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マンガ表現スキルの獲得に特化した     ディジタル教材の設計

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平成23年度修士論文

マンガ表現スキルの獲得に特化した     ディジタル教材の設計

兵庫教育大学大学院    学校教育学研究科

教科・領域学専攻    芸術系コース(美術)

        M10208F

       今村 愛美

(2)

目次

1.はじめに...I........、.....................1

2.予備調査...........一......................8

2−1調査方法......................................

2.2調査結果......................................

2.3考察..........................................

3.ディジタル教材の概要.....I...............12

3.1ディジタル教材のシステムデザイン..............12 3.2ディジタル教材で用いる形楡....................14 3.3教材の使用方法................................18

3.3.7形僚の認識...、............................................................ノ8

3.ユ2イメージにあった形徽0庭盾..................................、...20 3.3.3イメージ荷互の厨孫姓の表勇....、...、...….......................22

4.評価実験...............、..、...一.....一....24

4.1方法.........................................24 4.2結果と考察...................................26

 42.7 荻駁孝!のクーヌ.......、.............................................26  4.2L2荻駁孝β6クター ス...............…....................................40  4.2.3荻疑者00クーヌ......................................................47  42.4荻駿孝ρ0クーヌ....…....、.、........................................54

4.3全体を通した考察.............................63

5.まとめ............、...............、、......1...66

・謝辞........、..........一.......一、...............67

・参考文献.......................................68

ii

(3)

1.はじめに

 マンガは幅広い年齢層に受け入れられる表現メディアとなった.出版 科学研究所の発表によると,日本国内で2006年に出版された漫画の単 行本は10965点,また,漫画と漫画雑誌の販売部数は,2006年に販売 された出版物全体の36.7%に及び,私たちの身の回りはマンガが数多く 存在する環境である.子ども達にとってもマンガは身近なものであると 考えられる.また,平成24年度から全面実施の新しい中学校美術学習 指導要領においては,第二字牛及び第三学年の内容の取り扱いの中に,

「日本及び諸外国の作品の独特な表現形式,漫画やイラストレーション,

図などの多様な表現方法を活用できるようにすること」と記されるなど,

マンガは表現方法の一つとして認識されつつある.

 このような背景もあり,教育分野においても,マンガの親しみやすさ と関連付けた研究が近年増加している.松本ら(2011)は,消費者購買行

動モデルの1つであるAISASを用いてマンガ教材を利用した

e・1eammg教材を開発しその有効性を示している赤堀ら(2006)はファ カルティ・ディベロップメント(FD)の.一例として,授業を改善するた めにマンガの吹き出しやストーリーを利用する技法を紹介している.向 後ら(2005)はマンガを用いたストーリーべ一スのe・Leaming教材を提

案している.

 マンガを初学者の親しみやすさ以外の目的で使用している研究も存在 する.鈴木ほか(2008)はメッセージの多声的構成を支援する方法として マンガ表現法を提案している.マンガ表現法はプレゼンテーションの内 容をマンガで表現し,そのマンガについて吟味することで,プレゼンテ ーションを改善する手法であり,プレゼンテーション構成における共感 的思考を支援することにより,メッセ』ジの説得性を向上させることを 明らかにしている、折田ら(2011)はWebサイト炎上事件を題材に,教育 目的で作成したマンガ教材を用いたプライバシ教育の実施と評価につい て報告している.ここでのマンガは,描画に読み取られるべき教育主題を 埋め込み,気づきを以て問題を発見し,問いと組み合わせたクラス設計に

よって意志決定のシミュレーションの実現を目的として使用されている.

また,布施ら(2009)は情報倫理教育教材として,ビデオ教材を元にした マンガ教材をいくつか用意し,ビデオ視聴の前後に当該マンガ教材を併 用した教育を試行しており,学習者はビデオとマンガの併用学習に好意

(4)

的であるとともに学習の繰り返しによる学習効果が見られたと報告して

いる.

