脳卒中の治療 Upda
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2017
大 槻 俊 輔
近畿大学医学部附属病院 脳卒中センター 教授
Fighting against Stroke Update2017
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Professor,Stroke Centre,Kindai University Hospital
【はじめに】 脳卒中とは「脳が卒然と中る」という 意味をなし,多くは前触れもなく発症する急病です. 脳はとても脆弱であり,脳血管が閉塞すると短時間 で非可逆的な神経細胞死や脳組織損傷に至る.また 障害を受けた脳は自力で再生修復する力は乏しく, 麻痺や言語障害,認知障害という難治性の後遺症を のこす.しかし,脳卒中を発症してもすぐさま専門 的かつ科学的根拠に基づいた治療を受けることがで きれば,命を救い,避けがたい後遺症を最小限にす ることができる.また,私たちの南河内・堺泉州医 療圏では,多くの医療施設が,多くの職種のスタッ フが力を合わせて,脳卒中で倒れた患者さんを家 や職場に復帰できるように患者さんの回復を最適に するシステムを立ち上げてきた. 【疫学】 日本脳卒中データバンク2015のわが国の脳 卒中急性期入院9万人のデータでは,脳梗塞が全体 のおよそ4 の3,脳内出血が5 の1,くも膜下 出血が7%を占め,脳梗塞はアテローム血栓性脳梗 塞,ラクナ梗塞,心原性脳塞栓症とほぼ3 の1ず つの頻度で発生している.年齢は,脳梗塞は中央値 72歳,脳出血66歳と高齢者主体です.脳卒中全体の 死亡率は8%,また75歳を超えると死亡率は11%に 至ります.我が国の脳卒中の特徴は,発症頻度は欧 米諸国と比較すると心筋梗塞発症率よりも2倍高 く,脳出血が占める頻度が2-3倍高いことである. 脳卒中のうち,脳出血および心原性脳塞栓症はひと たび発症すると重症であり,自立歩行まで回復でき るのが 1/3にとどまり,要介助・寝たきり・死亡が 半数を超える転帰が不良な病型である.ノックアウ ト型脳卒中とよばれる所以である.このように脳卒 中は人生の晩期に突然発症し,死を免れてもしばし ば難治の後遺症が残り,本人家族共々悲観に暮れさ せる疾患といえる. わが国での脳卒中罹患において高血圧症の集団寄 与割合はそれぞれ52%に達し,高血圧は脳卒中と脳 梗塞,とりわけ脳出血の最大の危険因子であるとい ってよい.わが国の優れたコホート研究から血圧水 準と脳卒中発症との間には段階的かつ連続的な正の 相関があり,特に脳出血の発症や死亡率においてこ の傾向は強い.高血圧治療のメタ解析によると収縮 期10mmHg拡張期 5mmHgの低下で脳卒中発症 の相対リスク低下率41%が得られ,その降圧達成度 により疫学調査で報告された各血圧水準における発 症率まで復する.以上から,高血圧症に対して,脳 卒中予防に降圧療法が強く推奨され,その達成度に 応じた発病予防効果を得ることができる.また,高 齢社会の到来により非弁膜症性心房細動による心原 性脳塞栓症の割合も年々増加しており,高齢者への 安全な抗凝固療法,特に直接経口抗凝固薬の導入が 危険因子管理の点から重要視されている. 【ケーススタディ】 症 例 쏯 高血圧,不整脈にて外来通院中の70歳代男性.テ レビのニュースを見ている時(午前6時50 を時計 の針が指していた)突然右へ倒れこみ,意識がもう ろうとなった.午前7時40 で救急搬送された.来 院時,血圧160/80mmHg,脈拍100/ 不整,呼吸12/ ,心肺音清音,頸部に血管雑音聴取しなかった. 意識障害があり,呼びかけで開眼するも眼球の左へ 共同偏視を認め,左上下肢はバタバタさせているが,
右上下肢はわずかしか動かない.発語なく簡単な従 命も不可能.経過中けいれん・嘔吐・頭痛はない. ERでのやりとり ER研修医1年目「気道は開通,呼吸循環は安定し ていますし,瞳孔の左右差もないので, 側の左前 腕の静脈を生理食塩水で確保しました.近大 ERか んたんマニュアル通りの採血・心電図,頭部 CTも しました.血糖値は112mg/dlです.CTでは脳には 異常はありません.心電図は心房細動だと思いま す.」 指導医「病歴と診察所見から,何だと思う?」 研修医2年目「CTでは病変がないので脳卒中は否 定的ですね엊 低血糖でもないし……」 指導医「画像所見に引っ張られるな엊 脳梗塞超急 性期として,アルテプラーゼによる血栓溶解療法の 図쏯 症例1の CTと心電図,NIHSS米国国立衛生研究所脳卒中重症度スケール CTでは早期虚血サインや血腫はない.また心電図では心房細動を示し,NIHSSでは,1a;1,1 b;2,1c;2,2;1,3;0,4;2,5;右3左0,6;右3左0,7;0,8;0,9;3,10;2,11; 0 合計19であった.
プロトコールに準じて進めるぞ.現在発症から1時 間25 だ.」 研修医2年目「え엊 なんで?」 研修医1年目「NIHSSとっときました.先輩,判断, ぬるいですね엊」 指導医「よろしい엊 神経救急は,病歴と神経診察 で決めろっ엊」 研修医1年目「はい,家族から既往歴と服薬状況を 再確認しておきます.」 研修医2年目「ちくしょう엊 負けてなるものか っ.」 指導医のこころ 発症1時間以内の意識障害,左錐体路,言語中枢 が障害されたいわゆる救急隊からのダイレクトイン 「卒中コール」の症例である.頭部 CTで低吸収域を 認めなかったからといって脳梗塞を否定できない. 突然発症,症状は短時間で完成している.脳卒中が 高頻度で重要な神経救急疾患の代表である.脳梗塞 における閉塞血管を再灌流させる内科的基本治療を 病院到着から40 以内に施行できる対応がとれてい るシステムが ERにできていることが必要である. 静脈の血管確保にとどめ,動脈採血や尿バルーン, 中心静脈など出血のリスクを一旦は避けるのが基本 だ.
意識障害 Japan Coma Scale10,右顔面を含む上 下肢不全片麻痺,左への共同偏視,発語なく言語理 解も困難な点から左前頭葉皮質を含んだ広範囲の急 性虚血性脳卒中を疑う.NIHSSという脳卒中重症 度スケール(図1)は19,重症である.左中大脳動 脈が責任血管と えられ,突然発症症状完成型から 心房細動による心原性脳塞栓症を疑う. CTで異常がない,すなわち,頭蓋内血腫や早期虚 血サイン early CT signがない,助かるペナンブラ (後述)がある.安静,補液,呼吸循環が安定してい ることを確認して,アルテプラーゼによる閉塞血管 の再灌流療法(血栓を溶かす)へ進むのだ. 解 説 1.脳梗塞の初期診断について「いつからどのよう な症状が出現し,次第に軽快それとも悪化している か」を問診することが大切である.初期治療が脳卒 中の後遺症すなわち機能的転帰を決する.問診と神 経学的診察を呼吸循環確保した後すぐ行う.神経兆 候により責任病巣を予測し,その病巣の灌流してい る血管を予測する.そして,発症4.5時間以内に治療 可能かつ early CT signを認めない,もしくは軽微 な脳梗塞には血栓溶解療法を 慮する.意識障害を きたし神経兆候をきたす急性疾患で,低血糖や高血 糖性昏睡による麻痺,外傷性頭蓋内出血,てんかん 発作後の Toddの麻痺は治療上鑑別する.脳梗塞超 急性期では頭部 CTでは低吸収域は出現しない.発 症3-6時間以降から検出できる.なお MRI拡散強 調画像・MRAは,CTで検出できない早期からの病 変や閉塞血管を発症30-60 までには検出できる. 2.脳梗塞には病型 類がある 脳梗塞は大きく けて3つの病態生理によるクラス けを行う.脳穿 通枝動脈のリポヒアリン変性とフィブリノイド壊死 によるラクナ梗塞,または脳主幹動脈の動脈 化性 粥腫(アテローム)を基盤として血栓が生じ脳血管 を閉塞する病態による脳梗塞をアテローム血栓性脳 梗塞と 類する.本例では上記の脳塞栓を起こしう る不整脈が確認され,突然発症していることから心 原性脳塞栓症と えれる.急激な血管閉塞による重 度の脳虚血が発生して,重篤な神経兆候を呈してい る.意識障害と高次脳機能(発語や言語理解)障害 から左優位半球の皮質を含んだ虚血が想定される. 発症早期に再灌流が得られないと転帰は不良となり 重度の後遺症や死亡に至る. 3.アルテプラーゼ(組織プラスミノーゲン・アク チベーター:rt-PA)治療 発症早期の脳梗塞の場 合,2で述べた病型 類にかかわらず,再灌流療法 アルテプラーゼ治療の適応があるかどうかを検討す る.問診,発症時間を確定,除外項目の確認,神経 図쏯補 症例1アルテプラーゼ投与直前の CTA(左から1枚目)と灌流 CT像(左から2枚目),右中 大脳動脈閉塞とその領域の平 造影剤到達時間の遅 が示され,投与24時間後症状改善したと きの MRI拡散強調画像(右から2枚目)と MRA(右から1枚目)で右前頭葉にわずかな皮質 梗塞と右中大脳動脈が完全再灌流していることを示す.アルテプラーゼによる劇的改善症例で ある.もし,アルテプラーゼ投与中や投与直後で症状改善されていない場合,内頸動脈,中大 脳動脈起始部,脳底動脈閉塞の場合,血管内治療の準備を行う.
