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第1章 これまでの国家建設過程と第9回党大会

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第1章 これまでの国家建設過程と第9回党大会

著者

山田 紀彦

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

シリーズタイトル

情勢分析レポート

シリーズ番号

16

雑誌名

ラオス人民革命党第9回大会と今後の発展戦略

ページ

7-25

発行年

2012

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00014693

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はじめに

2011 年 3 月 17 日から 21 日にかけて,全国の党員約 19 万 1780 人の代 表 576 人が参加し,第 9 回党大会が開催された。第 9 回党大会では「2020 年に最貧国から脱却する」ことが至上命題であることに変わりはないものの, これまでの「経済成長至上主義」という路線を修正し,社会開発とのバランス を取りながら経済開発を行うとの方針が示された。このような路線の修正は, ラオスの国家建設が新たな時代に入ったことを示唆している。では,なぜ今大 会において党は路線の修正を迫られたのだろうか。そして,具体的にどのよう な開発方針が示されたのだろうか。 本章ではこれまでの国家建設過程を振り返り,そして第 9 回党大会で示さ れた今後 5 年間(2011 ~ 2015 年)の国家建設方針を考察することで,以上 の 2 つの問いに答えていきたい。以下,第 1 節では,建国からこれまでの国 家建設過程を,その目的の変遷から大きく 2 つの時代に分けて概観する。ひ とつは 1975 年の建国から 1991 年までの「戦後復興の時代」,もうひとつは 1991 年から現在までの「貧困削減の時代」である。第 2 節では,2006 年の 第 8 回党大会以降の政治,経済状況について考察する。2006 年以降,格差の 拡大や土地問題など経済成長の負の側面が政治問題化し,党内外から現在の路 線に対する疑問の声があがりはじめた。そして第 3 節では,第 9 回党大会で 示された党の現状認識や国家建設方針の全体像を明らかにする。その上で最後 に,第 9 回党大会がラオスの国家建設においてどのような意味を持つのかを 考えてみたい。 第 1 章

これまでの国家建設過程と第 9 回党大会

山田 紀彦

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第 1 節 これまでの国家建設過程

1.戦後復興の時代(1975 ~ 1991 年) 1975 年 12 月の建国後,社会主義国家建設の基盤を整えるため,党は社会 主義への過渡期における 2 つの目標を提示した。第 1 は植民地や封建制の痕 跡を除去し,中央から末端まで行政権力を整え人民民主主義体制を構築するこ と,第 2 は旧来の生産関係を改造し,新しい生産関係を構築することで「人 民の生活を平常にする」ことである(Kaysone [1987: 22-23])。社会主義用語 で語られているが,言い換えれば国家の土台作りと戦後復興ということにな る。そして党は,社会主義への過渡期は短期間で終わると考えていた(Kaysone [1987: 19])。 しかし,経済・社会インフラの未整備,国家建設を担える人材の不足,西 側諸国の援助停止,また干ばつなどにより,国民生活は改善されるどころか悪 化の一途を辿った。そこで党は,1977 年の第 2 期党中央執行委員会第 4 回総 会において,社会主義化のペースを速める決断をする。国民生活が改善しない 理由を社会主義化の遅延に求め,国有化や農業集団化を急いだのである。 しかし,カイソーン党書記長(役職は当時,以下同じ)自身が後に指摘した ように,中央集権的な経済体制では人民の主体性が発揮されず,労働意欲も わかないため,生産の遅れ,商品不足,生産性や効率の低下,創造力の欠如と いう問題が生まれた(Kaysone [1984: 23])。また,大規模生産を目指した農業 集団化は,生活に足るだけの量で満足するラオスの個人農には受け入れられ ず,平等主義にもとづく分配は多くの農民の反発を招いた(Stuart-Fox [1996: 117])。急速な社会主義化は問題の解決策とはならなかったのである。 党は打開策として,1979 年 11 月の第 2 期党中央執行委員会第 7 回総会(以 下,第 2 期 7 中総)において,市場経済原理の一部導入を決定する。第 2 期 7 中総でカイソーンは,社会主義への過渡期は長期の過程であり,ラオスはその 初期段階にあるため,資本主義や私営経済の廃止は 1 日で実現できないとの 認識を示した(Kaysone [1979: 167])。その上で,国家経済と集団経済が主導 的役割を果たすとしながらも,社会主義の過渡期には 5 つの経済部門(国家経 済,集団経済,国家資本主義経済,私営経済,個人経済)が存在することを認め,

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非社会主義経済部門を生産拡大と国民の生活改善のために活用するとしたので ある(Kaysone [1979: 92-94,100-101])(1)。いわゆる市場経済化を軸とした「新経 済管理メカニズム」の導入である。 この路線転換からは 3 つの重要な意味をみてとれる。第 1 は,社会主義国 家建設が実質的かつ現実的な国家目標でなくなったことである。これはラオス が社会主義国家建設を放棄したことを意味しない。ラオスの国家目標が社会主 義国家建設であることは,当時も今も変わりない。しかし,社会主義はいつ 実現するかわからない長期の過程と位置づけられ,実現可能な目標から「理 想」にとって代わった。そして,社会主義に代わり現実的な目標となったのが, 過渡期の課題であった戦後復興と国家の土台作りであった。これが第 2 の点 である。そして第 3 は,その手段として市場経済原理を導入したことである。 つまり党は,社会主義を「理想」に据えることで社会主義国家としての正統性 を維持しつつ,その枠内でより現実的な国家建設に着手したのである。 1979 年以降,国有企業に自主権が付与され,また政府の価格統制も 1976 年の 86 種類から 1984 年までには石油,コメ,コーヒーなどの戦略的物資の みが対象となるなど,改革は漸進的に進められた(Kaysone [1984: 5-6])。「新 経済管理メカニズム」が本格化するのは,1986 年 11 月に開催された第 4 回 党大会で「チンタナカーン・マイ」(新思考)というスローガンが提唱されて からである。では「新思考」とは何だろうか。 カイソーンによれば,旧思考とは官僚主義,事実の歪曲,主観,急進であり, 新思考は実際の状況に沿って客観的事実を伝えること,そして常に新しい知識 を獲得することである(Kaysone [1986: 27])。特に経済面では,「官僚主義的 補塡メカニズム」から脱却し,「新経済管理メカニズム」を構築することが新 しい思考とされた(Kaysone [1986: 55])。「官僚主義的補塡メカニズム」とは, 中央が官僚主義的に計画を策定し,国家がすべての面倒をみる体制を指す。言 い換えれば,嘘や偽りから脱却し,現実に即した経済開発を行うため「新経済 管理メカニズム」に転換しようということである。つまり,「チンタナカーン・ マイ」とは「新経済管理メカニズム」を実施するため,これまでとは変わろう というメッセージであり,スローガンだったといえる。そして旧思考からの脱 却とは戦時思考からの脱却と通底しており,その意味で「チンタナカーン・マ イ」は戦後脱却のスローガンでもあった(山田 [2011b: 20-25 ])。

