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教員用児童の精神疾患症状への対応尺度の開発

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教員用児童の精神疾患症状への対応尺度の開発

著者

竹森 啓子, 上田 紗津貴, 佐藤 寛

雑誌名

関西学院大学心理科学実践

2

ページ

1-7

発行年

2021-03-31

URL

http://hdl.handle.net/10236/00029538

(2)

問題と目的

児童のメンタルヘルスの問題に対して,発達障害やう つ病(Mood Depression Disorder:以下,MDD とする) を中心に学校内で早期発見,早期対応を促す取り組みが 行われてきた。障害を抱える子どもへの支援としては平 成 19 年度から特別支援教育が始まり,平成 26 年度には 文部科学省による「発達障害の可能性のある児童生徒に 対する早期支援・教職員の専門性向上事業」として教員 が発達障害に関する専門的・実践的知識を有するための プログラムの開発も行われた(文部科学省,2014)。ま た厚生労働省は「こころもメンテしよう」という取り組 みの中で MDD,不安症などの精神疾患について取り上 げ,教職員や保護者に対して初期症状や症状に気付いた 場合の対処法を紹介している(厚生労働省,2011 a, b)。 一方で,反抗挑発症など攻撃行動を伴う精神疾患をは じめとし,早期発見・対応の取り組みについてまだ整備 がなされていない精神疾患も多い。児童の暴力行為の発 生件数は毎年増加しており,令和元年度には 4 万件を超 えた(文部科学省,2020)。文部科学省により平成 22 年 度に暴力行為のない学校づくりが推進されたが,暴力行 為の背景として想定されているものは発達障害,ストレ ス,愛着の 3 つであり,反抗挑発症(Oppositional Defi­ ant Disorder;以下,ODD とする)といった精神疾患は 想定されていない(文部科学省,2011)。 メンタルヘルスの問題を呈した児童への対処法を教員 が知っていることで児童のメンタルヘルスの問題が低減 する可能性がある。MDD,不安症,ODD,自閉スペク トラム症(Autism Spectrum Disorder:以下,ASD とす る),注 意 欠 如・多 動 症(Attention­Deficit/Hyperactivity Disorder:以 下,ADHD と す る)の 5 つ の 疾 患 に つ い て,これらの症状を示す児童への対応を知っていると教 員が認知するほど,その教員が担任する学級に在籍する 児童の不安が低いことが示された(竹森・下津・佐藤, 2018)。しかし教員が知っている対応とは具体的にどの ような内容を示すのかは未検討である。 以上のように,児童の精神疾患の初期症状に対する学 内での早期対応の必要性が指摘されているが,実際の教 員の対応の実態とその有効性は検討されていない。小学 校,中学校,特別支援学校に勤務する教員の 36.1% は 発達障害や日本語指導等を含む特別な支援が必要な児童 への対応方法が分からないと感じている(横浜市教育委 員会事務局,2019)。また抑うつ症状等を示した児童に は傾聴が促されているものの(厚生労働省,2011 a), それらがどれほど行われているかの実態は不明である。 学内での教員による早期対応の実態を把握するための 測定方法は確立されていない。これまで教員の行動は児 童生徒の教員への信頼感に影響するものとして捉えられ 研究されてきた。村上・鈴木・坂口・櫻井(2013)は児 童が信頼感を持つ教員の行動について,担任教員がどの 程度当てはまるかを児童が回答する尺度を作成した。ま た,佐竹(2003)は高校生とその教員を対象に,教員へ