 実際の教育場面におけるマンガの有効性に関する研究としては,向後 ら(1998)はマンガによる表現が言語的表象と視覚的表象を結び付けや すくなり,学習内容の理解と保持に効果的であるとし,教師は板書や教 材作成といった場面においてマンガ表現を使用することで,学習内容の 理解と保持を促進する可能性があると指摘している.竹内ら(2009)は,

教材にマンガ表現を用いる利点として以下の4点を指摘している.

 ①マンガにはストーリー性があるため,文章で事柄を説明するよりも   学習者の記憶に残しやすい.

 ②マンガでは文章だけの説明に比べ,心情的な背景も描くことができ    るため,学習者は登場人物に感情移入できる.

 ③物語仕立ての教材作りは教員自身にとっても良い.

 ④物語にする過程で教員白身がそのテーマを深く理解する.

周村(2009)は,普段大学で利用されている教科書のイラストが学習に及 ぼす影響について報告しており,教科書内にイラストが適量存在し,配 置デザインとしても絵.と文章の両方を用いた説明がなされているものが 好まれる傾向にあると報告している.実際,教科書は改訂に伴いイラス

トやマンガが多く挿入されるようになり,親しみやすさを保ちながら,

子どもの理解度を促そうという工夫がなされている.

 また,特別支援教育においては,視覚イメージ情報が効果的であるこ とが明らかとなったことから,マンガ表現を用いたシンボルや教材,支 援ツールの開発に関する実践および研究がここ数年で大きく増加してい

る.新野ら(2008)はマンガの表現方法を用いたコミュニケーションシン ボルを開発および評価している.結果,マンガシンボルはJIS総記号に 比べると理解度は低かったものの,好感度に関しては高い傾向が見られ ると報告している.藤澤ら(2008)はマンガシンボルを用いたショートス ト』リーのアニメーションを作成し,それを教材パッケージ化すること で,使用されているマンガシンボルの理解度を向上させ,意味学習の教 材として有効であることを示している.佐原ら(2005)はマンガ的表現シ

ンボルとしてつくられたMOCA(MangaOutputCommunicationAid,図 1)と,米国で広く普及しているPCS(PictureCommunicationSymbol)と を比較し,理解度の点からMOCAの有効性を検証した研究では,たとえ ば,「驚く」を表したシンボルがPCSの正答率が45%なのに比べ,MOCA の正答率は90%と高く,平均正答率もMOCAが51.9%なのに対し,

(5)

7

図1  驚く を表したシンボル 左:MOCA 右=PCS

PCSは17.2%と,理解度におけるMOCAの有効性が示された.またマ ンガ的表現シンボルは親近感があり,心理的な面でも非常に意味がある

と述べている.

 このように,マンガが教育の中で,表現の手段として使われ始め,マ ンガと教育は密接な関係を結びつつある.しかし,マンガはこれまで,

学校にふさわしくないものとして,学校から排除される傾向が強かった

(相田,2000)ため,教師がマンガ表現を学校教育の中で学ぶ機会は少 なかったといえる.そのため,趣味等でマンガを描いた経験がある者を 除いては,表現したい内容を,マンガを用いて表現するスキルが乏しく,

マンガを指導場面で使用することに対して苦手意識を抱いたり,絵を描 くこと自体を不得手として回避したりする教師も少なくない.

 マンガを描く際に必要なスキルとして,描写力と表現技法が挙げられ る.描写力を向上させるには,多くの経験を必要とするため,短期間で 習得することは難しい.一方,表現技法は記号の使い方であり,学習す ることにより,絵が不得手だとしても表現できる幅は広がる.

 表現技法はマンガの約束事の集合であり(夏目,1996),表情,形楡

(感情や感覚を視覚化した,マンガならではの記号),吹き出し表現,音 楡(書き文字として描かれたオノマトペ)など,マンガの中の物理的な 動きや心理的な動き,時間の持続している感じを担った部分を指す.そ のため,図2に示すように,絵から表現技法を取り除くことで印象が大 きく変わってしまうため,表現技法はマンガ的表現を行う上で重要な役

割を担う.

