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中学校理科における声のグラフを利用した音色の教材化

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(1)研究論文. 中学校理科における声のグラフを利用した音色の教材化 大 村 優 華. 猪 本   修. 兵庫教育大学. 兵庫教育大学. Teaching Materials for Timbre Using Voice Graphs for Science Classes in Junior High School Yuka OMURA, Osamu INOMOTO Hyogo University of Teacher Education The phenomena of sound are studied in the 1st grade of science classes in junior high school. As part of these topics, students mainly learn that sound is produced due to the vibration of objects, that it travels in waves, and that the properties of the waves determine loudness and pitch of sound. Sound is composed of three elements: loudness, pitch and timbre, but the focus is not on timbre at junior high school. However, students have plenty of experiences on differences of timbre in music classes as well as ordinary daily life, so learning about the details of timbre should also be possible in science classes. In this study, we propose teaching materials and methods to teach timbre effectively and understandably; we designed teaching materials to make students recognize differences in timbre, and to learn that the differences in timbre are caused by the differences in harmonics that produce the voice. We also practiced these methods in a junior high school to examine its educational effects. As a result, even junior high school students are able to understand the principle of timbre with the voice analysis, and therefore it is expected that the effect of learning about sound is enhanced. Key words: three elements of sound, timbre, harmonics, teaching materials. Ⅰ.はじめに. を認識しているが,理科と音楽の間で音の捉え方が異. 音は大きさ,高さ,音色の3要素によって特徴づけ. なっている状態である.理科における音の特性につい. られる.中学校第1学年の理科において,生徒は音の. て理解を深めるためには,生徒がこれらのあいだの知. 性質について学習する.中学校学習指導要領解説理科. 識を結びつけて考える機会が必要である.. 編(文部科学省,2017a)では,身近な物理現象とし. これまでにも音の単元に関連した理科と音楽を結び. ての音についての観察,実験を通して,音は物体の振. つけた教科横断的な授業はいくつか提案されており,. 動によって生じ,その振動が空気中などを伝わること,. 濱本は中学3年生を対象に楽器の発音のしくみや音の. 音の大小や高低は発音体の振動の振幅と振動数に関係. 響きの違いを探求的に学習する取り組みを行った(濱. することを見いだして,理解させることをねらいとし. 本,2001).また,沖花は中学校第1学年の理科授業. ている.一方,小学校学習指導要領解説音楽編(文部. で,鍵盤ハーモニカの分解を通して音の高低と楽器内. 科学省,2017b)では,小学校第3,第4学年の音楽. 部のつくりの違いが関係していることを理解させる実. の授業において,管楽器や弦楽器による演奏を鑑賞し,. 践を行った(沖花,2011) .. 楽器によって奏でる響きが異なること,音色や音が重. 一方で,音色については中学校理科の教科書で発展. なり合うことによって生まれる響きのよさや美しさを. 的内容として紹介されているものの,音色そのものに. 感じ取るということを目標に挙げている.つまり,生. 着目した授業はあまり行われていない(横関,2014).. 徒は中学校で音を学習する以前から経験的に音の性質. ここで考えられる理由としては,音色を音の波形と対 3.

