は じ め に 一般的に腎機能代替療法において血液浄化回路の 凝固を予防するため抗凝固薬は必須であるが,出血 性合併症への配慮は常に必要である。とくに,集中 治療を要する患者は,慢性透析患者と比較して血管 内皮障害や凝固異常が併存することが多く,出血性 合併症の危険性はより高くなる1)。以上の点から, 著者らは 2014 年 1 月以降,救命センター ICU で加 療を必要とした重症患者のうち,腎機能代替療法中 の抗凝固薬使用による出血性合併症のハイリスク症 例に対して,無抗凝固薬透析を行ってきた。血液浄 化回路の凝固を誘発する原因とされる,血液と回路 やダイアライザー,チャンバー内の空気との接触2) を避けるために,全例に動脈側エアートラップチャ ンバーレス回路を使用し,2018 年 10 月以降はさら に,透析用カテーテル,静脈側エアートラップチャ ンバー(V 側チャンバー)の形状,ダイアライザー を変更するなど工夫している。
原 著
無抗凝固薬透析の完遂率向上をめざして
─久留米大学病院高度救命救急センターでの無抗凝固薬透析症例における検討─
Ⅰ.目 的 当施設における無抗凝固薬透析の状況を明らかに し,無抗凝固薬透析の完遂率に影響する因子を後方 視的に検討した。加えて,2018 年 10 月のデバイス 変更が無抗凝固薬透析に与えた影響を調査した。 Ⅱ.対象と方法 1.対象 2014 年 1 月から 2019 年 3 月の期間に久留米大学 病院高度救命救急センターに搬入され,間歇的透析 が必要と判断され無抗凝固薬透析を実施した出血性 合併症のハイリスク症例を対象とした。なお,止血 が困難な症例,出血性合併症が致命的になる可能性 がある症例を出血性合併症のハイリスク症例と定義 し,これらのハイリスク症例に対して専従の集中治 療医により,無抗凝固薬透析実施の必要性をカン ファランスにて吟味し,必要と判断した全症例に対 し実施した。抗血小板薬や抗凝固薬使用症例は含ま れていなかった。無抗凝固薬透析の施行開始基準が 曖昧であったこと,透析条件が一定でなかったこと 久留米大学病院高度救命救急センター1),久留米大学医学部内科学講座腎臓内科部門2), 久留米大学病院臨床工学センター3) 福田理史1,2),牟田隆則1),平湯恒久1),吉田智博1),山香 修1,3),深水 圭2),高須 修1) 論文受付 2020 年 7 月 14 日 同 受理 2020 年 9 月 10 日 連絡先 福田理史 〒 830-0011 福岡県久留米市旭町 67 キーワード 無抗凝固薬透析,透析用カテーテル,静脈側エアートラップチャンバー,ダイアライザー 要旨:集中治療を必要とする重症患者のうち,出血性合併症のハイリスク症例に対し,著者らの施設では 2014 年 1 月 から無抗凝固薬透析を行ってきた。さらに,2018 年 10 月以降は透析用カテーテルやエアートラップチャンバーなどの デバイスの変更も行った。今回,無抗凝固薬透析の完遂率に影響する因子,およびデバイス変更が完遂率に与えた影響 を明らかにする目的で,後方視的検討を行った。27 例 70 回の無抗凝固薬透析のうち,完遂できなかった症例では有意 に頻回の脱血不良を認めた(P=0.002)。また,デバイス変更の前後で,完遂率は 86.5%から 100%に上昇していた。血 液浄化回路の凝固回避につながるデバイスの工夫は,無抗凝固薬透析の完遂に寄与していることが示唆された。デバイ スを工夫した無抗凝固薬透析は,出血性合併症のハイリスク症例に対する重要な治療選択肢になると考えられた。から 2017 年 1 月から 2018 年 9 月の期間の症例は対 象から除外した。本研究は久留米大学病院高度救命 救急センターのデータベースから収集したデータを もとに行い,1964 年のヘルシンキ宣言およびその 後の改正の倫理基準に従って実施した。 2.透析条件 1)透析用カテーテル AV シャントを有す症例では AV シャントを使用 した。AV シャントを有さない症例に対しては,透 析用カテーテルとして,脱血孔と送血孔にサイド ホールを備え,さらにエンドホールもカテーテル シャフト側面に沿って立体流線型の楕円状構造によ り脱血不良をきたしにくいと考えられているメディ コン社製パワートリアライシスⓇに統一し使用した。 2)V 側チャンバーの形状 2018 年以前(以下,変更前とする)は落とし込 み型 V 側チャンバーを使用していたが,2018 年 10 月以降(以下,変更後とする)はスパイラル型 V 側チャンバーを使用した。 3)ダイアライザー 変更前はダイアライザーを特定していなかった が,変更後は東レ社製 PS 膜トレライト NVⓇに統 一した。 3.対象症例の原因病態 該当期間に無抗凝固薬透析を行った出血性合併症 のハイリスク症例の原因病態をカルテより抽出し た。 