教員用児童の精神疾患症状への対応尺度の開発

竹森 啓子

・上田紗津貴

・佐藤

**

抄録:本研究は教員用児童の精神疾患症状への対応尺度(Coping with Children’s Mental Illness Symptoms Scale for Teachers : CCMT)の開発を目的とした。予備調査では教員 3 名に半構造化面接をした。うつ病, 社交不安症,反抗挑発症,自閉スペクトラム症(ASD),注意欠如・多動症(ADHD)の DSM­5 の診断基準 をそれぞれ満たす児童の架空事例への担任教員としての対応を尋ね,回答から予備項目を作成した。本調査 では小学校教員への質問紙調査を実施し,架空事例に対して予備項目の行動をすると思う程度を 6 件法で尋 ねた。主因子法による探索的因子分析の結果,すべての疾患について 17­23 項目の 1 因子構造が示された。 保護者,学内,専門機関との連携に関する項目がすべての疾患に含まれた。ASD と ADHD には対応しな い,対応できないという逆転項目が含まれた。本尺度により児童が精神疾患様症状を呈した際の教員が取り 得る行動を量的に測定することが可能となった。しかし内的一貫性と内容的妥当性は確認されたが,その他 の信頼性と妥当性は今後新たに検討が必要である。 キーワード:児童,精神疾患症状,教員の対応 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― * 関西学院大学大学院文学研究科博士課程後期課程 ** 関西学院大学文学部教授 関西学院大学心理科学実践 Vol. 2 2021. 3 1

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の信頼感が生起する教員の行動を測定する尺度を作成し た。しかしいずれも教員への信頼感に着目しているた め,授業が分かりやすい,楽しい,教員が優しい,教員 が厳しいなど,児童生徒の精神疾患の症状への早期対応 とは異なる行動が測定されている。 以上より,本研究は精神疾患の症状を呈した児童への 教員の対応を測定する方法を開発することを目的とす る。なお,本研究で扱う精神疾患の種類は竹森・下津・ 佐藤(2018)で使用された尺度(竹森・下津・石川・神 尾,2017)に倣い,MDD,不安症,ODD, ASD, ADHD の 5 種類とした。また DSM-5(American Psychiatric As-sociation, 2013)の不安症群の中には複数の疾患が含ま れるが,児童が発症しても学内では見逃される可能性の ある社交不安症(Social Anxiety Disorder:以下,SAD とする)に着目した。

方 法

予備調査 架空事例の作成

DSM-5(American Psychiatric Association, 2013)にお ける MDD, SAD, ODD, ASD, ADHD のそれぞれの診断

