Author(s)
須田, 義治
Citation
沖縄大学人文学部紀要 = Journal of the Faculty of
Humanities and Social Sciences(6): 15-24
Issue Date
2005-03-30
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/6104
沖縄大学人文学部紀要第6号2005
連体形のテンス・アスペクトについて
須田義拾 要約 この論文では、動詞のスル、シダ、シテイル、シテイタのテンス・アスペクト的な形 が、文の連体の位置において、どのようなテンス・アスペクト的な意味を表しているか について検討する。シテイルとパーフェクト的な意味を表すシダは相対的なテンスを表 し、シテイタとパーフェクト的な意味を表さないシダ・スルは絶対的なテンスを表す。 また、シテイタ、シダ、スルには、主に語りのテクストに用いられる用法もある。 キーワード:連体修飾、相対的なテンス、絶対的なテンス、アスペクト語り <はじめに〉 この論文では、文の連体の位置(連体修飾節)に現れる動詞のテンスとアスペクトについて検 討する。それも、特に、動詞が一回限りの具体的な動作をさしだしているものに対象を限定する。 特性を表すシダなど、派生的な用法については、別稿にゆずる。 連体形の動詞のテンスに関しては、絶対的なテンスと相対的なテンスがあることが知られてい るが、アスペクトに関しては、終止の位置の動詞と違いがないと見られているのか、その検討が ほとんど行われていない。また、連体形のテンスについて検討されるときも、スルとシダだけを 取りあげていることが多いn.シテイルとシテイタの連体形のテンスについて、十分に検討され ていないことが、連体形におけるテンスとアスペクトという文法的なカテゴリーの間の相互作用 についての検討を不十分なものにしているように思われる。 そこで、以下では、動詞のスル(完成相非過去形)、シダ(完成相過去形)、シテイル(継続相 非過去形)、シテイタ(継続相過去形)のテンス・アスペクト的な形が、文の連体の位置において、 どのようなテンス・アスペクト的な意味を表しているのかを、主にテンスとアスペクトとの相互 作用という観点から、見ていく。 1.絶対的なテンス (1)シダ・シテイタ(過去形) 連体形の動詞のさしだす動作が、発話時から見た過去のある時点に位置づけられているとき それは絶対的なテンスである。これは、ふつうは、形容詞述語文や名詞述語文のように、文の中 に他の動作がさしだされていないなど、他の動作への時間的な関係づけを持たない場合である。 絶対的なテンスであることは、文の中にダイクティックな時間名詞があれば、さらに明確になる だろう。そして、アスペクト的な意味としては、シダは非分割的な動作2)を表し、シテイタは、 その時点(目撃時点など)において継続している動作を表す。 また、連体修飾の用法で言えば、これは、いわゆる制限的な用法である。かざられ名詞のさし だすものを、連体形のさしだす動作が関わるものに限定しているのである。そのため、他の連体 修飾成分が共起することもある(例2)。 父さんが母さんに買ってあげた担翰だ。 (宮部みゆき. 1)五年前、結婚十五周年の記念に、 -15-返事はいらない)
2)些11,有希枝と食ニミ』と生圭tLZ初堕工QZルコースは、料理も味も覚えていなくても、
たぶんあれが一生のうちでいちばん旨かったフランス料理だろう。(重松清・ビタミンF)
3)それによると、運転していた男はやはり、芦原庄司だった。(宮部みゆき・返事はいらな
い)4)セツちゃんと同じだった。滑稽で、ぶざまで、かなしい姿が、何日カコ前に加奈子が話して
いたセツちゃんの姿に重なってしまう。(重松清・ビタミンF) (2)スル・シテイル(非過去形)非過去形のスルとシテイルでも、時間的に関係づけられた動作が文の中にない場合は、絶対的