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以降,1988 年には外国投資奨励・管理法が施行され経済対外開放の道が 整った。また,このような流れを後押しするように,国際通貨基金(IMF)が 1989 年 9 月から 1992 年 9 月まで構造調整ファシリティー(SAF)を開始した。 改革当初の混乱や天候不順により,1987 年と 1988 年の経済成長率はマイナ スであったが,経済は徐々に安定し 1989 年は 13.4%,1990 年は 6.7% の成 長を達成したのである(ADB [2002: 224, 2003: 219])。 2.貧困削減の時代(1991 年~現在) 1991 年 8 月 15 日,建国後初の憲法が制定された。憲法制定には 2 つの重 要な意味をみてとれる。第 1 は,憲法第 16 条が「経済管理は政府調整をとも なう市場経済メカニズムに沿って執行する」(Saphaa Pasaason Suungsut [1991: 6])と「市場経済メカニズム」を正式に規定し,「新経済管理メカニズム」の 実施体制を整えたことである。これにより経済開発が本格化する。 第 2 は,戦後を脱却し,ラオスが本格的な国民国家建設を開始したことで ある。ヌーハック最高人民議会(現在の国会を指す)議長は,憲法制定の必要 性について次のように述べている。 「われわれは,国家の経済基盤のための物質的・技術的基礎を建設するこ とにおいて,初期的成功を収めた。(中略)われわれの改革路線は,現在の わが国の実際の状況に適合してきた。われわれにとって,人民民主主義体 制の建設,および発展段階において,政治や社会分野における新制度,市 民の根本的権利と義務,国家機構の組織を定める憲法が必要となっている。 (中略)また,国家の特徴を統一的に理解するためにも,憲法が必要である。(中 略)憲法は国家の根本法であり,(中略)国家の法体系や人民の民主的権利 や主人権を守る基礎であり,それは,経済や社会文化の発展にとって,また, 人々に新しい生活を与える上で欠かせない」(FBIS [1991: 44-45])。 そして,「国家を憲法により管理することの本質は,国防と国家建設におい て重要かつ必要な基盤である,一枚岩的な国民意識と民族融和を改善すること である」(Pasaason, 1991 年 8 月 16 日)とし,憲法が国民統合にとっても重要 な役割を果たすことを指摘している。

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以上のヌーハックの発言からは,ラオスが国家の土台作りを終え,本格的 な国民国家建設の段階に移ろうとしていることがわかる。つまり,憲法制定は ラオスが戦後復興を遂げ,国民国家建設という新たな時代に入るために必要な 作業であった。いわば戦後からの脱却を象徴しているのである。 ただそれは,戦後復興や国家の土台作りに代わる新たな国家目標が必要に なったことを意味する。そこで党は,1993 年 2 月 18 日の第 5 期党中央執行 委員会第 6 回総会において,経済発展を遂げ,国家を徐々に最貧国から脱却 させるという新たな目標を掲げた。(Sathaaban Vithanyasaat Sangkhom Haeng Saat [2010: 274-277])。これには,1996 年 3 月の第 6 回党大会において,「2020 年までに」と具体的な期限が定められた(Eekasaan Koongpasum Nyai Khang Thii VI Khoong Phak Pasaason Pativat Lao [1996: 29])。以降,ラオスは資源・エ

ネルギー部門開発を中心に経済開発に邁進することになる。

第 2 節 第 8 回党大会以降の状況

1.経済成長至上主義

1996 年から 2005 年までの平均経済成長率は 6.2% となり,ラオスは順調 に経済成長を遂げてきた。しかし,1996 ~ 2000 年の目標は平均 8 ~ 8.5% 成長(Eekasaan Koongpasum Nyai Khang Thii VI Khoong Phak Pasaason Pativat Lao

[1996: 30]),また,2001 ~ 2005 年は最低 7%が目標であった(Eekasaan Koongpasum Nyai Khang Thii VII Khoong Phak Pasaason Pativat Lao [2001: 24])。

つまり,安定した経済成長を遂げたものの,実は目標に届いていなかったので ある。 そうしたこともあってか,党は 2006 年 3 月の第 8 回党大会において経済 開発に対する強い意志を示した。党は「開発は最優先事項」であり,なかでも 「経済開発を中心とした国家開発」を行うとした上で,「党の長期目標に到達す るために,われわれは工業化と近代化を開発の優先とみなさなければならない」 とする方針を掲げたのである(Eekasaan Koongpasum Nyai Khang Thii VIII Phak Pasaason Pativat Lao [2006: 45,50])。

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門であった。特に鉱物資源開発は,2006 年以降に投資件数も輸出額も大幅に 増加した。鉱業コンセッション(国土の使用権や事業にかかる建設,操業,採掘 権等の供与)は,2003 年の 58 件から 2007 年には 100 件となり,2009 年に は 150 件となった(杉本 [2010: 173])。2000 年代初頭に輸出全体の 2%にも 満たなかった鉱業の輸出は,2006/07 年度には 61%を占めるまでに成長した (山田/ケオラ [2008: 255])。GDP に占める鉱業の割合も,2002 年の 0.2% か ら 2005 年には 5.7% となり,2006 年には約 12%を占めるようになった(ADB [2009])。 また,2010 年から稼働したナムトゥン 2 水力発電所は,今後 20 年間で 約 20 億ドルの収入をラオスにもたらすことが期待されている(2)。その他の電 源開発も進められ,2008 年には調査を含め水力発電所建設関連事業だけで約 20 プロジェクトの投資認可が下りており,現在でも外国直接投資の中心は資 源・エネルギー部門となっている。 以上の資源・エネルギー部門開発により,2006 年から 2010 年までの 平均経済成長率は 7.9% と 1990 年代以降もっとも高くなった(Eekasaan Koongpasum Nyai Khang Thii IX Phak Pasaason Pativat Lao [2011: 12])。経済開発

