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発達障害の理解と援助 小児耳 2011; 32(3) 表 DSM TR の自閉性障害の診断基準 A. から合計 6 つ ( またはそれ以上 ), うち少なくとも から 2 つ, から 1 つずつの項目を含む 対人的相互反応における質的な障害で以下の少なくとも 2 つによって明らかになる 目と目で見つ

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― 76 ― (310) 国立国際医療研究センター国府台病院児童精神科(〒2728516 千葉県市川市国府台171) ― 76 ― (310)

第 6 回

日本小児耳鼻咽喉科学会

臨床セミナーⅡ

発達障害の理解と援助

(国立国際医療研究センター国府台病院児童精神科) 近年,わが国の子どもの心と発達の問題として広汎性発達障害(PDD),注意欠如・多動 性障害(ADHD),学習障害(LD)などの発達障害が注目されるようになった。発達障害と いう用語は,国際的な疾病分類である世界保健機構(WHO)の定めた ICD10や米国精神医 学会の DSMTR には,明確な定義が見あたらない。ICD10では,◯発症は乳幼児期あ るいは小児期であること,◯中枢神経系の生物学的成熟に深く関係していること,◯寛解や 再発がみられない経過であること,があげられている。わが国の発達障害者支援法では,そ の第二条において,「この法律において『発達障害』とは,自閉症,アスペルガー症候群そ の他の広汎性発達障害,学習障害,注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害で あって,その症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう」とし ている。本稿では,PDD, ADHD の疾患概念,そして基本的な対応について述べたいと思う。 キーワード広汎性発達障害(PDD),自閉性障害,アスペルガー障害,注意欠如・多動性 障害(ADHD),視覚的構造化 .は じ め に 近年,わが国の子どもの心と発達の問題とし て広汎性発達障害(PDD),注意欠如・多動性 障害(ADHD),学習障害(LD)などの発達障 害が注目されるようになった。発達障害という 用語は,国際的な疾病分類である世界保健機構 (WHO)の定めた ICD10や米国精神医学会の DSMTR には,明確な定義が見あたらな い。ICD10では,◯発症は乳幼児期あるいは 小児期であること,◯中枢神経系の生物学的成 熟に深く関係していること,◯寛解や再発がみ られない経過であること,があげられている。 わが国の発達障害者支援法では,その第二条に おいて,「この法律において『発達障害』とは, 自閉症,アスペルガー症候群その他の広汎性発 達障害,学習障害,注意欠陥多動性障害その他 これに類する脳機能の障害であって,その症状 が通常低年齢において発現するものとして政令 で定めるものをいう」としている。ひとりの子 どもが複数の診断に該当することは少なくない ため,発達障害が複数併存する可能性を念頭に 置いておくことが必要である。DSMTR や ICD10では,PDD の診断が存在する場合, ADHD の診断は付与しないことになっている が,実際には両者の状態が併存すると考えられ る症例が多いことも事実である。本稿では, PDD, ADHD の疾患概念,そして基本的な対 応について述べたいと思う。