なテンスを表す。そして、終止形のテンス・アスペクトと同じく、スルは未来の非分割的な動作
を表し、シテイルは現在の継続的な動作・状態を表す。終止形が現在を表している場合は、シダ・シテイタと同じく、ダイクテイックな時間名詞がな
いかぎり、相対的なテンスと区別できないのだが、次の例のように、未来や過去を表している場
合は、絶対的なテンスであることが、比較的、明らかである。5)迫田さんと、上哀上工_さ_堂昼皿のお相手には、僕が行く。(宮部みゆき・返事はいらない)3)
6)「君が巫っている座 ヨカバーは、 俺が染めたんだよ」(士屋嘉男・クロサワさ-ん!) ̄ 2.相対的なテンス (1)シテイル連体形における相対的なテンスとは、文の終止の位置の動詞がさしだす動作が実現した時点を
基準として、連体形のさしだす動作が時間的に位置づけられることを言う。
相対的なテンスを表す最も代表的な形は、シテイルである。シテイルの持つ同時性というアス
ペクト的な機能自体に、すでに、他の動作との時間的な関係という、相対的なテンスの意味特徴
が含まれているのである。シテイルは、未来の動作を基準として、それと同時的な動作も、容易
にさしだすことができる4)。また、終止形が現在テンスであれば、絶対的なテンスと区別できな
くなるのだが、ダイクティックな時間名詞がない場合は、基本的に相対的なテンスと見ていいだ
ろう。以下にあげる例はシテイタにも言い換えられるが(例24-27と比較せよ)、シテイルの場合は、
一つの場面の中における登場人物の間の相互に関係づけられた動作をさしだしていることが多
い。また、スルにも言い換えられそうであるが、スルであれば、明示してはいないが、その場面
に新しく生じてきた動作であることが多い(例40,41と比較せよ)。
7)百合はうなずいて、テレビの歌番組に さいよ」と責Zi:塑里ktjiこ。(重松清・ビタミ 8)子供は、とっさに、じいつとみつめて に「早くお風呂入っちゃいな ノ、 >(重松清・ビタミンF) じいつとムユ堕工L_豆、三千代の眼をおそれた。(林芙美子・めし) (2)シダ ①パーフェクト的な意味を持つシタシタが相対的なテンスを表す場合、それは、パーフェクト的な意味を持つシダである。先行す
る動作が後続する基準時点に関係づけられているのが、パーフェクトであれば、パーフェクトと
-16-須田:連体形のテンス・アスペクトについて いうものの中に、すでに、相対的なテンスの意味特徴が含まれていると言える。パーフェクト的 な意味を持つシダは、例10のように、終止形の表す未来の動作を基準にして、それに先行する動 作をさしだすことができる。 また、パーフェクト的な意味を持つシダは、あとに述べる、限界到達の意味を表すシダと連続 的である(例31-35)。もっとも、一般的には、限界到達はパーフェクトの一種と考えられている。 を話した。(宮部みゆき・返事はいらない) ̄ ちは、あんたがパンツ丸出しでフェンスを =手事故の【始総 ■ 9)問われるまま、聡美は 10)言つとくけど、あんI 1o)言つとくけど、あんたの死体を韮長Lu室と人た亘は、あんたがハ のぼってるところまで想像するよ。(宮部みゆき・返事はいらない) パーフェクト的なシダには、次のようなものがある。 連体形の動詞が、対象を変化させる動作をさしだしていて、その対象力iかざられ名詞にさしだ されている場合、対象に残る結果の側面が前面に出る(例11,12)。これが、さらに、時間的に遠 く、異場面において生じたものとなっていけば、かざられ名詞のさしだすものの特性を表すもの に近づいていく(例13,14)。これらは、動作だけでなく、動作の付随的な,情報にも重点が置かれ ているようである。 11)「おう、花乃。チラシできたか?」 「できたできた。おばさん、見て。似てるでしょう?」 「あら、そっくりだわ。花乃ちゃん、絵がうまいのねえ」
