日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P2-68 432
-SNS形式のインターネットサイトによる認知行動療法の調査研究
―サイト利用条件が利用者の気分・行動・自己効力感に与える影響について―
○陶 貴行1)、井上 雅彦2)、竹田 伸也2)、榎本 大貴1) 1 )株式会社LITALICO、 2 )鳥取大学 【問題と目的】 近年,インターネットを用いた認知行動療法(以下, 「iCBT」と言う.)が注目されており,その効果研究が 増えている(今村・川上,2015).本研究では,SNS形 式のiCBTサービス「U2plus」(東藤,2016)の新規登 録者に対して抑うつの程度,サイトへのアクセス条件 など,その効果に影響する変数について探索的に検討 することを目的とした. 【方法】 1 .調査対象・調査方法・調査期間 2017年 3 月から 6 月の間にU2plus登録時に研究協力 の承諾が得られた者を調査対象とした.初回調査では 129名, 3 か月後の調査では35名の回答が得られた.調 査依頼はU2plus登録時に自動的にメール配信され,任 意でWebアンケートにアクセスした場合に調査説明を 行い,同意した者だけ回答できるよう条件分岐した. 2 .調査材料 U2plusとは:U2plusはSNS形式のiCBTで,主なコン テンツはうつ病の認知行動理論の心理教育,FunCan (MP法),U2サイクル(ケースフォーミュレーション), コラム(認知再構成法)である(東藤,2016).利用 コメントを利用者同士で「いいね」と励ましあえるが, フリーコメントはできず,交流の安全性に配慮されて いる. 基本情報:年齢,性別,通院,診断,インターネッ ト利用時間,睡眠時間,外出日数に関する回答を求め た. 抑うつ:CES- D を使用.4件法,20項目であった. ストレス反応:SRS-18(鈴木ら,1997)を使用. 4 件法,18項目であった. 行動活性化:BADS-SF(山本ら,2015)を使用. 7 件 法, 8 項目であった. 主観的報酬知覚:日本語版EROS(国里ら,2011)を 使用. 4 件法,10項目であった.Task Specific Self Efficacy(TSSE):竹田(2015) を参考にU2plus利用に伴う認知・行動変容に関する自 己効力感の項目を作成. 4 件法, 7 項目であった. U2plusアクセスデータ:サイト利用登録から2017年 12月までの間のサイトへのログイン回数,FunCan,U2 サイクル,コラムの入力回数を取得. 3 .分析 事前事後比較デザインによりU2plusの効果を検討し た. 4 .倫理的配慮 調査への協力依頼文書で,回答は任意,匿名であり, 回答データは統計的に処理され,個人の特定や個別回 答の公表はなく,個人の不利益には一切ならないこと を説明した. 【結果】 1 .調査対象者の属性 性別および年齢:調査対象者129名(37.62歳±9.91) の内,男性41名(37.20歳±10.73),女性85名(38.02 歳±9.58)であった.また,事前事後両データの得ら れた35名(37.77歳±9.64)では,男性11名(33.64歳 ±8.58),女性23名(40.26歳±9.42)であった. 診断名(重複あり):大うつ病性障害37名,持続性 抑うつ障害36名,不安症25名,適応障害,10名,双極 性 障 害16名, 統 合 失 調 症 5 名,ASD8名,ADHD10名, LD1名,パーソナリティ障害 2 名,PTSD5名,強迫性障 害 4 名,摂食障害 8 名,その他23名,該当なし12名で あった. 通院:精神科通院あり101名,通院なし25名,カウ ンセリングのみ 3 名であった. 2 .事後データの有無によるデータの等質性 事後データの有無(有り群n=35,無し群n=94)を独 立変数に,各尺度, 1 週間当たりのネット使用時間, 睡眠時間,外出日数,U2plusへの総ログイン数および 各コンテンツの入力総数を従属変数にして t 検定を 行ったが,いずれも有意な差はなかった.また,事後 データの有無別に 1 〜 7 ヶ月目までの各コンテンツ平 均入力数の推移をFig.1に示す.なお,事後データの 有無(有り群n=35,無し群n=94)を独立変数に,各コ ンテンツ入力回数を従属変数にして各月で t 検定を 行ったが,いずれも有意差はなかった. 3 .事前事後の変化 事前事後データが両方あった35名に対して,事前事 後の時期を独立変数に,各尺度,週のインターネット 使用時間,睡眠時間,外出日数を従属変数にして t 検 定を行った結果,CES-D (t =3.58,df =34,ρ <.01), SRS18(t =3.82,df =34,ρ <.01),BADS-SF(t =-3.41, df =34,ρ <.01),TSSE(t =-2.02, df =34,ρ <.05)で, それぞれ有意差が見られた.CES- D のは32.00から 23.97に減少した.
日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P2-68 433 -4 .コンテンツの入力回数が各尺度に与える影響 各尺度に影響を与える要因を検討するために二要因 分散分析を行った.要因 1 は事前事後の時期とし, 3 か月間の入力回数をFunCan(高群17名,低群17名)は 中央値で,U2サイクル(高群10名,低群24名)とコラ ム(高群 9 名,低群25名)は平均値で分類し要因 2 と した.その結果をTable.1に示す. 【考察】 本研究の目的は,SNS形式iCBTにおいて抑うつの程 度やサイトアクセス条件などの影響を与える変数を探 索的に検討することであった.調査の事前事後で回答 者数が減少したが,事後回答の有無による各尺度や各 コンテンツ平均入力回数に有意差はなく等質性がある と考えられる.事前事後比較の結果,EROSを除く各尺 度で有意差が見られた.特に抑うつに関しては平均値 で中等度から軽度に改善していた.次に,事前事後の 時期要因と各コンテンツの入力回数の高低要因が各尺 度に与える影響を検討したところ,入力回数の多い FunCanにおいて,いずれの尺度でも有意な交互作用, 交互作用に有意な傾向が確認された.U2サイクルとコ ラムについては,CES- D およびTSSEにおいて有意な交 互作用が確認された.単純主効果検定では,FunCan入 力回数高群は 3 か月後に多くの尺度で有意な改善が見 られた.U2サイクルとコラムにおいては,入力回数高 群・低群ともに事前事後でCES- D が有意に減少した. U2サイクルやコラムは利用数が低く,利便性や難易 度,入力に伴う強化子などに改善の余地があると考え られる. 今村ら(2015)が紹介したiCBTプログラムではいず れも対面式の認知行動療法と同様に期間や回数が示さ れていた.U2plusには特に期間や回数に定めがなく長 期利用が可能な点,専門家の関与がなくSNS機能を通 じた利用者同士のエンパワメントをサイト利用の強化 子とする点が他に例を見ない.サイト利用の離脱要因 や長期利用の再発予防効果については本研究では明ら かにできず,今後の研究課題である. 【文献】 今村幸太郎・川上憲人.(2015).インターネット認 知行動療法(iCBT)の現状と効果-主にうつ病を対象 とした文献レビュー-.臨床精神医学, 44, 1059-1065.