縁.  後方関節唇病変と上腕骨頭の骨病変は日本整形外科学. がもっとも接近している距離の測定が可能であった。こ. 会整形外科専門医および日本体育協会公認スポーツドク. れらのパイロットスタディの結果から,本研究は先に述. ターの医師 1 名が Excel の乱数表により無作為に並べら. べた撮像条件および測定肢位で MRI 所見を評価した。. れた両肩関節 22 肢の画像所見を読影し,判別した。. 3.理学所見. 5.上腕骨頭−肩甲骨関節窩後縁の骨間距離(Posterior. 1)肩関節回旋可動域. glenohumeral distance:以下,PGHD).  背臥位にて肘関節 90°屈曲位,肩関節 90°外転および.  上腕骨頭と肩甲骨関節窩後縁の接近状態を表す指標を. 回旋中間位の肢位から,検査者が肩甲骨烏口突起を押さ. PGHD として定義した。投球側肩関節の撮像肢位は肩. えて肩甲胸郭関節の前傾と後傾を抑制し,肩甲胸郭関節. 関節 90°外転位から 90°,100°,110°外旋位の 3 肢位とし,. の代償運動が起きない範囲で他動的な最大外旋可動域. 非投球側肩関節は肩関節 90°外転位から 90° ,100°外旋.

(4) 大学野球選手の投球側肩関節に関する研究. 141. 図 3 上腕骨頭の骨病変 陰性所見(左図):上腕骨頭の輝度変化を認めない(非投球側・左肩). 陽性所見(右図):上腕骨頭の輝度変化を認める(投球側・右肩).. 図 4 PGHD の解析方法 手順 1)肩甲骨関節窩後縁【A】から肩甲骨関節面の垂線を引き,上腕骨頭との交点【B】を導出. 手順 2)AB 間の距離を計測し,上腕骨頭と肩甲骨関節窩後縁の骨間距離(PGHD:mm)を導出.. 位の 2 肢位で,PGHD(mm)を計測した(図 4) 。同一 検査者による画像解析 1,2 回目の ICC(1,1)は 0.942. 2)投球側肩関節と非投球側肩関節における後方関節唇 病変,上腕骨頭の骨病変の比較. (95% 信頼区間;0.912 ‒ 0.961)であった。PGHD は低値.  後方関節唇病変ならびに上腕骨頭の骨病変が投球側肩. を示す程,上腕骨頭と肩甲骨関節窩後縁が接近している. 関節と非投球側肩関節のどちらに多く存在するか明らか. ことを表す。. にするために,期待値 5 未満が全体の 20% 未満であれ 2 ば Pearson の χ 検定,全体の 20% 以上であれば Fisher. 6.統計解析. の正確確率検定を用いて検討した。. 1)投球側肩関節と非投球側肩関節における ER,IR,. 3)投球側肩関節と非投球側肩関節の各外旋角度におけ. HFT,PGHD の比較. る PGHD の比較.  投球側肩関節と非投球側肩関節の ER,IR,HFT の.  PGHD と肩関節外旋角度との関係を明らかにするた. 比較は Shapiro-Wilk 検定で正規分布にしたがうか分析. めに,投球側肩関節の各外旋角度における PGHD の比. した後,対応のある t 検定もしくは Wilcoxon の順位和. 較は Shapiro-Wilk 検定で正規分布にしたがうか分析し. 検定を用いて検討した。投球側肩関節と非投球側肩関節. た後,Levene 検定もしくは Kruskal-Wallis 検定による. の PGHD の比較は二元配置分散分析を用いて,肩関節. 一元配置分散分析を行い,有意差があれば Steel-Dwass. 90°,100°外旋位における PGHD を比較した。. 法もしくは Tukey 法の多重比較検定を行った。また, 非投球側肩関節の 90°と 100°外旋位における PGHD の.

