博 士 ( 歯 学 ) 千 田 典 史
学位論文題名
Osteogenesis around dentalimplants combined with cultured rat bone marrow cells
(培養骨髄細胞複合型デンタルインプラント周囲での骨形成)
学位論文内容の要旨
【目的】
現在、インプラント治療は、欠損補綴のひとつの方法として広く普及しつっあり、多 くの優れた臨床成績も報告されている。インプラント治療の成功の鍵となるのが線維性 結合組織の介在なく骨とインプラント体が直接接する、いわゆるオッセオインテグレー ションの確立である。
これまで、インプラント体周囲の骨形成やオッセオインテグレーションの促進を目的 として、ハイドロキシアパタイトコーティングやサンドブラスト処理などによるインプ ラント体の表面処理や、BMP,FGFやPRPなどの成長因子の添加についての研究が行われ ている。
ー方、骨再生を目的とし、骨髄細胞をハイドロキシアパタイトやチタン上で培養、骨 芽細胞に分化誘導する研究もなされている。
高齢者や糖尿病などの全身疾患を有する患者、また放射線治療を受けている患者など は骨代謝活性が低下して韜り、オッセオインテグレーションの獲得が困難であることが、
実験的にも臨床的にも報告されている。このような骨代謝活性が低下している場合にお けるオッセオインテグレーションの促進を目的とし、骨髄細胞をデンタルインプラント に応用することを考案した。
本研究の目的は、骨髄細胞を組み込んだデンタルインプラントが、オッセオインテグ レ ー シ ョ ン お よ び 骨 形 成 に 及 ば す 影 響 を 明 ら か に す る こ と で あ る 。
【材料と方法】
1.ラット骨髄細胞のデンタルインプラント上での培養
骨 髄 細 胞 の 採 取 に は 生 後8週 齢 雄 性 フ イ ッ シ ャ ー 系 ラ ッ ト16匹 を 用 い た 。 Maniatopoulosの方法に準じて、大腿骨の両骨端を切除し、骨髄腔の一端から20ゲージ の注射針を 用いて、15%FBSと抗生剤を含むa―MEM培地で骨髄を10cmディッシュに押 し出した。採取した骨髄を、15%FBSと抗生剤を含むa一MEM培地で37℃、5%C02気相下 で10日問培養した。血球系の細胞を除去し、ディッシュに固着した細胞を骨髄細胞と して、以下の実験に供与した。
5X los個/mlにQ―MEM培地にサスペンジョンした骨髄細胞2mlを12穴ディッシュに入
れ、 デン タル イン プラ ント (TiUnite,直 径3.75mm,長さ8.5mm,Nobel Biocare)5本 を浸漬し、2時間静置した。これを、D(十)群とD(一冫群とニつの群に分けた。D(十)群は、
10‑8MのデキサメサゾンくDex)、50ルg/mlアスコルビン酸(Asc)、およびlOmMロ―グリセロ リン酸(ローGP)を添加した15%FBSと抗生剤を含むa−ぬM培地で、またD(一)群は15%FBS と抗生剤を含むQ−MEM培地で、それぞれ2週間培養した。
2.SEMによる観察
各群のインプラントを固定後,SEM観察を行った。
3.生化学的検索
各 群の イン プラ ント 上で 培養 した 細胞 につい て、DNA量、 アル カリ フオスファターゼ 活性(ALP),オステオポンチン(0P)量,オステオカルシン(0C)量をそれぞれ測定した。
4.動物埋入試験 1)皮下組織への埋入
実 験 動 物 と して 、生 後5週 齢雄 性フ イッ シャ ー系 ラッ ト5匹 を用 いて それ ぞれ ラッ ト の腹部皮下内に埋入した。コントロール群は、未処置のインプラント体とし、D(十)群は Dex,Asc,ロ−GPを添加し2週間培養したインプラントを、D(−)群は、Dex,Asc,ローGP を 添 加 せ ず2週 間培 養し たイ ンプ ラン トを それ ぞれ 埋入 した。4週 間後 に摘 出し 非脱 灰 研磨標本を作製し病理組織学的検索を行った。
2)大腿骨への結紮
実 験 動 物 は 、生 後20ー21週齢雄 性フ イッ シャ ー系 ラッ ト10匹を 用い た。 コン トロ ー ル群とD(十)群の2群に分け、ラット大腿骨にその長軸とインプラント体の長軸が平行に な る よ う に チ タ ン 製 のワ イ ヤ ー で20所 結 紮 し 、筋 船よ ぴ皮膚 を縫 合し た。 埋入8週 後 に、 イン プラ ント 体を 大腿 骨と とも に摘 出し、非脱灰標本を作製し病理組織学的検索を 行っ た。 また 、こ の標 本を 用い て、 骨と インプラント体の接触率およびスレッド内に占 める面積率について組織計量を行った。
【結果と考察】
骨 髄細 胞を デンタルインプラント上で培養した2週間後のSEM観察において、D(十)群 では スレ ッド の頂 上よ りも 底部 に多 くの 細胞が認められ、インプラント体の表面全体が 多角形の細胞と産生された基質で覆われていた。D(―)群では、平坦な形態の細胞が認め られ、インプラント体の表面構造の一部が露出しているのが観察された。DNA量は、D(十)
群とD(l冫群との聞に有意差は認められず、D(十)群とD(一冫群の細胞数には差がなぃこと が 示 さ れ た 。DNA量 あた りのALP活 性,oP量 船よ びOC量に は有 意差 が認 めら れ、 いず れ もD(十)群の値はD(→群に比較して高い値を示した。
