1〒 501–1193 岐阜市柳戸 1–1 岐阜大学地域科学部 2〒 500–8889 岐阜市大縄場 3–1 岐阜県立岐阜高等学校 3〒 079–0198 北海道美唄市光珠内町東山 地方独立行政法人 北海道立総合研究機構 林業試験場 4現所属:〒 060–0808 北海道札幌市北区北 8 条西 5 丁目 北海道大学理学部生物科学科 (2015 年 4 月 10 日受付;2015 年 8 月 26 日改訂;2015 年 8 月 27 日受理) キーワード:渓流魚,属間交雑,主成分分析,mtDNA,SINE Japanese Journal of Ichthyology
© The Ichthyological Society of Japan 2015
Takahiko Mukai*, Ryo Futamura, Taiki Niwa, Akihiko Goto, Naoki Miwa, Wataru Ishizuka, Yuichi Yaoi and Masaki Takagi. 2015. Intergeneric hybridization between Japanese char and red-spotted masu salmon in a tributary of the Ibigawa River, Gifu Prefecture, Japan. Japan. J. Ichthyol., 62(2): 149–156.
Abstract Japanese char Salvelinus leucomaenis, red-spotted masu salmon Oncorhynchus
masou ishikawae, hybrid individuals were collected from a tributary of the Ibigawa River, Gifu Prefecture, Japan. The char and hybrids were mainly distributed in the headwater area where eyed eggs of red-spotted masu salmon are released in each year. Principal component analysis (PCA) of the morphological features of parental and hybrid individuals indicated that hybrid body shape was similar to that of char. Partial nucleotide sequences of mitochondrial DNA indicated the female parental species to be red-spotted masu salmon, without exception. Genotyping of three loci of short interspersed repetitive elements (SINE) of inserted alleles showed all hybrid individuals to be F1, with no evidence of
backcrossing. These results indicated that the introduced red-spotted masu salmon hybridized with male char, with a high survival rate of sterile F1 offspring.
*Corresponding author: Faculty of Regional Studies, Gifu University, 1–1 Yanagido, Gifu, 501–1193, Japan (e-mail: [email protected])
イ
ワナ Salvelinus leucomaenis は日本の山岳渓流 における代表的な淡水魚であり,ヤマメ(サ クラマス)Oncorhynchus masou masou やアマゴ(サ ツキマス)O. m. ishikawae とともに渓流釣りの好 対象とされている (川那部・水野,1989).しかし, これらのサケ科の渓流魚は,森林の開発による生 息環境の悪化(佐藤ほか,2006;佐藤,2008),砂 防堰堤などの河川横断構造物による生息環境の分 断 (Morita and Yamamoto, 2002;遠藤ほか,2006), 遊漁者による乱獲(佐藤・渡辺,2004)などによっ て全国的に減少傾向にあると考えられている.ま た,これらの種は古くから重要な食用魚として漁 業価値が高いことから,長年にわたって漁業協同 組合等による種苗放流がおこなわれており,放流 個体と在来個体の交雑による遺伝的撹乱が生じて いる(中村ほか,2012;亀甲,2013). 渓流魚の交雑は,種内の地域個体群間の遺伝的 撹乱として生じるだけでなく,イワナ属魚類とサ クラマス種群(ヤマメ・アマゴ類)といった別属 間でも生じることが知られている(疋田,1963; Honma, 1974; 加 藤,1977; 木 村,1977; 斉 藤, 1978;丸山,1978;頼,1980;佐藤,1982;成瀬, 1982;服部,1991;Koizumi et al., 2005;Sato et al., 2008).イワナ属魚類とサクラマス種群の属間交岐阜県揖斐川支流におけるイワナとアマゴの