基準を満たす児童の事例を 5 つ作成した。これらの事例 について,心理学を専攻する博士課程院生 1 名と臨床心 理学を専門とする大学教員 2 名が 2 つの基準をすべて満 たすと判断するまで,架空事例の修正を繰り返した。基 準は(1)該当の診断を疑うこと,(2)架空事例のよう な児童は現実の学校場面に存在しうることの 2 点であっ た。なお,3 名ともに学校での心理支援の経験者であ り,公認心理師および臨床心理士の資格を有していた。 架空事例を Table 1 に示した。 半構造化面接 小学校教員と小学校教員経験を有する教育センター職 員 計 3 名(女 性 3 名,平 均 年 齢 51.67 歳,SD =10.12 歳,平均教員経験年 数 21.00 年,SD =5.20 年)を 対 象 に個別の半構造化面接を実施した。半構造化面接では事 例を 1 つずつ順に提示し,担任としてこの児童にどのよ うに対応するかについて自由回答を求めた。次に新人教 員ならどのような対応をすると思うか,および自分が新 人の頃ならどのように対応していたと思うかについて自 由回答を求めた。いずれの段階でも,具体的な行動やそ の行動の意図が明確になるように質問を追加した。半構 Table 1 架空事例 疾患 児童の属性 架空事例 うつ病 A さん 小学校 5 年生 (11 歳) 女子 あなたの担任するクラスの児童の A さんは,最近 1 ヶ月ほど,ずっと落ち込んだ様 子で,欠席も増えてきました。授業中はそわそわと落ち着かず,集中できていないよ うです。休み時間も,以前は友人と楽しそうに過ごしていたにもかかわらず,何にも 興味を示さずほとんど一人で過ごしています。給食の時間も,以前に比べてあまり食 べていません。 社交不安症 B さん 小学校 6 年生 (12 歳) 女子 あなたの担任するクラスの児童の B さんは,最近半年ほど,発表のある授業で緊張 している様子が見られます。以前から発表の場では緊張していましたが,B さんなり に頑張っていました。しかし最近はみんなの前に立つと黙ってしまいます。休み時間 も,クラスの友人に話しかけられてもビクビクしていて,うまく会話に入ることがで きません。 反抗挑発症 C さん 小学校 6 年生 (12 歳) 男子 あなたの担任するクラスの児童の C さんは,両親と姉との 4 人家族です。最近 1 年 ほど,C さんが怒ることが多くなりました。特にこの半年間は週に 1∼2 回は教員に 反抗したり,クラスの友人と喧嘩をしています。日常的にイライラしている状態も増 え,少しのことで怒ったり,クラスのルールをわざと破ることもあります。 自閉スペク トラム症 D さん 小学校 5 年生 (11 歳) 男子 あなたの担任するクラスの児童の D さんは,クラスの友人の輪に入らず,休み時間 も一人で遊んで過ごすことが多いです。あなたやクラスメートが話しかけても,目を 合わせることは少なく,的外れな答えが返ってくることがしばしばあります。授業中 は D さんなりに頑張っていますが,授業のスピードを無視してマイペースに進めて います。例えば,国語の時間に漢字ドリルが終わって皆は教科書を開いて読んでいる にも関わらず,D さんは気にせずに漢字ドリルを続けます。 注意欠如・ 多動症 E さん 小学校 6 年生 (12 歳) 男子 あなたの担任するクラスの児童の E さんは,他の児童に比べて落ち着きがないよう に見えます。忘れ物や失くし物が多く,特に提出物の締め切りが守られることは少な いです。机の整理もできていません。授業中は集中できておらず,そわそわしている ことが多いです。テストもケアレスミスが多く見られます。休み時間は校庭で体を動 かして遊ぶことが多いようです。しかし順番を守ることができずに友人とトラブルが 起こることもあります。一方で話すことも好きなようで,あなたやクラスメートと話 していると,E さんは話し続けたり,相手の話をさえぎってしまうこともあります。 これらは最近に限ったことではなく,少なくとも半年以上は続いています。 関西学院大学心理科学実践 2

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造化面接の実施者は公認心理師および臨床心理士の資格 を有する大学院生 1 名と心理学を専攻する大学 4 年生 1 名であった。 実施時期 半構造化面接は 2019 年 2 月に実施した。 予備項目の作成 半構造化面接の結果を学校での心理支援の経験と公認 心理師および臨床心理士の資格を有する大学院生 2 名で 整理し,予備項目を作成した。その際,同じ行動であっ ても意図が異なる場合は異なる項目として分類し,意図 が明確になるよう項目を作成した。この手続きにおいて 本尺度には内的妥当性があると判断した。各疾患の項目 数は 24-27 項目であった。 本調査 対象者 小学校教員 79 名(男性 36 名,女性 40 名,性別未記 入 3 名,平均年齢 32.36 歳,SD =9.25 歳,年齢未記入 3 名,平均教員経験年数 9.76 年,SD =8.76 年,経験年数 未記入 3 名)を対象とした。 調査材料 フェイス項目 性別,年齢,小学校教員経験年数を尋 ねた。 教員 用 児 童 の 精 神 疾 患 症 状 へ の 対 応 尺 度(Coping