を最優先とする党の路線は着実に成果をあげたのである。 2.経済成長の負の側面 高成長の一方で,都市と農村の格差の拡大,党や国家幹部の汚職や不正, 土地問題,経済成長が国民の収入向上に結びついていないなど,経済成長の負 の側面が次第に顕在化し,2008 年頃から一部が政治問題化してきた。 2008 年 7 月に行われた第 6 期第 5 回国会では,政府の開発政策について 活発な議論が行われた。国会は,経済は順調に推移し 1 人あたり GDP も 800 ドルを超えたが,鉱物資源開発を中心とした開発は国民の収入向上に直接結び ついておらず,また,高所得者と低所得者の格差が拡大しているとし,政府に 対して開発戦略の見直しを求めた。さらに国会は 2008/09 年度予算について, 文化・社会開発や貧困削減プロジェクトへの増額を求め,政府は予算計画の修 正を余儀なくされたのである(山田 [2009: 234])。 このような国会の姿勢は国民の声を代表している。2008 年に行われた 2 回 の国会会期中,国民からは 400 件以上の意見が国会に寄せられた。ラオスで

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は 2005 年から国会に専用電話回線や私書箱,またメールアドレスが設置され, 会期中に国民が直接意見を伝えられる制度が確立している。国民はこのチャン ネルを通じて意見を寄せたのである。400 件の意見のうち,そのほとんどは 社会的公正や外資による土地問題など,経済開発に関連するものであった(山 田 [2009: 236])。 同様の状況は 2010 年の国会でもみられた。6 月に行われた第 6 期第 9 回 国会では,サラワン県やサワンナケート県選出議員から,経済成長が地方に裨 益していないことが指摘された。また,セコーン県選出議員は,外国人投資家 が契約に違反し,住民に土地を返還していない事件を取り上げた。さらにボケ オ県選出議員は,国家機関が職員に対して,違法に土地使用権を委譲してい ることを問題視したのである。第 9 回国会期間中に寄せられた 170 件の意見 のうち,ほとんどは土地や経済問題,また汚職や不正についてであった(山田 [2011a: 253])。高い経済成長の一方で成長の負の側面が顕在化し,それが政治 問題化しはじめたのである。 もうひとつの問題は社会開発が進まなかったことである。社会開発の遅れ は,2009 年 4 月にラオス政府と国連が発表したミレニアム開発目標進捗状 況報告書から裏づけられる 。ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals: MDGs)とは, 2000 年 9 月の国連ミレニアム・サミットで採択された「国 連ミレニアム宣言」と, 1990 年代の主要な国際会議やサミットで採択された 目標を統合したものであり,目標達成期限を 2015 年と定めている(国連開発 計画駐日代表事務所ホームページ, 2012 年 1 月 4 日アクセス)。表 1 は 2008 年時 点におけるラオスの目標達成可能性を示している。国連は,経済的貧困の削減 や乳児死亡率の低下などは目標達成可能としているが,それ以外の多くの分野 で目標の達成が難しいとの評価を下している。ミレニアム開発目標の達成は 「2020 年の最貧国脱却」の前提である。国連の評価は,高度な経済成長が経 済的貧困解決の道筋を整えた一方で,社会開発がなおざりにされてきたことを 明確に物語っている。つまり,党は経済開発路線の修正をせざるを得ない状況 に陥っていたのである。

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表 1 ラオスにおける国連ミレニアム開発目標の進捗状況(2008 年) 目標 達成可能性が極め て低い おそらく 不可能 達成可能 目標設定なし データ格差あり 目標 1 極度の貧困と飢餓の撲滅       ・2015 年までに 1 日 1 ドル未満で生活 する人口の割合を半数に減少させる     ●     ・2015 年までに飢餓に苦しむ人口の割 合を半減させる ●         ・すべての人々に,完全かつ生産的な雇 用,またきちんとした仕事の提供を実 現する       ●   目標 2 普遍的な初等教育の実現       ・2015 年までにすべての子どもたちが, 初等教育の全課程を修了できる   ●       目標 3 ジェンダーの平等の推進と女性の 地位向上       ・2015 年までにすべての教育レベルで 男女格差を解消する   ●       目標 4 乳児死亡率の削減       ・2015 年までに 5 歳未満の死亡率を 3 分の 2 引き下げる     ●     目標 5 妊産婦の健康状態改善       ・2015 年までに妊産婦の死亡率を 4 分 の 3 引き下げる   ●       ・2015 年までにリプロダクティブ・ヘ ルスへの普遍的アクセスを実現する ●         目標 6 HIV/ エイズ,マラリア,その他 の疾病のまん延防止       ・2015 年までに HIV/ エイズのまん延を 食い止め,減少させる       ●   ・2010 年までに HIV/ エイズの治療への 普遍的アクセスを実現する         ● ・2015 年までにマラリアやその他の主 要な疾病の発生を食い止め,発生率を 減少させる     ●     ・ツベルクリンのまん延を食い止め,減 少させる     ●     目標 7 環境の持続可能性確保       ・持続可能な開発の原則を国家政策に反 映させ,環境資源の損失を減少させる ●         ・ 生物多様性の損失を 2010 年までに減 少させた後,継続的に減少させ続ける       ●   ・2015 年までに安全な飲料水を継続的 に利用できない人々の割合を半減する (農村部)   ●       ・2015 年までに安全な飲料水を継続的 に利用できない人々の割合を半減する (都市部)     ●     ・2015 年までに衛生施設を継続的に利 用できない人々の割合を半減する(農 村部)   ●       ・2015 年までに衛生施設を継続的に利 用できない人々の割合を半減する(都 市部)     ●    

(出所)The Government of Lao PDR and UN [2008: xvi],外務省ホームページ(2011 年 9 月 25 日ア クセス),国際連合広報センターホームページ(2011 年 9 月 25 日アクセス)をもとに筆者作成。

