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有機デバイス関連界面の電子構造

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16 716

1 名古屋大学物質科学国際研究センター(〒4648602 名古屋市 千種区不老町)

2 名古屋大学大学院理学研究科

Fig. 1 Schematic diagram of organic/metal interface.

16

716 ―( )― J. Vac. Soc. Jpn.(真空)

有機デバイス関連界面の電子構造

金井

要

1

・関

一彦

2

Electronic Structure of Organic Device Related Interfaces

Kaname KANAI1and Kazuhiko SEKI2 1Research Center for Materials Science, Nagoya University,

2Graduate School of Science, Nagoya University (Received July 6, 2007, Accepted October 13, 2007)

Understanding of the electronic structure at organic/metal (O/M) interface is essential to elucidate charge injection process from the electrode to the active organic layers in the organic devices. The charge injection properties are believed to have signiˆcant in-‰uences on the device performance. The aim of this paper is to overview the speciˆc problems of the electronic structure at the O/M interface. The problems are discussed by dividing the O/M interface into ``contact interface region'' and ``transition region''. The former is deˆned as the very thin ˆlm region where the metal directly aŠects the electronic structure of organic ˆlm and the latter is de-ˆned as the region of transition from the contact interface region to bulk region.

有機/金属界面は有機デバイスにおける有機/電極界面のモデルであり,その電子構造を解明することは電荷注入機構の解明にとっ て重要である.有機/金属界面を議論するためには,金属表面に吸着した数分子層の領域と,金属表面からの直接的な影響のない膜 厚のより厚い領域を区別して扱う必要がある.それぞれの領域において,電子構造の支配的要因は異なるからである.本稿では,そ れぞれの領域における問題を取り上げ,最近の研究動向を交えて,有機/金属界面の電子構造における基本的な問題を解説したい. . は じ め に 有機半導体薄膜を用いた電子デバイスの機能発現におい て,重要な物理現象の多くは界面において起こっている.こ こで,界面という言葉は,異物質がまさに接している接触界 面だけではなく,接触界面からバルクの状態へ遷移してゆく 周辺の領域も表す.有機デバイスに関連した界面としては, 有機/金属,有機/有機,有機/絶縁体,有機/(無機)半導体 界面があるが,本稿では,その中でも特に,有機/金属界面 を取り上げる.有機/金属界面は言うまでもなく有機/電極界 面のモデルであり,電極から有機薄膜への電荷注入,電荷取 り出しに関連して,その微視的理解は有機デバイスの動作原 理の解明だけではなく,デバイスの効率向上や新規材料開発 にとって重要な指針を与えるものと考えられる. 一言に有機/金属界面と言っても,有機薄膜の膜厚によっ て,電子構造や,膜構造の支配的な要因は異なる.Fig. 1 に示したように,金属と接している数分子層は金属からの影 響を強く受け,その膜構造も,電子構造も有機分子と金属の 間の相互作用を無視することはできない.本稿ではこの膜厚 領域を「薄膜領域」と呼ぶことにする.一方で,それ以上の 膜厚領域では金属の影響が薄れ,バルク領域へと緩やかに遷 移してゆく.ここでは,この領域の事を「遷移領域」と呼ぶ. 以下では,それぞれの領域における典型的な問題を取り上 げ,これまで得られている理解と,未解決な問題を解説した い.

. 薄膜領域(Contact interface region)にお ける問題 薄膜領域は,まさに有機分子と金属基板表面が接している 領域である.ここで取り上げる問題は,“金属と有機薄膜の 電子準位がどのように接続するか”と言う問題である.電極 から有機薄膜中に電子や正孔を注入する時,注入障壁の大き さ ( FB) は 金 属 の フ ェ ル ミ 準 位 と 有 機 薄 膜 の HOMO や LUMO と言った電荷輸送準位とのエネルギー差で表され る.ここでの電子準位接続とは,界面において金属のフェル ミ準位と有機薄膜の HOMO や LUMO がどのようなエネル ギー的な関係を持つかということであり,上述の問題は, “FBはどのようにして決定されるか”と読み替えることが できる.FBは電極からの電荷注入効率を決定するだけでは なく,注入されやすいキャリアの種類をも決定する.有機薄 膜中にはもともとキャリアがほとんど無いことから,FBは 有機薄膜の主要キャリアの種類の重要な決定要因となる1) Fig. 2(a)に金属基板と有機単分子層が接した時のエネル ギーダイアグラムを示す.この場合は金属のフェルミ準位と

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17 717 Fig. 2 Schematic energy diagram of organic/metal interface.

