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318 T. SICE Vol.52 No.6 June 2016 (a) (b) (c) (a) (c) ) 11) (1) (2) 1 5) 6) 7), 8) 5) 20 11) (1

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(1)

計 測 自 動 制 御 学 会 論 文 集 Vol.52, No.6, 317/329(2016)

高度熟練技能における数理解析モデルおよび制御解析法の構築

ならびに書道の運筆活動における潤渇への適用

・土

Mathematical Model and Analysis on Human’s Handwork and Their Application to Brush Motion

and “Junkatsu” of Japanese Calligraphy

Tadamichi

Mawatari

and Kensuke

Tsuchiya

There is an increasing need to automate handwork by skilled workers in industry. However, that handwork is usually difficult to express clearly in words. Furthermore, human’s motion contains time and spatial pertur-bations, and this makes the automation even more difficult. In this report, spline functions are applied first to motion-capture data of brush strokes of Japanese calligraphy, and mathematical model of human’s technique is established. Then, the isomorphism mapping method is introduced to deal with the time perturbations, and Min-Max norm was applied to deal with the spatial perturbations. Furthermore, a new analytical point of view called controllability is introduced to the mathematical model, and the “target curve” is derived as the goal of the automation. The motion control theory based on controllability is hereby established to automate human’s handwork.

Key Words: perturbation, isomorphism, min-max norm, controllability, mathematical model

1.

は じ め に 日本国内の製造業において,従来は熟練者による“巧みな 作業”が競争力の源泉と考えられてきた.“巧みな作業”はき わめて属人的で,継承には作業者が10年単位の時間を費して 技能を習得するのが一般的であった.しかし昨今は市場も生 産もグローバルに展開されるため,世界中のどこででも同じ 品質を同じタイミングで実現することが求められている.こ うした産業の潮流変化の中で,限られた時間・コスト・労力 での人材育成や,技能の機械化・自動化による品質向上のた めに,“巧みな作業”を定量的・客観的に記述することが強く 求められている1).ここで“巧みな作業”とは,訓練によっ て身体が覚えた高度な技術であり,高度熟練技能あるいは身 体知などと呼ばれているものである.高度熟練技能について は,維持・継承のための施策は講じられておらず,そのため, 技能者がそれを習得しようとしても,目指すべきレベルや自 己の現状レベルを知るための情報はなかった2).身体知に関 する研究は,多数報告されている3).しかし,1身体知の記 号表現が困難であるため,外界とのインタラクションが習得 の本質であること,2習得に個人差が強く影響するため,最 東京大学生産技術研究所 東京都目黒区駒場 4–6–1

Institute of Industrial Science, The University of Tokyo, 4– 6–1 Komaba, Meguro-ku, Tokyo

(Received June 20, 2015) (Revised March 13, 2016) 善の方法を一意的に決定することができず,特定の被験者に よる実験結果を直ちに一般化できないこと,3身体知の全体 の体系化や,個別技能の客観的かつ定量的な取り扱いができ ないため,継承利用が容易でないこと,という3つの難問を 避けて通れないため,根本的な解決には至っていない. 著者らの一連の研究では上記の難問1∼3のすべてを有す る作業群を対象とし,それを解決することを目的とするが,本 研究では,まずは難問1を解決するために,作業を記述する主 要なパラメーターが時間と共に連続的に推移する作業を対象 とし,“作業者が意図する作業”を表現する数理解析モデルお よび制御解析法の構築を目的とする.本研究では,作業者が 意図する作業を抽出するプロセスを“身体知の具象空間への 変換作業”,その結果を活用する技術を“知能化技術”と呼ぶ. 身体知を含む熟練作業例は無数に存在し,その記述方法も各 作業の特性によってそれぞれ異なる.本研究では,それらの 中でももっとも単純かつ汎用性が高いと考えられる,単一剛 体ツールを人手で動かす作業を対象とする.たとえば,トー チを用いた溶接,スプレーによる塗装,ケーキのデコレーショ ン,歯科治療における歯の切削,彫刻刀による木彫りなどが 上記の作業に含まれる.これらすべての作業において,剛体 と見なせる単一ツールをどのように動かすかが身体知となっ ている.上記作業群の具体例として,本研究では書道におけ る運筆活動を取り上げ,身体知の数理解析モデルおよび制御 解析法の基礎を構築する.研究遂行の手順として,まず,運 筆活動の動的挙動をいわゆる書道における技法の枠組みを踏 TR 0006/16/5206–0317 c 2015 SICE

(2)

まえて観察し,つぎに,その際の筆づかいをモーションキャ プチャーを用いて計測することで数値データに変換する.さ らに,数値データを種々に分析することによって,目的とす る知見,すなわち,(a)運筆挙動を適確に表現する数理解析 モデルおよびその挙動特性に関する数理解析法,(b)個人差 および作業習熟度レベルの定量的表現法,および(c)身体知 の継承利用において最も基礎的な可制御性の解析法,の構築 を目指す.以降では,書道における運筆活動を基礎的な例と して議論を展開するが,本研究の成果は,単一剛体ツールを 人手で動かす作業全般に適用可能であると考える.本論文は 6つの部分よりなる.すなわち,第1章で緒論を述べたあと, 第2章で研究対象と問題設定を述べ,第3章でモデル構築の 前処理としての雑音除去,第4章で数理解析モデルの構成と 時間摂動除去,第5∼9章で解析と評価について述べ,最後に 第10章で本研究を総括する.

2.