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第 3 節 第 9 回党大会で示された国家建設方針

今大会の最大の課題は経済発展の負の側面への対応であった。しかし一方 で,「2020 年の最貧国脱却」を達成するには経済開発を止めることはできない。 事実,チュムマリー書記長が行った党大会の「政治報告」は,これまでと同様 に経済発展を最優先としつつも,社会開発に最大限配慮した内容となった。本 節ではまず大会に臨む党の現状認識を確認し,その上で,政治報告で示された 国家建設方針の全体像をみることにする。 1.党の現状認識 今大会では以下のようなスローガンが掲げられた。 「全ラオス人民の一枚岩的団結と党内統一を強化し,党の指導的役割と 能力を高める。刷新路線を執行する上での突破口となる段階を形成する。 2020 年に国家が貧困から脱却するための強固な基礎を建設する。引き続き 社会主義の目的に向かって前進する」(Eekasaan Koongpasum Nyai Khang Thii IX Phak Pasaason Pativat Lao [2011:10])。

以上のスローガンからは党の 2 つの認識が読みとれる。ひとつは,党が引 き続き社会主義国家建設を理想に据えていることである。これまでと同様に, ラオスは理想である社会主義に至る過程の途上で「2020 年の最貧国脱却」に 向かっていることが確認できる。もうひとつは,現状のままでは「2020 年の 最貧国脱却」が難しいということである。それは「刷新路線を執行する上での 突破口となる段階を形成する。2020 年に国家を最貧国から脱却させるために 強固な基礎を建設する」という部分に表れている。目標達成には現状を打破し, より強固な基盤の構築が必要ということである。つまり現状は思わしくなく, 党はある種の危機感を持って党大会に臨んだといえる。 当然この背景には汚職や格差などの問題がある。党がこれらの問題への対 応を重視していたことは大会参加者の構成からもわかる。表 2 は前回大会と 今大会における各分野の代表人数とその割合を示している。前回大会と比較す

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表 2 党大会参加者の内訳 第 8 回大会 第 9 回大会 代表数 498 人 576 人 党・大衆組織 271 人(54.4%) 333 人(57.8%) 国防・公安 97 人(19.5%) 99 人(17.2%) 経済 72 人(14.5%) 62 人(10.8%) 立法・司法・文化・社会 58 人(11.6%) 82 人(14.2%)

(出所)Eekasaan Koongpasum Nyai Khang Thii IX Phak Pasaason Pativat Lao [2011: 7], Eekasaan Koongpasum Nyai Khang Thii VIII Phak Pasaason PativatLao [2006: 7] をもとに筆者作成。 (注)参加者の所属分野は党発表にしたがっている。 表 3 過去 5 年間の成果 1.国家 ・独立,主権,領土を堅実に守り,政治体制は強固で安定し,社会は平静を保った。 2.経済・社会開発 ・平均経済成長率は 7.9%,1 人あたり GDP は約 870 万キープ(約 1069 ドル)となった。 ・貧困世帯率は 27.7%(2002 ~ 2003 年)から 20.4%(2009 ~ 2010 年)に縮小した。 ・株式市場が開設された。 ・工業化・近代化のための基本的諸要素が現れ,持続的かつ安定的に経済が成長した。 ・自然資源管理と環境保護を厳格化し,人材開発を重視し,社会分野についても適切な指導を行った。 ・教育改革は初期的成功を収めた。 3.政治・行政 ・法治国家建設という方針にもとづき国家機関や基層政治システムを改善し,政治システムが力強く安定し た。 ・国会が立法府として,また国民の利益の代表として積極的な役割を果たし,国民の信頼を醸成した。 ・地方行政機関が強化された。 ・行政手続きやサービスが改善した。 ・中央と地方部門の間の管理権限や協調メカニズムが明確になった。 ・国家建設戦線は在外ラオス人を含めさまざまな階層を貧困解決に動員した。 4.外交 ・全方位,多国間,多様なレベルでの関係拡大という方針に沿って,平和,独立,友好,協力の外交路線を 実施し,経済,文化,国防・治安維持の分野で大きな成功を収めた。 ・ベトナム社会主義共和国と多大なる友好関係,特別な団結,全面的協力関係を堅持した。今後特に若者が 美しい伝統を守り,発展させるのに必要な特別な団結に関する歴史的文献を編纂した。 ・ラオスと中国の両国人民間の友好と伝統的団結を強化し,安定かつ持続的で全面的な戦略的協力関係を強 化,促進した。 ・ASEAN 諸国との関係が緊密になっている。 5.政治思想・理論 ・政治思想,組織,指導様式を主体的に改善し,引き続き社会全体を領導している。 ・理論研究が改善し,レベルが向上している。 ・党中央と各級党委員会は人民や実際の業務と密接な指導を行っている。 ・検査業務が改善され,党,国家組織,社会における否定的現象を防ぎ解決している。

(出所)Eekasaan Koongpasum Nyai Khang Thii IX Phak Pasaason Pativat Lao [2011: 11-19] をもと に筆者作成。