(2) 4. 大村・猪本:中学校理科における声のグラフを利用した音色の教材化. 応づけて理解させることが難しい点が挙げられる.し かし,日常生活で体感する音は様々な響きをもつもの があり,それらのほとんどは音色の知識を用いること で説明ができる.したがって,音色の本質について理 科で学ぶことは日常生活と自然現象を結びつけること につながる,有用性のある取り組みだと考えられる. 著者らはこれまでに,中学校と高等学校における音色 の学習方法を報告したが(大村,猪本,2019;猪本, 大村,2020),授業実践に関する報告は行っていな かった. 本研究では,中学生に対して音色について分かりや すく効果的な教材と授業の方法を提案し,実際に中学 校理科で音色について学ぶ授業実践を行った.また,. 図1 音叉の音(ラ)の波形とパワースペクトル. 授業で扱う音色を説明する上でヒトの声を題材に選ん だ.これは一人ひとりの声の違いと音の単元とのあい だにつながりをつくることで,生徒が常に知的好奇心 をもって身のまわりの事象に関わり,主体的に学ぶ姿 勢や興味・関心も高められることに役立つことが期待 されるからである.さらに声の波形とパワースペクト ルを分かりやすい形で生徒に提示し,話し合いを通し て学習させることで,パワースペクトルと倍音の関係, および倍音と音色の関係を理解させるようにした.こ のとき授業実践に基づく生徒の実態把握を行い,生徒 の理解状況と学習効果を検討した. Ⅱ.音色について 1.音の波形とパワースペクトル. 図2 ホルンの音(シ♭)の波形とパワースペクトル. 音の大きさ,高さ,音色といった物理的特性は振 動・波動の力学によって扱われるが,それらの物理的. を示している.これにより,音に含まれている振動数. 性質は音楽的側面とも密接に関わっている(吉川,藤. 成分とその分布がわかる.. 田,2002;大塚,2003) .. ここでパワースペクトルのグラフの見方を簡単に説. 音の違いは波形の違いとして表れる.たとえば,音. 明する.音叉の波形のグラフ(図1(a))からは音叉. 叉の音をオシロスコープで観察すると図1(a)のよ. の音の周期が約0.00227秒であることがわかるが,こ. うな正弦波的な波形が得られる.この波形をもとに,. のことはパワースペクトル(図1(b))での440 Hz. 生徒は音の大きさが振幅に表れ,音の高さは1秒間に. におけるバンド幅の狭い1本のピークに対応する.こ. 発音体が振動する回数(振動数)によって決まること. の440 Hz の音高をラとする十二平均律音階が国際基. を波形から読み取って学習する.しかし,すべての音. 準として定められている.. が正弦波的な波形を示すのではなく,楽器の音などは. またホルンの波形グラフ(図2(a))には大小さま. 複雑な波形を示す(図2(a)).一方,図1(b),図. ざまの時間的変動が見られるが,このうち大きな変動. 2(b)に示されたグラフは,波形の音圧時系列を. (グラフにおける大きなピーク)に着目すると,その. フーリエ変換して得たパワースペクトルである.パ. 周期は約0.00422秒である.この周期はパワースペク. ワースペクトルは,縦軸はパワー密度,横軸は振動数. トル(図2(b))の複数のピークのうち,最も小さ. で表した,振動数成分ごとのパワースペクトルの分布. な振動数である約237 Hz のピークに対応する.この.