研究対象と問題設定 2. 1 身体知の具象空間への変換方法 身体知の伝承・継承に関する分野では,これまでは高度熟 練技能に関する汎用性のある理論は存在しなかった.なぜな らば,この分野における唯一の評価関数は,作業者の主観的 な感覚に対する作業結果の良否のみであり,作業者の試行錯 誤によってのみ技能が習得されるため,理論に相当するもの が表出されないからである.この状況において著者らは,高 度熟練技能に関するすべての研究においては,‘高度熟練技能 の中核部分を適切に表現している数理解析モデルの構築’が最 優先事項であり,そのほかの事項はこれを基本的枠組みとし て探究されるべきであると考える.そして書道の中核部分に は,本研究で対象とするどの高度熟練技能に対しても重要な 共通部分があるとともに,長い歴史を踏まえて培われた書家 の運筆活動および関連文書の中には,本研究にとって有効な ヒントを少なからず含んでいることに着眼する.著者らの一 連の研究では,上記の考えおよび着眼を要諦としつつ,今回の 目的である前章末の(a)∼(c)を手始めとして研究に着手し, 以後は高度熟練技能の理論的事項を優先して検討し,続いて 実際の利用に関する必要事項について探求し,これらの一連 の過程を通して,高度熟練技能に関する広大で深奥なる知見 を体系的に解明することを目的とする.本研究では,ツール の位置と姿勢の6次元に加えて,ツールとワークの関係を表 わす1次元を合わせた7次元の計測データセットに基づき数 理解析モデルを構成することで,技能の記号表現を実現する. また,人による作業には,開始から終了までの所要時間の ばらつきを意味する「時間的摂動」と,ツールの軌道のばらつ きを意味する「空間的摂動」とが必ず含まれる.このうち時 間的摂動に対しては,同型変換という方式でデータ長を時間 方向に統一することで対処する.また,空間的摂動に対して は,2つの軌道の間の距離としてソボレフ型ノルムを導入し, その大小について検討するという方式でその摂動に対処する. なお,個人差には一個人における個人内摂動,および複数人 の間における個人間摂動があるが,今回の研究では,時間的 摂動および空間摂動とも個人内摂動に関して考察する.しか しここで述べた解析法は,議論がやや複雑になることを除い て,個人間摂動についてもそのまま適用可能である. つぎに,可制御性および目標軌道という概念を導入し,構成 された数理解析モデルに対してウェーブレット分解などを適 用し,その概念の具現である理想化曲線を探索し,これを対 象としているツールに組み込むことで高度技術化を実現する. 以上に述べたプロセスによって,前述の単一剛体ツールを 人手で動かす高度熟練技能のすべてについて,身体知を具象 空間に変換することを提案する. なお,今回の研究は,前章の難問1∼3および前述の状況 のもとで作成された最初の論文であるので,現代において完 成した高度の定量的解析法が適用可能なレベルまで到達させ ることは予定していない.さらに,今回の研究では,高度熟 練技能において観察される‘汎用技術’の側面のみを対象とし ており,‘固有技術’の側面は対象としていない.書道におけ る例でいえば,「線質」「用筆」「造形」という運筆活動におけ る3要素は対象としているが,いわゆる「筆触としての芸術」 という書道の側面については対象としていない. 2. 2 対象とする書道の運筆活動 本研究で高度熟練技能の重要例としている書道の技法およ び書論に関しては文献4)∼11)に解説がある.その中で本研 究の目的に照らして今回の研究で著者らが着眼する最も基本 的な部分は以下の(1)および(2)のとおりである. (1)著者らの研究では,プロの書家が運筆活動を行なう例を 文献5)における登場人物が行なう例示活動とし,書道の基礎 部分は文献6),それより上級部分は文献7), 8)に準拠する. そして,文献5)に登場するプロの書家20人の運筆活動につ いて,文献11)の第6節および第7節の観点から注意深く観 察し,書道における運筆活動を支配する要因を特定する.そ れらの中で最も基本的なものは,文字構成,運筆法,筆圧,お よびこれらの遅速緩急の4種であることがわかった.結果と して運筆活動を表現する数理解析モデルは,注目している筆 づかいを上記4種の観点から観測し,その動的挙動の変化の ようすを数学の述語を用いて記述したものであるということ ができる. (2)上記(1)より,書道における運筆活動は,筆の位置(X, Y,Z),姿勢(Yaw,Pitch,Roll),および筆圧(P d)の7 成分からなる7次元動的挙動として捉えることができる.以 後,この観点からその数理解析モデルを構成することを基礎 的着眼点とする.ここでの数理解析モデルは,詳細は後で述 べるが,数値解析における関数論の知見を援用し,観測され た時系列の離散データから時間を独立変数とする滑らかな関 数として各成分関数を構成したものとなる.その結果として, この7次元ベクトル値関数に対して厳密な数理解析が可能と なる.このことは一般の知能化技術においても同様である. 2. 3 実験装置および計測データの記録法 著者らの研究においては,当該高度熟練技能者の活動をモー

(3)

Fig. 1 Motion capture system

Fig. 2 Motion capture markers attached to Mouhitsu

ションキャプチャーシステムを用いて計測する.Fig. 1に同 システムの外観を示す.同システムのデータ計測法は,当該 技能の熟練度の相違にかかわらず,同一である. 書道における運筆活動の場合,計測に際しては筆をFig. 2 のようにもち,モーションキャプチャーマーカーを軸先に取 り付ける.そして,運筆挙動の開始から終了までを,(i)準 備段階(1st Phase),(ii)運筆段階(2nd Phase),(iii)後始 末段階(3rd Phase)などの3段階に分けて観測する.

上記の計測で得られた一定時間内の時系列計測値の集合の 一組をつぎの記号で表わす.

TotalData(Id, Time, X, Y, Z, Yaw , Pitch, Roll, P d).

(1) 以下では上記の集合一組における9つの成分のおのおのを成 分集合と呼ぶ.さらに,上記において一回の計測活動を‘1テ イク’,1回の計測活動で得られたモーションキャプチャーデー タ一組を‘1テイクデータ’,そのようなテイクデータのn組 を‘n–テイクデータ束’などと呼ぶ.この際の計測単位はつぎ のとおりである. Time → sec,X,Y,Z→ mm

Yaw,Pitch,Roll→ deg,P d→ gf/mm2

計測されたデータの品質評価のため,その動的挙動をコン ピュータ画面上に描画し,計測時の作業動作および計測環境 などを合わせて総合的に検討し,不良部分が検出される場合 には,その1テイク分のデータを廃棄し計測しなおすことと する.これにより計測データには本研究の以後の部分に関し て支障はない水準にあると評価する.

Fig. 3 Coordinate system for motion data Table 1 Experimental data

2. 4 今回の研究における運筆活動 2. 2節および2. 3節で述べたことは,運筆活動における“身 体知の具象空間への変換作業”に関する研究全体においても 共通な事項であるが,本節では今回の研究に限定される事項 について述べる.これは前2節に何らの影響も及ぼさない. 本研究の手始めとなる今回の時系列データ計測における実 験用の設定場面は,25名に及ぶ一流の書道家を被験者に選び, Fig. 3のとおり座標系を定め,そこで各被験者が“の”とい う文字を通常の紙(半紙)の上に前述した書道の技法で多数 回(今回は13回以上)書いていくものとし,以後,上記の各 段階(i)∼(iii)を反復適用していく.ここでデータ座標軸 は,Fig. 3の左下に示すように,紙面に対して横方向をX軸, 鉛直上方をY軸,紙面に対して縦方向をZ軸とする.この文 字を選択した理由は,運筆時における筆の位置および筆圧に 変化があり,また,この文字の第一画の最下端から左上に向 かう際に「筆を当てる」という書道の技法を適用するが,そ のとき,筆の姿勢にも変化があり,結果として著者らの研究 で着眼している7次元成分の動的挙動における変化が明確と なって好都合となるからである.本実験により得られた1被 験者の各段階(Phase)に関する計測データの概要はTable 1のとおりである.他も同様である. 表のデータラベルの記号の意味は以下のとおりである. ・Start 開始番号,時刻 ・P 1 データ計測時の準備段階 ・P 2 データ計測時の運筆段階 ・P 3 データ計測時の後始末段階 ・ID 計測データ番号 ・End 終了番号,時刻 本研究で使用した実験器具には筆圧の測定機能がなかった. 今後はその機能の具備が望まれるが,筆の上下運動の距離と 筆圧とはほぼ比例していることは以前から12)よく知られてお り,毛筆による実際の描画においても容易に体験できること を斟酌して,今回は,筆圧がY座標に顕著に現れることに注

(4)

意し,つぎの式により筆圧を推定したもので代用する. P d(t) = ω[min{Y } + max{Y } − Y (t)]. ここで,ωは変位から筆圧への変換係数である. 今回の研究では軌道の動的挙動に主眼があり,一次従属性 の条件が敏感となる事項のような代数学的な解析は行なわな いので,その代用により支障は何も生じない.

3.

数理解析モデル構成の前準備

ノイズ除去 さて,著者らの研究において出発点として最も重要である 動的挙動の数理解析モデルを構成する作業に着手する.Table 1のデータはもちろんのこと,一般に,(1)式により得られた 計測データの各成分には,モーションキャプチャーによる電 気的外乱,および作業者の摂動(手元ぶれ)など,さまざま な種類のノイズが混入しており,以降の詳細な解析に先立っ て,これらを可能な限り除去・低減しておかなければならな い.なぜなら,本研究では(1)式の形式で得られた離散時系 列データから,数値解析の知見を援用して滑らかな関数およ びその導関数を構成するが,その際,これらのデータにノイ ズが混入していると結果の精度が非常に悪くなるからである. 対象とする雑音が電気的なものに限定される場合は,たとえ ばFourier変換による高周波成分の除去という方法で雑音の 除去が可能であるが,当該データにはそれ以外の要因に基づ くノイズも混入している.したがってここでは,より強力な ノイズ除去法であるWavelet解析13)に基づくノイズ除去法 を用いる.ノイズ除去のアルゴリズムに関しては種々な方式 が提唱されているが,ここでは参考文献14)に基づくノイズ 除去法を採用する.その結果,(1)式の中にある9個のデー タ集合の中で,2つのデータ集合IdおよびTimeを除いた残 り7個のデータ集合に対し,上記の方法でノイズ除去した時 系列データ集合の組:

DenoiseData(X, Y, Z, Yaw , Pitch, Roll, P d). (2) が構成される.これにより入力データの品質が確認される. 以後,4. 1節における曲線の当てはめ,4. 2節および4. 3節 における同型変換とその利用などを経て,4. 4節において目 的とする数理解析モデルを構成し,残りの節や章において予 定されたほかの問題について順次検討を進めていく. 以上の一般的な算法が,本研究で例としている書道の運筆 活動に何ら支障なく適用できることは,確認済みである.こ のことは以下のすべての章に関しても同様であり,特に必要 がある場合を除いて,このことをいちいち断らない.