(5) 142. 理学療法学 第 47 巻第 2 号. 表 1 投球側肩関節と非投球側肩関節における ER,IR,HFT の比較 投球側 n=11. 非投球側 n=11. p値. 効果量. ER(°). 115.4 ± 4.5 【110‒122】. 99.0 ± 9.8 【85‒155】. 0.003**. 0.843. IR(°). 29.2 ± 11.8 【9‒45】. 43.6 ± 11.8 【20‒69】. <0.001***. 0.812. HFT(°). 82.5 ± 8.5 【73‒101】. 90.4 ± 9.8 【72‒104】. 0.006**. 0.775. 平均値±標準偏差,【最小値 - 最大値】, ER:External rotation,IR:Internal rotation,HFT:Horizontal flexion test, 投球側:投球側肩関節,非投球側:非投球側肩関節, **:p < 0.01,***:p < 0.001.. 表 2 投球側肩関節と非投球側肩関節における PGHD の比較 PGHD(mm) 投球側 n=11. 非投球側 n=6. 外旋角度 90°. 9.5 ± 1.8. 5.9 ± 1.4.      100°. 7.9 ± 1.8. 4.9 ± 1.2. 二元配置分散分析 <0.001***. PGHD:Posterior glenohumeral distance,その他説明は表 1 と同様.. 表 3 投球側肩関節と非投球側肩関節における後方関節唇病変の比較 後方関節唇病変. 投球側 n=11. 非投球側 n=11.  陽性(例). 10. 3.  陰性(例). 1. 8. p値 0.008**. 説明は表 1 と同様.. 表 4 投球側肩関節と非投球側肩関節における上腕骨頭の骨病変の比較 上腕骨頭の骨病変. 投球側 n=11. 非投球側 n=11.  陽性(例). 5. 0.  陰性(例). 6. 11. p値 0.035*. *:p < 0.05,その他説明は表 1 と同様.. 比較は対応のある t 検定を行った。統計解析は IBM SPSS. 球側肩関節の PGHD は非投球側肩関節と比較して有意. Statistics 21 を使用し,有意水準は 5% とした。. に高値であった(表 2)。. 7.説明と同意ならびに倫理的配慮. 2.投球側肩関節と非投球側肩関節における後方関節唇.  各研究協力者には本研究の趣旨と目的および検査と測. 病変,上腕骨頭の骨病変の比較(表 3,4). 定について説明を十分に行い,書面にて研究への参加の.  投球側肩関節の後方関節唇病変,上腕骨頭の骨病変は. 同意を得た。本研究は,茨城県立医療大学倫理委員会の. 非投球側肩関節と比較して有意に多かった。. 承認(承認番号 629)を得て施行した。 結   果 1.投球側肩関節と非投球側肩関節における ER,IR, HFT,PGHD の比較. 3.投球側肩関節と非投球側肩関節の各外旋角度におけ る PGHD の比較  投球側肩関節の PGHD は 90°外旋位よりも 110°で有 意に低値であり,肩関節外旋角度が増大すると上腕骨頭.  投球側肩関節の ER は非投球側肩関節と比較して有意. と肩甲骨関節窩後縁の骨間距離が狭小した(表 5)。ま. に高値であり,投球側肩関節の IR,HFT は非投球側肩. た,非投球側肩関節の 90°と 100°外旋位における PGHD. 関節と比較して有意に低値であった(表 1) 。また,投. に有意差は認めなかった(表 6)。.

