情報系研究室における知的財産マネジメントに関する研究
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(2) 2. 研 究 室 に お け る 知 の 伝 承 と 分 野 特 性. 教授によるリーダーシップ. 2.2.3. 伝統的な身分制度と、教授同士が相互に口出しをし. 2.1. 技 術 者 育 成 の最 前 線 学生が大学に入学した場合、最初の1∼2年は全学 教育、学部基礎教育課程におかれ、ある程度共通の処. ない慣習の下、各研究室の運営にあたっては教授の高 い裁量が認められていることが一般的である。. 遇を受ける。これは研究者養成に欠くべからざる重要. ところで、教授として研究室を率いる理系の研究者. なプロセスだが、一般に画一的である。学生に対しそ. は 、 現 在 40 歳 か ら 60 歳 前 後 で あ る 。 彼 ら が 大 学 院 を. の 興 味 や 適 性 に 応 じ た 指 導 が な さ れ る の は 、2∼ 3 年 生. 出て研究者としてスタートした頃は、右肩上がりの経. で専攻が確定し、文系ではゼミに配属されてから、理. 済成長、もしくはバブルの時代であって、奨学寄附金. 系では研究室に配属されてからである。. が十分に入り、知的財産権、守秘義務、利益相反のよ. 文系の、特に理論系のゼミは、一定の頻度で開催さ. うなことを考える必要はあまりなかった。. れるゼミで発表し、最終的には自分の卒業論文に結び. その状況がここ数年、急に変わってきた。その自覚. 付けていく。その過程で教員の指導があるが、基本的. はあるが、急には変えられない。次のように努めて明. には共同ゼミ室に定期的に集まるだけである。これに. るく考えている場合が少なくない。. 対し、研究室配属の場合はゼミ以外の時間も基本的に 出入りが自由で、常時何かが動いておりコミュニティ. ①知財管理をめぐる、大学当局からの通達はあくまで. としての側面も持っている。. も教員と大学というオフィシャルな部分について決め. 研究室には教員の他、博士後期課程の学生など研究. たものだ。. 歴豊かな者も多数参画していて、学生は少人数でそれ. ②研究室はインフォーマルな世界だし、学生もまたよ. ぞれの適性にあった指導を受ける。日本の教育課程に. くわかっていないから、あまり難しいことを言う必要. おいて、もっとも緻密な個人指導を行うのが理系の研. はない。. 究室であり、技術者育成の最前線であると言える。. ③発生するかどうかも不明な法的リスクをどうこう言 うより、良いと思ったことを何でも実行したほうがい い。. 2.2. コミュニティとしての研 究 室 2.2.1. 情報の共有. 学生は、研究室において、教員、先輩とともに日常 的な指導を受け、手探りで研究を行い、ゼミで何度も. 3.著 作 物 の 管 理 体 制 3.1 大 学 レベルの管 理. 発表してブラッシュアップを重ねていく。ゼミには、. 知的財産権の管理については、一般に知的財産ポリ. 研究の過程の情報を共有され、それらを交換し合う機. シーで大方針を定め、就業規則により発明の機関帰属. 能がある。. を 定 め( 特 許 法 35 条 3 項 )、詳 細 を 発 明 等 規 程 に 委 ね 、. 前 回 の 研 究 発 表 ( 以 下 、「 前 稿 」 と い う ) 詳 説 し た. 発明等規程においては、発明の大学への届出義務、発. が (2.2)、 東 北 大 学 情 報 科 学 研 究 科 に お い て は 、 学 生 の. 明 委 員 会 で の 審 査 、大 学 と し て の 出 願 、ラ イ セ ン ス 料・. 67.9% は 週 に 1 回 の ゼ ミ に 出 て お り 、そ の ゼ ミ は 74.5%. 