資産負債アプローチと
収益 費用 アプローチに関する一考察
― イギリスの 「財務報告原則書」を中心として一
可 児 島 達 夫
I は じめに エ イ ギ リスにおける概念 フレームワークの形成 と機能 田 会 計基準審議会 (ASB)の 「財務報告原則書」 I V 資 産負債 アプローチ と収益費用 アプローチ V 資 産負債 アプローチに関する問題 V I 収 益費用 アプローチに関する問題 Ⅶ む すび I `よ じめに近年,ア メ リカの財務会計基準審議会 (Financial Accounting Standards Board:以 下FASBと す る)を 筆頭 に,ア ングロ ・サ クソン諸国の会計団体や 国際会計基準委員会 (International Accounting Standards Committee)力S, FASBに 追随す るように財務会計概念 フレームワークに関する文書 を公表 して いる。それ らにおいては,利 益計算構造 に関 して,概 念的には時価 ・発生主義 を含 む資産負債 アプローチ (the asset and habltty view)を採用 している。 そ こで,従 来の原価 ・実現主義 に立脚 した収益費用 アプローチ (the revenue and expense view)と 何が違 うのか, どの ような有用性があるのか とい うこ
とが本稿 の問題意識である。
そ こで,本 稿では,イ ギ リスにおける財務会計概念 フレームワークであ り, 会計基準審議会 (Accounting Standards Board:以下ASBと す る)に よって 1995年11月に公表 された公開草案 「財務報告原則書」 (Statement of P五nciples
2 1 2 滋 賀大学創立50周年記念論文集 (第321号)
fOr Financial Reporting i以下SPFRと する)に もとづいて,資 産負債 アプロー チ と収益費用 アプローチの相違点,お よびそれぞれの特徴点を明らかにするこ とを目的 とす る。 まず, 2節 では,イ ギ リスにおいてSPFRが 公表 されるまでの概念 フレーム ヮークの形成過程 を概観す るとともに,そ の機能 について明 らかにする。次 に, 3節 では,SPFRの 内容 について簡単 に述べ る。 さらに, 4節 では,資 産負債 アプローチ と収益費用 アプローチのそれぞれについて定義する。その上で,ま ず 5節 では,資 産負債 アプローチを採用するSPFRに ついて,収 益費用アプロー チ を支持す る立場か ら検討 し,こ れに対 して 6節 では,資 産負債 アプローチを 支持す る立場か ら,収 益費用 アプローチを検討することによつて,そ れぞれの 長所 ・短所 を明 らかに したい と思 う。 H イ ギ リスにおける概念 フレームワークの形成 と機能 概念 フレームワークが存在 しない場合には,会 計基準設定者は基準設定にお いて経験 に依存することを強い られる。会計基準設定の準拠枠 として経験 を用 いることによる問題 は,す べての人間の経験が異なるため,異 なる結論が導か れ,結 果 として,過 去 において さまざまな結論が氾濫することであつた。
イギ リス のASBの 前 身で あ る会計 基 準 委 員 会 (Accounting Standards Committee)は ,さ まざまな基準草案 を個 々のメンバーの異なる経験毛件集す ることによつて作成するアプローチ (記述的アプローチ)を 採っていたOそ の 結果,会 計基準の過剰,会 計手続の選択肢の増大 を招いた。
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資産負債アプローチと収益費用アプローチに関する一考察 213 そ こで , デ イア リング ( R . D e a r i n g ) 委員 会 は, 1 9 8 8 年の デ イア リング ・ 3 ) リポー トにおいて,ASBの 発足 を要請 し,概 念 フレームワークを開発す るた めに,1990年 代 における基準設定 プロセスの基礎 を設計 した。その起動力はお そ ら く,ソ ロモ ンズ (Do Solomons)の 1989年のガイ ドライ ンにおける概念 フレームワークに関する先駆的な研究か ら生 まれた もの と思われる。 デ イアリング ・リポー トによれば,概 念 フレームワークの開発 は,基 準設定 者にとって特定の会計問題 に関する思考 を公式化するのに役立ち,デ ィスクロー ジヤーが真実かつ公正 なる概観 を付与するために十分であるか否かの判断を容 易 に し,そ して作成者や監査人が会計基準 を解釈 し,特 定の基準 によって処理 9 されない会計問題 を解決す るのに役立つ とされる。 イギ リスにおいては, こ れ まで概念 フレームワークについてさまざまな研究 6 ) が行われてきたが,会 計基準設定機関としての最初の体系的な概念フレームワー クは,ASBが 1991年か ら1994年まで公開草案 または討議草案 として公表 した 「原則書」である。それは,1995年 11月にSPFRと して改訂 された。さらに,
3)R.Dearing, Tん θ ソИ aん 0物 θ りβ ACCO切 物 けづ物gSけ attdaγ αs:Rθ poγ け てア けんθ ttθ υづθ切 σοη物 物 ぢ材θθ 切%冴 θγ けんθ C施 づ物 の循 んの げ Sづγ ttοtt Dθ a克 竹動 Ca ICAEW, 1988.
4)Do Solomons, θ 物あαθιあ物θs ttγ Ftta%cあa/ι妃マpο死力“7Sけattαa夕k泳ら ICAEW, 1989. 5)R.Dearing, 9p cづ け, p.17.