交雑個体の形態および遺伝的特徴
向井貴彦
1・二村 凌
2, 4・丹羽大樹
2・後藤暁彦
2・三輪直生
2・
雑は自然度の高い環境でもしばしば生じていたと 考えられるが(疋田,1963;Honma, 1974),人為 的環境改変による生息環境の悪化(加藤,1977; Sato et al., 2008)や,イワナ属の生息域へのサクラ マス種群の導入(佐藤,1982;Koizumi et al., 2005) によっても生じることが知られている.岐阜県は 全国で 2 番目に森林率の高い県であり(林野庁, 2012),渓流魚の生息に適した環境も多いと考え られるが,イワナやアマゴの放流行為も盛んであり, 遺伝的撹乱の生じていない在来個体群の保全が必 要と考えられている(徳原ほか,2007).岐阜県内 ではイワナ属魚類とサクラマス種群の交雑と考え ら れ る 個 体 も 確 認 さ れ て い る が( 岸・ 徳 原, 2012),報告されているのは飛騨川水系の異なる 支流で 1 個体ずつのみである.しかし,筆者らは 2012 年に岐阜県揖斐川町の河川において,非常に 高い頻度でイワナとアマゴの雑種と考えられる個 体を採集した.そこで,本研究では属間雑種と思 われる個体の形態形質を測定し,ミトコンドリア DNA の部分塩基配列を決定することで母系を判 別するとともに,核 DNA の共優性マーカーであ る SINE(short interspersed repetitive elements) の 複 数遺伝子座について遺伝子型の判定をおこなうこ とで,この河川における属間交雑の要因とイワナ およびアマゴの個体群への影響を考察した. 材 料 と 方 法 岐阜県揖斐郡揖斐川町の揖斐川水系右岸側の支 流 で 2012 年 6 月 24 日,9 月 6 日,9 月 29 日 に 2 名(二村・高木)で釣りによる採集をおこなった. 調査地は標高 400 m から標高 610 m までの流程 1700 m の区間であり,堰高 3.1 m から 10 m の砂 防堰堤が 6 基設置されている(Fig. 1).最下流の 1 基(第 1 堰堤)のみ魚道と思われる水路が付け られているが,残りの 5 基(第 2 から第 6 堰堤) には魚道は付けられていない.6 月 24 日と 9 月 6 日は最上流部の第 6 堰堤(堰高 10 m)より上流 の源流域約 200 m の区間(A)で採集をおこない, 9 月 29 日は調査区間の第 1 から第 6 堰堤までの 区間(B)と,最下流の第 1 堰堤より下流側の約 500 m の区間(C)で採集をおこなった.本調査 地は小規模な支流であり,源流域の区間 A の流 幅は約 3 m で最大水深は約 50 cm,区間 B と C の 流幅は約 2~7 m で最大水深は約 1 m であった. 調査地における魚類の放流状況については,揖 斐川中部漁業協同組合から聞き取りを行い,アマ ゴを漁業対象として,本調査河川の最上流域(第 6 堰堤より上流)に毎年 2 万粒のアマゴの発眼卵 放流をしていることを確認した.なお,聞き取り の際に,イワナはアマゴを食害する害魚として認 識されており,放流はおこなわれていないことを 確認した. 採集された魚種は,体側斑紋の状態から,イワ ナ,交雑個体,アマゴの 3 種類に区別した.なお, 岐阜県の太平洋側の水系のイワナはヤマトイワナ Salvelinus leucomaenis japonicus とされることが多 いが(川那部・水野,1989;細谷,2013),イワ ナの亜種の区分と遺伝的集団構造は一致しないこ と が 知 ら れ て い る た め(Yamamoto et al., 2004), ここではイワナ Salvelinus leucomaenis として扱っ た.交雑個体(Fig. 2)は,体側のパーマークはア マゴにやや類似するが,朱点が無く,体側背面に 虫食い状(もしくは虎毛状)の斑紋をもつことで, 既知のイワナ属とサクラマス種群の雑種の色斑(加 藤,1977;服 部,1991;Koizumi et al., 2005)と類 似することから交雑個体と判断した.採集した個 体は,腹鰭の一方を DNA 解析用に 99.5%エタノー ル中に保存した.全長 150 mm 以下の個体は遊漁 規則にしたがって採集した地点で放流し,全長 150 mm より大きい個体は研究室で FA100(田村製 薬株式会社)を用いて麻酔した後,展鰭して 10% ホルマリンで固定した.固定した標本は,体各部 の計測を行った後,70%エタノール中で保存した. これらの標本は岐阜県博物館に登録,保管した(登 録番号 GPM-Z 17539-17541,17567,17596). 体各部の計測は中坊・中山(2013)に従って,
Fig. 1. Schematic map of a tributary of the Ibigawa
River, Gifu Prefecture, Japan. Bold line indicates sampling area (altitude of 400–610 m). Of 6 weirs present (heights 3.1–10 m), the 2nd to 6th weirs had no fishway. Most char Salvelinus leucomaenis and hybrid individuals were collected above the 6th weir.