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― 77 ― (311) 表 DSMTR の自閉性障害の診断基準 A.    から合計6 つ(またはそれ以上), うち少なくともから2 つ,  から1 つずつの項目を含む。  対人的相互反応における質的な障害で以下の少なくとも 2 つによって明らかになる。  目と目で見つめ合う,顔の表情,身体の姿勢,身ぶりなど,対人的相互反応を調節する多彩な非言語的行動の 使用の顕著な障害。  発達の水準に相応した仲間関係をつくることの失敗。  楽しみ,興味,成し遂げたものを他人と共有すること(例興味のあるものを見せる,もって来る,指さす) を自発的に求める失敗。  対人的または情緒的相互性の欠如。  以下の少なくとも1 つによって示される意思伝達の質的な障害  話し言葉の発達の遅れまたは完全な欠如(身ぶりや物まねのような代わりの意思伝達の仕方により補おうとし ない)。  十分言葉のあるものでは,他人と会話を開始し継続する能力の著明な障害。  常同的で反復的な言語の使用または独特な言語。  発達水準に相応した,変化にとんだ自発的なごっこ遊びや社会性をもった物まね遊びの欠如。  行動,興味および活動の限定され,反復的で常同的な様式で,以下の少なくとも1 つによって明らかになる。  強度または対象において異常なほど,常同的で限定された型の,1 つまたはいくつかの興味だけに熱中すること。  特定の,機能的でない習慣や儀式にかたくなにこだわるのが明らかである。  常同反復的な衒奇的運動(例えば手や指をばたばたさせたりねじ曲げる,または複雑な全身の動き)。  物体の一部に持続的に熱中する。 B. 3 歳以前に始まる,以下の領域の少なくとも 1 つにおける機能の遅れまたは異常。  対人的相互作用, 対人的意思伝達に用いられる言語,または  象徴的遊び。 C. この障害は,他の特定の広汎性発達障害または統合失調症ではうまく説明できない。 表 DSMTR のアスペルガー障害の診断基準 A. 少なくとも2 つにより示される対人的相互反応の質的な障害。 自閉性障害の基準A と同じ。 B. 行動,興味および活動の限定され,反復的で常同的な様式で,以下の少なくとも1 つによって明らかになる。 自閉性障害の基準 A と同じ。 C. その障害は社会的,職業的,または他の重要な領域における機能の臨床的に著しい障害を引き起こしている。 D. 臨床的に著しい言語の遅れがない(例2 歳までに単語を用い,3 歳までにコミュニケーション的な句を用い る)。 E. 認知の発達,年齢に相応した自己管理能力,(対人関係以外の)適応行動,および小児期における環境への好奇 心について臨床的に明らかな遅れがない。 F. 他の特定の広汎性発達障害または統合失調症の基準を満たさない。 ― 77 ― (311) .広汎性発達障害(PDD)とは 1) PDD の疾患概念 米国精 神医学 会の診断 基準であ る DSM で は,自閉性障害(自閉症)およびアスペルガー 障害は,PDD と名づけられた上位概念に含ま れる一連の障害とされている。自閉性障害とア スペルガー障害の診断基準を表 1,表 2 に示す が,精神科医以外はこの診断基準をみただけで は何のことかさっぱりイメージができないだろ う。 PDD の疾患概念は,理解力(認知)の発達 に関して,独特の偏りと,多くは遅れをみせる 発達障害のひとつである。PDD の人は,自分 と自分のまわりの世界,特に対人関係に関係す ること(ルールや他者の心のなかなど)をうま く理解できなかったり,通常(多数派)の理解 とは異なる独特の理解の仕方をしたりするとま とめられる。 自閉性障害の概念は,米国の児童精神科医レ