Fig. 3 TNAP ˆlm thickness dependence of the vacuum level energy shift.

Fig. 4 (a) IRRAS spectra of TNAP/metal substrates in the region of CN stretching vibration. The observed peaks at 2218 cm-1and 2189 cm-1correspond to CN stretching vibra-tion mode of TNAP and TNAP-1, respectively. (b) UPS spectra of TNAP ˆlm on Ag substrate. The simulated DOS were obtained by Gaussian 98 package with B3LYP/631G (d)4). 17 717 ―( )― Vol. 50, No. 12, 2007 有機薄膜の LUMO が近く,電子注入障壁 FBは FB=EF- EAで表される.ここで,EAは有機薄膜の電子親和力であ る.しかし,実際に観測される電子準位接続はそんなに単純 ではない.これまでの研究によって,多くの有機薄膜の場合 にエネルギーダイアグラムは Fig. 2(b)のようになり,金属 基板と有機薄膜の間に真空準位のシフト D が生じることが 分かっている2,3).実際の F Bは FB=EF-D-EAと表すこと ができる.つまり,D の大きさだけ,電子注入障壁は下がる ことになる.多くの有機薄膜の場合は,D は正の値を示し, 典型的な値としては,数百 meV から 1 eV 程度である.有 機デバイスに使用される,光・電子機能性有機分子の多くが 可視域にエネルギーギャップを持つことを考えれば,D の影 響は大きい.現象としては有機薄膜と金属基板の界面におい て,分極が起きる事によって,(多くの場合,有機薄膜側が 正に帯電する)界面電気 2 重層が形成されることが D の成 因である.一方で,なぜそのような分極が生じるのか,未だ 微視的理解は得られていない.石井らは,彼らの先駆的な研 究の中で2),界面電気 2 重層の成因について,基板と吸着 分子の電荷移動相互作用,化学結合の形成,界面準位の 形成,極性分子の配列,鏡像効果,金属表面から染み 出し た電子 雲の 押し戻 し効果 の 6 つの 可能性 を挙げ てい る.基板と吸着分子の間の相互作用が比較的強い系では~ が,,は比較的相互作用の小さな系において重要な寄 与をすると考えられる.以下では,吸着分子と基板金属の相 互作用の大きさの異なる 3 つの例を示す. Fig. 3 にアクセプター性を持つ 11, 11, 12, 12tetracyano-naphtho2, 6quinodimethane (TNAP)分子の薄膜をそれぞ れ Au, Ag, Cu 基板上に形成していった時の TNAP 薄膜の 膜厚に対する真空準位の変化を示す.実験は紫外光電子分光 (UPS)によって測定した4).どの基板の場合も真空準位は 1 nm 程度の膜厚まで急に上昇していることが分かる.上昇 は Ag 基板の場合にもっとも大きく,約 1 eV 程度となって いる.この D(<0)の形成によって,TNAP 薄膜の電子準 位は金属基板の EFに対して引き上げられることになる.こ の場合,D の主要な成因は比較的簡単に理解できる.Fig. 4 (a )に Ag 基 板 上 の TNAP 薄 膜 の 赤 外反 射 吸 収 分 光 ( IR-RAS)を示した.膜厚を増やしてゆくに従い,2200 cm-1 付近の CN 伸縮振動に変化が見られることが分かる.2218 cm-1の ピ ー ク は 中 性 の TNAP, 2189 cm-1は TNAP CN に対応していることから,薄膜領域では TNAP-の層が 形成されている事を示しており,膜厚が増加するに従い,中 性の TNAP の薄膜が堆積してゆく様子が分かる.IRRAS に 比べて,より表面敏感である UPS を用いて,フェルミ準位 近傍の電子構造を観測した結果を Fig. 4(b)に示す.膜厚が 0.5 nm までのスペクトルは 1 nm 以上のものとは異なってい る.図中に示した TNAP と TNAP-の分子軌道計算の結果 との比較から 0.5 nm のスペクトルは TNAP-のスペクトル で良く説明され,基板直上のほぼ単分子層は TNAP-層と なっている事が分かる.図中矢印で示した準位は,基板から の電荷移動によって,TNAP の LUMO が占められる事によ って出来た界面特有の準位である.これらの事から,この系 におけるDの主要な成因は上記の 6 つの可能性のうち,電

