The Journal of the Japan Academy of Nursing Administration and Policies Vol. 24, No. 1, 154-163, 2020
原著
エンパワメント構造とキャリアデザインが
中堅看護師の精神的エンパワメントに及ぼす影響
Effect of Empowerment Structures and Career Design on Psychological Empowerment of Mid-Career Nurses
笹本 麻実
1)*塚本 尚子
2)Asami Sasamoto 1)* Naoko Tsukamoto 2)
Key words : mid-career nurses, empowerment structures, career design, psychological empowerment
キーワード : 中堅看護師,エンパワメント構造,キャリアデザイン,精神的エンパワメント
Abstract
We aimed to study how differences in the career design affect psychological empowerment in mid-career nurses with empowerment structure access. The study participants included 216 nurses who were working for the past 5–15 years at 7 hospitals in the capital area of Japan. The data were collected via anonymous self-administered questionnaire, including questions on basic attributes, Conditions of Work Effectiveness Ques-tionnaire-Ⅱ, Psychological Empowerment Scale , and Career Design Scale for nurses. A two-way ANOVA using dependent variable psychological empowerment and independent variables empowerment structure access and career design and its components was performed. Consequently, the main effects observed were related to empowerment structure access (F(1, 212)=7.51, p<.01) and career design (F(1, 212)=29.00, p<.001); psychological empowerment of the high group of each independent was greater than that of the low group. Furthermore, interaction was observed between empowerment structure access and crossroad awareness of nurse life in the carrier design components (F(1, 212)=7.85, p<.001). These show that empowerment structure access and the difference in the degree of career design affect psychological empowerment for mid-career nurses. In addition, it was confirmed that nurses who accessed empowerment structures affects psycho-logical empowerment via “crossroad awareness of nurse life”, but issues remain in factor reliability. Therefore, further study is necessary in the future.
要 旨
本研究は中堅看護師がエンパワメント構造に接触した際,キャリアデザインの違いが精神的 エンパワメントに対してどのように影響するか明らかにすることを目的とした.首都圏下 7 施 設の病院に勤務し,経験年数 5 ~15年を有する看護師529名を対象に,基本属性,Conditions of Work Effectiveness Questionnaire-Ⅱ,Psychological Empowerment Scale,看護職のキャリア デザイン尺度からなる無記名自記式質問紙調査を実施した.回収数は223名(回収率42.2%), 有効回答は216名(40.8%)であった.精神的エンパワメントを従属変数とし,他の変数を独立 変数とした二元配置分散分析を行った.その結果,エンパワメント構造への接触(F(1, 212)= 7.51, p<.01)とキャリアデザイン(F(1, 212)=29.00, p<.001)に主効果がみられ,どちらも 高群は低群より精神的エンパワメントが高かった.また,エンパワメント構造への接触と,キャ リアデザインの構成要素のうち「看護師生活の岐路の自覚」では交互作用がみられた (F(1, 212)=7.85,p<.001).これらにより中堅看護師は,エンパワメント構造への接触やキャ リアデザインの程度の違いが精神的エンパワメントに影響することが示された.また,エンパ 受付日:2018年 7 月22日 受理日:2019年10月 4 日
1) がん研究会有明病院看護部 Department of Nursing, Cancer Institute Hospital
ワメント構造へ接触した中堅看護師は,「看護師生活の岐路の自覚」を介して精神的エンパワメ ントに影響することが確認されたが,因子の信頼性に課題が残っており,今後さらに検討する 必要がある.