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― 78 ― (312) ― 78 ― (312) オ ・ カ ナ ー が 「 情 緒 的 交 流 の 自 閉 性 障 害 (1943年)」という論文で報告し,◯極端な自 閉的ひきこもり,◯同じであることを維持しよ うとする強迫的な願望,◯優れた機械的記憶, ◯知的で物思いに沈んだ表情,◯緘黙,あるい は現実のコミュニケーションとしての意図を欠 く言語,◯刺激に対する過敏性,◯物の扱いの 巧みさといった特徴的な所見を持っている子ど も11名について報告したことから始まる。こ の「“自閉”性障害」という用語は,ブロイラー によって統合失調症の中心的症候のひとつとさ れた“自閉”からとったもので,カナーがこの 疾患を最早期発症の統合失調症である可能性を 仮説としてもっていたことを示す名称といえ る。しかし,このカナーが示唆した統合失調症 関連の疾患という仮説は,その後の研究により 覆され,現在では胎児期脳形成過程の早期に始 まる脳の機能障害に基づいた,特有な認知の問 題を背景に持つ発達障害のひとつと考えられて いる。 オーストリアの小児科医ハンス・アスペル ガーは,「小児期の自閉的精神病質(1944)」 という論文を報告している。後の研究者のロー ナ・ウィングは,カナーとアスペルガーの論文 の記述の強い類似点に気づき,“アスペルガー 症候群”について,◯双方向性の社会的交流と 一般的な社会的に不適当な行為の障害,◯話し ことばの遅れはないが,風変わりで学者のよう な話し方,型にはまった話の内容,◯限られた 非言語的コミュニケーション技能表情表出や ジェスチャーがほとんどない,◯変化に抵抗 し,繰り返しの活動に興味を持つ,◯限られた 範囲の特別な関心と高い機械的記憶力,◯奇妙 な歩き方や姿勢,あるいは常同運動を伴う運動 協調性の乏しさ,からなる診断基準をまとめた。 PDD の特徴が典型的な場合や発達の遅れを 伴う場合は,早期に認識されて診断に結びつき やすい。特徴の現れ方が非典型的であったり, 知的発達の遅れがなかったり,軽度である場合 には,学齢期になって相談機関を訪れたりす る。知能指数(IQ)が正常範囲内,あるいは IQ7075以上)の PDD を高機能 PDD と呼ぶ ことがある。高機能の意味するところは,知的 発達の遅れがないということである。アスペル ガー障害は,知的発達の遅れがなく,しかも言 葉を話す力(音声言語表出面)の発達にはほぼ 遅れのない PDD であるが,対人的な場面での 言葉の理解力(音声言語受容面)や表現には多 かれ少なかれ問題がある。 2) PDD の『三つ組みの障害』 ◯ 対人相互的交流の障害 まわりの人との関係がつきにくく,視線も合 いにくい。人と交わるのを嫌がるとか恥ずかし がるというよりも,人に興味がないように見え る。取って欲しい物がある時だけ,大人の手首 を持って,相手の顔を見ずに引っ張っていく。 他の子どもが遊んでいてもあまり興味を示さな い。 アスペルガー障害の人の多くは一生懸命人と 関わろうとするし,人と接触することが嫌いで はない。しかし顔の表情を含め,言葉以外のシ グナルを理解することが困難である。 ◯ 社会的コミュニケーションの障害 特に話し言葉(音声言語)の発達の問題が大 きい。満 1 歳頃に出始める言葉がなかなか出な かったり,出始めてもなかなか増えない。おう む返しの言葉が多く,長い間続く。言葉を聞い ても理解することが特に難しく,名前を呼んで も反応がない。そのために耳が聞こえないので はないかと思われることもある。話し言葉以外 のコミュニケーション手段,たとえば身振りや 表情などを理解し適切に用いることも困難。 アスペルガー障害の人はとても流暢にしゃべ ることがあるが,聞き手の反応にはあまり注意 を払わない。聞き手の気持ちにお構いなしに次 々と話し続けたり質問し続けたりする。また, 言葉を正確に解釈しすぎたり,字義どおりに解 釈しすぎたりすることがあり,誇張表現や比喩 と同様に冗談も問題を引き起こすことがある。 ◯ 社会的想像力,柔軟な思考,ごっこ遊びの障 害 想像力が必要なごっこ遊びができない。おも ちゃもその本来の機能に見合った使い方をせ ず,感覚刺激を得ることに没頭したりする。ま た人の心のなかを推測することが難しい。独特 の強いこだわり(興味の著しい偏りや儀式的反 復的常同的行動)がある。子どもによってこだ わりの対象はいろいろである。例えば,同じ所 には同じ道順でしか行こうとしない。物を決ま った位置にしか置こうとしない。どこに行くに