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18 718

Fig. 5 IV properties of ZnPc (200 nm) ˆlm with ITO anode and Al cathode. The fabrication and measurements were per-formedin situ. The result of device with TNAP layer (2 nm thickness) right under the cathode is shown for the compari-son. 18 718 ―( )― J. Vac. Soc. Jpn.(真空) 荷移動相互作用であり,有機薄膜側が負に,基板側が正に帯 電する事によって形成される界面電気 2 重層によるもので ある. このように分子と基板の間に比較的強い相互作用が期待さ れる場合,D を意図的に導入し,FBを制御することが可能

である.Fig. 5 に,ITO/ZnPc 薄膜/Al のデバイスの電流 電圧特性を示した.ZnPc と Al 電極の間に TNAP の薄い層 を挿入する事によって,特性は印加電圧に対して対称的にな り,Al 電極からの正孔注入効率に劇的な改善が見られる. これは,Al 電極と TNAP 薄膜の界面に真空準位を押し上げ るように D が形成された結果,Al のフェルミ準位と ZnPc の HOMO の位置が近づき,正孔注入障壁が低減されたため と考えられる. 次に,もう少し分子と基板の間の相互作用が小さいと考え られる系について述べる.これまでの実験的研究によって, 多くの有機/金属界面において,分子と金属の間に何らかの 弱い化学的相互作用が起こっている事が分かってきている. しかし,多くの場合,前述の TNAP の電荷移動の場合のよ うに成因の直感的な理解は難しく,今後,理論的解析による 解釈が必要である.このような系としては,ペリレン誘導体 である PTCDA を Ag 基板上に吸着された系が良く知られて おり,Ilmenau 工科大の Tautz や Wurtzburg 大の Umbach らによって詳しく調べられている.この系において,フェル ミ準位近傍に形成される界面準位の成因については,PTC-DA のp 軌道と Ag の 5s, 4d バンドの軌道混成によるものと 報告されている5,6) プリンストン大学の Kahn とマドリード自治大学の Vaz-quez らは,無機半導体における電荷中性点(CNL)の考え 方を有機半導体薄膜にも持ち込み,幾つかの金属基板と PTCDA をはじめとする有機半導体の組み合わせにおいて生 じる D の定量的な解析を行った7,8).彼らは,弱い化学吸着 系において,吸着した分子と金属との相互作用によって生じ る自己エネルギーを計算し,吸着分子の分子軌道がエネル ギー的に広がる事を示した.そして,吸着した薄膜の CNL と金属基板のフェルミ準位との差異を埋めるように電荷のや り取りが行われた結果,界面において電荷分布の再編が起こ り,界面 2 重層が形成されるとしている.彼らはこの考え 方を有機/有機界面にも適応し,実験結果を良く説明出来る 事を示した.