Ⅰ.緒言
近年,医療の高度,複雑化に伴い,中堅看護師の 実践能力に対する期待が高まっている.我が国では, 中堅看護師は看護師としての経験年数に規定されて いる研究が多く, 5 年前後から15年前後の経験年数 を有する看護師と言える(小山田,2009;下川,片 山,2015).そのような中堅看護師に対する先行研究 では,中堅看護師は 8 割が燃え尽きと警戒群である こと(加藤,尾崎,2011),役割の曖昧さにより仕事 意欲が低下すること(佐野ら,2006)などを明らか にしている.このことから,中堅看護師が動機づけ られ,高い実践能力を発揮しているとは言い難い現 状と推察できるため,中堅看護師が動機づけられる 方策を明らかにすることは,病院で提供される看護 ケアの質に関わる重要課題である. マネジメント領域では動機づけに関わる概念にエ ンパワメントがある.Laschinger ら(2001)は,職 場内のエンパワメント構造に接触する程度が高い看 護職は,精神的エンパワメントが高まることにより 動機づけられ,様々な効果が得られることを明らか にした.この場合の接触とは,職場内の環境要因に 触れ,利用するという意味で用いられている.精神 的エンパワメントとは,Spreitzer(1995)により概 念化された動機づけの構成概念であり,自分の仕事 上の役割や活動に対して「意義」「能力」「自己決定」 「影響力」を認知して生じるものである.エンパワメ ント構造とは,Kanter(1993)により理論化されて おり,職員が接触することにより動機づけられる職 場の社会的構造のことである.具体的には,仕事上 必要な成長や学習の「機会」,専門的知識や組織理念 などの「情報」,物的・人的「資源」,上司や同僚か らの「支援」であり,さらにこれらへの接触を促す 要素として,組織の中心的な仕事に携わる「公式な 力」,組織内外の人脈などの「非公式な力」から構成 される.看護職に対する先行研究では,エンパワメ ント構造への接触や精神的エンパワメントが高いこ とにより,職務満足(Laschinger et al., 2001)や革 新的な行動とケアの質(Purdy et al., 2010)を高め, 職務ストレス(Laschinger et al., 2011)やバーンア ウト(Meng et al., 2015)を低下させるなどの職務 効果が多数明らかになっている. これらの理論的観点から日本の中堅看護師の先行 研究を検討すると,中堅看護師は院内外の研修参加 や指導的役割の付与,委員会参加,人脈の広がりな ど様々なエンパワメント構造へ接触していることが 分かる(佐野ら,2006;水野,三上,2000).しか し,そこから全ての中堅看護師が動機づけられてい るとは言えず,個人差があると考えられた.(佐野 ら,2006;瀬川,石井,2010;卯川ら,2011).この 個人差について再度検討すると,動機づけられる中 堅看護師は,周囲環境を理解した上で自分の役割を 認識し,経験の振り返りから自分の能力,理想の看 護実践を明らかにすることで看護師としての目標を 見出しており(関,2015;卯川ら,2011),キャリア デザインの差と捉えることができた. キャリアデザインとは,「長期的に自らの職業生活 (キャリア)を自らの手で主体的に描く(デザインす る)こと」(赤堀,2006)であり,その構成要素は, 「①自分の価値・欲求(動機)・能力を知る②自分を 取り巻く環境を知る③職業生活を中心とした人生全 体の理想の姿をイメージし,目標を設定する④目標 到達のための課題を明確化し,行動計画を立てる⑤ 行動計画を実行する⑥予期せぬ出来事や転機を迎え たときはデザインを見直し,修正する」である(石 橋,2016,p. 116).我が国の看護職のキャリアに関 する研究では,中堅看護師に該当する時期は専門関 心領域を模索するキャリアの岐路である一方で, キャリア発達のスピードに個人差が生じることを明 らかにしている(水野,三上,2000;関,2015).そ の理由は,出産・育児などのライフイベントが重な ることもあるが,岐路の打開方法を模索する程度の 差や,目標の具体性の差などとあり,キャリアデザ インの差とも言える. 以上より,中堅看護師がエンパワメント構造へ接 触した際,そこから精神的エンパワメントが高まるか否かは個々のキャリアデザインが関連すると考え られたが,それについて明らかにした研究はない. キャリアデザインの関連を明らかにすることは,中 堅看護師の精神的エンパワメントの向上には外的要 因を整えるとともに,キャリアデザインを支援する ことが効果的であることと,その具体的方策を示す ことができる.その方策が取り入れられた結果,中 堅看護師はエンパワメント構造の接触により精神的 エンパワメントを高め,動機づけられ,高い実践能 力が発揮されると考えらえる.