4.

数理解析モデルの構成と時間摂動除去 4. 1 Cubic Spline関数曲線の当てはめ モーションキャプチャーを用いて得られた計測データは離 散的なものである.運動の傾向を正確に把握するためには何 らかの方法で曲線の当てはめを行ない,連続量とする必要があ る.その際の当てはめ曲線の関数形は,本研究で計測した時

Fig. 4 Idea of isomorphism

系列データの時間間隔が本研究の目的に対しては十分小さい ことを考慮し,数値解析における近似関数の誤差評価に関す る知見を援用すれば,各計測点をknotとするCubic Spline 関数で精度は十分であるといえる.具体的には,上記7成分 の計測値数列のおのおのを2. 3節(i)∼(iii)にある3つの 段階に分割した21個の計測値数列,さらにはこれらの計測を 試行した回数に応ずるもの,合計273個の計測値数列に対し てCubic Spline関数を当てはめる.ここで問題となるのが, 上記273個のSpline関数においてそれらの定義域がすべて 異なるために,このままでは相互の比較が困難となり,これ らの関数列から有力な情報を抽出できないという不都合があ ることである.これは上記(2)式が手動操作の計測値である がゆえに,計測試行時における開始時刻,経過時間,終了時 刻のおのおのが異なるため,この不都合は不可避である.こ れらは2. 1節で述べた「時間的摂動」である. 4. 2 関数の同型変換 著者らの研究では上記の時間的摂動を克服するため,以下 に示す「関数の同型変換」という新しい概念を導入する. 閉区間[ta, tb]上で定義された実数値関数fが,閉区間[τa, τb] 上で定義された実数値関数gと同型(isomorphism)であると は,つぎの関係が成り立つことをいう(Fig. 4). f (tα) = g(τα) where

tα= ta+ α(tb− ta), τα= τa+ α(τb− τa), α: 0≤ α ≤ 1. (3) ここでつぎの2点を,互いに対応する点という.



tα= ta+ α(tb− ta), τα= τa+ α(τb− τa). (4) さらに上記において,fgの同型変換,あるいはgf の同型変換といい,このことをつぎの記号で表わす. f≈ g : f ∈ C[ta, tb], g∈ C[τa, τb]. (5) この同型変換に関してつぎの定理4.1が成り立つ. 定理4.1 任意の同型変換:

(5)

f≈ g : f ∈ C[ta, tb], g∈ C[τa, τb] において一方が微分可能ならば他方も微分可能であり,互い に対応する(4)式で示す点において,つぎの関係が成り立つ. d dtf (tα) = τb− τa tb− ta · d dτg(τα). (6) 証明(証明はやや長くなるが,直線的なので省略する.) [注意] (6)式における係数(τb− τa)/(tb− ta)は,関数fg それぞれの定義域[ta, tb],[τa, τb]の両端ta,tb,τa,τbであ る4つの数のみに依存して決まる定数であり,各定義域内の ほかのいかなる点にも依存しない.したがって(6)式は,「同 型変換により,導関数は定数倍を除いて不変である」ことを 意味する. 関数の定義域が複数の区間に分割される場合には,区間ご とに同型変換を行なうものとして,全区間上の同型変換を定 義する.今後は特に必要である場合を除いて,このことをい ちいちことわらない. 4. 3 同型変換を利用した数理解析モデルの構成 前節における同型変換の概念を用いると,2. 1節で述べた手 作業にかかわる時間的摂動という問題点は,つぎのようにし て数理的に厳密に取り扱うことができる.まず,位置(X,Y, Z),姿勢(Yaw,Pitch,Roll),筆圧(P d)などの7個の実験 関数の中の1つを任意にとり,それを暫定的にg∈ C[τa, τd] で表わすこととする.これは計測テイクデータおよび2. 3節 (i)∼(iii)における3つの段階:準備段階,運筆段階,後 始末段階ごとに異なる.これらの同型変換先の定義域を任意 に,しかし当該変換の目的に応じて適切に定め,それらの定 義域を連結して同型変換先の定義域が定まる.その結果,同 型変換f∈ C[ta, td]が得られる. このような同型変換は,位置(X,Y,Z),姿勢(Yaw,Pitch, Roll),筆圧(P d)を表わす合計7個の連続関数に適用する ことができる.これらの7成分を一組にしたベクトル値連続 関数をΩ(t)とすると,これは(7)式のような数理的対象物 として表わすことができる.この数理的対象物は,本研究で 対象としている高度熟練機能に関する数理解析モデルである. すなわち,1回の技能活動は(7)式における1つの連続軌道 Ω(t)で表現され,多数回実施されるその運動の各試行は同一 の時間区間[ta, td]上の7次元関数空間C7[ta, td]内の要素と して表現されている. Ω(t)



X(t), Y (t), Z(t),Yaw (t), Pitch(t), Roll(t), P d(t)



, ∈ C[ta, td]× C[ta, td]× · · · × C[ta, td], ≡ C7[t a, td] (Product Space). (7) 結果として,手作業にかかわる「時間的摂動」は解消され 当該被験者の「空間的摂動」は,その運筆活動を表わす連続 軌道Ω(t)の関数空間C7[ta, td]内における変動(バラツキ) として,数理的に厳密に取り扱うことが可能となっている. [注意] (7)式における7個の成分関数に関して,実際の適用 の場面においては,定義域[ta, td]内の有限個の点において 連続でないか,または微分が定義できないことがあり得る. このときは‘連続’という用語を‘区分的連続’という用語に 置き換えるものとする.さらに一個の関数もしくは複数個の 関数について,何らかの性質もしくは関係式が,これらの有 限個の点を除いて成り立つことを,‘ほとんど至る所(almost everywhere)で成り立つ’という.以後においてこれらについ てはいちいち断らないものとする. 上記(7)式における7次元ベクトル値連続関数Ω(t)は,テ イクデータの識別番号をk:1≤ k ≤ nとするときΩk(t)と して表わすこととする.そしてΩk(t)をテイクデータk 動操作軌道’と呼ぶ.以上から,各テイクデータkの手動操作 軌道Ωk(t)は,同一の関数空間C7[ta, td]における一点とし て表現することが可能となり,結果としてC7[ta, td]は,各 テイクデータの手動操作軌道の数理解析モデルにおける基礎 空間として構成されたことになる. 4. 4 基礎空間におけるSobolev型ノルムの導入 (7)式によって手動軌道Ω(t)の数理解析モデルの基礎空間 C7[ta, td]が構成されると,これに対する数学演算は容易であ る.たとえば微分の計算は Ω(t) ≡ (Ω1(t),· · · , Ω7(t))∈ C7[ta, td]. d dtΩ(t)

d dtΩ1(t),· · · , d dtΩ7(t)