 以下,各表現技法について概説する.

A.表情

 表情は人物の表情であり,眉や口の位置や形,目の様子などで,感情

(6)

魚 呂呂匁 呂呂

図2表現技法があるマンガと無いマンガの比較

!撒

θ

図3顔の一部分を修正することによる人物の表情の差異

Jし

■「

d

1

桑つ乍

       さ、

ψ、

       、        一        〃 図4 形喩の例

が表される.例えば,図3に示す絵は右と左で,眉と口以外は全く同じ 絵であるが,眉を下げることで,悲しい感じが表現され,眉を吊り上げ

ることで怒ったようになるなど,表情が変化していることが分かる.

B.形喩

 形楡は図4に示すような,感情や感覚を視覚化したマンガならではの

4

(7)

 一一 ・一㌧

.4.、

、一

ω

グΨ  一

ス  。

図5 音喩の例

  副捧    Q

、一一.也運算1   た

@咋

 眺鵬1㍑1

 ㍗会ξ

  皇I:{…

譲..

l l

ll・    ぎと

 二縦のらう

 いの舳 じれし

鎚生 燃1

 。・一・{ 輸

図6 動詞をオノマトペ的に使う例

記号である.簡単な線で表され,感情のほか,物理的な動きなども表現 することが可能である.怒りマークなど,簡単に感情を表現することが できるので,マンガやアニメなどに使用されるほか,形楡そのものが独 立した修飾語のような働きをもっている為,携帯電話の絵文字など,広 く一般的に使われるものが多い.その他,場面の雰囲気を表す効果や,

任意のものに注目させるための表現などもある.また,同じ記号でも使 う場面や組み合わせにより,様々な感情や動きを表すことができる.

C.音楡

 音楡は図5に示すような,マンガに使われる手描きのオノマトペ的な もののことで,吹き出し内のセリフとは異なり,絵として描き込まれて

(8)

図7 吹き出しの例

おりマンガ内の重要な視覚的要素にもなっている.爆発なら爆発を連想 する形,静寂なら静かな形に描かれる.言葉ながらも絵として描かれ,

機能している言葉と絵の中間領域にある.「ドーン」という爆発音や,「ガ ジャーン」という何かの割れるような音,rハッ」と気づくや,rギョッ」

とする,「シーン」と静かな様子など,マンガの中で多用され,重要な要 素ではあるのだが,一あまり意識されていない.また,図6のように,r開 き直る」という動詞の名詞化した言葉をまるでオノマトペのように使い,

人物の状態を修飾することもあり,音楡はオノマトペだけとは限らない.

 このような使われ方の例は多数あり,オノマトペのように絵として描 き込めば音楡に成り得るため,形楡の記号のように,種類が決まってい るのもではない.そのため,オノマトペに類する言葉は,マンガという 表現の「何でもあり」的な自在さと,それいえに学術的な世界からはす

るりと抜け落ちて,研究分類対象になりにくい性質を象徴していると夏

目(1997)は述ベセいる.

D.吹き出し

 吹き出しは絵の中でセリフなどを書き込むための風船のようなもので ある.(図7)絵の一部であり,言葉を伝えるニュアンスを決めるものに もなっている.マンガの中の言葉が,発語する人物の心理状態や,音声 なのか内面の言葉なのか,回想なのか超越的なナレーションなのかによ って,吹きだしや囲みの意匠を変えて表現する.通常丸型が多いが,大 声や怒りなどを表す場合,棟っきのものになり,内面の言葉の場合,通 常尖っている突起状の部分が丸くなったり,放射状の線分による吹き出

しになったりする.

(9)

 こういった表現技法の読み取り能力についてはマンガを読むという学 習体験により中学生ごろまでにはほとんど獲得される(中澤,2005).

しかし;表現技法の読み取り能力と表現技法をマンガ表現として使用す る能力は異なる.表現技法における記号を描くこと自体は難しくないが,

その表現技法の中か.ら用途に合ったものを選択し,配置すること(以降,

これをマンガ表現スキルと呼ぶ)は難しい.

