イントネーションによる伝達態度形成の考察 : 文末記号列との関わりを中心に
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(2) 目次. 序章………………・・億一………一一…一碗…一・……一……・辱1 第1章伝達態度とイントネーション. 第1節伝達態度をどう位置づけるか…………・一…一・…………・3 第1項本論における伝達態度のとらえ方…・…・…………・……・3. 第2項伝達態度に関する術語の定義…………・…・…億一………4. 第3項伝達態度の位置づけ・…・……………呼………………・5 第2節イントネーションとは何か…・……………・・……………6. 第1項イントネーションの定義…∵……………鴨……………6 第2項イントネーションに関する諸条件…・…・…・……………・7 第3節伝達態度とイントネーションの関係…・……………・・……11. 第1項イントネーションの働き…・……馬………・一…………11. 第2項イントネーションのとらえ方…・…・…………・……・…12 第3項イントネーションの持つ意味と伝達態度形成………………13. 第1章の注一………………・・………・………甲一…一…16 第2章終助詞文末文における伝達態度とイントネーション. 第1節終助詞とは何か一………………も一……・………一e…19 第1項終助詞の範囲・…………・……蕊噂……………・…・…19. 第2項終助詞の意味のあり方…………一……り・……………19 第3項終助詞と伝達態度・…9……………・一………………20 第4項イントネーションから見た終助詞の特性………………一夢P21 第2節各終助詞の記号列としての意味…◎…・…………・・………25. 第1項終助詞の分類・………曜………働・……一………一ゆ…25. 第2項ヨ類終助詞の意味………・………需………………一・25 第3項ネ類終助詞の意味…・……………麟…………一……伽27 第4項終助詞「か」の意味…一……・…ゆ…・一…………一…28.
(3) 第3節終助詞文末文における伝達態度とイントネーション…一………29. 第1項ヨ類一………………“……一…………帯・…・……29 第2項ネ類…・……・………‘………一………・9…・…・一39. 第3項「か」…………・・……D・……………・…9…・……45 第4節本章のまとめ…一……………の…・……………・弓…脅・47. 第2章の注………・……の…9・……………・…◎…・……48 第3章 動詞文末文における伝達態度とイントネーション. 第1節動詞文末文における文末記号列・イントネーションと伝達態度…・51. 第2節動詞終止形文末文…………・・……◎…………一……脅・52 第1項終止形文末の伝達態度形成…・……・………酵…………52. 第2項関連事項…6……・………騨………………一恥・……55 第3節動詞命令形とイントネーション・……………・…・…・……61. 第4節本章のまとめ・…・……一……・・…一……………‘…一64. 第3章の注………・………・・…・…………・…・…ゆ……65. 終章 本論のまとめ……・…………・・……一…………槙……一67. 資料編. 参考文献一覧…………・・……験専………………・・…・……H. 先行研究概観……‘…………・軸…………一……・…・……耐.
(4) 序章. 1.本論の目的. 言語活動の基本は、話すことであると考える。話す(発話する)という行為には 話し手と聞き手がおり、この話し手と聞き手との関係性を抜きにしては、言語活動 を考えることはできない。対話における話し手の聞き手との関係とは、つまるとこ ろ「話し手が聞き手にどのような意図で話を伝えるか」ということだといえる。こ. のことに話しことばの音調が関わっているということは、我々が直感的にはよく知 っていることである。. 本論は、現代目本語の全国共通語の対話1において、「意図」と「音調」の関係を. 探ろうとするものである。本論においては、この「意図と音調」の関係を「伝達態 度とイントネーション」に限定し、分析、考察を進める。. 第1章第3節において詳述する「イントネーションは、それ自身の自立した意味 を持ち、文末の記号列の意味との相互作用によって伝達態度を具現する」という作. 業仮説に基づき、対話における発話の伝達態度形成の仕組みを文末のイントネーシ ョンの意味と文末の記号列の意味との相互作用の観点から分析、記述する。この仮. 説にしたがった説明が矛盾なく行えることを示すことで、この仮説の妥当性を証明 することが、本論の目的である。. 2.記号について 例文2の頭に付した以下の記号の意味は、それぞれ次のとおりである。. ? 内省により、語感に不自然さの感じられるもの。 ?? 内省により、語感に強い不自然さの感じられるもの。. * 非文法的であるもの、あるいはイントネーションとしてあり得ないもの。. 文・句のアクセント及びイントネーションを示す必要がある場合には、そのピッ チ変化を原則として高低2段階で把握し3、文をすべてカタカナ表記した上で、(1). のような折れ線で表す。ただし、問題とするイントネーションが、そのパタン名の 表記のみで理解できる場合には、(2〉のように通常の漢字平仮名交じりの文表記の. 後ろに〔〕付きでパタン名を記すのみとする。. (1) ヒョウゴキョウイク イガク (「兵庫教育大学」) 1.
(5) (2) これ、もう捨てる? 〔上昇〕4. また、アクセントに限り、例えば(1)の「兵庫」(ヒョ/ウ/ゴ)をのアクセントを 「高低低」のように表記することもある。. 1「対話」とは「一人の話し手に一人の聞き手という場での話しことばのやりとり」を 指す。伝達態度形成の原理を確認するため、複雑な要素を含む多人数での会話は想定し ない。話しことばの研究において広く用いられる「談話」(ディスコース)という語は、 複数の話し手・聞き手が想定される場合があり、本論では「一対一」に限定するためそ の使用を避けた。また、心内語は、考察の対象としていない。「独話」(独り言)につい ては、例えば森山(1997)は、「言語は意思伝達の道具であると同時に思考の道具でもあ る」として、言語の2側面を指摘し、独話(思考のための言語、言語の非伝達的側面) を対話(伝達のための言語、言語の伝達的側面)とは質的に異なるものとして分析して いる。本論では、「思考」を自己の認識のために自己に対して伝達を行う発話ととらえ、 対話と連続するものとして考察している。 2本論中の例文は、特に論文からの引用であることをことわったもの以外は、すべて福 田が内省をもとにつくったものである。 32段階把握の妥当性については第1章第2節第2項で詳述する。 4例文末の「?」や「!」は、あくまで理解を助けるため補助的に付す記号であり、厳 密な使い分けは行っていない。したがって、例えばr?」は必ずしも上昇イントネーシ ョンを表すわけではない。. 2.