4.方法 1 対象症例の患者背景(年齢,性別,慢性透析の有 無),凝固機能(PT,PT-INR,APTT,血小板数, 脱血側 ACT),透析条件(脱血流量,透析継続時間, 除水量,静脈圧,ブラッドアクセス,脱血不良の有 無,ダイアライザー)を後方視的にカルテ診療録よ り抽出した。血液浄化回路の凝固が問題で,意図せ ず透析を終了せざるを得なかった凝固群と,予定通 り完遂できた非凝固群に分け,2 群間比較した。 5.方法 2 透析条件の変更前後で変更前群と変更後群に分 け,方法 1 と同様に 2 群間比較した。両群の完遂率 についても 2 群比較を行った。 Ⅲ.統計方法 2 群間の比較はχ2検定,Student’s t-test を用い て行い,正規分布しない項目に関しては Mann-Whitney-U 検定を使用した。連続データは平均± 標準偏差(SD)として表記した。P < 0.05 を統計 学的な有意差とした。統計解析は SPSS Statistics Grad Pack 26.0 for Microsoft Windows, IBM を使 用した。 Ⅳ.結 果 1.対象症例の原因病態 該当期間に無抗凝固薬透析を施行した 27 例(70 回)の原因病態を表 1 に示す。脳出血に対して施 行した症例が 7 例と最も多く,次いで消化管出血, 頭部外傷,播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)の順であった。血 液透析が原因と考えられる新たな出血性合併症や, 出血の増悪は認められなかった。 2.凝固群と非凝固群の比較 回路内凝固をきたしたのは 5 例 7 回(脳出血 2 例 3 回,頭部外傷 2 例 2 回,DIC 1 例 2 回)で,回路 内凝固を認めなかったのは 25 例 63 回であった。2 群間比較の結果を表 2 に示す。患者背景や凝固機 能には有意な差を認めなかった。凝固群では頻回な 脱血不良が多く,最大静脈圧も有意に高値であった。 なお,凝固群の全例において,V チャンバー側の回 路内凝固が確認された。 3.デバイス変更前後での比較 2 群間比較の結果を表 3 に示す。変更後群は男性 が多く,維持透析症例が少ないという患者背景の違 表 1 易出血状態の原因病態 原因病態 例(回) 脳出血 7(19) 消化管出血 4(8) 頭部外傷 3(10) DIC(血小板低値) 3(5) 急性大動脈解離 2(13) 肺胞出血 2(4) 肝不全(血小板低値) 2(2) 腹腔内出血 2(2) 気道出血 1(4) 骨盤骨折 1(3)
いはあったが,変更後群において透析継続時間は有 意に延長し,最大静脈圧も有意に低かった。完遂率 に統計学上の差は認めなかったが,変更後群の完遂 率は 100%であった。 Ⅴ.考 察 出血性合併症のリスクが高い症例に対する抗凝固 薬として,半減期が 5 〜 8 分程度と非常に短いとい う理由から本邦ではナファモスタットが広く普及し ている。しかし,ナファモスタットを使用した腎機 能代替療法での出血性合併症は 4%と3),必ずしも 起こらないわけではない。加えて,ナファモスタッ トにはアナフィラキシーショック4)などの重篤な 副作用も報告されているため,集中治療を要する症 例に対しては,使用を回避するメリットは大きい。 当検討においては完遂率が 90.0%であり,凝固群と 非凝固群で透析継続時間に差を認めず,凝固群にお いて透析不足が明らかに問題となった症例はなかっ た。そのため,抗凝固薬使用による出血性合併症の リスクを回避できることをかんがみると,出血性合 併症のハイリスク症例においては,無抗凝固薬透析 が十分に治療の選択肢になり得ると考えられる。 今回の検討では,完遂できないセッションでは有 意に頻回な脱血不良を認めていた。このことは,血 流低下が回路凝固の原因になる5)という過去の報 告に矛盾せず,すなわち頻回な脱血不良を回避し, 脱血流量を増加させることが完遂率上昇につながる 可能性が考えられる。透析用カテーテルの変更によ り,有意な差はなかったものの,頻回な脱血不良の セッションは減少した。一方,血流を増加させるこ とによるチャンバー内での血液の乱流が問題となる が,この点に関しては,落とし込み型 V 側チャン バーをスパイラル型 V 側チャンバーへと変更した ことで,脱血流量をさらに上げることが可能となっ た。