標準体長,頭長,体高,背鰭基底長,尾柄高,眼 径,両眼間隔,上顎長,背鰭条数,臀鰭条数の 10 項目についておこなった.これらの形質の中 から調査地のイワナとアマゴを区別する特徴的な 形質を探るとともに,交雑個体が各形質において どのような傾向を示すか調べるため,計測した全 個体のデータをもとに主成分分析を行った.主成
分分析は R 2.12.2(R Development Core Team, 2011) を用いて行った.解析に使用した因子は頭長/体 長(%),体高/体長(%),背鰭基底長/体長(%), 尾柄高/体長(%),眼径/頭長(%),両眼間隔 /頭長(%),上顎長/頭長(%),背鰭条数,臀 鰭条数とした. DNA の抽出は,エタノールで保存した鰭の一部
Fig. 2. Color patterns of Japanese char Salvelinus leucomaenis, red-spotted masu salmon
Oncorhynchus masou ishikawae and hybrid individuals. A, Japanese char (collected on 16 Sept. 2012, not retained). B, adult hybrid (GPM-Z 17541). C, juvenile hybrid (collected on 29 Sept. 2012, not retained). D, red-spotted masu salmon (GPM-Z 17539).
から DNeasy Blood & Tissue Kit(キアゲン社)を用い ておこなった.ミトコンドリア DNA の調節領域の PCR 増幅と塩基配列決定は,L15927-Thr(5ʼ- AGA GCG TCG GTC TTG TAA KCC G-3ʼ)(Miya and Nishida, 2000)と H16484-CR(5ʼ-GAG CCA AAT GCM AGG AAT ARW TCA-3ʼ)(Inoue et al., 2005)のプライ マーセットを用いておこなった.PCR には Crimson Taq PCR sampler(ニューイングランドバイオラボ社) のバッファーと Ex Taq DNA ポリメラーゼ(タカラバ イオ株式会社)を使用し,常法に従ってサーマルサ イクラーで 95˚C1 分,55˚C1 分,72˚C2 分の温度サイ クルを 30 回繰り返して増幅を行った.PCR 産物は ExoSAP-IT キット(GE ヘルスケアジャパン社)を用 いて処理した後,BigDye Terminator Cycle Sequencing Kit ver. 3.1(アプライドバイオシステムズ社)でシー クエンス反応をおこない,磁気ビーズ Clean SEQ [Beckman Coulter(Agencourt)社]で精製,ABI 3100 Genetic Analyzer で塩基配列を決定した.得られた塩 基配列は日本 DNA データバンク(DDBJ)に登録し た(登録番号 LC043132-LC043135). 核 DNA マーカーによる雑種の判定方法として, 共優性マーカーである SINE の有無を PCR で検出 することで複数の遺伝子座における遺伝子型の判 定をおこなった.SINE は核ゲノム中にランダム に挿入された数百塩基対のレトロポゾンであり, ゲノム中の特定の領域における挿入の有無を PCR によって識別できる.Murata et al.(1996)は,サ ケ科魚類の主要な系統における SINE の挿入の有 無を明らかにしており,そうした知見を元にする ことで属間交雑などの遺伝的マーカーとして利用 できるため,本研究ではイワナ属とサケ属を識別 できる 6 つの SINE 遺伝子座(Hpa-461, 423, 445, 5, 405, 20)の PCR をおこない,鮮明な電気泳動像が 得られた遺伝子座について遺伝子型を判定した. PCR の試薬及び温度条件は上述のミトコンドリア DNA 調節領域と同様におこない,常法に従って 2%アガロースで電気泳動後,エチジウムブロマ イドもしくは SYBR® Safe(ライフテクノロジー ズ社)で染色して観察,デジタルカメラで撮影した. 結 果 本研究における釣獲調査では,約 1700 m の調 査区間で 41 個体のサケ科魚類(イワナ 14 個体, 交雑 16 個体,アマゴ 11 個体)が採集された.調 査区間を源流区(Fig. 1 の区間 A.最上流の砂防 堰堤よりも上流,約 200 m),堰堤区(Fig. 1 の区 間 B.6 基の砂防堰堤の設置されている区間,約 1000 m),下流区(Fig. 1 の区間 C.最下流の砂防 堰堤よりも下流,約 500 m)に分けてみると,イ ワナは全区間で採集され(源流区 8 個体,堰堤区 3 個体,下流区 3 個体),交雑個体は堰堤区より 上流(源流区 13 個体,堰堤区 3 個体),アマゴは 下流区でのみ 11 個体であった.ただし,2012 年 6 月 24 日に源流区で釣獲された全長 150 mm 以下 のイワナ 3 個体と交雑 5 個体は遊漁規則にした がって採集した地点で放流したため,9 月の調査 で再度捕獲された可能性がある.また,2012 年 9 月 29 日に堰堤区で釣獲された全長 150 mm 以下 の交雑 2 個体と下流区のアマゴ 6 個体も遊漁規則 にしたがって放流した. 