(6) 第1章伝達態度とイントネーション 本章では、本論において、伝達態度とイントネーションとの関係を論じるにあた り、「伝達態度」「イントネーション」についてその定義と性質を明らかにし、さら. に、伝達態度とイントネーションとの関係を分析記述する上での作業仮説を述べる。. 第1節 伝達態度をどう位置づけるか. 第1項本論における伝達態度のとらえ方 本論においてr言表態度」と呼ぶr主観表現要素」の分類について、本論では益 岡(2000)1を参考にする。. 益岡(2000)は、「モダリティ2」すなわち「主観性の言語化されたもの」を図ア3の ように、「対命題態度の. 一一・{羅静 モダリティ」と「表現・. 伝達態度のモダリティ」 モダリティ. 翻・一・・一{1欝霧 に二分し、「対命題態度 のモダリティ」の下位に. 図ア 「真偽判断」「価値判断」 r説明」の3つのrモダリティ」を置き、r表現・伝達態度のモダリティ」の下位 には「表現類型」「ていねいさ」「伝達態度」の3つの「モダリティ」を置く。. 本論で特に問題となるのはr表現・伝達態度のモダリティ」である。益岡(1991). によれば、その下位分類である3つのrモダリティ」のうち、r表現類型のモダリ ティ」とは「命令」「疑間」「感嘆」といった文類型による主観表現であり、「てい. ねいさのモダリティ」とは「丁寧体」「普通体」という文体上の2項対立による主 観表現、「伝達態度のモダリティ」とは終助詞類が担う主観表現であるとされる。 さらに益岡(2000)は、「命題」、「対命題態度のモダリティ」、「表現・伝達態度の. モダリティ」は、次のような階層性と位置関係を有するとする。 〔〔〔命題〕対命題態度のモダリティ〕表現・伝達態度のモダリティ〕. この階層構造によれば、「表現・伝達態度のモダリティ」は、主に文の最後に位 置する。本論が取り上げる「伝達態度」はこの「表現・伝達態度のモダリティ」に 相当する。ただし、益岡(2000)が「表現・伝達態度のモダリティ」に分類した、「て. いねいさのモダリティ」、すなわち敬体の問題は、聞き手目当ての主観表現ではあ るが、相手や場によって文体を使い分けていると見るべきもので、r発話文ごとの、. 3.
(7) 発話時の現場的判断の表出」という観点から見れば、「表現類型のモダリティ」「伝. 達態度のモダリティ」とは若干のレベルの違い がある。したがって、本論においては、この敬 体の問題は取り扱わず、終助詞と、表現類型を. 命題 文. 叢鑑いえる動詞の終止形および命令形を すなわち、本論で問題とする「伝達態度」の、. 図イ. 文における位置づけを整理すると、右の図イの ようになる。. 第2項 伝達態度に関する術語の定義 本論において頻出し、一般に定義の定まっているといえない術語について、本論 で使用する際の意味を以下のように定義することとする。 a)命題. 文は、客観的な事柄内容と話し手の発話時現在の心的態度に二分される。このう ち、客観的な事柄内容4をr命題」と呼ぶ。 b)言表態度. 文のうち、「話し手の発話時現在の心的態度」に相当するものを「言表態度」と. 呼ぶ。次の(1)の 部が命題、 部が言表態度にあたる。 (1) 彼ム..合1各焦左らしいよ。. c)対命題態度 r言表態度」は、「対命題態度」と「伝達態度」に二分される。対命題態度は、「命 題に対する話し手のとらえ方」を表すものである。助動詞5などによって表現される。. d)伝達態度. r言表態度」のうち、「命題および対命題態度を聞き手にどのように伝えるか」 を担うものを「伝達態度」と呼ぶ。表現類型(命令や疑問などの文の性質上の種類). や終助詞など6がこれに当たる。また本論では、文末のイントネーションも、この「伝. 達態度」の形成に関わっているものと考える。 (2) 彼∴..合務』表…らしい圭。. (2)において、 部が命題、 部が対命題態度、 部が伝達態度にあた. 4.
(8) る。なお、上の図イは、ここまでのa∼dを図に示したものである。 e)文の情報. 本論では、「伝達態度」を特に取り上げて論じる。そこで、「伝達態度」以外の部. 分の総称が必要となるが、これをr文の情報」と呼ぶ。すなわち、r文の情報」は、 r命題」+r対命題態度」と一致する。(3)の 部が文の情報にあたる。. (3) 彼、合格したらしいよ。. f)記号列 また本論では、イントネーションを取り上げて論じるため、イントネーションの 伴わない語句や文を仮想する必要がある。そこで、イントネーションにより具体的. な機能を実現した文末の語句と区別するため、一 r記号列としての語句」と呼ぶ7。ことばを話すあるいは読む際(音声のイメージを. 伴って考えたり書いたり黙読したりする場合を含む)には、文末に必ず何らかのイ ントネーションが付与される8ため、文末においては、イントネーションから分離さ. れた記号列としての語やその意味というのは、特殊な場合を除いて現実には存在し 得ない抽象的な概念である。. g)(伝達態度の)形成・決定. 「伝達態度の形成」には、3つの確定時点が存在する。すなわち、「話し手の意 志の確定」→「言語表現としての発話の確定」→「聞き手の解釈の確定」の3つで ある。本論では、言語表現としての発話形成のプロセスに焦点を当てている。した がって、「伝達態度の形成」または「決定」という場合、「言語表現としての発話の 確定時点」を問題にし、言語表現上明示的に具現することを意味しているのであり、. 発話者の意志決定や結果としての聞き手の解釈をさすものではない。. 第3項伝達態度の位置づけ 前項に述べた文を構成する要素とその区切り方を一覧にすると、次のようになる。. ①命題レベル……………. 命題. 言表態度. ②主観表現分類レベル…. 命題. 対命題態度. ③本論の分析レベル……. 文の情報. 伝達態度. 伝達態度. 上段の①を下位区分したものが中段の②である。③は、本論での議論の都合に合. 5.
