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ボニー・ヒューレット 著 服部志帆,大石高典,戸田美佳子 訳『アフリカの森の女たち 文化・進化・発達の人類学』春風社 2020年3月刊 3100円(税別)(414ページ)

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Academic year: 2021

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(1)78. 書 評. ボニー・ヒューレット 著 服部志帆,大石高典,戸田美佳子 訳 『アフリカの森の女たち 文化・進化・発達の人類学』 春風社 2020 年 3 月刊 3100 円(税別) (414 ペー ジ) 本作は,2003 年に出版された「Listen, Here is a Story」 の邦訳版である。中央アフリカ共和国で同所的に暮ら し,密接な関係がありつつも異なる文化をもつ農耕民 「ンガンドゥ」と狩猟採集民の「アカ」の女性たちのラ イフヒストリーが,4 人の女性による「語り」という形 でまとめられている。人類学を学ぶ人だけでなく,ア フリカやフィールドワーク,そしてジェンダー論に興 味がある方にお勧めしたい。著者のボニー・ヒューレッ ト博士は中央アフリカ共和国やエチオピア,カメルー ンで,主に思春期の子どもの心身の発達や健康につい て現地調査を行ってきた。アラスカで育ち,先住住民 ユピックと関わった経験や,出産育児を扱う医療セン ターで 10 年間看護師として働いたバックグラウンドも 持つ。子どもを対象にインタビュー調査を行っていた 著者の元に,「私の話も聞いて!」と女性たちがやって きたことがきっかけでこの本が生まれたのだという。 ンガンドゥとアカの女性たちの語りをライフステー ジごとに整理して比較する形をとっているが,それは 「どちらが良い,悪い」ということではない。著者は, 社会構造や社会関係の違う 2 つの民族の比較から,そ のような違いがどのように女性の性役割や地位,知覚, 経験に影響するかを考えることが目的だと述べている。 社会の違いにより変化することと,社会が違っても共 通する部分が見えてくるのだ。私は 2011 年からコンゴ 民主共和国で大型類人猿ボノボのメスの社会関係や社 会的地位,役割について研究を行っており,その中で 近縁のチンパンジーの社会との比較を行うことが多々 ある。本作と非常に似たアプローチをとってきたのだ が,悲しいかな,ボノボ / チンパンジー語が話せない以 上,私には彼らの「主観的な思考」を比較することは 難しい。女性自身の生き生きとした語りから彼女たち の内面を解き明かしていく著者に強い羨望を感じると ともに,量的データだけでなく,一頭一頭,一つ一つ の観察エピソードに寄り添って考えることの大切さに 改めて気づかされた。また,私の調査地の住民たちは ンガンドゥのような農耕を中心とした生活を送るもの の,アカのような狩猟採集も日常的に行う。そのためか, 本書で語られる 2 つの民族の語りのどちらにも見覚え 聞き覚えのあるエピソードがあり大変興味深かった。 本書は 7 章構成から成る。序章として,著者が初め てのアフリカでのフィールドワークで体験した生と死. 双方についての強烈な体験と,彼女が研究上の問いや 研究手法を練り上げていく様子,本書の主人公たちで ある 4 名の女性たちのプロフィールや性格が紹介され る。第 1 章では,ンガンドゥとアカの民俗学的特徴や, フランスによる植民地支配がンガンドゥとアカの関係 性に与えた影響が説明される。女性たちはそれぞれ相 手の民族に対する印象を語る。かつてアカに対し優位 にふるまっていたンガンドゥの女性たちは昔のアカと の関係を懐かしむような回想が多い一方で,アカの女 性たちはその関係を好ましく思っていなかったと語る のが印象的だ。第 2 章では,女性たちの物心ついたこ ろから子ども期までの成長が語られる。女の子たちは おままごとで遊び,満月の夜には夜遅くまで踊る一方 で,まだ幼いうちからンガンドゥでは畑仕事,アカで は猟やヤマノイモの探し方といった「女性としての生 き方」を両親や祖母から学んでいく。第 3 章から第 4 章にかけては結婚と出産がテーマだ。自分の体の変化 について考えたことや,結婚を決めたときの心の動き, 性への考え方,出産と子育てが赤裸々に語られる。著 者はもともと「喪失と悲嘆」について研究を行ってい るだけあって,子どもを失ったときの悲しみについて は特に詳細に聞き取りと解説を行っている。私は調査 地の村の女性と話すとき,このような繊細な話題はつ い避けてしまう。インタビューを行う著者と女性たち の信頼関係の深さが伺えた。第 5 章では,家庭内での 妻として母としての役割が語られる。特に夫との関係 が中心となる。家庭内で男に主権があるンガンドゥで は家庭内の男女の関係に不平等が大きく,働き手とし ての妻の役割がはっきりしている。ンガンドゥの二人 の生活は「働く女がいい女」いう誇りによって支えら れているようだ。男女がより平等的なアカの二人は, 時に夫の浮気に怒りながらも「ずっと夫が大好き」と 惚気ていて微笑ましい。どちらの女性も,結婚に重要 なのは相手に対する敬意であると考えている。第 6 章 では彼女たちは老女として,大人になった子どもたち や孫たちに敬意をもって扱われるときの満ち足りた気 持ちや,若者に知識を伝える大切さについて語る。最 終章となる第 7 章では,グローバリゼーションにより もたらされる急激な変化と伝統の間で揺れ動くアカと ンガンドゥの社会について解説され,地域に生きる人々 の未来に思いをはせる。 女性たちの語りが本作の中心であるものの,その前 後では著者による詳細な解説と考察がなされている。 人類学に詳しくない読者であっても,女性たちの成長 と学び,恋や子育て,愛する者との死別といった経験を, 彼女たちの喜びや苦しみに共感を深めながら読み進め ていく内に,各出来事の文化的・歴史的背景を学び, 文化人類学的理論とのつながりをもって考えることも できるようになっている。語りの部分には現地の言葉.