腹 部皮 下内 にイ ンプ ラン トを 埋入 した 実験において、コントロール群では、インプラ ント 体表 面に 紡錘形の線維芽細胞を含む線維性結合組織が認められ、D(十)群では、イ ンプ ラン ト表 面に 骨組 織が 観察 され 、骨 細胞を多く含む線維骨がインプラント体のスレ ッド底部に認められた:D(ー)群では骨組織は認められず、スレッドの底部には多くの線 維芽 細胞 を含 む線 維性 結合 組織 が観 察さ れた。大腿骨にインプラントを結紮した実験で は、 コン トロ ール 群に おい ては 、イ ンプ ラントと既存の大腿骨の間には線維性結合組織 が観察され、インプラントと骨組織は接触していなかったが、D(十)群では、既存の大腿
骨とインプラントの間には新生骨が認められ、インプラントと骨組織は直接接していた。
インプラントのスレッド内には、コントロール群では、線維芽細胞や毛細血管に富む結 合組織が認められたが、D(十)群では、骨髄を含む新生骨がスレッド頂上部だけでなく、
底部にも観察された。またD(十)群では、いくっかのインプラント体で、大腿骨に面し ていない部分にも新生骨が認められた。
組織計量学的検索結果として、接触率、面積率ともにコントロール群とD(十)群との 間に有意差が認められ、D(十)群の方がコントロール群に比較して高い値を示した。
ALP活性,OP量,OC量のいずれもD(十)群の方がD(う群に比較して大きい値を示した こと、また、SEMによる観察で多角形の細胞が認められたこと、さらに軟組織内におい ても骨形成が認められたことから、メッシュ構造とは三次元的に異なる構造を持っデン タルインプラント体の表面においても、Dex,Asc,ロ‑GPの存在下で骨髄細胞が骨芽細胞 に分化することが示された。
また、SEM観察においてデンタルインプラント体の表面のスレッドの底部で細胞が多 く認められたこと、また軟組織内においても硬組織上でもスレッド底部で骨形成が観察 されたことから、凹んだ形体が、骨髄細胞の骨芽細胞への分化船よぴ骨形成に有利であ ることが示唆された。
さらに、大腿骨への結紮実験で、コントロール群ではほとんどインプラント周囲で骨 形成が認められなかったが、D(め群においては、インプラント周囲に骨が形成されてい たことから、骨形成に不利な条件であっても本方法が応用可能であることが示唆された。
以上のことから、骨髄細胞を分化させた骨芽細胞を複合したデンタルインプラントは、
オッセオインテグレーションとインプラント周囲に船ける骨形成を促進することが明 らかになった。
学 位 論 文 審 査 の 要 旨
学 位 論 文 題 名
Osteogenesis around dentalimplants combined with cultured rat bone marrow cells
( 培養 骨髄 細胞 複合 型デ ンタル インプラント周囲での骨形成)
審査は、主査、副査が一堂に会し、まず論文提出者に対して提出論文の内容の要旨を 説明させ、次いで論文の内容にっいて審査委員の口頭試問を行った。以下に提出論文の 要旨と審査の内容を述べる。
論文要旨
本研 究の 目的 は、 表面 で骨 髄細 胞を培 養し たデ ンタ ルイ ンプラントのオッセオイン テ グ レ ー シ ョ ン と 骨 形 成 に 及 ば す 影 響 を 明 ら か に す る こ と で あ る 。 8週 齢雄性 フィ ッシ ャー 系ラ ットの大腿骨より骨髄細胞を採取し、15%FBSおよび抗生 剤 を 含むa―MEMを 用い て37℃、5%C02の気 相下 で初 代培 養し た。10日 後、 ディ ッシ ュ に付着した細胞を回収し、デンタルインプラント(TiUnite、直径3.75mm、長さ8.5mm、 NobelBiocare) 10本 に 対 し2Xl06個 播 種 し た 。2時 間 静 置 後 、1本ず つ12穴デ ィッ シ ユ に移し、上記培地に10―8Mデキサメサゾン(Dex)、50ルg/mlアスコルビン酸(Asc)およ びlOmMロ―グリセロリン酸(ロ‑GP)を添加したD(十)群と添加しないD(ー)群に分け2週間 培 養し た。 培養 後、SEM観 察を 行い 、ア ルカ リフ オス ファ ターゼ活性(ALP)、オステオ ポンチン(OP)、オステオカルシン(OC)を測定した。また、in vivoにおける反応を検索す る ため に、 ラッ トを 用い て皮 下埋入実験およぴ大腿骨結紮実験を行った。5週齢雄性フ イッシャー系ラットの腹部皮下にD(十)群およびD(ー)群のインプラントを埋入し、コン ト ロー ル群 とし て細 胞を 培養 していないインプラントを用いた。4週後に摘出し、非脱 灰 標本 を作 製し 病理 組織 学的 検索 を行っ た。20―21週 齢雄 性フイッシャー系ラットの 大腿骨にD(十)群とコントロールのインプラントをワイヤーで結紮し、8週後に周囲組織 とともに摘出し、病理組織学的及び組織計量学的検索を行った。
D(十)群において、ALP、OPおよぴOCの値は高く、皮下組織内において骨組織形成が D(十)群にのみ認められたことから、これまで報告されてきたメッシュ構造とは異なる三 次 元的 に異 なる 構造 を持 っデ ンタルインプラントの表面においてDex、Asc、ロ‑GPの存 在 下で、骨髄細胞は骨芽細胞に分化することが示された。また、インプラントと大腿骨
郎 信 人 敦正 正 山藤 村 横 進 田 授授 授 教教 教 査査 査 主副 副
との接触率及びインプラント表面での骨形成量は、D(十)群がコントロールに比較し、有 意に高い値を示し、オッセオインテグレーションや骨形成に有効であることが示された.