6)イ ギ リス における概念 フレームワークに関す る論議 は,歴 史的には次の ように展 開され てい る。
1975年7月 会 計基準起草委員会 (Accounting Standards Steering Committee:ASC の前身)に よる 「会社報告書」 (The Corporate Report)公表
1981年8月 マ クヴェ (R.Macve)に よる 「財務会計 お よび報告 のための概念 フ レーム ワーク」 (A Conceptual Framework for Financial Accounting and Reporting)公表 1988年 ス コ ッ トラ ン ド勅許会計士協会 (The lnstitute of Chartered Accountants of
Scotiand)による 「会社報告書 を価値 ある ものにす ること」 (Making Corporate Reports Valuable)公表
1989年3月 ソ ロモ ンズ による 「財務報告基準 のための ガイ ドライ ン」 (Guidelines for Financial Reporting Standards)公 表
7)ASB,Sあ 筋θ物∽ けげ P克物cのあθS:
(ch.1-2)Tん θ Oり θ例ウυθザ Fを物attCぢaι Sけaけθttθ物けs attαけんθ Ctta/ιづけa/あわθσんaγacけθγ― うs けあc s げ 見 物a t t C ウa ι駒乃物 a けあο物 ( E x p o s u r e D r a f t ) , 1 9 9 1 . なお, 詳 細 については次の 文献 を参照 されたい。拙稿 「イギ リス における財務報告 の概念 的枠組みの展 開― 財務諸 表の 目的 と財務情報 の質的特性 に関す る考察 を中心 として 一 」 『滋賀大学経済学部研 究年 報』第 3巻 (1996年12月),241-245頁 。
2 1 4 滋 賀大学創立50周年記念論文集 (第321号) 1 9 9 6 年7 月 には, こ れ ら草案 に関す る一般 か らの コメ ン トに対す るA S B の 解 働 答 としてプログレス , ベ ーパーが公表 されている。 A S B の 一連 の概念 フレームワー クの意図は,定 義や概念 を体系化 し,過 去 において基準設定者 によつて批判 されて きた基準相互の矛盾 を排除することで あ った。A S B の S P F R は ,ソ ロモ ンズのガイ ドラインによつて提案 された もの と非常 に類似 してお り,基 本的にはFASBの 「財務会計諸概念 に関するステイ 9 ) トメント」に出来する。 SPFRは 会計基準になるように意図されたものではなく,む しろASBの 指針 となるステイ トメン トになるように意図されたものであ り,ASBが 新たな問 題に首尾一貫 した方法で取 り組むことを確保することができる。その結果 とし て生 じる会計基準はSPFRを 履行 しようと努めた結果である。新 しい会計基準 は,実 際に,SPFRの テス トとなる。時には,既 存の基準がSPFRに 準拠 しな い場合 もある。そのような場合には,ASBは その矛盾が どの程度 まで当該基 準 を修正することによって解決できるか,ま た当該基準が どの程度SPFRを 再 検討する必要性の証拠 となるかについて考慮 しなければならない。
\ (ch.3)口 んθ』ιθ― 体 のFFう物 物cづaJ Sけαけθ街〃純な (Discussion Draft), 1992.
(ch.4)駒 θ ttθco9陀あけあθ陀 匂F元切晩dづ%Fづ 物の物ctaι Sけaけθttθれ体 (Discussion Draft), 1992. (ch.5)財 θasttγθ竹レθ物けあ物 Fhattcぢ aι Sけaけθ竹汚物倦 (Discussion Draft), 1993.
(ch.6)Pγ θsθ陀けaけづο句 の「Fttα%cぢo,ル ザb竹私ガあο物 (Exposure Draft), 1991. (ch.7)賀 んθ妃マpο死ケ7り ど切けうけ7(Discusslon Draft), 1994.
8)ASB, Progress paper on the exposure draft, Sけ aけθttθれけ0〆P克物C?pιθs Jttγ Fあ物a物― cあaι妃響 ο句″針けんθ ttag aんθaa July 1996。なお,詳 細 については次 の文献 を参照 され たい。岩崎勇稿 「会計 の概念 的枠組の展 開 ― イギ リスの 「財務報告原則書』 を中心 と し て一 」 F会計』第150巻第 4号 (1996年10月),50-65頁。
9)FASB, Sけ a姥竹形物な げ F弧 の物Cうaιムccο物妨けれθ Cοttcマpら
ハキθゴ, OりθcけをυθS CアFづ物attCをaι景マpO々ぢ竹θ bυ 』物s,切θssコ 物けθ轡克sθtt Nov.1978.
ハlο2 9物 aιぢけaけぢυθ σ んara/cけθttsけ'cs orム Cco物 物けぢ竹σ 切 御切れけをο% May 1980.
ハ五θ4 0り θCけあυθSて ア Fづ物の物cあa/ι妃マpθ αケ7り bク ハモθttbttsあ物θss Oィ クα物ぢ″aけづ0句島 Dec。 1980。 Noあ 妃 θcοθ句力づοtt attα Mcas物 ?々θ%レθ物け づ句 Fづ物の物cぢaι Sけaけθ`吻θ物あSり r βttSを物θss騒 地 ひθγ―
p竹応θtt Dec。 1984.
