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腸管出血性大腸菌感染症

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岡 山 医 学 会 雑 誌  第113巻

December 2001, pp. 301-303

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腸管 出血性大腸 菌感染症

キ ー ワ ー ド:腸 管 出 血 性 大 腸 菌, Vero毒 素 大 腸 菌 は ヒ ト,ウ シ,ブ タ 等 の 腸 管(終 末 小 腸 や 大 腸)に 常 在 す る 腸 内 細 菌 の 一 種 で,赤 痢 菌 や サ ル モ ネ ラ菌 と 類 縁 関 係 に あ る.ヒ ト糞 便1gに 約107 ∼108個 棲 息 し,通 常 は害 悪 を与 え ない.大 腸 菌 の 中 で 腸 管 に 定 着 し て ヒ トに 下 痢 を惹 起 す る も の を 下 痢 原 性 大 腸 菌 と総 称 し,現 在 ま で に 毒 素 原 性 大 腸 菌 (ETEC),腸 管 侵 入 性 大 腸 菌(EIEC),腸 管 出 血 性 大 腸 菌(EHEC),腸 管 付 着 性 大 腸 菌(EAggEC), 腸 管 病 原 性 大 腸 菌(EPEC)に 分 類 さ れ て い る. 大 腸 菌 は 細 胞 外 膜 で 覆 わ れ て お り,そ れ に 対 し て 宿 主 側(ヒ トや 動 物)は 免 疫 抗 体 を産 生 す る.細 胞 外 膜 の 多 糖 体(O抗 原)の 構 造 の 違 い に よ り抗 原 性 は 異 な り,こ れ ま で にO1か らO173ま で 分 類 さ れ て い る.ま た,菌 の 鞭 毛 を構 成 す る蛋 白 に も抗 原 性 が あ り,そ の 違 い に よ りH1か らH60に 分 け られ て い る.こ れ ら の 抗 原 性 の 組 み 合 わ せ に よ り菌 は 分 類 さ れ,疫 学 的 に 重 要 な指 標 に な る.現 在,日 本 に お い てEHECを 一 般 にO157と 呼 ん で い る の は 日本 で 分 離 さ れ る80%以 上 のEHECがO抗 原 の157番 目 に 属 す るか ら で あ り,他 の 血 清 型(例 え ば, O111H-,

O26H11, O113H21等)に 属 す るEHECも あ る の で 注 意 を 要 す る. EHECが 引 き起 こ す 症 状 は,下 痢,腹 痛,嘔 吐 等 の 一 般 的 な 食 中 毒 の 症 状 で あ る.下 痢 便 は 赤 い 鮮 血 様 で あ る 事 が 多 く,発 熱 を伴 う事 が 多 い.通 常 は 数 日 で 快 方 に 向 か う が,時 に3∼7日 経 過 し た 後,急 激 に 乏 尿,溶 血 性 貧 血,血 小 板 の 減 少 を き た し て 意 識 障 害 を起 こ し,溶 血 性 尿 毒 症 症 候 群 や 血 栓 性 血 小 板 減 少 性 紫 斑 病 へ 移 行 す る 事 が あ る.溶 血 性 尿 毒 症 症 候 群 と な っ た 場 合 に は 早 期 に 治 療 し な け れ ば 重 篤 な 症 状 へ 移 行 す る 率 が 高 い.こ れ らの 病 態 の 主 要 原 因 は,本 菌 が 産 生 す る 腸 管 毒 素(Vero毒 素; VT) で あ る. VTは カ ナ ダ のKonowalchuk等 に よ っ て 初 め て 報 告 さ れ た.彼 等 は 下 痢 患 者 か ら分 離 し た 大 腸 菌 が Vero細 胞 に 致 死 的 に 働 く物 質 を産 生 して い る事 を発 見 し,こ の 物 質 をVero毒 素 と命 名 し た.こ の 報 告 の5年 後, O'Brien等 は こ の 毒 素 活 性 が 抗 志 賀 毒 素 抗 体 で 中 和 さ れ る事 を見 い 出 し,こ の 毒 素 を精 製 し て 志 賀 毒 素 様 毒 素(Shiga-like toxin; SLT)と 命 名 した.後 に,両 者 は 同 一 で あ る事 が 証 明 さ れ た が, 未 だ に 二 つ の 呼 称 が 統 一 性 な し に 使 用 さ れ て い る. 本 稿 で は, Vero毒 素(VT)の 名 称 を 使 用 す る. VTは 大 き く分 け て 二 種 類 に 分 類 さ れ る.一 つ は ア ミ ノ 酸 配 列 の み な ら ず 塩 基 配 列 も赤 痢 菌(Shigella dysenteriae 1)が 産 生 す る 志 賀 毒 素 と全 く 同 一 の VT1で,抗 志 賀 毒 素 抗 体 で 中 和 さ れ る.も う一 つ は 抗 志 賀 毒 素 抗 体 で は 中 和 さ れ な い が, Vero細 胞 に 対 す る 致 死 活 性 を は じめ,マ ウ ス 致 死 活 性,ウ サ ギ 結 紮 腸 管 液 体 貯 留 活 性 等 の 生 物 活 性 が 志 賀 毒 素 や VT1と 同 じVT2で あ る. VT2に は 一 部 共 通 抗 原 を有 す る4種 類 のvariantが 報 告 さ れ て い る.即 ち, 豚 浮 腫 病 由 来 のVT2 vp1と,溶 血 性 尿 毒 症 症 候 群 患 者 由 来 のVT2 vp2, VT2 vha及 びVT2 vhb で あ る. VT1に は 数 個 の ア ミ ノ 酸 置 換 体 が 見っ か っ 岡 山 大 学 医 学 部 保 健 学 科 検 査 技 術 科 学 専 攻 電 話:086-235-6846 FAX: 086-235-6846