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ると,党・大衆組織と立法・司法・文化・社会部門の参加者の割合が増加した 一方で,国防・公安,経済部門の代表の割合が低下していることがわかる。参 加者の内訳からは党が経済よりも社会問題への対応に配慮したことが窺える。 2.過去 5 年間の成果と問題点  党の悲観的認識は過去 5 年間の成果と問題点からも看取できる。成果は表 3 のように 5 つの分野にまとめられる。経済成長率は 7.9% と高成長を遂げ,貧 困世帯率も 7 年間で約 7 ポイント低下し,また,株式市場も開設されたこと で順調に開発が進んでいるようにみえる。一方政治についても,中央から末端 に至るまで政治システムが強化され,国会の改善は国民の信頼を醸成したとの 認識が示されている。表 3 からは過去 5 年間でラオスが大きな成果を収めた との印象を受ける。  しかし,表 4 の問題点をみると成果がさほど大きくないことがわかる。経 済成長が国民の収入向上に結びついていないこと,計画や財務規律違反があり 職権乱用や汚職について制度上の問題があること,天然資源開発に依存してい ること,階層間や都市と農村間の格差が拡大していること,経済開発と社会開 発のバランスがとれていないことなどが指摘されている。また,精神面の発達 が物質面の発展や社会変化に追いついておらず,国民が急速な社会変化に対応 できていないとの認識も示された。さらに,党内の紀律や道徳心が低下してお り,党内に多くの問題が存在することも認めた。 以上からわかるように,ミレニアム開発目標や 2020 年の目標を達成する には解決すべき問題があまりにも多い。かといって経済成長を止めることはで きない。では,経済開発と社会開発を両立させるため,どのような 5 カ年方 針が示されたのだろうか。 3.国家建設の新たなスローガン―「4 つの突破」― まず,党大会では表 5 のような 4 大目標が示された。特徴は,年間経済成 長率を 8%以上とし,貧困世帯率を 10 ポイント以上削減するなど意欲的な目 標を設定する一方で,国連ミレニアム開発目標の達成が明記されたように,社 会・文化開発と経済開発とのバランスに配慮している点である。これは,明ら かにこれまでの開発路線からの転換を意味する。また,持続的開発をこれまで

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表 4 過去 5 年間の問題点 1.貧困 ・第 8 回党大会決議の展開に対する指導,具体的なプロジェクト化が部分的に遅い。 ・商品作物生産を促進し世帯収入を向上させることを通じた貧困解決ができていない。 2.国防・国家建設 ・2 つの戦略的任務の執行は一部の分野で調和していない。 ・中央と地方部門,また一部の国民は,国防・治安維持業務に主体的に参加する自覚がない。 ・一部大都市における社会不安や否定的現象に対して,総力を費やして着実に解決がなされていない。 3.経済 ・経済成長はいまだに天然資源採掘・輸出に大部分を依存している。 ・農業生産性が低く加工業や軽工業の発展が小さい。 ・マクロ経済管理が厳格でなく計画や財務規律違反が拡大している。 ・商品生産と国民の協同経済は,税制,融資,市場などの政策支援を受けていない。 4.社会開発 ・社会開発は一部の分野で経済とバランスがとれていない。 ・精神面における文明化は,物質面における発展や社会変化とバランスがとれていない。 ・各階層間の収入格差が拡大傾向にある。 ・都市と農村,特に遠隔地との開発格差が大きい。 5.国家行政 ・国家管理や社会管理は多くの分野で厳格でなく法定どおりの効果をあげていない。 ・各級国家組織による市民への行政サービスの提供が不便で迅速でない。 ・一部の組織機構,規則,活動メカニズムが官僚主義的かつ不透明であり,職権乱用や汚職の抜け道となっ ている。 6.大衆組織 ・国家建設戦線やその他大衆組織は,国家機関と重複する活動内容や形式の改善に積極的でない。 7.外交 ・外国との各種合意事項の執行が遅い。有償プロジェクトや諸外国の活動に対する指導が統一的かつ集権的 に行われていない。 8.党 ・党建設や職員育成は一部で進んでおらず,新しい条件下での政治的任務と国家行政管理の要望に応えてい ない。 ・党内民主や党員の主人権の促進は明確な指導方針を欠き進んでいない。 ・省・国家機関内や地方の党委員会の一部は,民主集中原則を厳格に執行しておらず業務や責任も明確でな い。 ・やってもやらなくても良い状況が生じ,それが拡大傾向にある。 ・同志が同じ理想を共有するという精神にもとづき実施される党内での競争や,自己批判や相互批判が減少 している。 ・不正を働いた者に対する紀律処分が適宜実施されていない。 ・一部党員の政治的資質と革命的道徳心は退化し,浪費や職権乱用また汚職を行う者が少なくない。

(出所)Eekasaan Koongpasum Nyai Khang Thii IX Phak Pasaason Pativat Lao [2011: 11-19] をもと に筆者作成。 以上に強調している点も特徴といえる。 そして党は 4 大目標を実現するため,以下のような「4 つの突破」という スローガンを提示した。 ①思考面の突破 ②人材開発面の突破 ③行政・管理面の突破 ④人民の貧困問題を解決することにおける突破

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表 5 2015 年までの 4 大目標 1.政治 ・政治的安定を確固たるものにする。 ・国民の一枚岩的団結と民族間の融和・団結を堅固にする。 ・社会は平静で秩序を基本的に維持する。 2.経済 ・年間 GDP 成長率は 8%以上,1 人あたり GDP は 1700 ドルに到達する。 ・ 経済開発や環境保全,また社会・文化面の開発とのバランスをとり,持続的な開発に転換する。 ・工業化と近代化に転換する戦略を実施する。 3.貧困削減 ・2015 年には貧困世帯率は全世帯の 10%を超えない。 ・初等義務教育体制を完全に実現し,多くの市民が前期中等教育を修了する。 ・平均寿命は 68.3 歳となる。 ・国連ミレニアム開発目標(MDGs)を達成する。 ・国民の文化が素晴らしい価値を保ち,より豊かになるよう振興する。 4.外交 ・国際的に多くの友人を持ち,地域や国際統合プロセスに主体的に参加する。 ・地域や世界における平和,友好,開発協力事業に積極的に貢献する。

(出所)Eekasasn Koongpasum Nyai Khang Thii IX Phak Pasaason Pativat Lao[2011: 26-27] をもとに筆者作成。 具体的には,教条的で怠惰,かついい加減で極端な思想を解決し,党決議 を実現することにおいて創造性や勇気を持って考え,行動し,責任を負うとい う見解を促進すること(思考面の突破),開発の需要に見合う能力のある人材を 育成すること(人材開発面の突破),生産やサービスに支障をきたす抑圧的な行 政管理体制や規則の問題を解決すること(行政・管理面の突破),そして,多様 な資本を発掘し,人材とともに集中的に投入することで貧困問題を解決し,ま た,開発の促進剤となるような経済・社会インフラを建設すること(貧困分野

の突破)という説明がなされている(Eekasasn Koongpasum Nyai Khang Thii IX Phak Pasaason Pativat Lao [2011: 28])。

