博 士 (地 球 環 境科 学)佐 藤昌泰
学 位 論 文 題 名
古海洋復元プロキシーとなる 堆積物中金属成分に関する研究
学位論文内容の要旨
本 研究 では 、古 海洋 復元 プロ キ シー と呼ばれるもののひとつである海底堆積 物中金 属成 分を 、オ ホー ツク 海、 およ び 日本 近海における堆積物について測定した。 過去、
環境 がど のよ うな 状況 にあ った か を示 すものを「ブロキシー」と呼んでいる。 現在ま でに 数多 くの プロ キシ ーが 報告 さ れて おり、そのーっに、堆積物に残っている 有孔虫 と呼 ぱれ る生 物殻 の炭 酸カ ルシ ウ ム中 酸素同位対比から、当時の海水温度を復 元した とい うも のが ある 。そ の他 のプ ロ キシ ーは、生物量の指標として用いられる炭 酸カル シウ ムや 有機 炭素、栄養塩の指標として用いられる カドミウム(Boyle,1981) 、水温 の指 標と して 用い られ るス トロ ン チウ ム/カルシウム比、珪藻・円石藻の指標 として 用い られ る生 物起 源シ リカ (生 物 起源 オバール)など、さまざまなプロキシー が提案 されている。
生 物生 産に 関す るプ ロキ シー は 、関 心も高く研究例が多いのだが、それは主 に低緯 度海 域で の報 告が 多い 。炭 酸塩 は 、高 緯度の海域では、生物生産が活発なため 、有機 物分 解に 伴い 炭酸 塩が 溶解 し、 残 りに くくなる。しがって、堆積物に残りやす いプロ キシ ーを 探さ ねば なら ない 。そ こ で、 近年、生物生産のプロキシーとしては、 生物起 源オ バー ルか ら得 られ る情 報を 重 視し ている。しかし、あくまでもケイ質の生 物であ るか ら、 石灰 質生 物の 生産 の情 報 はオ バールからは得られない。石灰質生物の 情報を 残す可能性のあるプロキシーの存在が望まれ るところである。
本研究では海水起源のバリウム(Baex)濃度 を求め、そのオバール濃度と比較した。そ の結 果、2つの 分布 はと もに 、大 まか には 温暖 期に 濃度 が高 く 、寒冷期に濃度 が低い とい う傾 向が 見られたが、暦年代で最終終末期に相 当する(10―17 kyr) 60―170 cmに おいて、Ba。エがオバールよりも先に増加し 始めていた。炭酸カルシウムが、同じよう にオ バー ルよ りも 先に 増加 する こ とか ら、Baexは、ケイ質の生物に加え、石灰 質の生 物と も関 係が ある 可能 性が 示さ れ た。 また、12万年程度前の最終間氷期では、 オバー ルの濃度が高いが、Ba。ーは増えなかった。 このことは、もし活発な生物生産で強い還 元環境が出現し、Ba。エが硫化物に還元され て溶け出したとすれば、説明できる。Baex とオ バー ルと の相関係数は非常に小さかったhs(r=0.34)、二つの期間を除き、 深さに
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ともに増加する関数で割ると、係数は大きくなった(r=0.90)。これは、氷期に堆積環 境 が 徐 々に 変 化 した ため であろう 。氷期 において 、チタ ンの堆積 速度は 間氷期の 約2 倍 であった が、堆積 物全体 の堆積速 度が間 氷期にあ まりに 大きかっ たため、 オバール に ついての 氷期と間 氷期の 間の違い は、堆 積速度の 方が堆 積物中濃 度よりも 大きかっ た。
次 に、酸化 還元環 境の変化 に敏感で あると いわれる カドミ ウムを用 いて、 古環境の 復 元を試み た。カド ミウム は、遷移 元素の ーつで、 地球化 学的には 、海水中 のりン酸 濃 度と相関 が高いこ とが知 られており(Boyle et al.,1988)、これをもとに過去の栄養 塩 環境の復 元が試み られて いる。し かし、 一方でカ ドミウ ムは、酸 化還元環 境に敏感 で あり、還 元的な環 境にな ると硫化 物を作 って沈殿 すると 言われて いる(Kersten and Forsttner,1987)。しかも、酸化還元電位が低いため、強い還元環境でないと起こらない。