Ⅱ.目的
中堅看護師がエンパワメント構造に接触した際, キャリアデザインの違いが精神的エンパワメントに 対してどのように影響するか明らかにすることであ る.Ⅲ.方法
1.用語の定義 1)中堅看護師 5 ~15年の経験年数を有する看護職者(小山田, 2009;下川,片山,2015). 2)精神的エンパワメント 動機づけの構成概念であり,自分の仕事上の役割 や活動に対して「意義」「能力」「自己決定」「影響 力」を認知して生じるもの(Spreitzer, 1995). 3)キャリアデザイン 長期的に自らの職業生活(キャリア)を自らの手 で 主 体 的 に 描 く(デ ザ イ ン す る)こ と(赤 堀, 2006). 4)エンパワメント構造 接触することにより動機づけられる職場の社会的 構造のことである.「機会」「情報」「資源」「支援」 「公 式 な 力」「非 公 式 な 力」に よ り 構 成 さ れ る (Kanter, 1993). 2.概念枠組み 本研究の概念枠組みを図1に示した.中堅看護師 がエンパワメント構造へ接触した際,そこから精神 的エンパワメントが高まるか否かは個々のキャリア デザインの程度が関連すると考えられた.この関連 が明らかになると,中堅看護師の場合はエンパワメ ント構造の影響がキャリアデザインの程度を介して 精神的エンパワメントに影響することを示すため, これを仮説とした. 3.質問項目 1)属性 年齢,性別,看護師経験年数,現在の部署の経験 年数,月の夜勤回数,役職・資格,看護教育最終学 歴,婚姻状況,子の有無,看護師の仕事に対する価 値観,看護師選択理由,就業継続理由を尋ねた(表 1 ). 2)精神的エンパワメント Spreitzer(1995)が開発したPsychological Empow-erment Scale(PES)の日本語版を,日本語版開発 者(Kanai-Pak, 2009)の許可を得て使用した(以下, PES).「意義」「能力」「自己決定」「影響力」の 4 下 位概念からなる.質問項目は各下位概念に 3 項目ず つあり,具体的には「私がする仕事は私にとって重 要である(意義)」「私は私の仕事をするための能力 に自信がある(能力)」「私は自分の仕事をどのよう にするのかの決定において,かなりの自由裁量権が ある(自己決定)」「私は私の部署で起こることに関 してかなりの指揮権がある(影響力)」などの現在の 仕事に対する認識を問うものである.これら12項目 について「全くそう思わない( 1 )」~「全くその通り だ( 7 )」の 7 段階スケールより一つを選択する.日 本語版のクロンバックα係数は0.94であり,妥当性 とともに確認されている. 3)キャリアデザイン 石橋(2016,p. 116)の示すキャリアデザインの 6 つの構成要素(図1)を下位概念と想定し,看護 師のキャリアデザインやキャリア発達などの先行研 究(福井,2013;川原,1999;小林,2013;水野, 三上,2000;中村,2010;関,2015;卯川ら,2011) から得られた質的データを参考として, 6 下位尺度 40項目からなる看護職のキャリアデザイン尺度を作 成した.回答は ,「全くあてはまらない( 1 )」~「非 常にあてはまる( 5 )」の 5 段階スケールより一つを 選択する.4)エンパワメント構造への接触
Laschinger ら(2001)が開発した Conditions of Work Effectiveness Questionnaire- Ⅱ(CWEQ- Ⅱ) の日本語版,を原版と日本語版開発者(Kanai-Pak, 2009)の許可を得て使用した(以下,CWEQ-Ⅱ). 「機会」「情報」「資源」「支援」「公式な力」「非公式 な力」の 6 下位概念からなる.質問項目は「新しい 業務に挑戦する機会はどれくらいありますか(機 会)」「あなたの現在の職場において,トップマネジ メント(院長や看護部長)の価値観についてどのく らいの知識がありますか(情報)」「あなたの現在の 業務においてあなたが向上できることに関する具体 的なコメントはどのくらいありますか(支援)」「あ なたの現在の業務において業務遂行のための時間確 保はどのくらいありますか(資源)」「組織内での仕 事に関する私の活動の知名度はどのくらいあります か(公式な力)」「あなたの現在の業務において医師 と患者ケアを共働する活動の機会はどのくらいあり ますか」など労働環境について問う19項目について, 「全くない( 1 )」~「たくさんある( 5 )」の 5 段階ス ケールより一つを選択する.