ハ.ο.a gιθ竹みθttιsの rFぢ物attcぁαι Sけaけθ竹レθ物け島 a replacement of FASB Concepts State― ment No.3(incorporating an amendment of FASB Concepts Statement No.2), Dec. 1985.
資産負債 アプローチと収益費用アプローチに関する一考察
回 会 計基準審議会 (ASB)の 「
財務報告原則書」
A S B の S P F R は全 7 章 か ら構成 される。以下, 各 章の内容 について簡単 に述 1 0 ) べ ることとする。 SPFR第 1章 「財務諸表の 目的」 本章では,債 権者の ような投資家以外 の主要な財務諸表利用者が投資家 に提 供 されるの と同様 の情報 に関心があるとい うことにもとづいて,投 資家向け中 心の財務諸表 について検討 している。投資家 を中心 とした利用者は,単 に経営 者のスチュワー ドシップを評価する とい う目的に関心があるだけでな く,財 務 諸表 にもとづいて経済的意思決定 を行 うことに関心がある (par.1.1)。具体的 には,投 資家は主 として,会 社の株式の取得,保 有,あ るいは売却 とい う投資 意思決定 を行 わなければならず,そ れに役立つ ような財務諸表が作成 されなけ ればならない。会社の資産 に関する経営者の受託責任 (スチュワー ドシップ) の表明に関 しては,投 資家 は前述の投資意思決定 を しないで,会 社の資産が満 足 のい くように受託 されたか どうかに注意 を払わないであろう。 したがって, SPFRは ,利 用者の経済的意思決定が経営者のスチュワー ドシップに関する評 価 に結 びつ くとみな し,主 として利用者の経済的意思決定 に役立つ財務諸表 に 1 1 ) 焦点 を当てる。 SPFR第 2章 「財務情報の質的特徴」 SPFRは ,財 務情報 の質的特徴 と して,目 的適合性 (relevance),信 頼性 (reliabllity),比較可能性 (comparabiltty),および理解可能性 (understandability)10)詳 細 については次の文献 を参照 されたい。拙稿 「イギ リスにおける財務報告の概念 フレー ムワークに関する一考察 一 時価評価 アプローチによる認識 ・測定 ・表示 を中心 として一 」
「彦根論叢』第306号 (1997年2月 ),197-219更。
11)財 務報告基準 (Financial Reporting Standard i FRS)第3号 「財務 業績 の報告」 (Reporting inancial performance)における利益 の継続的要素 と非継続的要素への分割 と営業部 門 と財務部 門の導入 はこの ような視点か ら生 まれた もの と思われる。
216 滋 賀大学創立50周年記念論文集 (第321号) の 4つ をあげ,そ の うち,前 2者 を内容 (content)に関する質的特徴 とし, 後 2者 を表示 (presentadon)に関す る質的特徴 とす る (pars.2.2-2.4)。残念 なが ら,こ れ らの特徴 のすべ てを同程度具有することは不可能である。目的適 合性 と信頼性 は トレー ド ・オ フの関係 にあ り,結 果的にASBは 主たる特徴 と して 目的適合性 と信頼性のいずれかを選択 しなければならない。 SPFR第 3章 「財務諸表の構成要素」 資産 (assets)とは過去の取引 または事象か ら生 じる将来の経済的便益 に対 す る権利 であ り (par.3.5),負債 (hablities)とは過去の取引 または事象の 結果 として経済的便益 を移転す る義務である (par.3.21)。その他 の構成要素 で あ る所有者持分 (ownership interest:すなわち持分 または資本),利 得 (gains:すなわち収益 ),お よび損失 (losses:すなわち費用)は 資産お よび 負債 の定義 にもとづいて定義 される資産負債 アプローチが採 られている。 した が って,こ の結果,利 益計算構造 に関 して,費 用収益対応原則 を中心 とした収 益費用 アプローチ と資産 ・負債の定義 を中心 とした資産負債 アプローチの対立 が生 じることとなった。 SPFR第 4章 「財務諸表 における認識」 本章では,資 産や負債がいつ財務諸表 において認識 されなければならないか とい う問題が提起 されている。SPFRは 認識基準 について次のように述べ る。 「資産 または負債 は次の場合 に認識 されなければならない。 (a)当 該項 目に固有の資産 または負債 における変動が生 じた とい う十分 な証 拠 (適当な場合,将 来の便益 のインフローまたはアウ トフローが生 じるとい う 証拠)が 存在す る。 (b)当 該項 目が十分 に信頼性 のある貨幣的金額で測定で きる。」 (par.4.6) 端的 に言 えば,資 産 (または負債)は 当該資産 (または負債)に 固有 な変動 が生 じた とい う十分 な証拠が存在 し,か つ信頼性 をもって測定で きる時点で認 識 されなければならない とい うことである。すなわち,十この場合の認識時点は,