採集された 41 個体の内,全長 150 mm 以下の 16 個 体 を 除 く 25 個 体( イ ワ ナ 11 個 体, 交 雑 9 個体,アマゴ 5 個体)について,ホルマリン固定 後に外部形態の測定を行い,主成分分析を行った (Table 1, Fig. 3).なお,測定を行った標本につい て,雌雄の性徴が明瞭なものはなく,性別や成熟 度による区別はしなかった.測定の結果,第一主 成分においてアマゴとイワナのグループが分離し, 2 種の形態的相違を説明する成分であると解釈さ れた.第 1 主成分は主に A(頭長/体長),B(体 高/体長),H(背鰭条数)の貢献度が高く(38.4%), アマゴの方が背鰭条数が多いこと,アマゴは体長 に対する頭長が長く,体高が高いことを表してい る.一方,第 2 主成分はグループ間の差は小さい ものの,グループ内におけるばらつきが大きく, 種内の変異(個体差)を説明する成分であると解 釈された.第 2 主成分は G(上顎長/頭長)と E (眼径/頭長)が影響しているが,主因子の貢献 度は高くなかった.交雑個体はイワナとアマゴの グループの間にプロットされたが,個体間で大き なばらつきが見られた.このうち,2 個体はイワ ナとアマゴの中間の形質を示したものの,残りの 7 個体はイワナに類似した形質を示していた. DNA の抽出については,調査開始当初の 2012 年 6 月 24 日に源流区で釣獲された全長 150 mm 以下のイワナ 3 個体と交雑 5 個体について DNA 解析用の鰭を採取せずに放流し,後日の調査にお いて同一個体のデータが重複しないようにした. 残りの 33 個体(イワナ,交雑,アマゴ各 11 個体) については,ミトコンドリア DNA 調節領域の塩 基 配 列 を 決 定 し た. イ ワ ナ 11 個 体 は, す べ て 504 塩 基 対 の 同 じ ハ プ ロ タ イ プ で あ り(DDBJ/ EMBL/GenBank 登録番号 LC043132),既知のイワ
ナの調節領域の塩基配列[DQ403177・DQ403188 (Shedko et al., 2007),KF974451(Shedko, 2014),
KF513161(Zhang et al., unpublished)]と相同性で 98~99%一致した.交雑 11 個体とアマゴ 9 個体 は 499 塩 基 対 の 同 じ ハ プ ロ タ イ プ(Ibi_a01: LC043133) で あ り, ア マ ゴ 2 個 体 は そ こ か ら 1 塩基ずつ異なるハプロタイプであった(Ibi_a02: LC043134,Ibi_a03:LC043135).これらのハプロ タイプは,Kawamura et al.(2007)におけるアマ ゴの塩基配列(AB236731)の相同領域と 98%一 致した.本研究で得られたイワナとアマゴのハプ ロタイプの塩基配列は著しく異なっており,適切 なアライメントができなかったために両種間の塩 基配列の差異および相同性は算出しなかった. 核ゲノム中の SINE の挿入の有無による対立遺
Table 1. Standard lengths, mean relative lengths and counts with standard deviations of three salmonids
col-lected from a tributary of the Ibigawa River. A–I used as variable components for principal component analysis (Fig. 3)
S. leucomaenis hybrids O. m. ishikawae
n = 9 n = 11 n = 5
Standard length (SL) (mm) 110.1–161.5 118.6–168.8 126.7–188.7 In % of SL
A Head length (HL) 27.7 ± 1.4 27.0 ± 1.2 29.5 ± 1.2 B Body depth 22.6 ± 1.6 23.1 ± 1.7 27.9 ± 0.4 C Dorsal fin length 15.9 ± 0.9 16.1 ± 1.0 17.1 ± 0.6 D Caudal depth 17.4 ± 1.3 18.1 ± 1.0 15.9 ± 0.4
In % of HL
E Eye diameter 23.7 ± 2.2 25.4 ± 3.9 23.7 ± 2.2 F Interorbital width 31.6 ± 2.7 32.5 ± 2.4 29.9 ± 1.9 G Upper jaw length 44.4 ± 3.3 41.0 ± 2.2 39.5 ± 3.9 H Dorsal fin ray 13.4 ± 0.7 13.7 ± 1.1 12.8 ± 0.8 I Anal fin ray 11.8 ± 1.2 10.6 ± 0.7 12.8 ± 1.2
Fig. 3. Scattered diagrams of principal component scores
PC1–PC 2 based on 9 characters of Salvelinus leucomaenis (crosses), hybrid (triangles) and Oncorhynchus masou ishikawae (circles). Variable components A–I are in Table 1.