界面 2 重層 D の成因を単純なモデルで統一的 に理解できるとした,この考え方は大変魅力的であるが,前 述の可能性の,の寄与を露わには考慮していない点,ま た,現実の系では吸着分子の変形や,吸着分子と金属基板の 間で軌道混成などが起こる事が,すでに実験的に示されてい るが8),彼らのモデルでは,このような系の詳細を考慮せ ず,問題を単純化し過ぎている点もあり,今後,更なる実験 的な検証とモデルの改良が必要と考えられる. 最後に,より分子が不活性であり,単純な物理吸着と考え ら れ る 系 の 例 を 考 え る . 直 鎖 ア ル カ ン 分 子 で あ る Tetratetracontane (n-C44H90TTC)はポリエチレンのモ デル分子であり,9 eV 以上のエネルギーギャップを持つ. LUMO は真空準位以上にあり,基板からの電荷移動などの 相互作用は起こりにくいと考えられ,また,吸着エネルギー も 6.2 kJ/mol/CH2と小さく,理想的な物理吸着系とみなす ことができる9,10).しかし,この場合にも,比較的大きな D が生じる事が分かっている.吉村らは TTC を Cu(100)面上 に吸着させた系について,D=-0.3 eV が生じ,真空準位が 下がることが報告している11).また,Al 基板上では,D= -0.5 eV, Au(111)基板上では,さらに大きい D=-0.7 eV が生じる12).このように D の大小が基板の仕事関数の大小 に依存するということは,仕事関数が金属表面から真空中へ の電子密度の染み出しによって形成される事を考えると,上 記 の可 能性の の寄 与が 大きい 事を伺 わせ る.TTC /Cu (100)の系については大阪大の森川らによって,理論的な解 釈が試みられ,実際に Cu(100)面上に吸着させた系につい て,-0.3 eV の D が生じることが再現された13).彼らの結 果によれば D は,分子の吸着に伴う,金属基板表面の電荷 分布の複雑な再編によって生じる事が示された.石井らによ る 6 つの可能性のうち,,の可能性が対応すると考え られる.彼らの結論の一つとして,分子の吸着に伴って生じ る D の大きさは分子の吸着距離に強く依存する事が示され た.分子の吸着距離は実験的には放射光を用いた X 線定在 波法14)などによって決定することが出来るが,一般に決定 方法が限られている.そこで,森川らは,金属基板上に TTC 分子が吸着することに伴い TTC の CH 伸縮振動がソ フト化する事を理論的に解析し,ソフト化の度合いの吸着距 離依存性から TTC/Cu(100)の場合の吸着距離を0.38 nm と 見積もった13).Fig. 6 に細井らによって報告された TTC/ Cu(100)の IRRAS の結果を示した.ポリエチレンの結晶で は n(CH)は約2848 cm-1に観測されるが,Cu(100)面上 では,ソフト化した n(CHCu)が約 2800 cm-1に現れて いるのが分かる15).ここで,注意したいのは CH 伸縮振動 のソフト化は,Cu(100)基板から CH の反結合性軌道へ電 子の供与がある事を示唆している事である.LUMO が非常 に高く,純粋な物理吸着系と考えられた TTC 分子において さえ,界面において,電荷のやり取りを伴う電子構造の再編 が起こっていると事を示している.Fosser らは,このよう な金属からアルカン分子への電子供与について,アルカンの