(6) 大学野球選手の投球側肩関節に関する研究. 表 5 投球側肩関節の各外旋角度における PGHD の比較 PGHD(mm) 外旋角度 90°. 9.5 ± 1.8.      100°. 7.9 ± 1.8.      110°. 7.3 ± 1.3. Kruskal-Wallis 検定. †. 143. ピンジメントの病態所見との関連性を検討している。か つ屍体研究ではあるが,Mihata ら. 7). は屍肩を用いて前. 方関節包の切開と後方関節包の縫縮を行い,投球側肩関 0.020*. †. 節の外旋可動域の拡大と内旋可動域の制限を再現し,前 方不安定性および後方関節包拘縮が上腕骨頭と肩甲骨関. †. n=11, :90°外旋位よりも 110° で有意に低値(p=0.015) , PGHD:Posterior glenohumeral distance, *:p<0.05.. 節窩後縁の接触圧を増大させると報告している。これら の先行研究と本研究の結果から,外旋可動域の拡大,内 旋可動域の制限,HFT 低下といった機能的特徴を有す る投球側肩関節は肩関節外旋角度の増大に伴い上腕骨頭. 表 6 非投球側肩関節 の各外旋角度における PGHD の 比較 §. PGHD(mm) 外旋角度 90°. 5.9 ± 1.4.      100°. 4.9 ± 1.2. 対応のある t 検定 0.103. と肩甲骨関節窩後縁の接近に関与する可能性がある。し かし,本研究における投球側肩関節は非投球側肩関節と 比較して,後方関節唇病変や上腕骨頭の骨病変を認め, PGHD も高値であった。そのため,肩関節外旋角度の 増大に伴う上腕骨頭と肩甲骨関節窩後縁の接近は投球側. n=6,§:非投球側肩関節外旋可動域(°)の平均値±標準偏差, 最小値,最大値はそれぞれ 106.5 ± 5.8,100,115. その他説明は表 5 と同様.. 肩関節の機能的要因だけでなく,器質的要因も関係して いる可能性がある。また,本研究で用いた肩関節の可動 域検査は上腕骨後捻角. 18). も影響を及ぼしていることが. 推測され,必ずしも前方不安定性や後方関節包拘縮を反 映した指標になり得ない。今後はそれらの研究課題を明. 考   察. らかにし,肩関節可動域と PGHD との関連性を検討す.  本研究では,非投球側肩関節の各外旋角度における. る必要がある。. PGHD に有意差は認めなかったが,投球側肩関節は 90°.  研究の限界として,本研究は Open MRI による静的. 外旋位よりも 110°外旋位で PGHD が低値を示し,肩関. 評価であるため,動的評価ならびに関節間力を考慮に入. 節外旋角度が増大すると,上腕骨頭と肩甲骨関節窩後縁. れ,より投球に近似した測定方法を考案する必要があ. 9). は,肩関節外旋. る。また,MRI 撮像によって得られた肩関節外旋角度. 角度の増大は下関節上腕靭帯が緊張し,上腕骨頭を後方. 別の PGHD は肩甲上腕関節だけでなく肩甲胸郭関節の. 移動させると述べており,この解剖学的要因が上腕骨頭. 後傾などを含めた計測値の可能性がある。しかし,MRI. と肩甲骨関節窩後縁の接近に関与したと考えられる。本. 撮像肢位が腹臥位であったため,検査者は肩甲胸郭関節. 研究の測定肢位の最大外旋角度は 110° であったが,110°. と体幹の代償運動がないことを視診・触診で確認できた. の骨間距離が狭小した。Burkhart ら. 13). ,そこに関. こと,非投球側肩関節の対象数は少なくなってしまった. の通り,レイト. が,対象となった肩関節は MRI 撮像で必要な外旋可動. コッキング相で上腕骨頭と肩甲骨関節窩後縁に応力が集. 域を有していたことから,肩甲胸郭関節などの代償運動. 中し,骨病変の要因となる可能性がある。実際に,本研. をほぼ抑制して PGHD が計測できたと考える。最後に,. 究に協力した投球痛のない大学野球選手の投球側肩関節. 上腕骨頭と肩甲骨関節窩後縁が接近する要因として,肩. は後方関節唇および上腕骨頭に病変を認めたことから,. 関節外旋角度だけでなく水平伸展角度が挙げられる. この一因として,本研究の結果で得られた肩関節外旋角. 水平伸展角度の増大に伴う上腕骨頭と肩甲骨関節窩後縁. 度の増大によって生じる上腕骨頭と肩甲骨関節窩後縁の. の接近が解剖学的要因であるのに対して,外旋角度は解. を超える外旋運動で投球する選手もおり 節間力も加われば,石井らの報告. 接近が挙げられる。Miyashita ら. 2)3). 13). は,投球のレイト. 19). 。. 剖学的要因だけでなく肩関節の軟部組織の影響を受ける 4)6‒9). ,不明瞭な部分が多い。そのため,. コッキング相における肩関節外旋運動は肩甲上腕関節だ. との報告があり. けでなく,胸椎や肩甲胸郭関節の複合運動からなると報. 本研究では肩関節外旋角度に着目して PGHD を調査し. 告していることから,肩関節複合体の機能を向上させ,. た。今後は本研究で用いた PGHD と水平伸展角度との. 投球時の正常可動域. 15). を超える肩甲上腕関節の過度な. 外旋運動を抑制することが上腕骨頭と肩甲骨関節窩後縁 の接触を軽減することにつながると示唆された。. 関連性も検討する必要がある。 結   語.  また,本研究に協力した大学野球選手の投球側肩関節.  本研究は Open MRI を使用し,投球痛を伴わない大. は外旋可動域の拡大,内旋可動域の制限,HFT 低下を. 学野球選手における投球側肩関節の外旋角度の増大に伴. 認めた。Myers ら. 16). は投球側肩関節の外旋可動域の拡. 大,内旋可動域の制限,HFT 低下とインターナルイン. う上腕骨頭−肩甲骨関節窩後縁の骨間距離(PGHD)を 明らかにした。.