(3) 科学教育研究 Vol. 45 No. 1(2021). 音高はシ♭(国際基準では233.08 Hz)に近い.. 5. によって生じる.ホルンでは,主に第6倍音までの音. さて,図1(b),図2(b)の音叉と楽器の音のパ. が含まれている一方,ユーフォニウムでは主に第3倍. ワースペクトルを比較すると,含まれている振動数成. 音までが含まれている.また,各倍音成分のパワーの. 分が異なっていることがわかる.音叉は1つの振動数. 大きさに注目すると,ホルンでは第2倍音,ユーフォ. 成分で構成されているのに対し,ホルンは主として6. ニウムでは基音のパワーが最も大きいことがわかる.. つの振動数成分が含まれていることがわかる.. これらの違いが,音色の違いとして表れている.なお, 以上からわかるように楽音は複数の倍音から構成され. 2.倍音成分と音色. るが,ここではその一つひとつを倍音成分と呼ぶこと. 音のパワースペクトルに着目すると,図1の音叉の ように,単一のスペクトル成分が表れる音は純音であ. にするとともに,それらの性質についても振動数成分 などと呼ぶことにする.. り,図2のホルンのように,複数のスペクトル成分で. このように,音の波形をパワースペクトル成分のグ. 構成されている音は楽音である.ここで,ホルンのパ. ラフに表すことで,倍音成分ごとのパワー密度の比率. ワースペクトルに着目すると,顕著なスペクトル成分. や構成の違いを容易に表すことができる.すなわち,. が等間隔に並んでいることがわかる.これは,各振動. ある楽音の中にどのような振動数の音が,どの程度の. 数が,基準となる振動数(基音)の整数倍になってい. 大きさで含まれるのか,他の倍音がどのような大きさ. ることを示している.このように,基音の振動数の整. の関係で存在するのか,また,どのくらいの高音域ま. 数倍である音を倍音と呼ぶ.パワースペクトル上では. での倍音が含まれるのか,などが明らかとなる.. 左端のスペクトル成分から順に基音,第2倍音,第3. また,パワースペクトルを示すことで,音色が違う. 倍音と呼ぶ.基音の整数倍の音を順に楽譜に表してい. と波形に違いがみられることを,構成している倍音成. くと表1および図3のような倍音列を形成している.. 分の違いから説明できるため音色の理解に役立つ.. ここで①,②,③,・・・の数字は,図2における各 番号のスペクトル成分の番号と対応している.. 3.ヒトの声について. 倍音成分が含まれている楽音は,発音体の構造に. 音色が異なることを実感できる例は楽器だけではな. よってそれぞれ固有の音色をもっている.例として金. い.ヒトの声もまた,倍音を含む楽音に分類すること. 管楽器のホルン(図2)とユーフォニウム(図4)を. ができる.図5はヒトが「あー」と発音したときの波. 挙げて説明する.これらの楽器の音は,どちらも柔ら. 形とパワースペクトルである.この波形は,音叉や楽. かい響きであるが,共鳴管の構造に応じて音色が異な. 器に比べてより複雑であり,多数の倍音成分が含まれ. る.この音色の違いは,音に含まれる倍音成分の違い. ている.このことは,パワースペクトルに多数の倍音. 表1 シ♭の倍音列 ① ② ③ ④ ⑤ ⑥. 倍音列 基音 第 2 倍音 第 3 倍音 第 4 倍音 第 5 倍音 第 6 倍音. 振動数(Hz) 233 466 698 932 1175 1397. 図3 シ♭の倍音列. 音名 シ♭ シ♭ ファ シ♭ レ ファ. 図4 ユーフォニウムの音(シ♭)の波形とパワースペクトル.

(4) 6. 大村・猪本:中学校理科における声のグラフを利用した音色の教材化. 成分が存在することに対応する.図5の声を構成して. 係を,簡易シンセサイザを利用することで探究的に生. いる主な倍音列の各振動数とそれらに近い音名を表2. 徒らに理解させた(川野,2005).しかしながら,中. に示した.またパワースペクトルからは,それぞれの. 学生に対して,波形から含まれている倍音成分の違い. 倍音に振動数の拡がりがあり,さらに倍音でない音. を読み取り理解させることは困難である.本研究では,. (非整数倍音)も含まれていることもわかる.以上の. 倍音成分そのものを表すことができるパワースペクト. ことから,声の波形やパワースペクトルは,上で述べ. ルを活用することが音色の授業において有効だと考え. た楽器の音と同様に,声が複数の倍音成分で構成され. た.すなわち,生徒が音色を身近に感じることができ,. た音であることを表している.. 