相 当 の 対 価 の 分 配 方 法 、TLO へ の 業 務 委 託 な ど を 定 め. が教室構成員全員で構成され、自分の研究における自. ている。教授は法人の使用者であるからこのルールを. 分 自 身 の エ フ ォ ー ト の 平 均 は 67.3%で 、 他 人 の エ フ ォ. 守らなければならない。. ートがある学生のうち、他人分のエフォートの切り分. 発明等規程の適用範囲は一般に教員のみ、あるいは. け が 難 し い と 回 答 し た 学 生 は 26.4%と な り 、 情 報 と 成. 正職員のみであって、学生は対象とされていない。ま. 果が共有されている傾向が伺える。. た、産業財産権(特許、意匠、商標、種苗等)が主た る対象で、著作権を届出対象に含めている場合は必ず. 2.2.2. しも多くなく、含まれていても「プログラムとデータ. コミュニティとしての研究室. 学 生 に と っ て 、研 究 室 は キ ャ ン パ ス ラ イ フ の 全 て と い っても過言ではない。研究活動以外にもオープンキャ. ベ ー ス 」 に 限 定 し て い る 場 合 も 少 な く な い ( 前 稿 2.2 参 照 )。. ンパス、合宿、運動会のような行事もあって、公的な 関係と私的な交流はしばしば一体となっている。. 3.2. 研 究 室 に は 正 式 名 称 が あ る が 、A 教 授 な ら「 A 研 」と. 3.2.1. 研究室における著作物の発生 著作権法上の規程. 呼ばれることが多く、教授を頂点とした家族のような. 研究室は常に研究活動をしており知的財産を創造. 関係を構築する。学生は、それを所与の前提として受. している。担い手は決して教員だけではなく、発明だ. け入れ、教授を尊敬しよく言うことを聞く。. けではない。. −38−.
(3) 学生の研究活動においては、発明とされるような完 成度の高いものは相対的に少なく、日常的に生産され. このようなことは、実際にしばしばあることだ。し. るのは著作物である。著作権法は「思想または感情を. か し 、門 外 漢 で あ る 知 財 本 部 で こ の プ ロ セ ス を 把 握 し 、. 創 作 的 に 表 現 」( 著 作 権 法 2 条 1 項 1 号 )し た も の で さ. 適切な交通整理を行うということは、現状では到底不. え あ れ ば 、 い か な る 手 続 き も 必 要 な く ( 同 17 条 2 項 ). 可能で、研究室自身でなければ不可能である。. 自動的に成立する。前述のように大学は学生の使用者 ではないので職務著作の規程も関係がない。したがっ. 4 研究室における知財管理. て、丸写しや実験のデータなどを除き、論文、レポー. 4.1 研 究 室 に お け る 著 作 権 の 主 張 と 問 題 点. ト、ポスター、プログラムなど活動の成果はほとんど 学生自身が著作権を享有する。. 研究室において一人の学生が突然に自らの知的財 産権を主張しはじめたとしたら、研究室における教育 や指導、他の学生の発表、ひいては教員の技術移転な. 3.2.2. 学生の著作物に対する研究室の関与. どに多くの影響を与えることが予想される。. しかし、これらは表現こそされてはいるが、技術と. 研究室は教員の指導によってコントロールされ、指. しては未完成なものが大半である。それを研究成果と. 導されている。教員がその存在を知らず、アドバイス. して完成させるには、研究室の教員との相談、ゼミに. もせず関与しないという論文はあり得ない。よって、. おける発表、ディスカッション、学会に発表する予定. 成果物について発生する権利も一括して研究室もしく. の口述であればスライドの作成、発表練習などを行う. はそれを代表する教授によって行使されるべきという. ことにより、より完成度の高いものになる。