with Children’s Mental Illness Symptoms Scale for Teachers : CCMT) 半構造化面接と同様の架空事例を 提示し,それぞれについて以下の 3 点を尋ねた。1 点目 は,架空事例の児童には何か診断がつくと思うかどうか を 2 件法で尋ねた。診断がつくと思うと回答した場合に はその診断名を尋ねた。2 点目は架空事例のような児童 を担任したことがあるかどうかを 2 件法で尋ねた。3 点 目に予備調査で作成した予備項目について,架空事例の 児童に対してその行動をどの程度すると思うかを 6 件法 で回答を求めた。項目数は MDD 症状への対応(CCMT -MDD)が 24 項 目,SAD 症 状 へ の 対 応(CCMT-SAD) が 25 項目,ODD 症状への対応(CCMT-ODD)が 27 項 目 , ASD 症 状 へ の 対 応 ( CCMT-ASD ) が 25 項 目 , ADHD 症状への対応(CCMT-ADHD)が 25 項目であっ た。 調査時期 調査は 2019 年 9 月から 11 月に実施された。 手続き 調査の趣旨を学校管理職に説明し,学校長から調査協 力の同意を得られた小学校に勤務する教員に質問紙を配 布した。教員には質問紙と封筒を配布し,各自で質問紙 に回答した後,回答済み質問紙を封筒に封入するよう求 めた。学校管理職により回答済み質問紙を封入した封筒 が回収され,学校ごとに著者へ郵送された。回答の提出 を持って調査協力に同意が得られたとみなした。 倫理的配慮 調査は無記名で実施され,回答は強制でないこと,無 回答による不利益はないことを質問紙表紙に明記した。 また,本研究は関西学院大学人を対象とする行動学系研 究倫理委員会の承認を得て実施された。 結 果 分析対象者 調査対象者の内,回答漏れや記入漏れのない小学校教 員 72 名(男性 33 名,女性 37 名,性別未記入 2 名,平 均 年 齢 32.77 歳,SD =8.43 歳,年 齢 未 記 入 2 名,平 均 教員経験年数 9.19 年,SD =7.63 年,経験年数未記入 2 名)を分析対象とした。 以降の分析は尺度ごとに分析を実施した。それぞれの 分析対 象 者 は CCMT-MDD は 69 名(平 均 年 齢 32.81± 8.51 歳),CCMT-SAD は 66 名(平 均 年 齢 32.66±8.30 歳),CCMT-ODD は 65 名(平 均 年 齢 32.70±8.64 歳), CCMT-ASD は 65 名(平均年齢 32.70±8.64 歳),CCMT -ADHD は 65 名(平均年齢 32.70±8.64 歳)であった。 診断名の正答率 各架空事例に対して何らかの診断がつくと思うと回答 し た 教 員 は MDD で 30%,SAD で 45%,ODD で 37 %,ASD で 75%,ADHD で 86% で あ っ た。分 析 対 象 者に対する診断名の正答率は MDD で 12%,SAD は 0 %,ODD で 2%,ASD で 42%,ADHD で 58% で あ っ た1。誤答例としては MDD は「診断はつくと思うが分 からない」,ODD は「発達障害」,ASD は「学習障害」, ADHD は「知的障害」が多かった。SAD は「場面かん 黙」と回答する者が多く,「不安症」と回答する者もい なかった。 精神疾患様症状を呈する児童の担任経験の有無 各架空事例と同様の症状を呈した児童を担任した経験 がある教員は MDD で 36%,SAD で 35%,ODD で 69 %,ASD で 66%,ADHD で 86% であった。 因子構造の検討 本尺度の因子構造を検討するため,尺度ごとに探索的 因子分析(主因子法)を実施した。因子負荷量が.40 を下回る項目は削除し因子分析を繰り返した結果,すべ 3 教員用児童の精神疾患症状への対応尺度の開発

