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制御適合がメッセージの評価に及ぼす影響の検討

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制御適合理論とは,Higgins(1997)の制御焦点理 論を発展させたものである。制御焦点理論では,個人 の目標志向性を促進焦点(promotion focus)と防止焦 点(prevention focus)の 2 つによって捉えられると説 明している。促進焦点は,獲得の在・不在に関心があ り,前進(advancement)や理想(ideal)によって動 機づけられる志向性である。一方で防止焦点は,損失 の在・不在に関心があり,責任(responsibility)や義 務(duty)によって動機づけられる志向性である (Molden, Lee, & Higgins, 2007)。制御適合理論はこの 制御焦点理論を発展させ,志向性と目標に対する方略 (strategy)3が合致した場合に制御適合を経験すると説 明した。当初は制御焦点と方略が合致することが制御 適合である(Higgins, 2000)とされてきたが,近年で は方略以外の個人要因や外的要因と制御焦点との適合 といった,広義の制御適合も数多く検討されている。 例えば Scholer, Ozaki, & Higgins(2014)では自己像に 着目し,促進焦点と自己高揚,防止焦点と自己防衛が 適合することを示した。また,Förster, Grant, Idson, & Higgins(2001)ではフィードバックに着目し,促進 焦点と正のフィードバック,防止焦点と負のフィード バックが適合することを明らかにしている。 制御適合が生じた場合,動機づけの向上,パフォー マンスの向上など数多くのポジティブな結果につなが ることが示されている(レビューとして,Higgins, 2007)。こうした多様な結果を説明する要因となるの 3 それぞれの志向性には,適した方略があるとされる。例え ば促進焦点においては,大局的で速く,利益を最大化するよう な熱望方略(eager strategy)が適しているとされ,防止焦点にお いては,局所的で正確であり,損失を最小化するような警戒方 略が適しているとされる(Molden et al., 2007)。

制御適合がメッセージの評価に及ぼす影響の検討

1

熟知性に着目して

長峯 聖人

2 

外山 美樹

 

三和 秀平

湯 立

 

黒住 嶺

 

相川 充

 筑波大学

The effects of regulatory focus on the evaluation of advertising messages, with a focus on familiarity Masato Nagamine, Miki Toyama, Shuhei Miwa, Tang Li, Ryo Kurozumi,

and Atsushi Aikawa (University of Tsukuba)

Research has suggested that regulatory fit creates value. In this study, the regulatory fit was defined as the fit between the regulatory focus and the advertising messages. We investigated the effects of regulatory fit on the evaluation of messages when familiarity with the message was low. This hypothesis was supported by two observations; when the familiarity with a message was low, regulatory fit was not observed among participants with a prevention focus. In contrast, regulatory fit was observed among participants with a promotion focus, with a higher preference for two-sided advertising. The significance of familiarity on the effects of regulatory fit and value is discussed.

Key words: regulatory fit, regulatory focus, advertising condition, value. The Japanese Journal of Psychology

2018, Vol. 88, No. 6, pp. 587–593 J-STAGE Advanced published date: January 15, 2018, doi.org/10.4992/jjpsy.88.17301 Correspondence concerning this article should be sent to: Masato Nagamine, Graduate School of Comprehensive Human Sciences, University of Tsukuba, Tennodai, Tsukuba 305-8572, Japan. (E-mail: mas.ngmine@gmail.com) 1 本研究は,第 1,2,3,4,5 著者が NPO 法人教育テスト研 究センター(CRET)の連携研究員として,第 6 著者が理事とし て行ったものである。 2 本論文の作成にあたりご協力を賜りました皆様に,心より 御礼申し上げます。