本質的な理解を伴った授業にするため,ヒトの声のパ. ところで,他人同士が同程度の高さで声を出しても. ワースペクトルを活用した音色の授業を考案した.声. 区別できるのは,一人ひとりの声の響き方,つまり音. を選んだ主な理由は,①生徒によって多様な倍音成分. 色が異なっているためだが,このことは,パワースペ. が見られること,②生徒同士での比較が可能となり,. クトルのグラフを見ることでより明確になる.. 生徒の興味関心が惹きつけられる題材であることの2 点である.また,準備の面でも多様な音色を持つ楽器 を揃えるよりも簡単であるという利点があったためで ある. 本授業を行うにあたり,事前に生徒一人ひとりの声 をサンプリングした.その際生徒には,地声で「あー」 という声を発するように指示し,できる限りノイズが 抑えられるよう静かな環境で行った.サンプリングに は IC レコーダー(TASCAM DR-05,サンプリングレー ト96 kHz,分解能24 bit)を使用し,ディジタル的に 記録した.さらに,この音声データをパソコン上で時 系 列 解 析 し た. こ こ で 解 析 に あ た っ て は MATLAB (The MathWorks, Inc.)を使用して音声データをトレ. 図5 ヒトの声の波形とパワースペクトル. 表2 ヒトの声の倍音列の振動数と音名 倍音列 基音 第 2 倍音 第 3 倍音 第 4 倍音 第 5 倍音 第 6 倍音. 振動数(Hz) 236 472 708 941 1178 1414. 音名 シ♭ シ♭ ファ シ♭ レ ファ. ンド除去したのちにハニング・ウィンドウを施して フーリエ変換を行い,パワースペクトルを計算してグ ラフに表示した.作図した声の波形とパワースペクト ル(図5)は生徒の一人ひとりに配布した.本授業に おいて声の音のパワースペクトルは,「声のグラフ」 と呼ぶことにした.また,パワースペクトルには基音 の振動数を表示した. ここで,具体的な授業構成を説明する(表3).本 授業の目標は,声の分析結果をもとに,構成している 倍音成分の違いが音色をつくることを理解することと した.まず初めに,自分や他人の声はどのような雰囲. Ⅲ.中学校理科での授業実践. 気なのか考えさせた.このねらいは,声の雰囲気が音. 1.音色の授業のねらいと構成. 色であることを結び付けるためである.. 中学校理科では音色の説明をするにあたって,音の. 次に,声のグラフを生徒に配布しグラフの見方を説. 種類によって波形が異なることをオシロスコープで示. 明した.このとき,グラフに表された基音とその倍音. すなどして,さまざまな波形を示すことが多い.一方,. 列を倍音成分と説明した.一通り説明したのち,生徒. 高等学校物理基礎では,多くの教科書で倍音成分とそ. の活動として声のグラフの分析を導入した.①基音の. れによる音色変化について簡単に記述されている.川. 振動数を基にして第2倍音,第3倍音の振動数を求め. 野らは,高等学校において音色の違いと波形変化の関. させた.この活動は,生徒が普段感じる声の高さより.

(5) 科学教育研究 Vol. 45 No. 1(2021). 7. 表3 音色の授業の構成 【本時目標】 ・声の分析結果をもとに,構成している倍音成分の違いが 音色を作ることを理解する. 【本時の構成】 1.導入(5 分) ・自分の声がどのように聴こえているか特徴を捉える. ・このとき,声の大きさ,高さ,雰囲気に注目させる. 2.声のグラフから声の特徴を読み取る(15 分) ・生徒に各自の声のグラフの結果を配布し,グラフの見方 を紹介する. ・基音,倍音成分の説明をする. ・声のグラフを分析する. ①基音の振動数を基に第 2 倍音,第 3 倍音を計算で求める. ②倍音成分の本数を数える. ③最も強く含まれていた倍音成分を記入する. 3.声の違いの原因を考える(15 分) ・クラス全員の音声データを聴き,声の高さの違いを確認 する. ・複数の同じ高さの声を聴き分けられるのはどうしてなの かを考える. 4.