移動竜巻の下層構造の実験的解明
EXPERIMENTAL CLALIFICATION OF THE LOWER STRUCTURE OF A MOVING TORNADO
佐々浩司 竹村早紀 道下翔吾
Koji SASSA1), Saki TAKEMURA2), Shogo MICHISHITA3)
ABSTRACT
We experimentally examined the velocity field around a moving tornado near the surface by using hotwire anemometers with an array of 4 X-probes and dynamic PIV system. The resultant mean distribution obtained by the PIV showed an asymmetric pattern in which the maximum velocity was appeared in right rear side of the counter-clockwise tornado toward to the moving direction. The tornado became stronger and the tornado inclined forward as the moving velocity increased. Therefore, the tornado may be stretched continuously, and intensified through the ‘vortex stretching’ mechanism. The velocity change accompanied by the passage of the moving tornado was also measured at fixed points.
Key Words: moving tornado, PIV, hotwire, experimental simulation
1.はじめに 竜巻の空間的時間的スケールは小さく、積乱雲などのメソ擾乱のごく一部で突発的に発生し、すぐに消滅し てしまうので実測は極めて難しい。アメリカでは竜巻発生の予測・追跡を行い、車載型の高分解能ドップラー レーダーなどで竜巻の風速分布などが観測されてきた1)が、ground clatterの影響で実際に被害を与える地表 面付近の詳細な速度場を測定することは難しい。また、移動するランキン渦を竜巻と仮定した速度場の評価が 行われているが2)、地表面付近における竜巻の速度場は渦軸に向かった収束流の影響によりランキン渦の速度 場とは大きく異なっていると予想される。そのため室内実験によって地表面付近の速度場を調べることは防災 対策上でも非常に重要である。これまでの室内実験においては静止した竜巻に関してはある程度研究されてき ているが3)4)、実際の大気中のように移動する竜巻についてはほとんど調べられていない 5)。 そこで、本研究 では移動竜巻下層の地表面付近の速度場を明らかにすることを目的として、自由空間中で竜巻状渦を発生させ られる竜巻模擬装置を移動させることにより移動竜巻の模擬実験を行った。 1)高知大学理学部 准教授,2)高知大学大学院 大学院生 (〒780-8520 高知市曙町 2-5-1) 3)名古屋大学地球水循環研究センター 大学院生 (〒464-8601 名古屋市千種区不老町)
2.実験 竜巻模擬装置は図1 に示すように、上に上昇流を作り出 すファン、下に回転流を生成する回転多孔円盤が設置され ている。これをトラバース装置で移動させることにより移 動する竜巻状渦を形成した。ファンの吸い込み速度と円盤 の回転速度は、それぞれ33.5rad/s、268mm/sで、移動速 度はUc=20,40 ,80mm/s である。座標系は渦の中心を原点 とし、移動方向をX 軸の正方向、 それと直角水平にY軸、 鉛直にZ 軸方向とした。 移動する竜巻状渦をトレーサー粒子(直径5μm のベビ ーパウダー)によって可視化し、Ar レーザーシート光に よって下層に当たる床面からの高さZ = 2, 4mm の水平断 面を切り、高速度カメラ(Photron Fastcum-MAX)で撮 影し、動的PIV 解析を行った。Z = 2 mm は精度の高い速 度場計測が行える最低高度である。高速度カメラのフレー ムレートは1000 fps、シャッタースピードは 1/1000 sec、 解像度は1024×1024 pixel である。得られた画像を PIV 解析した。解析したコマ数は100 コマである。 熱線計測では、直径 5μmのタングステン線を用いたX プローブを使用した。