(9) わせて設定した区分である。本論においては、文末におけるイントネーションと伝. 達態度を中心に論じるため、③のようなr文の情報」と「伝達態度」が対立する構 成の把握のしかたが必要になる。すなわち、文の情報を、どのような伝達態度で伝 えるのか、という観点からの文のとらえ方である。以後の論においては、この③の 区分にしたがって文の構成を把握していく。. 第2節 イントネーションとは何か 本節においては、本論においてどのようなものをイントネーションと称するかに っいて定義した上で、イントネーションについて、生理的制約、表記の方法、記号. 列との関係について整理し、イントネーションに関する分析・考察の前提を明らか にする。. 第1項イントネーションの定義 「イントネーション」という概念の定義については、多くのイントネーションに 関する研究論文において行われている9。 その中で、森山(1989a)は、文あるいは発話のレベルでの音の高さ(ピッチ)の. 変動がイントネーションであるとする。日本語の構造上、「発話の内容をともかく. も述べきり相手との受け渡しをするということから、特に言い終わりの部分に、発. 話の情報伝達的な意味が付加されやすい」ことにより、イントネーションが意味を. 持っのは主として文末であると述べている。その上で、イントネーションのパタン. について、r具体的なイントネーションピッチそのものは、無限に変容するのであ り、こまごまとしたニュアンスを詳細に記述することは不可能」として、「大まか に自然下降の場合をも含めての下降調と上昇調、というニタイプ」にまとめている。. 本論で問題とするのは、郡(1997)が、イントネーションの持つr疑問文などの文. のモダリティ(ムード)を表示する機能」と分類した、伝達態度形成に関わるイン トネーションである。郡(1997)は、イントネーションを発話全体に認めながら、こ. の伝達態度形成に関わるイントネーションは文末の音調により表されるものであ ると述べている10。本論においては、伝達態度との関わりにおいてイントネーショ. ンを論じるため、先行諸研究が指摘するように、文末におけるイントネーションを. 伝達態度にもっとも深く関わるものとして中心に据え、分析を行う。また、イント. ネーションは主に文末において意味を持つとする点、イントネーションのパタンを. 6.
(10) 「上昇」「下降」の2分類を基本として考える点など、森山(1989a)から示唆を受け る部分が大きい。. これらを踏まえ、本論においては、「イントネーション」を「主として発話文末 にあらわれるピッチの変化で、発話全体の意味に関わるもの」と定義する。. イントネーションは、場合により、文全体など文末以外にもあらわれ得るが、本 論においては文末のイントネーションのみを取り扱う。文末におけるイントネーシ ョンの上昇・下降は、原則として文の最終拍とその直前拍とのピッチの差によって. 表されている。言うまでもなく、語(文節)ごとに決まっていて語の意味識別に関 わる「アクセント」や、語(句)の強調に関わる「プロミネンス」は、イントネー ションとは異なるものである。なお、r音調」という語は、rイントネーション」と. 同意ではなく、rアクセント」やrプロミネンス」をも含む、発話におけるピッチ 変化を総称する場合に用いることとする。. 第2項 イントネーションに関する諸条件 1.イントネーションの生理的制約 イントネーションを含む目本語の音調はピッチの高低によって表現されると言 われる。本論において、イ. ントネーションを高低2段 りも 可鎚喬劾双(噺エバ人2gモ』). 階でとらえる正当性の根 拠を明らかにするため、以 (“万〉∼箸瓢. 鶴栖 下のような実験を行った。 図ウ 実験は、ある男性(29歳)の持つ発声可能音域を、歌を歌わせることによって調 べ、次に、雑談と朗読をさせて、それを音階として聞き取り、その音域を五線譜上 に表すというものである11。. 図ウは、歌によって調べたその男性の発声可能音域である。三つの全音符のうち、. 最も上から2番目高さまでが、いわゆる「地声」12によって出せる音域である。. 図工は、この男性の話し声(雑談と朗読の声)の音域を五線譜上に表し、先ほど の発声可能音域と比較したものである。雑談の最低音・朗読の文頭の音は、地声の. 最低音(最低ピッチ帯)にほぽ一致、特に朗読の文末の音では地声の最低音に完全 に一致していることがわかる。また、会話時・朗読時とも使う音域は極めて狭い。. 7.
(11) 会1緬. り旦. 朗衡勧. 刺. 鵠研. & − ㌃. 鱈榔. .0. 〆b一汀レ帆ス)1 (ρ万 》. 図工. この男性の例からもわかるように、我々は「話し声」においては、持っている音 域のうちごく低い音(ピッチ帯)を使っており、発話の際、高いピッチ帯には常に ピッチを上昇させる余裕を持っているが、低いピッチ帯にはピッチを下げていく余. 裕がほとんどない。したがって、文の最終拍が、文末語のアクセントにより高いピ ッチで終わる文末であっても、上昇イントネーションL3はそこからさらにピッチを. 上げる形で現れ得るが、最終拍がアクセントにより低いピッチで終わる文末におい ては、そこからさらにピッチを下げることはできず、下降イントネーションは実態 としては現れ得ない。ただし、これは実態として現れないのであり、発話者の意識、. また聞き手の聞こえとしては、低いピッチからさらにピッチを下げる下降イントネ ヤ ヤ ーションに相当するイントネーションは存在する。この「下降相当」のイントネー. ションについては、次節第3項に詳述する。. 2.イントネーションの2段階把握と表記. ここで確認したように、話しことばの音調は原則としてr最も声帯の緊張の少な い、基準となる低ピッチ音から、声帯の緊張によりピッチを上げ、ピッチを上げた. 音から基準に戻す」ことによってつくり出されており、ピッチの高低の複雑な変化 ヤ ヤ は、すべてこの「基準となる低ピッチ音からのピッチ上昇」の程度の問題に帰する ヤ ヤ ヤ. ことができる。このことが、目本語の音調の聞こえを、原則としてr高低2段階」. で表記する妥当性の根拠である。私たちは「上昇の程度」を聞き分けはするが、そ れをr程度の問題」として捨象し、ピッチの高低をパタン化することは可能である。. それが音調における「高低2段階」観なのである。. ただし、「高低2段階」のイントネーションのとらえ方に関しては、例外も存在 する。アクセントの規定により高く終わる文末のピッチを、イントネーションの必 要からさらに上昇させることは、発声上、高ピッチの音域には余裕があるため可能 である。例えば、「捨てる」のアクセントは「低高高」となっており、「捨てる。」. で終わる文は、「アクセントとしては高く終わる文末」を持つが、この文末は(4b). 8.
(12) のように、「ス」から「テ」にピッチを上げた後、さらに「テ」から「ル」の間で、. ピッチを上昇させることが可能である。そしてこの場合、アクセントによって規定 されたピッチのまま文を終わらせた文末(4a)と、アクセントによって規定されたピ ッチをイントネーションにより上昇させた文末(4b)とは、文の意味が大きく異なる。. (4) aコレモウステル。 (「これ、もう捨てる」). bコレモ テル。 (「これ、もう捨てる?」). この点で、rアクセントにより高く終わる文末からの、イントネーションによる さらなるピッチ上昇」は記述の必要があり、この場合に限り、(4b)のように部分的. に3段階表記をする必要がある。. これとは逆に、rアクセントにより低く終わる文末からのイントネーションによ るさらなるピッチ下降」が意図されるケースも想定できる。しかしこの場合は、上 述の生理的制約から、「低ピッチ音からのさらなるピッチ下降」はできないので、 当然その表記も必要ないことになる。. 3.イントネーションによる文末長音化の条件. 文末においてイントネーションを実現する際に、文末(文末の語末)に長音が付 加されることがある。(5a)(6a)(7a)などがその例である。. (5) aモウステノー。 b*モウ ル。 (6) aモウステルヨー。b ウ テノヨ。 (7) aモ ステルー。 b テル。 このイントネーションに伴う文末長音化は、①アクセントの保存/②イントネー. ションの強調/③問い返しの3つの条件のいずれかに該当する場合に起こる。 「捨てる」のアクセントは「低高高」である。この語を文末に持つ文を下降イン トネーションで発話しようとした場合、(5b)のように、「ル」の拍のピッチを下げ. ることはできない。rルjを下げれば、r捨てる」をr低高低」というアクセントで 発音することになり、アクセントが崩れるためと考えられる14。こうした場合、「ス. テル」をr低高高」と発音してアクセントを保存し、そのあとに下降イントネーシ ョンを実現するための長音を付加して(5a)のような音調で発話することになる15。. 一方、(6a)の場合には、アクセントの保存のために長音を付加してそのピッチを. 9.