本研 究の 結果から、骨髄細胞を分化させた骨芽細胞を複合したデンタルインプラント は 、オ ッセ オインテグレーションとインプラント周囲における骨形成を促進することが 明らかとなった。
審査の内容
1.イ ン プ ラ ン ト の 形 状 と 表 面 性 状 が 骨 形 成 に 与 え る 影 響 に つ い て 今 回 の 実験 で用 いた イン プラ ント 体は 、ス クリュ ータ イプ であ り、 その 表面 に は 陽極 酸化 処理 が施 され てい る。マクロ的にはスレッドの凹凸が、ミクロ的には 表 面に 数ミ クロ ンの 凹凸 があ り、サイトカインの保持や細胞の基質産生には有利 で あ り 、 細 胞 の 増 殖 や 骨 形 成 に 効 果 的 で あ る と 考 え ら れ る 。
2.大 腿 骨 に デ ン タ ル イ ン プ ラ ン ト を 結 紮 す る こ と の 意 義 に っ い て チ タ ン 上 で 細胞 を培 養す る実 験は 過去に 行わ れて いる が、 今回 の研 究で は臨 床 で 用い られ てい るデ ンタル イン プラ ント上で細胞を培養し、これを生体内に戻す こ とに 大き な意 義が ある。 実験 動物 としてイヌやサルを用いてその歯槽骨内にデ ン タ ル イ ン プラ ント を埋 入す る実 験を行 うべ きで あっ たが 、費 用や 操作 など の 様 々な 問題 を考 慮し 、ラッ トを 用い た。しかしながらラットの骨組織内にデンタ ル イン プラ ント を埋 入する こと は不 可能であるため、その大腿骨に結紮すること で デン タル イン プラ ント周 囲の 骨の 反応を観察した。本方法は、この研究のため に 独自 に考 案し たも のであ る。
3. D( . ) 群 の イ ン プ ラ ン ト を 大 腿 骨 に 結 紮 し た 場 合 に っ い て 今 回の 論文では示していないが、予備実験においてD(‐)群のインプラントを大 腿 骨に 結紮 する 実験 を行 った が同 条件 の8週 間で は骨 形成 は認 められなかった。
長 期間 の埋 入に より 母床 であ る大 腿骨からの骨伝導によって、骨が形成される可 能 性も 考え られ るが 、皮 下埋 入実 験の結果から、細胞が骨芽細胞に分化している と は 考 え に く い た め 、 骨 形 成 は 起 こ り に く い と 考 え ら れ る 。
4.イ ンプ ラン ト上 での 細胞 培養 期間 につ いて
今回 の実 験で は培 養期 間を2週間 とし たが 、こ れは チタ ンメ ッシ ュを用いた実験 の培 養期 間が2週間 であ った のを 参考 とし た。 今後 、培 養期 間を1週間、4週間な ど に 変 化 さ せ た 実 験 を 行 い 、 最 も 有 効 な 期 間 を 決 定 す る 必 要 が あ る 。
5.臨床応用への可能性について
本 研究 では 、体 外に 取り 出し 培養 した細 胞を、もう一度体内ヘ戻す方法を用いて おり,培養時の細胞へのウィルス等の感染や使用する血清の問題など解決しなけれ ば な ら な い 問 題 が あ り 、 臨 床 応 用 に は さ ら なる 基 礎 研 究 が 必 要 と 思 わ れ る。
本研究は,デンタルインプラント表面で骨髄細胞を培養し骨芽細胞に分化させること により、埋入後のオッセオインテグレーションを促進させることを明らかにした。これ は、高齢者や有病者などの骨形成活性が低下している顎骨に対するデンタルインプラン トの適応拡大の可能性を示唆している。今後さらなる研究を進めることで臨床に反映し うると考えられ、将来性の点においても高く評価されるものであった。よって学位申請 者は博士(歯学)の学位授与にふさわしいものと認めた.