私も花乃ちゃんが趣二二二三をロR三三jご゜(山本文緒・チェリーブラッサム)
12)やってきた鑑識は、1DKの室内の床をくまなく掃除機で吸って、採取した嶢を大事そう に持ち帰った。(宮部みゆき・返事はいらない) 13)加賀美は答え、東向きの台所の窓のそばに、酒屋n迄_皇_二_迄ぐい呑み用の小さなグラス を据えた。(宮部みゆき・返事はいらない)14)自分の部屋の机の引き出しには、彼〕4m迄いに-J=Z_ヒユニニ上がZLi]EE1ii2j:2。(宮部み
ゆき・返事はいらない) ②パーフェクト的な意味を持たないシタ シタがパーフェクト的な意味を持たない場合、それは、なによりも、発話時を基準とした絶対 的な過去である。終止形が過去形の場合、連体形のシダは、終止形のさしだす動作に先行する動 作というより、発話時を基準とした過去の動作をさしだしていると解釈したほうが自然である (例15)。終止形が未来テンスの場合も、連体形のシダは発話時以前の動作であり、終止形の未来 の動作以前ではない。終止形が未来テンスであれば、相対的なテンスのシダは、なんらかのパー フエクト的な意味を伴っているはずである。たとえば「彼はそこで丘ムエニニームニをみんなに話すよ.」 など。 ただし、「皿三とんかつを ̄直にその日また{工。LZ二・」のように、相対的な時間名詞があ れば、パーフェクト的な意味がなくても、相対的なテンスを表すかもしれない。しかし、これも、 終止形が過去形の場合に限られるだろう。たとえば、「試験の目11_且にとんかつを食垈型菖【に試験 の日もfJ:U・」のように、終止形が未来テンスの場合、連体形は非過去形「食べる」のほうが自 然であろう。したがって、上の、終止形が過去形の場合でも、連体形のシダが絶対的なテンスで -17-はないかとも考えられる。
15)でもね、仕事で9月に中国へ行き、34年ぶりに自分が宣ニーエニ室に行き、中に入れてもら
 ̄~■〆、 ったのね。(向田邦子全対談) 特殊な場合であるが、小説の地の文では、過去に設定された登場人物の「現在」を基準として、 相対的な過去が表されることもある。これはダイクティックな時間名詞の特殊な使用である。16)三千代は、匪夜一夫と塗L」』i塗EL座2通_且を、重たい心で菱LLjLnjZ:是。(林芙美子・めし)
17)鮎太はh血I大学生の加島と一緒に並んで塗上ユエニ川に沿った同じ道を、興奮して歩L工
行った。(井上靖.あすなる物語) (3)シテイタ シテイタの連体形は、相対的な過去を表しにくい。たとえば、発話時から見た過去のある時点 に、それに先行するシテイタの動作を関係づけるのは、難しい。それは、本来の終止形としての シテイタという形自体が、過去のある時点に対しては、同時性というアスペクト的な機能によっ て関係づけられうるが、発話時に対しては、パーフェクト的な意味を持たないシダと同様に、過 去ということ以上の関係づけを持たないことと関係している。したがって、シテイタは、絶対的 なテンスは表しても、相対的なテンスを表すことは、基本的にないのではないかと思われる5)。 なによりも、それは、未来のある時点に先行する動作を、シテイタが表すことができないという ところに現れているだろう。 それでも、もし、シテイタが、相対的なテンスを表しているように見えるとしたら、それは、 次の例のような、小説の地の文に見られる、過去のある時点に存在する登場人物の「現在」を基 準とした「過去」という相対的なテンスであろう。ここにも、ダイクティックな時間名詞の特殊 な使用を見ることができる。 18)最初は、 聖=二二の電話で警官が話上二上」」iニコンビニに回jbAj2Jt皇,(重松清・ビタミンF) ̄ 19)「ひとごとみたいに言いやがって」と吐き捨てて、ユLL三-二-三_圭工加奈子が座っていた ソファーのくぼみに目をやった。(重松清・ビタミンF) (4)スル 次にあげる例のスルは、相対的なテンスを表しているように思われる。終止形の動作の時点を基準とした相対的な未来である。しかし、「パーティーで着量」IfLをj采LLnSLZi二三」△。」のような、