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302  倉 園 久 生 て い た が, VT2の よ う なvariantの 報 告 は な か っ た.し か し, 1994年 に はVT1のvariantの 報 告 が あ り, VT1, VT2と も にvariantの 増 え る可 能 性 が あ る. VTは 酵 素(毒 素)活 性 を持 つAサ ブ ユ ニ ッ ト と 細 胞 表 面 の レ セ プ ター と の 結 合 を担 うBサ ブ ユ ニ ッ トか ら構 成 さ れ て お り,そ の 構 成 比 はAサ ブ ユ ニ ッ ト1分 子 に 対 し, Bサ ブ ユ ニ ッ ト6分 子 で あ る. VTの 生 物 活 性 と して は, Vero細 胞 や あ る種 の Hela細 胞 に 対 す る 細 胞 毒 性,マ ウ ス 致 死 活 性,ウ サ ギ 結 紮 腸 管 液 体 貯 留 活 性(腸 管 毒 性)が あ る.志 賀 毒 素 及 びVT2の 細 胞 致 死 活 性 は 標 的 細 胞 の 蛋 白合 成 の 阻 害 に よ り起 こ り,そ の 実 態 は 真 核 細 胞 の60S リ ボ ソ ー ム の 失 活 に よ るEF-1依 存 ア ミ ノ ア シ ル tRNAの 結 合 阻 害 で あ る事 が 報 告 さ れ て い る.こ れ ら の 毒 素 に よ る真 核 細 胞 の60Sリ ボ ソ ー ム の 失 活 は こ れ ら の 毒 素 が 持 つRNA N-グ リ コ シ ダ ー ゼ 活 性 (28 rRNAの5'末 端 か ら4, 324番 目の ア デ ノ シ ン の N-グ リ コ シ ド結 合 を加 水 分 解 す る)に よ る も の で, そ の 結 果, EF-1依 存 ア ミ ノ ア シ ルtRNAの60Sリ ボ ソー ム へ の 結 合 阻 害 が 起 こ り,蛋 白合 成 が 阻 害 さ れ る.志 賀 毒 素 とVT1の 分 子 構 造 は 全 く同 一 で あ る 事 か ら, VT1の 作 用 機 構 も 同 で あ る と考 え られ る.な お,こ の 毒 素 活 性 は 各 毒 素 のAサ ブ ユ ニ ッ ト が 担 っ て い る. Aサ ブ ユ ニ ッ トが 毒 素 活 性 を 担 っ て い る の に 対 し て, Bサ ブ ユ ニ ッ トは 標 的 細 胞 上 の レ セ プ ター との 結 合 に 関 与 し て い る. VTはBサ ブ ユ ニ ッ ト を介 し て 細 胞 膜 上 の グ リ コ リ ビ ッ ドと結 合 す る.現 在 ま で に, VT1とVT2は グ ロ ポ ト リオ シ ルセ ラ ミ ド(Gb 3) に, VT2 vp1は グ ロ ポ テ トラ オ シ ル セ ラ ミ ド(Gb 4) に 結 合 す る事 が 分 か っ て い る. Gb 3お よ びGb 4は, そ れ ぞ れGa 1 α 1-4 Ga1β 1-4 Glucose ceramide, Gal NAcβ 1-3 Ga1a 1-4 Galβ 1-4 Glucose-ceramideと い う構 造 を持 つ 糖 脂 質 で あ る. EHECが 混 入(お そ ら く は100∼500個 程 度)し た 食 物 を 経 口 的 に 摂 取 す る と,菌 は 胃 ・上 部 腸 管 を 通 過 し て 主 に 大 腸 に 定 着 し,ゆ っ く り増 殖 し(潜 伏 期 は4∼9日)毒 素 を産 生 す る.毒 素 は 腸 上 皮 細 胞 に 取 り込 ま れ 上 皮 細 胞 を 壊 死 さ せ,更 に 腸 基 底 膜 を通 過 し て 血 流 に よ っ て 全 身 に 運 ば れ る.毒 素 は 受 容 体 (Gb 3糖 脂 質 等)を 持 つ 細 胞(生 体 内 で は,お そ ら くは 血 管 内 皮 細 胞,腎 尿 細 管,神 経 細 胞 等)に 結 合 し取 り込 まれ て 細 胞 を 壊 死 さ せ る.そ の 結 果,微 小 血 栓 を生 じ て 尿 毒 症 を 併 発 し た り,神 経 細 胞 の 壊 死 で は 意 識 障 害 等 の 神 経 症 状 を 呈 す る と考 え られ る. 