社
会
系
教
科
教
育
学
会
『社
会
系
教
科
教
育
学
研
究
』
第19
号 2007
(pp.
9-18)
開かれた憲法学習の理論と方法
−ハー
トの法認識論にもとづく社会科授業開発
−
A Study on the Theory and Method of Liberal Approach in Constitutional Learning:
The Development of a Social Studies Course on the Basis of the Jurisprudence by H.L.A.Haxt
I
問題の所在一閉
ざされた憲法学習一
本稿の
目的は
,中学校社会科公民的分野におけ
る憲法学習
(以下
,社会科憲法学習と表記する)
を子どもに
よる多様な法解釈や社会認識を保障
し
だ開かれた憲法学習”とす
るための理論と方法
(具体
的な授
業プラン)を提示することにある
。
社会科憲法学習は
,義務教育の最終段階に実施
され
,子
どもたちを主権者である市民と
して育成
するために重要な役割
を担
っている
。しか
し,現
行の社会科憲法学習の代表的な授業プラン1
)
を
参照す
ると
,以下の
ような論理か
ら
“閉ざされた
憲法学習”が行われ
ていることが分かる。
・価値観の注入主義
憲法改定に関する議論が巻
き起
こるなか
,教師
の憲法に対する価値観
(あるべき法
)を無批判に
子どもに押
し付ける授業が
多くなっている几そ
の結果
,子
どもか
ら現行の憲法
(ある法)がいか
なる規範や価値観
をなぜ選択
しているのか
を冷静
に分析する機会を奪っている3
)
。
・固定的な憲法認識
憲法は固定的で変化
していないという論理か
ら
授
業が構成され
ている
。そのために条文や原則の
暗記学習になっている几子どもは
,判例によっ
て憲法が解釈
され
,社会状況に応
じて動的に運用
され
てきたことを研究
しない
。その結果,憲法
と
社会
との関わ
りを認識することを閉
ざしている。
・憲法と道徳の
一元論
憲法は
,子どもたちの道徳規範となるべきであ
るとの論理から授
業が構成され
ている
。そのため
に
,憲法学習が道徳教育になっている‰特に基
本的人権や
国民の義務に関す
る学習は
,条文を子
ども
自身が修得すべき徳
目の
よ
うに教授
して
いる。
中
原
朋
生
(川崎
医療
短期
大
学)
このような状況に対
して先行研究6
)
では
,①ア
メ
リカ合衆国における憲法学習論を分析
しわが国
の社会科憲法学習改善の方向性
を示す
,ある
いは
②
汎用
的な法教育の授業プラン
(授業の
一部に憲
法学習を含むもの
)を開発す
る
,という二つの取
り組みがなされ
てきた
。しか
し前者については
,
理論研究
を踏ま
え具体的な授業
プランを提示する
までに到っていない
。また後者には
,憲法の独
自
性を踏まえだ憲法学習と
しての授
業プラン”を
提示
していない問題が
ある。
そこで本稿では,
H.L.A.