(13) 下げているのではない。この場合は、(6b)のように、終助詞rよ」を低ピッチで後 接することが可能だからである。この場合には、長音化して下降させることで、「よ」. に実現する下降イントネーションを強調していると考えられる。 この「長音化による強調」は上昇イントネーションにおいても見られる。(7a)の ような場合がそれである。これは、(7b)のようなイントネーションを強調したもの. と考えられる。なお、上昇イントネーションにおいては「アクセント保存のための 長音化」は見られない。(7b)のように「捨てる」の「低高高」の最終拍(第3拍). を第2拍よりさらに高いピッチで発音することは自然である。これは、アクセント による語の示差性にとって、最も重要なのは、ピッチの「下がりめ」であり、ピッ チの「下がりめ」に変更がなければ、基本的なアクセントにない「さらなる上がり め」があっても、示差性が担保されるためであると考えられる。. 長音化の起こるもう一つの条件はr問い返し」である。(7a)は、相手のrもう捨 てる。」という発言に対し、rもう捨てるだって?」と問い返す場合にも現れるイン トネーションである。(7a)を問い返しとして見た場合、これは、r『もう捨てる』だ. って?」のように相手の発言をそのまま引用して相手に呈示し返して見せるといっ. たものである16。引用部分は、相手の発言をイントネーションをも保存しながらそ. のまま発話する必要があるため、r問い返し」を示すイントネーションを実現する ためには、引用部分の後ろに長音を外接し、この長音にイントネーションを付与す る必要があるのである。. なお、この「問い返し」の上昇イントネーションは、文末記号列・文の情報の如 何にかかわらず、あらゆる文末に現れ得るものであるため、文の形式や内容による. 制約がまったくない。したがって本論の考察では、r問い返し」のイントネーショ ンについてはあらかじめ考察の対象から除外している。. 4.イントネーションと記号列 本論では、イントネーションが発話の伝達態度形成にどのような役割を担うのか を分析する。そのため、文末において、終助詞のような伝達態度を表す語句が、あ るイントネーションを実現している場合、この語句の記号列の持つ意味と、そこに 実現されているイントネーションの意味とは、分離して考える必要がある。. (8) a彼、合格したらしいよ。 b 「彼、合格したらしい」〔文の情報〕+「よ」〔伝達態度〕. 10.
(14) c 「彼、合格したらしい」+(r記号列rよ』の意味」 +「『よ』に実現したイントネーションの意味」). したがって、(8a)の文を、本章第1節第3項に示したモデルによって構成要素に 分けると、(8b)のようになるが、このうち伝達態度を表すrよ」は、さらに(8c)の ようにr記号列『よ』の意味(伝達態度を表す語句の記号列の持つ意味)」とr『よ』. に実現したイントネーションの意味(伝達態度を表す語句の上に実現されているイ ントネーションの持つ意味)」に分けられることになる17。. ただし、この「記号列の意味」「イントネーションの意味」は、両者が一体とな って伝達態度を表してはいるが、それぞれ単独でも伝達態度を表すものであるとい. えるかどうかについては検討を要する。このことについては、次章において詳述す る。. 第3節 伝達態度とイントネーション. 本節では、第1節で伝達態度、第2節でイントネーションについて述べた定義と. 特質をふまえ、第2章・第3章において具体的文末について分析記述する際の原則 と作業仮説を確認する。. 第1項では、イントネーションはどのような働き方をしているのか確認する。第 2項では、イントネーションのとらえ方について原則を示し、考察の基礎に置く。. そして第3項において、イントネーションと伝達態度の関係を分析するにあたって の、イントネーションの持つ意味・機能についての、具体的な作業仮説を提示する。. 第1項イントネーションの働き イントネーションが聞き手に向かうものであることは、先行諸研究に一致して見 られ、疑いのないところであろう。したがって、イントネーションは、聞き手目当 ての文の表現、すなわち「伝達態度」の形成に関わるものであるといえる。. そのイントネーションの働きについての研究の中で、rイントネーションがある 意味を持つに至る原理」に言及したものとして、金田一(1951)がある。金田一(1951). は、イントネーションの形式と意味は合目的的に結びついているとし、問い掛けを. 表すイントネーションが上昇調である理由について、「相手は、こっちがしゃべっ ていればいつまでもそのまましゃべり続けるものと期待している。そういう相手に 口を切らせるのだから、相手を強く刺激しなければならない。そこでコトバ尻を下. 11.
(15) げるという普通のゆき方を捨てて、コトバ尻を上げることをする、と考える」と述 ヤ ヤ ヤ ベている。こ.の、「相手を強く刺激」するために、「コトバ尻を下げるという普通の ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ ヤ. ゆき方を捨てて、コトバ尻を上げる」(傍点福田)という説明は、イントネーショ. ンの本質を的確に説明したものであると考える。イントネーションの変化は、音調 の点で文に有標性を与えるものだといえる。自然に緩下降するという無標のイント ネーションに対し、「上昇する」「急下降する」といったイントネーションは有標の イントネーション(金田一(1951)のいう「普通のゆき方を捨てた」イントネーショ ン)である。このイントネーションの付加により、その発話文は、いわばr目立つ」. 文となる。すなわち、聞き手に対して強く呈示された(金田一(1951)のいう「相手 を強く刺激する」)文となるのである。. 本論においては、こうした考えから、イントネーションの持つ基本的な働きを、 次のように仮定する。. イントネーションの働きは、文末において、その有標性により、発話文の、聞 き手に対する呈示の強さを調整することである。その呈示の強さが選択されて はじめて、伝達態度が決定される。. 第2項 イントネーションのとらえ方 1.イントネーションの義務選択. 発話には音声が伴い、そこには必ず何らかの音調が実現する。後述のように、本 ヤ ヤ 論では、一見イントネーシヲンがないかに見えるr無標イントネーション」を一つ. のイントネーションパタンとしてその存在を認め、この「無標イントネーション」. も一定の意味を持っと考える。この考え方に立てば、イントネーションの付与され. ない文(文末)は存在しないことになる。イントネーションは、文末において、文 の成立のために義務的に選択されていると見ることができるのである。. 本論では、発話における伝達態度は文末において決定され、この文末おいて必須 であるイントネーションは、伝達態度の形成においても必須であるはずである。文 における伝達態度は文の情報等によってもある程度限定されているが、最終的な伝 達態度の形成には、イントネーションが実現されることが必要であると考える。ま. た、伝達態度のない文は存在しない18ことから、イントネーションは、文の成立に も必須の要素であることになる。. 12.