日本語版のクロンバッ クα係数は0.87であり,妥当性とともに確認されて いる. 4.対象と調査方法 2016年版関東病院情報掲載病院から単純無作為抽 出法により抽出された300床以上の病院70施設のう ち,同意の得られた施設に勤務する中堅看護師(看 護師長,専門看護師,助産師,外来看護師,パート 勤務者を除く)を対象に,無記名自記式質問紙郵送 法を用いた.病院は,療養病床のみの病院と精神科 単科病院を適応外とした.研究協力の承諾が得られ た施設の看護部に対し,対象看護師個人宛ての研究 依頼文と質問紙,返信用封筒と,対象看護師が所属 する部署の看護師長宛ての研究依頼文の配布を一括 して依頼した.質問紙は 1 ヶ月の留め置き期間を設 け,研究参加に同意を得られる場合のみ返送を依頼 した. 5.調査期間 2017年 6 月~ 9 月 6.解析方法 統計解析ソフトパッケージ IBM SPSS Statistics Ver. 24.0を使用した.本研究における検定の有意水 準は 5% に設定した. 1 )属性に対して単純集計を行い,標本の特性を 検討した. 表1 対象者の基本属性 n=216 項目 n % Mean(SD) 年齢 31.9歳(SD4.2) 性別 男性 12 5.6 女性 204 94.4 看護師経験年数 9.3年(SD3.1) 現在の部署経験年数 4.3年(SD3.1) 月の夜勤回数 4.5回(SD3.2) 役割・資格 スタッフ 194 89.8 主任 7 3.2 副師長 8 3.7 認定看護師 7 3.2 看護教育最終学歴 大学院 2 0.9 大学 49 22.7 短期大学 15 6.9 専門学校 150 69.4 婚姻状況 既婚 90 41.7 未婚 126 58.3 子の有無 あり 52 24.1 なし 164 75.9 看護職に対する価値観 人間的に成長できる 77 35.6 経済的に自立できる 85 39.4 自分の能力を生かせる 11 5.1 社会の役に立つ 43 19.9 看護師就業理由 一生の仕事にできる 53 24.5 やりがいがある 56 25.9 経済的に自立できる 33 15.3 資格が取れる 33 15.3 社会の役に立つ 18 8.3 他の人にすすめられた 12 5.6 なんとなく 11 5.1 看護師就業継続理由 看護師の仕事が好き 52 24.1 自分を成長させたい 20 9.3 経済的理由 77 35.6 充実感がある 14 6.5 自分の能力を生かせる 3 1.4 自分の性格に合っている 18 8.3 人の役に立つ 13 6.0 義務感 2 0.9 楽しい 5 2.3 なんとなく 12 5.6
2 )看護職のキャリアデザイン尺度を作成するた め,暫定40項目の項目分析を行った.次に,最尤法 を用いて初回の因子分析を行い,固有値の変化と解 釈可能性の観点から因子構造を確認した. 2 回目以 降の因子分析は因子間の関連性があると考え,プロ マックス回転を用いた.因子負荷量の基準を .35と し,基準を満たさない項目や, 1 つの項目が複数の 因子に高い負荷量を示す項目を削除し繰り返し分析 し,最終的な結果の項目について信頼性分析を行っ た. 3 )各変数の属性ごとの平均値の差を 2 群間は t 検定, 3 群間以上は一元配置分散分析後 Tukey HSD 法を用いて検討した. 4 )研究目的を明らかにするために立てた仮説検 証として,PES 総得点を従属変数とし,CWEQ- Ⅱ 総得点と,看護職のキャリアデザイン尺度総得点, および各下位尺度得点各々を独立変数とした二元配 置分散分析を行った.その際,CWEQ- Ⅱと,看護 職のキャリアデザイン尺度総得点,および下位概念 各々を平均値によって高低群に二群化し掛け合わせ を行った. 7.倫理的配慮 本研究は,上智大学倫理委員会の承認を受けて実 施した(2017-15).書面により研究目的と方法,研 究参加の任意性と撤回,データの匿名性,資料の保 管方法,結果の公表,利益相反の説明を行い,質問 紙の返送をもって同意を得たこととした.