van Geen餅aL (1995)は 、東太平 洋カリ フオルニ ア沖において、採取深度の異なる様々 な 表層堆積 物を採取 し、海 水起源の カドミ ウムを抽 出し、 その濃度 を採取深 度に対し て 分布を示 して、付 近の地 点で採取 された 海水柱の 溶存酸 素と比ぺ た。その 結果、溶 存 酸 素 鉛直 分 布 とカ ドミ ウムの鉛 直分布 が鏡像関 係にな り、水深1000mで 、溶存酸 素 は 極小にな り、カド ミウム は最大に なった 。このこ とは、 堆積物直 上の海水 中溶存酸 素 濃度が、 カドミウ ムの堆 積に影響 を及ぼ す可能性 がある ことを示 している 。これは カ ドミウム から当時 の栄養 塩環境を 復元す る上で非 常に重 要な情報 を示して いるが、
こ のような 研究例は 少なく 、これが 東太平 洋のある 一海域 の結果で あるため 、これが 海 洋のどの 地点にお いても 適用でき るかど うかが明 らかで なく、し かも、こ の研究で は 、ビスト ンコアラ ーなど 、堆積物 表層を 乱す可能 性のあ る採取方 法を取っ ているた め 、信頼性 にかける 点があ る。その ため、 本章では 、それ らの不確 定要素を 取り除く べ く、van Geen et aL (1995)の海 域の反対 側であ る西太平洋域において研究を行い、
そ の際試料 は、堆積 物表層 を乱さな い方法 で採取さ れたも のを用い て彼らと 同様の検 討 を行い、 この金属 元素の 有用性を 示すこ とを目的 とした 。本研究 では、こ れを西部 北 太平洋に 応用した 。その 結果、過 去の報 告と同じ ように 、溶存酸 素濃度の 極小層に あ たる深度 で採取さ れた堆 積物中の カドミ ウム濃度 が極大 を取った 。これに より、東 太 平洋にお ける結果 が、そ の海域の みでな く、広く 応用で きる可能 性がある ことが示 された。
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学位論文審査の要旨 主 査 教 授 角皆静男 副査 教授 乗木新一郎 副 査 教 授 大場忠道 副査 助教授 田中教幸 副査 助教授 渡辺 豊
学 位 論 文 題 名
古海洋復元プロキシーとなる
`堆積物中金属成分に関する研究
本 研究では 、古海 洋復元プ ロキシ ーと呼ぱ れるも ののひと つである 海底堆 積物中金 属 成分を、 オホー ツク海、 および 日本近海 における 堆積物 について 測定し た。過去、
環 境がどの ような 状況にあ ったか を示すも のを「プ ロキシ ー」と呼 んでい る。生物量 の 指標とし て用い られる炭 酸カル シウムや 有機炭素 、栄養 塩の指標 として 用いられる カ ドミウム 、珪素 殻を持つ 生物量 の指標と して用い られる 生物起源 シリカ (生物起源 オ バール) など、 さまざま なブロ キシーが 提案され ている 。
生 物生産に 関する プロキシ ーは、 関心も高 く研究 例が多い のだが、 それは 主に低緯 度 海域での 報告が 多い。炭 酸塩は 、高緯度 の海域で は、生 物生産が 活発な ため、有機 物 分解に伴 い炭酸 塩が溶解 し、残 りにくく なる。し がって 、堆積物 に残り やすいプロ キ シーを探 さねば ならない 。そこ で、近年 、生物生 産のプ ロキシー として は、生物起 源 オバール から得 られる情 報を重 視してい る。しか し、あ くまでも ケイ質 の生物であ る から、石 灰質生 物の生産 の情報 はオバー ルからは 得られ ない。石 灰質生 物の情報を 残 す 可 能 性 の あ る プ ロ キ シ ー の 存 在 が 望 ま れ る と こ ろ で あ る 。 