Fig. 4. Agarose gel electrophoresis patterns of PCR
amplified orthologous loci of 423, 445 and Hpa-461. In these loci, short interspersed repetitive elements (SINE) were inserted in masu (Oncorhynchus), not in char (Salvelinus) (details in Murata et al., 1996). All hybrids showed heterozygous genotypes of SINE inserted (Oncorhynchus type) and non-inserted (Salvelinus type) alleles.
伝子の判別は,PCR を試みた 6 つの遺伝子座の うち,Hpa-461, 423, 445 の 3 つについて鮮明な電 気泳動像が得られた.いずれの遺伝子座もサケ属 では SINE の挿入があり,イワナ属では SINE の 挿 入 が 無 い こ と が 知 ら れ て お り(Murata et al., 1996),交雑 11 個体と,アマゴ 2 個体,イワナ 2 個体について遺伝子型の判定を行ったところ,ア マゴは SINE の挿入を示す分子量が大きいバンド のみ,イワナは SINE の挿入が無いことを示す分 子量が小さいバンドのみ,交雑個体は 3 つの遺伝 子座すべてで両方のバンドが見られた(Fig. 4). 考 察 本研究で採集された揖斐川支流の交雑個体は, 主成分分析によってイワナに類似した体型である ことが示された.また,ミトコンドリア DNA は 既存のデータとの比較からアマゴのものと考えら れた.さらに,ゲノム中の SINE の挿入の有無に よる遺伝子型の判別では,調べた 3 つの遺伝子座 すべてでイワナとアマゴの両方の対立遺伝子を持 つヘテロであることが示された.F1雑種はすべて の核遺伝子座で両親種の対立遺伝子のヘテロとな るが,F1雑種が親種のどちらかと戻し交雑した場 合でも 1/8 の確率で 3 つの遺伝子座すべてがヘテ ロの個体が生まれると考えられる.しかし,人工 的に交配したイワナ属の雌とサクラマス種群の雄 の属間雑種は精巣や卵巣の発達が非常に悪いこと が 知 ら れ て い る た め(Suzuki and Fukuda, 1973), 本研究で見られた交雑個体においても戻し交雑は おこなわれていない可能性が考えられる.したがっ て,これらの交雑個体は,おそらくイワナとアマ ゴの F1雑種であり,ミトコンドリア DNA が母系 遺伝することを踏まえると,母種がアマゴである と考えられる. イワナとサクラマス種群の属間雑種の形態につ いては,イワナ雌とアマゴ雄の人工的な交配によ る F1雑種の頭長比などがアマゴに類似するとさ れているが(服部,1991),本研究で採集された 交雑個体は母種がアマゴの F1雑種と推定され, 頭長比,体高,背鰭条数といった両種の識別形質 においてイワナに類似していた.このことは,頭 長比などのプロポーションが父種の形質に類似す る可能性を示唆しているが,飼育下と野外という 異なる環境での交雑個体の形態であるため,父種 と F1雑種のプロポーションの類似については, 飼育条件を整えた上での評価が必要である.また, イワナとサクラマス種群の雑種は,釣り上げた時 の感覚がイワナ的だとされており(加藤,1977; 丸山,1978;成瀬,1982),本研究で示されたよ うに全体的なプロポーションがイワナに類似する ことが一般的であれば,釣り上げた時の感覚(交 雑個体の遊泳能力等)がイワナ的ということも充 分考えられる. 野外で見つかった属間雑種について遺伝的解析 の行われた研究では,北海道然別湖の在来ミヤベ イワナと導入されたヤマメの雑種について報告さ れており,発見された1個体はミヤベイワナが母 種の F1雑種であることが示されている(Koizumi et al., 2005).また,紀伊半島の十津川水系に分布 するキリクチ(ヤマトイワナの地方型)とアマゴ の属間雑種についての報告でも,15 個体の雑種 の全てがキリクチのミトコンドリア DNA を持ち, 13 個体は 5 つのマイクロサテライト遺伝子座で 両種のヘテロだったことから,ほとんどの交雑個 体がキリクチを母種とする F1雑種と考えられて いる(Sato et al., 2008).