終止形が未来テンスで、連体形が相対的なテンスと言えるものは少ないだろう。それは、ふつう、 絶対的なテンスとなるのではないだろうか。 《終止形が現在テンス》20)「ねえ、里子ちゃん、今日、困っちゃった。着工」四-二、萱惣って、ありやアしないわ……」
(林芙美子・めし)21)「ねえ、私、こんなもの、持って来たンだけど、誰か、頁ユーエーニ-1ユ亘ニムムニltSJMLら……」
(林芙美子・めし) -18-須田:連体形のテンス・アスペクトについて 《終止形が過去テンス》 22)挙式は午後一時からの予定だけれど、なにせ、支度がたいへんだ。僕や父さんは大した ことはないが、留袖を着堂母さんは、朝から大騒ぎだ.た゜(宮部みゆき・返事はいらない) 23)昼前にふるさとに童;_正ii工1選で、東京をヨi:halt二。(重松清・ビタミンF) 上の例のような、相対的なテンスのように見えるものも、それが、かざられ名詞のさしだすも のを特徴づけているという意味において、非時間的な用法と解釈できそうなものもある。これは、 動作の内的な時間構造やパーフェクト的な意味で、基準時点に関係づけられた動作をさしだして いるのではなくかざられ名詞のさしだすものに関わる未来のポテンシャルな動作をさしだして いるからであろう。そのため、上の例でも、目的や予定など、なんらかのムード的な意味がつき まとっている。 3.語りの連体 以上のものと少し異なる連体形の用法がある。主に小説の地の文など、語りのテクストに見ら れるものなので、これを、仮に「語りの連体」と名づけ、以下に検討していく。これらは、以上 に検討したような用法と、はっきりと区別されるようなものではなく、部分的に共通する特徴を 持った、連続的なものである。 (1)シテイタ 次の例における連体形のシテイタは、終止形のさしだす過去の動作と同時的である継続的な動 作・状態をさしだしている。すなわち、連体形のさしだす動作は、そのアスペクト的な形の持つ アスペクト的な意味において、終止形のさしだす動作と、動作の内的な時間によって関係づけら れながら、その二つの動作全体としては、テンス的な形によって、発話時から見た過去に位置づ けられているのである。そのため、これらは、基本的に、絶対的なテンスと見ることが可能であ る(特に例27のように、ダイクティックな時間名詞がある場合は、絶対的なテンスと解釈できる)。 また、この場合、終止形の動作の主体である主要な登場人物に対しては、すでにその場面に存在 していたものという意味で、シテイタが、背景的な状態や、主要でない登場人物の動作・状態を さしだしていることが多い。 24)母親のかの子が名づけ親である銀座の「モナミ」の主人に掛けあって、彼が東中野にユ ュェーヒユエ二酒落たレストラ≧(ブルーノ・タウト設計)の一室を、月二回、無料で借りられ ることにしたのである。(岡本敏子・岡本太郎に乾杯) 25)岡本太郎がその車に同乗して、労連代表団の宿舎に に向かった。 (岡本敏子・岡本太郎に乾杯) 26)和美は、やれやれ、と息をつき、ソファーからダイニングテーブルに移った。遅い夕食 を ̄と』進上の正面に座り、テレビばっかり観てんのよカナって、もうまいっちゃう、 と息だけの早口で言った。(重松清・ビタミンF) 27)にっこり笑ってそう答えてくれた向田さんの言葉に甘えて、あのころ私がいりびたって いたジャズ酒場に何度か当f:i認aJJLJi二。(向田邦子全対談) 次の例では、連体形のシテイタの表す継続的な動作が、終止形のシダの表す動作が生じて、終 わっている。あるいは、背景にしりぞいて、問題とされなくなっている(例30)。連体形の動作 -19-