ハ
ー
トの法認識論7
)
に
もとづく
,社会科憲法学習の授業
プランを提示
し
ていく
。ハー
トの法認識論を授
業開発の
論拠にす
る理
由は
,①す
でにアメ
リカ合衆
国に
おいて
,ハー
トら法実証
主義の影響のもとで社会科憲法学習の
改革が進行
し
,開かれた憲法学習の具体的な授業
プラン8
)
が提示され
ていること
,②ハー
トの法認
識論は
,道徳
と法の
区別に重点を置
いてお
り,そ
の理論を応用することで
,道徳教育と異なった社
会認識教育と
しての憲法学習の論理が
明らかにな
る
と考えるか
らである
。
H
開かれ
た憲法学習の理論
−1
次ルール
と
2次ルールの結
合
としての法
−
1
ハー
トの法認識論
では
,憲法学習の拠
りどころとなるハー
トの法
認識論は
,いかなるものであろうか
。ハー
トは道
徳や規範9
)
と異なる
“法
”を認識する方法
として
,
冂次ル
ール
と2次ルールの結合としての法」と
いう実証
的な法
認識論
を提
示
して
いる
。図
1にハー
トの法認識論
をモデル
化
したもの
を示した
。
①
(規範)
1次ル
ール
・人に
責務
を踝す規範
・見解の
対立も存在
・自生的で不確
定
③
結
合
(契機
となる
事柄)
②
2次ル
ール
(認定ルール)
・承認のルール
・裁判のルール
・変更のルール
④法
的ル
ー
ル
の
成
立
(法)
・曖
昧
な部
分
も
存
在
・多様
な解
釈
が
可
能
・開かれ
た構
造
図
1
1次
ルー
ル
と
2次
ルー
ル
の
結
合
と
して
の法
(筆
者作
成)
ハ
ー
トによると,法はまず①何
らかの社会状況
を背景に匚
∼は
∼をすべきではない」という人に
責務
を課す
1次ル
ール
(規範)と
して自生的に
形
成
されは
じめる
。
しか
し,
1次ルールは言葉の意
味が曖
昧である場合や
,従
う人と従わ
ない人が
い
るな
ど不確定的なものである
。そこで,②匚
この
社会では
この規範が法である
」と認定するための
2次ル
ール
(認定ルール
)が必要となる
。例
えば,
何かその集団の法的ル
ールであるのか
を確認する
厂
承認のル
ー
ル」
,誰が
どのよ
うに
して裁判を行
う
のかに関する匚
裁判のル
ール
」
,誰が
いかなる権
限によってル
ール
を変えるのかに関する匚
変更の
ル
ール」
,などの
2次ルールが必要となる。
2次
ル
ールは何らかの権威や権力を背景に
,
1次ルー
ルの不確定的で曖昧な性格を補
う
。そ
して,③
1
次ル
ール
(規範)が
2次ルー
ル
(認定ルール
)に
よって承認
され
ること
(1次ル
ール
と2次ルー
ル
の結合)によ
り法は成立す
る
。しか
し,④成立
し
た法は
,社会的な論争
をすべて解決できる絶対的
なル
ール
というわ
けではなく,規定が曖
昧である
場合やその規
定に反対す
る人々も存在するなど
,
相対
的なもの
である
。ハー
トはそれ
ら法の曖昧
さ,
相対吐
を匚
開かれた法の構造
」とよび,裁判
官が
2次ル
ール
(裁判のルール
)に従い具体
的な裁判
のなか
で法を解釈
しその曖昧さを補
うという
。つ
ま
り法が成立すると法解釈という新たな
1次ル
ー
ルが
生まれ
,再び①∼④の
プロセス
を繰
り返す
こ
とで新
しい判例
を形成
していくわ
けである。
-2
ハー
トの法認識論の授
業構成への応用
ハ
ー
トの法認識論で最も特徴的なのは,②
2次
ル
ー
ル
(承認のルー
ル
・裁判の
ルー
ル
・変更のルー
ル)という
,
“法”ど 規範”を区別する基準
を
導入
している点てある
。つま
り2次ルール
を通過
したものぱ 法”で
あるが
,通過
していないもの
は単に
“規範”にとどまるわ
けである
。
この
ようなハ
ー
トの法認識
論,特に
2次ルール
(承認のル
ール
・裁判のルール
・変更のルール)
に注
目すると
,理論的に三つの授業モデルが想定
できる
。第凵
こ
,
「承認のルー
ル
」を応
用
した匚
憲
法成立研究モデル
」
。第
2に,
「裁判のルール
」を
応用
した
「判例研
究モ
デル
」
。第
3に
,
「変更のルー
