症例研究からの展開
金
古
善
明
自身の研究について紹介してほしいというお話をいた だき大変光栄に感じています. 折角の機会ですので, 現 在の研究手法に行き着いた経緯や私が常日頃から えて いる臨床研究に対する え方について率直なところを述 べさせていただき, さらに今まで行ってきた主な臨床研 究の成果について紹介させていただきければと思いま す. 私の専門領域は, 循環器内科, その中でも不整脈疾患 の臨床と研究です. 当院にこの領域の診療グループを立 ち上げてから丸 22年になりました. この間に不整脈診 療の診断や治療技術は飛躍的に進歩し, 虚血性心疾患 (通称, 虚血), 心不全と並ぶ循環器領域の 3本柱に成長す るまで発展してきました. その一因として, 従来抗不整 脈薬による薬物療法に頼らざるを得なかったこの領域に カテーテルアブレーションや植え込み型ディバイスと いった不整脈の非薬物療法治療が登場し飛躍的な進歩を 遂げ, 治せる, 助けられる 臨床医学に華麗に変貌を遂 げたことが挙げられます. 私がこの原稿を書かせていた だけるのも, この時代の潮流に偶然乗っていたお陰であ るとも思います. 当初 2人から始まった私達の 不整脈 グループ は, 関連病院へ出向中の教室人も含めると 勢 10名となり, 当科のなかでも一大勢力ですし, 全国的 にも有数の不整脈グループに成長してきたと自負してお ります. そうは申しましてもこれまで苦労したなというのが正 直な実感です. とりわけ, 診療や臨床研究のアクティビ ティを上げる, あるいは若手の教育のためにはある程度 の症例数を維持することが当然必要なわけですが, 以前 からなかなか症例が大学に集まりにくかったことです. これは大学病院,私どもの循環器内科 (第二内科)あるい は地域の構造上の特性といえるかもしれません. 限られ た症例数の中でどうすればいいか, 当初から私たちに問 われていた大きな命題でした. こんな背景もあり, 当初 から一例一例の症例を対象とした症例報告・症例研究が 主な活動でした. 一般的に症例報告は原著論文に比較し て軽んじられます. もちろん一例のみの検討では言える ことは限られています. しかし, とりわけ不整脈症例に は病因, 診断から治療にわたり個々に異なる臨床的問題 点が豊富に内在しており, しかもそれらを抽出する確か な臨床的手法が存在することから, 症例ごとの詳細な検 討は非常に重要な研究となるのです. ここで私が強調し たいのは,症例研究を行うことで practical medicineにお ける重要な発見や臨床的な問題点が抽出されることがあ るということです. これらは, 漫然と日常診療を行うな かでは通常見過ごされることも多く, 逆に大規模な臨床 研究では注目されにくい着眼点でもあります. このよう に私は日常臨床の中で症例検討を通じて仮説を導き出 し, それを帰納的あるいは前向きに複数例において検討 する手法で主な臨床研究を行ってきました. これまで行ってきた主な研究テーマは, 1) 臨床電気 生理学的アプローチによる上室性及び心室性頻脈性不整 脈の発生機序の解明と診断・治療法の開発, 2)遺伝性不 整脈の発生機序の 子生物学的解明, さらに 3) 学会が 主導する心房細動に対する抗不整脈薬治療, 降圧治療あ るいは抗凝固療法に関する種々の大規模臨床試験 (北関 東地区代表世話人) が挙げられます. 上室性不整脈については, ①電気生理検査 (不整脈の 215 Kitakanto Med J 2014;64:215∼216 1 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院医学系研究科器官機能制御学講座臓器病態内科学 平成26年2月28日 受付 論文別刷請求先 〒371-8511 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院医学系研究科器官機能制御学講座臓器病態内科学 金古善明精密検査) でルーチンに行う冠静脈洞記録の二重電位を 解析し, 特殊な WPW 症候群例の副伝導路の部位診断法 について報告し, さらに房室結節回帰性頻拍の機序にお ける左房の関与, 心房間伝導の伝導性の評価, 副伝導路 の心内膜側・外膜側の判別, 特殊な僧房弁回旋性心房粗 動の診断法 へと発展させてきました. この一部の成績 は, 国際学会のシンポジウムでも紹介され, また国内外 の論文にも引用され一定の評価を得ています. ②心房粗 動については, 12誘導心電図による心房粗動回路の同定 法を開発しました. また, 頻拍回路の同定の電気生理学 的手法である entrainment mapping の pitfallを報告し, 広くリエントリー性不整脈の起源の理解に貢献していま す. ③心房頻拍については, 特殊な頻拍である intra-isthmus reentryの第一例目を報告しました. 心室性不整脈については, ①特発性左室心室頻拍起源 である左室心室中隔の特異な電気生理特性について初め て報告しました. ②単極誘導電位による頻拍起源の深度 の推定に関する実験的検討は, invited articleとして本年 の日本不整脈学会誌特集号に掲載される予定です. ③剖 検例における心室頻拍起源の病理学的所見と電気生理所 見を対比した希少な 2論文があります. ④遺伝性不整脈 である Brugada症候群と J波症候群のオーバーラップ を 示 す 現 象 を Brugada症 候 群 の 発 見 者 で あ る Pedro Brugada先生との共著として報告しました. さらに同様 の症例を全国 8施設から集積し, 筆頭著者として執筆し た論文を現在投稿中であります. ⑤遺伝性不整脈である catecholaminergic polymorphic ventricular tachycardia の電気生理学的機序が遅 後脱 極による異常自動能で あることを報告し, 後にその原因遺伝子が同定されまし た. 