(16) 2.イントネーションの意味の自立 イントネーションは文において常に義務的に選択されて必ず存在し、その役割を 果たす。音声と記号は必ず同時に実現されるため、現実の実態としてはイントネー ションと記号列を切り離すことはできないが、両者の意味を切り離して分析するこ とは可能である。. イントネーションは、具体的な形として記号列の外に独立して存在することはな い。例えば「これ、彼に返す。」という命題を持つ文が上昇イントネーションを取 る場合、次の(9a)(9b)(9c)のような形が考えられる。. (9) aコレ レニカエス?. bコレレニエネ。 cコレカレニ エ . ー?. (9c)のように文末が長音化したものも含め、なんらかの記号列が存在しなければ、. その上にイントネーションを実現することもできない19。. 記号列とイントネーションを具体的な形として切り離すことはできず、この意味 で、記号列から自立したイントネーションの意味というのは、抽象的な概念となら. ざるを得ない。しかし、文末において、一つの記号列の上に実現するイントネーシ ョンに複数のパタンが存在し得ることから考えても、イントネーションを付加され. る記号列とイントネーションは不可分のものではない。したがって、イントネーシ ョンと記号列はそれぞれの独立した働きをもっているという考え方は、文末におけ る伝達態度形成の説明に有効であるということができる。. 第3項 イントネーションの持つ意昧と伝達態度形成 本項では、イントネーションのパタンについて整理し、それぞれのイントネーシ ョンパタンが持つ意味について述べた上で、本論の主張する仮説を再確認する。. 1.イントネーションのパタン 本論では、イントネーションの意味と記号列の意味を分離して考察する立場から、. 両者の相互作用から実現される具体的な意味・機能によってイントネーションのパ タンを分類するのではなく、パタンをできる限り単純化してそのパタンごとに意味 を見出し、文の伝達態度形成の原理を考える。そこで、森山(1989a)の示すように、. 文末イントネーションは、原則的には上がるか下がるかのいずれかであると考える. 13.
(17) ことにする。. その上で、イントネーションのパタンを分類すると、「上昇」「下降」「自然下降」. の3っになる。r自然下降」は、生理的な呼気の弱まりによる自然な下降調であり、. 発話者には下降の意識がないというイントネーションである。したがって、イント. ネーションが文末の音調上の有標性を示しているという観点から見れば、「自然下 降」はイントネーションとして無標であるといえる。これに対し、有標のイントネ. ーションには、単純に考えれば「上昇する」「自然下降以上に下降する」の二つの ありかたが存在する。これが有標の「上昇イントネーション」「下降イントネーシ ョン」である。. このイントネーションのパタンを整理すると、下のようになる。. ①上昇 最終拍のピッチがその前拍より上昇するもの。(10a)のようなものである。. ②下降 最終拍のピッチがその前拍より下降するもの。例文(10b)(10c)のように文. 末に付加した長音や終助詞等のピッチが下がる形で現れ、(10d)のように アクセントを変更して下がることはない。. ③自然下降(無標)20 イントネーションに関して無標の”態。(10e)のようなもので、自然に少 しずつピッチが下降する21が、呼気が時間とともに弱まるという生理的な. 要因によるもので、話者が意図的に下降させているのではない。最終2拍 のピッチのあり方はアクセントによって規定される。. (10〉 aモウステル。 (rもう捨てる」) 〔上昇〕 b ウ テノ ー。 〔下降〕 c ウ テノ ヨ。 〔下降〕. d*モウ ール。 eモウステル。 〔無標〕 また、下降イントネーションに関しては、話し手に下降する意識があっても、ア. クセントの規定により低く終わる文末では、第1章第2節第2項で述べた生理的制 約により、低いピッチからのさらなるピッチ下降はできず、実態として下降イント. 14.
(18) ネーションを実現できない。例えば、「閉める」のアクセントは「低高低」となる が、この低ピッチの「ル」の後にさらにピッチの低い拍を付加することはできない。 この場合、例文(11a)(llb)のように、意識としては下げたつもり、客観的にはピッ. ヤ ヤ チは下がっていないというr下降イントネーション相当」の低ピッチ長音・終助詞. が付加される。したがって、この最終拍のピッチは、「ル」の高さと同じである。. (11) aモウシメルー。 (「もう閉める」) 〔下降相当〕. b ウ“ メルヨ。 〔下降相当〕 このイントネーションは、パタンとしては下降イントネーションに属するものだ が、記述上特に下降イントネーションと区別する必要がある場合には、以降、「下 降相当イントネーション」と呼ぶ。 2,イントネーションの意味. イントネーションは、パタンごとにそれぞれ異なる意味を持っている。. 本節第1項で示した、rイントネーションの働きは、文末において、その有標性 により、発話文の聞き手に対する呈示の強さを調整することである。その呈示の強 さが選択されてはじめて、伝達態度は決定される」というイントネーションの基本 的意味にしたがって考えれば、有標のイントネーションは、無標のイントネーショ ンに比して聞き手に対し発話文を強く呈示していることになる。. また、上昇イントネーションと下降イントネーションとは、同じく「有標」のイ ントネーションであっても、パタンが違う以上、その意味も異なっている。 森山(1989a)が、「談話打ち切りや独話の表示、一方的伝達表示のための下降調に. 対し、聞き手とのコミュニケーションを連続させるための上昇調が考えられる」と. 述べるように、上昇の音調が文末句末で「発話の継続」を示すのに対し、下降の音 調というのは、自然下降を含め「言いおさめ」のときにあらわれることは、広く知. られている22。強い呈示を行う2種の有標のイントネーション、上昇・下降のイン トネーションのうち、下降イントネーションは、相手に強く呈示を行いながら、継. 続よりも言いおさめを意図するという、双方の発話のやりとりを前提とする対話の. 在り方を考えれば特殊なイントネーションであると言える。これは、呈示は強く行 うものの意見対立によるこれ以上の議論を求めないという場面、すなわち「自分の. この意見を結論として話をおさめたい、自分と異なる意志の表明をしてほしくな い」という場面で用いられるイントネーションである。一方、上昇イントネーショ. 15.