. (8) となる. 本 研 究 に お け る 7 次 元 の 手 動 操 作 軌 道 は ,単 に 位 置 (X, Y, Z),姿勢(Yaw , Pitch, Roll)および筆圧(P d)の7 成分を一組にした7次元ベクトル空間内の一点に過ぎないも のではなく,その点が決められた空間内を動的に動き回り, 幾何学的な7次元曲線を描くものであり,その時々刻々の動 きの解析も重要である.したがって7つの成分,およびそれ ぞれの7つの速度,計14成分をも同時に考慮する必要があ る.このため,つぎのようなノルム · Sを使用する.すな わち1変数連続関数の空間C[ta, td]において定義されるノル ム · (たとえば2次ノルム)を利用して,Sobolev型ノル ムΩSをつぎのように定義する. ΩS 7

i=1 ωiΩi + 7

i=1 ωi+7

d dtΩi

. (9) ここでωi≥ 0i = 1, 2,· · · , 14は(9)式の計算における重み である.手動軌道空間C7[ta, td]は(9)式で示したノルムの導 入によりノルム空間となったので,通常の数理解析の理論展開 を自由に行なうことができる.今後,手動軌道空間C7[ta, td] に(9)式によりノルムが導入された空間をSobolev空間と 呼ぶ.

(6)

Table 2 Experimental data after isomorphism transforma-tion 7次元手動操作軌道Ω(t)∈ C7[ta, tb]に関する今後の叙述 において,つぎのような部分軌道を抽出することがある. 位置(X,Y,Z)に関するもの: Ω[1, 3](t) = (Ω1(t), Ω2(t), Ω3(t)).

姿勢に(Yaw,Pitch,Roll)に関するもの:

Ω[4, 6](t) = (Ω4(t), Ω5(t), Ω6(t)). このときそれぞれをつぎのように呼ぶことにする: 位置部分軌道,姿勢部分軌道. さらに,n個の7次元手動操作軌道の一組: (n) =

Ωk(t)∈ C7[ta, td] : 1≤ k ≤ n



を,n-7次元手動操作軌道束という.この軌道束は,被験者 がn回試行した運筆活動全体を一組としてソボレフ関数空 間C7[ta, td]内に変換したもので,有界時間区間上の力学系 (dynamical system)である. 4. 5 今回の研究における同型変換 Table 1で示した今回の研究における計測データの同型変 換の概要はTable 2のとおりである.この表では各テイクに 対して内容が同一であるが,これはTable 1では顕著であっ た時間的摂動が確実に処理されていることを示す. 表のデータラベルの記号の意味は以下のとおりである. ・S 開始 ・GP 1 同型変換後の準備段階,計測値データ個数 ・GP 2 同型変換後の運筆段階,計測値データ個数 ・GP 3 同型変換後の後始末段階,計測値データ個数 ・E 終了 Table 2によれば,GP 1,GP 2,GP 3の大よその時間区 間は,単位を秒としてつぎのとおりである. GP 1: [0, 2.7], GP 2: [2.7, 10.1], GP 3: [10.1, 12.3] 4. 6 動的挙動における注目点 高度熟練技能を適用している際には,描画している曲線に おいてたとえば曲率や速度が急激に変化したりするなど,注 目する特徴点がある.上記に述べた書道の例では,Fig. 5に 示した「の」という文字の運筆活動を文献10)の観点から検 討する便宜のため,特徴点についてTable 3のとおり記号を

Fig. 5 y = Z(t) and its mean Table 3 Important points in brush motion

定める.この表の第1列にある各点を鍵点と呼ぶ.それらの 性質は第2列に,それらの筆跡上の時刻は第3列に示されて いる.鍵点を端点とする曲線を分弧と呼ぶ.分弧はつぎのよ うに書く. [[P S, P 1]], [[P 1, P 2]],· · · , [[P 5, P E]] 本論文における以後の各章において,「の」という文字の運 筆活動について,本文で説明したり,グラフFig. 5∼Fig. 13 を出力してその上で何らかの事項を説明したりするが,その 際には常に,Fig. 5およびTable 3を参照するものとする.

5.

数理解析モデルの妥当性の検証と連動確認法 5. 1 対象物の連動確認法 本研究の目的を達成するために,基礎となる数理解析モデ ルとして,上記に構成されたn-7次元手動操作軌道束を採用 する.しかし,その前に,この数理解析モデルの妥当性を検 証しておかなければならない.しかしながら,第1章で述べ た難問1があるため,従来の検証法(たとえばχ2検定法)は どれもここでは使用できない.それ故,ここではつぎの新し い方法によって検証する.この方法は本研究で対象としてい

(7)

Fig. 6 y = d

dtZ(t) and its mean

Fig. 7 y = Z(t) and its Min-Max curve

Fig. 8 y = d

dtZ(t) and its Min-Max curve

る一般の高度熟練技能にも適用できるが,ここでは説明の便 宜上,書道の例に関して説明する.すなわち,文献10)によ れば,「文字を書く際の筆の動きは立体動である.(中略).そ の立体的な動きの一断面が紙面に残された筆跡であるから, その筆跡は平面ではなくして,実は立体の映像なのである」. したがって,実際の運筆活動に基づくこの立体映像を想起し つつ,その筆跡における動的挙動とn-7次元手動操作軌道束 における動的挙動とを対比し,両者の連動状況を確認する.2 つの動的挙動の比較は,以下の4つのStepよりなる.

Fig. 9 Wavelet decomposition of y = d dtZ(t)

Fig. 10 y =dX(t)

dt and its target curve

Fig. 11 y = Yaw(t) total variation

それらを述べる前に,用筆法(たとえば,直筆,側筆,速 筆,遅筆),および運筆法(たとえば,あてる,折り返し,か すれ,逆入平出,虚掌実指,はね,はらい)は,これらを利用 して筆軸を前後左右に倒しながら筆を運ぶことにより,線質 に種々な表情をもたせたり,回転部や連綿の曲線をスムース に描き出したりするために利用するものであること[静的留 意点と呼ぶ],さらに,筆圧と速度とがからみあって動いて, 線の質(重い・軽い,強い・弱い,深い・浅いなど),線の形 (太い・細い,長い・短い,直線・曲線など),および筆の動き (緩急,抑揚,律動など)に無限の変化が生まれる10)こと[動 的留意点と呼ぶ]などを留意しておく必要がある. [Step 1]つぎの2つの対象物を設定する. 第1対象物:実際の運筆活動に基づく立体映像の断面とし

(8)