ル
」を応用
した
「憲法改定研究モデル
」である。
本稿では
,現行の社会科憲法学習を改善
してくう
えで重要で
あると考える
匚
憲法成立研究モデル
」
と
「 ̄
判例研究モデル
」にも
とづく授業
プランにつ
いて考察
して
いく
。なお,
「憲法改定研究モデル
」
については
,日本国憲法が
1度も改定された
こと
が
・憲法成立研究モデル
ないことも
あ
り別の機会に論
じる
こととす
る
。
本モデル
では
,上述
した①
∼④の
4段階にも
と
づいて憲法の成立過程
を実証的に研究するように
授
業を組織
化する
。つま
り,①
ある社会状況が政
府に責務
を課す
1次ル
ール
(規範)を生み
,②
あ
る力を背景に
した2次ル
ール
(承認のルール)に
もとづいて
,③
それが憲法と
して承認O次ルー
ル
と
2次ル
ールが結合)され
,④
憲法が成立
した
ことを探求する授
業構成
とす
る
。そうすれば,子
どもは
1次ル
ー
ル
(規範)が
2次ルー
ル
(承
認ルー
ル
)を経て憲法
上の価値観と
して社会的に選択さ
れた
・判例研究モデル
ことを実証的に研究できるわ
けである
。
本モデルでは授業を
,再び図
1の
4段階にも
と
づいて判例の
形成過程
を動的に研究す
るよう組織
化する
。つま
り,①
1次ルール
(憲法解釈)を,
②裁判
官が
2次ル
ール
(司法審査
)にも
とづいて,
③具体的な裁判の
なかで裁定
(1次ル
ール
と2次
ル
ール
を結合
)し,④
新
しい法
的ルール
(判例)
を形成
している
ことを探
求する
。そうすれ
ば,子
どもたちは
る匚
開かれ
,憲法
た構造
を社会のなかで動的に解釈
」をも
っもの
と捉え,
1次ルー
され
10−
ル
(憲法解釈)が
2次ル
ール
(司法審査)を経て
法的ルール
(判例
)と
して形成
され
ることを動的
に研究できる。
この
二つの授
業モデル
は
2次ル
ー
ル
(認
定ルー
ル
)
を可視
化
し
,批判
的に吟味す
る
とこ
ろに特
徴か
おる
。
この
ように授
業
を構成すれ
ば
,規範
を規
範の
まま子
どもに注入
し教
化となって
いぐ 閉
ざされ
た憲法学
習
”を回避
し
,規範が
2次ルー
ル
(認
定ルール
)を
通過
して憲法
上の価
値観
と
して社会
的に選
択
され
た
ことを探
法学
習”
を可能
求す
る社会
とす
るわ
認識教育
けで
ある
と
しての
。
“開かれ
た憲
Ⅲ
開かれた憲法学習の方法
1
内容選択基準
一日本国憲法の最大の特徴
を踏ま
える一
上述
したハ
ー
トの所論は法認識の
“形式”に焦
点を合わせたもの
であ
り
,わが国の憲法学習に実
際に応用す
るには
,日本
国憲法の
特徴
を踏ま
えた
“内容”の選択が必要となる
。
従来の
憲法学習は
,平和主義
,基本的人権の尊
重
,国
民主権
を憲法の
三原則と
して固定的に捉え,
それに関す
る憲法の条文
(またはそれ
を言語的に
や
さしくしたもの
)を子
どもたちに暗記させるよ
うに学習内容
を選択
していた
。
しか
し,憲法の三
原則といわれるものは明治憲法
と比較
した
日本国
憲法の特色にす
ぎない
。む
しろ,その最大の特徴
は
,
「個人の尊厳を基本価値と
し,人権尊重
・国
民主権
・権力分立
・法の支配という立憲主義憲法
の基本原理すべてにコミッ
トして構成されてい
るlO
)
」点にあるといわれ
る。つま
り,日本国憲法
は基本
的人権
(個
人の尊厳)を亘亟
とする価値体
系11
)
であり
,基本
的人権
を保障するために権
力分
立や法の支配といった統治機構
を整備
しているわ
けである
。したが
って,子
どもたちの憲法学習も,
まず基本的人権の
学習
を頂
点と
して
,学習内容
を
選択
していく必要が
ある。
そこで筆者は
,
“基本的人権”の起源や本質を
子どもたちが十分に探求できることを内容選択の
基準に
,厂
憲法成立研究モデル
」か
ら小単元
「基
本
的人権尊重の起源
一
日本国憲法
を生んだ
9日間」
を
新
しい人権の爆発」を開発
,匚
判例研究モデル」から小単元
した
。二つの社会科憲
「どうする
!