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は,価値である。制御適合研究における価値とは,あ る対象に魅力があると感じることであり,物事への評 価の基盤となる概念である(Higgins, 2005)。したがっ て,ある対象への評価の高さはその対象に感じている 価値の高さを反映しているといえる。制御適合が生じ た際には,従事している活動や処理している刺激に価 値があるという判断がなされ,それが動機づけ,パ フォーマンスの向上に影響することが指摘されている (Higgins, 2005)。こうした理由から,制御適合研究に おいて価値との関連を検討することは重要視されてお り,多くの研究が行われている。上述したように,あ る対象への評価の高さは価値の高さを反映したものと 捉えられている(Higgins, 2005)ため,価値に関する 制御適合研究では価値の指標として具体的な物品や メッセージへの評価を扱うことが多い(Cesario, Grant, & Higgins, 2004; Higgins, Idson, Freitas, Spiegel, & Molden, 2003)。 価値を指標とした制御適合研究の中で,制御焦点と の適合が検討された構成概念の 1 つに評価対象の感情 価がある(Jain, Lindsey, Agrawal, & Maheswaran, 2007)。 Jain et al.(2007)では,促進焦点の個人は対象がポジ ティブな特徴を有している場合に高い評価をしやす く,防止焦点の個人は対象がネガティブな特徴を有し ていない場合に高い評価をしやすいという結果を示 し,評価対象の感情価が制御焦点と適合することを示 した。Jain et al.(2007)はこの理由について,促進焦 点が獲得に動機づけられ,ポジティブな結果の在・不 在に焦点化されており,防止焦点が損失に動機づけら れ,ネガティブな結果の在・不在に焦点化されている (Higgins, 2000)ということを挙げている。 Jain et al.(2007)の知見を拡張したのが,Florack, Ineichen, & Bieri(2009)である。Florack et al.(2009)は, 情報提示という観点から制御焦点と対象の感情価との 適合を検討した。情報提示とは,ある対象に関してど のような情報を提示するかという枠組みのことであ り,対象の長所のみを説明する一面的情報提示と,対 象の長所と短所の両面を説明する二面的情報提示の 2 種類が存在する(Etgar & Goodwin, 1982)。一面的情 報提示はネガティブな要素を含まないものの,情報が 不足しており,反対に二面的情報提示は情報が多いも のの,ネガティブな要素を含むという特徴を持ってい る(Golden & Alpert, 1987)。説得に関する研究領域で は,どちらの情報提示が高い価値につながるかという 点が長年議論されてきた(Eisend, 2006)。 こうした中で Florack et al.(2009)は情報提示によ る対象の感情価の違いと制御焦点との適合に着目し, 検討を行った。具体的には,促進焦点の個人は二面的 情報提示条件の場合に,防止焦点の個人は一面的情報 提示条件の場合に対象を高く評価するという仮説を立 て,一連の研究を行った。これは,促進焦点の個人は ネガティブな側面が低い評価につながらないため情報 が多い二面的情報提示と適合し,防止焦点の個人はネ ガティブな側面がないことが高い評価につながるため 一面的情報提示と適合するという想定によるものであ る。一連の研究が行われた結果,仮説が支持された。 し か し,Florack et al.(2009) の 結 果 は 熟 知 性 (familiarity)を考慮していないという問題がある。熟 知性とは,ある対象に関して「どの程度見覚えがあるか」 という指標であり,熟知性の高さが対象の評価に影響 することが示されている(Coates, Butler, & Berry, 2006)。 そのため,制御焦点と情報提示の適合が価値の評価に 及ぼす影響においても,熟知性を考慮する必要がある と考えられる。Florack et al.(2009)での評価対象は日 常的な物品(例:ジュース)であり,長所(例:無添 加である)や短所(例:高価である)も非常に単純な ものであった。熟知性の高さは認知的処理を促進する ことが示されており(Reder & Ritter, 1992),熟知性が 高い場合は刺激に関する情報を受容しやすいことが示 されている(Garcia-Marques & Mackie, 2001)。これらの ことから,Florack et al.(2009)では評価対象や情報提 示の内容に関して参加者の熟知性が高く,設定した長 所や短所もそれと認識されやすかった可能性がある。 一方で,熟知性が低い対象の場合には Florack et al.(2009)と違った結果が得られるかもしれない。熟 知性の低い情報に関しては,制御焦点によって受容の 仕方が異なることが明らかになっており,促進焦点の 個人は開放的で取り入れやすいが,防止焦点の個人は 保守的で取り入れにくいことが示されている(Righetti, Finkenauer, & Rusbult, 2011)。この知見を踏まえると, 熟知性の低い刺激を対象とした場合,防止焦点の個人 では設定した長所や短所に関する情報が受容されにく く,一面的情報提示と二面的情報提示の間に感情価の 違いを認知しにくいことで評価に違いがみられないこ とが考えられる。一方で促進焦点の個人では長所と短 所に関する情報を積極的に受容するため,一面的情報 提示と二面的情報提示の間に情報量の違いを認知しや すいことで熟知性が高い場合と同様,評価に違いがみ られると考えられる。しかし,この点について実証的 な検討を行った研究は著者らの知る限り存在しない。 以上を踏まえ,本研究では一般的に熟知性の低い刺 激に対する評価における制御焦点と情報提示条件の適 合について検討を行うことを目的とする。なお,先行 研究においては価値を測定する際に研究者の関心に よって多様な刺激が用いられているが,本研究では メッセージを刺激として扱うこととする。この理由は, メッセージはある特定の目標に関する枠組みを含んで いるという点で制御適合による価値への効果を検討す る際に有用な指標である(Cesario et al., 2004)ためで ある。また,制御焦点と情報提示との関連を検討した Florack et al.(2009)は対象の評価を指標としているが,