Ⅳ.結果
単純無作為抽出法により抽出された首都圏下の70 施設のうち,同意の得られた 7 施設,529名の中堅看 護師に質問紙を配布し,223名から回答を得た(回収 率:42.4%).そのうち,経験年数が対象外である データ,および未回答項目があったデータを除き, 216名を分析対象とした(有効回答率:40.8%). 1.回答者および研究協力施設の属性 回答者の平均年齢は31.9歳(SD 4.2),看護師経 験年数9.3年(SD 3.1),94.4%は女性であり,職位 はスタッフが89.4%を占めていた(表1). 研究協力施設の属性は全て選定基準に準じた施設 であった. 2.看護職のキャリアデザイン尺度の作成 看護職のキャリアデザイン尺度を作成するため, 暫定40項目の項目分析を行った結果,得点分布に偏 りがなく全項目を分析対象とした.次に,最尤法を 用いて初回の因子分析を行い,固有値の変化と解釈 可能性の観点から 4 因子構造が妥当と判断した.最 尤法・プロマックス回転を用いて 2 回目以降の因子 分析を行い,統計解析の文献を参考に(小塩, 2018),因子負荷量の基準を .35として基準を満たさ ない項目や, 1 つの項目が複数の因子に高い負荷量 を示す項目を削除し繰り返し分析した結果, 4 因子 35項目を採用した(表2). 図 1 研究の概念枠組み看護職のキャリアデザイン尺度の第Ⅰ因子は,「看 護師として将来の目標がある」「将来目標に対する行 動を実際に行う」など,看護師生活上の目標を設定 し実現させるための行動を表す17項目でまとまって おり,『看護師生活の目標設定と実現させる行動』と 命名した.第Ⅱ因子では,「部署や職種を越えて様々 な人と意見を交換する」「部署の役割から自分の役割 を見直す」など,仕事環境や自分の職務について客 観的に見直し,理解することを表す10項目がまと まっており,『仕事環境と職務の客観的理解』と命名 した.第Ⅲ因子は「自分の将来目標について相談で きる人がいる」「将来目標を後押ししてくれる人がい 表2 看護職のキャリアデザイン尺度因子分析結果 n=216 項目内容 因子負荷量 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ 第Ⅰ因子「看護師生活の目標設定と実現させる行動」 4 看護師として将来の目標がある .739 -.244 .122 .116 12 将来目標に対する行動を実際に行う .700 .102 -.159 .006 34 今の仕事は自分の将来目標に繋がっている .663 -.045 .162 .102 29 看護師として成長し続けることを目指す .661 -.048 .064 .264 9 自分の将来目標に繋がる短期目標を立てる .659 .250 -.066 .000 2 看護師としての職業生活をもっと充実させたい .652 -.237 -.001 .273 40 自分の将来目標に向けて努力が必要なことも乗り越えようと思う .594 .143 .021 .132 *10 自分がやりたい看護が何か分からない .553 .033 .188 -.318 8 日々の仕事に自分の目標を意識して取り組む .531 .370 -.124 .025 3 学会に参加する .523 .081 -.098 -.037 *17 新しいことへの挑戦は避ける .496 .109 .011 -.057 * 5 今後の看護師生活に見通しが持てない .484 -.037 .293 -.389 18 自分の所属している部署で将来目標が実現できるか検討する .475 .113 -.020 .098 25 自分の将来の目標に向けて行動する時期を考える .449 .003 .024 .297 *24 看護師としての将来の働き方は考えない .432 -.131 .099 .237 *30 自分の将来目標のために何をすればよいか分からない .382 .039 .223 -.345 16 これからも看護師を続けたい .356 .005 .272 -.023 第Ⅱ因子「仕事環境と職務の客観的理解」 21 所属する部署の目標が言える .045 .770 -.172 -.026 7 所属する病院の目標が言える -.019 .682 -.119 -.046 22 部署や職種を越えて様々な人と意見を交換する -.046 .504 .345 .041 38 部署の役割から自分の役割を見直す -.002 .482 .174 .196 *28 部署の業務改善はほかの人に任せる -.035 .441 .149 -.042 *35 初めての仕事は前向きに取り組めない .345 .421 -.030 -.175 39 研修や学習で得た知識から自分の部署について考える -.114 .418 .353 .049 37 目標に対する行動がうまくいかない時は,行動の仕方を修正する .071 .396 .037 .170 14 日々の看護を振り返る .320 .388 -.086 .215 32 自分の部署以外の部署の特徴を知る .159 .361 .083 .091 第Ⅲ因子「相談による経験の振り返りと将来展望の試み」 36 自分の将来目標について相談できる人がいる .041 -.048 .673 .221 19 将来目標を後押ししてくれる人がいる .264 -.155 .579 .010 23 日々の仕事で困った時,誰に相談すればよいか分かる -.166 .423 .527 .018 31 仕事で経験したことや思いについて,他の看護師と話す -.166 .191 .509 .326 *13 仕事をしている中で面白いと思えるものがない .200 .044 .479 -.170 第Ⅳ因子「看護師生活の岐路の自覚」 27 人から受けたアドバイスを一人の時に思い出す .122 .093 .091 .575 26 他の看護師の職業生活と自分の職業生活を比較する .115 -.055 .004 .472 *20 看護師としてこのままでよいのか考えることはない -.031 .100 .016 .371 因子相関行列 Ⅰ 1 Ⅱ .40 1 Ⅲ .55 .37 1 Ⅳ .18 .05 .13 1 因子抽出法:最尤法,プロマックス回転 ※ * の項目は反転後,計算している.