が終止形の動作に時間的に先行しているという点においては、このシテイタを相対的なテンスと 見ることもできるが、一つの場面の中の一連の出来事を語る文脈における、継起的な動作と見た ほうがいいのではないだろうか。継起的な関係にある二つの動作のうち、先行する動作を持続的 なものとして表すために、それをシテイタ(継続相)にしているのである。これも、上の例と同 様に、絶対的なテンスと見ることは可能である。 28)宙を , が、そこで私の顔に戻ってきた。(山本文緒・チェ リーブラッサム) 29)庭でひっきりなしに鳴いていた虫の声も途絶えた。(重松清・ビタミンF) 30)「お父さん、どしたの?」
ポテトチップをかじりながらテレビを ̄必は、父の唐突な帰宅にうろたえた。(山
本文緒・チェリーブラッサム) (2)シタ シタが限界到達というアスペクト的な意味を表している場合、テンス的な意味は副次的につき まとうだけで、シダの形は、主に、ある時点(期間)に位置づけられた-つの場面の中の、いく つかの動作の間の継起的な時間的関係を表しているようである。これも、語りというテクストに 典型的なものであれば、「語りの連体」と言えるだろう。しかし、これは、連体形のさしだす動 作が限界に到達する時点が、終止形の動作の実現する時点に先行しているので、相対的なテンス とも連続的であると言える。また、これは、連体修飾の非制限的な用法であり、かざられ名詞は、 特定・固有のものをさしだしている。そのため、ふつう、他の連体修飾成分とは共起しない。 31)煙草をlZLu窪亘豐Z二圭圭は、ソファーから立ち上がった。(重松清・ビタミンF) 32)その時ポールぎりぎりに突っ込んでコースをとった見谷のスキーが、わずかにポールを 引っかけた。瞬間、バランスを崩した見谷の身雄はスソ飛んだ。立ち上がれない。(岡本敏 子・岡本太郎に乾杯) 33)家を玉」Q1Lj二世カニ型は、その勢いのまま近所にある小さなお寺に駆けこんだ。(山本文緒・チ ェリーブラッサム) 34)定刻どおりに羽田空港を鐵哩陸-匹二飛行機が水平飛行に入u、シートベルト着用サインが 消えると、それを待ちかねていたように前方の席から中年の席から中年の男性が立ち上がり、 こっちを振り向いた。(重松清・ビタミンF) 35)修一たちにからんだ部長は、高卒入社組からただ一人平取締役まで出世したが、バブル の頃に台湾につくった現地工場が業績悪化で閉鎖された責任をとらされて、二年前に退任し た。(重松清・ビタミンF) (3)スル スルの連体形にも、もっぱら、語りのテクストにおいて使われるというものがある。 次の例は、これから起こる動作というより、今起こっていて、まだ終わっていない動作のよう である。これらは、アスペクト的な意味としては、限界到達(例36,37)や非分割的な動作(例 38,39)を表していると言えるだろう。直後に動作が限界へ到達することを表すスル(例36,37) は、まだ、終止形の動作の時点を基準とした相対的なテンスと見ることができるが、継起的な動 作を表すスル(例38,39)は、もはや、そのような解釈が不可能であり、語りでしか現れない特 -20-須田:連体形のテンス・アスペクトについて 殊なものとみなさざるを得ない。 また、継起的な動作を表すもの(例38,39)は、主要な登場人物の間の相互に関係づけられた 動作をさしだしている。シダの場合であれば、終わらなければ次の動作が生じないという意味に おいて、まずは、動作が終わったことが重要なのであるが、この場合のスルでは、その実現して いる動作の内容が重要なのである。その内容において、動作同士は相互に関係づけられているわ けである。
36)照れくさそうに頬を少しだけゆるめていたような気もしたが、EH-L2-亘屋が邪魔をしては
っきりとは確かめられなかった。(重松清・ビタミンF)37)いまこの国が破れ、親しかった友たちは壌jERゴー亘前線で、死んで丘きつつあるかもしれ