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メッセージを刺激とした制御適合研究ではメッセージ 内で言及している対象ではなくメッセージそのものへ の評価を価値の指標とする場合が多い(Cesario et al., 2004; Kim, 2006; Semin, Higgins, de Montes, Estourget, & Valencia, 2005)ことから,本研究でもメッセージへの 評価を指標として検討を行う。 上記を踏まえた本研究の仮説は以下の通りである。 熟知性の低い対象に対する価値において,促進焦点 では Florack et al.(2009)と同様,二面的情報提示に おいて一面的情報提示よりも対象を高く評価するが, 防止焦点では二面的情報提示と一面的情報提示では対 象の評価に差がみられない。 研 究 1 目 的 本研究の目的は,制御焦点と情報提示条件の組み合 わせが熟知性の低い対象への評価に及ぼす影響につい て検討することである。 方 法 実験参加者 大学生 92 名(男性 33 名,女性 59 名, 平均年齢 19.68 歳,SD = 1.31)を対象とした。質問紙 の回答に欠損がみられた参加者はいなかった。 制御焦点の測定 尾崎・唐沢(2011)の Promotion/ prevention focus scale(以下,PPFS とする)邦訳版を 用いた。この尺度は利得接近志向下位尺度 8 項目(項 目例:どうやったら自分の目標や希望をかなえられる か,よく想像することがある)と損失回避志向下位尺 度 8 項目(項目例:私はたいてい,悪い出来事を避け ることに意識を集中している)から構成される(7 件 法)。利得接近志向は促進焦点に,損失回避志向は防 止焦点に対応している。 メッセージ刺激 本研究では Cesario et al.(2004) を参考に,大学生において熟知性が低いと考えられる アクティブ・ラーニングを推進するメッセージ刺激を 独自に作成した。メッセージは 2 つのパラグラフに分 かれていた。第 1 パラグラフは全参加者に対して共通 であり,アクティブ・ラーニングの長所について言及 した。第 2 パラグラフでは情報提示条件によって内容 が異なっていた。一面的情報提示条件(n = 46)では, アクティブ・ラーニングの長所(例:授業体系が自由 である,児童・生徒の能動的な学習につながる,主体 性を育てることに秀でる)について更なる言及を行い, 二面的情報提示条件(n = 46)ではアクティブ・ラー ニングの短所(例:教師への負担が大きい,体系的な 知識が得られにくい,学力の測定が難しい)について 言及した。いずれの条件においても文章の表現や文字 数がなるべく均一になるように配慮した。 メッセージの評価 Cesario et al.(2004)などを参 考に,メッセージへの評価を測定する項目を独自に作 成した。項目は全 3 項目(項目:このメッセージの内 容は信頼できる,これは良いメッセージだと思う,こ のメッセージは説得力があると思う)であり,それぞ れ 7 件法で尋ねた。 倫理的配慮 本研究における実験は,著者らが所属 する大学の研究倫理委員会の承認を得て行われた。実 験の前に,実験参加者に対し,本人の自由意思による 同意であること,同意後も不利益を受けず随時撤回で きること,同意しない場合でも不利益を受けないこと, 個人情報は保護されることなどの倫理的配慮について 十分に説明した後で,同意書への記入を求めた。 実験手続き 実験は 1 人ずつ,実験室にて行った。 初めに,PPFS 邦訳版への回答を求めた。その後でア クティブ・ラーニングについて知っているかどうかを 尋ねた後4,一面的情報提示条件か二面的情報提示条件 のいずれかへランダムに割り当て,条件ごとにメッ セージを提示した。実験参加者がメッセージを読み終 わった後でメッセージについて評価するよう求め,最 後にデブリーフィングとして実験の目的を伝えた。デ ブリーフィング後,実験参加者に質問がないことを確 認したうえで謝礼を渡し,実験を終了した。 結果と考察 制御焦点の相関 促進焦点得点と防止焦点得点の相 関係数(Pearson の積率相関係数,以下同様)を算出 したところ,有意な相関はみられなかった(r = .00, ns)。 メッセージの評価 まず,先行研究(Higgins et al., 2001)を参考に,促進焦点得点から防止焦点得点を引 いた差得点を算出した。この差得点は,値が大きけれ ば促進焦点的であることを,値が小さければ防止焦点 的であることを示している。その後,メッセージの評 価(α = .74)を従属変数,制御焦点の差得点と情報 提示条件(二面的情報提示= 1, 一面的情報提示= 0), およびその交互作用を独立変数とした階層的重回帰分 析を行った(Figure 1)。分析を行う際,制御焦点の差 得点に関してはセンタリングを行ったうえで,step 1 では主効果の項を投入し,step 2 で交互作用項を投入 した。分析の結果,step 1 は有意ではなかった(R2 = .03, F (2, 89) = 1.52, ns)が,step 2 が有意であった(ΔR2 = .10, F (3, 88) = 4.59, p < .01)ため,単純傾斜分析を 行った。Aiken & West(1991)の手続きに順じ,制御 焦点の差得点に関して ±1SD の値を代入して情報提示 条件の単純主効果を求めたところ,制御焦点の差得点 が高い(+1SD)場合(相対的促進焦点)には情報提 4 本研究において,アクティブ・ラーニングの内容を知って いると答えた参加者はいなかった。そのため,参加者において アクティブ・ラーニングは熟知性が低いと判断した。