資産負債アプローチと収益費用アプローチに関する一考察 217 同様の事象 に対 して複数の会計士がその測定 に関 して一致 した時点である。 SPFR第 5章 「財務諸表 における測定」 ASBは 目的適合的 な情報 に関心がある場合,歴 史的原価 よ りも時価 の方 に 接 近す る傾 向があ る。ASBは 一般 的 には,財 務報告 は時価 を用 いる方向へ接 近すべ きではあるが,急 進的に導入 してはならない と考 える。 投資 目的の有価証券,不 動産あるいは商品のようなある一走の処分可能な資 産が再評価 され,企 業の核 となる営業資産であるような資産 を歴史的原価のま ま残す。SPFRは ,究 極的には,企 業にとっての価値 (the value to the business) 基準 を適用 したい と考 える (par.5.34)。この基準 にもとづけば,「時価 は,資 産の現在の取替原価か回収可能価額のいずれか低い方 として決定 される。その 場合,『回収可能価額』 (recoverable amount)と は,現 在の所有者 によって得 られる最高の価値,す なわち,当 該資産の正味実現可能価額 と使用価値のいず れか高い方である。 したが って,企 業 にとつての価値 は,最 新の歴史的原価 を 用いた上で,伝 統的な 『低価法』ルールを採用することと特徴づけることがで きる。取替原価 は,正 味実現可能価額 または使用価値がそれ よりも低い場合 に は,そ の どち らかの価額 まで減少 される。」 (par.5。22) 企業 にとっての価値基準 は,お おむねカレン ト・コス トと市場価値のいずれ か低い方 として解釈で きる。 しか し,こ のように発展的に時価 を用いる方向へ 接近す ることは,ピ ース ミール ・アプローチによって慎重 に取 り組 まなければ ならない と思われる。 SPFR第 6章 「財務情報の表示」 本章では,ど の ように して財務情報が前述の目的を満たすために財務諸表 に おいて表示 されなければな らないか とい うことについて議論 している (par. 6.1)。ASBは ,現 在 ,次 の もの を監査対象 となる主要財務諸表 とみな してい る (par.6.11)。
2 1 8 滋 賀大学創立50周年記念論文集 (第321号)
(2)総 認 識利 得損 失計算 書 (the statement of tottt recognised gains and losses,以下STRGLと する)
(3)貸 借対照表 (the balance sheet)
(4)キ ャッシュ ・フロー計算書 (the cash aOw statement)
結果 として,資 金計算書はキャッシュ ・フロー計算書 によって取 って代わ ら れ,損 益計算書 は再構築 され,STRGLが 以前 に損益計算書 を回避 し,直 接 , 積立金 に計上 されていた項 目を強調す るために導入 された。つ ま り,STRGL は新 たな情報 を追加 したわけではな く,以 前に注記に埋めていた重要な情報 を 抜粋 し,そ れを顕著 に表示 した ものであるといえる。 SPFR第 7章 「報告実体」 本章では,運 結財務諸表の背後 にある理論 について述べ られている。 以上SPFRの 全章 を要約 して きたが,中 心 とな り,か つ最 も論点のある部分 は,構 成要素,認 識,測 定,お よび表示に関する章である。なぜ なら,財 務会 計 に関 して支配的な収益費用 アプローチ とい う伝統的に財務会計の基盤 となる 重要な概念 に対する挑戦であるか らである。 I V 資 産負債アプローチと収益費用アプローチ 資産負債 アプローチによる場合,研 J益は一期 間における営利企業の正味資 源の増分の測定値であるとみなされ,利 益 は,資 産 ・負債の増減額 にもとづい て定義 される。正の利益 要素 ― す なわち収益 ―は当該期 間における資産の増 加お よび負債の減少 にもとづいて定義 される。負の利益要素 ― すなわち費用 ― は当該期間における資産の減少お よび負債の増加にもとづいて定義される。 資産 ・負債 ― 前者 は企業の経済的資源の財務的表現であ り,後 者 は将来他 の 実体 (個人 を含 む)に 資源 を引 き渡す義務 の財務的表現である一 は,こ のア プローチにおける鍵概念である。 (中略)そ の他の財務諸表の構成要素 ― すな わち,所 有者持分 または資本,利 益,収 益,費 用,利 得,損 失―すべて,資 産
資産負債 アプローチ と収益費用 アプローチ に関す る一考察 219 ・負債の属性の測定値相互間の差額,あ るいは当該各測定値の変動額として測 1 2 ) 定 される。」資産負債 アプローチの下で は, 収 益 お よび費用 は資産お よび負債 によつて定義 されることにな り, とにか く資産お よび負債の定義が行われるこ とが重要 となる。 一方,収 益費用アプローチによる場合,「本U益が,儲 けをえてアウ トプット を獲得 し販売するためにインプ ッ トを活用する企業の効率の測定値であるとみ なされ,利 益 を一期 間の収益 と費用 との差額 にもとづいて定義 される。 (中略) 収益 ・費用 ―すなわち,企 業の収益稼得活動か らのアウ トプッ トと当該活動ヘ 1 3 ) のインプ ッ トとの財務的表現 ―は,こ のアプローチ における鍵概念である。」 「収益費用 アプローチにおいては,収 益 ・費用認識の時点決定の結果,期 間収 益 を稼得するためのコス ト (費用)が 当該収益か ら控除 されるならば,利 益 は 適切 に測定 されることになる。