そして,このスローガンにもとづき,経済・社会開発における重点業務の 詳細が表 6 のように定められた。表からは,今後も経済開発を行っていくが, 環境や社会に配慮し社会開発を一層進めていこうとする党の意欲がみてとれ る。 重点業務に関する分析は,第 2 章(政治),第 3 章(経済),第 4 章(社会)で行っ ているので詳細は各論を参照されたい。以下では,なぜ第 9 回党大会で国家 建設の新たなスローガンが掲げられたのか,その意味について考えてみよう。 1986 年の第 4 回党大会では,国家建設を進め戦後脱却を達成するために「チ ンタナカーン・マイ」(新思考)というスローガンが掲げられた。今回の「4 つ

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表 6 今後 5 カ年の重点業務 経済 1.経済開発 ・自然経済を商品経済に転換し,社会主義の方針に沿った市場経済を建設する。 ・各経済部門が法の下で平等に活動できるよう法規や規則などの適切な調整を行う。 ・国有企業を育成する。合弁や株式会社化によって,また十分な条件を備える企業は株式市場に上場するこ とで近代化する。 ・国家経済基盤を強化し競争力を持つためにビジネス環境を一層改善する。 2.貧困解決 ・商品生産を促進し,農村開発を行うことで人民の貧困を基本的に解決する。 ・すべての部門が高い責任感をもって貧困解決にあたり,農村開発を長期の総合重点任務とする。 ・貧困解決で喫緊に重要なのは基礎インフラの拡大であり,農業商品生産に関する知識の提供である。 ・栽培や畜産,またサービスなどにおける優位性を拡大する。 ・貧困解決,2015 年のミレニアム開発目標達成のため,各経済部門(外資含)が貧困農村地域に投資する よう特別政策を研究し,施行する。 ・貧困地域,中央,県,郡の開発重点地域を明確に定める。なかでも,革命拠点地域,国防・治安維持重点 地域,自然資源や環境保護区,定住地や生活居住地分配地区を重視する。 ・開発重点地区において経済・文化の中心となる大規模村を農村における都市部にし,開発村建設を推進す る。 3.農林部門 ・協同農業を発展させ,食糧の安定,森林保全,再生,被覆率の向上,緑地の増加を図る。世界と協力して 温暖化と気候変動に対応する。 ・クリーンで,近代的で,生産性の高い農業に転換する。 ・灌漑システムの改善と持続的な水資源利用管理を行う。農業促進または農業開発センター,および,農業 グループを設置する。 ・農村における農家への土地分配と,長期の土地使用権付与に関する政策を継続的に執行する。 ・農業部門を近代化するため,灌漑や加工分野における大規模国家プロジェクトに着手する。 ・森林管理に配慮し,植林運動を拡大し,森林問題を解決する。 ・持続的な森林管理と木材加工ビジネスを行う。人民に建築場所と定住生活地を分配する。 4.近代化,工業化,資源 ・近代化と工業化への転換を実施し,資源をより効果的に配分し活用する。 ・条件が整い,能力や優位性を持つ部門や地域から実行する。 ・生産やサービスにおける生産性や質を向上し,原材料やエネルギーを節約する。新しい創造力を促進し, 環境や社会に優しい技術を活用し汚染を抑制する。 ・農林産品加工,各種エネルギー開発(森林・水資源保護をともなう水力発電,火力,バイオエネルギー, 太陽光エネルギー)を重視する。 ・国家開発に必要な初期資本獲得のために鉱工業開発を継続する。 ・多様な経済特区を建設し,原材料や労働力が豊富な地域を工場建設地にする。 ・中心が周辺地域の開発を誘発し徐々に格差を是正するような都市計画を研究する。 ・経済開発地帯マスタープランや近隣諸国との国境地域開発総合計画に主体的に参加する。 ・ 電信,通信,貿易,金融,銀行部門の工業化と近代化,自然・文化・歴史観光を促進し,地域の輸送ハブとなる。 5.国家管理 ・経済に対する国家管理能力と効率を上げ,規則や経済管理メカニズムを改善する。 ・中央の省・機関はマクロ管理(①党決議の展開・執行計画,開発戦略の作成,②部門別管理が完全になる ように政策や法律の改善,③レベル向上のための職員育成計画作成,④科学研究と新しい科学技術の普及, ⑤管轄範囲の法律や政策が正しく執行され良い結果を生み出しているかどうかの検査,評価)を行う。 ・市場経済の長所を伸ばすため国家が調整,管理し,否定的現象を抑制し,各分野のバランスを維持する。 ・地域間や持つ者と持たざる者の格差が拡大しないよう開発を分散させる。 ・合理的な所得分配,多くの人々が十分な生活を行えるよう公平で全面的な富の分配を行う。 社会・文化  1.教育・人材開発 ・ 調和と持続的開発を堅持するため,今後は教育制度開発と人材育成を社会・文化開発の中心業務とする。 ・ 職業労働者,技術者,専門家,エンジニア,管理・事務員,起業家やマネージャーなど各種人材の質を高 め,党・国家や社会全体の需要に応えられる十分な数を育成する。 ・経済構造や開発戦略に適合するよう各種職業訓練への各経済部門や階層の参加を促進する。 ・農村地域の人々を対象に非識字を解消し,また商品生産のための栽培や畜産に関する基礎知識の研修を行 う。

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・貧困解決とミレニアム開発目標達成のために教育を拡大する。 ・国家の知力を力強く向上させる。革命的思想や道徳,人生観,進歩的世界観を持つラオス人を育成し,国 文化の発展を継承し,諸民族の文化から価値あるものを吸収する。文明化した人間を形成する。 2.保健・衛生 ・ラオス人が強い身体を持ち,健康であるよう育成する。 ・病気の予防や健康促進とともに,質の良い全面的な公衆衛生サービスの提供という方針に沿って,保健政 策を実行する。 ・貧困者や機会に恵まれない者を対象に無料診療を行う。 ・山岳遠隔地域や農村に届くよう,公衆衛生サービスネットワークを拡大する。 ・首都やその他の大都市における近代的健康サービスを提供し,医療開発に民間の参入を促進する。 3.社会問題 ・失業,汚職,麻薬,所得格差,男女不平等,家庭内暴力,人身売買,その他の否定的問題など,社会問題 の解決に努力する。 ・社会問題のより良い解決は開発が良い成果を生むことにつながる。 4.労働・社会福祉 ・国家解放闘争や革命,国防や新体制建設事業において功績を収め,貢献した人々への報恩感謝政策を実行 する。 ・公務員やシニア革命家職員に対する給与や年金体制,またその他の政策を改善する。 ・貧困層や機会に恵まれない者に対する支援を拡充するため基金を設立する。

