本章において述べた、終助詞文末文における文末記号列としての終助詞の意味、
イントネーションの意味、両者から立ち現れる伝達態度を表Bに一覧にして示す。
本論で取り扱った終助詞文末文においては、伝達態度は記号列の意味とイントネ ーションの意味との相互作用によって形成されるという前章第3節第3項の作業 仮説に基づき、伝達態度の形成が前節に記述したとおり説明された。
「伝達態度=文末記号列の意味×イントネーションの意味」というモデルは、終 助詞文末文においては、妥当性・有効性を持つものと考えられる。
緻詞
イントネーション
(記号列としての意味)
(勧き)
上昇
聞き手への強い呈示/話し手 と異なる意志表明の許可
下降
聞き手への強い呈示/話し手 と異なる意志表明の不許可
::伝える情報が、聞き手側に確かなもの iよ1として存在しないという話し手の見込
⁝ をことさらに示す :
強意
聞き手への配慮)
結論の押しつけ
;話し手に、その情報を聞き手との間で iぞi共有したいという希望があることを示
⁝ iす F
念押し・勧誘 独話での使用可)
決めつけ・警告
::話し手に、その情報を聞き手との間で
iぜi共有したいという希望がないことを示 ⁝ iす o
(聞き手に関係することとして
)強意
(聞き手に関係しないこととし の)強意
::話し手に、その発話により聞き手に何 iわiものかを要求するという意志がないこ
i :とを示す 1
独話的訴えかけ 独話での使用可)
(聞き手に直接関係しないこと らの)強意
::持っているのが当然であると見込まれ iさiる情報を聞き手が持っていないこと
i :を︑話し手が確認していることを示す 1
当然 情報軽視)
当然
::その発話によって伝える情報をより確 : : iかなものとする情報が、聞き手側に存
i i在しているという話し手の見込みを示 : : :す 1 聞き手への同意確認・同意
求・同意の仮想
(客観的事実に後接して)同 の押しつけ・(話し手の主 に後接して)感嘆
oi発話者自身が確信する情報をより確 : : :かなものとする情報が、聞き手側に存
i I :在しているという話し手の見込みを示 : : :す :
聞き手への(やや強引な)同 確認・同意要求・同意の
想(独話での使用可)
(客観的事実に後接して)同 の押しつけ・(話し手の主 に後接して)感嘆
独話での使用可)
:
質問
納得・詠嘆 独話での使用可)
表B
1具体的にどの語を終助詞と呼ぶかを検討している研究には、佐治(1957)の他に、上野
(1972)、陳(1987)、野田(2002)などがある。r資料編」で概観している。
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2こうした研究には、国立国語研究所(1951)、渡辺(1953)、芳賀(1954)、佐治(1957)、
松村(編)(1969)などがあり、終助詞の基本的機能を知る上で学ぶところが多い。
3金水(1993)のいう「意味」とは本論でいう「記号列としての意味」であり、金水(1993)
の「使用の習慣」とは本論の「具体的機能」のことであるといえる。
4イントネーションについて分析をしている研究にあっても、例えば大曽(1986)では、
rね」の意味とイントネーションとの関係に言
及し、井上優(1993)は、命令・依頼文に付加する「よ」のイントネーションの違いによ る命令・依頼のあり方の違いを詳しく分析しているが、いずれもイントネーション自体 の独立した意味に関しては述べていない。
5芳賀(1954)は、渡辺(1953)を受けたものであり、r述定」とr伝達」は、一つの終助詞 に同時に存在するものではなく、終助詞ごとにどちらを担うものかが決まっているとい
う考え方に立っていると思われ、この点では本論と異なっている。
6示差性の上で問題がない場合に、アクセントの弱化・無化が起こることがあることは、
多くの研究で指摘されているところである。例えば前田(1997)では、疑問文において、
示差性を保つ形で、通常のアクセントとは異なるアクセント保存が行われることが述べ られている。
7このことは、rよ」についても同じようにいうこができる。rね」についても原則とし て無標イントネーションで表現されることがないことは同様であるが、「ね」にはさら に複雑なイントネーションの制約があり(第3節にて詳述する)、rか」rよ」のように 単純化した形では説明できない。
8「ね」「よ」の対立および他の終助詞の分類に言及した研究には、益岡(1991)のほかに、
上野(1972)、陳(1987〉、大曽(1986)、神尾(1990)、益岡(1991)、伊豆原(1994)などがあ り、いずれも基本的には益岡(1991)と一致する考え方を示している。
9金水(1993)は、「A:お年は?B:36です(?ね)」といった例から「ね」の意味が、