それは研. 考え方には理由がある。だから、職員がなした発明と. 究室単位で組織的に行われることが一般的である。単. 同じように取り扱うことにすれば話は簡単ではないか。. 著もないことはないが、価値のある著作物が完成する ま で に は 通 常 、本 人 以 外 に も 多 く の 人 が 関 与 し て い る 。. 4.2. 著作権を譲渡させることはできるか. しかし、このような取り決めを確認書もしくは念書. 3.2.3. 研究テーマの継続性. のような形で取った場合、それは危険なリーガルリス. 大学は企業と違って数年以内に学生が必ず卒業し、. ク を は ら む こ と に な る 。い く つ か の 理 由 が 挙 げ ら れ る 。. 教員以外はすべて入れ替わってしまう組織である。著 作権者が卒業し、その後権利の行使が認められないの. 4.2.1. 職務著作規程の準用. であれば、研究テーマの継続性が損なわれる。実務上. 前述のように著作権は何ら手続きを要さずに創作. は教員がテーマの割り振りをして、卒業生の研究に類. 者に帰属し、創作者の所属する組織が著作権を享有す. 似する分野に興味を持つ学生が現れれば、先輩が作っ. る の は 、職 務 著 作( 著 作 権 法 15 条 )以 外 に は な い 。職. ていった論文、プログラムなどを提供し、改良して自. 務著作の要件に照らして考えてみると、そもそも学生. 分のものにさせていく。. は法人に使用される者ではないし、論文やポスターや 口述は法人名義でなされるものでもないし、研究の内. 3.3. 著作権の管理可能性. 容を大学が指示することもない。よって、職務著作に. こ の よ う な 著 作 物 は 24 時 間 、 あ ら ゆ る 状 況 に お い. 準じて考えることには無理がある。. て生まれる。組織として一定の技術移転戦略のもとに 知的財産マネジメントを行うならば、当然に知財本部. 4.2.2. 著作者人格権をめぐる利益相反. が何らかのコントロールをしなければならない。しか. 著 作 権 法 18 条 に 定 め る「 公 表 権 」、19 条 の「 氏 名 表. し、現状の知財本部等の人員や業務量を考えれば非現. 示 権 」、 20 条 の 「 同 一 性 保 持 権 」 の 3 つ は 著 作 者 人 格. 実的である。特許と違って件数が多い上、かかわる人. 権 と 呼 ば れ 、第 三 者 に 譲 渡 で き な い( 59 条 )こ と に な. が多く、貢献度の測定も容易ではないからだ。次のよ. っている。学生の著作物について考えれば、複製権、. うな例を考えてみよう。. 公衆送信権などの著作権を研究室に譲渡したとしても、 学生が納得しなければその論文等の公表を行い、ある. 設 例:. 学 生 A は X と い う 仮 説 を 思 い つ い た 。A は. いは拒む権利、記名する、あるいは記名しない権利、. こ れ を ゼ ミ で 発 表 し 、実 験 の 方 法 に つ い て B が ア イ デ. 手直しや修正をされない権利などが学生に留保される。. アを述べた、それをもとに C がプログラムを書き、D. 研究室はいちいち学生の承諾を得ずに複製や公衆送信. が実験して正しいことを証明し、E が論文化し、F 教. はできても、公表や手直しはできないことになる。改. 授 の 承 認 を 得 た 。そ の 成 果 物 は Y 論 文 と し て 、A、B、. 良して、発表することこそ研究室の本務であるから、. C、 D、 E、 F の 連 名 で Z 学 会 で 発 表 さ れ た 。. 学生の権利である著作者人格権と研究室の活動は利益. −39−.