(出所)Eekasaan Koongpasum Nyai Khang Thii IX Phak Pasaason Pativat Lao [2011: 28-34] をもと に筆者作成。  表 6 のつづき の突破」というスローガンは 4 つの分野でそれぞれに大目標が定められてい るが,やはり「チンタナカーン・マイ」と同様に,抽象的な政治スローガンで あることに変わりない。 先述のように党は危機感を持って党大会に臨んだ。経済成長は順調だがそ れ以外の分野では開発が思ったほど進まず,「2020 年の最貧国脱却」に不安 が生じたのである。だからこそ,現状を打破しようと党大会のスローガンで「突 破」を掲げたのであろう。そして政治報告ではより具体的に思考,人材開発, 行政・管理,貧困解決の 4 つの分野における「突破」が掲げられた。まとめれば, これまでとは異なる新たな考えに沿って人材開発を進め,行政・管理メカニズ ムを改善し,貧困解決を達成しようということである。今後の国家建設の鍵と なる 4 つの分野で現状を打破し 2020 年の目標を達成するには,当然,党,国家, 国民のすべてが同じ目標に向かって進まなければならない。つまり,「チンタ ナカーン・マイ」を掲げ「新経済管理メカニズム」を推進し,国をあげて戦後 復興を目指したように,国全体で一致団結して 2020 年の目標を達成するため に,新たな政治スローガンが必要になったのである。それが今回提示された「4 つの突破」といえる。1979 年からはじまった改革の停滞を打開しようとした 1986 年と,2020 年の最貧国脱却に向けて閉塞的状況を打破しようとする現 在は,非常に似ているのである。ただ,今回は思考だけでなく人材開発,行政・

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管理,貧困解決面での突破も掲げられており,状況が 1986 年以上に複雑になっ ている点で異なっているといえよう。 すでに党大会直後から,党や各国家機関は「4 つの突破」に依拠しながら 具体的な政策を策定しはじめた。少なくとも今後 5 年間は,「4 つの突破」が ラオスを理解する上でのひとつの鍵となることは間違いない。

おわりに

本章では,これまでの国家建設過程を振り返るとともに,第 9 回党大会で 示された今後の国家建設方針の全体像を示した。そこから明らかになった点は 2 つある。第 1 は,ラオスは順調に経済発展を遂げる一方で,格差の拡大や土 地問題,また汚職や不正など経済成長の負の側面が拡大しかつ政治問題化して いること,第 2 は,第 9 回党大会において「経済成長至上主義」というこれ までの路線を修正し,新たな政治スローガンを掲げ社会開発への配慮を示した ことである。 ラオスは 1991 年の憲法制定を機に戦後を脱却し,貧困削減を最大の目標 に掲げ国家建設を進めてきた。1996 年の第 6 回党大会では「2020 年に最貧 国を脱却する」という具体的な期限が設定され,以降,資源・エネルギー部門 開発を中心に経済開発に邁進してきた。その結果,2006 ~ 2010 年の平均経 済成長率は 7.9% と 1990 年代以降でもっとも高くなったのである。しかし, 経済成長は国民の収入増にはさほどつながらず,また,経済開発を優先にした ため社会開発もなおざりにされてきた。そして近年は,このような開発路線に 対して党内外から疑問の声があがりつつあった。第 9 回党大会はこのような 状況のなかで開催されたのである。 党は第 9 回党大会の政治報告において,社会開発をなおざりにしてきたこ とを認め,経済と社会のバランスのとれた開発に転換するとの方針を示した。 そして,現状を打破し,国家建設を次の段階に進めるために「4 つの突破」と いう新たなスローガンを掲げたのである。第 9 回党大会は 2020 年までの途 上で開催されており,貧困削減による「2020 年の最貧国脱却」が大会の中心 テーマであることに変わりはない。しかし,これまでの路線を修正し新たなス

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ローガンを掲げたことは,「貧困削減時代」の国家建設がこれまでとは異なる 新たな段階に入ったことを示唆している。その意味で,第 9 回党大会は今後 のラオスを捉える上で重要な意味を持っているのである。 【注】 (1)具体的には,国有企業の自主性尊重,農民の個人的所有権の確保と個人的利益 の承認,補助金の撤廃と市場に即した価格体系の構築,現物支給の廃止や労働力 に適した給与体系の構築,均衡と利潤の獲得,国際分業への参加,非社会主義 国からの援助獲得と貿易関係の拡大,民間の活用などが提案されている (Kaysone [1979: 148-239])。 (2)世銀による試算である。世銀ウェブサイトを参照(http://siteresources.worldban k.org/INTLAOPRD/Resources/293582-1092106399982/492430-109210647 9653/492431-1214977916515/nt2_overview_website1.pdf, 2011 年 9 月 28 日アクセス)。 【参考文献】 <日本語文献> 杉本真一郎 [2010] 「ラオスにおける鉱業発展」(山田紀彦編「ラオス チンタナカー ン・マイ(新思考)政策の新展開―共同研究会中間報告―」アジア経済研究所 169-194 ページ)。 山田紀彦 [2009] 「2008 年のラオス 転換期を迎えた経済開発」(『アジア動向年報 2009』アジア経済研究所 233-250 ページ)。 ――― [2011a] 「2010 年のラオス ブアソーン首相,突然の辞任」(『アジア動向 年報 2011』アジア経済研究所 249-266 ページ)。 ――― [2011b] 「『チンタナカーン・マイ』を再考する―ラオスを捉える新たな視 座―」(山田紀彦編 『ラオスにおける国民国家建設―理想と現実―』研究双書 No.595 アジア経済研究所 3-47 ページ)。 山田紀彦/ケオラ・スックニラン [2008]「2007 年のラオス 政治の安定と進む経 済発展」(『アジア動向年報 2008』アジア経済研究所 251-266 ページ)。

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<ラオス語文献>

Eekasaan Koongpasum Nyai Khang Thii VI Khoong Phak Pasaason Pativat Lao [ ラオ ス人民革命党第 6 回大会文書 ] [1996].