本 論文では 海水起 源のバリウム(Baex)濃度を求め、そのオバール濃度と比較した。そ の 結 果 、2つ の 分布 は ともに 、大まか には温暖 期に濃 度が高く 、寒冷 期に濃度 が低い と いう傾向 が見ら れたが、 暦年代 で最終終 末期に相 当する(10ー17 kyr) 60―170 cmに お いて、Ba。 エがオ バールよりも先に増加し始めていた。炭酸カルシウムが、同じよう に オバール よりも 先に増加 するこ とから、Baeエは 、ケイ質の生物に加え、石灰質の生 物 とも関係 がある 可能性が 示され た。また 、12万年 程度前の 最終間氷 期では 、オバー ル の濃度が 高いが 、Baexは増え なかっ た。この ことは 、もし活 発な生 物生産で強い還 元 環境が出 現し、Ba。ーが硫化物に還元されて溶け出したとすれば、説明できる。Baex −1529―
とオバールとの相関係数は非常に小さかったが(r=0.34)、二つの期間を除き、深さと ともに増加する関数で割ると、係数は大きくなった(r=0.90)。これは、氷期に堆積環 境が 徐々 に変 化し たた めで あろ う。 氷期 にお いて 、 チタ ンの 堆積 速度は間氷期の約2 倍で あっ たが 、堆 積物 全体 の堆 積速 度が 間氷期にあまりに大きかったため 、オバール につ いて の氷 期と 間氷 期の 間の 違い は、 堆積速度の方が堆積物中濃度より も大きかっ た。
次 に、 酸化 還元 環境 の変 化に 敏感 であ るといわれるカドミウムを用いて 、古環境の 復元 を試 みた 。カ ドミ ウム は、 遷移 元素 のーつで、地球化学的には、海水 中のりン酸 濃度 と相 関が 高い こと が知 られ てお り(Boyle餅aL,1988)、 これ をもとに 過去の栄養 塩環 境の 復元 が試 みら れて いる 。し かし 、一方でカドミウムは、酸化還元 環境に敏感 であ り、 還元 的な 環境 にな ると 硫化 物を 作って沈殿すると言われている(Kersten and Forsttner,1987)。van Geen et al (1995)は、束太平洋カリフオルニア沖において、採取 深度 の異 なる 様々 な表 層堆 積物 を採 取し 、海水起源カドミウムの濃度を採 取深度に対 して 分布 を示 し、 付近 の地 点で 採取 され た海水柱の溶存酸素と比較した。 その結果、
溶存 酸素 鉛直 分布 とカ ドミ ウム の鉛 直分 布が鏡像関係になり、溶存酸素が 極小になっ た水 深約1000mで カド ミ ウム 濃度 は最 大と なっ た。 この こと は、 堆積物直 上の海水中 溶存 酸素 濃度 が、 カド ミウ ムの 堆積 に影 響を及ぼす可能性があることを示 している。
にも かか わら ずこ のよ うな 研究 例は 少な く、これが東太平洋のある一海域 の結果であ るた め、 これ が海 洋の どの 海域 にお いて も適用できるかどうかが明らかで はない。そ のた め、 本研 究では、van Geen et aL (1995)の海域の反対側である西太平 洋域におい て研 究を 行い 、彼 らと 同様 の検 討を 行っ てこの金属元素の有用性を示すこ とをめざし た。 その 結果 、過 去の 報告 と同 じよ うに 、溶存酸素濃度の極小層に相当す る深度で採 取さ れた 堆積 物中 のカ ドミ ウム 濃度 が極 大を取った。これにより、溶存酸 素極小層と 表層 堆積 物中 カド ミウ ム濃 度が 太平 洋全 体に影響する可能性があることが 示された。
審査員一同は、以上の研究結果を高く評価し、また 研究者として研鑚を重ねており、
その研究に対する態度も誠実かっ熱心であること、取 得単位を満たしたことをあわせ、
申請者が博士(地球環境科学)の学位を受けるに十分 な資格を有するものと判断した。
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