Sanders らの先行研究6)では,30 分ごとに生 理食塩水 100mL でフラッシュするという追加工夫 が有用で,300mL/min で脱血を行うことにより完 遂率は 94.2%であったと報告されていることから, 表 2 凝固群と非凝固群の比較 患者背景 凝固群(7 回) 非凝固群(63 回) p value 男性 / 女性[例(回)] 5(7)/ 0(0) 17(45)/8(18) 0.101 年齢(歳) 67.0±20.1 69.3±13.0 0.788 慢性透析の有 / 無[例(回)] 2(2)/ 3(5) 9(31)/16(32) 0.299 凝固機能 PT(%) 85.3±22.5 84.6±26.0 0.950 PT-INR 1.11±0.13 1.17±0.39 0.655 APTT(秒) 40.0±12.1 45.5±23.6 0.577 血小板数(104/μL) 12.00±7.45 9.19±6.53 0.297 脱血側 ACT(秒) 129±10 138±15 0.114 透析条件 脱血流量(mL/min) 169±46 176±36 0.622 透析継続時間(時間) 3.36±1.44 4.23±0.73 0.161 除水量(mL) 680±1,170 1,160±1,140 0.283 最大静脈圧(mmHg) 195±31 117±55 < 0.001※ ブラッドアクセス 内シャント[例(回)] 2(2) 9(25) 0.567 内頸静脈[例(回)] 2(4) 12(18) 0.122 大腿静脈[例(回)] 1(1) 8(20) 0.339 脱血不良の有 / 無[例(回)] 3(3)/ 2(4) 3(4)/24(59) 0.002※ ダイアライザー PS 膜[例(回)] 5(7) 22(56) 0.353 CTA 膜[例(回)] 0(0) 4(7) 0.353
今回の設定よりもさらに脱血流量を高流量に保つこ とができれば,高い完遂率を維持することができる 可能性がある。また,凝固群全例に確認された V 側チャンバーの凝血塊が,最大静脈圧上昇や完遂で きなかった原因となった可能性が考えられたが,V 側チャンバーの形状そのものの改良によりチャン バー内の血液クリアランスがさらに向上すれば,V 側チャンバー内の凝血回避が可能となり,結果とし て完遂率の改善につながる可能性も考えられる。 さらに完遂率を上げる手段として,変更後群には 親水性ポリマーを PS 膜にコーティングすることで, 血小板への刺激が軽減され,血小板活性化の全段階 を抑制する可能性がある7) 東レ社製 PS 膜トレライ ト NVⓇを選択し全例に使用した。変更後にはダイア ライザー内に血液凝固を認める症例はなく,V 側チャ ンバー内の血液凝固をきたしたセッションも減少し たことから,生体適合性が高いダイアライザーを使 用することは,血液浄化回路内の凝固防止に寄与す る可能性が示唆された。近年,ビタミン E 固定化 PS 膜の使用により,透析中の抗凝固薬が減量できたと の報告や8),無抗凝固薬透析における有用性が報告 されている9)。また基礎研究においてもビタミン E 固定化 PS 膜による血小板凝集抑制作用が示されて おり10),ダイアライザーを工夫することで,無抗 凝固透析の完遂率を高く維持し,これまで以上に安 全に急性期の透析療法を実施できる可能性がある。 Ⅵ.本研究の制限 三つのデバイスの変更を同時に行っているため, 今回の結果からはどのデバイスの変更が最も結果に 影響を与えたかは不明である。さらに単施設におけ る比較的少数例の後ろ向き研究であり,今回の結果 を検証するために,さらに大きなサンプルサイズで の多施設前向き研究が必要である。 結 語 頻回な脱血不良は無抗凝固薬透析の完遂率に影響 を与える可能性が示唆された。今回血液浄化回路の 表 3 変更前群と変更後群の比較 患者背景 変更前群(52 回) 変更後群(18 回) p value 完遂(回 /%) 45/86.5 18/100 0.101 男性 / 女性[例(回)] 14(35)/7(17) 5(17)/1(1) 0.023※ 年齢(歳) 67.4±14.0 73.6±12.5 0.103 慢性透析の有 / 無[例(回)] 12(29)/9(23) 1(4)/5(14) 0.014※ 凝固機能 PT(%) 81.6±27.0 92.4±19.8 0.130 PT-INR 1.21±0.43 1.07±0.16 0.198 APTT(秒) 47.9±26.4 38.1±5.8 0.126 血小板数(104/μL) 9.41±5.84 9.67±8.60 0.889 脱血側 ACT(秒) 138±17 134±10 0.406 透析条件 脱血流量(mL/min) 175±31 176±51 0.919 透析継続時間(時間) 4.01±0.87 4.50±0.71 0.038※ 除水量(mL) 1,070±1,080 1,250±1,340 0.613 最大静脈圧(mmHg) 140±53 79±47 < 0.001※ ブラッドアクセス 内シャント[例(回)] 9(22) 1(4) 0.129 内頸静脈[例(回)] 8(14) 5(9) 0.072 大腿静脈[例(回)] 6(16) 2(5) 0.811 脱血不良の有 / 無[例(回)] 5(6)/20(46) 1(1)/6(17) 0.466 ダイアライザー PS 膜[例(回)] 18(45) 6(18) 0.101 CTA 膜[例(回)] 4(7) 0(0) 0.101