る」など,他者との相談により看護師生活の経験や 思いについて振り返り,将来を展望する試みを表す 5 項目でまとまっており,『相談による経験の振り返 りと将来展望の試み』と命名した.第Ⅳ因子は,「人 から受けたアドバイスを一人の時に思い出す」「他の 看護師の職業生活と自分の職業生活を比較する」「看 護師としてこのままでよいのか考える(逆転項目)」 の 3 項目にまとまり,現状を見つめ直そうとする意 識を表しているため『看護師生活の岐路の自覚』と 命名した. 内的整合性を検討するため,各因子のα係数を算 出したところ,第Ⅰ因子α=.90,第Ⅱ因子α=.82, 第Ⅲ因子α=.76,第Ⅳ因子α=.53であった.構成概 念妥当性の検討のため,「看護職のキャリアデザイン 尺度の得点が高い人は主観的,客観的な基準による キャリア発達が達成されている」と仮定し検証した. 看護職のキャリアデザイン尺度総得点の属性による 平均値± SD の差を, 2 群間は t 検定, 3 群間以上 は一元配置分散分析後 Tukey HSD 法を用いて検討 した.その結果,看護教育最終学歴に有意な群間差 がみられ(F(3,212)=3.41, p<.05),「大学院」の総 得点155.00±8.49は,「大学」115.67±19.60,「短 期大学」119.13±14.10,「専門学校」116.27±17.00 の総得点と比較し有意に高かった.同様に,「看護師 として就業を継続する理由」でも有意な群間差がみら れ (F(9,206)=7.11, p<.001),「看護師の仕事が好 き」127.37±16.57,「充実感がある」120.21±17.87 の総得点は,「なんとなく」98.75±11.18と回答した 者の得点より有意に高かった. 3.仮説の検証 仮説検証のため,精神的エンパワメント( PES 総 得点)を従属変数とし,エンパワメント構造への接 触(CWEQ- Ⅱ総得点)と,看護職のキャリアデザ イン尺度総得点,および各下位尺度得点各々を独立 変数とした二元配置分散分析を行った.その際, CWEQ- Ⅱ総得点と,看護職のキャリアデザイン尺 度総得点,および下位概念各々を平均値によって 高低群に二群化し掛け合わせ主効果と交互作用を確 認した.その結果,エンパワメント構造への接触 (F(1, 212)=7.51, p=.001)と,看護職のキャリア デザイン尺度総得点(F(1, 212)=29.00, p<.001), 下位尺度の「看護師生活の目標設定と実現させる行 動」(F(1, 212)=29.64, p<.001),「仕事環境と職務 の客観的理解」(F(1, 212)=35.96, p<.001),「相談 による経験の振り返りと将来展望の試み」(F(1, 212)= 20.58, p<.001)に有意な主効果がみられた.主効果 のみられた変数全ては,各々の高群は低群より精神 的エンパワメントが高かった(表3).また,エンパ ワメント構造への接触×下位尺度「看護師生活の岐路 の自覚」では有意な交互作用がみられた(F(1, 212)= 7.85, p<.001)(表3,図2).エンパワメント構造 への接触の低群では「看護師生活の岐路の自覚」高 低群共に精神的エンパワメントが低く,さらに,高 群は低群より精神的エンパワメントが低かった.こ れに対し,エンパワメント構造への接触高群では 表3 エンパワメント構造への接触高低×キャリアデザイン各要素高低による精神的エンパワメント得点の平均値(標準偏 差)および二元配置分散分析の結果 n=216 キャリアデザイン各要素 エンパワメント構造への接触 精神的エンパワメントへの主効果 交互作用 H L エンパワメント 構造への接触 キャリアデザイン 各要素 尺度総得点 H 55.01( 8.87) 50.67( 9.22) 7.51** 29.00*** 0.37 L 47.24(10.23) 44.48( 9.13) 看護師生活の目標設定と実現させる行動 H 56.22( 8.32) 49.62( 9.41) 12.45** 29.64*** 2.9† L 27.20( 9.89) 44.90( 9.35) 仕事環境と職務の客観的理解 H 53.42( 7.95) 50.40( 8.90) 5.16* 35.96*** 2.61 L 44.75( 9.49) 44.75( 9.49) 相談による経験の振り返りと将来展望の試み H 54.20( 8.25) 50.18( 9.24) 4.38* 20.58*** 0.68 L 46.81(12.34) 45.06( 9.40) 看護師生活の岐路の自覚 H 54.98( 7.49) 46.18(10.43) 14.69*** 1.86 7.85** L 49.46(11.45) 48.09( 8.41) †p<0.10 * p<0.05 ** p<0.01 *** p<0.001 H:高群 L:低群
「看護師生活の岐路の自覚」の高群のみ精神的エンパ ワメントが高く,低群は低いままであった.また, エンパワメント構造への接触と「看護師生活の目標 設定と実現させる行動」では,交互作用に傾向差が みられた(F(1, 212)=2.90, p<.10)(表3,図3). エンパワメント構造への接触低群では「看護師生活 の目標設定と実現させる行動」の高低群に精神的エ ンパワメントの差はなく低い.しかし,エンパワメ ント構造への接触高群では「看護師生活の目標設定 と実現させる行動」の高群のみ精神的エンパワメン トが高かった.