学的所見,頭部単純 CTを行う.治療開始は発症4.5 時間以内でないといけない.さもないとすでに壊死 している梗塞部が発症12-36時間目に出血性変化と いう梗塞部の壊死血管破綻がアルテプラーゼで増強 され致死的になるからだ.アルテプラーゼは我が国 では0.6mg/kg体重で10%をすぐに静脈投与,残り 90%を1時間かけて投与する.投与後は血圧と神経 学的所見を15 から60 間隔で発症後経過時間によ り評価し,降圧薬の適応や症状悪化時における頭部 CT検査を 慮する.血圧が高度に上昇した時には 経静脈性降圧薬が開始される.なお,心房細動患者 においては抗凝固療法が施されている場合があり, 凝固検査の PT-INRと APTT値が 長している 場合,アルテプラーゼは禁忌となる.また,高血圧 症例では投与までに血圧が基準値以下に到達できな い場合も禁忌となる. 超急性期再灌流療法としての rt-PA療法には厳 格な適応がある.症状が出てから(発見ではない엊) 4.5時間以内に投薬開始可能な脳梗塞,CTで早期虚 血サイン early CT sign(レンズ核の不鮮明化,島 皮質の低吸収域化,皮髄境界の不鮮明化)陰性もし くは軽微が適応となる.禁忌項目が1項目でも該当 すれば投与してはいけない.また,2項目以上の慎 重投与項目に該当すれば,出血性合併症の危惧と再 灌流による症状改善のバランスをとり,適応の可否 を慎重に検討している. 症 例 쏰 高血圧,持続性心房細動にて外来通院中の60歳代 男性.テレビで野球を観ているとき(午後9時過ぎ) 右へ倒れこみ,次第に意識がもうろうとなり,だん だん右手足が動かなくなった.午後9時40 に救急 搬送された.来院時,血圧220/110mmHg,脈拍72/ 不整,呼吸12/ ,心肺音清音,頸部に血管雑音聴 取せず.意識障害があり,呼びかけですぐ開眼する も眼球の右へ共同偏視を認め,右上下肢痙性完全麻 痺,感覚鈍麻もある.発語なく簡単な従命も不可能. 経過中頭痛と嘔気・嘔吐2回があった. ERでのやりとり 研修医2年目「気道確保,呼吸循環は安定していま すので,左前腕の静脈を生理食塩水で確保しました. 心電図では心房細動です.瞳孔の左右差はないです が,意識障害,右片麻痺と失語があります.」 指導医「病歴,診察所見から,何だと思う?」 研修医2年目「今回は失敗しません.心房細動によ る心原性脳塞栓症ですね엊 家族がお薬袋持参して おりワルファリンと降圧薬がはいっております.し かし,ワルファリン服用中なのに脳梗塞,薬の服用 が良くないのでしょう」 指導医「そうだな.しかし,常に最悪に備えろ엊 共 同偏視と麻痺側が同じの場合,脳出血かもしれない. 血圧も非常に高い.ワルファリン服用中の脳内出血 だ.これは重症になるぞ.脳梗塞とは CTで鑑別で きる.」 研修医1年目「高齢者で意識障害の片麻痺と言えば, 心房細動からの心原性脳塞栓症では엊」 指導医「さあ,CT画像を見よう엊 左被 に直径 4 cm 高さ 4cm,球形の高吸収域を認めるぞ」 研修医2年目「そんな……脳出血だなんて엊」 指導医「おねしら,ぬるい엊」 研修医1年目「血腫量の推定量計算しておきましょ 図쏰補 高血圧性脳内出血 被 出血と肩を並べる高頻度の視床,また皮質下,小脳,橋出血の CTも示しておく 図쏰 症例2 頭部 CT
うか? さくっと.」 研修医2年目「どうやって計算? その前に,手術 適応じゃないの?」 指導医のこころ 心房細動患者における脳卒中は心原性脳塞栓症と 抗凝固療法中の脳内出血・慢性 膜下出血がある. 抗血栓療法中の脳出血は,止血しにくいので重症化 する.脳は組織因子が多く,万が一出血してもすぐ に止血機能が働く.ワルファリンは凝固因子Ⅱ,Ⅸ, Ⅹという内因系のみならずⅦという外因系因子も産 生抑制するのでひとたび血管外に出血が生じれば止 血遅 するのだ.短時間で進行性の意識障害,Japan Coma Scale30,右痙性の強い片麻痺,右への共同 偏視から左被 出血を疑うが,左前頭葉皮質を含ん だ広範囲の脳塞栓症もありうる.本例の重症度は NIHSS12,Glasgow Coma Scale E3M6V4の13で あった.抗血栓療法中の高血圧性脳内出血や心房細 動による心原性脳塞栓症を疑い,ワルファリンの治 療効果度(PT-INR値)を確認を急ごう.最近は, 直接経口抗凝固薬もあるので凝固検査である PTと APTT値が迅速に知る必要があり,またその内服時 間が2-4時間以内かどうか,血中濃度のピーク時間 の類推も問診の重要な点だ.出血であれば,迅速か つ適切な降圧療法と抗凝固薬中和療法の止血治療で ある. 解 説 1.診断 頭痛や嘔気・嘔吐を呈し,血圧上昇を示 し,意識障害や片麻痺を発症し症状が短時間で進行 している場合,脳内出血を疑う.頭部 CTを施行し, 血腫の部位,血腫量,脳室穿破や水頭症,脳ヘルニ アの有無を確認する.なお40歳未満の若年者であり 高血圧既往がなく,皮質下出血,くも膜下出血や脳 室内出血を伴う時,脳動静脈奇形や動脈瘤,海綿状 血管腫からの出血を え脳血管造影や MRI/MRA による評価が必要である.後期高齢者の非高血圧性 の皮質下出血ではアミロイド血管症が原因と えら れる. 2.内科治療 転帰に最も影響する血腫拡大の防止 を第一とする.次に脳浮腫の抑止,適宜外科的治療 の適応を判断することである.まず,呼吸・循環の 管理が基本である.食後の場合嘔吐による誤嚥を予 防すべく麻痺側を上にした昏睡体位をとり,意識障 害が進行し半昏睡となった時点で挿管・呼吸管理を 慮する.補液は一日当たり1500ml前後になるよ うに開始液が投与される.収縮期血圧が180mmHg 以上の状態が続いたら降圧薬を開始すべきである. 降圧剤は脳血管を拡張する可能性がある薬剤は脳浮 腫・脳圧亢進を引き起こすため少量から開始する慎 重さが必要である.静脈注射では塩酸ジルチアゼム (ヘルベッサー)1γから開始し 1-10γで維持,ニカ ルジピン(ペルジピン)1γから開始し 2-10γで維 持,ニトログリセリン(ミリスロール,ミオコール) 0.1γから開始し 5γ以下で維持する.血腫拡大の危 険が高い発症24時間は,降圧開始60 は収縮期血圧 140mmHgを初期目標とし,急激な神経症状悪化や 進行なければさらに130mmHgを目指し,降圧薬の 投与量を増減している.迅速な降圧が必要なため静 脈内持続投与が開始されるが,発症1-4日以降に経 口降圧薬へ切り替える.上部消化管出血は重症例は 発症直後より合併しやすいので抗潰瘍薬プロトンポ ンプ阻害薬や H욽受容体拮抗薬の予防投与が必須で ある.また,発症2週間以内に発生する早発性てん かん(early seizure)に対してジアゼパムによる停 止,ホストフェニトインによる再発防止が必要であ る.CT上血腫周囲の脳浮腫による頭蓋内圧亢進・意 識障害が著明な時に10%グリセリンが投与され,200 mlを時間当たり100mlの速度で一日2-4回静脈 内投与する.本例では心房細動に対してワルファリ ンが投与されていたが,PT-INRが2.0を超えてい る場合,血液製剤プロトロンビン複合体または新鮮 凍結血漿,およびビタミン剤併用による迅速かつ確 実な中和療法の適応を 慮する. 3.外科的治療法:血腫を摘出または減量させ,頭 蓋内圧を低下,血腫周囲の正常脳への圧負荷を軽減 することにより,脳ヘルニアによる急性期死亡を防 ぎ,頭蓋内圧亢進による意識障害の期間が短縮しリ ハビリテーション導入が早くなる利点がある. 直達手術療法は,開頭血腫除去術・内視鏡的また は定位的血腫吸引術があり,①被 出血で推定血腫 量30mlかつ意識障害 JCS30以上,血腫による圧迫 所見が高度な時,血腫除去・吸引術,②皮質下出血 では,60歳未満で血腫量50ml以上,意識障害 JCS30 以上(超高齢者アミロイドアンギオパチーを疑うも のは除外)の時,内視鏡的または定位手術による血 腫吸引術,③小脳出血では,頻回の神経学的診察と 適宜 CT検査により,血腫の直径 3cm 以上,神経学 的兆候の増悪,脳幹を圧迫して水頭症が生じている 場合すみやかに血腫除去・減圧術となる.内視鏡的 血腫吸引術も好成績が示されている. 手術非適応群は①血腫量10cm웍以下の小出血例, 神経学的脱落症状が軽度,② Glasgow Come Scale 4以下の深昏睡例(脳幹圧迫を伴う小脳出血は除外) ③脳幹,視床出血である.本症例の CTにおける高 吸収域は,ほぼ直径 4cm 高さ 4cm の円球形であっ