(4) 相反を起こす。. られており、自らの権利を主張してその結果として信 頼関係が破壊されれば、著作権以上のものを失うこと. 4.2.3. になるからだ。いくつかの留意点がある。. 公 序 良 俗 違 反 ・責 務 相 反. さらに、契約自由の原則があるとはいえ、研究室の 代表者たる教授と学生では、学生が相対的に不利な立. ①研究の内容や経緯によって、査定の内容は毎回変わ. 場にある。著作権者の人格を尊重する観点からもうけ. るものだとの認識を持つこと。. られたこれらの権利を放棄させる、あるいは行使させ. ②学生がいつも譲歩するという慣習を作らないこと。. な い と い う 契 約 を 結 ば せ る こ と に は 、 前 稿 (3.3)で も 一. それは、このルールが形骸化することを意味する。. 部述べたように公序良俗違反の疑義が付きまとう。提. ③教員や先輩の発言力・影響力が強く、正当な評価が. 訴されて裁判所で認定されれば契約は無効となる(民. できないと考えられる場合には立場の弱い側が第三者. 法 90 条 )。. に裁定を仰ぐことができるようにすること。また、こ. 研究室の教授が、学生から特許を受ける権利を召し 上 げ 、教 授 の 名 義 で 出 願 し て し ま っ た と い う 事 実 が「 知. れを理由として不利益な取扱を受けないようなルール を整備すること。. 財 ハ ラ ス メ ン ト 」と し て 学 会 で 紹 介 さ れ た こ と が あ る 。 ハラスメントの成否は一概には言えないが、教員が学. 4.3.3. ラボノート. 生を指導する責務には学生の権利を尊重することが当. このような取組を円滑に進めるためには、研究室で. 然に包含されるのであって、その責務に教授個人の利. 何が議論され、どのようなノウハウが誰によって生み. 益又は技術移転を優先させたとして責務相反に問われ. 出され、成果物となっていったかを時系列順に正確に. る恐れがあるということは確かである。. 記録しておくことが欠かせない。よく推奨される「ラ ボノート」をつける習慣をつけることが重要である。. 4.3. プロパテントの時代には、あいまいな慣行こそトラ. 管理の方法. 先ほどの設例に戻って、それではどのような管理が. な慣行に異議を唱える学生はいずれ出現してくる。設. 可能か考えてみよう。. 4.3.1. ブルの元になるのであって、今は居なくともそのよう 例 の よ う な 場 合 に 、A∼ F が そ れ ぞ れ に 行 動 の 記 録 を 残. 権利者の確定. ま ず 、元 と な る A の ア イ デ ア 、そ れ を 具 現 化 さ せ る べき方法、その実験、その評価、その文章化といった. しておけば、互いの記録を突き合わせることによって 実態に即した権利の配分が可能になる。. 一連のプロセスにおける貢献の度合いを算定しなけれ. 4.3.3. ばならない。. 著作権の一部譲渡. 全 体 を 100 と し て 、A の 貢 献 度 は 40、B の ア イ デ ア. 法律上、著作権は表現をした者にのみ与えられ、ア. は 20、C の 実 験 用 プ ロ グ ラ ム は 20、D の 実 験 は 20、E. イデアを提供したり単に実験の補助をしただけの者に. の 執 筆 は 15、 F に よ る レ ビ ュ ー は 5 と い う よ う に 、 実. は権利が与えられない。. 情に即して正確に査定する。特許の場合はこのような. し か し 、こ の 場 合 A や D の 貢 献 度 合 い を ゼ ロ と し て. 方法がある程度確立しているので、できないことはな. よいか。何も書いていないし、手を加えてもいないか ら F も 法 律 上 権 利 者 に は な り 得 な い が 、情 報 系 の 学 会. いはずだ。 特許権の場合、技術移転してライセンス収入が上が. では現にそのような慣例がある。 これに対しては、著作権の一部譲渡により対応する。. った場合、前述のように算出された貢献度によって収 入を分配する。情報系の研究室において作成されるソ. この場合は執筆者である E から、貢献のあった. フ ト ウ ェ ア の よ う な も の で は 、可 能 性 は あ る 。し か し 、. A,B,C,D,F に 対 し て 著 作 権 を 一 部 譲 渡 す る こ と に よ っ. 論文の場合は収入が発生することはまずない。したが. て 、A∼ F を 全 員 共 有 著 作 権 者 に す る 。そ れ は 実 務 上 共. って、貢献度の算出は金銭的な意味をほとんど持たな. 同著作物を作成したことと同じ効果を持つ。 内部において決めた貢献度合いにかかわらず、多く. いが、作成にかかわったプロセスを透明化し、創作の. の者がかかわって製作された論文の著作権は、関わっ. 名誉を保証し、紛争を抑止する機能を有する。. た者全員の共有となり、著作権は著作者全員の合意が な け れ ば 行 使 す る こ と が で き な い ( 著 作 権 法 64 条 )。. 4.3.2 協 議 と 裁 定 貢献度算出の方法としては、当事者間の協議が何よ りも重要である。なぜならば、研究室のメンバーはみ. 4.3.4. 並び順. なこの論文の執筆を成功させたく、その成果を改善し. A∼ F の 並 び 順 は 事 情 に 応 じ て 自 由 に 決 め て か ま わ. たいという共通の目標に基づいて行動することが求め. ない。学会にはファーストオーサーとなった論文の数. −40−.