Ⅴ.考察
1.看護職のキャリアデザイン尺度の作成 看護職のキャリアデザイン尺度の因子分析の結果, 「看護師生活の目標設定と実現させる行動」「仕事環 境と職務の客観的理解」「相談による経験の振り返り と将来展望の試み」「看護師生活の岐路の自覚」の 4 因子が抽出された.信頼性係数は「看護師生活の岐 路」がα=.53と低い値を示しており,項目数の少な さが影響したと考えられた.小塩(2018,p. 170) はα係数について「明確な基準があるわけではない. しかし,.50を切るような尺度は再検討すべきだろ う.」と言及していることや,先行研究において岐路 を自覚することはキャリアデザインのプロセスの初 期段階として示されているため(卯川ら,2011),こ の因子を本尺度に採用した.他の 3 因子のα係数は, α=.76 ~ .90であり,一定の内的整合性があると判 断した.構成概念妥当性については「看護職のキャ リアデザイン尺度の得点が高い人は,主観的,客観 的基準によるキャリア発達を達成している」ことを 判断基準とし(石橋,2016,p.117),検証した.こ の結果,大学院出身者は他の教育学歴の者よりも キャリアデザインの総得点が高く,また,就業継続 理由において「看護師の仕事が好き」「充実感があ る」と回答者した者が「なんとなく」と回答した者 よりもキャリアデザインの総得点が高かった.これ らの結果により構成概念妥当性の一部を確認した. 以上より,本尺度は看護職のキャリアデザインを測 定する尺度として,一定の信頼性と妥当性を備えて いると判断した. 2.エンパワメント構造への接触とキャリアデザイン が中堅看護師のキャリアデザインに及ぼす影響 本研究では,中堅看護師はエンパワメント構造へ の接触が,キャリアデザインを介して精神的エンパ ワメントに影響すると仮説を立てて検証した. エンパワメント構造への接触とキャリアデザイン からの精神的エンパワメントへの影響は,二元配置 分散分析の結果から三方向の効果が確認された. 一つ目は,既に先行研究で明らかにされていた, キャリアデザインに関わらない,エンパワメント構 造への接触による独立した影響であり,中堅看護師 はエンパワメント構造に接触する程度が高いことに 図 2 精神的エンパワメントを従属変数とした二元配置分 散分析の結果① 図 3 精神的エンパワメントを従属変数とした二元配置分 散分析の結果②より精神的エンパワメントが高かった.これは, 職場の社会的構造が個人特性に関わらない影響力を 持つという Kanter(1993)の理論や先行研究の結果 (Laschinger et al., 2001)を支持している.二つ目 は,エンパワメント構造への接触に関わらず,キャ リアデザインからの独立した影響であり,キャリア デザインの程度が高いことにより精神的エンパワメ ントが高かった.また,キャリアデザインの構成要 素のうち,「看護師生活の目標設定と実現させる行 動」「仕事環境と職務の客観的理解」「相談による経 験の振り返りと将来展望の試み」は単独でも精神的 エンパワメントに影響し,各々の程度が高いことに よって精神的エンパワメントが高かった.このこと は,先行研究において精神的エンパワメントに対す る個人的要因の関連が指摘されていたこと(Pines et al., 2011),ならびに,類似概念であるキャリアビ ジョンはモチベーションに影響することが示されて いたこと(卯川ら,2011)から妥当な結果と言える. 三つ目は,キャリアデザインの二つの構成要素に おいて確認された効果であり,その高低が,エンパ ワメント構造への接触と組み合わさることにより生 じる精神的エンパワメントへの異なる影響である. 具体的には,エンパワメント構造に接触する程度が 低い場合,「看護師生活の岐路の自覚」や「看護師生 活の目標設定と実現させる行動」の高低に関わらず に精神的エンパワメントは低かった.