Fig. 12 Function y = λT(t) Fig. 13 Function y = ΦT(t) ての筆跡およびそれらの速度.これは,必要に応じて,文字 構成,運筆法,筆圧という3つの部分系に分割して考える. 第2対象物:n-7次元手動操作軌道束およびそれらの導関 数.これは,必要に応じて,位置部分軌道,姿勢部分軌道,筆 圧軌道という3つの部分軌道に分割する. [Step 2]第1対象物について,その筆跡もしくはその速度 の中で注目点のそれぞれをP 1,P 2,…,P k,さらに筆跡 の始点および終点をP SおよびP Eとする(Table 3参照). 鍵点列:“P S→ P 1 → P 2 →→ P k → P E”,およ びそれより構成される分弧列:[[P S, P 1]]→ [[P 1, P 2]] → ,· · · , → [[P k, P E]]に関して,それらの動的挙動を観察する. その際,前述した立体映像および2つの留意点も同時に想起 しながら考える. [Step 3]第2対象物について,n-7次元手動操作軌道束もし くはその導関数の中で,第1対象物における鍵点に対応する点 を読み取り,それぞれQ S,Q 1,Q 2,…,Q k,Q Eとする (Table 3参照).そして,第2対象物の中で,鍵点列:“Q S Q 1→ Q 2 →→ Q k → Q E”,およびそれより構成され る分弧列:[[Q S, Q 1]]→ [[Q 1, Q 2]] →, · · · , → [[Q k, Q E]] に関して,それらの動的挙動を観察する. [Step 4]両者の対象物における動的挙動について,対応す る鍵点列や分弧列ごとに,同様な動きをしているか否かを目 視で確認する.その際,必要ならば,双方の対象物において 比較の対象となるものを,時間軸と各1次元座標軸から張ら れる平面に射影した上で,それぞれ比較し,確認する. 以上に述べた検証法を「対象物連動確認法」と呼ぶ.前述 のように,n-7次元手動操作軌道束の妥当性の検証は各種の 従来の分析法にはなじまないものであるが,上記の検証法の 厳密性は,それらに劣らないものであると考えられる. 今回の報告では,2. 4節で述べたように,“の”という文字 を描く際に現れた筆跡と,実際に構成されたn-7次元手動操 作軌道束における各テイクの動的挙動とが,Table 3に記載 された鍵点列とそれから構成される分弧列ごとに,連動して いるかどうかを目視で確認する.これらは位置部分軌道,姿 勢部分軌道,筆圧部分軌道などに分けて,その動的挙動のグ ラフを表示しつつ,前述の「対象物連動確認法」を適用し,そ の結果をまとめる.これらはTable 2にある13テイク,(7) 式にある7個の成分関数,さらにはそれらの7個の導関数な どに関して,意味のある組合せ総数91パターンのグラフ出 力,および必要に応じて別途出力したさらに多くのグラフ出 力に基づき,得られた知見をまとめる.これらのグラフにお いて横軸はすべて時刻t [seconds],縦軸はy = f (t)であり, 関数形f (t)の具体的な形は当該グラフのタイトルより読み取 るものとする. 5. 2 7次元手動操作軌道束の妥当性についての確認 まず,位置部分軌道およびその導関数における連動につい て確認するため,Fig. 5およびFig. 6のグラフを出力する. ここでは,細い線は各テイクデータを表わし,太い線は単純平 均軌道を表わす.そして5. 1節における対象物の連動確認法 を適用する.位置部分軌道およびその導関数に関するそのほ かのグラフについても同様に適用する.その結果つぎの知見 を得る.すなわち,「位置部分軌道束における動的挙動および その導関数は,筆跡の文字構成における動的挙動を的確に捉 えている.さらに,空間的摂動は,各テイクのバラツキとし て,位置部分軌道束の中に確かに捉えられている」.ただし, ここでいう「的確」および「確かに」は,5. 1節に詳述した ‘対象物の連動確認法’に基づく. 同様にして,姿勢部分軌道とその導関数,および筆圧軌道 とその導関数についても,対象物の連動挙動を確認すること ができる.結果として,7次元手動操作軌道束は,書道の運 筆活動に関する数理解析モデルとして妥当であることが確認 された.そして,この軌道束は7次元ソボレフ空間C7[ta, td] に含まれ,したがって軌道束に関する数理解析が自由かつ厳 密に展開されることが可能となり,それにより書道の運筆活 動に関する重要な知見が数理空間における理論展開の形式で 導出されることになった.

6.

解析と評価

空間的摂動の数理解析 身体知の具象空間への変換作業を可能とするためには,第4 章で述べた手動操作軌道Ω(t)∈ C7[ta, td]に関して,運筆軌 道の数理構造の解明および解析法を確立することが望まれる. ここではその準備として,単純平均軌道およびMin-Max軌 道について述べる. 6. 1 単純平均軌道 n回の計測により得られた手動操作軌道の一組に関する‘単

(9)

純平均軌道’は,通常の方法により定義されたものをいう.し たがって単純平均軌道は,各成分テイクデータの符号には全 く配慮することなく,和の計算を単純に実施し,単に各時点に おける座標の中央点を表わしたものにすぎない.しかし,た とえば周期が大きく異なる関数の単純平均の結果は,本研究 が対象としている場面では,元の関数の性質をほとんど保存 していないことがある.結果として,単純平均曲線は元の各 テイクデータの軌道がもつ重要な性質を保存することが保証 されない.したがってn-7次元手動操作軌道束に属する全軌 道の単純平均軌道は,もとのn-7次元手動操作軌道束に属す るとは限らない.これはn-7次元手動操作軌道束の性質,た とえば本研究で注目している空間的摂動を理論的に検討する 上できわめて不都合である.ただし目視の便宜上グラフに出 力する場合はこの限りでない. 6. 2 Min-Max軌道 上記で述べた平均軌道の性質より,n-7次元手動操作軌道 束においては“平均との差異”を基礎とする通常の統計学的 な概念,たとえば標準偏差,は使用できない.しかしながら, 各軌道の空間的摂動について解析するためには,描画する軌 道のバラツキの度合いを定量的に表現する指標が必要である. したがって,n-7次元手動操作軌道束における変動の解析を 行なうのに適したほかの概念の導入が不可欠であり,ここで は,Min-Max軌道の概念を導入する.それは,計測された手 動操作軌道Ωk(t)k = 1, 2,· · · nに関してつぎの条件(10) 式で決定される軌道Ω0(t)である. max 1≤k≤nΩ k−Ω0S= min 1≤j≤n,1≤k≤nmax k−ΩjS.10 この軌道の直観的な意味はつぎのとおりである.すなわち, 文献5)における書家は作品を描く際には事前に構想を練り, それをイメージの形で,あるいは実際に紙に書いて,それを気 持ちの上で下書きにして運筆するという5).参考文献11)で も,ドローイングに関して同様な記述がある.言い換えると, 自分のイメージした理想の筆跡が7次元軌道曲線として考え られており,毛筆でほかの曲線を7次元軌道として複数回描 く場合には,各回とも,そのイメージした理想曲線となるべく ズレがないように描画することになる.したがって,そのよ うなズレ全体の中で,7次元軌道それぞれについて,それとほ かの軌道との最大ズレを求め,それが最小となるような軌道 が,当該n-7次元手動操作軌道束の中では,そこでイメージ した理想曲線に最も近いものであるということができる.こ れを定式化したものが,上記(10)式で定義されたMin-Max 軌道Ω0(t)である.以下においてこの軌道Ω0(t)を“ソボレ フセンター(Sobolev center)”,あるいはMin-Max軌道な どと呼ぶ.これは,上記の言い換えに基づくと,当該被験者 が運筆活動をn回行なった際,その中で最も理想曲線に近い という意味で‘最もでき栄えが良いもの’を意味するというこ とができる.さらに,(10)式の右辺で決定される数値は,そ の被験者の習熟度を表わす.その数値の理想的な値は0であ る(すなわち理想的な場合には,n-7次元手動操作軌道束に おける各軌道は上記のイメージ軌道に一致する)ので,その 数値が0に近いほど,習熟度が高いということができる.こ の性質は有用なので,(11)式のとおり普遍化する.ただし, (11)式の最後の行は,小数第3位を四捨五入して小数第2位 まで求めることを意味する. (11)式で表わされている4事項を,上から順に,軌道束半 径,軌道束相対半径,軌道束指標,軌道束習熟度などと呼ぶ. 熟練度が増大するに従い,前2者は小さくなり,残り2者 は大きくなる.したがって,n-7次元手動操作軌道束は,(i) その軌道の全体は,ソボレフセンターを中心とする軌道束半 径を半径とする円軌道の内側(その円軌道を含む.)にあり, (ii) (n ratio)は熟練度の実数表示,(iii) (n index)およ び (n pfy)は熟練度(Skill level)を表わすということがで きる. (n R) = min 1≤j≤n,1≤k≤nmax k− ΩjS, (n ratio) = (n R)0 (t)S if Ω 0(t)S = 0,

(n index) = − log( (n ratio)) if Ω0(t)S = 0,

(n pfy) = round( (n index), 2). (11)

