博 士 ( 農 学 ) 土 方 野 分
学位論文題名
Roles of polyphosphate in phosphorus acquisition and translocation in arbuscular mycorrhizal symbiosis
(アーバスキュラー菌根共生におけるりン獲得および 輸送におけるポリリン酸の役割)
学 位論文内容の要旨
アーバスキ ュラー菌根菌(AM菌)は、陸 上植物の80%と共生関係を築き、土壌中から効率よくりン 酸を吸収して 宿主植物に供給することから、陸域生態系のりン循環において重要な役割を果たす微生物 であると考えられている。しかしながら、本菌は宿主植物の光合成産物を唯一の炭素源とする絶対共生 菌であるため、そのりン獲 得や輸送のメカニズムには不明な点が多い。これまでに、AM菌は菌糸内に りン酸の直鎖重合 体であるポリリン酸を蓄積することが知られており、この化合物がAM菌のりンの貯 蔵および輸送形態である可能性が示唆されているものの、ポリリン酸蓄積・輸送の生理メカニズムはよ くわかっていない。一方、培養困難なAM菌の 生理・生化学・分子生物学的研究を行う手段として、植 物を用いたコ ンパートメント培養法による菌糸の大量培養法が確立されている。本研究は、このコンパ ートメント培 養法を応用して、AM菌のりン獲得および輸送におけるポ リリン酸の役割船よび重要性を 明らかにすることを目的として行った。
1.リ ン獲得および輸送におけるポリリン酸の役割
これまで、AM菌の蓄積できるポリリン酸は生体リン全体の3―17%程度であると報告されており、ポ リリン酸以外のりン化合物質やオルトリン酸がりン蓄積や輸送に関与する可能性が考えられた。しかし 一方で、AM菌のポリリン酸蓄積速度は活性汚泥から単離 されたポリリン酸超集積細菌のそれに匹敵す ることも報告されており、AM菌のポリリン酸 蓄積能カは潜在的には極めて高いことが予想された。菌 糸のみが通過できる37 ymナイロンメッシュバッグの内側(根十菌糸コンパートメント)にAM菌Glomus sp. HR1を接種したミヤコグサ(Lotus japonicus)をりン酸制限下で栽培 後、収穫直前に1mMリン酸溶
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液をメッシュバッグ外側の菌糸コンパートメントに添加した。この後、根十菌糸および菌糸コンパート メントより経時的に根およぴ菌糸を回収し、全リン、オルトリン酸、ポリリン酸含量を測定した。菌糸 コンパートメントから回収した菌糸では、リン酸添加直後からポリリン酸は増加し、5時間後に初期値 の25倍に増加した後、減少に転じた。この時のポリリン酸の存在比は、最大で全生体リンの64%に達し た。ポリリン酸と全リンは同調的に増加・減少したのに対し、オルトリン酸濃度は低いレベルで一定に 保たれていた。メッシュバッグ内側(根十菌糸コンパートメント)から回収した根と菌糸のポリリン酸 含量は、菌糸コンパートメントにりン酸を添加してから5―6時間後に増加し始めた。以上の結果より、
AM菌は これま で考えら れてい た以上に多量のポリリン酸を蓄積する能カがあること、ポリリン酸は最 大のりン蓄積形態であると共に菌糸内のりンの長距離輸送を仲介することなどが示唆された。
2.ポリリン 酸蓄積 と同調的 なカチ オン吸収
ポリリ ン酸はり ン酸1残基あ たり1価の負電 荷をもっため、ポリリン酸の蓄積の際には、細胞内の電 気的中性を保っための機構が存在すると考えられた。これまで、AM菌の液胞内にはりンと共にいくっか の無 機カチ オンが共存していることがX線解析により示唆されていたことに加え、菌体内に多量に存在 する有機カチオンであるアルギニンがポリリン酸と共存していることが推定されていたものの、これら 無機およぴ有機カチオンとポリリン酸の量的関係にっいては分かっていなかった。同様のコンパートメ ント培養法によりGlomus sp. HR1を接種したミヤコグサを栽培し、リン酸溶液添加後に菌糸コンパート メントより回収した菌糸のポリリン酸、無機カチオンおよぴ遊離アミノ酸含量を測定した。リン酸添加