(5) が評価の対象になったり、発表の機会がある場合は登 壇者となるなどの慣習があるが、著作権の行使という 点では全員が平等であって問題にならないからである。. 4.3.5. 研究室における二次的著作物等の作成. 4.3.3 で 説 明 し た よ う に 、 A∼ E が 著 作 権 を 有 す る こ と は 良 い が 、F と し て は 、A∼ E が 卒 業 し た 後 、新 し く 入ってきた学生にそのテーマを引き継がせ、二次的著 作物を作ったり、改良したりすることを想定しなけれ ば 研 究 活 動 の 継 続 性 が 損 な わ れ て し ま う 。ま た F 自 身 がそれをレビューしなおし、大学の第三の使命である 技術移転に貢献すべく、民家企業等に技術移転する余 地を残しておく必要がある。 したがって、教授には学生に対する教育、研究者の 義務としての検証、社会貢献のための技術移転など果 たすべき責務のため、著作物を複製し、公衆送信し、 改変、改良、翻案などをする自由が認められなければ ならないし、著作者人格権の行使にも一定の制限が科 せられるべきである。 具体的には、F は研究室の運営のために必要と認め た場合は、A∼Eの権利に配慮した上で、著作物を A ∼ E に 何 ら 断 る こ と な く 利 用 す る こ と が で き る 、A∼ E は F の研究室運営を妨げるような形で著作者人格権を 行使しないなどの取り決めが必要である。. 4.3.5. 期限. 著 作 権 は 著 作 者 の 生 存 中 お よ び 死 後 50 年 に わ た っ て 存 続 す る( 著 作 権 法 51 条 2 項 )が 、論 文 は 技 術 文 献 であるし、教員がそのような長期にわたり勤務しつづ け る こ と も 考 え に く く 、ま た 卒 業 し て 就 職 し た 学 生 が 、 在学中に書いた論文の著作権を行使することの実務的. 1.本論文の成立に至る経緯 ① 甲 は 2005 年 6 月 ×日 開 催 の ゼ ミ に お い て 、A 論 文 の前提となった B 仮説について口頭にて発言した。 ②乙は前記発表において甲の口述および丙が述べ た コ メ ン ト を ヒ ン ト に し て 、B 仮 説 を 実 証 す る C コ ン ピュータプログラムを作成、改良を繰り返した結果 2005 年 9 月 ×日 ま で に B 仮 説 の 正 当 性 を 立 証 す る こ と に成功した。 ③甲、乙は共同して、Z 学会論文誌に投稿すべく共 同著作物である A 論文を起草し、丙はこれを指導し、 助言を行った。 2.著作権の譲渡および按分について ① A論 文 の 著 作 者 人 格 権 は 甲 、 乙 が 留 保 す る 。 ②A 論文の著作権に対する各人の貢献度を次のよう に定める。 