本研究における今回の実験において,習熟度に関する上記 の各指標の具体的な計算値はつぎのとおりである. (n R) = 2.139195× 102, (n ratio) = 2.748499 × 10−1, (n index) = 5.609044 × 10−1, 12 (n pfy) = 0.56. 第1章でも述べたように,従来は,自己の習熟度のレベル を定量的に表示する方法は存在しなかったが,本研究でそれ が可能になった.これは,本研究の数理解析法を知能化技術 一般に適用する際にきわめて好都合である.軌道束習熟度は なるべく大きい値,たとえば4.61 (軌道束相対半径が0.01), であることが期待されるが,今回の場合,それが0.56という 小さな値であり,習熟度は十分であるとはいえない. Fig. 7,Fig. 8に,本研究で計測し構成した前述の手動操作 軌道Ωk(t)k = 1, 2,· · · 13に関するMin-Max手動操作軌道 の例を示す.これらのグラフにおいて,細い線は各テイクデー タを表わし,太い線は(10)式により定義されるMin-Max手 動操作軌道を表わす. これらのグラフ,さらにここで提示しなかった14枚のグラ フより,Min-Max手動操作軌道の特性として,つぎの事項が 結論される.Min-Max軌道曲線であるソボレフセンターは, ほかの軌道曲線と比べてある時間区間上では絶対値がより大 きく,あるいはより小さい.すなわち能筆者の運筆軌道は,そ の運筆活動における必要な部分区間上で,成分関数に関する 注意すべき動きの強弱や遅速などを明示しており,そうでな い者の運筆軌道よりメリハリが効いていることがわかる.

(10)

6. 3 体系的な定量解析への準備 (11)式で定義された4つの概念は,今回の研究の中で精密 な定量的議論が有意義である数少ない事項である.書道にお いて使用される紙サイズには大小合わせて少なくとも8種類 あり6),同一サイズの紙の中でも描画される文字の大きさに は大小さまざまであるなど,文字の大きさは多種多様である. そうした状況の中にあっても,安定した定量的議論を展開す るためにはさらなる準備が必要である.このような状況の中 で定量的議論を体系的に行なうためには,n-7次元手動操作軌 道束の中に束論(Lattice)の構造15)を導入する必要があり, それは今後の研究に委ねることとし,今回はこれ以上言及し ない.

7.

解析と評価

軌道束における核心軌道 第1章末で述べた(c)に関する議論に着手する.しかし, この分野は広大かつ深奥であるので,今回はその中で最も基 礎的である制御解析法の構築に限定する. 書道においては,文字構成,点画,および筆の動きなどの 個々のレベルを超えて,これらを総合して運筆する‘潤渇’と いう技法がある7).以下の第7∼9章ではこれをn-7次元手 動軌道束でどのように扱うかについて述べる. 7. 1 核心軌道の基本的な考え方 ‘核心軌道’や‘目標軌道’の厳密な定義を行なう前に,出力 グラフに現れた動的挙動を概観しながら,n-7次元手動操作 軌道束における核心軌道の基本的な考え方を述べる. その軌道束の各テイクにおける運筆活動では,意識の上で 自分の意図する理想曲線を目指して描画する.これらは書道 歴が比較的短い段階では,能書あるいはお手本であることが 多いが,それらを描いた書家でさえも相応の理想曲線を目指 している.そうすると,各運筆活動における究極の理想曲線 とはどんな動的挙動をする軌道であるかについて興味がわき, それらを明らかにすることが期待される.本節では各テイク のグラフ曲線の中には,理想曲線において中核として重視す る軌道,すなわち核心軌道が何らかの状態で潜在しているに 違いないと着眼し,その抽出を目指す.ここでは一例として Z軸における抽出の結果を示すため,Fig. 7とFig. 8に現れ た各テイクの動的挙動に注目する.このとき,詳細は後述す るとして,この節ではつぎのような直観的観察を行なう. 第1回目の観察:Fig. 7は,(a-1)中核的な変動の部分が支 配的で,(b-1)詳細変動部分はほとんどない.しかし,Fig. 8 には,(c-1)中核的な変動の部分も,(d-1)詳細変動部分も, 両方とも少なからず存在している. 第2回目の観察:当初中核的部分とした上記(a-1)または (c-1)をより詳しく観察すると,さらに(a-2)中核的な変動 の部分と,(b-2)詳細変動部分とがあることがわかる.ここ で,(a-2)の部分は(a-1)や(c-2)の部分よりいくぶん滑らか になっていることに注意する. このような観察をさらに続けていくと,こうして構成され た(a-k)の部分と(a-(k+1))の部分を比べたとき,前者のほ うが当該テイクの当初のグラフ内曲線に関する‘中核的部分’ としてより適切であると判断できる第k回目の観察に到達す る.このときの中核的部分を,当該テイクの‘核心軌道’と呼 ぶ.これは,各成分軌道が種々変化している中にあって,詳 細部分の変動は捨象し,本質的な変動の部分のみを抽出した ものであるということができる.以上は,単一のテイクに対 する抽出であり,ほかのテイクの場合も同様である. このような抽出を行なう道具は,数多くある数理的道具の中 でウェーブレット関数論における“ウェーブレット分解の手 法”が最適であるとして着目する.その手法の詳細はウェー ブレット関数論関係の文献17)を参照することとし,ここで はその手法を使用した結果についてのみ言及する. 7. 2 核心軌道の定義 7. 1節を前述の数理解析モデル内の述語で述べる. n-7次元手動操作軌道束: (n) =

Ωk(t)∈ C7[ta, td] : 1≤ k ≤ n



where (13) Ωk(t) = (Ωk1(t),· · · , Ω7k(t))∈ C7[ta, td]. において,各テイクの軌道: Ωj(t) =



Ωj1(t),· · · , Ωj7(t)



∈ C7[ta, td] (14) の1つの成分関数Ωji(t)を離散化したものΩを,つぎのよう に離散ウェーブレット分解する17).

[ΩA ΩD] =wavedec(Ω, N, ’name’). (15) すなわち,Ωに関して,’name’という名前のウェーブレット 基底関数を用いてN階部分空間に離散ウェーブレット分解し た結果を2つの時系列の組:[ΩA ΩD]で表わす.ここで, ΩAが核心部分,ΩDが詳細部分である.その組の中で前者 のみが必要であるのでこれのみを残して逆ウェーブレット変 換し,連続化して元の関数空間の関数に復元する.この手続 きを軌道Ω(t)の7つの成分関数すべてに関して行ない,結 果として得られた7つの連続関数を一組にした7次元ベクト ル値関数を構成する.こうして得られた7次元ベクトル値関 数を‘核心軌道’ (Core Orbit)といい,つぎの記号で表わす. ΩC(t) =



ΩC1(t), · · · , ΩC7(t)



. (16) 結果として(14)式の軌道Ωj(t)の中から,核心軌道ΩC(t) が抽出されたことになる. 7. 3 核心軌道の抽出の結果 ここでは5次のドブシーウェーブレット関数を基底関数と した結果の例をFig. 9に示す.上段が原挙動,下段が核心軌 道である.Fig. 9を含む,全体で25人分325枚のグラフよ り,本章で定義した“核心軌道”は原軌道における本質的な 挙動を適確に抽出していることがわかる.なお,Fig. 9上段 の原挙動データに通常の雑音除去手法を適用しても下段のよ うな核心挙動は抽出できない.

(11)

上記で述べた核心軌道の成分曲線は各次元の成分ごとに構 成されたものであり,それらを単純に一組にして7次元ベク トル関数としたところで,それが,7. 1節で述べた理想曲線に なっているかどうかは不明である.しかし理想曲線そのもの の決定は現段階では困難であるから,必要な性質をもつ近似 関数を構成するに留める.以下の章では理想曲線の近似関数 として特徴づける条件として可制御性の条件を採りあげ,こ れを定式化してその条件に従う軌道を目標軌道と定義し,実 際に構成して数値実験によりその妥当性を検証する.

