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 第1項 終止形文末の伝達態度形成

 動詞終止形にあらわれるイントネーションのパタンとその意味は、第1章第3節 第3項に述べたとおり、以下のように仮定して考察する。

①上昇:聞き手への強い呈示。話し手と異なる意志表明の許可。

②下降:聞き手への強い呈示。話し手と異なる意志表明の不許可。

③無標(自然下降):聞き手への消極的な呈示。(記号列の意味のみの呈示)

 動詞終止形文末は、終助詞のような記号列は外接していない1。この文末において は、動詞の終止形という活用形が、r伝達態度の形成の一部を担う記号列」だとい

うことになる。

 尾上(2001,pp.422−424)は、現代語動詞終止形が終止法として立つ場合の意味(本

論における「伝達態度」)として、a確かな予測b予定c意志・意向d現在の描 写e事態の存在承認・眼前の描写f真理・習慣・習性・傾向g命令の7つを挙

げ、このうち命令を除くa〜fには、それぞれ対応する疑問文としての疑問文終止 法があるとしている。

 この分類をさらに整理するならば以下のようになろう。

 a〜gのうち、a確かな予測(rあいつはきっとえらくなる」)・b予定(rこの船 はあさって神戸に着く」)は、根拠のあり方に差はあるものの、未来の事態につい て見込みを述べている点で共通している。e事態の存在承認・眼前の描写の例とし てあげられている「警官が来る!」「ほら、ごらん、鳥が飛ぶ」については、尾上

(2001)の指摘するように安定的表現としては「来ている」「飛んでいる」のよう にr〜テイル」を必要とするものと見る2か、ごく近い将来を表すものであると解釈 できる3。d現在の描写(r富士山が見える」など)と、f真理・習慣・習性・傾向

(rアルコールは水に溶ける」など)とは、そこに現実としてあるものを描写して いるとまとめられる。すなわち、これら7つの意味は、「予測・予定(未実現の事

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態描写)」r意志」「命令」r現実描写」の4つに整理でき、これらに加えて疑問の用 法が存在するということになる4。

 これらの意味が、表現・理解される仕組みについては、以下のように考えられる。

 伝達態度を表す記号列を伴わない動詞終止形文末のような文が呈示される場合、

まずその意図は二つに分けることができる。一つは、その命題に対する聞き手の判 断を問うもので、この命題が聞き手により否定される可能性を含んでいる。これが いわゆる「質問」である。もう一つは、命題を聞き手により肯定されるべきものと して呈示するもので、ここではこれを仮にr平叙」と呼んでおくことにする。r命 題を肯定されるべきものとして呈示する」とは「実現を見込んで、あるいは現実と

して描写する」と言いかえることができる。

 「質問」は、聞き手の判断を問う(反応を求める)ために、「平叙」に比して強 く呈示される。これが、(1)のような「質問」を表す上昇イントネーションである。

 一方、「平叙」には、「実現を見込む」ものと「現実を描写する」ものがある。

 このうち、「実現見込み」は動詞の主語の人称によって三つの意味に解釈される。

 一人称の場合には「話し手が自分の行為の実現を見込む」ことになり、(2)のよ うに「意志」の意味を表す。三人称の場合には、「話し手が第三者の行為の実現を 見込む」ところから、(3)のようにr予測・予定」の意味を表す。二人称の場合に は「話し手が聞き手の行為の実現を見込む」ことから、(4)のように「命令」の意 味を表わすことになる。5

 (1) 山田、すわる? 〔上昇〕(山田は聞き手または第三者)

︵2︶︵3︶

(4)

︵5︶︵6︶

僕が行く。    〔無標〕

山田は来る。   〔無標〕(山田は第三者)

山田、すわる! 〔下降/無標〕(山田は聞き手)

ヤマダスワルー ! 〔下降〕

ヤマダスグクルー! (「山田、すぐ来る!」)〔下降相当〕

 「質問」が上昇イントネーションで表わされたのに対し、「平叙」は上昇以外の イントネーションで表される。「意志」「予測・予定」「命令」は、いずれも無標の

自然下降イントネーションにより表現され得る。

 しかし、「意志」「予測・予定j「命令」のうち、「命令」は、強く聞き手に働きか ける表現である。そこで、強い調子で明確な命令をする場合には、無標イントネー

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ションでなく、有標の下降イントネーションによる表現がなされる。下降イントネ ーションは、話し手と異なる意見表明の不許可、すなわち話し手の発話内容で対話 を結論づけようとする発話に用いられるものであるため、下降イントネーションを 伴って発話された(5)(6〉のような文は、発話された行為の実現を強く要求する「命 令」という伝達態度をより明確に伝えることになる6。

 「現実の描写」は、終止形文末文としては、特殊なものといえる。「現在の描写」

は、尾上(2001)も述べるとおり状態動詞に限られ、その他の動詞ではrテイル」な どが付加する必要がある。状態動詞にも、r見る」に対するr見える」のような、

2語として取り扱うことはできないものの、なんらかの接辞を語の後半に伴ってい るものが少なくない。また、「真理・習慣・習性・傾向」にっいては、動詞終止形 終止法の用法ではあるものの、単独で自立しにくく、(7)のように、引用節または 埋め込み節に近いものとして用いられる場合が多い7。