法学習の授
業プランは
,憲法が保障する基本的人
権の起源
と現在を探求する
一連の
ものである
。
2
憲法
成立研究モデル
ー
小単元
1
「基本的人権
尊重の起源
一
日本国憲法
を生んだ9
日間」
では
,憲法成立研究モデルの小単
元の展開はど
の
ようになるだろうか
。図
2にハー
トの法認識を
応用
し
,小単元厂
基本的人権尊重の起源一
日本国
憲法
を生んだ9日間
」
「以下,小単元匚
起源
」と
表記する)で形成
をめ
ざす法認識のモデル
を示
し
た
。また,表口こ
教授学習過程を示
した。
(1)
“誰”が
“どの
ような議論”を展開し憲法
が成立
したのか
,その起源を探求す
る授業
従
来
,
日本国憲法の
成立に関する授
業は
,成立過
程のアウ
トライ
ンを網羅的羅列的に教授
してきた
。
例
えば
,日本政府の
松本試案は明治
憲法
と変わ
りな
く
,マッカーサー
は
G
H
Q
民政局に憲法草案を書か
せて
,その
案を
日本
政府案
と
して発
表
し,帝国議会
で審議
,可決
した
とい
うよ
うに審議の
“結果報告”
を子
ども
に
しているだけの授
業となっている
。本授
業では
,従来の授
業の問題点を克服
し,具体
的に
“誰”が
かその起源
“どの
を探
求す
よ
うな議論
る授業
を開発
”を行
した
い憲法
。
が成立
した
01次ルールの
背景
となる社会状況
・明
治憲法
下
では
,
法
律の
留保
に
よ
り基
本
的人権
が侵
害
され
て
いた
。
①
1次
ル
ー
ル
(規
範
)
日本
政
府は
国
民の
基本
的人権
を尊
重す
(ポ
べ
し
。
ッダム
宣
言
第10
項
)
③
結
合
Oghq民政局による草案
作成における議論
○第90
回帝国議会における
議論
(わ
後の国会)
が国初の完全普通選挙
②2
次
ル
ー
ル
(認
定
ル
ー
ル
)
“民
を改
主的
正
”す
な
る
手続
。
ぎで
“明
治
憲法
明
治
憲
法
第73
条
・明
治憲
法
を改
正
す
る
場
合に
は
,
天
皇の
発
議
(勅
令
)
に
よっ
て
議
案
を
帝国
議会
に
提
出
し,両
議
院
各
々総
員の
3分
の
2以
上の
出
席
で
,出
席
議
員の
3分の
2以上
が
賛
成
す
る
と
成
立す
る
。
↑
戦
勝
国の
権
力
・民
主
主義
の
権
威
④
法
的ル
ー
ル
の
成
立
(法)
日本
国
憲
法
第13
条
・すべて
国
民は
,個人
と
して尊重
され
る
。
生命,自由及び幸福
追求に対する国
民の
権
利につ
いては,公
共の福
祉に反
しな
い
限
り,立法
その他の
国政の上
で,最大の
尊
(基
重
を
本
必要
的
人
とす
権
総
論)
る
。
↓
多様
開かれ
な
解
釈
た
が
構
可
造
能
図
2
小
単
元
1
「日本
国憲法
を生ん
だ
9日間
」で
形成
され
る法
認
識
(筆
者作
成
)
表 1 小 単 元 1 「 日 本 国 憲 法 を 生 ん だ 9日 間 − “基 本 的 人 権 の尊 重 ” の 起 源 −」 の授 業 構 成
過程
学 習 テ ー マ と 主 な 発 問 教 授 学 習 活 動 ・ 資 料子 ど もか ら引 き 出 し たい 知 識