(19) ンでは、相手への呈示を強く行いながら、相手からの意見表明を待ち、対話の継続 を意図するイントネーションであり23、下降イントネーションのような制約はない。. 有標イントネーションが聞き手への強い呈示を行うのに対し、無標イントネーシ ョンはその無標性から、呈示のしかたが消極的になる。この場合、イントネーショ. ンの持つ意味の積極性は弱まり、その分、伝達態度の表現は記号列によるところが. 大きくなる。無標イントネーションは、r記号列の持つ意味をほぽそのままの形で 示す」ために選択されるイントネーションであると言い換えることもできる24。し たがって、記号列の意味が、そのままでは伝達態度を表せない場合には、無標イン トネーションを取ることはできない。. 以上を整理し、イントネーションの持つパタンごとの意味を次のように仮定する。. ①上昇:聞き手への強い呈示。話し手と異なる意志表明の許可。. ②下降:聞き手への強い呈示。話し手と異なる意志表明の不許可。25 ③無標(自然下降):聞き手への消極的な呈示(記号列の意味のみの呈示)。. 3.イントネーションによる伝達態度形成. イントネーションのパタンごとの上に示した意味が、イントネーションを付与さ. れる文末記号列の意味と相互に作用することによって、文末で伝達態度を形成して いるというのが、本論の主張の主眼である26。このことは、伝達態度形成に関する 次のようなモデルとして示すことがができる。. 伝達態度=文末記号列の意味×イントネーションの意味27 次章以降において、この伝達態度形成のモデルを本論の作業仮説として、終助詞 文末文および動詞文末文の伝達態度形成のありようを分析する。このモデルによっ て矛眉のない説明ができることを証明することによって、イントネーションによる 伝達態度形成について、上のモデルに示した考え方の妥当性を主張していく28。. 1各文献名は、以降このような形で表示し、詳細は稿末のr引用参考文件一覧」に示し ている。. 2「モダリティ」をめぐっては、いくつかの相違する立場が存在する(「資料編」参照)。 本論においては、「主観表現要素」を文に認め、この一部である「伝達態度」とイント ネーションの関係について、モダリティ論とは切り離して論じ、「主観要素」を「モダ リティ」と呼ぶかどうかという用語の問題については立場を保留する。 3この図自体は益岡(2001)には描かれていない。福田が益岡(2001)の内容を図示したも. 16.
(20) のである。. 4「命題」にも主観的内容を含むものもあるが、ここでいう「客観的」とは、「題材とし て呈示され、まだその呈示された題材にっいての主観を表明していない」という意味で ある。. 5第3章第2節第2項で取り扱う「う」などの「不変化助動詞」は、伝達態度を担うも のと考えられる。. 6r表現類型」とr終助詞類」は、それぞれ別のものというわけではない。例えばrか」 の後接によって疑間文であることが示されるように、「終助詞によって示される表現類 型」といったものも存在するからである。. 7本論でいう「記号列」は書記言語研究において一般に用いられる「文字列」の概念に 近いものといえる。また、r記号列としての意味」はことばのr語彙的な意味」に近い。 8このrイントネーションの義務選択」については、第3節第2項で詳述する。 9本論では、金田一(1951)、国立国語研究所(1960)、森山(1989a)、杉藤(1992)、郡(1997〉、. 小泉(2003〉などを参考にした。これらの研究における定義については、r資料編」に概 要をまとめている。 10. 末以外のイントネーションで、伝達態度に関わるものを取り扱った研究には、川上. (1956〉や、定延・松本(1997,p.325)などがある。前者は、文頭語のアクセントのピッチ. の「上がりめ」の位置を「文頭のイントネーション」としてその意味を論じ、後者は、 「あ∼あ∼」といった文の韻律パタンにアイロニーを表す効果があるという点に言及し ている。これらと同様に、郡(1997)は、文全体に「しみじみ調」「感情主張調」などの 特定の感情を表す特定のイントネーションが存在するとし、イントネーションのこのよ うな働きを「情緒的機能」と呼んでいる。 11この調査は、声楽家繁田千都子氏の協力を得て行った。聞き取りの記号(音符)化は、 繁田氏の絶対的音感によっている。図に示した男性の他に、10代20代の男女10名に同 様の調査を行い、ほぼ同じ結果を得た。 12これより下は無理に喉をつぶしたような発声(プレス)、これより上は裏声(ファセッ ト)での発声になる。. 13r上昇イントネーション」などのイントネーションパタンの詳細は次節において述べ る。 14. 山(1989a)は、イントネーションによるアクセントの無化の例はあるとしながらも、 rアクセントを保存する発話もあり、むしろ、そのほうが自然なのかもしれない」と述. べている。. 15このアクセント保存の原則は、「名詞+終助詞」という「文節アクセント」において も同じである。このことについては第2章第1節第4項で詳述する。 16. 田(1991,pp.142−144)によれば、r問い返し」は、r(相手の発話の)不明な部分を相. 手に問い返す、といった疑問表現」で、「相手の文および文の一部を繰り返すことによ って行われる」(()内福田)というものであると述べている。安達(1989)も、問い返 し疑問の特色をr繰り返し性」r引用的性格」ということばを使って説明している。 17 ちろん実際には記号列とイントネーションが別のものとして聞き手の耳に入るこ とはなく、具体的な発話の中でこれを分離することはできないが、イントネーションの 働きの抽出を行う本論においては、両者を分けて考えることが必要である。 18 賀繧(1954)は、聞き手が想定されていない文の陳述を「述定的陳述」と呼び、聞き 手への働きかけを持つr伝達的陳述」と区別しているが、本論で言うr伝達態度」は、 その両者を含めた(「聞き手に働きかけないという態度」をも含めた)ものであり、発. 17.