た.推定血腫量は 4×4×4÷2で32mlとなる.保存 療法で血腫拡大を防ぐ努力を最大に行います.また, 症候悪化,意識レベル悪化,血腫量30ml以上になれ ば緊急開頭血腫除去術となるが本例では幸いなが ら,厳格な降圧,新鮮凍結血漿を投与して保存的に 経過観察し,血腫拡大なく症状改善を認め,保存療 法継続とした. 症 例 쏱 脂質異常症,糖尿病にて外来通院中の70歳代男性. 1か月前から日本酒を2合以上呑むと必ず右手足の 力が入りにくくなることが数回あった.右手で や お銚子が持てなくなり,歩くと右足を引きずり,膝 がかくかくと震えることがしばしばあり,横になる と数 でこの脱力がなくなるという.本日も午後7 時より晩酌,8時から同様の症状が出現しているが, 横になっても脱力がとれないので,午後10時半過ぎ に家族に付き添われ ERを受診した.来院時,血圧 170/80mmHg,脈拍72/ 整,呼吸12/ ,酩酊状態. 心肺音清音,腹部柔かつ平坦,頸部に血管雑音聴取 せず.意識清明,右上肢 Barre試験で回内くぼみ手, 10秒で 5cm 下垂し,Mingazzini試験では右下肢は 下垂しないが動揺する.夕方の血圧の薬は服用して いる. ERでのやりとり 研修医1年目「気道・呼吸・循環は安定しています. 切迫の瞳孔左右差や除脳 直肢位でもありません. 左前腕の静脈を生理食塩水で確保しました.採血と 頭部 CTもしました.血糖値は182mg/dlです.脳 CTでは異常はありません.心電図では洞調律です. カルシウム拮抗薬,ビグアナイドとスタチンを服用 されています」 指導医「よろしい,よく問診がとれているな엊 何 だと思う?」 研修医2年目「脳卒中ですね엊 アルコールが契機 ですね」 指導医「とりあえず TIAクリニックにコンサルトす るか.」 研修医1年目「アルコールによる脱水や降圧薬によ る無理な降圧が,脳灌流圧を低下させているかもし れませんね엊 血圧が下がると麻痺がひどくなるの で,しっかりベッド上に寝かせましょう엊 造影 CTはビグアナイド服用中ですからしないほうがい い.膝が笑うような発作を limb shakingと呼び,教 科書的です.」 指導医「……,おぬしできるな엊 私の指導医とし ての出番がどこにも…….」 研修医2年目「おれも……,先生出番がないのなら 一緒に帰りますか?.」 指導医のこころ お酒や血圧の薬により血圧が低下し麻痺が出現, 横になり脳への灌流圧が上がると麻痺が軽くなる脳 梗塞もある.すなわち,脳血管主幹部の閉塞や高度 狭窄があり,脳への灌流圧を維持して麻痺を消失さ せることが第一だ.右片麻痺が飲酒時や降圧薬服用 後の血圧低下時に再現性よくあると病歴であるので 脳主幹動脈閉塞や高度狭窄による血行力学的 TIA や脳梗塞を疑おう.そして,中大脳動脈や内頸動脈 の高度の動脈 化性病変が想定されるので頸動脈超 音波や頭蓋内 MRAを行い,さらに頭部 CTや MRI 拡散強調画像による急性梗塞巣を確認する.研修医 でも知っている「安静・頭部挙上の禁止と十 な補 液」,その後抗血栓薬の開始である.アスピリン腸溶 剤200mgをかみ砕いで内服してもらった. 解 説 1.発症4.5時間以上経過した脳梗塞,すなわちアル テプラーゼ投与非適応の場合 脳梗塞の病型 類の 図쏱 症例3 血行力学的脳梗塞症例の MR 左から拡散強調画像,灌流強調画像,MRAを示す. 左放線冠に点状急性梗塞があるが,左前頭葉広範囲に造影剤灌流遅 があり,左中大脳動脈水平 部の閉塞が認められる.臨床的に右不全片麻痺があるが,梗塞に至っていない広範囲の左中大脳 動脈領域の灌流不全がある.この領域をペナンブラと呼び,救援か梗塞進展かは主治医の腕の善 し悪しに依る.
診断を行い,安静度や再発予防の方策を立て,でき るだけ早く急性期再発予防の抗血栓薬を開始する. 本例は左中大脳動脈閉塞が MRAで確認され,拡散 強調画像では同血管の灌流領域に点状の虚血巣が散 在していた.造影剤を用いた灌流 MRIでは造影効 果の遅 ・低灌流領域を確認し,同部位の安静時局 所脳血流の低下が予想された.発症4.5時間を超えた 脳梗塞に対しても速やかに再発予防として抗血栓療 法が導入される.非心原性脳塞栓症には抗血小板薬 アスピリン160-200mgを初期投与し,さらに静脈投 与薬としてアテローム血栓性脳梗塞にはトロンビン 阻害薬アルガトロバンやラクナ梗塞にはトロンボキ サン A욽のアラキドン酸カスケードにおける合成阻 害するオザグレルが追加される.なお,病歴聴取や 入院後の診察で,症状進行,動揺の場合,脳主幹動 脈閉塞を認める場合,発症6-8時間以内に血管内治 療の適応があるかどうかを 慮しないといけない. 2.血行力学的脳梗塞・TIA 脳の主幹動脈が狭窄 や閉塞している患者さんでは,脳梗塞急性期には血 圧が上昇している.しかし,頭を上げたり,歩かせ たり,お酒等で,不用意に血圧を下げたりすると麻 痺や意識障害が悪化することがある.このように脳 梗塞時に,脳血管が麻痺しており全身の血圧の低下 により脳血流も低下する非常事態が認められる.こ れを脳血管の自動調節能障害とよぶ.このような低 灌流に伴う脳梗塞を血行力学的脳梗塞とよぶ.虚血 の中心部の周りにはペナンブラといって,生きるか 死ぬかの崖っぷちの脳組織があり,この部位に十 血液を送れるように詰まりそうな血管を治療できる ように,安静臥床,点滴,血圧を不用意に下げない, 頭部挙上や歩行をさせない,脱水予防として高血糖 による浸透圧利尿による脱水予防のためインスリン を血糖値に応じてスライディングスケール投与が必 要である.補液を1日当たり1500-2000ml行うこと が必要である.脱水や高ヘマトクリット状態であれ ば,低 子デキストラン含有リンゲルが血液粘 度 を低下させ血漿容量を増加させることができ,数日 間に限定して1日当たり500mlを静脈投与するこ とが 慮される.このような治療を要する血行力学 的脳梗塞を呈する患者さんは決して超急性期ではま れではない.高度の脂質異常症に伴う動脈 化が原 因のアテローム血栓性脳梗塞の場合,HMGCoA還 元酵素阻害薬スタチン,EPA製剤を中心に,また小 腸コレステロールトランスポーター阻害薬エゼチミ ブ,また難治例や家族性高コレステロール血症には PCSK9阻害薬による脂質低下治療を開始する. さて,症例から学んだことをシステム化しておさ らいしてみよう. 【急性期病型診断】 病歴ではどのような症状が急に 起きたか,またその後時間経過に伴い症状進行や動 揺しているのか,変わらないかまたは改善している のか,特に発症時間または未病だった時間を確認し ます(図4).診察では,呼吸循環を確認後,危機的 図쏲 脳卒中の初期症候
な脳ヘルニア徴候の指標である除皮質・除脳 直と 瞳孔の左右差の有無を確認してから,神経診察とし て NIHSSという世界共通の指標を用いて,脳損傷 に伴う症候とその重症度を定量化し,また神経徴候 から脳のどの部位が損傷されているか,またどの脳 血管が閉塞または出血しているかを救急の現場で えながら体を動かし対応します.これは患者さんの 訴えや病歴,神経徴候を説明する責任血管と責任病 巣を推定診断する思 が現場で重視されるからで す.血液検査,心電図・胸部レントゲン,頭部 CT, MRI,頸部および心臓超音波検査を迅速に行い,脳 梗塞か頭蓋内出血か,脳梗塞であれば病型 類診断 を行います.脳卒中診療は,実に昔ながらの「話を 聞き,患者さんを見て,触って,感じ取って診察す る」という内科学の基本をそのまま残していると言 えるのです. ⑴ ラクナ梗塞 脳主幹動脈から直接 枝する脳実 質を穿通する動脈は,血管内皮細胞および周皮細胞 を主として構成され,そのリポヒアリン変性・フィ ブリノド変性,微小粥腫による閉塞から発生する. 高血圧・血圧変動を緩衝できる筋性血管である頭蓋 内主幹血管と異なり,穿通枝動脈は高血圧負荷に暴 露され変性しやすいと えられ,疫学的にも高血圧 症が最大の危険因子となっていることが理解でき る.直径15mm 以下のラクナ梗塞は,意識障害をき たさず,いわゆるラクナ症候群(純粋運動性片麻痺, 純粋感覚卒中,失調性片麻痺,構音障害・拙劣手症 候群,感覚運動性卒中等)を呈する.診断に頭蓋内 外に有意な狭窄・閉塞性病変や塞栓源性心疾患を有 さないことを検査で示す必要がある.