導 入 メ イン・ ク エスション の設 定 日本 国 憲法 に お け る 基 本 的 人 権 ○ 憲 法 は 基 本 的 人 権 を 尊 重 し て い ま すか ? ○ (MQ ) な ぜ, 日 本 国 憲 法 は, “基 本 的 人 権 ” を 尊 重 し て い る の だろ う か ? T: 発 問 す る P 二答 え る (資 料 ①) T: 発 問 す る P: 仮 説 を 立 て る ○ 憲 法 の 第 3 章 ( 国 民 の 権 利 及 び 義 務 ) は,31 の 条 文 か ら 構 成 さ れ, 他 の 章 に 比 べ る と 条 文 の 数 も多 いo 憲 法 全 体 が103 の 条 文 か ら 構 成 さ れ て い る こ と か ら みて も, 基 本 的 人 権 を 尊重 し て い る こ と が 分 か る。 ○ ( 予 測 さ れ る仮 説 ) ・ 国 民 が 幸 せ に な れ る よ う に, た く さ ん の 人 権 を 書 い た ので は ? ・ 憲 法 が 成 立 し た と き に 保 障 さ れ て い た 人 権 を 並 べ た ので は ? ・ 外 国 の憲 法 を 真 似 た ので は ? 展 開1 1次 ル ール と そ れ を 生 ん だ 社 会 状 況 の 分 析 ( 図 2 ①) 日本 国 憲 法 成 立以 前 の 社 会 状 況 ○ 日 本 国 憲 法 が 成 立 す る以 前 の 基 本 的 人 権 を め ぐ る 日 本 の 社 会 状 況 は ど のよ う な も の で し た か ? ○ 日 本 政 府 が1945 年8 月 に受 諾 し た ポ ツ ダ ム宣 言 に は , 基 本 的 人 権 に つ い て ど の よ う な 主 張 が な さ れ て い ま す か ? T: 発 問 す る P: 教 科書 を 参 照 す る (資 料 ②) T: 発 問 す る P: 答 え る ( 資 料 ③) ○ 明 治 憲 法 下 に お い て も, 臣 民 の 権 利 と し て , い くつ か の 自 由 権 は 認 め ら れ て い た。 し か し, 1931 年 か ら は じ ま る 日 中 戦 争 以 降 , 軍 国 主 義 的 傾 向 が 強 ま り , 法 律 の 留 保 に よ り 個 人 の 権 利 は 著 し く制 限 さ れ た。 ま た, 家 制 度 や 制 限 選 挙 な ど 「 不 平 等 な 制 度 」 が 存 在 し た。 特 に女 性 は 民 事 的 な 権 利 や 参 政 権 が なか っ た。 ○ ポ ツ ダ ム宣 言 第10 項 に は 「 日 本 国 政 府 は , 日 本 国 国 民 の 間 に お け る民 主 主 義 的 傾 向 の復 活 強 化 に対 す る 一 切 の 障 害 を 除 去 す べ き。 言 論 , 宗 教 , 及 び 思 想 の 自 由並 び に基 本的 人 権 の 尊 重 は, 確 立 さ れ る べ し。」 と主 張 さ れ て い る。 基 本 的 人 権 の尊 重 と い う 言 葉 の起 源 は こ の 宣言 に あ る。 展 開2 2次 ル ー ル とその背景 にある権威 の分析 ( 図2 ②) 日 本 国 憲 法 成 立 期 の 議 論 の背 景 ○ 日 本 国 憲 法 の基 本 的 人 権 に関 す る 条 文 は ,“ 誰 ” の “ ど の よ う な 議 論 ” を 経 て 成 立 し た の で し ょ う ? ○ 日 本 国 憲 法 を 成 立 さ れ る た め に , ど ん な 原 則( ル ー ル ) と 力 ( 権 力 ・ 権 威 )が 働 い て い た こ と