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ての疾患について 1 因子構造が示された。結果の詳細を 疾患ごとに以下に示す。また,各尺度の平均値を Table 2 に,変数間相関を Table 3 に示した。なお,尺度ごと に項目数が異なるため,各項目の合計得点を項目数で除 算した値を尺度得点とした。 CCMT-MDD 因子分析の結果を Table 4 に示した。 24 項目の予備項目から 17 項目が採用された。17 項目の うち 13 項目は保護者や学内,専門機関との連携に関す る項目であった。3 項目は児童本人に困り感を尋ねる内 Table 2 各尺度の記述統計 n 平均値 標準偏差 抑うつ症状への対応 社交不安症への対応 反抗挑発症への対応 自閉スペクトラム症への対応 注意欠如・多動症への対応 69 64 65 65 66 4.95 4.63 4.91 4.94 5.07 0.65 0.70 0.68 0.70 0.71 Note.平均値は合計得点を項目数で除算した値。 Table 3 各尺度の変数間相関 性別 年齢 経験年数 診断名正誤 うつ病 性別(0=男性,1=女性) 年齢 経験年数 診断名正誤(0=誤答,1=正答) CCMT-MDD − −.05 .01 −.12 .23† − .93*** −.00 −.20 − .02 −.14 − .30* 社交不安症 性別(0=男性,1=女性) 年齢 経験年数 診断名正誤(0=誤答,1=正答) CCMT-SAD − −.11 −.05 − .01 − .93*** − −.17 − − −.10 − − 反抗挑発症 性別(0=男性,1=女性) 年齢 経験年数 診断名正誤(0=誤答,1=正答) CCMT-ODD − −.09 −.02 −.14 −.04 − .94*** .11 −.15 − .06 −.12 − .13 自閉スペクトラム症 性別(0=男性,1=女性) 年齢 経験年数 診断名正誤(0=誤答,1=正答) CCMT-ASD − −.08 −.00 .10 −.09 − .94*** .08 .02 − .13 .08 − .21† 注意欠如・多動症 性別(0=男性,1=女性) 年齢 経験年数 診断名正誤(0=誤答,1=正答) CCMT-ADHD − −.07 .01 −.02 .02 − .93*** −.10 −.13 − .04 −.02 − .45*** Note.社交不安症の診断名正答者は 0 名のため相関係数は算出できなかった;CCMT=教員用児童 の精神疾患症状への対応尺度。 †p<.10, *p<.05, ***p<.001 Table 4 抑うつ症状への対応の因子分析結果 項目 因子負荷量 9 12 22 11 21 10 14 7 5 8 6 13 18 3 1 2 20 他の教員に A の様子を伝える 他の教員に A について相談する 他の教員と協力して対応する 管理職に A の様子を伝える 保護者と協力して対応する 養護教諭に A の様子を伝える 管理職に A について相談する 他の教員に A の様子を聞く 保護者に A の家庭での様子について聞く 養護教諭に A の様子を聞く 保護者に A の学校での様子を伝える 養護教諭に A について相談する 良いところ,出来ていることを積極的に褒める A を呼んで友人関係について困っていることを聞く A を呼んで家について困っていることを聞く A を呼んで学校について困っていることを聞く 専門機関と連携する .846 .812 .800 .768 .764 .757 .743 .738 .737 .720 .664 .643 .548 .501 .491 .484 .431 関西学院大学心理科学実践 4