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19 719 Fig. 6 IRRAS spectra of TTC thin ˆlm deposited on Cu(100)

substrate15). The softenedn(CHCu) is observed around 2800 cm-1 in the spectrum of the ˆlm with 0.15 nm ˆlm thickness.

Fig. 7 Thickness dependence of the vacuum level of TPD ˆlm deposited on Au and Cu substrates. The observed values are measured from the substrate vacuum levels.

1 有機半導体薄膜において,「バンド」という言葉はふさわしく ないが,ここでは「電子準位の膜厚に対する変化」という意味 で使用する. 19 719 ―( )― Vol. 50, No. 12, 2007 Rydberg 準位が関与するとの解釈を行っている16) 最後に,TTC 吸着系の D の成因に関連して金属基板上へ の希ガスの吸着系の系との類似点と相違点を指摘したい.実 は,金属基板上への希ガスの吸着の際にも比較的大きな D が生じる事が知られている.例えば,単分子層の Xe が Au (111)面上に吸着した場合には,約0.5 eV もの D が生じる事 が知られており,その成因として,の可能性に対応する パウリの排他律や,鏡像ポテンシャルによる界面電荷密度の 再編成によるものとして解釈されている17,18).TTC のよう な分子の場合にも希ガスの場合と同様のメカニズムを考える 事ができるが,希ガスの場合と異なるのは,上述したように TTC でさえ,分子と金属の間で電荷の授受を伴うなど,完 全に弱い化学吸着の可能性を排除できない点にある.最近の 我々の角度分解光電子分光による研究からは,TTC が Au (111)表面に吸着するに従い,Au の spバンドギャップ中に 現れるショックレー準位が低束縛エネルギー側へシフトする こと,また,そのエネルギー分散の振る舞いも,清浄な Au (111)のものから変更を受ける事が観測されている.ショッ クレー準位の低束縛エネルギー化は希ガスの吸着によっても 生じる事が知られているが19),TTC 吸着によるショック レー準位への影響は,有効質量の増大を伴うなど,表面電子 との相互作用は希ガスの吸着とは,異なった状況にある事を 示している. これまで述べたように,吸着分子と基板との間の相互作用 の異なる系について,界面電気二重層の成因を統一的に議論 する事は難しい.今後は,単結晶基板を用いたより規定され た系において,表面物理的なアプローチを行い,様々な系に ついて詳細な情報を蓄積し,それぞれの系について個別に検 討を行ってゆく必要がある. . 遷移領域(Transition region)における問 題 有機薄膜の膜厚が厚くなり,基板からの直接的な影響が弱 まり,バルク領域へ遷移してゆく遷移領域において,有機薄 膜の電子準位はどのように遷移してゆくのだろうか.もとも と,膜中にほとんどキャリアが存在しない有機半導体薄膜の 場合,キャリアドープされた無機半導体の場合とは事情は大 きく異なることが予想される. Fig. 7 に Au と Cu 基板上に作成した TPD 薄膜の真空準 位 を ケ ル ビ ン 法 に よ っ て 膜 厚 に 対 し て 調 べ た 結 果 を 示 す20).界面近傍の薄膜領域で真空準位は急激に降下する. この降下は前節で議論した界面二重層の形成による D であ る.一方で,それ以降の遷移領域では,真空準位はほとんど 変化せずに,Au 基板と,Cu 基板で異なるエネルギーに留 まっている.この時,TPD の HOMO と LUMO はそれぞ れ,真空準位から5.1 eV, 2.1 eV 程度に位置するために,Au 基板では,正孔注入障壁が1.1 eV 程度と,比較的小さく, 正孔注入が容易であると考えられる.有機半導体薄膜の中に は,TPD とは異なり,膜厚と共に電子準位のエネルギーが 変化する系も多く見受けられる.Fig. 8 に,一例として Au 基板上にフッ素化亜鉛フタロシアニン(F16ZnPc)薄膜の HOMO のエネルギーの膜厚依存性を示す.TPD と同様に界 面二重層の形成後,HOMO のエネルギーは膜厚とともに徐 々に上昇してゆくのが分かる.この時,真空準位も同様の振 る舞いを見せ,130 nm 以上にわたって上昇する.この電子 準位の変化を,ここでは無機半導体との類似から「バンドの 曲がり」と呼ぶことにする1.このバンドの曲がりは,分子 の種類によって振る舞いが異なり,亜鉛フタロシアニンでは 膜厚とともに下降する.現在までに,このようなバンドの曲 がりを生み出す薄膜内の電位変化の成因について,幾つかの 説明が試みられてきているが,最終的な解決には至っていな い2,20)

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20 720

Fig. 8 Thickness dependence of the HOMO energy of F16 ZnPc ˆlm. The results of TTN ˆlm and F16ZnPc ˆlm doped with TTN with the concentration of about 10 are shown for the comparison21).

Fig. 9 Schematic energy diagram of F16ZnPc thin ˆlm drawn based on the results in Fig. 9. (a) F16ZnPc ˆlm and (b) F16 ZnPc ˆlm doped with TTN with the concentration of about 10.

Fig. 10 IV properties of F16ZnPc ˆlm and F16ZnPc ˆlm doped with TTN. The Pt comb-shape electrodes were used for the measurements. The fabrication and measurements were performedin situ.