然別湖でのミヤベイワナ とヤマメの交雑は人為的なヤマメの放流が原因で あり(Koizumi et al., 2005),十津川水系のキリク チ生息地では,本来やや下流側に生息していたア マゴの分布がキリクチの生息する上流側の支流に まで広がったことが交雑の原因と推測されている (Sato et al., 2008).本研究の調査地である揖斐川 支流の場合,源流域が魚道の無い多数の砂防堰堤 によって本川から隔離されており,アマゴが下流 側から自力で分布を広げることはないが,源流域 でアマゴの発眼卵放流がおこなわれている.した がって,この場合もイワナの生息域におけるアマ ゴの人為的な放流が交雑の原因となったことが考 えられる. しかし,イワナ属とサクラマス種群の野外での 交雑は,北海道然別湖(Koizumi et al., 2005)と紀 伊半島の十津川水系(Sato et al., 2008)ではイワ ナ属が母種となっていたが,本研究の揖斐川支流 ではアマゴが母種となっていた.動物の配偶行動 においては,一般に配偶子への投資が大きいメス が厳密に交配相手を選別するため,同種のオスが 容易に見つかる状況でメスが異種を選ぶことはな く,同種の密度が低く,交配相手が不足する場合 に異種との交配が生じると考えられている(Wirtz, 1999).十津川水系でキリクチとアマゴの交雑が 生じていたときには,100 mm より大型のキリク チはアマゴの半分程度の個体数しか生息していな かったことが知られており,相対的に密度の低い
キリクチが母種となっていた(Sato et al., 2008). 本研究で観察された交雑はこれまでの報告とその 方向性が異なっており,調査地におけるアマゴの 個体数が少なかったと考えることで説明できる可 能性がある.ただし,本研究では釣獲による調査 しか行っておらず,イワナ,アマゴ,交雑個体の 正確な個体数については不明なため,今後は両種 の個体数比や産卵行動などの調査によって,交雑 の方向性が生じる要因についての検証が必要であ る.また,源流区ではイワナよりも交雑個体の方 が多く釣獲されており,少なくともこの支流にお いては,源流域におけるアマゴの発眼卵放流が属 間交雑を引き起こすことでイワナの繁殖に悪影響 を与えている可能性がある.そのため,渓流魚の 保全と利用,また内水面漁業における増殖義務の 遂行という点において,イワナの生息域における アマゴの発眼卵放流は,適切な手法ではないと考 えられる. 謝 辞 イワナ,アマゴ,交雑個体の計測に協力してい ただいた岐阜県立岐阜高等学校自然科学部生物班 の宇野真氏,DNA 解析に協力していただいた岐 阜大学生命科学総合研究支援センターゲノム分野 の皆様,標本登録に協力していただいた岐阜県博 物館の説田健一学芸員と岐阜市立長森南小学校の 千藤克彦教頭,岐阜県博物館サポーター「岐阜県 の魚研究会」の皆様,雑種判別への SINE 法の応 用について御教示いただいた水産総合研究セン ター増養殖研究所の名古屋博之基盤グループ長, 本原稿について有益な御助言をいただいた岐阜大 学地域科学部特定研究補佐員の北西滋博士,揖斐 川支流における魚類の放流状況について御教示い ただいた揖斐川中部漁業協同組合の古田隆理事に 深く感謝する.本研究の一部は,筆頭著者(向井) に与えられた JSPS 科研費 26250044 と著者の一人 (矢追)に与えられた公益財団法人 武田科学振興 財団の助成によりおこなわれた. 引 用 文 献 遠藤辰典・坪井潤一・岩田智也.2006.河川工作 物がイワナとアマゴの個体群存続に及ぼす影響. 保全生態学研究,11: 4–12. 服部克也.1991.イワナ(雌)とアマゴ(雄)間 での雑種に見られた形態的,生化学的特徴.水 産増殖,39: 77–82. 疋田豊彦.1963.北海道産の俗称 “ イワメ ” につい て.北海道立水産孵化場研究報告,18: 41–43. Honma, Y. 1974. A specimen of a possible hybrid between
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