再発率は2% と低いが症状進行は15%前後となるので軽症のラク ナ梗塞と言えど,入院後も安心できない. ⑵ アテローム血栓性脳梗塞 高血圧,糖尿病,脂 質異常症,喫煙に時間的負荷すなわち加齢が積算的 に病因となる.動脈 化,すなわち脳血管の有意狭 窄性病変(直径で50%以上の狭窄)部位での血栓に よる閉塞(in situ thrombosisとよぶ),血栓の遠位 への塞栓(artery-to-artery embolism とよぶ)によ り発生する.高度狭窄・閉塞部位の遠位側に低灌流 圧・血流到達遅 が生じ,長時間持続すると梗塞に 進展する血行力学的脳梗塞(hemodynamic infar c-tion)が病態にしばしば加わる.そのため脳梗塞中心 部の周辺にペナンブラとよばれる低灌流領域があ り,これはまだ梗塞に至っていない部位があり,血 行再 により救援できる部位言い換えれば血行再 できなければ死んでしまう“がけっぷちの危機の脳 組織”が超急性期に存在する.狭窄または閉塞して いる脳主幹動脈病変を頸動脈超音波や 脳 お よ び MRA,造影 CTA(CT angiography)により確定す る.片麻痺以外に意識障害や失語,失行,失認を示 し,急性期病状進行は20%となり,再発も5%以上 と多い.また,脳血管は閉塞部位にできるだけ多く の血流を送ろうとするので血管拡張をしており,も し体血圧が低下することがあれば,血圧降下度に応 じて灌流領域の血流が低下してしまう.これを脳血 管の自動調節能 autoregulationの障害と呼び,その ためもし頭部挙上や降圧をすれば,虚血部位はより 早く梗塞に進展してしまうことが理解できる. ⑶ 心原性脳塞栓症 高齢者での非弁膜症性心房細 動,僧帽弁狭窄,心筋梗塞・心室瘤における心臓内 血栓が脳に飛来する塞栓症である(表1).突然の血 管閉塞による重篤な虚血およびその症状,閉塞血管 の再灌流による脳浮腫,出血性変化および脳ヘルニ アが多く症状進行率は15%にいたる.脳や全身への 再塞栓(四肢動脈閉塞症,上腸間膜動脈閉塞症)の ため5%の症例で再発となり,回復期での機能予後 が不良で,急性期死亡率も高い.突然,意識障害を 伴う片麻痺,失語や失認等の皮質症状を呈すること が多い.自 で歩行,会話,食事等の日常生活が送 れなくなる転帰不良例が半数を超え,死亡率も高く ノックアウト型脳卒中ともよばれる.80歳以上脳梗 塞の3 の1は非弁膜症性心房細動による本病態で 占め,私たちの圏域では経口抗凝固薬による脳梗塞 予防を鑑みた心房細動治療がまだ十 施行されてい ない Under-Use,また用量不足 Under-Doseである 地域であるため,今後の予防医学上での重点となる. 表쏯 心原性脳塞栓症の原疾患 血栓の形成部位 主な心疾患 1.左心房・左心耳 非弁膜症性心房細動(持続性および一過性ともに),弁膜症性心房細動,僧帽弁狭窄症, 洞不全症候群,左心房粘液腫,ペースメーカー(VVIモード) 2.左心室 急性心筋梗塞,心室瘤,拡張型心筋症および肥大型心筋症拡張相,ペースメーカー,結 節性 化症による心臓横紋筋腫 3.弁 人工弁(特に機械弁),弁膜疾患(僧帽弁逸脱症,僧帽弁輪石灰化症,石灰化大動脈弁 化症)・乳頭繊維弾性腫,感染性心内膜炎(疣腫),非細菌性血栓性心内膜炎(悪性腫瘍 に伴う心内膜炎,リブマンサックス心内膜炎や抗リン脂質抗体症候群に伴う心内膜血栓) 4.静脈(奇異性脳塞栓症) 卵円孔開存,心房中隔欠損症,心室中隔欠損症,肺動静脈瘻
⑷ 高血圧性脳内出血 筋性動脈から直角に 枝す る穿通枝動脈のリポヒアリン・フィブリノイド変性 からの形態異常,すなわち微小動脈瘤が,圧負荷に 耐えきれずに破綻して発症するとされている.頭痛, 嘔気,血圧高度上昇,意識障害や片麻痺等が短時間 で進行する.壮年者には被 ・橋出血が多いが,高 齢者では視床や皮質下出血の割合が増加する.また, 高齢者脳内出血の3 の1が非高血圧性で,抗血栓 療法やアミロイド脳血管症が原因となる.死亡率も 高く,機能回復される症例は3 の1前後である. 私たちの圏域でも,高血圧に対する安定的な治療を 受けていない,また大量飲酒の方が発症されている. ⑸ その他の脳梗塞,まれな原因による脳梗塞 診 断と治療はすべて原疾患により異なり,その原疾患 および脳合併症への治療の重み付けが変わるので, 若年性脳卒中や循環器の危険因子のない症例では, 診断と治療中全身合併症を検索する必要がある(表 2). ⑹ 類不能の脳梗塞 上記の 類でオーバーラッ プしている場合,また必要な検査ができない場合, この範疇にいれ,長期的観察で病型を確定する.ま た,ESUS(embolic stroke of undetermined sources)塞栓源不明の脳梗塞は,日々の臨床でしば しば遭遇するが,再発予防の観点,特に抗血栓薬の 選択から,退院後の長期的な診察と塞栓源の検索が 必要とされる症例もある. 【急性期治療】 1)基本治療 意識障害があれば,気道確保・酸素投与する.誤 嚥のリスクがあるので口腔内吸引や義歯除去をすぐ に行う.末梢静脈を確保し,病歴聴取と神経学的診 察を速やかに行う.脳卒中専門医師,看護師,理学 療法士,薬剤師,ケースワーカーのチームによる急 性期脳卒中専門病棟(Stroke Care Unit)への入院 が推奨される.頭部挙上を禁じベッド上安静と持続 輸液による脳灌流圧の維持を行い,脳梗塞に対して 降圧療法は収縮期220mmHgを超えない限り控え る.高血圧性脳内出血やくも膜下出血に対しては迅 速かつ安定的な降圧を行う.症状動揺なければ,順 次頭部挙上を許可する.意識障害のため経口摂取が 困難な場合経管栄養を開始,意識が回復すれば嚥下 評価を行い経口摂取とする.吐下血等消化器疾患, 肺炎や尿路感染症,不整脈や心不全等の心疾患,不 穏せんもう等急性精神症状の合併症の頻度が高齢者 では高く,高齢者に適切な対応が必要である. 2)脳梗塞超急性期再灌流療法 脳梗塞において詰まった血管を通す,つまり再灌 流が最も基本的な治療である.発症4.5時間以内に治 療が開始できる超急性期脳梗塞に対しては t-PA (tissue plasminogen activator)であるアルテプラ
ーゼ静脈投与の適応を迅速に判断する.適応基準を 満たし(表3),CT上早期虚血徴候が陰性であれば
表쏰 その他の脳梗塞 まれな原因による脳梗塞 ●頻度が多いもの
1.頭蓋内および頸部脳血管解離および大動脈弓動脈解離 2. 枝粥腫病 Branch Atheromatous Diseaes 3.大動脈弓粥腫複合病変
4.コレステロール結晶塞栓症
5.悪性腫瘍合併非細菌性血栓性心内膜炎・トルーゾー症候群 ●頻度の少ない原因による脳梗塞
1.非炎症性血管障害:繊維筋異形成,無症候性クモ膜下出血後血管攣縮,妊娠高血圧症および子癇,片頭痛,可 逆性脳血管攣縮症候群,放射線治療誘導性血管症,モヤモヤ病,血管内リンパ腫,神経 von Recklinghausen繊 維腫症,Menkes病
2.炎症性・感染性脳血管障害:中枢神経限局脳血管炎,側頭動脈炎,ベーチェット病,サルコイドーシス,川崎 病,高安大動脈炎症候群,バージャー病,髄膜炎からの波及した脳血管炎,帯状疱疹・神経梅毒・結核・ライム 病・真菌症・HIV感染症に伴う脳血管炎,非合法ドラッグによる脳血管炎,
3.凝固異常:凝固因子欠損(Protein S/C,,AntithrombinⅢ,Leiden因子欠損症),経口避妊薬,悪性腫瘍,菌 血症,DIC,多発性骨髄腫・Waldenstrom(バルデンストローム)マクログロブリン血症等による過粘稠症候群, 抗リン脂質症候群,鎌状赤血球症,血栓性血小板減少性紫斑病,Henoch-Schoenlein紫斑病
4.全身疾患:結節性多発血管炎,Churg-Straus症候群,全身性エリテマトーデス,慢性関節リウマチ,強皮症, 混合結合組織病,炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎,クローン病),ネフローゼ症候群,ミトコンドリア脳症,Sneddon 症候群,Sweet症候群
5.遺伝性疾患:Osler-Weber-Rendu病,肺動静脈瘻,Fabry病,CADASIL(cerebral autosomal dominant arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy),Marfan症候群,Ehlers-Danlos症候群, Pseudoxanthoma elasticum,早老症