Fig. 11 IV properties of pristine Alq3 ˆlm and Alq3 ˆlm doped with TTN. Both the bottom and top electrodes are evaporated Mg ˆlm. ``Bulk'' shows the result for the ˆlm doped through all the ˆlm and ``Interface'' shows the result for the ˆlm doped right at the electrode interfaces with 10 nm thickness22). 20 720 ―( )― J. Vac. Soc. Jpn.(真空) 本稿では,この成因のひとつの可能性を示したい.Fig. 8 に F16ZnPc 薄膜に強いドナー分子である tetrathianaphtha-cene (TTN)をドープした薄膜の HOMO の膜厚依存性を示 す21).薄膜領域では,F 16ZnPc 薄膜と同程度のD が生じる が,それ以降の振る舞いは異なっている.F16ZnPc 薄膜で は,上向きにバンドが曲がるが,TTN ドープしたものでは 下向きに曲がる.これらの実験結果から得られたエネルギー ダイアグラムを Fig. 9 に示した.F16ZnPc 薄膜ではバンド の曲がりは上向きに100 nm 以上に渡って生じるが,TTN ドープしたものでは30 nm 程度で下向きに曲がる.これによ って,電極から F16ZnPc 薄膜の LUMO への電荷注入障壁が 薄くなっている事が分かる.これは,次のように解釈できる. F16ZnPc 分子の電子親和力は約4.5 eV であり,TTN のイオ ン化エネルギーは約4.4 eV であるため,TTN は F16ZnPc へ 容易に電子を供与し,TTN+イオンとなり,薄膜中に固定 電荷を形成する.基板との界面近傍にドープされたキャリア は,基板へと拡散する.よって,界面では TTN+イオンに よる空間電荷層が形成され,バンドが下向きに曲がることに なる.結果として,基板からの電子注入障壁の厚さは薄くな り,電場がかかった状態では,トンネル注入が可能となり, 注入効率が向上すると考えられる.Fig. 10に F16ZnPc 薄膜

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21 721 Fig. 12 Thickness dependence of the vacuum level of C60ˆlm

deposited on metal substrates20).

Fig. 13 Thickness dependence of the vacuum level of C60ˆlm deposited on Cu substrate. The results for the C60ˆlm with C60specimen puriˆed by vacuum sublimation are presented for the comparison20).