が 分 か り ます か ? T: 発 問 す る P: 答 え る ( 資 料 ④) T: 発 問 す る P: 答 え る ○ 日 本 国 憲 法 草 案 は, GHQ 民 政 局 の25 名 の ス タ ッ フ に よ っ て1946 年 の 2 月 3 日 か ら12 日 ま で の 匚9 日 間 」 で 作 成 さ れ , 若干 の修 正 の 後 , 日 本 政 府 に よ る明 治 憲 法 改 正 案 と し て 3月 6 日 に 発 表 さ れ た。 そ し て, 第90 回 帝 国 議 会 で の審 議を 経 て10 月29 日 に衆 議 院で 可 決 し 成 立 し た。 ○ 憲 法 の 内 容 は, GHQ が 草 案 を 書 い て い る こ と か ら 「 マ ッ カ ー サ ー の意 向 に 沿 う 」 こ と が 原 則 で あ っ た。 し か し, 憲 法 の 成 立 形 式 は, 民 主 的 な手 続 き ( 男 女 平 等 の普 通 選挙 で 成 立 し た 第90回 帝 国 議 会) で, 明 治 憲 法 を 改 正 す る こ と を 原 則 と して い る。 こ の背 景 に は,「 戦 勝 国 の力 」 と 男 女 平 等 選 挙 によ る議 員 で 構 成 さ れ た 国 会 の議 決 と い う 厂民 主 主 義 の力 」 が あ る 。 展 開3 1次 ルー ル と2 次ル ー ル を 結 合 す る 議 論 の 分 析 (図 2 ③) 日 本 国 憲 法 成 立 期 の議 論 ①GHQ民 政 局 の議 論 ○ 当 時22 歳 で あ っ たベ ア テ・ シ ロ タさ ん は, な ぜ , 憲 法づ く り に参 加 し た ので す か ? ・ べ ア テ さ ん らGHQ の 民 政 局 の メ ン バ ーは, ど の よ う な 考 え方 を 持 って いた人 々で す か? ・ ベ ア テ さ ん はど の よ う に し て 憲 法 案 を 作成 し ま し た か ? ・ ベ ア テ さ ん は, ど の よ う な 条 文 案 を 書 き ま し た か ? ・ ゛ ア テ さ ん の主 張 はGHQで 受 け 入 れ ら れ ま し た か ○ ベ ア テ さ んを 含 め, 人 権 に 関 す る 小 委 員 会 は ど の よ う な 草 案 を 書 き ま し たか 。 T: 発 問 す る P: 答 え る (資 料 ⑤) T: 発 問 す る P: 答 え る (資 料 ⑥) T: 発 問 す る P: 答 え る (資 料 ⑦) T: 発問 す る P: 答 え る ( 資 料 ⑧) T: 発問 す る P: 答え る T: 発問 す る P: 答え る ( 資 料 ⑨) ○ ベ ア テ さ ん は, GHQ 民 政 局 の 局 員 で あ っ た。 5歳 か ら15 歳 ま で の10年 間 日 本 に 住 ん で お り , 日 本 に お け る基 本 的 人 権 を め ぐ る 社 会状 況 を 把 握 し て い た。 ま た, 彼 女 は 日 本 語 も 含 め 6 ヶ国 語 を 駆 使 す る こ とが で き た た め に, 憲 法 草 案 づ く り に参 加 し た。 ・ ア メ リカ に 伝 統 的 な ジ ヨ ン・ ロ ッ ク 流 の自 由 民 主 主 義 ( 匚個 人 の 尊 厳 」 を 保 障 し た多 数 決 に よ る 政 治 ) を 支 持 し て い た。 