(21) 話された文には必ず伝達態度が存在すると考える。むしろ、伝達態度の存在が文成立の 要件であるという言い方もでき、野田(1989)が「他の文・文章の枠組みに従属・依存す る文の一部は真性モダリティ(本論における「伝達態度j:福田註)を持たない」とする r真性モダリティを持たない文jは、はたして文といえるのかどうかに疑問がある。 19 でに述べたように、イントネーションを伴わずに記号列が存在することもない。 20「自然下降」と「下降」の用語・概念の混同を避けるため、本論中、「自然下降イン トネーション」は「無標イントネーション」と称する。 21このピッチ下降はイントネーション表記にはあらわさない。 22このことについて、金田一(1951)は、生理的事情によって起こる自然下降が、言い切 りのイントネーションとして定着しているからだとする。 23 山(1989a)は、談話の継続性をイントネーションで示せるのは、聞き手への反応伺 いの有無が原因であるとする。 24この場合においても、イントネーションが存在しないのではなく、無標イントネーシ ョンが積極的に選択されていると見ることができる。 25 き手の発言内容は本来話し手に制限されるものではないのであるから、「異なる意 志表明の許可/不許可」においては、「許可」が自然なあり方である。その意味で、「許 可」は「不許可の制約がない」としたほうが正確だが、用語の冗長さを避けるため「許 可」としておく。 26. 山(1989a)は、「形式があればその形式の意味が重要であり、イントネーションはそ の意味の範囲において決定されたり、また変異してニュアンスの違いを付加するにすぎ ない」として、これをrイントネーションの副次性」と呼ぶ。本論においても記号列(r形 式」)による、イントネーションや実現する伝達態度の制約は存在すると考えるが、記 号列の優越を前提とせず、これらの制約が現れる原因も、モデルに示したような記号列. とイントネーションの対等な相互作用のあり方に求められるものと考える。 27ここでの「×」という記号は、記号列とイントネーションの意味が、単に足し合わせ ただけでなく相互に作用し合っていることを示す意味で使用している。 28 達態度を形成する上で、もう一つ重要な視点に「文脈」がある。山梨(1987)が、広 義の「文脈」には言語的要因、状況一場面的要因、社会的・心理的要因などが関わって いると述べているとおり、「文脈」の意味はきわめて広範囲にわたり、「記号列の意味」 「文の情報」、さらには先行発話のあり方や待遇関係、ノンバーバルコミュニケーショ ンなどもこれに含まれると見ることができる。本論においては、記号列の意味とイント ネーションとの関係を中心に分析し、それを超える「文脈」については、伝達態度形成 に関わる条件として必要に応じて記述していく。. 18.
(22) 第2章 終助詞文末文における伝達態度とイントネーション 本章では、前章第3節において述べた作業仮説に基づいて、終助詞文末における イントネーションの伝達態度形成への関与のあり方分を析し、仮説の妥当性を示す。. 第1節 終助詞とは何か 本節では、文末での伝達態度形成について、典型的な例となる終助詞文末文を分 析する前提として、終助詞の性質について、本論での見解を明らかにする。. 第1項終助詞の範囲 終助詞とは何かについては、概ねの共通理解がありながら、どれだけの語を終助 詞と認定するかという終助詞の範囲の限定については、ゆれが存在する1。. 本論では、基本的には佐治(1957)が「典型的な終助詞」の規定とする、「文の終. りに来る助詞」で、「いつもそこで意味が切れるもののうち、上からの接続の比較 的自由なもの」という規定に従う。ただし、取り上げる終助詞としては、佐治(1957) の扱った「最も終助詞らしい終助詞」、すなわちrね(え)」rな(あ)」rよ」rや」rえ」 「い」「さ」「とも」「ぞ」「ぜ」「わ」「か」の中から、現在のことばとして使用頻度. が低いと思われるrや」rえ」rい」を考察対象から除き、また、伝達態度形成につ いてイントネーションとの関わりの基本的な原則を分析するため、1拍の終助詞に 限定する意味で「とも」も除く。 以上から、本論ではrよ」「ぞ」「ぜ」「わ」「さ」「ね」「な」「か」の各終助詞を 考察対象とする。. 第2項終助詞の意味のあり方 終助詞とは基本的にどのような意味・機能を持つ語であるかについての従来の先 行研究では、終助詞を用いた文末に結果としてあらわれる具体的な機能に焦点を当 てたものが多い2。しかし、近年では、終助詞の具体的機能が実現する過程を解明し ようとする方向性の研究が進んできている。 例えば、陳(1987)益岡(1991)金水(1993)は、終助詞の意味を単義的にとらえ、. そこから具体的な意味機能が立ち現れる仕組みを説明しようとしている。金水 (1993)は、rネ」rヨ」の意味分析を通して、rヨやネが持つ『聞き手への教え』『聞 き手への確認』等の伝達行為上の『使用の習慣』と、ヨやネの『意味』とを分けて」. 考えねばならないことを主張している3。本論も、このような、終助詞の意味を単義. 19.
(23) 的(monosemic)にとらえ、そこから終助詞の具体的な働きが具現してくるというア. プローチのしかたをしようとするものである。. しかし、これらの先行研究においては、単義から多義が派生するプロセスを、多 くは人称を含む情報の内容等、広義の「文脈」によって説明している。イントネー ションとの関係を詳細に説明したものは少ない4が、森山(1989a・2001)は、イン「ト. ネーションの持つ意味について言及し、特に森山(2001)では、本論において示した. ものと同様の「『ね』の基本的意味+プロソディで付与される意味=『ね』の実現 的意味」というモデルを呈示している。. 本論では、終助詞文末文の伝達態度形成を考察するにあたり、記号列としての終 助詞の意味を単義的に定義した上で、具体的な働きである「伝達態度」が具現する. 過程にイントネーションが必須の要素としてどのように関わっているかを説明し てゆく。. 第3項 終助詞と伝達態度. 前章第2節第5項において、伝達態度の形成を中心として文を考える場合の、文 の構造モデルを次のように示した。. (12) a彼、合格したらしいよ。 b「彼、合格したらしい」+(「記号列『よ』の意味」. +r『よ』に実現したイントネーションの意味」) (12b)のように、伝達態度を表す文末の終助詞部を、要素としてr記号列」rイン. トネーション」に分けて考える必要があることは、次の例からも明らかであろう。. (13) a明目、行くよ。 〔上昇〕 b明日、行くね。 〔上昇〕 (14) a動かないでよ。 〔上昇〕 b動かないでよ。 〔下降相当〕 (13a)と(13b)は、同じイン〆トネーションで発話された文である。しかし、文末の. 終助詞rよ」rね」の違いにより、伝達態度は大きく異なっている。また、(14a)と. (14b)は、同じ終助詞rよ」文末文であるが、イントネーションの違いによって、. 両者には伝達態度の違いが存在する。終助詞部が同じ記号列であってもイントネー ションによって表す意味が異なり、同じイントネーションであっても記号列によっ て表す意味が異なるのであるから、終助詞部に具現する伝達態度は、次のようにr記. 号列」rイントネーション」の両要素によって決定されると見なければならない。. 20.