臨 床 検 査 で は 早 期 か ら尿 中 に β2ミ ク ロ グ ロ ブ リン とN-ア セ チ ル グ ル コ サ ミダー ゼ が 増 加 し て い る事 が 多 く,つ い で ヘ モ グ ロ ビ ン の 低 下,血 小 板 の 減 少, 血 中 尿 素 窒 素,ク レ ア チ ニ ン, LDHが 高 い 価 と な る. 本 菌 の 伝 播 経 路 は あ く ま で も経 口 感 染 で あ り,特 に 「糞 口 感 染 」(患 者 な い し保 菌 牛 の 糞 便 で 汚 染 さ れ た 食 物 を 摂 取 す る 事)で あ る.従 っ て,患 者 を 隔 離 し た り特 別 な 扱 い を す る 必 要 は な く,調 理 人 が 手 指 お よ び 調 理 機 材 等 を 充 分 消 毒 し,調 理 食 品 を安 全 に 管 理 す れ ば 伝 播 を 防 ぐ事 は 可 能 で あ る.本 菌 は 現 在 の と こ ろ,特 別 な 抗 生 物 質 耐 性 や 消 毒 薬 抵 抗 性 を持 っ て い な い の で,通 常 は70℃, 1分 間 の 煮 沸 で 死 滅 し,ア ル コー ル 等 の 一 般 的 な 消 毒 薬 で 死 滅 す る. EHEC感 染 症 は1982年 以 降 世 界 的 に 散 発 して い る が,我 が 国 で は1990年 以 降 年 々 増 加 の 傾 向 に あ り, 特 に7月 か ら10月 に 集 団 的 に あ る い は 散 発 的 に 発 生 し て い る.最 近 の 調 査 で は 健 康 保 菌 者 が い る事 が分 か り,ま た 全 国 的 な 発 生 を 考 え る と 全 国 的 に か な り 蔓 延 し汚 染 が 進 ん で い る と推 察 さ れ る. EHECに よ る 食 中 毒 は そ の 潜 伏 期 の 長 さ ゆ え に,多 くの 事 例 に お い て 原 因 食 品 の 特 定 が 困 難 で,患 者 数 の 増 大 を招 く原 因 に も な っ て い る. 最 後 に,本 年,岡 山 医 学 会 会 員(武 田 先 生;元 岡 山 大 学 医 学 部 公 衆 衛 生 学 教 室 教 授,現 井 原 市 立 病 院 長,岸 本 先 生;岡 山 労 災 病 院,金 谷 先 生;国 立 岡 山 病 院,横 田 ・小 熊 両 先 生;岡 山 大 学 医 学 部 細 菌 学 教 室)に よ る 本 菌 感 染 症 に 関 す る興 味 深 い 論 文(Watar aki, S., K. Yokota, Tana, T. Kishimoto, T. Kanadani, K. Taketa, K. Oguma: Relationship between susceptibility to Hemolytic-Uremic Syn drome and levels of globotriaosylseramide in human sera. J. Clin. Microbiol. 39: 798-800,

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腸 管 出血 性大 腸 菌感 染症  303 2001)が 出版 され た の で紹 介 す る.著 者 等 は,本 菌 感 染症 の35例 の 患 者 血 清 中 のGb 3濃 度 を測 定 し,溶 血 性 尿毒 症 症 候 群 に移 行 した 患者 血 清 中のGb 3濃 度 が,無 症 状 や 下 痢 症 に 留 ま っ た 患 者 の 血 清 中 の Gb 3濃 度 に 比 べ て 有 意 に 低 い事 を報 告 して い る.こ の 報告 は 本菌 感染 症 が 疑 わ れ る患 者 に対 す る早 期 の 治療 指 針 を立 て る上 で の新 た な検 査 法 を提 唱 して お り,臨 床 的 に大 変 興 味 深 い論 文 で あ るの で,会 員 の 皆様 に御 一 読 をお勧 め す る.

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