遺伝性不整脈の 子生物学的機序の研究については, 当施設の 子生物学的研究の基盤を講師, 中島忠ととも に構築し, 先天性 QT 長症候群例での新たな HERG の C 末端の変異, Brugada症候群の日本人例での新たな 変 異 遺 伝 子, デ ス モ ゾーム の 変 異 遺 伝 子 の heter-ozygosityが日本人の不整脈源性右室心筋症の発症に関 与していること, また心筋虚血後あるいは産褥期に出 現した多形性心室頻拍例においるチャネル遺伝子変異を 見出しました. 以上のように, 研究テーマは多岐にわたっており, 複 数のプロジェクトを同時に進行するような感覚で日常診 療を行っております.今後も practical medicineから clin-ical scienceへの展開する私の研究をさらに推進したい と えています.
文 献
1. Akiyama M, Kaneko Y, et al. Coronary sinus record-ings of double potentials associated with retrograde con-duction through left atrioventricular accessory pathways. J Cardiovasc Electrophysiol 2004; 15: 1371-1376. 2. Kaneko Y,et al. Is the targeted accessory pathway alive
or dead?J Cardiovasc Electrophysiol 2011; 22: 478-480. 3. Kaneko Y, et al. Regular atrial tachyarrhythmia with double coronary sinus potentials: what is the diagnosis? J Cardiovasc Electrophysiol 2012; 23: 1269-1271. 4. Kaneko Y, et al. Putative mechanism of a post-pacing
interval paradoxically shorter than the tachycardia cycle length. J Cardiovasc Electrophysiol 2012; 23: 666-668. 5. Manita M, Kaneko Y, et al. Typical atrial flutterlike tachycardia developing after inferior vena cava-tricuspid annulus isthmus ablation. Pacing Clin Electrophysiol 2001; 24: 231-234.
6. Kaneko Y,et al. Myocardial bundles with slow conduc-tion properties are present on the left interventricular septal surface of normal human hearts. J Cardiovasc Electrophysiol 2004: 15: 1010-1018.
7. Kaneko Y, Aizawa Y, Kurabayashi M, Brugada P. Nocturnal and pause-dependent amplification of J wave in Brugada syndrome. J Cardiovasc Electrophysiol 2011; 23: 441.
8. Nakajima T, Kaneko Y, et al. The mechanism of cate-cholaminergic polymorphic ventricular tachycardia may be triggered activity due to delayed afterdepolarization. Eur Heart J 1997; 18: 530-531.
9. Nakajima T, Wu J, Kaneko Y, et al. KCNE3 T4A as the Genetic Basis of Brugada-Pattern Electrocardiogram. Circ J 2012; 76: 2763-2772.
10. Nakajima T, Kaneko Y, et al. Compound and digenic heterozygosity in desmosome genes as a cause of arrhyth-mogenic right ventricular cardiomyopathy in Japanese patients. Circ J 2012; 76: 737-743.
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