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― 79 ― (313) ― 79 ― (313) も絶対に手放さない物がある。物事の順序が厳 密に決まっている。小さい頃からマークや記 号,アルファベット,数字に興味を持つ。テレ ビの CM や天気予報,ビデオの特定の場面だ けが好きだったりする。 アスペルガー障害の人は,しばしば事実や数 字といったことの習得は上手だが,抽象的な思 考は苦手である。なかには趣味や収拾活動にほ とんど強迫的ともいえる打ち込み方をする人も いる。興味の対象としては,コンピューターや 鉄道関係のことが割合多い。 ◯その他の症状 視覚,聴覚,触覚,味覚などに特有な知覚過 敏を示すことが多い。知覚過敏は,例えば,掃 除機やトイレの乾燥機のような音を嫌がる,遠 くにかすかなクラクションが聞こえても両手で 耳をふさぎ奇声をあげて嫌がる,テレビである CM が流れると決まってかんしゃく(パニック) を示す,ある種の繊維の皮膚感覚を嫌がりその 素材で作られた服はいっさい着ない,偏食がひ どく嫌いな食品はすりおろして混ぜ込んだ料理 でも混入に気づくといった形で現れる。その他 にも傷や虫さされ部位をかきむしったり,かん しゃくを起こすと顔面を叩いたり,壁や床に頭 をぶつけるヘッド・バンギングなどの自傷行為 を繰り返す場合がある。 PDD の子どもは多動であり,衝動性が突出 するケースもある。高機能 PDD の子どもの中 には,幼児期から学童期にかけて ADHD と診 断されることも少なくない。また,経過中にて んかんを合併することもあり,全体の約 5~44 と幅がある。てんかんの初発年齢は10歳以 降の思春期年代が多い。学童期の高機能 PDD の子どもは学業的には学校生活に適応している ことも多いが,たいていの場合,運動機能の面 ではひどく不器用であることから体育や書字が 苦手であることや,日常の基本的動作がぎこち ないことも特性のひとつといえる。 3) 「心の理論(TOM)」の障害 自閉性障害の本質的障害に関する仮説はいく つか存在するが,そのひとつであるウタ・フリ スらの「心の理論(theory of mind : TOM)」 説があるといわれている。簡単にいうと PDD 児では「他者には各々の精神状態があること, すなわち自分のものとは異なる意図,要求,願 望,そして信念を持っているということを理解 する能力」の獲得に著しい遅延が存在するとい うことである。正常な知的機能を持っているア スペルガー障害の子どもの場合でも,TOM の 形成は遅延し,一般の子どもが 4 歳頃にはすで に獲得するこの能力を,思春期の開始期(10 歳前後)になってようやく獲得し始めるとされ ている。もちろん能力が高いほど獲得は確実に 生じるものの,それでも一般の子どもに比べる と他者の心の読みにくさや共感性の乏しさは生 涯を通じて続く場合が多いとされている。「心 の理論」障害は,相手の表情から気持ちを読み 取ることの困難さや,対人交流の場面で相手の 意図が読めず,ちぐはぐな対応をしたり,相手 の悪意に無頓着で騙されやすいなどの行動で表 現される,対人関係における困難と関係が深い 特性である。 4) PDD の子どもへの支援 英国自閉症協会は,PDD の人を支援する基 本的な枠組みとして重要な◯‘Structure構造 を明確にすること’の‘S’,◯ ‘Positive(ap-proach and expectations)肯定的な対応と適 切な期待’の‘P’,◯‘Empathy独特の理解 の方法への共感’の‘E’,◯‘Low arousal 興奮やストレスを招かない環境を作ること’の ‘L’,◯‘Links家庭や地域資源との連携’の ‘L’という頭文字をとって‘SPELL’とまと めている。PDD 児の認知の特性は,視覚的理 解力の方が聴覚的理解力よりも優れているこ と,そして部分的な情報に注意を向ける必要の ある課題,つまり断片的な処理過程の必要な課 題は得意で,全体的な意味の理解を必要とする 課題は不得意であることとまとめられる。構造 とは状況の意味や見通しであり,それを理解し やすくすることが構造(明確)化であり,構造 (明確)化や視覚化は見通しを持ちやすくしコ ミュニケーションを改善する。構造(明確)化 によって,メッセージの重要な構成要素である 「いつ」「どこで」「なにを」「どれだけ」「どん なやり方で」「いつまで(おわり)」「終わった ら次はどうなる」を理解しやすくするのであ る。構造(明確)化は,PDD の支援プログラ ムである TEACCH(treatment and education for autistic and related communication han-dicapped children ) や PECS ( picture