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容であった。残り 1 項目は「良いところ,出来ているこ とを積極的に褒める」という賞賛に関する項目だった。 CCMT-SAD 結果を Table 5 に示した。予備項目 25 項目から 18 項目が採用された。そのうち 17 項目は連 携,児童本人への聴取,賞賛に関する CCMT-MDD と 同様の項目が含まれた。1 項目は「他の児童から見た B の様子について聞く」という他の児童からの聴取の項目 であった。なお B とは架空事例で示した児童の名前を 指す。 CCMT-ODD 結果を Table 6 に示した。27 項目の予 備項目から 19 項目が最終的に採用された。CCMT-MDD や CCMT-SAD と同様に連携に関する 13 項と賞賛に関 する 1 項目が含まれた。児童本人への聴取は 1 項目のみ であり,他の 4 項目はクールダウンに関すること,アセ スメントに関すること等であった。 CCMT-ASD 結果を Table 7 に示した。予備項目 25 Table 5 社交不安症状への対応の因子分析結果 項目 因子負荷量 9 22 12 5 14 11 7 10 6 2 8 3 13 21 20 4 1 18 他の教員に B の様子を伝える 他の教員と協力して対応する 他の教員に B について相談する 保護者に B の家庭での様子について聞く 管理職に B について相談する 管理職に B の様子を伝える 他の教員に B の様子を聞く 養護教諭に B の様子を伝える 保護者に B の学校での様子を伝える B を呼んで学校について困っていることを聞く 養護教諭に B の様子を聞く B を呼んで友人関係について困っていることを聞く 養護教諭に B について相談する 保護者と協力して対応する 専門機関と連携する 他の児童から見た B の様子について聞く B を呼んで家について困っていることを聞く 良いところ,出来ていることを積極的に褒める .803 .793 .770 .761 .758 .730 .712 .699 .694 .694 .691 .652 .651 .649 .583 .524 .457 .403 Table 6 反抗挑発症症状の対応の因子分析結果 項目 因子負荷量 10 7 3 5 9 19 12 20 25 4 8 11 24 6 18 16 21 1 27 他の教員に C について相談する 他の教員に C の様子を伝える 保護者に C の家庭での様子について聞く 他の教員に C の様子を聞く 管理職に C の様子を伝える 保護者と協力して対応する 管理職に C について相談する 他の教員と協力して対応する 落ち着ける別の場所(クールダウンスペース)を作る 保護者に C の学校での様子を伝える 養護教諭に C の様子を伝える 養護教諭に C について相談する どんな場面で,何が気に入らないのかを観察する 養護教諭に C の様子を聞く 専門機関と連携する 良いところ,出来ていることを積極的に褒める 先生(自分)に相談するよう C に伝える C に何が気に入らないのかを聞く クラス全体で,道徳的な授業や読み聞かせ の時間を設ける .862 .852 .811 .786 .765 .764 .762 .741 .730 .664 .650 .644 .636 .618 .514 .502 .450 .441 .412 Table 7 自閉スペクトラム症症状の対応の因子分析結果 項目 因子負荷量 7 10 20 19 5 9 3 6 8 12 24 11 4 21 16 18 14 15 23 13 2 22 他の教員に D の様子を伝える 他の教員に D について相談する 他の教員と協力して対応する 保護者と協力して対応する 他の教員に D の様子を聞く 管理職に D の様子を伝える 保護者に D の家庭での様子について聞く 養護教諭に D の様子を聞く 養護教諭に D の様子を伝える 管理職に D について相談する 記録を調べる 養護教諭に D について相談する 保護者に D の学校での様子を伝える これまでの D への対応を参考にする 良いところ,出来ていることを積極的に褒める 専門機関と連携する どうしていいか分からず,何もできない(しない) D の様子に気づかず,何もできない 授業中に「今は〇〇の時間だよ」と声を掛ける 何もしない(良くなることを待つ) 他の児童から見た D の様子について聞く D のペースに合わせて見守る .862 .843 .830 .802 .797 .792 .790 .766 .756 .756 .730 .720 .678 .677 .638 .599 .559 .550 .549 .503 .460 .447 Table 8 注意欠如・多動症症状の対応の因子分析結果 項目 因子負荷量 6 9 19 8 4 5 10 18 3 7 25 23 11 24 20 15 21 2 22 17 13 12 14 他の教員に E の様子を伝える 他の教員に E について相談する 他の教員と協力して対応する 管理職に E の様子を伝える 他の教員に E の様子を聞く 養護教諭に E の様子を聞く 養護教諭に E について相談する 保護者と協力して対応する 保護者に E の学校での様子を伝える 養護教諭に E の様子を伝える 持ち物に名前を書くなどの対策をする 指示を短く,具体的に,分かりやすくする 管理職に E について相談する 自分が手本を見せる 席を前方にする,温厚な児童の近くにする など,席を調整する 良いところ,出来ていることを積極的に褒める 本人の視界に入る物を少なくする 保護者に E の家庭での様子について聞く 授業中は静かにする等クラスのルールを作る 専門機関と連携する どうしていいか分からず,何もできない(しない) 何もしない(良くなることを待つ) E の様子に気づかず,何もできない .880 .846 .820 .800 .797 .784 .778 .763 .752 .740 .734 .721 .720 .660 .651 .634 .616 .609 .606 .602 .572 .539 .409 5 教員用児童の精神疾患症状への対応尺度の開発