収益 ・費用の測定,な らびに一期 間における努 力 (費用)と 成果 (収益)と を関連づけるための収益 ・費用認識の時点決定が, 財務会計 における基本的な測定 プロセスである。利益測定は収益 と費用 との対 1 4 ) 応 プロセス として説明 される。」収益費用 アプローチの下では,利 益 は収益 と 費用 との差額であ り,収 益 は実現基準 によって認識 され,費 用は発生基準 によつ て,か つ収益 に対する対応概念 に もとづいて認識 される。 V 資 産負債アプローチに関する問題 収益費用 アプローチの支持者 にとっては,資 産や負債 に関する定義はさほど 重要ではな く,期 間利益 の歪曲を回避 し,利 益 の測定や費用収益対応原則が重 視 された。他方,資 産や負債 は単 に損益計算書 に含 まれなかった残余費用お よ び収益であった。
12)FASB, Discussion Memorandum, ム 句 ム 物aιgs,sQ//ssttθ S γ θιaけθ冴 けO σ Ottcθ pけ物a↓ Fγ attθ ttογtt Jbγ ム CCο 切物けづ%ga%α 景 マpoγ けれ 9f β ιθttθ句け てア Fづ 句attCあ aι Sけ aιθ竹形物体 o%冴
鍬滋γ ttθ循切竹物%ち Dec.2,1976,par.34。(津守常弘監訳 『FASB財 務会計の概念 フレー ム ワーク』 中央経済社,1997年 ,53-54頁。)
13)rb筋 ,par.38.(上 掲訳書,55頁 。) 14)乃初 ,par.39.(上 掲訳書,55頁 。)
2 2 0 滋 賀大学創立50周年記念論文集 (第321号) 収益 費用 アプローチの支持 者 に とっては,ASBの SPFRに 関 しては主 と して 次 の よ うな 3つ の問題″点が考 え られ る。 1.貸 借対 照表 中心 主義 に関す る問題 2.時 価 評価 中心 の会計 に関す る問題 3.実 現利益 の放棄 に関す る問題 以 下,詳 細 に述べ る こ ととす る。 1.貸 借対 照表 中心主義 に関す る問題 これは,貸 借対照表が何を表現すべ きかが会計の中心的課題であるとみなす ことに関する問題であ り,主 としてSPFRの 「第 3章 財 務諸表における構成 要素」および 「第 4章 財 務諸表における認識」に関する問題である。これに 関 して,ビ ルチャー (P.Bircher)は次のように述べると SPFRは 資産お よび負債の定義や貸借対照表 におけるそれ らの認識基準 に関 す る会計 を構築す ることを目的 とする。 しか し,会 計の根底 を成す ものは企業 の取引であ り,そ れにもとづいて収益お よび費用の認識基準 を決定する。貸借 対照表 はこのプロセスの副産物であって,出 発点ではない。 貸借対照表は実際には継続企業の行動 を人為的に静止 させた状態 を提供する にす ぎない。企業の継続的な性質 によって配分 (対応)原 則が必要 とされる。 それはまた会計 においてゴーイング ・コンサーン概念が中心概念 とされるゆえ んである。貸借対照表上の項 目は何が長期的な活動であるかを反映 しなければ な らない。具体 的には,次 の ような繰延収益 (deferred income)の計上や契 約上の債務の認識 に関 して問題がある。 (1)繰 延収益 の計上 に関する問題 現行の会計では,貸 借対照表 には繰延収益項 目が含 まれる。仮 に現金 を受け
15)P.Bircher, Problems with the Principles, in ICAEヽV, Fう物attcケaJ
軍札θゴ998β 冴づけガο角, 1997, pp.4-7.
Accounting Standards Board's draft Statement of
資産負債アプローチと収益費用アプローチに関する一考察 221 取 ったが,ま だ稼得 していない場合,そ れは損益計算書 に計上 されるまで貸借 対照表の貸方項 目として計上 される。 これは貸借対照表が残高計算書 として用 い られ,取 引 を対応概念や慎重性 (prudence)の概念 に もとづいて期 間配分 す るとい う伝統的な理由による。 しか し,SPFRは 貸借対照表 における繰延収益 の計上 を容認 していない。た とえば,雑 誌の予約購読 に関 して,SPFRは 次の ように述べ る (par。4.30)。出 版社側 には義務が存在するが,こ れは雑誌 を提供すべ きであるとい う義務であ る。 したが って,そ れに伴 われる金額 は雑誌 を提供するコス トであ り,唯 一認 識可能な負債 はこの金額である。即時 に利益 の全額 を計上すべ きである。資産 は受け取 つた現金の金額の分増加 し,一 方,負 債は賦課 されるべ きコス トの分 1 6 ) 増加 し,そ の差額が利得である。 (2)契 約上の債務 の認識 に関す る問題 仮 にある企業が財 またはサービスに関する拘束力のある契約 を結ぶ場合,現 行 の会計では当該財 またはサー ビスが引 き渡 されるまでは計上すべ き負債 は必 要 とされない。取引は利害関係者の履行 によって引 き起 こされるか らである。 しか し,SPFRで は,原 則 として,取 引 は企業が利害関係者 によって履行す る ことが強制で きる場合 に負債が生 じる とされる (par。4.18)。拘束力のある契 約 はすべ て負債 として認識 されなければならない。それはまた,ゴ ーイング ・ コンサー ン概念 にもかかわ らず,あ る期間のある一時点における企業の状態 を 評価することが要求 されているか らである。 2.時 価評価 中心の会計 に関す る問題 これは,取 引ベースや費用収益対応原則 にもとづいた歴史的原価会計から, 資産や負債 に関 して優先的に時価評価する新 たな会計 に移行 しようとすること 16)こ の論理 はまた,出 版社が 3年 間の予約購読 をする と料金 を減額するように,得 意先 に 長い間予約購読 をす る ように誘発す ることによって即時 に報告利益 を上げることがで きる とい う意味 を含 む (rbぁ仇 p.5.)。