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ex-― 80 ex-―

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change communication system絵カード交換 法)などの根幹をなしているものである。 PDD の子どもに接する時に特に配慮しなけ ればならないことを以下にまとめる。◯相手の 心のうちが読めないために自分の関心事を一方 的に話したりすることがあってトラブルになる ことがある。そのような場合には,相手の気持 ちや立場などを丁寧に教えていく必要がある。 ◯言葉は普通に話したり,単語の知識も普通に あるが,言葉を聞いて理解することは不得意で ある。理解が十分でない時や話しだけで通じに くい時は,要点を書いて説明すると理解の助け になる。◯自分なりの基準で不当なこと,不公 平なことにはこだわり続け,かんしゃく(パニ ック)を起こすことがある。叱りつけて落ちつ かせようとするとかえって興奮し逆効果であ る。努めて冷静に穏やかに感情をこめずに事務 的に話す方がよい。◯かんしゃくを起こした場 合には,静かな環境に速やかに誘導し,◯◯に 乗っ取って落ちつかせることもひとつの方法で ある。◯かつての不公平感など不満やいじめら れ体験が何かのきっかけ突然蘇ることがあり, そのためにかんしゃくを起こすことがある。そ の時には◯◯で対応する。◯突然の予定の変更 を言葉だけで伝えられるとうまく飲みこめずに かんしゃくを起こすこともあるかもしれない。 なるべく突然の変更はしないようにし,どうし ても避けられなければ文字で書いて示してあげ るとよい。 また多動,衝動性,かんしゃくや自傷行為, 強いこだわり,過敏性に対して,非定型抗精神 病薬(risperidone),選択的セロトニン再取り 込み阻害薬,感情安定薬(carbamazepine など) が投与されることがある。 .注意欠如・多動性障害(ADHD)とは 1) ADHD の疾患概念 ADHD は,不注意,多動性,衝動性の 3 種 の主症状によって定義され,ドパミン,ノルア ドレナリンなどの脳内神経伝達物質の関与が示 唆され,「ADHD の一部はドパミン 4 型受容体 の塩基対の異常が関与し,ドパミンの活動が異 常である」「ドパミン・トランスポーターが過 剰に活動し,ドパミンの活動が異常である」な どの仮説が知られている。ADHD の診断基準 を表 3 に示すが,ADHD の経過追跡調査の結 果から,多彩な併存障害を示すこと,低い学業 成績,運転事故,仕事の難しさ,社会的拒絶, 2 倍の数字となる喫煙,アルコールや薬物乱 用,低い自己評価といった広範囲にわたる機能 障害と関連していることが明らかになってきて いる。 2) ADHD の子どもへの支援 2008年に出版された「第 3 版 注意欠如・ 多動性障害―ADHD―の診断・治療ガイドラ イン」では,親ガイダンス,学校との連携,子 どもとの面接,薬物療法を組み合わせて行うこ とを ADHD の子どもに対する治療の「基本キ ット」としている。ADHD の子どもに対する 治療でエビデンスが確立しているものには,薬 物療法と行動療法を中心とする心理・社会的療 法である。現在,わが国で 6 歳以上18歳未満 に 使 用 可 能 な 薬 物 は , 長 時 間 作 用 型 methyiphenidate 徐放薬(コンサータ)と選択 的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬 atomox-etine(ストラテラ)の 2 種類で,どちらの薬 物も ADHD の子どもへの第 1 選択薬として使 用可能である。多動,衝動性,そして不注意症 状を持っている PDD の子どもにも,コンサー タやストラテラは有効な場合もある。また,第 3 版 ADHD ガイドラインでは ADHD の治療の 目標を,決して ADHD の 3 主症状が完全にな くなることに置くのではなく,それらの症状の 改善に伴い学校や家庭における悪循環的な不適 応状態が好転し,ADHD 症状を自己のパーソ ナリティ特性(「自分らしさ」と呼んでもよい) として折り合えるようになることに置くべきで あるとしている。 .発達障害の二次障害とは 発達障害を理解する上でもうひとつ忘れてな らないことは,年齢とともに発達障害本来の症 状や特徴とは別に,むやみに反抗する,非行へ 走る,過度に内気で親から離れられない,際限 なくかつ相手に甘えを向け,たまたまそれが受 け入れられないと怒りを爆発させるといった症 状や行動が見られるようになることである。こ ういった症状や行動が加わることで,その子ど もは発達障害の標準的な展開から大きく逸れて いき,家庭や学校,地域社会で対応に苦慮する