音色についてまとめる(15 分) ・音色は,音のひびき方の違いであり,構成する倍音成分 の違いによって生まれることを板書にまとめる. ・音叉を用いた実験教材を使って音色と波形の変化を見せる. ・ワークシートの 4 つの問い(記述式)に答える.. 図6 基音の振動数が等しい生徒の声の波形とグラフ. で波形表示ソフトウェア(振駆郎)にて波形の変化を 示した.これについては次節で述べる. 2.純音の重ね合わせによる音色の形成 本授業では,波形の違いがなぜ音色の違いを表すの かについては言及する必要がある.楽音のパワースペ. も高い振動数の音も含まれていることを実感させるた. クトルに注目すると,楽音を構成している一つひとつ. めである.②倍音成分の数を数えさせた.③最も強く. の倍音成分は,振動数の異なる純音のスペクトルであ. 含まれていた倍音成分を記入させた.これらの活動は,. るとみなすことができる.つまり,波長の異なる波が. 次にクラス内で行うグラフの比較の際にポイントとな. 複数重ね合わさると複雑な形の合成波が形成されるよ. る部分である.. うに,楽音も複数の倍音が重ね合わさることで音色が. 以上の分析を踏まえて,クラスの中で声の特徴の比. 生まれると考えることができる.反対に,音色は複数. 較をおこなった.まず,クラス全員の録音した声を基. の純音の音に分解できるという関係も成り立つ.そこ. 音の振動数の低い順に並べたものを順に聴かせ,声の. で,本研究では純音の重ね合わせという点に着目し,. 高さの違いを実感させた.次に,基音の振動数が同じ. 音色形成の過程を説明する補助教材として4本の異な. だった3名の生徒に着目し,それぞれの音声を聴かせ. る振動数(440,550,660,880 Hz)の音叉を用いた. た.ここで,生徒全体に対して,同じ高さの声なのに. 実験教材を提案した(図7).音叉1つを鳴らしたと. どうして違いを聴き分けられるのだろうと問いかけ,. きは正弦的な波形を示すのに対し,複数の音叉を同時. その原因を考えさせた.そして,該当生徒のグラフ. に鳴らすと図8のような複雑な波形へと変化する.同. (図6)を提示した.図6から分かるように,基音が. 時に鳴らす音叉の数が増えるごとに波形とパワースペ. 同じであっても倍音成分の構成は3名のあいだで明ら. クトルの変化を見せることで,音色がどのように波形. かに異なっていることが視覚的に読み取れる.基音の. に反映されるのかを説明するときの補助教材として有. 振動数に関係なく,倍音成分の本数や,最も大きく含. 効だと考えた.. まれる倍音成分の種類の違いで声の違いができること をまとめた.そしてこの違いが音色であることを説明. 3.対象生徒と授業時間. した.さらに,波形が複雑になっていく様子を説明す. 声のグラフと音叉を用いた教材を取り入れた音色に. るために異なる振動数の音叉を4本組み合わせた実験. ついての授業を,兵庫県内の公立中学校第1学年の生. 器具(図7)を用い,4本の音叉を同時に鳴らすこと. 徒(2クラス,59名)に対して行った.対象となる.

(6) 8. 大村・猪本:中学校理科における声のグラフを利用した音色の教材化. 図9 生徒の声における最も強く含まれていた倍音成分の分布 図7 音叉の実験教材. グラフ)のように,倍音成分の数は楽器に比べて多 かった.最も強く含まれていた倍音成分は,第4倍音, 第5倍音,基音の順に多かった(図9). 以上のように,生徒の声における音色の多様性が示 された.グラフを配布すると,生徒はすぐに互いのグ ラフに違いがあることに気づいていた.グラフの分析 の活動では,生徒が活動の内容を理解して取り組むよ うに時間をかけた.本時の主発問である,同じ高さの 声なのにどうして違いを聴き分けられるのだろうかと いう問いに対しては,最初のうち生徒は不思議に感じ ている様子だったが,図9のグラフから構成する倍音 成分に違いがあることを主体的に見いだすことにつな 図8 4本の音叉の波形とパワースペクトル. がった.