凝固回避につながるデバイスの変更で,透析継続時 間や最大静脈圧が有意に改善しており,さらなる工 夫により無抗凝固薬透析の完遂率が上昇する可能性 が考えられる。とくに出血性合併症のハイリスクな 重症患者に対しては,無抗凝固薬透析が重要かつ安 全な治療の選択肢になりえると考えられる。 本論文において,開示すべき利益相反はない。 文 献
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Aiming to improve the completion rate of anticoagulant-free dialysis : study of patients undergoing anticoagulant-free dialysis at the advanced emergency and critical care center of Kurume University Hospital
Advanced Emergency and Critical Care Center, Kurume University Hospital1)
Division of Nephrology, Department of Medicine, Kurume University School of Medicine2)
Clinical Engineering Center, Kurume University Hospital3)
Among patients with critical conditions requiring intensive care, those at a high risk of hemorrhagic complications are being treated with anticoagulant-free dialysis at our facility since January 2014. Furthermore, the devices such as dialysis catheters and air-trap chambers used at our facility have been changed to newer variants since October 2018. This retrospective study aimed to identify the factors affecting the completion rate of anticoagulant-free dialy-sis and to determine the impact of the device changes on the completion rate. In total, 70 anticoagulant-free dialydialy-sis sessions were performed in 27 patients. Poor blood removal was significantly more common in patients with prema-ture termination of dialysis(P=0.002). Moreover, the completion rate increased from 86.5% before the device changes to 100% after the device changes. Innovative use of devices to prevent clotting in the blood purification cir-cuit was suggested to contribute to the successful completion of anticoagulant-free dialysis. Anticoagulant-free dialy-sis performed with innovative devices appears to be an important and safe therapeutic option for patients at a high risk of hemorrhagic complications.