2 2 2 滋 賀大学創立50周年記念論文集 (第321号) に関す る問題 であ り, 主 と してS P F R の 「第 5 章 財 務諸表 にお け る測定」 に 1 7 ) 関す る問題 である。 これに関 して, ビルチ ャーは次のように述べ る。 SPFRに よれば,歴 史的原価の主 な短所 は目的適合性の明 らかな欠落であ り (par.5。19),他 方,時 価 の最 も重要 な長所 はその 目的適合性 であ る とす る (par.5。25)。SPFRは ,結 論的に,「実務が時価 をよ り多 く用いる方向へ進歩 す ることによって発展 しなければならない」 (par.5。38)と 主張する。 しか し,単 に,時 価が歴史的原価 よりも目的適合的であるといえるわけでは ない。2つの評価 システムは異 なる情報 を提示す る。す なわち,歴 史的原価 シ ステムは,中 ・長期的な将来のキャッシュ ・インフローを予測するには適 した 情報 を提供 し,時 価 システムは,短 期的な将来のキャッシュ ・インフローを予 測す るのに適 した情報 を提供す る と考 えられる。それぞれが 目的適合性 にとつ て正当な権利 を有するが,歴 史的原価 はよりわか りやす く,客 観性や信頼性 に す ぐれている (pars,5,16-18)。これは時価 を用いることがすべ ての場合 にお いて適当でない とい うわけではな く,あ る一定の金融商品の会計処理 に関 して は時価が用い られる可能性がある。金融商品の会計処理 に関する時価評価の適 否 については別稿 の課題 としたい。 イギ リス における財務諸表は,時 価 をピース ミール ・アプローチにもとづい て採用す る方向へ動 いて きてい る。ASBは その ような漸進的な変革が どの よ うに成 し遂 げ られるべ きか決定 しなければな らない。実際 に,SPFRは ,時 価 評価 アプローチヘ の試金石 として,既 述のような企業 にとっての価値基準 を提 案 し,可 能な限 り目的適合性 に見合 う情報 をディスクローズすることを熱望 し ている。 3 , 実 現利益 の放棄 に関す る問題 これは,実 現利益 を放菜 し,期 首 と期末の貸借対照表間の変動を分析するこ とによって,そ れにともなう財務業績計算書の変動を測定することに関する問 題である。主 としてSPFR「第 6章 財 務情報の表示」に関する問題である。
資 産負 債 ア プ ローチ と収益 費 用 ア プ ローチ に関す る一考察 223 1 8 ) これに関 して, ビルチャーは次の ように述べ る。SPFRは ,利 益の質に関 し て,実 現利益か未実現利益かの分析 よ りも有用 な分析が,営 業活動 に起因する 利得お よび損失か,企 業の営業活動 において継続的に使用するために保有 され ている資産お よび負債の価値 における変動か ら生 じる利得お よび損失かの分析 であると主張す る (par.6。26)。継続的 に保有 される資産お よび負債上の利得 お よび損失 (実現か未実現かに関係 な く)は STRGLに 計上 される (par.6。27)。 それ以外 の利得お よび損失 (実現か未実現かに関係 な く)は 損益計算書 に計上 される (par.6.28)。 しか し,現 行の会計実務 は,企 業が将来活動の結果 として報告 しなければな らない将来の利益 または損失 を測定することに焦点 を当ててお り,実 現概念は その ような職能 において重要な機能 を果たす。なぜ なら,実 現概念は利益が報 告 される上で満た さなければならない質的な境界 を確立するか らである。 即時換金可能性 を実現の要件 とする狭義的 ・伝統的実現概念は時代遅れ となっ て きてお り,特 に金融商品における市場の発展 を考慮すれば,よ り広い定義が 必要 とされる。その ような調査研究 に関 しては,カ ースバーグ (B.Carsberg) とノーク (C,Noke)が ,即 時換金可能性 に代 わって測定の信頼性 を実現の要 1 9 ) 件 とす ることを提案 した。彼 らは信頼性のある市場 において取引 されている資 産の価値 における利得 は信頼性 をもって測定可能であ り,そ の結果,実 現 され た もの として処理することがで きると主張 した。 仮 に資産負債 アプローチにおいて,実 現概念 を機能 させるならば,次 の よう 2 0 ) な考 え方 もあると思われる。す なわち,測 定の信頼性 を要件 として認識 された 利益 か ら,財 務情報の表示 レベルにおいて分配可能利益 を抽出するための再分 類概念 としてみなす考 え方である。この考 え方 によれば,実 現概念 は認識概念 ではな く,デ ィスクロージャー概念 としての機能 を有することになる。 18)rbぢα, pp.10-12.