(2) 79. がそのまま用いられてわかりにくい部分があり,解説 には難解な専門用語が多々見られるが,そのような語 句にはページ下部に詳細な訳注が加えられている。ま た,各章の最後にはいくつかの「考察のための問い」 が設けられている。「植民地支配や経済システムの変化 はアカとンガンドゥの関係をどのように変えたか?」 というような読者の理解を助けるための設問から,「子 ども期の遊びはなぜ重要か。あなたが遊びを通して学 んだことは何か?」という,読者自身の経験を思い起 こさせるものまで多岐にわたっており,読者の思考を 促す工夫がなされている。各所に挿入された著者自身 のフィールドノートの抜粋は,いわば著者による「語り」 である。フィールドワークを行う彼女の経験や思いか ら,読者は自らがアフリカの森を訪れているような気 分を味わうことができるだろう。さらに日本版には, 中央アフリカ共和国の隣国のカメルーンで活動する日 本人研究者たちのコラムも追加され,様々な視点から アフリカの森での生活を知ることができる。 本作で人生を語る 4 人は植民地支配による抑圧や伝 統的生活スタイルへの西洋思想の流入などの変化の時 代を生き抜いた女性である。しかし,アカとンガンドゥ の女性の生き方をまとめるという目的上,「女性として 典型的」な人生を送った女性が選ばれているようにも 思える。全体を通じて,彼女たちが女性としての考え 方や生き方を母親や祖母といった年上の女性に教えら れるシーンが多くみられ,彼女たちはそれを「よい教訓」 として受け入れて,実践していく。 (蛇足ながら,その「教 訓」の多くは,2020 年の日本で女性として生きる私に とっては反発を覚えてしまうものである。今までに同 様の「教訓」を一般論として提示する本や論文を読ん できて反発を覚えたことはなかったのだが,語りとい う記述の方法のメッセージ性の強さを実感した。)彼女 たちの娘や孫の世代は,さらなる「女性としての価値観」 の変化(あるいは既存の価値観への反発)を経験して いるだろう。私が調査をしているコンゴ民主共和国の 奥地の村でも,以前はほとんどいなかったズボンを履 く女性を見かけるようになり,大学への進学を希望す る女性も出てきた。本作の最後で述べられているよう に激変の時代にもかかわらず自らの信念のもとに生き てきた女性たちに勇気づけられる一方で,これからど んどん多様になってくるだろうアフリカの女性たちの 生き方の変化と,しかしその根底に維持されていくで あろうものという,柔軟性と不変性について知りたい という思いに駆られ,読み終えたそばから続編を期待 してしまった。 (京都大学霊長類研究所 徳山奈帆子: [email protected]).

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