 (7) アルコールは水に溶ける。〔無標〕 このことは知ってのとおりだ。

 (8) あなたはいつだってそうやって私を置いてく。〔無標〕

 (9) またそうやって僕をからかう。〔無標〕

 ただし、(8〉(9)のような場合には、自立して用いられる例もある8。こうした「現 実の描写」は無標イントネーションを伴って発話される9。

  以上のイントネーションと伝達態度の関  イントネーション 係を表に示すと表aのようになる。典型的な

イントネーションと伝達態度の関係において は、それぞれの伝達態度のr棲み分け」がな されているのがわかる。

 無標イントネーションを典型的イントネー ションとする伝達態度は、大きく分けて2つ 存在している。1つは未実現の事態の実現を 見込むr意志」r予測・予定」であり、もう1 つは「現実の描写」である。

 尾上(2001,pp.427−428)は、表bを示して 現代語における動詞終止形の意味を説明して

      表a

圏■は典型的なイントネーション、iii

るイントネーション。※部については次項で詳述。

いる。その中で尾上(2001)は、古代語にあっては、「未然形+ム」との対立の形

      54

で「現実事態構成」の意味を持っていた終止形は、現代語においては「非現実事態 仮構」にまで意味を広げた10ことで、単なる終止形終止では現実事態描写とは理解 されにくくなり、その結果、現実事態描写を示すために「シタ・テイル」が必要に なったと述べている。すなわち、現代語の終止形は、現実非現実の両方の表現に用 いられるr事態構成叙法」の意味を持つが、中でもr非現実事態仮構」が優勢であ ることを述べている。

 無標イントネーショ ンが、記号列の意味をそ のまま呈示するもので あることを考えれば、

「意志/予測」と「現実

の描写」を比較して「意      表b 志/予測」のほうが自然

に現れる伝達態度であることは、尾上(2001)のいう終止形の意味のあり方に並行 していることになる。動詞終止形の持つ意味は、尾上(2001)述べるようにr現実 非現実両事態を構成すること」ととらえることに妥当性があることになる。

動詞終止形 現代語

未然形+ム 非現実事態仮構の叙法

意志・推量のマーク 非現実事態仮構の叙法)

動詞終止形 現実事態構成の叙法

非現実事態仮構

       (事態構成の叙法)

実事態構成

  第2項関連事項

  1、r下降質問文」について

 前項の表bの中で、r質問」の伝達態度は下降イントネーションにおいても現れ 得るとした。本項ではその下降イントネーションによる質問について述べる。

 「真偽(距s−No)質問文」は原則として文末に上昇調のイントネーションを伴う。

殊に、終助詞「か」によってマークされない動詞終止形文末文の場合には、上昇イ ントネーションだけが質問であることを示すマークのはずである。

 ところが、真偽質問文(発話)の中には、r質問を示す文末形式」も、文末の上 昇イントネーションも持たないものがある。そうでありながら真偽質問の意図を伝

えることのできる発話文をr下降質問(文)」と呼ぶことにする。

 (10)チョッ トヤセター。  (ちょっと痩せた?)

 (11)カミキッター。 (髪、切った?)

 (12)アシタヤマダン  イクー。  (明目、山田んち、行く?)

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 (13)コンヤノミカイクルー。  (今夜、飲み会、来る?)

 (10)〜(13)などがこの下降質問に当たる。(10)(ll〉はrタ文末」だが、(12)(13)

のように、動詞終止形の文末においても下降質問はしばしば見られる。この下降質 問は、特に近年よく用いられるようになったと感じられる。国立国語研究所

(1960,p.286)の談話文字化資料の分析にも見られるが、この中ではr臨時的なもの」

との分析がなされている。現在では「臨時的」とは言えないほどに一般化してきて いるといってよいだろう。

 下降質間文と一般的な質問文(上昇質問文)との、意味の違いと使い分けを確認 するため、(14)(15)のような、「男女がハイキングを楽しんだ帰り道、男が女に『疲 れた。』または『(日に)焼けた。』という発話を行う場面」という例を考える。

(・の壷丁』.

 (15)ツカレター。

 まず注目しなければならないのは、この下降質問における文末ピッチの下降は、

自然下降ではなく有標の下降イントネーションまたは下降相当イントネーション であるということである。この下降イントネーションによる聞き手への強い呈示に よって、話し手の感想の述べ立てではなく、聞き手への質問であるという意図が伝 えられていると考えられる。

 (14)のr焼けた」においては下降調が明白である。(15)のr疲れた」ではわかり にくいが、「焼けた」と同じ伝達態度を付与しようとして発話されており、またそ のために文末の長音が付加することが多いことから、この文末は「下降相当」のイ ントネーションを伴っていると見ることができる。

 下降イントネーションであれば、その意味から、話し手と異なる主張をすること が許されていないことになる。そのことは、次の例からわかる。

q£)a

,ぞ::難?ちつ1毫讐l

   b〔

      男:疲れた?   〔下降〕

      女:ええ、かなり。

C︹

  男;疲れた?   〔上昇〕

  女=ううん、ちっとも。/ええ、かなり。

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