 以上の背景から,本研究ではマンガにおける表現スキルの獲得を目的 とした教材の開発を目指す.教材を開発するにあたり,マンガ表現スキ ルを獲得させるためには,表現技法を用いて試行錯誤する過程が重要で

あると考えた.そこで,コンピュータ上で動作するディジタル教材であ れば画面上で表現技法を用いて試行錯誤することが可能な点に着目した.

 先行研究として,鈴木ら(2008)はマンガ表現を支援するシステムであ るVo1cmgBoardを提案している.Vo1cmgBoaraはF1ashにより開発さ れたWebアプリケ』ションであり,Web上で容易にマンガ表現を行え

るシステムであるが,マンガ表現を通して多声的思考を支援することを 目的としたものであり,本論文のようにマンガ表現スキルの獲得を目的 としたものではない.三原ら(2009)はマンガの生産性を高めるためのデ ィジタル環境を利用したマンガの制作の過程と,制作過程に作り出され るマンガの内容や諸要素とそれらの関係を記述するモデルを整理し,モ デルを基礎とするマンガ制作支援ツールを提案するが,あくまでマンガ の生産性を高めることが目的であり,マンガ表現スキル獲得の視点では 設計されていない.菅谷(2010)はレベルに応じた教材を学生に与え,独 習べ』スで学習をさせるPSI(個別化教授システム)を用いて,初学者 向けの4コママンガ教材を準備し,対面授業とeラーニングで独習型マ ンガ教育の可能性を探っている.教材を使用することで,マンガを描い た経験のない初学者の多くが,短時間でマンガを描けたことに喜びを覚 え,もっと描けるという自信を深めたとして一いる.しかし,マンガの描 き方に着目したものであり,本研究とは方向性が異なる.

 以降,ディジタル教材のデザインについて検討すべく実施した予備調 査の結果について報告し(2章).設計したディジタル教材の概要につい て述べる(3章).さらに,4章でディジタル教材に関する評価の概要に ついて報告する.

(10)

2.予備調査

 本章では,趣味などで5年以上マンガを描いている経験者と,マンガ を描いた経験のない初心者を比較し,両者のマンガ表現スキルの特徴を 整理することにより,初心者のマンガ表現をする上での困難点を抽出す

る.それを基にディジタル教材のデザインについて検討する.

2.1 調査方法

 表現技法を多用すると思われる4コママンガのストーリーを筆者が作 成し,スト』リ』をコマに振り分ける。コマの枠線をあらかpめ引いた 紙を用意し,A教育大学大学院生10名(初心者7名,経験者3名)の被験 者に対し,表現技法について何も伝えず,設定したストーリーに沿って 4コママンガを描いてもらった(図8).4コママンガから,形職を抽出,

整理し,その後,被験者(初心者)にインタビュー調査を行った.

2.2 調査結果

 調査結果を表1に示す.使用された形楡の総数は,経験者が平均1!.3 個,初心者が平均10.3個,種類の数は,経験者平均8個,初心者平均 6.1個と,数に関して差はあまり見られない.形楡の種類としては,怒 りマークや吹き出し,青ざめを表す垂直線,強調の際の星など,一般的 によく知られている形楡はほぼ全員に使われていた.しかし,読者に注

目させるための集中線など抽象的な形楡に関しては,初心者には見られ なかった.また,音愉についても,経験者では計10個,初心者は計2 個と,経験者と初心者に差が見られた.したがって,表現技法の個数と

しては差がないものの,その使い方に違いが現れた.

 次に,被験者へのインタビュー調査の結果から,初心者は,普段マン ガを読む際,表現技法について意識せずに読むため,表現技法の効果や 意味について考えたことがなく,形楡を認識していないことが示唆され た.また,「複雑な表情などはどのように表現していいかわからない」「表 現しないといけないことが沢山あると,どのように表現すればいいのか イメージできない」など,組み合わせや使い方のレパートリーが少ない ため,自分のイメージ通りの表現をするための形職の配置が想起できな

8

(11)

表1 調査結果

初心者 経験者

形楡の総数 形喩の総数

 (平均)    (SD)

1O.3 11.3

3.57 4.99

種類

(平均)

6,1 8.O

種類

(SD)

1.81 3.56

音楡の数

(合計)

1O

      (争

皆山一

郡       

奮古  べ■ つト 谷よ 肯育1

去套

・∴、

悩暇

  〆

      ■       .