このことから,一人ひとりの声の違い,すな わち音色の違いは,基音の振動数が同じでも倍音成分. 生徒は,前時までに音の伝わり方と音の大小と高低に. の構成が異なることによるとの理解につなげることが. ついて一通り学習した.. できた.. 4.授業の結果と分析. する.各質問には,それぞれ評価規準を設定した(表. さて,授業後におこなった4つの質問について説明 まず授業の導入で,自分の声がどんな雰囲気なのか. 4).問1は,生徒が本時で学習した知識を用いて自. ということについて生徒間で話し合わせた.生徒が発. 分の声のグラフを説明できるかを確認するために設定. 言した内容には,「高い・低い声」,「ハキハキ」,「明. した.問2は音色の違いがどうして生まれるか,授業. るい」,「暗い」などがあった.この問いかけに対する. で学習した知識を使って説明できているかを確認する. ワークシートの記述欄には,声の高低に関する記述が. ために設定した.問3と問4は,生徒の理解度を測定. 多く見られた.このことから,生徒は日常で声の高低. する目的と,生徒が本時においてどの部分に興味・関. を意識することはあっても,雰囲気についてはあまり. 心をもったのかをみる目的と,主に授業への評価のた. 意識してこなかったことが推測できた.. めに設定した.. 次に展開部では,声のグラフを使った活動を中心に. 問1は評価規準である倍音成分に着目して自分の声. おこなった.ここで,生徒の声の特徴について説明す. のグラフを説明しているもの,すなわち表3で示した. る.基音の振動数は,男子生徒においては98∼280 Hz. 声の分析でおこなった観点から声の特徴を説明してい. の間に分布しており,女子生徒においては200∼300 Hz. るものを望ましい回答とした.生徒の回答は,倍音成. の間に分布していた.また,図5や図6(3人の声の. 分に着目して説明しているもの,波形の違いについて.

(7) 科学教育研究 Vol. 45 No. 1(2021). 9. 表4 生徒への質問内容と評価の観点 質問内容 評価の観点 問 1 自分の声の特徴について,声のグラフを使って説明し 倍音成分に着目して自分の声のグラフを説明している. てみよう. 問 2 A さんと B さんが同じ高さの声を出したところ,音色 声の高さが同じでも,構成している倍音成分が違うと の異なる 2 人の声を聴き分けることができた.なぜ 2 音色が異なることを説明している. 人の声を聴き分けることができたのだろう. 問 3 授業の中で不思議に思ったこと. 問 4 授業の感想.. 図10 生徒の回答の内訳(問1). 説明しているもの,声の高さ(基音)の違いについて 述べているもの,その他の内容の4つに分類すること ができた(図10). 59人中48人の生徒が,図11に示した生徒のように, 自分の声のグラフをもとに倍音成分の構成の特徴につ いて触れていた.このことから,本時を通して声の特 徴を表す音色の違いを声のグラフの読み取りから説明 することができるようになったことが示唆された. 次に問2では,生徒の回答が表4の評価規準に沿っ た内容で,かつ生徒自らの表現で説明できているもの を望ましい回答とした.本授業において,問2は音色 の本質を理解する上で最も重要な問いであると位置付 けた. 図12のように生徒の回答内容は,2人の倍音成分 が違う(のべ37人)という内容を回答した生徒が最 も多かった.生徒の回答は,図13で示したようなも のを望ましい回答として選んだ.それ以外については, 声の音色・ひびき方が違うから(23人),誤答を含む その他(6人)という結果になった.声のひびき方が 違うという回答が多かったのは,音色とは音のひびき. 図11 生徒の声の倍音成分とその特徴. 方の違いであると板書にまとめたものを生徒が参考に したためだと考えられる.以上の結果から,生徒は,. れる倍音成分の違いであることを理解できたことが示. 声の違いは主として音色の違いであり,それが構成さ. 唆された..