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項 目 の う ち 22 項 目 が 最 終 的 に 採 用 さ れ た。CCMT-MDD, CCMT-SAD, CCMT-ODD と同様の連携に関する 13 項目と,他児からの聴取と賞賛の各 1 項目が含まれ た。他は以前の記録を調べる項目などが含まれた。一方 で本人への聴取に関する項目は含まれなかった。また, 対応しない,対応できないという逆転項目が 3 項目含ま れた。 CCMT-ADHD 結果を Table 8 に示した。25 項目の 予備項目から 23 項目が採用された。他の尺度と同様に 連携に関する 13 項目,賞賛に関する 1 項目が含まれた。 また CCMT-ASD と同じ対応しない,対応できないとい う逆転項目は含まれた一方で,本人や他児からの聴取の 項目は含まれなかった。他の項目は席の調整や視界に入 るものを少なくするといった環境調整に関する項目や, 指示やルールの工夫に関する項目など,具体的な対応方 法の項目が含まれた。 信頼性の検討 本尺度の信頼性の検討のため,α 係数を算出した。そ の 結 果,CCMT-MDD が α=.93, CCMT-SAD が α=.93, ODD が α=.93, ASD が α=.92, CCMT-ADHD が α=.93 であった。このことから,本尺度は内 的一貫性を有することが示された。 考 察 本研究は精神疾患様症状を呈した児童への教員の対応 の測定方法を開発することを目的とした。結果,MDD, SAD, ODD, ASD, ADHD それぞれの症状を呈した児童 への対応を測定する尺度が作成され,一定の信頼性と妥 当性を有することが示された。これらはすべて 1 因子構 造であった。保護者,学内,専門機関との連携に関する 項目と賞賛に関する項目はすべての尺度で共通して構成 された。他に尺度間で類似するものとして,児童本人や 他児からの聴取,賞賛に関する項目はほとんどの尺度に 含まれ た。一 方 で ASD と ADHD の み に 対 応 し な い, 対応できない旨の項目が含まれた。また ADHD には環 境調整など他の尺度より具体的な対応が含まれた。 すべての尺度に連携に関する項目が構成されたことか ら,連携は児童への対応として教員に広く認知されてい ることが示された。児童のメンタルヘルスの問題への対 応として各所との連携はこれまでも厚生労働省(2011 a)により推奨されている。 賞賛に関する項目もすべての尺度に共通して含まれて おり,教員は賞賛を積極的に使用していることが示され た。こころもメンテしよう(厚生労働省,2011 a)の中 で子どもと向き合うポイントとして自尊心を高めるため のサポートを紹介している。賞賛に関する項目は「良い ところ,出来ていることを褒める」であり,半構造化面 接の中では対象児に自信を持ってもらうためにこの行動 をするという回答が得られた。このことから,賞賛もメ ンタルヘルスの問題を呈した児童への対応として推奨さ れており,教員の中でも認知されている対応であること がうかがえる。 CCMT-ASD と CCMT-ADHD の み,対 応 し な い,対 応できない旨の項目が含まれた。MDD, CCMT-SAD, CCMT-ODD の同項目は因子負荷量が低かった。 すなわち発達障害児への対応をしないことは不適切であ ると教員が認識している可 能 性 が あ る。文 部 科 学 省 (2014)による教員が発達障害に関する専門的・実践的 知識を有するためのプログラム等の取り組みから,発達 障害の症状への対応が広く認知されていると考えられ る。MDD, SAD, ODD の症状への対応の普及のために同 様のプログラムの開発が有用かもしれない。