ない。(岡本敏子・岡本太郎に乾杯) 38)「|まんまに、-枚だけ?」 念を押す修一に、母親は「毎週毎週、何十枚も買うとったら、小遣いがなんぼあっても足 りんが」とまた笑った。(重松清・ビタミンF) 39)「ごめん……ゼリーかなIこかでいいと思ってたんだけど、おなかぺっこぺこってシュン もマミも言うから」 さすがに決まり悪そうに三-二△美壬に、達也は「くつにいいよ」とひらくつたい声で答え た。(重松清・ビタミンF) さらに、スルが、終止形のさしだす動作と同時的な動作をさしだすこともある。これも、終止 形の動作と相互に作用しあう動作であると言える。たとえば、例40で言えば、犬が「ほえたてる」 のに反応して、里子が「にらみすえ」るわけである。この同時的な動作は、明示的ではないが、継 続的な動作であると言える。したがって、これは、シテイルに言い換えられるのであるが、スルを 使う場合は、シテイルと違って、その場面に新しく生じてきた動作を表わしていることが多い。 また、このスルは、基本的に、無限界動詞によって表される。ただし、知覚動作と同時的であ る場合は、限界動詞でもいい(例42,43)。知覚動作と同時的であるものは、会話文にも見られる だろう。 40)庭へ出ると、里子はuニエ』i二工亘さLを、じろっと、にらみすえて、身軽に垣根を越えて、 家の庭へ、もどって来た。(林芙美子・めし) 41)「ちょっとな、こないだおもしろいもの買ったんだ」と雄介が言う。 「はあ?」 に、上着のポケットから出した『身代わり雛」を見せた。(重松 U 情・ビタミンF) 42)試しに母さんの指輪をはめてみて、「ちょっときついから、ちょうどいいわ!」と喜んだ姉さんは、金庫を閾堕_堂j業をELj三ultlZヨミZijiE2、不思議そうに言った。(宮部みゆき・返事はい
らない) 43)家のなかに戻ると、母さんはトイレから出てきたところだった。 「ちょうどよかった。裕、たもとを持っててよ」 手をiiiL二母さんを見るともなく見ていると、左手の薬指に、あのダイヤの指輪をはめてい -21-ることに気がついた。(宮部みゆき・返事はいらない) 次の例も、動詞が無限界動詞であり、終止形のさしだす動作と同時的である継続的な動作を表 している。しかし、上にあげた例と違って、これらには、新しく生じてきた動作という特徴はな い。それが、なぜシテイルでなく、スルになっているのだろうか。 動作自体でなく、その仕方を主に表す場合、シテイルでなく、スルを使うことが多いようであ る。たとえば、「眠っている陽子」とは言えるが、「眠る陽子」とは言いにくい。しかし、「壁の ほうを向いて眠る陽子」とは言える(例44)。また、「歩いているお父さん」とは言えるが、「歩く お父さん」というのは、すこし変に感じられる。しかし、「楽しそうに歩くお父さん」なら、いい だろう(例45)。表現の重点が、継続性よりも、その動作の仕方・様態にあるとき、継続性を明 示せずに、簡潔にスルで表されるのだろう。情報の伝達の重点がないとき、無標形が使われると も言えるだろうか。
44)風呂からあがると、陽子はもうベッドに入っていた。壁のほうを向いて血亘」逼工の背中
を、孝夫はぼんやりと見三llQi菫。(重松清・ビタミンF) 45)お父さんは、一番いい背広を着こみ花束まで買った。呆れた私と花乃ちゃんは、楽しそ うに塗=とユニーニームの後ろをしぶしぶと。」L9jnjL≦。(山本文緒・チェリーブラッサム) 次の例も、上の例と同じく、同時的な動作のようであるが、より時間的な抽象化が進み、非時 間的な性格が強まっている。上の例44,45は、名詞のさしだすものと、連体形の動詞のさしだす 動作との関係が、主体と、その動作との関係であったが、以下のものは、動作と、それが向かう 客体(例46,47)や、あるいは、動作と、その道具・手段(例48,49)との関係である。