表쏱 アルテプラーゼ(t-PA)脳梗塞超急性期血栓溶解療法 1.基本的確認事項 □発症時間(発見時間・発見者が病状に気付いた時刻ではない,発症時刻が不明の場合,最終未発症時刻をもって 発症時刻とする.) □インフォームドコンセントで同意を得る(慎重投与例は同意必要,適応例は同意好ましいがそれを許さない状況 では医師,薬剤師,看護師等のスタッフでの同意も倫理委員会許可があれば,可能としています.) □治療による効果(3か月後転帰良好例は有意に増加すること)が,合併症(症候性頭蓋内出血を3-10倍増加,5 -20%に観察)の危険率を上回る可能性が高いと判断した場合を適応とする.適応基準から逸脱は症候性頭蓋内出 血・死亡の危険を高める. □我が国においては,アルテプラーゼ0.6mg/kgを静脈投与する.なお,海外から大阪への渡航中発症の海外 康 保険を有する外国人脳梗塞症例に関しては0.9mg/kgの投与量となります. □南河内圏域では毎年市民啓発と救急隊病院前救護の講習会を行っております. 2.適応項目(1項目でも当てはまらない項目がある場合は適応外) □すべての臨床カテゴリーの脳梗塞(ラクナ,アテローム血栓性,心原性,その他の脳梗塞すべて)である □発症4.5時間以内に治療が可能である □発症4.5時間以内であっても,治療開始が早いほど良好な転帰が期待できる.来院後1時間以内,原則30 以内に 治療を開始することが望まれる. 3.禁忌項目(1項目でも当てはまる項目がある場合は適応外)について a.画像検査 □頭部 CT写真で広範な早期虚血性変化(目安として MCA灌流域の 1/3以上の early CT sign)がある.中大脳 動脈領域梗塞の場合,ASPECTSスコアが評価可能であり,本スコア6以下は広範囲と判断.(脳梗塞超急性期に 認める CT上の虚血性変化(early CT sign)とは,a.レンズ核境界の不鮮明化,b.島皮質の不鮮明化,c. 皮髄境界の不鮮明化,d.脳溝の消失である.) □頭部 CT/MRI上の圧排所見(正中偏位) □頭部 CT/MRIで出血性梗塞・クモ膜下出血がある □頭蓋内腫瘍・脳動脈瘤・脳動静脈奇形・もやもや病がある □胸部大動脈解離が疑われ,除外できない場合. b.既往歴 □非外傷性頭蓋内出血(外科治療の有無を問わず脳内出血,クモ膜下出血の既往があること.なお MRI T2*の microbleedsは含まない) □1か月以内の脳梗塞(TIAは含まないことに留意する) □3か月以内の重篤な頭部/脊髄の外傷あるいは手術 □21日以内の消化管あるいは尿路出血 □14日以内の大手術あるいは頭部以外の重篤な外傷 □治療薬 t-PAの過敏症 c.臨床所見 □クモ膜下出血が疑われる □出血の合併(頭蓋内出血,消化管出血,尿路出血,後腹膜出血,喀血・気道出血) □収縮期血圧が(適切な降圧療法を行っても)185mmHg以上である □拡張期血圧が(適切な降圧療法を行っても)110mmHg以上である d.血液検査 □血糖値異常(50mg/dl未満または400mg/dl以上) □血小板10万/mm웍以下 □ PT-INRが1.7を超える □ APTTが 長(前値の1.5倍以上めやすとして40秒を超える) □重篤な肝障害 □急性膵炎 4.慎重投与項目(下線部は発症3-4.5時間に投与開始する場合要注意) a.年齢 □年齢81歳以上 b.神経徴候 □ NIHSSスコア26点以上 □軽症 および 症状の急速な軽快による軽症化 □痙攣の合併 c.臨床所見 □脳動脈瘤・脳動静脈奇形・もやもや病 □胸部大動脈瘤 □消化管潰瘍・憩室炎・大腸炎 □活動性結核 □糖尿病性出血性網膜症・出血性眼症 □月経期間中 □重篤な腎障害 □コントロール不良の糖尿病 □感染性心内膜炎 □妊婦・産婦・授乳婦 d.既往歴 □10日以内の臓器生検・血管穿刺(動注療法・動脈穿刺)・外傷 □10日以内の ・流早産 □血栓溶解薬,抗血栓療法中(抗血小板薬,ヘパリンやワルファリン投与中,特に新規経口抗凝固薬:ダビガトラ ン・リバーロキサバン・アピキサバン・エドキサバンとの安全性有効性は確立しておらず,内服後2-4時間以内 に PT-INR,APTT 長のピークに至ることを念頭にいれる.) □1か月以上経過した脳梗塞(特に糖尿病合併例)(TIAは含まない,なお1か月以上経過した脳梗塞でも出血性変 化や血腫が CT上残存している場合禁忌となる.) □3か月以内の心筋梗塞 □蛋白製剤アレルギー
0.6mg/kgが静脈投与され,早期再灌流により症候 が軽快し軽微な後遺症ない家 復帰できる割合が有 意に増す.高齢者,重症,抗血栓療法中,発症3時 間から4.5時間における治療群では,頭蓋内出血の危 険が増加するので慎重に投与する.また,症状軽快 中であっても残存障害が中等度あればアルテプラー ゼ投与を躊躇しないほうがいい.投与量に関して, ENCHANTED(Enhanced Control of Hypert en-sion and Thrombolysis Stroke Study)研究が報告 された.急性虚血性脳卒中患者への血栓溶解療法と して,組織プラスミノーゲン・アクティベーター (tPA)アルテプラーゼの日本人仕様量0.6mg/kg 静脈内投与を日本以外諸外国量0.9mg/kg投与と 比較したところ,死亡または90日後の神経機能障害 については非劣性を示すことができなかった.我が 国では,欧米の臨床研究のデータをそのまま活用す るのではなく,頭蓋内出血や出血性梗塞の危惧が日 本人では高いため,いわゆる低用量アルテプラーゼ を採択してきたが,諸外国でもこの安全性と有用性 が示された.(図5,Anderson CS et al.New Engl J Med.2016;374:2313-2323.)一方,発症時間か ら4.5時間以内治療可能な時間に病院に到着する患 者は今だ多くなく,そこで治療範囲が広い rt-PAの 開発が待たれていた.頭蓋内主幹動脈病変を有する 脳梗塞で発症3-9時間の従来のアルテプラーゼが 禁忌となるが救援可能なペナンブラが存在すると思 われる症例への改変 rt-PAであるデスモテプラー ゼの有用性を検討したが,デスモテプラーゼはフィ ブリン依存性で特異度が高いため有効性と出血性合 併症が少ないと思われたが,残念ながら DIAS-3研 究では有用性を発揮することができなかった. また,rt-PA療法単独では血流再開できない大き い血栓による脳主幹動脈閉塞,すなわち内頸動脈や 中大脳動脈起始部,脳底動脈閉塞の場合,緊急血管 造影に続く血栓吸引療法やステントにより血栓を絡 めとる血栓除去術(図6,血管内治療とよぶ)が迅 速かつ確実に行え,多くの重症脳梗塞患者が劇的に 改善,救命され,社会復帰される奇跡的な治療が今 や日々24時間普通に提供できるようになっている. この血管内治療を受けるため,初期対応した救急病 院から発症早期に rt-PA点滴を行いながら脳卒中 センターへ搬送する Drip,Ship and Retrieveとい う欧米式地域連携治療もすでに近畿大学では応需可 能としている.この血管内治療は発症6時間以内に 行われると良好な結果を得るため,1 でも早く脳 卒中センターに患者さんが搬送されることが最も大 切である(Time is Brain時は脳なり엊).この血管 内治療はすでにメタ解析が報告されその普遍性が示 表쏱補足図 ASPECTスコア 以下の部位に CTでの早期虚血サイ ン,MRI拡散強調画像での高信号域が あれば各10,11点満点から減点してい く. 図쏳 ENCHANTED研究 上段が日本オリジナル0.6mg/kg投与,下段が諸外国の0.9mg/kg投与であり,欧米人でも日本 人用量で同等の成績と少ない副作用が報告された.なお,modified Rankin Scale 0:全く症状 なし,1:軽微の症候があるが日常生活や仕事は可能,2:軽度の障害で,自立歩行可能で身の 回りのことは介助なく生活できる,3:杖歩行等中等度の障害で何らかの介助が必要とする.4: 歩行や日常生活,食事やトイレに介助が必要,5:重度の障害で寝たきりまた常に介助を必要と する,6:死亡 一般に t-PA無治療となった症例での mRS0-1は45%である.