2時間目以降、菌糸内ポリリン酸増加に伴って有意に増加した無機カチオンはNa十,K゛,Ca2゛およびMg2゛ であった。それに対し、アルギニン含量はポリリン酸の蓄積時にも変化せず、ポリリン酸最大蓄積時の アルギニン/ポリリン酸のモル比は1/15程度であった。さらに、リン酸添加O―24時間後まで測定を続 けたところ、Na十,K二十,Ca゛およぴMg2゛の電荷の合計は、ポリリン酸の電荷とほば同調的に増加および減少 した。以上の結果より、ポリリン酸蓄積中にはNr,K十,Ca2゛,Mg2゛がほば同調的に取り込まれ、これらの 無 機 カ チ オ ン が 細 胞 内 の 電 荷 バ ラ ン ス の 維 持 に 貢 献 し て い る こ と が 示 唆 さ れ た 。 本 研究で は、ポリ リン酸 はAM菌のり ン獲得 およぴ輸送において中心的な役割を果たす最大のりン貯 蔵形態であること、ポリリン酸蓄積の際には電荷バランスを保っために無機カチオンが同調的に取り込 まれることなどを明らかにした。今後、AM菌から植物へのりン供給メカニズムの全体像を明らかにする
ためには、ポリリン酸合成/代謝や輸送、カチオン吸収などに関連した遺伝子群の単離とその制御メカ ニズムの解析が必要である。
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学位 論文審査の要旨
学位論文題名
Roles of polyphosphate in phosphorus acquisition and translocationlnarbuSCularmyCOrrhiZalSymbiOSiS
(アーバスキュラー菌根共生におけるりン獲得および
輸送におけるポリリン酸の役割)
本論文は英文63頁、図13、表2、引用文献73、緒言、2章、総括からなり、ほかに参考論文3 編が付されている。
アーバスキュラー菌根菌(AM菌)は、陸上植物の80%と共生関係を築き、土壌中から効率よく りン酸を吸収して宿主植物に供給することから、陸域生態系のりン循環において重要な役割を果た す微生物であると考えられている。しかしながら、本菌は宿主植物の光合成産物を唯一の炭素源と する絶対共生菌であるため、そのりン獲得や輸送のメカニズムには不明な点が多い。これまでに、
AM菌は菌糸内にりン酸の直鎖重合体であるポリリン酸を蓄積することが知られており、この化合 物がAM菌のりンの貯蔵および輸送形態である可能性が示唆されているものの、ポリリン酸蓄積・
輸送の生理メカニズムはよくわかっていなぃ。一方、培養困難なAM菌の生理・生化学・分子生物 学的研究を行う手段として、植物を用いたコンパートメント培養法による菌糸の大量培養法が確立 されている。本研究は、このコンパートメント培養法を応用して、AM菌のりン獲得および輸送に お け る ポ リ リ ン 酸 の 役 割 お よ ぴ 重 要 性 を 明 ら か に す る こ と を 目 的 と し て 行 っ た 。 1.リン獲得および輸送におけるポリリン酸の役割
これまで、AM菌の蓄積できるポリリン酸は生体リン全体の3―17%程度であると報告されてお り、ポリリン酸以外のりン化合物質やオルトリン酸がりン蓄積や輸送に関与する可能性が考えられ た。しかし一方で、AM菌のポリリン酸蓄積速度は活性汚泥から単離されたポリリン酸超集積細菌 ‑ 1270―
広 満
篤
辰
澤 崎
田
江 大
横
授 授
授
教
准 教
教
査 査
査
主 副
副