(24) 終助詞の表す伝達態度 =終助詞の記号列としての意味×イントネーションの持つ意味 この「終助詞の記号列としての意味」は、第1章3節2項に述べたようにイント ネーションが「聞き手への呈示のしかた」を担うものである以上、聞き手への呈示. 以前の意味、すなわち、r文の情報」とその伝達に対する話し手のとらえ方を表す ものであると考えられる。次の芳賀(1954)の終助詞観は、この点において、本論の 主張を支えるものであると考える。. 芳賀(1954)は、終助詞に「それに先行して客体的に表現された事柄内容について. の話し手の態度の言い定め」を行う「述定」を担うものと、「事柄の内容や話手の 態度を聞手に向かって持ちかけ伝達する」ことを行う「伝達」を担うものとがある としている。これは一見、「述定」が本論における「対命題態度」、「伝達」が伝達 態度に相当するかに見えるが、芳賀(1954)は、これを終助詞を中心としたr陳述」. の中に認めており、終助詞に、終助詞に先行する部分に対するとらえ方を示すもの があることを認めていることになる5。本論での終助詞に関する考察においては、芳. 賀(1954)のいうr述定」に近いr文の情報に対するとらえ方」を終助詞の記号列の. 意味が担い、r相手への直接的訴えかけ」をイントネーションが担っているという 二層性を想定する。. したがって、記号列としての終助詞の意味を記述していく際には、イントネーシ ョンの意味との二層性を明確にするため、イントネーションによって担われると考. えられる意味を慎重に排除したr記号列としての」意味を確定する必要がある。こ の記号列としての終助詞の意味については、次節において述べる。. 第4項 イントネーションから見た終助詞の特性. 1.終助詞文末のイントネーションの原則と制約 イントネーションは、文の最後から2拍目のピッチと最終拍のピッチとの差によ って表されるのであるから、終助詞文末文のイントネーションとは、原則として1. 音節の終助詞がその直前の語の最後のピッチに対して相対的にどのような高さで 後接するかということに帰することができる。. ただし、文末に、イントネーションに優先し、イントネーションのあり方を変則 的にする音調が存在することがある。一つは文節アクセントによる制約であり、も. 21.
(25) う一つはイントネーションの弱化である。. 名詞文末に付加する終助詞は、格助詞の場合と同じく、「名詞+終助詞」の文節 アクセントによって規定される。したがって、この場合の有標イントネーションは、. 終助詞がアクセントに規定された高さに一旦付いて「名詞+助詞」のアクセントを 保存した後、長音化してイントネーションを実現する。. (15) aヒ ドイ トコヨ。(「ひどい男よ」) bヒ ドイダンナヨー。(「ひどい旦那よ』) 〔長音はごく短い〕. c*ヒドイ ン ヨ。. (16) aヒドイ ンナヨ。. bヒドイオトコ ー。. 〔長音はごく短い〕. c*ヒドイ トコヨ。 例えば、(15a)「ひどい男よ」と同じ伝達態度で「ひどい旦那よ」を下降イント. ネーションを伴って発話する場合、「男よ」では終助詞「よ」を直前拍「コ」のピ ッチに対して低く付けることができるのに対し、「旦那よ」では(15c)のように終助. 詞rよ」を直前拍rナ」に対して低く付けることはできない。これは、r男」r旦那」. の語アクセントはいずれもr低高高」であるが、rオトコO」rダンナOj(Oは終 助詞)のように終助詞を伴った場合、r男(が)」とr旦那(が)」のr名詞+格助詞」. の文節アクセントと同じく、rオトコ○」はr低高高低」、rダンナOjは、r低高高 高」という文節アクセントに規定されるためである。このように、文節アクセント. の制約により、終助詞が直前拍に対してピッチを下げて後接することのできない終 助詞文末において下降イントネーションを実現する場合には、(15b)のように一旦. 直前拍と同じ高ピッチで「よ」を付けてから、ごく短い長音でピッチを下げる。 上昇イントネーションの場合も同様であり、「旦那よ」では(16a)のように「低高. 高高」(最終拍のr高」は直前のr高」よりさらに高い)というピッチ変化になる が、「男よ」では(16c)のようにこの「低高高高jを取ることができず、(16b)のよ. うに、「よ」は直前拍「コ」に対し一旦低く後接してから、ごく短い長音でピッチ を上げることになる。. 次に、イントネーションの弱化である。「旦那か?」と質問する発話において、. 22.
(26) (17b)のようなイントネーションも現れ得るが、これは、 (17a)と同じ質問を表し. ており、このイントネーションが弱化(無化)したものであると考えられる。こう. したイントネーションの弱化は、該当の文末をごく軽く発音した場合などに見られ る。(18a)の場合、「か」のピッチ上昇が弱化しているため、「イントネーションの 弱化」と呼ぶことになるが、これは、アクセントの弱化に連続するものであり、(17c). のような語アクセントの弱化、(17d)のようなアクセント・イントネーション両方 の弱化も起こり得る。. (17) aダンナカ。 bダンナカ。 cダンナカ。 dダンナカ。〔すべて低ピッチ〕 ただし、イントネーション、アクセントが弱化する場合、具体的に起こる変化は 「ピッチの上がりめの消失」であり、ピッチの「下がり目」に変更は加えられない。. この点において、「下がり目」が重要な意味を持つ音調による示差性は担保されて おり、また、示差1生の保存が、弱化の起こり得る条件であるともいえる6。こうした. イントネーションの弱化によりピッチ上昇の消失した文末は、示差性が確保されて ヤ ヤ ヤ. いる以上、上昇イントネーションの聞こえを持つのであり、イントネーションパタ ンとしては上昇イントネーションに分類されるべきものである。. なお、(18)のようないわばr下がりめの消失」の例は、イントネーションの弱化. ではなく、イントネーションの生理的制約により現れるものである。 (18)カレシカ。 (「彼氏か。」)〔下降相当〕. 前章第3節第2項で述べたように、この場合、生理的制約によりピッチが下降で きないが、本来下降イントネーションで表される「納得」の伝達態度を持っており、 この文は、下降と同じに見なすことのできる「下降相当」イントネーションを持っ。. 2.終助詞文末における無標イントネーション. 終助詞文末のイントネーションのパタンを分析する上でもう一つ留意の必要な 点として、終助詞文末において無標イントネーションは現れないということがある。. 上記のように、終助詞がその直前拍に対してどのようなピッチの高さで後接する. かについて、アクセントによる規定があるのは、「名詞+終助詞」の文末だけであ. る。無標イントネーションとは、r文末の最終2拍のピッチのあり方がアクセント よって規定されているもの」であった。すなわち、終助詞文末におけるイントネー ションが、無標イントネーションであるか否かが確認できるのは、「名詞+終助詞」. 23.
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