8.

解析と評価

運筆軌道における墨溶液の供給と消費 本章の中心的な関心事である書道における“潤渇”は,墨量 の変化によって生じる潤筆や渇筆などを織り交ぜて反復する ことにより書の趣を増加させる作品構成上重要な技法の1つ である.しかし,プロの書家が潤渇のつけ方を解き明かすと きの説明は印象的で直観的な方法に基づいており16),初心者 にとって必ずしも明晰ではない. 本章では数理解析モデル(7)に基づき,書道の潤渇に対す る制御解析法の基本的な考え方について述べる. 運筆活動に関する軌道束の中の成分軌道を知能技術化する に当たっては前述の核心軌道の概念に加えて,もう1つの重 要な概念,すなわち「可制御性」の概念が必要になると考え られ,以下にそれについて述べる. (1)運筆活動における準備段階において,筆の穂首の部分に 墨溶液をつける.これが一定量の溶液になって運筆活動の全 行程にわたって穂首の部分に保存される. (2)穂首は,運筆の起筆から収筆の間,墨溶液が残存してい る限り,それが穂首の腰や腹の部分からの˙どの部分を経由し˙ て,穂先に自動的に供給される,という構造になっている. (3)穂首全体に保存する墨溶液の量は,対象の文字を書く起 筆から収筆までの間,途中で補充する必要がないという意味 で必要量があり,収筆直後には残っている必要がないという 意味で十分な量がある.運筆の途中の各時刻において,穂先 における墨溶液の消費量の割合は,運筆過程の分析により事 前に計測可能である.この割合を事前消費率と呼ぶ.運筆の 途中の各時刻における墨溶液の残存量は,運筆過程の観測に より計測可能である.これを事後残存量と呼ぶ. (4)墨溶液を十分につけた筆の穂先を紙の注目点に置き,そ こで筆圧をかけて墨溶液の供給量が一定量になった後,文字 構成の経路上で筆を移動させ,起筆,送筆および収筆の各筆使 いを経由する.その際,供給された墨溶液は,それらの各筆 使いにおける作業によって消費される.その消費状況は,途 中においては筆の穂先おける墨溶液の供給量は決して不足す ることなく,しかもあまり多くない一定量の範囲内に留まる. そして収筆の終了点の付近では穂先の墨溶液の残存量は負の 傾きをもって0またはこれに近い値に収束する.これにより 自分の意図する品質の描画を終了する. (5)以上の過程を経て運筆作業が終了するとき,当該運筆作 業は‘可制御である(controllable)’と呼ぶ. 上述の(1)∼(5)と本質的に同様な現象は,本研究で対象と している高度熟練技能一般に対しても観測される.本研究に おける目的を達成するため,次章においてその可制御性の概 念を普遍化するため,定式化する.

9.

解析と評価

目標軌道の可制御性とその検証 9. 1 可制御性の条件とその定式化 可制御性の条件を定式化するために,前述における1テイ クの軌道を任意に取り,これを Ω(t) = (Ω1(t),· · · Ω7(t)), t∈ [ta, td] とし,つぎの関数Φ(t)を定義する. Φ(t)≡



t ta7(t)− ϕ(t)]dt where ϕ(t) = λ(t)



6

k=1

δk d dtΩk(t)

2



12 . (17) ここで実数値関数λ(t)およびΦ(t)は以下の(18)および (19)式の性質をもつものとし,係数δk,k = 1, 2,· · · , 6はそ の和を意味あるものにするとともに,計測値の物理的次元を 統一するパラメーターとする. λ(t)≥ 0 for all t ∈ [ta, td], (18) Φ(t)



≥ 0 for all t ∈ [ta, td], = 0 at t = td. (19) (18)式および(19)式の条件を,‘可制御性の条件’ (Condi-tion of controllability)という.上記のλ(t)Φ(t)を,それぞ れ調節関数(Adjustment function),検証関数(Verification function)と呼ぶ,それぞれ8章(3)における事前消費率およ び事後残存量に相当する. 前述した熟練者の目指す手動操作軌道である“目標軌道”(詳 細は後述)を構成する.そのためには各成分軌道から目標軌 道としてふさわしい条件を満たす軌道を構成する必要がある. その条件とは以下の(1)∼(3)である. (1) 核心軌道近傍性の条件 目標軌道は核心軌道の近傍にある.すなわち,目標軌道は, 数値変動の上では核心軌道と特に大きな差はない. (2) 全変動極小性の条件〔全変動に関しては文献18)を参照〕 目標軌道における各成分軌道の時間区間[ta, td]上の全変 動18)は,当初のn-7次元手動操作軌道束における対応する 成分の全変動のいずれよりも小さい.すなわち,目標軌道は, 当初の軌道束に比べて筆のブレが少ない. (3) 可制御性の条件 目標軌道の各成分は可制御性の条件(18),(19)を満たす. すなわち,目標軌道はあらかじめ決められた品質に関する条 件を満たしている. 以上の条件(1)∼(3)を定式化し,以下に示す.以下の[I]∼ [III]の性質をもつ軌道を目標軌道(Target curve)と呼び,

(12)

ΩT(t) =



ΩT1(t), ΩT2(t),· · · , ΩT7(t)



と記す. [I] 核心軌道近傍性の条件 ΩTk(t) = (1 + ρ(t))· Ωck(t), (20) 1≤ k ≤ 7, t ∈ [ta, td]. ただし,ρ(t)は制約条件|ρ(t)| ≤ (n ratio)を満たす実数 値関数である. [II] 全変動極小性の条件



td ta





d dtΩ T k(t)





dt ≤ min 1≤j≤n



td ta





d dtΩ j k(t)





dt, (21) 4≤ k ≤ 6. ここで,各Ωj(t) =



Ωj1(t), Ωj2(t),· · · , Ωj7(t)



は,テイク j (1≤ j ≤ n)の手動操作軌道とする. [III] 可制御性の条件 ΦT(t)≡



t taT7(t)− ϕT(t)]dt (22) where ϕT(t) = λT(t)



6

k=1

δk d dtΩ T k(t)