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― 81 ― (315) 表 DSMTR の ADHD の診断基準 A.  か  のどちらか。  以下の不注意の症状のうち 6 つ(またはそれ以上)が少なくとも 6 カ月間持続したことがあり,その程度は 不適応的で,発達の水準に相応しないもの。 〈不注意〉  学業,仕事またはその他の活動において,しばしば綿密に注意することができない,または不注意な過ちをお かす。  課題または遊びの活動で注意を持続することがしばしば困難である。  直接話しかけられたときにしばしば聞いていないように見える。  しばしば指示に従えず,学業,用事,または職場での義務をやり遂げることができない(反抗的な行動,また は指示を理解できないためではなく)。  課題や活動を順序立てることがしばしば困難である。  (学業や宿題のような)精神的努力の持続を要する課題に従事することをしばしば避ける,嫌う,またはいや いや行う。  課題や活動に必要なもの(例おもちゃ,学校の課題,鉛筆,本,または道具)をしばしばなくす。  しばしば外からの刺激によって容易に注意をそらされる。  しばしば毎日の活動を忘れてしまう。 2)以下の多動性―衝動性の症状のうち 6 つ(またはそれ以上)が少なくとも 6 カ月間持続したことがあり,その 程度は不適応的で,発達水準に相応しない。 〈多動性〉  しばしば手足をそわそわと動かし,またはいすの上でもじもじする。  しばしば教室や,その他,座っていることを要求される状況で席を離れる。  しばしば,不適切な状況で,余計に走り回ったり高い所に上ったりする(青年または成人では落ち着かない感 じの自覚のみに限られるかもしれない)。  しばしば静かに遊んだり余暇活動につくことができない。  しばしば“じっとしていない”,またはまるで“エンジンで動かされるように”行動する。  しばしばしゃべりすぎる。 〈衝動性〉  しばしば質問が終わる前に出し抜けに答え始めてしまう。  しばしば順番を待つことが困難である。  しばしば他人を妨害し,邪魔する(例会話やゲームに干渉する)。 B. 多動性・衝動性または不注意の症状のいくつかが 7 歳未満に存在し,障害を引き起こしている。 C. これらの症状による障害が2 つ以上の状況おいて(たとえば,学校[または仕事]と家庭)存在する。 D. 社会的,学業的,職業的機能において臨床的に著しい障害が存在するという明確な証拠が存在しなければなら ない。 E. その症状は広汎性発達障害,統合失調症,またはその他の精神病性障害の経過中にのみ起こるものではなく, 他の精神疾患(たとえば,気分障害,不安障害,解離性障害,またはパーソナリティ障害)ではうまく説明で きない。混合型過去6 カ月間 A1 と A2 の基準をともに満たしている場合 不注意優勢型過去6 カ月間,基準 A1 を満たすが基準 A2 を満たさない場合 多動性衝動性優勢型過去6 カ月間,基準 A2 を満たすが基準 A1 を満たさない場合 ― 81 ― (315) 子どもに注目されるようになってきたのであ る。発達障害本来の症状を一次障害と呼ぶな ら,これらは二次障害と呼ばれ,出生直後から 続く養育環境を中心とする環境との相互作用の 中で形づくられてきたものが二次障害であると 考えられる。発達障害特有な社会的対処法の問 題(例えば乱暴さや衝動的な唐突さなど)のた めに,しばしば周囲の大人(親や教師)から叱 責されることが多くなる。また友達や仲間から は攻撃されたり,仲間はずれにされることもあ る。そのような周囲の反応によって,発達障害 の子どもは自信を失い,無力感や空虚感,ある いは不安や気分のおちこみを感じ,同時に怒り をためていく。このような自己感をめぐる混乱

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― 82 ― (316) 図 二次障害の出現の悪循環 図 解釈のためのアスペルガー用レンズ(参考文 献6 を修正) ― 82 ― (316) は,反抗,暴力,家出,ひきこもりなどの問題 行動を刺激し,その子どもに対する叱責を増加 させる。同時に親として,あるいは教師として の無力感や罪悪感を強く刺激され,その結果そ の子どもを避けたい,関わりたくないという気 持ちが強くなる。こうした周囲の感情は,子ど もの発達障害に基づく社会的対処法の問題をさ らに大きいものにしていく(図 1)。クミンの 「アスペルガー・レンズ」の考え方が参考にな る(図 2)。ADHD やアスペルガー障害といっ た発達障害の認知の特性をきちんと理解し,そ の情報を通して,すなわち通常のレンズとは違 う「アスペルガー・レンズ」「ADHD・レンズ」 を通して物事をみてみると,アスペルガー障害, ADHD の子どもがなぜそのような行動をとっ たのかが理解でき,援助法がみえてくるという 発想である。 文 献 1) アイリーサ・ギャニオン(門眞一郎訳)パワー カード アスペルガー症候群や自閉症の子どもの意欲 を高める視覚的支援,明石書店,2011. 2) キャロル・グレイ(門眞一郎訳)コミック会話 自閉症など発達障害のある子どものためのコミュニ ケーション支援法,明石書店,2005. 3) 藤田理恵子,和田恵子,服巻 繁自閉症の子ど もたちの生活を支える―すぐに役立つ絵カード作成用 データ集,エンパワメント研究所,2008. 4) 齊藤万比古,渡部京太(編集)第3 版 注意欠 如・多動性障害―ADHD―の診断・治療ガイドライ ン,じほう,2008. 5) 齊藤万比古(編著)発達障害が引き起こす二次障 害へのケアとサポート,学研,2009. 6) バル・クミン,ギル・スティーブンソン,ジュリ ア・リーチ(齊藤万比古監訳)教師のためのアスペ ルガー症候群ガイドブック,中央法規出版,2005. 別刷請求先 〒2728516 千葉県市川市国府台 171 国立国際医療研究センター国府台病院児童精神 科 渡部京太

Understanding children with developmental disorder and

strategy for their support

Kyota Watanabe

Department of Child and Adolescent Psychiatry, Kohnodai Hospital, National Center for Global Health and Medicine

Key words: pervasive developmental disorder (PDD), autistic disorder, Asperger's disorder, at-tention-deˆcit/hyperactivity disorder (ADHD), visual structure of environment

参照

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