Xプローブは X 軸、Y 軸方向を計測 するよう水平に 4 本を竜巻状渦の回転風速と移動速度の 和が大きくなるY= 5, 10, 15, 25mm と Y = 10, 15, 20, 30mmに並べZ = 2, 4 mmの高さに設置した。ファンの移 動速度は動的PIV解析と同様にUc = 20, 40, 80 mm/s の の3ケースである。サンプリング周波数は6 kHzで、模擬 装置の移動開始時から模擬装置が X プローブを通過し終 えるまでを計測した。 3.結果と考察 竜巻模擬装置によって発生させた竜巻状渦の静止した 状態における約1000 コマの平均速度場を図 2 に示す。Z < 14mm の領域が境界層であるとみられ、そこでは、法線成 分と接線成分の両方が観測された。一方、この境界層より 上層では、接線成分のみがみられた。 装置を静止して発生させた竜巻状渦のZ = 30mm にお ける最大接線速度 294mm/sとその半径 16mmから竜巻状 渦の渦レイノルズ数を求めるとReν= Ωr /ν =320 とな る。ここで、Ωは回転角速度、rは半径であり、νは空気 の粘性係数である1.5×10 m /sを代入した。この計算結 実際にレーダーで観測された竜巻の最大風速とその 200mm/s 400 300V(mm/s)200 100 Y(mm) X(mm)0 10 20 30 -30 -20 -10 30 20 10 0 -30 -20 -10 Z=6mm Z=10mm Z=14mm Z=30mm 図2 定在竜巻の全体構造3) 図1 実験の概略図 ファン モーター 回転円盤 上昇流 250mm 150mm Arレーザー ガラス板 高速度カメラ 移動方向 果は、 2 2 -5
半径から求めた渦レイノルズ数Reν=3001)に近い値といえる。ただし、この場合はνを大気の渦粘性係数と みなして50m /sを代入した。 PIV解析により求められた 100 コマ平均の速度場と渦度場のうちZ = 4mmにおける各分布を、 図 3( a)~ (c)と図 4 (a) ~(c) にそれぞれ示す。移動方向は向かって右向きである。 速度分布をみると、竜巻状渦の中心 付近では移動方向に向かって右手後方が最大風速、左手前方が弱くなるような非対称な速度分布となった。 移動速度が大きくなるとさらにこの傾向は強くなっていた。これは竜巻状渦の下層では収束流の影響が大き いためであると考えられ、従来考えられてきた竜巻をランキン渦と仮定して平行移動させた場合のように進 行方向の右手で最大風速域が現れる結果とは異なっている。また、渦度分布については渦の中心付近に渦度 が大きい円状の領域があり、速度場と同様に移動速度が大きくなるほど中心付近の渦度は強くなっていた。 ここで、移動する竜巻状渦の速度場が単なる移動速度の重ね合わせによるものかどうかを確認するため、図 2に示したような竜巻模擬装置を静止させた場合の速度場にファンの移動速度Uc = 20, 40, 80mm/sを重ね た分布を求めた。図5(a)~(c)はZ = 4mm における分布を示す。装置を移動させた場合と同様に非対称な速 図3 高さZ=4mmでの移動する竜巻状渦に相対的な速度分布(100コマ平均) 図4 高さZ=4mmでの移動する竜巻状渦に相対的な渦度分布(100コマ平均) (b)Uc=40mm/s (c)Uc=80mm/s -50 -40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40 50 -50 -40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40 50 Y ) m m( X (mm) -50 -40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40 50 -50 -40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40 50 Y ) m m( X (mm) (a)Uc=20mm/s -50 -40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40 50 -50 -40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40 50 Y ) m m( X (mm) 200 400 600 800 v(mm/s) 400mm/s 移動方向 (b)Uc=40mm/s (c)Uc=80mm/s (a)Uc=20mm/s -50 -40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40 50 -50 -40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40 50 Y ) m m( X (mm) -50 -40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40 50 -50 -40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40 50 Y ) m m( X (mm) -50 -40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40 50 -50 -40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40 50 Y ) m m( X (mm) -200 -100 0 100 200 ω(1/s) 400mm/s 移動方向 2
度分布となり、右手後方に最大風速域が見られた。この場合も下層の収束流の影響のために、速度方向に向 かって右手ではなく右手後方に最大流速域が現れている。しかし、移動速度が増しても速度場は強化されて おらず、今回の実験結果では加えられた移動速度分以上に速度場全体が強くなっていたことがわかる。 次に、移動する装置の下に発生した渦をドライアイスミストで可視化した様子を図6 (a)~(c)に示す。目視 では渦は反時計回りに回転しながらファンの移動とともに水平方向に動く様子が見られた。ファンの移動速 度を大きくすると直立している時間が短くなってより傾きが大きくなった。図は渦の真横からハンディーカ メラで撮影した動画から抜き出した静止画で、移動方向は向かって右向きである。移動速度の増加とともに 傾きが大きくなるのは、摩擦のため渦の上層と地表面近くでの移動速度に差ができるためであると考えられ る。Helmholtz の渦定理より渦管の強さは、Γ = ω・σ=constで表せる。ここでΓは渦糸の強さ、ωは渦 度、σは断面積である。渦管の微小部分の長さをδs、密度をρとすると質量保存の法則ρ・σ・δs = const より、ρ・δs/ω = constとなる。これより一様な非圧縮性流体(ρ= const)ではωとδsは比例関係とな る。実験結果の速度場と渦度場の強化は、可視化したときに移動速度の増加とともに渦軸の傾きが大きくな っていたことを考えると、単に移動速度の増加した分が速度場に足しあわされて強化されただけではなく、 竜巻状渦の下層がファンから遅れて渦軸が傾いて引き伸ばされるという渦のストレッチング効果によりδs が増加したために渦が強化されたと考えられる。しかし、PIV 計測中に竜巻状渦は可視化されておらず渦軸 が傾いていたかどうかわからないため、単位面積あたりの渦度ωと伸張率の関係を調べた。ファンと竜巻状 渦下層との移動速度差と、床面から竜巻模擬装置までの高さZ=150 mm より、傾いた竜巻状渦の長さが求め られる。これを静止している竜巻状渦の長さ150 mm より差し引いて伸張率δs / 150 が得られる。一方、図 4に示した渦度分布より竜巻状渦の渦核内の単位面積あたりの渦度ωを求めた。図示はしないが、これらを 比較するとδs/150 とωの関係は比例関係となった。なお、渦のストレッチング効果はZ=4 mm の方が顕著 であった。このことは、粘性効果の大きい地表面近くよりも上層の方が渦伸張に伴って竜巻状渦が強化され やすいことを示している。 熱線流速計による計測の結果、移動する竜巻状渦に伴う風速変動を的確に捉えた結果はほとんど得られな かった。その原因として、①プローブやそのサポートが障害物となって竜巻状渦がプローブを通過しなかっ たか消失したことと、②渦が生成されてもそれ自身の渦軸揺動による効果が大きく渦が熱線を設置した部分 図5 高さZ=4mmにおける地面に相対的な速度に移動速度Ucを与えた分布
(a)Uc=20mm/s (b)Uc=40mm/s (c)Uc=80mm/s
100 200 300 400 v(mm/s) 200mm/s 移動方向 0 Y ) m m( X (mm) -50 -40 -30 -20 -10 10 20 30 40 50 -50 -40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40 50 0 Y ) m m( X (mm) -50 -40 -30 -20 -10 10 20 30 40 50 -50 -40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40 50 0 Y ) m m( X (mm) -50 -40 -30 -20 -10 10 20 30 40 50 -50 -40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40 50