され,虚血性脳卒中の患者に対し,発症から6∼8 時間内に血栓除去法などの血管内治療を行うほうが rt-PA静注療法を含む内科的治療のみを行った場 合に比べ,発症90日以内の機能的転帰は良好である. 2015年以降に発表された5試験では,内科的治療と 比較して血管内治療群,より有効とされるデバイス, ステントリトリーバー(血栓回収型デバイス)によ る治療を受けており,閉塞血管の迅速再開通率も高 い.現在,脳梗塞超急性期治療は,rt-PAに加えて 血管内治療のハイブリッド治療,また rt-PAが投与 できない症例に対して血管内治療の目覚ましい良好 な成績が示され,現場の医療も大きく変容した.(図 7,Goyal M et al.Lancet2016;387:1723-31.) 3)急性期脳梗塞に対する抗血栓療法と脳保護薬 t-PA適応症例以外は,抗血小板療法としてアス ピリン等の早期投与が推奨される.アスピリン腸溶 剤の場合,嚙み砕いて内服させる.アテローム血栓 性脳梗塞には抗トロンビン薬アルガトロバンや抗血 小板併用療法,ラクナ梗塞にトロンボキサン合成酵 素阻害薬オザグレルが併用される.心原性脳塞栓症 には抗凝固療法ヘパリン・ワルファリン,直接経口 抗凝固薬が投与される.ワルファリン(ワーファリ ン)・ダビガトラン(プラザキサ)・アピキサバン(エ リキュース)・リバロキサバン(イグザレルト),エ ドキサバン(リクシアナ)から選択される.活性酸 素消去薬エダラボンが脳保護薬として急性期に併用 される.抗凝固薬開始のタイミングは,一過性脳虚 血発作1日,軽症2-3日,中等度4-6日,広範囲 脳梗塞の場合1週間以上待機し,出血性脳梗塞の重 症化を防ぐようにしている. 4)高血圧性脳内出血に対する急性期治療 出血には止血が第一治療である.高度の高血圧は 脳内出血の血腫拡大が持続するとされ,迅速にかつ 収縮期血圧140mmHg以下になるように降圧を行 う.ニカルジピン,ジルチアゼム,亜硝酸薬ニトロ グリセリンを微量持続投与する.頭蓋内圧亢進に対 図쏵 血管内治療メタ解析 上段が内科治療,下段が血管内治療を行った群である.mRSの0-2が内科治療群と比べ血管内 治療群では有意に増加した. 図쏴 血管内治療のデバイス ステント型リトリーバー(上段)と血栓吸引型リトリーバー(下段) 左上:血栓を覆う位置でステントを拡げ,血栓内にステントを埋没させて引き抜き,血栓除去を 迅速におこなうことができる.脳神経外科中川修宏先生より提供. 右上:除去された血栓.左下:血栓までカテーテルを到達,吸引し 砕してカテーテル内へ吸引 する.左下:血栓をカテーテルに吸引しながらそのまま機関車のようにプルバックして除去する. 脳神経外科布川知 先生より提供.
して,すなわち意識レベル低下と血腫周囲の脳浮腫 が著明な時に10%グリセリンが投与される.救急手 術前にはマニトールも選択される.各種止血剤(カ ルバゾクロム,トラネキサム酸)も 慮され,ワル ファリン投与中の脳出血に対しては,新鮮凍結血漿, またはプロトロンビン複合体(PPSBニチヤク)と 同時にビタミンKを投与し止血することが要求され る.すべて時間勝負であり,早ければ早いほど止血 が早期に完了し,患者さんの救命率と機能が良くな る. さて,脳卒中治療ガイドライン2015改訂ポイント およびその後の展開について述べたい.2013年に発 表された INTERACT2試験において発症6時間以 内の脳出血急性期に収縮期血圧150-220mmHgか ら1時間以内に140mmHg未満に降下させる厳格 降圧群では180mmHg未満まで降下させる旧指針 群と比較して発症3カ月後の機能のシフト解析によ り機能予後が良好であった.脳出血急性期の血圧は, できるだけ早期に収縮期血圧140mmHg未満に降 下させ,7日間維持することが望ましいと推奨され た.また日本における SAMURAI-ICH 研究におい て,発症3時間以内の脳出血急性期における収縮期 血圧が180mmHg以上の症例への160mmHg以下 への迅速な降圧の安全性と,収縮 期 血 圧120-132 mmHgへの降圧の有効性が示されている.これらの 研究および なる厳格な降圧目標110-139mmHg 治療を行った ATACH-2研究の速報(図8,Qur e-shi AI et al.New Engl J Med2016;375;1033-1043.)より全身状態と病前血圧値を 慮して,脳出 血急性期において1時間以内に収縮期血圧を180 mmHg以 上 の 場 合160mmHg未 満 ま で,150 mmHg以上の場合140mmHg未満に低下させ,そ の後発症24時間の収縮期血圧を130-140mmHgと いう到達可能な目標設定を行い,発症7日まで24時 間にわたる安定的な降圧療法を経口降圧薬へ調整す ることが実践的である. 降圧薬としてカルシウム拮抗薬(第一選択ニカル ジピン,頻拍症例ではジルチアゼム)や冠動脈疾患 合併例では亜硝酸薬(ニトログリセリン)の微量点 滴静注が推奨される.血管拡張作用による再出血・ 脳浮腫悪化や頭蓋内圧亢進時における急激な降圧に よる脳虚血に注意を払いながら投与する.嚥下機能 を評価して経口可能または径鼻チューブより,早期 に長時間作用型カルシウム拮抗薬,アンジオテンシ ン変換酵素(ACE)阻害薬,アンジオテンシン受容 体拮抗薬(ARB),サイアザイド系利尿薬を用いた経 口治療へ,各クラス効果と副作用を 慮しながら切 り替えることが推奨される.発症7日間の24時間に わたる安定的な降圧治療が転帰良好に至るため,早 期から単剤にこだわらず,積極的に様々なクラスの 降圧薬の併用療法を行うことが基本である. 止血剤についても議論を深めよう.通常の高血圧 性脳内出血急性期で血液凝固系に異常がない場合, 血液凝固因子を含めた血液製剤,たとえば外因系凝 固因子の鍵である凝固第Ⅶ因子の投与は推奨できな い.高血圧性脳内出血であっても血小板や血液凝固 系の異常を合併し出血傾向が認められる症例では, 病態に応じて血小板輸血,濃縮プロトロンビン複合 体,新鮮凍結血漿などの血液製剤の投与を 慮すべ きである.しかし,保険診療上および輸血の準備と 投与時間に時間がかかること,感染症の危惧や輸血 量過多による心不全誘発等の関門が高い.脳出血急 性期に対して血管強化薬,抗プラスミン薬の 用は 十 な科学的根拠はないが現実的には医師の裁量権 で投与される.抗血栓療法中に合併した高血圧性脳 内出血は,原則抗血栓薬の中止,ワルファリンに対 しては新鮮凍結血漿に比べて,プロトロンビン複合 体投与は迅速に PT-INRを1.35ないし1.2未満ま で中和せしめ,血腫拡大や死亡率が減ずる.安定的 な中和のためビタミンK併用も行う.また,直接経 口抗凝固薬ダビガトラン,Xa阻害薬(リバロキサバ ン,アピキサバン,エドキサバン)内服中の脳内出 図쏶 ATACH-2研究 厳格治療(半数の症例が収縮期血圧200mmHgから120-124mmHgまで降圧) も穏やかな治療(140-146mmHgまで降圧)も機能転帰の点からの治療成績は同じであった.厳 格療法は血腫拡大率は低い傾向,症状進行は多い傾向,降圧による合併症は多い傾向があった.