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示条件の単純傾斜が有意であった(B = .49, p < .01) が,制御焦点の差得点が低い(–1SD)場合(相対的 防止焦点)には情報提示条件の単純傾斜は有意ではな かった(B = –.16, ns)。 分析の結果,仮説が支持され,促進焦点は二面的情 報提示の際に一面的情報提示よりもメッセージを高く 評価すること,および防止焦点は情報提示条件間で メッセージの評価に差がみられないことが示された。 しかし,研究 1 ではいくつかの課題が考えられる。 まず,今回は「どの程度良いメッセージだと思うか」 という直接的な項目に加え,先行研究(Cesario et al., 2004)に倣いメッセージの評価を「どの程度説得的か」 という観点によって測定した。しかし,制御適合研究 においては「その対象をどの程度重要だと感じるか」 という重要性の指標が価値を強く表すものとして扱わ れることが多い(Aaker & Lee, 2001; Keller, 2006)。そ のため,メッセージをどの程度重要と感じたかという 評価の観点でも検討を行う必要がある。 また,今回は長所と短所を実験者側で設定したが, 今回の結果が長所と短所の具体的な内容によるもので ある可能性は否定できない。制御適合に関する先行研 究では,実験者側が用意した刺激による条件操作と実 験参加者の自発的な思考による条件操作の両者で同一 の結果が得られることをもって知見の頑健性を示して いる(Higgins et al., 2003)。そのため,長所と短所を 自発的に考えさせた場合に同様の結果が得られるかも 検討する必要があるだろう5 加えて,本研究では提示したメッセージの題材(ア 5 この方法は,長所(と短所)に関する情報を実験参加者自 らが生成するため,厳密には情報提示とは異なるものである。 しかし一面的(二面的)な情報を処理するという点では同一で あること,および情報提示に関する枠組みを実験者側で提示し ていることから,本研究ではこの方法も情報提示と呼称するこ ととした。 クティブ・ラーニング)について知っているか否かを 尋ねるという形式をとった。この形式は,題材に対す る熟知性を二極的にしか捉えられないという点で非常 に簡便なチェック形式であり,問題があると考えられ る。したがって,リッカート法などを用いて熟知性を 量的に測定し,より精緻な操作チェックを行う必要が ある。 さらに,本研究ではアクティブ・ラーニングを題材 としたメッセージを作成した。しかし,アクティブ・ ラーニングは中央教育審議会によって推進されている 学校教育上の重要なテーマであり(中央教育審議会, 2012),参加者が学校教育に対しどの程度関心がある か(例:教職志望である)という要因が回答の仕方に 影響を及ぼした可能性がある。したがって,この要因 を統制し,制御焦点と情報提示の適合が価値に及ぼす 影響をより精緻に確認するべきであるだろう。 研究 2 では,これら 4 つの課題を踏まえたうえで, 研究 1 の結果が再現されるか検討を行うこととする。 研 究 2 目 的 本研究の目的は,研究 1 の課題を踏まえたうえで, 同様の結果が再現されるかどうかを検討することで あった。 方 法 実験参加者 大学生 57 名が実験に参加したが,う ち 1 名は質問紙の回答に欠損がみられたため分析から 除外した。したがって,分析対象者は 56 名(男性 24 名, 女性 32 名,平均年齢 19.38 歳,SD = 1.09)であった。 制御焦点の測定 研究 1 と同様,尾崎・唐沢(2011) の PPFS 邦訳版を用いた。 メッセージ刺激 小中一貫教育が近年推進されてい るという内容のオンライン記事(ベネッセ教育情報サ イト, 2012)を刺激として用いた。全参加者に対し同 一の刺激を提示したが,メッセージを読んだ後,2 つ の条件に分けたうえで小中一貫教育について考えるよ う求めた。一面的情報提示条件(n = 28)では,小中 一貫教育の長所について,二面的情報提示条件(n = 28)では小中一貫教育の長所と短所について考えるよ う求めた。いずれの条件においても考えた内容を箇条 書きで記述するよう求めた。記述の時間は予備調査を 基に,5 分間と設定した。なお,記述内容に関して第 1 著者が確認した結果,すべての参加者が教示通りに 長所(および短所)について言及を行っていた。 メッセージの評価 研究 1 においてメッセージに対 する評価を直接的に表現していると考えられる項目 「このメッセージは良いメッセージだと思う」に加え, 「このメッセージの内容は重要である」を新たに独自 一面的情報提示 二面的情報提示 メッセージの評価 情報提示条件 相対的防止焦点 相対的促進焦点 6 7 8 9 10 11 12 Figure 1. 制御焦点および情報提示条件とメッセージの評 価との関連(研究 1)。 注)エラーバーは標準誤差を示している。