21 721 ―( )― Vol. 50, No. 12, 2007 と,TTN をドープした F16ZnPc 薄膜の電流電圧特性を示 す.ドープした薄膜は,していない薄膜に比べて数十倍に電 流値が上昇しており,実際に電荷注入効率が向上していると 考えられる. 次に,より顕著な例を示す.Fig. 11 に有機 EL 素子にお いて代表的な電子輸送材料である,Alq3薄膜の電流電圧特 性の結果を示す22).無ドープの Alq 3薄膜は熱電子放出型で あり,注入律速の振る舞いを示す.これから見積もられる電 子注 入障 壁は 約0.23 eV であ る.TTN を Alq3薄膜全 体に ドープしたものでは,電流値は大幅に上昇し,電圧電流特 性は明らかな空間電荷制限電流の振る舞いを示す事が分か る.これは,界面における電荷注入が劇的に改善された事を 示している.さらに,TTN をドープする領域を,電極付近 の10 nm の範囲に限ったものでも同様の振る舞いが観測さ れ,薄膜全体にドープしたものより特性はむしろ向上してい る.このことからも,TTN ドープによる Alq3薄膜の電気特 性向上は,電極からの電子注入効率の向上によっている事が 分かる. Dresden 工科大学の Leo らのグループは,非常に強いア クセプタ ー分子である F4TCNQ を 用いて,先駆的 な p 型 ドーピングの研究を行い,幾つかの正孔輸送材料への注入効 率が改善する事を報告しており23),現在では,実際のデバ イスにおいても実用化され始めている.これまで述べた結果 は,無機半導体と同様にキャリアドーピングによって有機半 導体の遷移領域の電荷分布を変化させ,電子構造をコント ロールする事ができる事を示している24,25) 最後に,一つ注意しなければならないのは,前述した有機 半導体薄膜におけるドーピングの考え方は,一見,無機半導 体におけるドーピングの考え方に沿っているように思える が,その本質は無機半導体とは大きく異なっていると考えら れる.例えば,有機薄膜の幾つかは必ずしも結晶性の良い物 ばかりではなく,バンド伝導を考えられない場合も多い.そ のような場合における伝導機構,空間電荷層形成やドーパン トのキャリア放出の機構などは未解明のままである.今後, 無機半導体との類似点と相違点を客観的に検討する事によっ て,有機薄膜におけるキャリアドーピングのメカニズムを明 らかにする必要がある. 最後に,有機薄膜に含まれる不純物について述べる.Fig. 12に様々な金属基板上に作成した C60薄膜の真空準位を膜厚 に対して示した20).薄膜領域における D は,基板によって 様々であるが,その後の遷移領域での振舞いは同様に下向き に曲がる.上述の考え方に基づけば,界面に”意図せず含ま れているドナーイオン”による空間電荷層が存在すると解釈 できる.実際に,Fig. 13に示したように,このバンドの曲 がりは,試料の精製によって解消される方向へ変化する事か ら,やはり薄膜中に意図せず含まれる不純物と関係がありそ うである.一方で,Fig. 7 の TPD の場合には,そのような 意図しないドーパントが膜中に存在しないと解釈できる.し かし,キャリアドーピングをしていない状態で,意図せず ドープされたドナーが C60薄膜中に実際に存在しているとい う実験的な証拠は今までのところ得られていない.同様の事 は,前述の F16ZnPc 薄膜にも言える.ここで,我々が言え る事は,多くの有機半導体薄膜において,(意図的なキャリ アドーピングを行っていない系であっても)遷移領域におい て,薄膜中に何らかの電荷分布が存在し,バンドの曲がりを 引き起こしていると言う事だけである.このバンドの曲がり が顕著な場合には,電極からの電荷注入効率に対して影響を 及ぼす事になる.意図的なドーピングとは,まず,この意図 しないドーピングの効果を相殺し,さらに意図する電気特性 を実現する事となる.バンドの曲がりの成因に関しても,今 後,様々な系における知見を蓄積し,慎重な検討を行ってゆ

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22 722 22 722 ―( )― J. Vac. Soc. Jpn.(真空) く事が必要である. . ま と め 本稿では,有機/金属界面における,“電子準位接続”に関 する問題を取り上げ,これまでの研究について紹介した.薄 膜領域に関しては,これまでに,幾つかのグループによっ て,実際に有機デバイスに使用されている多くの機能性有機 物質に関する知見が蓄積されてきた.一方で,未だ,その系 統的な理解には至っていない.接触界面で起きている物理現 象を微視的に理解するためには,より単純で,良く規定され たモデル系に対する表面科学的なアプローチが必要な段階に 来ている.遷移領域に関しては,実験的な知見が蓄積されつ つある段階にあり,薄膜領域以上に状況は混沌としている. 有機半導体薄膜と金属の界面と言っても,その電子構造を議 論する出発点として,系によって(ドープされた)半導体/ 金属界面と見なす立場が妥当な場合と,絶縁体/金属界面と 見なす立場が妥当な場合がある.前者の立場で半導体物理と のアナロジーで無批判に議論が進んでしまうのは危うい.常 に多角的な視点で議論を行ってゆく必要がある. 謝辞 本稿に紹介した幾つかの研究は,科学研究費補助金 学術 創成研究“有機デバイス関連界面の解明と制御”,及び,住 友財団基礎科学研究助成(060816)によって,行われたも のであり,関係各位に感謝致します. 林直樹博士(現 住友化学株式会社)と Suidong Wang 博士(現 理化学研究所)には共同研究を通して,有益な議 論を行って頂き感謝致します. 〔文 献〕

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Fig. 1 Schematic diagram of organic/metal interface.
Fig. 3 TNAP ˆlm thickness dependence of the vacuum level energy shift.
Fig. 5 I V properties of ZnPc (200 nm) ˆlm with ITO anode and Al cathode. The fabrication and measurements were  per-formed in situ
Fig. 7 Thickness dependence of the vacuum level of TPD ˆlm deposited on Au and Cu substrates
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参照

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