を通っていないことの二つが考えられる。トレーサーによ り一部しか可視化されないPIV 計測において図 3,4 に示し た明瞭な竜巻状渦の速度場が得られていることから、熱線 計測中も竜巻状渦は常にできていたと考えてよい。しかし、 竜巻状渦は想定以上に揺動しつつ、障害物としてのプロー ブをさけるように移動したものと思われる。また、同じ条 件で検出されたものでも風速値が異なり、各試行において 通過する渦の強度が異なっていることがわかっている。以 上のように熱線を用いて竜巻状渦を計測するのは容易で はないが、その中で移動する竜巻状渦に伴う速度変動を捉 えた例を図7 (a) (b)に示す。図では 0.1 秒ごとの速度ベク トルを示した。竜巻状渦の渦軸は(a)では Y = 25mm 付近、 (b)では Y = 20mm 付近を通過したと考えられ、通過した位 置に向かう収束がそれぞれ認められる。しかし風速変動の 時間スケールは(a)と(b)で異なっていることがわかる。当 然ファンの移動速度が大きい方が時間スケールは小さい と予想されるが、今回の結果では移動速度の大きいほうが 風速変動の時間スケールも大きいという逆の傾向を示し た。移動する竜巻状渦を可視化した際に移動速度の増加と ともに渦軸の傾きが大きくなることを考えると、移動速度 が大きくなると渦の断面が移動方向に長軸を持つような 楕円状となり、熱線を通過する距離が長くなることと、渦 伸張により竜巻状渦が強化されて影響範囲が広まったた めに、このような結果になったと考えられる。また、今回 の計測ではランキン渦が通過したような風速のピークを2 つ持つ風速変動はみられなかった。これは移動する竜巻状 渦の渦核内を計測できなかったことを表している。竜巻状 渦の通過に伴う風速変動を把握することは、固定点におけ る観測や被害調査結果から竜巻を推定する上で重要な根 拠となるだけでなく、構造物への風荷重を評価する上でも 重要であるので、今後はX プローブの間隔を狭くするなど 工夫をして渦核内の変動を詳細に捉えていきたい。 4.まとめ 本研究では実際に移動する竜巻の下層の速度場を明ら かにすることを目的として、自由空間中で再現した竜巻状 渦の PIV 計測と熱線計測を行った。PIV 計測の結果、移 動する渦の下層の速度場は収束流の影響で非対称な分布 となり、反時計回りに回転する渦の移動方向に向かって右 後方に最大風速領域が見られた。これは従来の移動する竜 図6 移動速度とともに渦軸の傾きが 増していく様子 (b)Uc=40mm/s (c)Uc=80mm/s (a)Uc=20mm/s
巻をランキン渦と仮定し進行方向の右側に最大風速領域が現れるような速度場の評価とは異なっている。ま た、ファンの移動速度が大きくなるにつれて、上層と下層での水平方向の速度の差が大きくなって、渦軸の 傾きも大きくなった。渦のストレッチング効果により移動速度が大きいほど渦が強化され、加わった移動速 度以上に風速が大きくなることがわかった。 熱線計測の結果、移動する竜巻状渦に伴う速度変動が捉えられた。この結果は竜巻の通過に伴う風の負荷 を評価する上で重要なものである。また、移動速度が大きいほどそれに伴う風速変動の時間スケールが大き くなることが認められた。 謝辞 PIV 計測に用いた高速度カメラは株式会社フォトロンより貸与を受けました。ここに謝意を表します。 参考文献
1) Wurman,J. and Alexander,C., The 30 May 1998 Spencer, South Dakota Storm. Part Ⅱ: Comparison of Observed Damage and Rader-Calculated Winds in the Supercell Tornadoes, Mon. Weather Rev. 113, pp.97-119, 2005 2) 河井宏允,竜巻時の物体の飛散と構造物に作用する風力について―佐呂間町の竜巻を例にとって―, 「北海道佐呂間町で発生した竜巻による甚大な災害に関する調査研究」研究成果報告書 平成 18 年 度科学研究費補助金(特別研究促進費,課題番号18900003),pp210-227, 2007 3) 佐々浩司,竹村早紀,山下賢介,竜巻状鉛直渦の乱流構造,日本流体力学会年 2006 講演論文集, AM06-03-017,2006 4) 文字伸貴,龍巻渦の実験的研究―室内実験の展望―,日本風工研究会誌,pp.3-19,1982 5) 新野宏,竜巻とその親雲の流体力学,ながれ 19,pp.105-118,2000 図7 高さZ=4mmにおける移動竜巻の風速の時系列変化
(a)Uc=40mm/s (b)Uc=80mm/s
1.0 sec/div. Y ) m m( 0.1 m/s 30 25 20 15 10 0 5 1.0 sec/div. Y ) m m( 0.1 m/s 30 25 20 15 10 35 5