前者の例 46,47は、動作の付随的な情報に重点があるようである。 46馴臺DJ崖五且‘亘、向田さんは美しかった、といえばすむ。(向田邦子全対談) 47)その時の三船さんの体調はすこぶる衰えていて、立宣横コミ話す言葉も私には聞きとれな い程だった。(士屋嘉男・クロサワさ-ん!) 48)顔だけあげて、僕を見亘貝は真剣だった。(宮部みゆき・返事はいらない) 49)メールチェックの途中でマウスを操lEコニ亘五王が止まる。(重松清・ビタミンF) 次のように、かざられ名詞のさしだすものの内容を規定する連体形は、現実の事態に関しては、 同時的であっても、非時間的な用法と言える。これは、会話文にも使われるものだろう。 50)言葉をさえぎって、ガラスの拠宣が響きわたった。(重松清・ビタミンF) 51)廊下を走亘星宣が聞こえた。(重松清・ビタミンF) スルは、テンスに関しても、アスペクトに関しても、無標の形式なので、意味が広く、もっと もあいまいである。みずからの意味を積極的に表示せず、他の言語的な要素との相互作用によっ て、その意味を決めるという点において、言語的な環境に対して受動的であると言える。その性 格は、以上のように連体形において、特に、はっきりと現れてくる。 -22-須田:連体形のテンス・アスペクトについて <おわりに〉 以上のように、連体形の動詞は、そのアスペクト・パーフェクト的な意味によって、絶対的な テンスと相対的なテンスというテンス的な意味の実現の仕方が異なってくる。また、小説の地の 文など、語りというテクストに主に用いられるものもある。それぞれのテンス・アスペクト的な 形を簡単に整理すると、以下のようになる。 相対的なテンス:シダ(パーフェクト)、シテイル 絶対的なテンス:シダ・スル(非パーフェクト)、シテイタ 語りの連体:シテイタ、シダ・スル(限界到達)、スル(非分割的な動作など) <注〉 1)スルとシダが、完了と未完了というアスペクトの対立として取り上げられることはある。 2)須田2003では、このアスペクト的な意味を「全体的な事実の意味」と呼んでいる。 3)スルは、終止形が未来テンスの場合、相対的なテンスとして解釈しにくい。
4)実例はみつからなかったが、たとえば、「行ったら、そこで食ニミエーヒミー皇△に閾LjLエヱムns」と:j三
匹。」など。5)ただし、E:JqgLj3tu5ミ警官が赴工uニヨンビニにrZlZljLsaZ二。」のように相対的な時間名詞が
あれば、それは可能かもしれない。 <参考文献〉 井島正博1990「アスペクトの表現機構」『日本語研究」第3輯(東洋大学) 須田義治2003『現代日本語のアスペクト論』(海山文化研究所) 高橋太郎1994『動詞の研究』(むぎ書房) 崔炳奎2004「日本語動詞の連体節の働きと具体的な使用について」04記念行事委員会編『21世 紀言語学研究』(白帝社) 丹羽哲也1996「ル形と夕形のアスペクトとテンス」『人文研究」第48巻(大阪府立大学文学部) 1997「連体節のテンスについて」「人文研究』第49巻(大阪府立大学文学部) -23-Yoshiharu SUDA
Abstract
This paper examines the aspectual and temporal meanings of the
predicate of the noun-modifying clause. It is considered that the temporal
meanings (absolute tense an relative tense) correspond to the aspectual and perfectual meanings.
Key words: noun-modifying clause, relative tense, absolute tense, aspect, narrative