(7) 144. 理学療法学 第 47 巻第 2 号.  投球側肩関節は非投球側肩関節と比較して,肩関節外 旋可動域の拡大,内旋可動域の制限,HFT 低下を認め, 後方関節唇病変および上腕骨頭の骨病変も多かった。そ して,投球側肩関節は外旋角度が増大すると,PGHD が低値を示したことから,投球のレイトコッキング相に おける正常可動域を超える肩関節外旋運動は上腕骨頭と 肩甲骨関節窩後縁の接触に関与する可能性がある。 利益相反  本研究に関連して,筆頭著者および共著者に開示すべ き利益相反はなかった。 文  献 1)Walch G, Boileau P, et al.: Impingement of the deep surface of the supraspinatus tendon on the posterouperior glenoid rim, an arthroscopic study. J Shoulder Elbow Surg. 1992; 1: 238‒245. 2)石井壮郎,向井直樹,他:投球姿勢における肩関節の応力 分布シミュレーション─有限要素法解析と MRI との相関─. 日本臨床スポーツ医学会誌.2010; 18: 280‒289. 3)石井壮郎,宮川俊平:投球障害肩の力学的モデルの開発─ 投球動作における肩関節の応力分布のシミュレーション─. 肩関節.2011; 35: 939‒943. 4)Jobe CM: Posterior superior glenoid impingement, expanded spectrum. Arthroscopy. 1995; 11: 530‒537. 5)Harbrecht JL, Tirman P, et al.: Internal impingement of the shoulder, comparison of findings between the throwing and nonthrowing shoulder of college baseball players. Arthroscopy. 1999; 15: 253‒258. 6)Rizio L, Garcia J, et al.: Anterior instability increase superior labral strain in the late cocking phase of throwing. Orthopedics. 2007; 30: 1‒9. 7)Mihata T, Gates J, et al.: Effect of posterior shoulder tightness on internal impingement in a cadaveric model. of throwing. Knee Surg Sports Traumatol Arthorosc. 2015; 23: 548‒554. 8)Grossman MG, Tibone JE, et al.: A cadaveric model of the throwing shoulder, a possible etiology of superior labrum anterior to posterior lesion. J Bone Joint Surg. 2005; 87: 824‒831. 9)Burkhart SS, Morgan CD, et al.: The disabled throwing shoulder spectrum of pathology Part I, pathoanatomy and biomechanics. Arthroscopy. 2003; 19: 404‒420. 10)Walton J, Paxinos A, et al.: The unstable shoulder in the adolescent athlete. Am J Sports Med. 2002; 30: 88‒94. 11)田崎 篤,森田 亘,他:Internal impingement の形状は 投球数の増加により変化する.肩関節.2011; 35: 953‒956. 12)鈴木一秀:スポーツ選手の腱板断裂に対するリハビリテー ションと手術療法.整形・労災外科.2005; 48: 151‒159. 13)Miyashita K, Kobayashi H, et al.: Glenohumeral, scapular, and thoracic angle at maximum shoulder external rotation in throwing. Am J Sports Med. 2010; 38: 363‒368. 14)信原克哉:肩─その機能と臨床─(第 4 版).医学書院, 東京,2013,pp. 349‒415. 15)中村隆一,齋藤 宏,他:基礎運動学.医歯薬出版,東京, 2002,pp. 464‒473. 16)Myers JB, Laudner KG, et al.: Glenohumeral range of motion deficits and posterior shoulder tightness in throwers with pathologic internal impingement. Am J Sports Med. 2006; 34: 385‒391. 17)Laudner KG, Moline MT, et al.: The relationship between forward scapular posture and posterior shoulder tightness among baseball players. Am J Sports Med. 2010; 38: 2106‒2112. 18)Polster JM, Bullen J, et al.: Relationship between humeral torsion and injury in professional baseball pitchers. Am J Sports Med. 2013; 41: 2015‒2021. 19)Mihata T, McGarry MH, et al.: Excessive glenohumeral horizontal abduction as occurs during the late cocking phase of the throwing motion can be critical for internal impingement. Am J Sports Med. 2010; 38: 369‒374..

(8) 大学野球選手の投球側肩関節に関する研究. 〈Abstract〉. Effect of Glenohumeral External Rotation Position on the Posterior Glenohumeral Distance in the Throwing Shoulders of College Baseball Players: An MRI Study of the Simulated Late Cocking Phase during Baseball Throwing. Makoto TAKAHASHI, PT, MS Department of Rehabilitation, Hitachino Orthopedic Clinic Koji IWAMOTO, PhD, Masafumi MIZUKAMI, PhD Department of Physical Therapy, Ibaraki Prefectural University of Health Sciences Masahiko MONMA, PhD Department of Radiological Sciences, Ibaraki Prefectural University of Health Sciences. Purpose: The purpose of this study was to assess the effects of external glenohumeral rotation position on the posterior glenohumeral distance (PGHD) in asymptomatic throwing shoulders. Methods: Eleven asymptomatic male college baseball players (11 throwing shoulders) participated in this research. The PGHD was calculated using MRI scans. MRI measurement positions were 90° of shoulder abduction with external rotations of 90°, 100°, and 110°. Results: Measures of PGHD were significantly less during 110° external rotation compared to 90° external rotation. Conclusion: The PGHD was significantly less when shoulder abduction occurred in more externally rotated positions. Key Words: Shoulder joint, Glenohumeral external rotation position, Posterior glenohumeral distance. 145.

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参照

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