CCMT-ODD, CCMT-ASD, CCMT-ADHD には具体的な 対応が含まれた一方で,CCMT-MDD と CCMT-SAD は 連携,賞賛,聴取以外の項目は含まれなかった。発達障 害児に対する指示の出し方は合理的配慮の例として文部 科 学 省(2010)が 呈 示 し て い る。そ の 中 に は CCMT-ODD の項目でもあるクールダウンスペースの確保も含 まれている。ODD の架空事例の診断名として発達障害 を回答した教員も一定数おり,DSM-5 においても ODD と ADHD は鑑別診断に含まれるほど症状が類似してい る。そのため,発達障害児への対応として推奨される クールダウンが ODD を抱える児童にも応用されている 可能性がある。一方で MDD 症状と SAD 症状は児童本 人や周りの児童から話を聞くという対応が取られやすい 可能性が示唆された。これは厚生労働省(2011 a)が推 奨している方法である。すなわち,教員は文部科学省や 厚生労働省から推奨されている対応を各症状に合わせて 選択している可能性が示唆された。 事例の診断名について,発達障害は比較的正答率が高 い一方で,SAD を正答した教員はいなかった。6-11 歳の 子どもの不安症の推定有病率は 6.6% であり(Ghandour et al., 2019),本研究の対象者の内 35% の教員が SAD の架空事例のような児童を担当した経験を持つなど,不 安症のような症状を訴える児童は珍しくない。このこと から,児童の SAD は決して珍しくはないものの,教育 現場では正しい知識が定着していない可能性がある。教 員が児童の発達障害を理解するための取り組みは複数さ れている一方で,MDD や不安症といった精神疾患に関 する理解を促進する取り組みはほとんどなされていな い。小学校で起こりうる症状や疾患に対する知識の普及 のための取り組みが引き続き必要かもしれない。 本研究の限界点は,2 点挙げられる。第一に,サンプ ルサイズの問題である。尺度作成には項目数の 7 倍の人 数のデータが必要であるが(Mokkink et al., 2019),本 関西学院大学心理科学実践 6

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研究は 24-27 項目に対して 65-69 名のデータで分析を実 施した。このことから,本研究結果は慎重に解釈すべき である。今後は十分なサンプルサイズで因子構造につい て再度検討することが望ましい。

第二に,信頼性と妥当性の検討が不十分であることが 挙 げ ら れ る。COSMIN(COnsensus-based Standards for the selection of health Measurement INstruments : de Vet, Terwee, Mokkink, & Knol, 2010)では信頼性と妥当性を 複数の観点から検討することが推奨されている。本研究 では信頼性は内的一貫性,妥当性は内容的妥当性のみの 検討にとどまっているため,本尺度の信頼性と妥当性は 再検討が必要である。 本研究の意義は教員による児童への対応を測定できる 可能性を示した点にある。今後はこれらの対応により児 童のメンタルヘルスにどのような影響があるのか等,実 際に現場で有効,有用な対応の検討が望まれる。 注 1 DSM-5 の正式名称以外に通称等も正答とした。 具体的には MDD は「うつ」,ODD は「反抗・挑 戦性障害」,ASD は「アスペルガー症候群」,「広 汎性発達障害」,「高機能自閉症」,「自閉症」,「自 閉 傾 向」,そ の 他「自 閉」が 含 ま れ る 表 記, ADHD は「注意欠陥多動性障害」,「注意欠陥障 害」,「ADHD」を正答とした。 引用文献

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7 教員用児童の精神疾患症状への対応尺度の開発

参照

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