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作成した。研究 1 と同様,全 2 項目について,それぞ れ 7 件法で尋ねた6 熟知性のチェック項目 熟知性をチェックする項目 として,小中一貫教育に対する熟知性を反映している と考えられる 1 項目「以前から,小中一貫教育につい て詳しく知っていた」について尋ねた(7 件法)。 学校教育への関心についての項目 共変量として, 学校教育への関心を反映していると考えられる 1 項目 「将来,教育関係の職に就きたいと思っている」につ いて尋ねた(7 件法)。 倫理的配慮 研究 1 と同様,倫理的配慮に関する説 明を十分に行ったうえで,同意書に記入を求めた。 実験手続き PPFS 邦訳版に関する質問紙は実験参 加者募集の段階で渡し,実験当日に持参するよう求め た。参加者から質問紙を受け取った後,小中一貫教育 に関するメッセージ刺激を提示し,それを読むよう求 めた。続いて,条件ごとにメッセージについて 5 分間 考えるよう求めた。制限時間に達した後,メッセージ の評価について回答を求め,その後デブリーフィング として実験の目的を伝えた。そのうえで実験参加者に 質問がないことを確認し,謝礼を渡して実験を終了し た。 結果と考察 制御焦点の相関 研究 1 と同様,促進焦点と防止焦 点の相関係数を算出したところ,有意な相関はみられ なかった(r = .06, ns)。 熟知性のチェック 小中一貫教育という題材が,設 定した通り熟知性の低いものであるかチェックするた めに,「以前から,小中一貫教育について詳しく知っ ていた」という項目について理論的中央値(4)を基 準とした 1 サンプルの t 検定を行った。その結果,参 加者の得点(M = 3.02, SD = 1.59)は理論的中央値 よりも有意に低かった(t (55)= 4.62, p < .01, r = .53)。 しかし,度数分布を確認した結果,理論的中央値以上 の値を回答した参加者が何人かみられたため,以降は 「1: 全くそう思わない─ 3: あまりそう思わない」とい う否定的回答を示した参加者(n = 36)のみを分析の 対象とした。 メッセージの評価 研究 1 と同様,促進焦点得点か ら防止焦点得点を引いた差得点を算出した。その後, 同様にメッセージの評価(r = .35)を従属変数,制 御焦点の差得点と情報提示条件(二面的情報提示= 1, 一面的情報提示= 0),その交互作用を独立変数,学 6 本研究では補足的にメッセージの評価以外の指標(例:対 象の評価,評価に対する自信)も測定していた。しかし,それ らの指標とメッセージの評価との相関係数が低かったことから, 本研究ではメッセージの評価のみを従属変数として扱うことと した。 校教育への関心についての項目を共変量とした階層的 重回帰分析を行った(Figure 2)。分析の結果,step 1 は有意傾向であり(R2 = .21, F (3, 32) = 2.86, p < .10), 学校教育への関心のパスが有意であった(B = .44, p < .05)が,主効果の項に関しては有意なパスがみら れなかった。また,step 2 が有意であった(ΔR2 = .11, F (4, 31) = 3.61, p < .05)ため,単純傾斜分析を行った。 研究 1 と同様,制御焦点の差得点に関して ±1SD の値 を代入して情報提示条件の単純主効果を求めたとこ ろ,制御焦点の差得点が高い(+1SD)場合(相対的 促進焦点)には情報提示条件の単純傾斜が有意であっ た(B = .54, p < .05)が,制御焦点の差得点が低い (–1SD)場合(相対的防止焦点)には情報提示条件の 単純傾斜は有意ではなかった(B = –.11, ns)。 分析の結果,研究 1 の結果がほぼ再現され,促進焦 点は二面的情報提示の際に一面的情報提示よりもメッ セージを高く評価するが,防止焦点は情報提示条件間 で評価に差がみられないことが示された。これは仮説 を支持するものであった。これらのことから,単に情 報を提示するだけでなく,自発的に考えさせた場合で も熟知性の低い対象における制御焦点と情報提示条件 の関係性に違いがないことが示されたといえよう。 総合的考察 本研究の目的は,熟知性の低い対象の評価における 制御焦点と情報提示との適合について検討することで あった。2 つの研究を行ったところ仮説通りの結果が 得られ,熟知性の低い対象において促進焦点と二面的 情報提示の適合はみられるが,防止焦点と一面的情報 提示の適合はみられないことが明らかになった。この 結果は情報を実験者側が提示する条件(研究 1)と情 報を実験参加者自らが生成する条件(研究 2)のいず れにおいても示されており,頑健性が高いといえる。 近年,制御適合やそれに伴う結果(例:パフォーマ 3 4 5 6 7 8 9 一面的情報提示 二面的情報提示 メ ッ セ ー ジ の 評 価 情報提示条件 相対的防止焦点 相対的促進焦点 Figure 2. 制御焦点および情報提示条件とメッセージの評 価との関連(研究 2)。 注)エラーバーは標準誤差を示している。