ま た, ル ー ズ ベ ルト 大 統 領 が 進 め る ニ ュ ー デ ィ ール 政 策 ( 政 府 が 積 極 的 に 公 共 投 資 を 行 い , 社 会 福 祉 を 推 進 す る 政 策 ) を 支 持 す る ニ ュ ー デ ィ ラ ーと よ ば れ る人 々 が 多 か っ た。 ・ ペ ア テ さ ん は, ま ず, ジ ープ に 乗 っ て東 京 中 の 図 書 館 へ 行 き世 界 の 憲 法 を 集 め た。 そ し て 母 国 の ア メ リ カ 合 衆 国 憲 法 に 加 え , ド イ ツ の ワ イ マ ー ル 憲 法 , ソ ビ エト 社 会 主 義 共 和 国 連邦 憲 法 な ど 国 家 が 手 厚 い 社 会 福 祉 政 策 を 行 う 憲 法 を 参 照 し た。 ・ ベ ア テ さ ん の 書 い た条 文 は , か な り 詳 し く 女 性 や 子 ど も の 権 利 , 家 族 関 係 につ い て 規 定 して い る。 ・ 憲 法 草 案 づ く り の運 営 委 員 会 は, ほ と ん ど の 条 文 を カ ッ ト し , 現 在 の 日 本 国 憲 法 の 第24 条 【 家 族 に お け る 個 人 の 尊 厳 と両 性 の平 等 】 にあ た る条 文 が 残 っ た。 ○ アメ リ カ社 会 に伝 統 的 な 厂個人 の 尊 厳」 を 守 る 規定 に 加え , ニ ュ ーデ ィ ラ ー な ら で は の 社 会 福 祉 の 視 点 を 加 え た,30 以 上 の 条 文 か ら な る 草 案 を 9 日 間 で 書 き 上 げ た。 特 に 戦 前 の 憲 兵 に よ る 不 当 逮 捕 の歴 史 を 踏 まえ 刑 事 手 続 き に 関 し て は10 以 上 の条 文 を 割 い た。 そ し て , 冂固人 の 尊 厳 」 を 守 る た め に最 低 限 必 要 な 自 由 権 ・平 等 権 ・ 刑 事 手 続 き・ 社 会 権 を 基 本 的 人 権 と して 明 記 し た。 ② 第90 回 帝 国 議 会で の議 論 ○ 第90 回 帝 国 議 会 衆 議 院 の 議 論 で 特徴的 な こ とはあ りま すか ? ・ 第90 回 帝 国 議 会 は、 そ れ ま で の議 会 と 何 か 違 い が あり ま す か ? T: 発 問 す る P: 答 え る T: 発 問 す る P: 答 え る ○ 帝 国 議 会 で は, GHQ 草 案 に も と づ く 日 本 政 府 案 に, 若 干 の 修 正 が 加 え ら れ た。 そ の な か で , 特 徴 的 な の は, 人 権 に 関 す る 条 項 に 「 す べ て 国 民 は , 健 康 で 文 化 的 な 最 低 限 度 の生 活 を 営 む 権 利 を 有 す る」 と い う, 生 存 権 に 関 す る 条 文 が 加 え ら れ たこ とで あ る。 ・ 衆 議 院 は, 1946 年 4 月10 日 に行 わ れ た わ が 国 初 の 男 女 平 等 普 通 選 挙 で 選 ば れ た 議 員 か ら構 成 さ れて い た。 - 12 −終 結 法 的 ル ー ル の 確 認 と 開 か れ た 構 造 の 把 握 (図 2 ④) 日 本 国 憲 法 の ジレ ン マ ○ (MA ) な ぜ , 日 本 国 憲 法 は, 基 本 的 人 権 を 尊 重 し て い る の だ ろ う か ? ○ 日 本 国 憲 法 が 成 立 し て 約60 年 た って い ま す が 基 本 的 人 権 に 関 す る条 文 は 機 能 し て い ま す か ? T: 発 問 す る P: 答 え る T: 発 問 す る P: 答 え る ○ 基 本 的 人 権 を 尊 重 す る の は, ① 戦 前 , 政 府 に よ って , 個 人 の 自 由 や 法 の 下 の平 等 な ど の 基 本 的 人 権 ( 個 人 の尊 厳 ) が 著 し く 侵 害 さ れ た 歴 史 か お る か らで あ る 。 特 に男 女 平 等 や 刑 事 手 続 き に 関 し て は, 条 文 で 詳 し く 明 記 し , 政 府 に よ っ て 侵 す こ と ので き な い 基 本 的 人 権 ( 個 人 の 尊 厳 ) を 明 確 に す る 必 要 が あ っ た。 ま た, ② 憲 法 草案 を 作 成 し たGHQ 民 政 局 の メ ンバ ー は, ア メ リ カ 社 会 に 伝統 的 な ジ ョ ン ・ ロ ッ ク 流 の 自 由 民主 主 義 に 加 え , ニ ュ ーデ ィ ラ ーと 呼 ば れ る 社 会 福 祉 を 重 視 す る ひ と が 多 か っ た 。 そ の た め, ア メ リ カ 憲法 に な い 社 会 権 の 規 定 も加 え , 基 本 的 人 権 を 拡 大 し た。 ○ 詳 細 な 規 定 か お り , 様 々 な 問 題 に対 応 し て き た 。 ま た , 憲 法13 条 の幸 福 追 求 権 の よ う に, 幅 広 く 権 利 を 保 障 し て い る条 文 を 解 釈 す る こ と に よ っ て , プ ラ イ バ シ ーな ど新 し い 人 権 も確 立 さ れ て きた 。 し か し ,「 個 人 の 自 由 」 対 「 公共 の 福 祉 」, 匚表 現 の 自 由 」 対 「 プ ラ イ バ シ ー」 と い っ た社 会 的 ジ レ ンマ も存 在 し, 裁 判 と な る ケ ー ス も多 い 。 資 料 ① 佐 藤 幸 治 ほ か 著 『 中 学 校 社 会 公 民 的 分 野 』 大 阪 書 籍, 2006 年 ,pp187-189 匚日 本 国 憲 法 第 3 章 国 民 の 権 利 及 び義 務 」。 ② 同 書 ①> pp 40-42「戦 前 の 人 権 に 関 す る記 述 」。 ③ 鈴 木 昭 典 『 日本 国 憲 法 を 生 ん だ 密 室 の九 日 間 』 創 元 社, 1995 年, pp360-361 「 ポッ ダ ム宣 言 」。 ④ 前 掲 書 ③, pp347-348 厂日本 国 憲 法 制 定 過 程 」。 ⑤ ベ ア テ ・ シロ タ ・ ゴ ード ン 平 岡 磨 紀 子[構 成 ・ 文 ]『1945 年 の ク リ ス マ ス 一 日本 国 憲 法 に 「 男 女 平 等」 を 書 い た女 性 の 自 伝 』キ白書 房1995 年, ppl28-219 「 ベ ア テ さ ん の証 言」。 ⑥ 前 掲 書 ③ 鈴 木, pp30-73 匚GHQ民 政 局 の 憲 法 草 案 メ ン バ ー のプ ロ フ ィ ー ル」。 ⑦ 前 掲 書 ③, pp208-209 「 ベ ア テさ ん が 参 照 し た 各国 の 憲 法 」。 ⑧ 前 掲 書 ③, p206 匚ベ ア テさ ん が 書 い た 草 案」。 ⑨ 前 掲 書 ③, pp372-385 厂日 本 国 憲 法 GHQ草 案 」。