(8) 10. 大村・猪本:中学校理科における声のグラフを利用した音色の教材化 表5 生徒の回答の内訳(問3) 分類 声のグラフについて 音色の違いについて 声には複数の音が含まれている ことについて 声の高さについて その他. 図12 生徒の回答の内訳(問2). 図13 生徒の回答内容(問2). なお,問1,問2ともに望ましい回答をした生徒は. グループ 1 (32 人) 5 4. グループ 2 (20 人) 0 3. 2. 1. 4 7. 5 5. 表6 グループ1の生徒の回答内容(問3) 〈声のグラフについて〉 ・同じ強さで声を出したはずなのに,すごく強い音がある ということ. ・1 個の倍音成分の中にジグザグになっているところと なっていないところのちがいはなにかなぁと思いました. 〈音色の違いについて〉 ・同じ声の高さでも倍音成分の違いで変わるんだと思った こと. ・同じ高さなのに聞こえ方が違ったこと. 〈声には複数の音が含まれていることについて〉 ・自分の声にはいろいろな音がまじっていること.自分で 一つの声だと思っていても違うことが,不思議だと思い ました. 〈声の高さについて〉 ・みんな同じ「あー」しか言ってないのに 98 ~ 280 まで のちがいがあって,びっくりしたし,ここまで変わるの かと不思議に思った. 〈その他〉 ・双子はなぜ,声がほとんど同じなのか. ・世界に全く同じ声の人がいるのか.. 59人中32人であった.この集団をグループ1とする. また,2問のうちいずれか1問だけ望ましい回答をし. のつながりについて,⑤声の高さについて,⑥その他,. た生徒は,20人であった.この集団をグループ2と. の6つに分類することができた(表7).分類した生. する.. 徒の回答は表8のとおりである.①,②の回答から,. 次に,グループ1に注目し問3,問4の回答内容と. 生徒は声の特徴を雰囲気だけではなく,グラフを構成. その特徴について分析した.まず問3では,生徒の回. する倍音成分の違いで説明することが可能であること. 答を①声のグラフに関連したもの,②音色の違いにつ. がわかった.一人ひとりの声の特徴がグラフで表れて. いて述べたもの,③声には複数の音が含まれているこ. いることが,音色の違いを考える教材として有効で. とについて述べたもの,④声の高さの違いについて述. あったといえる.また,③の回答は,基音の振動数だ. べたもの,⑤その他,の5つに分類することができた. けが声の特徴を決めているのではないという,音色の. (表5).分類した生徒の回答を表6に示す.グループ. 本質をとらえた表現である.この表現は表3の「3.. 2における⑤その他では,「どうして一つの口から何. 声の違いの原因を考える」の活動から生徒が理解した. 個も倍音成分が出てくるのか」や,「第4倍音が最も. ことであると考えられる.ちなみに,グループ2では,. 強く含まれていた人が多かったからなぜか気になっ. ②について回答した生徒は皆無だったが,③の記述が. た」,という回答があった.. 20人中7人と約1/3の生徒が音色の本質について理解. 次に問4では,①声のグラフの特徴について,②倍. していた.④の日常とのつながりを回答した生徒の回. 音成分と音色の関係について,③同じ振動数でも聞こ. 答からは,声が日常に深く関わったものにもかかわら. え方に違いがあることについて,④授業内容と日常と. ず深く考えたことがなかったことが推察できた.本時.

(9) 科学教育研究 Vol. 45 No. 1(2021). 音色を教えることが可能であることが示唆された.し. 表7 生徒の回答の内訳(問4) 分類 声のグラフの特徴ついて 倍音成分と音色の関係ついて 声の高さと聴こえ方(音色)の 違いについて 授業内容と日常との つながりについて 声の高さについて その他. 11. グループ 1 (32 人) 10 3. グループ 2 (20 人) 6 0. 8. 7. 7. 4. 11 10. 5 3. かし,授業の感想では声に関する感想が多数であった ことから,音色は声だけにみられるものではなく,楽 器などにも拡張し,一般的な音色として生徒が捉える ことができるよう配慮する必要があると考えられる. Ⅳ.まとめ 本研究では,中学校理科において生徒の声を用いた 音色の授業を行い,その効果を検討した.ヒトの声の パワースペクトルを用いることで,声の違いが音を構. 表8 グループ1の生徒の回答内容(問4). 成している倍音成分の違いであることを生徒に理解さ. 