一方で,エン パワメント構造に接触する程度が高い場合,「看護師 生活の岐路の自覚」や「看護師生活の目標設定と実 現させる行動」が高い場合のみ精神的エンパワメン トは高かった.このことは,中堅看護師がエンパワ メント構造に置かれた際に,一部は個人的要因であ るキャリアデザインを介して精神的エンパワメント に影響することを示している.これまでの先行研究 では,エンパワメント構造への接触と個人的要因の 組み合わせによる精神的エンパワメントへの影響過 程は示されていなかった.そしてこの結果は,中堅 看護師がエンパワメント構造に置かれても,必ずし も同じように精神的エンパワメントが高まらない現 状についてその原因の一部分を説明しうるものであ り,仮説を一部支持する結果であったと言える.こ の結果が示す重要な点は,「看護師生活の岐路の自 覚」や「看護師生活の目標設定と実現させる行動」 が高い場合でも,エンパワメント構造への接触が低 い場合には精神的エンパワメントが低い点である. この結果は,キャリアデザインにより成長が期待さ れる中堅看護師でも職場環境がエンパワメント構造 にない場合,精神的エンパワメントを高めることが できない可能性を示唆している.これらのことから, 中堅看護師が動機づけられ,実践能力を発揮するた めには職場環境がエンパワメント構造であることの 必要性が再確認された. 3.本研究の限界と今後の課題 一点目は,開発した看護職のキャリアデザイン尺 度の下位尺度「看護師生活の岐路の自覚」の信頼性 についてであるが,この尺度は他の 3 つの下位尺度 に較べ項目数が 3 項目と少なく,α係数も十分では なかった.このため今後さらに項目数を増やし,信 頼性を高めることが課題である. 二点目は,自記式質問紙法を用いていることに よって生じる限界である.エンパワメント構造につ いては,構造の実態を把握する必要があるが,本研 究では自記式質問紙のため対象者が環境を好意的に 捉えているか否かによって,構造の捉え方にも主観 が反映されている可能性がある.これについては今 後,環境要因を客観的に測定する方策を検討し,導 入することが課題である.
Ⅵ.結論
1 .看護職のキャリアデザイン尺度は 4 因子35項目 からなり,一定の信頼性と妥当性が確認された. 2 .エンパワメント構造への接触とキャリアデザイ ンおよび一部構成要素は,精神的エンパワメントに 対して各々単独で影響していた. 3 .エンパワメント構造への接触と「看護師生活の 目標設定と実現する行動」「看護師生活の岐路の自 覚」は,組み合わさることにより精神的エンパワメ ントに異なって影響し,中堅看護師はエンパワメン ト構造への接触が一部のキャリアデザインを介して 精神的エンパワメントに影響することが確認された. 4 .「看護師生活の目標設定と実現させる行動」や 「看護師生活の岐路の自覚」が高い場合でも,エンパ ワメント構造への接触が低い場合には精神的エンパ ワメントは低かった.5 .中堅看護師に対しては,組織は職場をエンパワ メント構造に整備し,活用されるよう取り組むと共 に,キャリアデザインに対する支援を行う重要性が 示唆された. 謝辞:本研究にあたり,調査の依頼をご快諾いただ きました協力施設の看護管理責任者の皆様,ならび に調査にご協力いただきました看護師の皆様に心よ り感謝申し上げます. 本研究は2017年度上智大学総合人間科学研究科に 提出した修士論文の内容を一部加筆・修正したもの である. ■引用文献 赤堀勝彦(2006).キャリアデザインについて―キャリア形成 を中心に―.長崎県立大学論集,40(1),157-203. 福井純子(2013).看護師のキャリア選択に影響を及ぼす要因 ~経験を積んだ看護師の振り返りの語りから~.北海道 医療大学看護福祉学部学会誌, 9(1),133-139. 石橋里美(2016).キャリア開発の産業・組織心理学ワーク ブック(第 2 版).京都:ナカニシヤ出版.
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