Eekasaan Koongpasum Nyai Khang Thii VII Khoong Phak Pasaason Pativat Lao [ ラ オス人民革命党第 7 回大会文書 ][2001].

Eekasaan Koongpasum Nyai Khang Thii VIII Phak Pasaason Pativat Lao [ ラオス人民 革命党第 8 回大会文書 ] [2006].

Eekasaan Koongpasum Nyai Khang Thii IX Phak Pasaason Pativat Lao [ ラオス人民 革命党第 9 回大会文書 ][2011].

Kaysone Phomvihane [1979] Bot Laaygaan Laiat Too Koongpasum Khopkhana Khang Thii 7 Khoong Khana Boolihaangaan Suunkaang Phak Pasaason Pativat Lao Samay Thii 2 [ 第 2 期党中央執行委員会第 7 回総会への詳細報告 ]. ―――[1984] Bot Pakoop Khwaam Hen Khoong Sahaay Leekaa Thikaan Nyai

Kaysoon Phomvihaan Vaa Duay Viakgaan Datpaeng Konkai Khumkhoong Seetthakit (Nai Koongpasum Peutkwaang Khoong Saphaa Latthamontii Nai Vanthii 11 Kannyaa 1984) [1984 年 9 月 11 日閣僚議会拡大会議における書記 長カイソーン・ポムウィハーン同志の経済管理メカニズム修正業務に関する意 見 ].

――― [1986] Chintanaakaan Mai Lae Baephaen Viakgaan Mai Khoong Khana Boolihaangaan Suunkaang Phak Samay Thii IV [ 第 4 期党中央執行委員会の新思

考と新業務様式 ].

――― [1987] “Chut Pisaet Khoong Saphaapkaan Lae Naathii Nai Saphonaa” [ 当 面の状況と任務の特徴 ], Niphon Lueak Fen 2 [ 論文集 2], Vientiane: Samnak Chamnaai Soo Poo Poo Loo (ラオス人民民主共和国出版社), pp.1-33.

Saphaa Pasaason Suungsut ( 最 高 人 民 議 会 )[1991] Latthathammanuun Haeng Saathaalanalat Pasaathipatai Pasaason Lao [ ラオス人民民主共和国憲法 ]. Sathaaban Vithanyasaat Sangkhom Haeng Saat (国家社会科学アカデミー)[2010]

Pavatsaat Phak Pasaason Pativat Lao (Dooy Sang Kheep) [ ラオス人民革命党史 ( 概要 )], Sathaaban Vithanyasaat Sangkhom Haeng Saat .

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<新聞>

Pasaason.

<英語文献>

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―――[2003] “Key Indicators of Developing Asian and Pacific Countries 2003” (http://www.adb.org/Documents/Books/Key_Indicators/2003/pdf/LAO.pdf,

2012 年 1 月 5 日アクセス).

―――[2009] “Key Indicators for Asia and the Pacific 2009”(http://www.adb.org/ Documents/Books/Key_Indicators/2009/pdf/LAO.pdf, 2012 年 1 月 5 日アクセ ス).

Foreign Broad Cast Information Service (FBIS) [1991] Daily Report East Asia-EAS-162.

Stuart-Fox, Martin [1996] Buddhist Kingdom Marxist State: The Making of Modern Laos, Bangkok: White Lotus.

The Government of Lao PDR and UN [2008] Millennium Development Goals: Progress Report Lao PDR 2008.

<ウェブサイト> 外 務省  http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/doukou/mdgs/about.html#goals. 国際連合広報センター http://unic.or.jp/mdg/goal.html. 国連開発計画駐日代表事務所 http://www.undp.or.jp/aboutundp/mdg/. 世界銀行 http://siteresources.worldbank.org/INTLAOPRD/Resources/293582-10 92106399982/492430-1092106479653/492431-1214977916515/nt2_ overview_website1.pdf.

表 1 ラオスにおける国連ミレニアム開発目標の進捗状況(2008 年) 目標 達成可能性が極め て低い おそらく不可能 達成可能 目標設定なし データ格差あり 目標 1 極度の貧困と飢餓の撲滅           ・2015 年までに 1 日 1 ドル未満で生活 する人口の割合を半数に減少させる     ●     ・2015 年までに飢餓に苦しむ人口の割 合を半減させる ●         ・すべての人々に,完全かつ生産的な雇 用,またきちんとした仕事の提供を実 現する       ●   目標 2 普遍
表 2 党大会参加者の内訳 第 8 回大会 第 9 回大会 代表数 498 人 576 人 党・大衆組織 271 人(54.4%) 333 人(57.8%) 国防・公安 97 人(19.5%) 99 人(17.2%) 経済 72 人(14.5%) 62 人(10.8%) 立法・司法・文化・社会 58 人(11.6%) 82 人(14.2%)
表 4 過去 5 年間の問題点 1.貧困 ・第 8 回党大会決議の展開に対する指導,具体的なプロジェクト化が部分的に遅い。 ・商品作物生産を促進し世帯収入を向上させることを通じた貧困解決ができていない。 2.国防・国家建設 ・2 つの戦略的任務の執行は一部の分野で調和していない。 ・中央と地方部門,また一部の国民は,国防・治安維持業務に主体的に参加する自覚がない。 ・一部大都市における社会不安や否定的現象に対して,総力を費やして着実に解決がなされていない。 3.経済 ・経済成長はいまだに天然資源採掘・輸出に
表 5 2015 年までの 4 大目標 1.政治 ・政治的安定を確固たるものにする。 ・国民の一枚岩的団結と民族間の融和・団結を堅固にする。 ・社会は平静で秩序を基本的に維持する。 2.経済 ・年間 GDP 成長率は 8%以上,1 人あたり GDP は 1700 ドルに到達する。 ・ 経済開発や環境保全,また社会・文化面の開発とのバランスをとり,持続的な開発に転換する。 ・工業化と近代化に転換する戦略を実施する。 3.貧困削減 ・2015 年には貧困世帯率は全世帯の 10%を超えない。 ・初等義務教育体制を
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