43 荒川清秀氏『漢語の謎──日本語と中国語のあいだ』 日本人や中国人は漢語を日常的に目にするが故に、なぜ この漢字の組み合わせからこの意味になるのかなど、疑問 を抱くことはあまりない。 本書は、普段使っている漢語の本来の意味や、その漢語 が生まれた背景に迫るため、漢語が用いられる日本と中国 の 歴 史 や 言 葉 の 成 り 立 ち の 視 点 か ら、 序 章 と 終 章 を 含 め、 計七章に分けて漢語の謎を一つ一つ紐解いている。章立て は左記の通りである。 序章──漢語の日中往来 第一章──「電池」になぜ「池」がつくのか? 第二章──「文明」 「文化」は日本から逆輸入? 第三章──「半島」 「回帰線」はどうできたか? 第四章──なぜ「熱帯」は「暑帯」ではないのか? 第五章──「空気」は日中双方でつくられた? 終章──日本語と中国語のあいだで
〔紹介〕
荒川清秀著『漢語の謎──日本語と中国語のあいだ』
竹
崎
智
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序 章 で は、 漢 語 の 定 義 を 複 数 の 熟 語 を 例 に 示 し た 上 で、 日中同形語に潜む謎を挙げ、どのように言葉が日中間で往 来していたかを説明している。 第一章では、 盆地の盆、 電池の池、 銀行の行、 割礼の割、 租界の租から、日本人の感覚では理解不能な漢語、中国人 にとっても不思議と思われる漢語を追究している。身近な 日中同形語から、日本と中国を行き来する言葉の歴史や漢 字の解釈の違い、日中双方の文化の広がりが分かる。 第二章では、 文明と文化、 義務、 調査、 化石、 手続から、 日本で作られて中国に渡った漢語、所謂和製漢語について 紹介されている。漢語が生まれてから二つの国を行き来す る内に意味が徐々に変化していった過程が理解できる。 第三章では、半島、回帰線、健康から、日本でどのよう にして漢語が作られたかについて紹介されている。三種の パターン(蘭学から生まれる、 国内を漢語が巡り変化する、44 訓で考え音に返す)からどのような過程を経て生まれたか を分析している。日本と中国で語順が逆になる漢語の謎も 掘り下げ、 その漢語が生まれた背景に日本の視点から迫る。 第四章では、熱帯、貿易風、海流、氷河から、第三章と は逆の視点、中国でどのようにして漢語が作られたかにつ いて紹介されている。日本が漢字本来の意味に沿うのに対 し、中国では形や働きから漢語を作るなど、漢語成立の事 情が異なっており、日本と中国とで漢語を互いに理解し難 いと感じる謎が分かる。 第五章では、空気、医院、門、広場、出口、入口、百葉 箱から、日本と中国の同形語の中で、どちらでできたか分 からない、または、双方で別々に生まれた漢語を取り挙げ ている。日中双方の視点から違った発見がある。 終章では、全体の振り返りがなされる。 荒川氏自身も記述している通り、自分たちが普段使って いる漢字、漢語の意味がなぜそうなのか、どこから来たの かを考えることは少ない。本書はそんな我々の好奇心を最 大限に駆り立て、詳しい説明と共に、例に挙げた漢字や漢 語一つ一つの変化の流れや切っ掛けが丁寧に掘り下げられ ている。 (筑摩書房、二〇二〇年二月、二七〇頁、八六〇円+税) (たけざき・ちい 本学日本語日本文学科一年)