聞き手に情報が多く、話し手に少ないという規定では説明できないとし、終助詞ネの意 味を「当該の発話を、マッチする特定の文脈にリンクせよ」というマッチングの指示で あると述べているが、本論においては、これらの例に関しても、本文に掲げたrね」の 用法の範疇に収まるものと考える。
10 山(1992)は、「か」の基本的意味を「(同じでないものがあって)完全に一つに絞れ ていない」ということができると述べている。
11「ね」では、伝達は「話し手→聞き手」の方向に行われながら、情報は、結果として r聞き手→話し手」の方向に移動してくることが期待されているという二つの相反する 情報の動きのベクトルが存在する。
12 ちろん、これらの例とは逆に「彼は学生だよ〔上昇〕。見てわからないのか。」や「彼 は学生だよ〔下降〕。それがどうかしたかい?」という発話もあり得なくはないが、
(21a〉(21b)に示した後続文のあり方のほうが自然である。
13 山(1989a)は、「イントネーションの効果の一つとして、反応伺いの上昇調の方が柔 らかく丁寧な待遇になるということもある」として、これを「待遇イントネーション」
と呼んでいる。
14「来てください」という依頼表現は「来てくださいねjと「ね」を付加することでも 強められる。益岡(1991〉では「ね」と「よ」は逆の意味を持っものとされており、この 点でも矛盾している。依頼表現が「よ」(または「ね」)によって強い調子になるのは、
「頼んでおいて念を押す」という行為が、頼みごとをする相手である聞き手を信用して いない感じを与えるという二次的な「無礼さ」のニュアンスによるところが大きいと思
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われる。
15 論、イントネーションにかかわらず、「よ」を付加して念を押せば、つっけんどん さが軽減され、ソフトな感じを受けるが、これは「学生だ」に対する「学生だよ」でも そうであるように、命令表現に限ったことではない。
16 上(1993)が「非矛盾考慮」の命令・依頼文は「よHj(上昇調の「よ」)、「矛盾考 慮」の命令・依頼文は「よL」(下降調の「よ」)の文末形式を持つとしたことと符合し
ている。
17この場合のr聞き手」はr話しかけている相手」の意味である。r情報を伝えたい相 手」は別にいるということは、独話の場合、少なくない。例えば極端な例ではr聞こえ
よがしの独り言」などの場合がそうである。
18このrイントネーションを伴って伝達態度を実現した文を、さらなるイントネーショ ンを付加して呈示する」というあり方は、第1章第2節第2項に述ぺたr問い返し」の イントネーションの構造に類似している。
19 近では、ことばの男女差が減じる中で、女性の中でも、(50b)のような下降イント ネーションの「わ」は使うが、従来「女性の形式」とされてきた(51b)のような上昇イ ントネーションの「わjを使わないという人も少なくない。一方で下降イントネーショ ンのrわ」にはr女性のことばとしてはぞんざい」という語感も残っている。
20ただし、第2章第1節第4項において述べた、r名詞+終助詞」の文節アクセントに よる制約は、これに優先する。
21 降イントネーションが「cf」に示したような形にならないのは、先に見た、「ね」が 直前拍に対して下がって付くことができないという制約による。
22rイントネーションを卓立させるためのプロミネンス」という言い方もできる。
23 降相当イントネーションのrね」は、r同意確認の押しつけ」には用いられない。
これは、下降相当とはいえ、実際にはピッチが下降していないため、聞き手への呈示の 度合いが弱く、情報をr押しつける」ほどの強い意味を持ちえないためと考えられる。
24r直前拍に対して低いピッチで付くことはできない」という制約があることも、rね」
と同様である。
25この「強引な印象」が、「な」についての、女性の使用の制約、目上に対する使用の 制約の理由であると考えられる。
26 問詞を持つ疑間文の場合には、可否二つの可能性でなく、多くの可能性を示すこと になる。これをもって森山(1992)は、「か」の基本的意味を「(同じでないものがあって)
完全に一つに絞れていない」としている。しかし、疑問詞疑問文は、文頭文中にある疑 問詞が伝達態度を担う記号列として機能しており、伝達態度形成について文末における イントネーションと記号列の関わりの原則を分析しようとする本論においては、分析を 試みていない。本論におけるrか」文末文とは、r疑問詞を持たない『か』文末文」で
ある。
27 面によっては、下降イントネーションでも質問として成立する場合がある。この、
動詞終止形文末における下降イントネーションを伴う真偽質問文については、次章第2 節第2項に詳述する。
28 山(1992)は、こうした意志を表す文末にrか」を付加する形についてr『その気に』
なりつつあるというダイナミックな心理的状況」を伴う「自分自身の意志決定の過程の 一部を表す」ものであると述べている。
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