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ンスの向上)の検討において,状況や課題など,外的 変数の調整効果を考慮する必要性が指摘されている (Baas, De Dreu, & Nijstad, 2011)。Baas et al.(2011)が 指摘するように,2 つの制御焦点(促進焦点,防止焦点) の機能は常に対称ではなく,課題や状況によって非対 称的な結果が得られる可能性がある。本研究は制御焦 点と情報提示の適合を題材として,対象への熟知性が 低い場合に促進焦点の制御適合と防止焦点の制御適合 で異なる結果を示すことを明らかにした。熟知性が低 い刺激として本研究では新規の刺激を設定したが,制 御適合と価値の関連を検討していく際には,刺激がど の程度新規なものかを考慮する必要があるということ が本研究の結果から示されたといえよう。 最後に,本研究における課題を 3 点述べる。 1 点目は,メッセージの評価における項目間の相関 が低いことである。本研究では研究 1 において α 係数 が .74, 研究 2 において(2 項目であるため)相関係数 が .35 という値であり,特に研究 2 において値が低かっ た。制御適合研究において,価値はさまざまな側面か ら捉えられるものである(Cesario et al., 2004)が,結 果の信頼性を高めるという点で,項目間の相関はある 程度高いことが求められるであろう。今後は,メッセー ジの評価という概念を精査したうえで,より項目間の 関連が強い指標を用いた検討を行う必要がある。 2 点目は,対象を大学生のみに限定していることで ある。そのため,本研究で得られた結果が大学生のみ にみられるものであるという可能性を払拭できない。 今後は,他の年代(例:一般成人,中高生)などを対 象として検討を行い,結果の一般性を確認していくべ きである。 最後に,本研究は特定の活動を推奨するというメッ セージ文章を刺激として扱ったため,メッセージの評 価を従属変数として扱った。しかし,文章による刺激 であっても,特定の物品を喧伝し購入を煽るような内 容の広告刺激の場合には,従属変数として対象の評価 を扱うこともある。今後は本研究の結果が対象の評価 などメッセージの評価以外でも再現されるか,検討の 余地があるだろう。 引 用 文 献 Aaker, J. L., & Lee, A. Y. (2001). I seek pleasures and we avoid pains: The role of self-regulatory goals in infor-mation processing and persuasion. Journal of Consumer Research, 28, 33–49. Aiken, L. S., & West, S. G. (1991). Multiple regression: Testing and interpreting interactions. Thousand Oaks, CA: Sage.

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参照

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