甲 45% 乙 45% 丙 10% ③ 甲 、乙 は A 論 文 の 著 作 権 の 一 部 を 丙 に 譲 渡 し 、甲 、 乙、丙で共有する。 3.著作権の行使について ①著作権の行使は甲、乙、丙の協議により行う。 ②前項の規程に関わらず、丙は次の各号に定める場 合、甲、乙の権利に配慮の上、事前に通知することな く著作権を利用することができる。 (ア)A 論 文 を さ ら に 発 展 さ せ る 研 究 を 自 ら 行 い 、ま た は研究室の学生に行わせるために必要な複製、改変、 翻案等。 (イ )A 論 文 に よ り 得 ら れ た 知 見 を 研 究 室 の ゼ ミ ま た は講義において学生に講義する場合に必要な複製、改 変、翻案等。 (ウ)A 論 文 に よ り 、あ る い は そ れ を 発 展 さ せ た 研 究 成 果を民間企業等に技術移転するために必要な複製、改 変、翻案等。 ⑤ 前 項 各 号 に 定 め る 場 合 、甲 、乙 は A 論 文 お よ び 二 次的著作物、翻案物等に対し、丙の研究、教育、社会 貢献等の責務を妨害するような形で、その著作者人格 権および権利の行使を行わない。. 意義も乏しい。ある程度の期間が到来した後は、当事 者による意思表示がない限り、研究室で自由に扱える ようにした方が良いだろう。. 4.4. 契約の例. 4.期限について この確認書の有効期限は、取り交わしの日より起算 して 5 年とし、甲、乙の特段の意思表示なき場合は丙 およびその後任者等は甲、乙の権利に配慮の上、著作 権を自由に利用できる。. これらの合意は紛争を予防すうためのものだから、 口頭ではなく、文章でまとめて共有する必要がある。 例示すれば次のようである。. 以上の通り確認したので、記名押印の上本状3通を 作成し、各々1 通を保存する。 2005 年 11 月 14 日 甲 、 乙 、 丙 ( 記 名 押 印 ). A論 文 に 関 す る 著 作 権 の 一 部 譲 渡 お よ び 著 作 権 の 管 理 に関する確認書 当事者: X 大学大学院 Y 研究科博士前期課程 1 年 甲 X 大学大学院 Y 研究科博士前期課程 1 年 乙 X 大学大学院 Y 研究科教授 丙. 5.情報系の研究室に固有の問題点. 甲 、 乙 、 丙 は 、 2005 年 ×月 ×日 ま で に 完 成 し 、 Z 学 会に提出した A 論文について、次のように確認した。. 5.1. 以上、学生の寄与を想定した著作権管理にあたって の一般論を述べてきたが、情報系特にソフトウェアの 開発に際しては固有の留意点がある。. アイデア・アルゴリズムの評価. 典型的な無形資産であるプログラムにおいては、前 提となるアイデアの重要性が高い。仮説は実験によっ. −41−.