〈声のグラフの特徴について〉 ・同じ振動数でもいろんな人の声をきき分けられるという ことが分かりました.グラフを使った授業が分かりやす かったです. ・人によって声の高さや最も強い倍音成分が激しく異なる ことがわかりました. 〈倍音成分と音色の関係について〉 ・基音の振動数と最も強く含まれていた倍音成分が同じで も,その他の倍音成分が違ったら,似ていても聞き分け られるのがすごいと思った. ・同じ振動数の高さでも倍音成分でまた違うように聞こえ ることが不思議だなと思いました. 〈同じ振動数でも聞こえ方に違いがあることについて〉 ・同じ高さなのに聞こえ方がちがっておもしろかった. ・基音の振動数が同じだとしても 1 人 1 人の声を聞き分け ることができて,「音色」について知ることができた. 〈授業内容と日常とのつながりについて〉 ・あまり人の声や自分の声を意識して聞くことはないと思 うので,人の声を考えて聞くと色々なことが分かって楽 しく感じました. ・普段聞いていると似ていると思わないけど,グラフにす ると似ていたりして面白かったです. 〈声の高低について〉 ・今日は初めて自分の声を聴いて,自分が一番高かったか らビックリしました. ・1 番声の高い人と低い人では振動数(Hz)が全然違って いたからおもしろかったです. 〈その他〉 ・思っていたより振動の振れ幅が複雑だったのでびっくり した. ・同じ振動数の声でも聞き分けられる耳がすごいなと思った.. せることができた.また,このことが音色とかかわり. の授業から,日常生活と自然現象を結び付けて考える ことにつながったと評価できる. 以上のように,本研究における授業実践では,声の グラフを用いた音色の授業に対して肯定的な反応が多 かった.声の違いがパワースペクトル上に明確に表れ ているため,グラフの見方を教えると生徒は自然と他 の生徒とグラフを見比べながら議論できていた.こう したことから,中学生に対しても声のグラフを用いて. があることを考察させることができた. このように,生徒自身の声を音の教材に選ぶことで 音の特徴を身近に認識しやすくするとともに,声のパ ワースペクトルにおける倍音と音色との関係を生徒の 活動を通して学ばせることで,これまで難しいとされ てきた音色の理解が可能となることを示した.ここで 取り上げた教材は音に対する物理的理解を深めるとと もに,理科と音楽との横断的な関わりについて知見を 拡げることになる.したがって近年進展しつつある STEM/STEAM 教育の観点からもその教育的意義が大 きいと考えられる. 謝辞 本研究を実施するにあたって,授業実践の機会を与 えていただいた,加西市立泉中学校校長の高田勝也氏, 同校教諭の稲岡信裕氏に深く感謝いたします. 文献 濱本悟志(2001) :楽器の魅力とその解明―物理と音楽の 合科型授業の実践―,物理教育,49, 2, 175–179. 猪本修,大村優華(2020):ヒトの声を題材とした音と音 色の物理教材,日本科学教育学会研究会研究報告,34, 10, 5–10. 川野和昭,三仲啓(2005):感覚に基づいた音の授業とそ の達成度評価,鹿児島大学教育学部教育実践研究紀要, 15, 31–38. 文部科学省(2017a):中学校学習指導要領(平成29年告 示)解説 理科編. 文部科学省(2017b) :小学校学習指導要領(平成29年告 示)解説 音楽編. 沖花彰(2011) :鍵盤ハーモニカを分解しながら学ぶ理科 学習:理科と音楽を融合した新しいカリキュラム,理科 教育学研究,52, 2, 171–177..

(10) 12. 大村・猪本:中学校理科における声のグラフを利用した音色の教材化. 大村優華,猪本修(2019):音叉を用いた音色に関する実 験教材の開発,日本科学教育学会研究会研究報告,33, 7, 17–20. 大塚正元(2003) :楽譜の数学,早稲田出版. 横関直幸(2014):中学・高校・大学をつなぐ「高等学校 物理基礎」,物理教育,62, 1, 35–40. 吉川茂,藤田肇(2002) :基礎音響学,講談社.. (受付日2020年7月15日;受理日2020年10月30日) 〔問い合わせ先〕. 〒673-1494. 兵庫県加東市下久米942-1 兵庫教育大学大学院学校教育研究科 大村 優華 e-mail: [email protected].

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参照

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