19)B. Carsberg and C. Noke, Tん θ ttθpογけぢ物9りr PrttιS a物冴 Pんθ σοttcθ pけcァ角θa3-, s a けぢοt t I C A E W , 1 9 8 9 . な お, 詳 細 については次の文献 を参照 されたい。拙稿 「利益報 告 の多様性 と実現概 念 ― イギ リス にお ける報告書 に関す る考察 を中心 として一 」 F 関西 学 院商学研 究』第3 8 号 ( 1 9 9 5 年9 月) , 4 3 - 6 0 頁。
滋賀大学創立50周年記念論文集 (第321号 ) Ⅵ 収 益費用アプローチに関する問題 費用収益対応原則 をめ ぐっての論争 における重要な部分 は資産や負債 に関す る定義 に関係す る。借方項 目は資産か費用,貸 方項 目は負債か収益であ り,そ れ以外 の もの として定義 される借方 または貸方の要素が残余持分であるとい う こ とについては,異 論 はない と思 われる。ASBの 見解 は,資 産や負債 を評価 す る方が収益や費用 を評価するよりも簡単であるとい うことである。収益費用 アプローチの支持者であるパ ターソン (R.Paterson)は,資 産は 「貸借対照 2 1 ) 表 日を越 えた期 間に便益 をもた らす と期待 される」 と述べている。 したがって, いずれの定義 にせ よ共通 した面 をもっている。主要な相違点は,収 益費用 アプ ローチの支持者が,単 純 に利益 を平準化 しようとして,あ る一定の繰延費用や 繰延収益 をそれぞれ資産や負債 とみなす ことにある。 2 2 ) トゥウイーデイーは次のように述べる。ASBの 意図は,財 務諸表に表される ことは現実の世界に根差 したものでなければならないということである。繰延 費用や繰延収益の中には,現 実の世界に存在するものを示す という理由ではな く,費 用 と収益 を適切に対応 させ,期 間利益 を歪曲することを回避するという 理由から,貸 借対照表に計上されるものもある。概念は現実の世界に根差 した ものでなければならない。財務諸表には想像上の資産や負債を取 り入れてはい けない。貸借対照表は 「複式簿記システムが遺憾な副産物 としてもたらした不 2 3 ) 必要な原価のための広大壮麗な墓」であってはいけない。 スプローズ (R.T.Sprouse)(1988,p。126)は ,あ る一定の繰延費用や繰 2 4 )
延収益を示すために 「
w h a t 一
y o u ―
m a y 一
c a l l ―
i t s 」
という言葉を用いた。このよ
21)R.Paterson, Building the right framework, Accθ 切物けαttc欽 Oct.1988, p.26.2 2 ) D . T w e e d i e , R e g u l a t i n g C h a n g e ―T h e R o l e o f t h e C o n c e p t u a l S t a t e m e n t i n S t a n d _ ard―Setting, in I. Lapsley and F.MIitchell, ム ccο切物けづ竹ga%α Pθ//o仰物。物Cθ MeaSttγθ‐ 物?れら Paul Chapman Publishing Ltd., 1996, p。 28.
23)W.T.Baxter, Introduction to the First Edition, inヽ V.T.Baxter and S,Davidson ed., Sけ切αぢθsあ物 ムccο切物けづ鴫 〕ICAEヽ V, 1977, p.x.
24)R.T,Sprouse, Accounting for What― You―May―Call―Its, Tんθ」θ切物 aι cガムccο切物け― attc7, Oct.1966, pp.45-53. R. T. Sprouse, Corninentary on Financial Reporting,
資産負債アプローチと収益費用アプローチに関する一考察 225 うな項 目は,現 実の世界 に存在する資産や負債であるか どうかに関係 な く貸借 対照表 に含 まれる。これ らは 「適切な対応」,「期間利益の歪曲を回避すること」 お よび 「資産 =原 価」 とい う論理の結果である。 しか し,資 産負債 アプローチの支持者の立場か らすれば,会 計基準設定者が, 「適切 な対応」や 「期 間利益 の歪 曲を回避すること」が何 を意味するかを明確 にすることは非常 に難 しい。 とい うのは,歪 曲のない利益 は,利 益が何である べ きかが既知であって,費 用 を収益 に適切 に対応 させ,歪 曲させているものを すべ て取 り除 くことによっては じめて達成で きるか らである。利益 の歪曲を回 避することを目的 とした収益費用 アプローチの特徴的な実務 としては,損 失の 繰延,将 来損失 に備 えての引当金計上, リス トラクチ ャリング (事業の再構築) または組織変更の費用 に備 えての引当金計上,お よび自家保険のための引当金 があげ られる。以下,そ れぞれについて資産負債 アプローチの支持者の立場か ら検討する。 損失 の繰延 に関 しては,企 業の中には開業損失 を資産化する場合 もある (開 業費の繰延計上)。資産化 される理 由は,そ の ような損失が生 じるのが企業状 態 によってはやむを得ない場合があるからであ り,将 来利益 を獲得するにあたっ て欠 くことがで きないか らである。 しか し,そ れならば,将 来利益が得 られる とい うある一定の期待があ りさえすれば,す べての取引に関わる損失が,企 業 が継続する限 り,資 産化で きるとい う論理が成 り立 って しまうと考 えられる。 