血に関しては,それぞれ抗体療法イダルシツマブ 5 g静脈内投与(Pollack CV Jr.,et al.New Engl J Med2015;373,511-520),認可待ちのデコイ療法 アンデキサネット αが選択される.抗凝固療法中の 高血圧性脳内出血症例での,来院後4時間以内の抗 凝固療法の中和と降圧目標達成症例群の死亡率や機 能予後の良好なことが欧州での多施設共同後方視的 研究で報告されたことから,以上の止血の治療もで きるだけ早く行うことが推奨される. 高血圧性脳内出血症の転帰は,超急性期の初期脳 ダメージ,場所と血腫量,血腫拡大・脳室穿破によ り規定されるため,病院搬送後の治療戦略は血腫拡 大から神経症候悪化,機能転帰不良への流れを止め ることである.神経徴候悪化因子は,来院時血腫量 と GCS値,その後の血腫拡大・脳室穿破が強い 絡 因子であり,単純 CTでの血腫内低吸収域サインと 造影 CTにおける造影剤漏出を示す CTA spot sign が参 となる.このような画像所見を認めた場合, 降圧や止血を「より早く開始,より速く目標まで, より安定的に維持」することが理に適う.また発症 4時間半以内に治療開始できる脳出血超急性期降圧 目標は,厳格目標収縮期110-139mmHgが旧指針 140-179mmHgに機能転帰の点からは同等である という刮目すべき ATACH-Ⅱ研究から えると, 降圧目標は130-139mmHgに折り合いをつける,す なわち安全性と有効性から実際的である(図8). 5)脳浮腫・頭蓋内圧亢進の管理 高張グリセロール静脈内投与は,頭蓋内圧亢進を 伴う大きな脳出血および広範囲の脳塞栓症による脳 ヘルニアの急性期に推奨される.止血完了していな い脳内出血は頭蓋内圧が下がると再出血血腫拡大と なる可能性があるので,注意が必要である.血腫周 囲の浮腫が出現した場合に適応とする.マンニトー ル投与が脳出血の急性期に有効とする明確な根拠は ないが,進行性に頭蓋内圧が亢進した場合や血腫に 随伴して臨床所見が増悪した場合には, 慮しても 良い.なお INTERACT2研究サブ解析ではマンニ トールの有用性は示されていないので,手術出しの 前に投与して急場をしのぐことに う.副腎皮質ホ ルモンが脳出血急性期や脳梗塞脳浮腫に有効とする 明確な科学的根拠はない.頭蓋内圧亢進に対しベッ ドアップにより上半身を30°挙上すると良いと報告 されているが,まれに高度の血圧低下に注意すべき である.脳出血や脳塞栓症の急性期において,8∼10 日 間 体 温 を35℃に 保 つ 緩 徐 な 低 体 温 療 法(mild hypothermia)は,脳浮腫を軽減させると報告されて いるが,明確な科学的根拠はないので実戦的ではな い.発熱時における平温療法,つまりアセトアミノ フェン等の解熱剤 用や体幹クーリングが安全であ る. 6)上部消化管出血の管理 高齢,重症などの危険因子を持つ脳出血例,重症 の脳梗塞では消化管出血の合併に注意し,抗潰瘍薬 の予防的投与を 慮してもよい.プロトンポンプ阻 害薬が現場では頻用されるが,H욽受容体拮抗薬は 不穏やせん妄の危惧,スクラルファートは経口摂取 または経鼻チューブから投与する制限があるためで ある.アスピリン導入による急性胃粘膜障害,胃潰 瘍予防も 慮したほうがいい.長期の絶飲食は消化 管出血や感染症,特に腸内細菌の血中への移行とい う問題もあるので,適切な栄養開始のタイミングを 症例ごとに決める必要がある. 7)深部静脈血栓症および肺塞栓症の予防 脳出血急性期の患者で強い麻痺を伴う場合,間欠 的空気圧迫法(フットポンプ)により深部静脈血栓 症および肺塞栓症を予防すべきである.非心原性脳 梗塞症例で抗凝固薬が投与されていない上,弛緩性 麻痺の場合も予防策を 慮した方がいい.弾性スト ッキング単独の深部静脈血栓予防効果は脳卒中症例 においては証明されていない,むしろ皮膚潰瘍等の 合併症頻度の増加のため行わないことを推奨する. 間欠的空気圧迫が行えない患者においては,抗凝固 療法を行うことを 慮しても良い.現実的には d-dimerを指標として,下肢深部静脈超音波や造影 CTで診断し,治療導入することになる.ヘパリンブ リッジング併用ワルファリンか,直接経口抗凝固薬 (エドキサバン,リバロキサバン,アピキサバン)を, 頭蓋内血腫発症後数日以降待機して,血腫拡大がな いことを確認して,ヘパリンブリッジングなしで導 入でき,また脳内出血の少ないとされる後者を第一 選択として導入することが多い. 8)症候性てんかん対策 脳出血に合併する痙攣は大脳皮質を含む出血に多 い.ジアゼパムで停止,フォスフェニトイン,レベ チラセタム・ミタゾラム静脈点滴導入が 慮される ことが多い.被 や視床,テント下に限局する脳出 血では痙攣の合併は少なく,手術例以外では抗てん かん薬の予防的 用は勧められない.急性期に投与 された抗てんかん薬が予防目的である場合も,痙攣 発作を生じていなければ漫然とした投与を避けるこ とが勧められる.脳出血の遅発性痙攣(発症2週間 以降)の出現例では,高率に痙攣の再発を生じるた め,抗てんかん薬の投与を積極的に 慮する.脳出 血後痙攣の治療としては,レベチラセタムやラモト リギンの 用が望ましい.現実的には,カルバマゼ ピンが部 発作の再発予防の点から選択されること
が多い.また,新規抗てんかん薬の登場により,症 例の背景に基づいたクラス選択も可能となってき た. 9)リハビリテーション 神経症候および全身状態が安定すれば,急性期臥 床時からベッドサイドで体位変換,良肢位保持,麻 痺側関節の可動域訓練を開始し,積極的にリハビリ テーションを推進する.また,地域連携脳卒中クリ ニカルパスを用いて,急性期病院から回復期リハビ リテーション病院,維持期療養型およびかかりつけ 医でのシームレスなリハビリテーションが提供でき るようになっており(図9),理学療法士による新メ ソッド(反復促通法,ロボットアシスト等)ととも に患者さんの機能回復の成績は目覚ましくよくなっ ている.もし,拘縮に至った場合,ボツリヌス注射 や外科的治療による改善が期待でき,リハビリテー ション促進効果も著明である. 10)外科的治療法 アテローム血栓性脳梗塞の原因が内頸動脈狭窄症 という動脈 化に因る場合,頸動脈内膜剥離術や頸 動脈血管形成ステント留置術が内科治療を凌駕す る.また.くも膜下出血に対して,迅速に動脈瘤の 部位とサイズを評価,開頭動脈瘤クリッピング術や 血管内治療としてコイル塞栓術が行われ,集中的全 身管理を術後行い,救命をおこなっている.脳出血 に対して開頭血腫除去術や負担の少ない内視鏡的血 腫吸引術が選択されている.水頭症・脳幹圧迫によ る症状進行する最大径 3cm 以上の小脳出血,血腫 量31ml以上の被 出血で意識障害中等度以上例, 脳表から深さが 1cm 以下の皮質下出血が適応とな る. 11)妊娠 に伴う脳出血 妊娠 に伴う脳卒中においては,周産期や産褥 期に多く発症し,そのうち出血性脳卒中が7割以上 を占め,原因疾患では脳動静脈奇形,次いでもやも や病であることが報告された.脳出血による早期て んかん発作と妊娠高血圧・子癇との鑑別は神経診察 だけでは容易ではなく,CT・MRIの画像診断が必要 となる.死亡率が高いため,迅速な初期治療と器質 的な頭蓋内血管病変を評価し,適切な治療を開始す る.妊娠高血圧症候群における脳内出血においては, 血小板や凝固因子の異常を合併し,出血傾向が認め られる症例では,病態(HELLP症候群,DIC,TTP) に応じて血小板,プロトロンビン複合体,新鮮凍結 血漿などの血液製剤の投与や血漿 換を 慮する. 後脳梗塞の rt-PAや抗血栓療法の導入の判断 は母体の状況を判断して,またその重度や再発率を 慮して行う.非常に判断に困る症例が多いため, 神経診察と画像診断が迅速に行え,また早期の脳外 科・産科手術が可能な施設,すなわち各医療圏24時 間態勢で妊産婦脳卒中の受け入れ可能な統合的脳卒 中センターを有した 合病院の設置が必要である. 図쏷 南河内圏域で用いられている脳卒中地域連携クリニカルパス 改訂版 患者さん用