(6) て間違いが証明されることもあるが、何らかのニーズ. っ て い る の か と い う と そ れ は 疑 わ し い 。 本 稿 4.3.3 で. に着眼し、それをフローチャート化することができれ. 説明した方法はあくまでも便宜的な手法である。著作. ば事実上完成する。しかし、アイデアそのものは著作. 権法上は、執筆した者だけが共同著作物の著作者であ り 、「 ア イ デ ア 提 供 者 、教 授 等 が 投 稿 す る 論 文 に 名 を 連. 権法の保護の対象ではない。 何らかの情報処理において画期的なアルゴリズム を思いついたとしても、それ自体は著作物にはなり得. ね る 慣 習 」を 正 当 化 す る た め に 著 作 権 の 一 部 譲 渡 を し 、 共有著作権を行使する形態を提案した。 慣習は学会ごとにカルチャーとして存在するもので、. ない。しかし、それは研究成果において重要な位置を 占 め て い る こ と に 鑑 み 、相 応 の 評 価 を す る 必 要 が あ る 。. 無名のファーストオーサーがどの大学の誰の系譜に属 する研究者なのかを明らかにするものであって、著作. 5.2. 著作者不明のプログラムやライブラリの. 権表示ではないと割り切る考え方もあろう。しかしそ うであれば、権利者であると思ってコピーなどの許諾. 利用 学生が何かを開発するときにまず最初に行うことは 類似の論文の検索であるが、情報系の場合は全インタ. を求めたら、実は無権限者であるなどということが起 き得る。. ーネットを対象にしてプログラムやソフトウェアを検 索し、そのソースコードを適宜改変して自分の目的を. 6.1.2. 卒業論文・卒業制作等の著作権. 達することがある。利用したプログラムがGPLのよ. こ れ ら は 単 著 を 大 原 則 と し て い る た め 、6.1.1 と は 逆. うに明確なライセンス管理下にあれば規約を尊重する. に、一部を執筆するなど実質的な創作をした者であっ. 必要がある。逆に著作者が不明であったり、管理がな. ても、一切権利を行使できないことになる。. されていないようなものであれば著作権や特許権の侵 害などのリスクを抱えることになるので適切な管理が. 卒業生の権利. 6.2. 必 要 で あ る 。 前 稿 4.2 で 紹 介 し た 岩 手 県 立 大 学 の 事 例. 過去に研究室に在籍し、共同で研究をした者が、こ. では、この問題を想定し、すべての著作権者から許諾. れから知的財産権に敏感になり、研究室における権利. が 取 れ な い 場 合 の 様 式 C を 用 意 し た ( 前 稿 図 12)。. 処理に異議を申し出てくるかもしれない。過去に遡っ て契約をすることはできないことはないが、実務上難. 5.3. しい問題である。. アウトプットの多様性. コンピュータグラフィックスやウェブデザインのよ うな研究をしている研究室の場合、論文ももちろん出. 7.. おわりに. るが、グラフィックスや美しいレイアウトなどが成果. 研究室はインフォーマルな空間だと錯覚しがちで. 物となり、このようなものには産業上の利用可能性も. ある。論文の著作権のような人格的権利の交通整理は. あるから、著作権とは別の法制度の下で、作成者の適. 平常時には必要性を感じないものであるが、インフォ. 切な保護が必要である。. ーマルな関係がこじれた時には突然にリスクとして浮. 論文とは別に、ソフトウェアに産業上の利用可能性. 上する。適切に管理しておかなければ危険である。そ. があれば何らかの方法で特許を出願することも検討す. して、同様のリスクは個人情報保護、利益相反対策な. る必要があるし、その権利処理も別途考慮する必要が. ど別の問題にも起き得、それぞれ研究室で対応を迫ら. 生まれることに留意する必要がある。. れるであろう。 しかし、創造的行為が密室の中でなくガラス張りに. 6. なり、そのルールを明確にするメリットは、管理に要. 今後の課題. このような問題は今後も複雑化することがあっても、 今よりも簡単になることはない。現時点でわかってい. する手間を考慮しても十分に評価に値するものではな いだろうか。本稿が問題提起となれば幸いである。. るいくつかの課題を掲げておく。 文 献. 6.1 6.1.1. 1.浜 田 良 樹 、 瀬 川 典 久 、 村 山 優 子 「 大 学 の 卒 業 論 文 制. 著作権表示における慣習について. 作における知的財産権の帰属および取り扱いについて. 学会発表論文の著者について. 前 稿 2.4.3 で 記 述 し た が 、 東 北 大 学 大 学 院 情 報 科 学 研 究 科 に お け る 学 会 発 表 等 の オ ー サ ー の 数 は 平 均 2.7. の 考 察 」 ISEC2005-28, SITE2005-26, pp.139-146, 電 子 情 報 通 信 学 会 、 2005 年 7 月. 人であった。しかし、本当に 3 番目、4 番目にランク される著者が「思想または感情の創作的表現」に関わ. −42−.
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