のそ れ に 匹敵 す る こと も 報告され ており 、AM菌のポ リリン 酸蓄積能 カは潜 在的には 極めて 高いこ とが予想 された。 菌糸の みが通過 できる37 ymナイ ロンメ ッシュバ ッグの 内側(根 十菌糸コ ンパー トメ ン ト )にAM菌Glomus sp. HR1を 接 種し た ミ ヤコ グサ(Lotus japonicus)を りン酸制 限下で栽 培後 、 収 穫直 前 に1 mMリン酸 溶液を メッシュ バッグ 外側の菌 糸コンパ ートメ ントに添 加した 。こ の後、根 十菌糸お よび菌 糸コンパ ートメ ントより 経時的 に根およ ぴ菌糸を回収し、全リン、オルト リン酸、 ポリリン 酸含量 を測定し た。菌 糸コンパ ートメ ントから 回収した菌糸では、リン酸添加直 後か ら ポ リリ ン 酸 は増 加 し 、5時 間 後に 初 期 値の25倍に増 加した後 、減少 に転じた 。この 時のポ リリン酸 の存在比 は、最 大で全生 体リン の64%に達 した。 ポリリン 酸と全リンは同調的に増加・減 少したの に対し、 オルト リン酸濃 度は低 いレベル で一定 に保たれ ていた。メッシュバッグ内側(根 十菌糸コ ンパート メント )から回 収した 根と菌糸 のポリ リン酸含 量は、菌糸コンパートメントにり ン酸 を 添 加し て か ら5−6時間 後 に 増加 し 始 めた 。 以 上 の結 果 よ り、AM菌は こ れまで 考えら れて いた以上 に多量の ポリリ ン酸を蓄 積する 能カがあ ること 、ポリリ ン酸は最大のりン蓄積形態である と共に菌糸内のりンの長距離輸送に関与することなどが示唆された。
2.ポリリン酸蓄積と同調的なカチオン吸収
ポ リ リン 酸 は りン 酸1残基あた り1価の負電 荷をも っため、 ポリリン 酸の蓄 積の際に は、細 胞内 の電 気 的 中性 を 保 った め の機構が 存在す ると考え られた 。これま で、AM菌 の液胞内 にはり ンと共 にいくっ かの無機 カチオ ンが共存 してい ることがX線解 析によ り示唆さ れてい たことに 加え、 菌体 内に 多 量 に存 在 す る有 機 カチオン である アルギニ ンがポ リリン酸 と共存 している ことが推 定され ていたも のの、こ れら無 機およぴ 有機カ チオンと ポリリ ン酸の量 的関係にっいては分かっていなか った。同 様のコン パート メント培 養法に よりGlomus sp. HR1を 接種したミヤコグサを栽培し、リン 酸溶液添 加後に菌 糸コン パートメ ントよ り回収し た菌糸 のポリリ ン酸、無機カチオンおよび遊離ア ミノ酸含 量を測定 した。 リン酸添 加2時間目以 降、菌糸 内ポリ リン酸増 加に伴 って有意 に増加 した 無機カチオンはNa+,K゛,Ca2゛およぴMg2゛であった。それに対し、アルギニン含量はポリリン酸の蓄 積時にも 変化せず 、ポリ リン酸最 大蓄積 時のアル ギニン /ポリリ ン酸のモ ル比は1/15程 度であっ た。さらに、リン酸添加O−24時間後まで測定を続けたところ、Na+,K゛,Ca2+およびMg2゛の電荷の 合計は、 ポリリン 酸の電 荷とほば 同調的 に増加お よび減 少した。 以上の結果より、ポリリン酸蓄積 中にはNa十,K゛,Ca2+およびMg2゛がほぼ同調的に取り込まれ、これらの無機カチオンが細胞内の電荷 バランスの維持に貢献していることが示唆された。
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本研究では、ポリリン酸がAM菌のりン獲得韜よび輸送において中心的な役割を果たす最大のり ン貯蔵形態であること、ポリリン酸蓄積の際には電荷バランスを保っために無機カチオンが同調的 に取り込まれることなどを明らかにした。
よって審査員一同は、土方野分が博士(農学)の学位を受けるのに十分な資格を有するものと認 めた。
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