将来損失 に備 えての引当金計上 に関 しては,過 去 において,企 業は将来の取 引 に関わる損失が予測 される場合 に引当金 を計上することが認め られて きた。 仮 にそれ らが単 に取引 において予期 される減少であるならば,こ れは将来到来 す る当該期 間の成果であ り,当 期の成果 として処理することは何 もない と考 え られる。 リス トラクチ ャリングまたは組織変更の費用 に備 えての引当金計上 に関 して は,経 営者 は余剰労働者 を解雇 し,あ る一定の工場 を閉鎖 し,事 業 を再構築 し ようと計画することがあるが,会 計が経済活動お よび経済事象の真実 を写像す ることを使命 とする限 り,そ のような計画にもとづいて負債は生 じないのであっ
2 2 6 滋 賀大学創立50周年記念論文集 (第321号) て,義 務 によつて負債が生 じると考 えられる。会社 に債務が発生 し,営 業活動 によつて債務 を返済することがで きない場合 には,負 債が計上 されなければな らない。 自家保険のための引当金 に関 しては負債ではない。その ような見越項 目は評 価性 ではな く費用性である。 自家保険 を計上するための借方項 目が損益計算書 において計上 される時点では負債 は存在 しない。 経営者は利益 の変動性 に対 して非常 に敏感 であ り,他 方,株 主 は安定配当を 望 んでいる。偶発事象の影響 を最小化することが経営者の使命である。 しか し, 偶発事象が生 じ,そ れが市場価値 に影響 をお よぼすならば,そ れを財務諸表 に 反映 させ なければな らない。財務諸表の主 な目的は,既 述の とお り,債 権者や 投資家が代替的な投資 と比較 し,意 思決定す るのに役立つ ことである。仮 に安 定性 あるいは変動性が財務諸表の利用者 にとつて重要であるとす るならば,そ の最大の理由は,安 定性あるいは変動性が忠実 に記録 されなければならないか らとい うことである。財務情報は中立的でなければならない。 「財務諸表 に含 まれる情報 は,中 立,す なわち,偏 向がないようでなければな らない。財務諸表 は,そ れに事前 に決定 された結果 を達成するために,意 思決 定や判断に影響 をお よぼす ような方法で選択 された り,あ るいは表示 された情 報が含 まれる場合 には,中 立的ではない。」 (par.2.19) 財務報告 は財務分析ではない。利益の評価 は,投 資家が,経 営者の業績 を評 価する ときに役立つ ものである。そ して,将 来の収益力は,投 資家が,あ る企 業 に投資す る上で リスクがあるか否かを意思決定す るために役立つ ものである。 このためには,平 準化 された利益 は役立たない。評価 を行 った り,歪 曲を平準 化す ることは,投 資家,債 権者,お よびその他の利用者側の問題である。収益 力の概念やそれを評価す る技術 は財務分析 の範疇であって,財 務報告の範疇で はない。資産負債 アプローチの支持者 にとつては,損 益計算書 は業績の実態 を 反映 しなければならない し,貸 借対照表は企業の純粋 な資産や負債 (将来の業 績のための基盤)を 表示 しなければならない と考 えられている。
資産負債 アプローチ と収益費用 アプローチに関す る一考察 WIl むすび 以上,資 産負債 アプローチ と収益費用 アプローチに関する相違点お よびそれ ぞれの特徴 について,イ ギ リスにおけるSPFRに もとづいて考察 して きた。 資産負債 アプローチの場合,貸 借対照表か ら繰延項 目や一部の引当金のよう な計算擬制的な項 目を排除する一方,取 引概念 に契約 を加 え,測 定の信頼性 を 認識基準 とす ることによって,貸 借対照表 に金融商品やデ リバテ イブのような 将来収入将来収益項 目や将来費用将来支出項 目が加 えられる。その際,測 定 に 関 しては時価 (SPFRで は企業 にとつての価値基準)に もとづいて行 われる。 また,利 益表示 に関 しては,SPFRで は,実 現 ・未実現の区分ではな く,営 業 活動 に起 因する利益 か,継 続的に保有 される資産お よび負債の価値 における変 動 か ら生 じる利益 かに区分 される。 他方,収 益費用 アプローチの場合,期 間損益計算 を重視するため,過 去の収 支 を発生主義,実 現主義,お よび費用収益対応原則 にもとづいて認識 された収 益費用 によつて平準化 し,趨 勢化 した利益が計上 される。その結果,貸 借対照 表 には繰延項 目や引当金 の ような現実の世界 に根差 していない計算擬制的な項 目が含 まれ,損 益計算書 に含 まれなかった残余費用お よび収益が計上 される。 投資家 を中心 とした財務諸表の利用者の意思決定 に有用 な利益 としては,比 較的短期的な将来キャッシュ ・インフローを予測するためには,前 者の資産負 債 アプローチにもとづ く利益が適 してお り,比 較的中。長期的な将来キヤッシュ ・インフローを予測するためには,後 者の従来型の収益費用アプローチにもと づ く利益が適 してお り,両 者 とも必要であると考えるのである。 この ような考 え方が成 り立つためには,未 成熟 といえる前者 について,契 約 を含 む取引概念の拡張 に関する詳細 なる分析,そ の具体例 としての金融商品や デ リバテ イブに関する会計処理 について検討す ることによって,資 産負債 アプ ローチにもとづ く利益 の有用性 を明 らかに しなければならない。それ らについ ては次稿 の課題 とする。