2



12 と置くと, ΦT(t)≥ 0 ∀t ∈ [ta, td], ΦT(td) = 0. (23) λT(t) = μT(t)1 n n

j=1 λj(t), t∈ [ta, td]. (24) ここでλj(t)は番号jのテイクデータ(1≤ j ≤ n)の調節 関数である.そして,正値関数μT(t)は,n-7次元手動操作 軌道束の中の各軌道Ωk(t)に関する(17)式におけるλj(t)の 代わりにλT(t)を置き換えたものが,条件式(19)を満たすよ うに定める.このとき目標軌道ΩT(t)は,つぎの関係式より 定義される. ΩT(t) = μT(t)ΩC(t). (25) 9. 2 目標軌道の構成と検証 以上の条件に基づいて目標軌道ΩT(t)を構成し,その算法 の有効性を確認するため,本研究で例としている書道の運筆 活動に適用し,その結果の例をFig. 10,Fig. 11に示す.こ れらの図において,細線は各テイクデータ,太線は目標軌道 を表わす.その目標軌道において条件[I]∼[III]が成り立つこ との検証は以下の(a)∼(d)のとおりである. (a)実際の数値計算により求めた(20)式の中にあるρ(t)の大 きさはつぎのとおり: |ρ(t)| ≤ 0.059, t∈ [ta, td] ≤ (n ratio) (cf (12)) (26) であり,そのときの目標軌道ΩT k(t)(Fig. 10では太線で示す.) は核心軌道近傍性条件〔I〕を満たす. (b) (21)式の不等式における両辺の各積分は該当する積分の 全変動を表わす.Fig. 11により,太線で示した目標軌道の全 変動はほかのどのテイクの全変動よりも小さいので,全変動 極小性の条件〔II〕を満たすことが確認される. (c) (24)式における正値関数μT(t)を数回の数値実験で定めた 後,(24)式でλT(t)を計算し,その結果を図示するとFig. 12 のとおりである.これにより,λT(t)が(18)式の条件を満た していることがわかる. (d)上記(c)により決定されるλT(t)を用いて,(22)式より ΦT(t)を計算し,その結果を図示するとFig. 13のとおりで あり,ΦT(t)が(19)式の条件に合うことが確認される.した がって,(23)式および(24)式の条件が満たされていること が確認できるので,可制御性の条件〔III〕が成り立つ. 上記の(a)∼(d)より,本章で定義した目標軌道は,可制御 性に関する条件〔I〕∼〔III〕をすべて満たしていることがわ かった.したがって,核心部分の抽出およびその特性の解明, さらに可制御性の条件の妥当性が確認された.結果として本 章で定義した目標軌道は,予定した性質をもつ理想曲線の近 似曲線であると結論づけることができる.ここで定めたおの おのの条件および算法は,本研究で対象としているより一般 の高度熟練技能の場合にも何ら変更なく適用できる. 今回は動的挙動の評価にとどまっており,目標軌道の理想 曲線に対する誤差評価までには至らなかった.しかしながら, 前述のような制御理論および制御算法に関して,従来は報告 が全く存在しなかった状況に比べれば,大きな進歩であると いうことができる.さらに例としている運筆活動に基づく作 業結果の作品に関する評価は,今回はしなかったが,それは, 2. 1節の末尾で述べたように,今回の研究の対象外である.

10.

お わ り に (1)本論文の第3∼5章により,能書の運筆活動に関する数 理解析モデルが,7次元手動操作軌道束として構成された.そ の軌道束は7次元ソボレフ空間C7[ta, td]に含まれる有界時 間区間上の力学系であり,結果として当該力学系に関する数 理解析が自由に展開されることが可能となり,それにより能 書の運筆活動に関する重要な知見が数理空間における理論展 開の形式で導出されることになった. (2)個人差に関しては「時間的摂動」および「空間的摂動」 があることを明らかにし,時間的摂動については同型変換と いう概念の導入によりこれを解消し,空間的摂動については, そのバラツキの度合いや習熟度の度合いを定量的に扱うこと ができる指標を明らかにした.これにより習熟度のレベルを 客観的に表現できるようになったことは,本研究の大きな成 果の1つである.さらに,体系的な定量的議論が可能になる との見通しも述べた. (3)本論文の第7∼9章では,つぎの成果を得た. i)能書の運筆活動に関して核心挙動という概念を明らかにす ると共に,これを抽出する算法を離散ウェーブレット分解法 を利用して明らかにした.

(13)

ii)能書の運筆活動に関して目標軌道という概念および理想曲 線が満たすべき可制御性という条件を明らかにすると共に, 核心軌道から目標軌道を構成する算法を示して,数値実験に よりその妥当性を検証した. (4)本研究で構成した数理解析モデルを一流の書道家25人 の計測データに適用したところ,本研究で述べたすべての主 張がそのまま成り立つことを確認した. (5)同様に,本研究で構成した数理解析モデルを,単一剛体 ツールを用いるほかの高度熟練技能の11職種に適用し,上 記(4)と同じ傾向の結論が出ることを確認した. 以上により,能書の運筆活動に関する身体知の継承利用を ロボット上で可能にする制御解析法を確立することが基本的 には達成された. 以上に述べた本研究の成果は,本論文の冒頭に述べたよう な知能化技術一般に対しても有効である.すなわち,身体知 の具象空間への変換作業における知能化技術一般に関して, 第1章で述べた難問1,難問2,そして難問3のうち最も基 本的な可制御性について解決することができたということが できる. 本研究で構築した基礎理論を難問3に関するそのほかの多 くの知能化技術に適用して有効な知見を導出することには大 きな興味があり,それは今後に残された大きな課題である. 参 考 文 献 1)上田洋一郎:産業用ロボット業界の現状と展望∼業界構造変 化を踏まえた日系ロボットメーカーの戦略方向性∼,Mizuho Industry Focus, 150-6, 1/22 (2014) 2)中村,高野:高度熟練技能継承政策に関する一考察,社会技術 研究論文集,11, 82/95 (2014) 3)古川,植野,尾崎,神里,川本,渋谷,白鳥,諏訪,曽我,瀧, 藤波,堀,本村,森田,身体知研究の潮流—身体知の解明に向 けて—,人工知能学会論文,20-2, SP-A, 117/128 (2005) 4)G-Media:アインシュタインの眼 書道 達人の極意を科学する, NHK, http://www.nhk-g.co.jp/program/news document ary/2010/148/index.html (2010) 5)天来書院:DVD で見る書の技法,天来書院 (2008) 6)横山豊蘭:「書道」の教科書,1/144, 実業の日本社 (2013) 7)可成屋書道編集部:書の技法用語 100 ハンドブック,可成屋 (2001) 8)二玄社編集部:書道辞典増補版,二玄社 (2010) 9)阿保,相川:図解 毛筆・ペンに役立つ ひらがなの書き方,木 耳社 (2012) 10)桑原江南:日本人の文字生活と書道,日本教育書道連盟,教育 書道出版協会 (1999) 11)山本,安田,山本,倉本,辻野:学習者自身の運筆動作で教示 する個性を伸ばすためのドローイング学習支援システム,情報 処理学会インタラクション,554/561 (2014) 12)時,恩田,青木:感圧ペンを用いた毛筆文字のオンライン入 力・生成システム,北海道大学工学部研究報告,142, 35/43 (1988)

13)S. Mallat: A Wavelet Tour of Signal Processing, 2nd edi-tion, Academic Press (1999)

14)D.L. Donoho, I.M. Johnstone, G. Kerkyacharian and D. Picard: Wavelet Shrinkage: Asymptopia, J. Roy. Statist. Soc. B, 57-2, 301/369 (1995)

15)日本数学会:束,岩波数学辞典第 4 版,248, 岩波書店 (2008) 16)高木聖雨:潤渇,プロに学ぶ書のテクニック 5,可也屋 (2001)

17)M. Misiti, Y. Misiti, G. Oppenheim and J.-M. Poggi: Wavelets and their Applications, 63/87, ISTE Ltd. (2007) 18)日本数学会:有界変動関数,岩波数学辞典第 4 版,465, 岩波 書店 (2008) [著 者 紹 介] 馬 渡 正 道(正会員) 2007年スタンフォード大学大学院博士課程修了 (機械工学専攻).2013 年東京大学生産技術研究所 特任研究員,現在に至る.数値解析,機械設計の 研究に従事(博士(工学)). 土 屋 健 介 2002年東京大学大学院工学系研究科修了.同年 東京大学工学部助手,2005 年同大学生産技術研究 所助教授,現在に至る.微細加工・組立技術,機 械設計の研究に従事(博士(工学)).

Fig. 3 Coordinate system for motion data Table 1 Experimental data
Fig. 4 Idea of isomorphism
Table 2 Experimental data after isomorphism transforma- transforma-tion 7 次元手動操作軌道 Ω(t) ∈ C 7 [t a , t b ] に関する今後の叙述 において,つぎのような部分軌道を抽出することがある. • 位置 (X , Y , Z) に関するもの: Ω[1, 3](t) = (Ω 1 (t), Ω 2 (t), Ω 3 (t)).
Fig. 7 y = Z(t) and its Min-Max curve
+2

参照

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