12)慢性期の再発予防 非心原性脳梗塞症に対して抗血小板療法としてア スピリン,シロスタゾール,クロピドグレルが投与 される.消化管や頭蓋内出血性合併症の回避にも注 意を払い,急性期に2剤併用された場合発症3週間 または3カ月以上安定期に単剤投与とする.動脈 化の危険因子の管理が必要で,禁煙,節酒,適正体 重と運動励行,食生活の是正を指導する.高血圧は 脳卒中の最大に発症危険因子であり,回復期の神経 症状が安定した発症1-3週間時点で,緩徐な降圧を 導入し,維持期には早朝を含めた24時間にわたるま た日々変動の少ない安定的な降圧を行う.目標血圧 140/90mmHgとし,後期高齢者や両側内頸動脈狭 窄症症例では150/90mmHg以下として,再発予防 を行う.長時間作用型カルシウム拮抗薬,アンジオ テンシン変換酵素阻害薬,アンジオテンシン受容体 拮抗薬,少量の降圧利尿薬の各クラスが第一選択と なる.冠動脈疾患合併例では β遮断薬,心不全や糖 尿病合併例ではアンジオテンシン変換酵素阻害薬, アンジオテンシン受容体拮抗薬など,クラス効果を 慮して選択するといい.降圧度に応じた再発予防 効果を得ることができ,“the lower,the better”と 換言できる.糖尿病に対する治療では低血糖発作を 回避して,インスリン抵抗性の改善や食後高血糖の 修正かつ低血糖発作を予防した,HbA1cを7%未満 とする安定的な血糖管理を持効型インスリン・GLP -1受容体作動薬,DPP-4阻害薬やビグアナイド系, ピオグリタゾン等による経口血糖降下薬にて行う. 糖尿病治療ガイドライン2015によると,高齢者,認 知機能低下,また麻痺等 ADL低下の症例における HbA1c目標値を低血糖誘発危惧の少ない薬物療法 下では「8.0%未満」とした.アテローム血栓性脳梗 塞予防として合併脂質異常症すなわち高 LDL血症 や LDL/HDL比の是正に対して脂質低下薬スタチ ンの投与を行う.EPA製剤やエゼチミブの併用も 慮する.冠動脈疾患における脂質低下療法の“the lower,the better”は現在脳卒中予防としては十 検討されていない.日本人非心原性脳梗塞症例の高 コレステロール血症におけるスタチン治療の有用性 はアテローム血栓性脳梗塞にあると J-STARS研 究(Hosomi N et al.EBioMed2015;2,1071-1078.) で証明され,すべての病型の脳梗塞や脳出血の再発 予防に有用ではないと思われる.しかし,スタチン の多面的効果を期待するのか(Fire and Forget), 目 標 LDLコ レ ス テ ロ ー ル 値 設 定(Target to Treat)か議論されている.心房細動による心原性脳 塞栓症の再発予防に関しては,出血性合併症のリス クと再発予防の利点を天 にかけて,抗凝固療法導 入を積極的に行う.ワルファリン,直接経口抗凝固 薬(ダビガトラン,リバロキサバン,アピキサバン, エドキサバン)が選択される.CHADS욽スコアと HAS-BLEDスコアが診療で 用されている(表4-5).再発リスクを 1/3まで減ずることが可能であ る.脳血管性うつ・アパシー・認知症はリハビリの 阻害因子となるので,心のケアや生活支援に加え, 薬物療法が追加される.また,嚥下障害に伴う栄養 摂取量低下とやせ・筋肉量減少ザルコペニア,虚弱 性(フレイル)やロコモティブ症候群への対応も重 要であり,老年医学の知識を駆 する.また,高齢 者では薬物治療が多剤併用となるため,ポリファー マシーの問題は軽視できず,症例においてどの因子 がもっとも再発や合併症のリスクの重みを持つか, 層別化した危険因子への治療が必要である. 12)一過性脳虚血発作 TIAについて,現場の診療で ぜひとも忘れないでほしいのが,急性期再発率が高 いことである.病歴聴取が重要であり,神経診察で 異常がなく,頭部 CTや MRIで必ずしも梗塞巣を 表쏲 CHADS욽スコア
Congestive heart failure心不全 1点 Hypertension高血圧 1点
Age年齢(75歳以上) 1点
Diabetes Mellitus糖尿病 1点 Stroke/TIA脳卒中,TIAの既往 2点 心房細動患者における脳梗塞発症リスクの評価スコア. 合計0∼6点で評価する.スコア別の年間脳梗塞発症率 は,スコア0点で1.9%,1点で2.8%,2点で4.0%,3 点で5.9%,4点で8.5%,5点で12.5%,6点で18.2% とされる.最近は,スコア0点は低リスク,スコア1-2 点は中等度リスク,スコア3-6点は高リスクと評価され ている.Gage BF,et al:JAMA 285:2864-2870,2001
表쏳 HAS-BLEDスコア
Hypertension高 血 圧(収 縮 期 血 圧 160
mmHg以上) 1点
Abnormal renal/liver function腎機能異常/
肝機能異常 各1点
Stroke脳卒中 1点
Bleeding出血又は出血傾向 1点 Labile INRs INRコントロール不良 1点 Elderly年齢(>65歳) 1点 Drugs/alcohol:抗血小板薬や NSAIDsの
用/アルコール依存 各1点
ワルファリンによる抗凝固療法中の心房細動患者におけ る出血リスクの評価法.合計0∼9点で評価する.1年 後の大出血発現リスクは,スコア0点(低リスク)で1 %前後,1∼2点(中等度リスク)で2∼4%,3点以 上で4∼6%以上となる.Pisters R,et al:Chest2010; 138:1093-1100.
検出できなくとも帰宅させてはいけない.また,48 時間以内に再発した場合,アルテプラーゼによる再 灌流療法が適応になることである.ABCD욽スコア とは,表6に示すスコアがあり,一過性脳虚血発作 (TIA)を発症した人が2日以内に脳梗塞へ進展する リスクの評価スコア.合計0∼7点で評価する.2 日以内に脳梗塞へ進展するリスクは,スコア0∼3 点で1.0%,4∼5点で4.1%,6∼7点で8.1%とな る.(Johnston SC,et al:Lancet369:283-292,
2007)高齢者,高血圧,糖尿病があれば必ず丁寧に NIHSS診察をする.また,記載はないが心房細動合 併症例に関しては,抗凝固療法の適応となることを 肝に命じるべきである. 【まとめ】 高齢者に突然発症,後遺症を残し日常生 活活動を大きく阻害する脳卒中に対する超急性期治 療の進歩と全身合併症への対応が治療成績を劇的に 改善させている.しかし,この好成績は,地域行政 における一般市民への脳卒中啓発活動,消防救急隊 図쏙쏢 脳卒中地域連携 表쏴 ABCD2スコア TIAの初期対応に必須の指標である. 臨床所見 カテゴリー Score A 年齢 Age 60歳以上 60歳未満 1 0 B 血圧 Blood pressure SBP>140mmHg and/or DBP>90mmHg その他 1 0 C 臨床症状 Clinical feature 一側の筋力低下 麻痺を伴わない構音障害 その他 2 1 0 D 持続時間 Duration of symptom 60 以上 10∼59 10 未満 2 1 0 D 糖尿病 Diabetes あり なし 1 0 合計 合計 合計 7
の迅速な卒中コールによる脳卒中センターへのバイ パス搬送,超急性期担当の医師,看護師,理学療法 士,薬剤師,放射線技師の連携プレー,地域の回復 期および療養型リハビリテーション施設のスタッフ によるシームレス治療(図9),エビデンスに基づい た再発予防のために患者さんに近く寄り添う家 医 の連携の賜物である(図10).また,各施設での医師, 脳卒中看護師,薬剤師,臨床検査技師,放射線技師, 運動・作業・言語療法士,患者支援のスタッフのチ ームワークの良さ,お互いが教え学ぶ姿勢が地域連 携をさらに進 させている.私たち近畿大学医学部 附属病院が中心となって,多くの僥倖に恵まれ,こ のような持続可能な医療システムを構築できた. いつでもどこでもだれにでも安心安全な社会を提 供できるように医療の面から地域に貢献する,そし て今までできなかった当たり前のことを力を合わせ て当たり前のように無理無駄なくすることを実現し てきました.医療を取り巻く社会環境は急速に変化 し,国際化は待ったなしで進みます.私たちと学ぶ 若い人と,次の100年を るという断固たるスタンス を常に私たちを進化させる原動力として,これから も未来を見つめて発展していこうと決意を新たにし ております. 本論文は既出版および出版上梓直前教科書より出 版社の許可を得て,改変して記載した. 1.大槻俊輔「つまずき症例で学ぶ薬の処方徹底ト レーニング これだけは知っておきたい“つまず きポイント”と“処方のコツ”」(ISBN978-4-7581 -1715-9),羊土社(東京)252-265頁より改変 2.大槻俊輔「脳梗塞」内科学 第11版 朝倉書店 東京,2017,in pressより改変 3.大槻俊輔, 本昌泰「脳出血」今日の臨床サポ ー ト エ ル ゼ ビ ア ジ ャ パ ン 東 京,https:// clinicalsup.jp/,2017,in pressより改変
4.大槻俊輔「高血圧性脳内出血の急性期に手術以 外の治療はどのように行いますか?」神経内科 Clinical questions& pearls脳血管障害(ISVN 978-4-498-22872-6)中外医学社(東京),2016