  .        

  皿1 /

図8 調査で描いてもらったマンガの一例

いことや,複数の表現を同時にできないことが示唆された.以上の結果 から,初心者がマンガを表現する際の困難さとして,表現技法を記号単 位で認識することが困難な点,形楡を認識していても,自己のイメージ にあった使用をすることが困難な点,表現するイメージが複数ある場合,

それぞれの関係性を表現することが困難な点の3点が抽出された.

2.3 考察

 表現技法の個数については初心者と経験者の間に特に差は見られなか ったが,使われていた表現技法の種類には差が表れていた.初心者と経 験者ともに,表現技法の表情や噴出しに関してはある程度表現できてい た.しかし,形楡に関しては,個数などに差はさほど見られなかったが 使用する形楡の種類の数に差が見られた.中澤(2005)が一般的に良く知

られている形楡や,顔に付加する形喩のように,具体的な効果をもつタ イプの形楡は理解しやすいのに対し,強調や背景のように抽象的な効果 をもつタイプの形楡は,中学生でも理解度が低いと指摘しているように,

記号としての認識が薄いため,初心者が使用するに至らなかったのでは

(12)

ないかと考える.また,それはインタビュー調査から得られた,初心者 がマンガを表現する際に困難な点としても表れている.

 事前調査の結果を踏まえ,ディジタル教材の設計を考える.本稿では,

マンガ表現スキル獲得に特化したディジタル教材開発の第一段階として,

形楡に限定して議論を進める.その理由としては,表情や吹き出しに関 しては既有知識として有している場合が多いと考える.表情に関しては,

描写力に依るところがあるため,今回の研究の意図とは少し外れてしま う.また,表情の表現は形楡に依るところも大きい.そのため,形楡を 知ることにより,表情のレパートリーが増える.以上の理由で,設計す

るディジタル教材の学習内容の対象からは今回は外すこととする.音楡 に関しても,音楡は,表現する者によって様々なパタ』ンや種類ができ.

る.先に述べたように,オノマトペ以外にも,動詞や様々な言葉が音楡 となり得るため,数が限定できない.また,音楡を用いて表現する機会 が教育場面では形楡と比べ少ないと考えられる.したがって,音楡に関 しても今回のディジタル教材では扱わず,誰でも書くことが容易で,使 い方さえ学べば感情・動きなど多様に表現できる役割をもち,一番教育 場面での使用頻度が高いと想定される形楡のみに,重点を置き設計する.

 初心者が形楡を用いて表現する上で困難が生じると考えられる点とし て,事前調査から3点抽出した.第一に,形楡を記号単位で認識すること が困難な点,初心者はマンガを読む際に,その中のコマ(絵)は一つの 場面や流れとして,感覚的に認識するため,自然に形楡を理解し読むこ とはできても,使われている形楡を記号単位で認識していないと示唆さ れた.そこで,代表的な形職を抽出し,初心者に提示することで,形楡

について認識させる.その提示方法として,絵の中から形楡を抽出する 作業を体験させることがあげられる.マンガの中でいかに形楡が多用さ れているかを意識した上で,形楡の効果についての認識を促す.

 第二に,形楡を認識していても,自己のイメージにあった使用をする ことが困難な点については,形楡が使われる表情や動き単体のパターン をいくつも用意し,自己のイメージに近づけるように形楡の種類・大き さ・位置を調整する作業を通して,形楡の使い方を自分の中で形成し,

定着することが期待される.

 第三に,形楡の使い方を形成していても,表現するイメージが複数あ る場合,それぞれの関係性を表現することが困難な点については,同様 に,関係性に対して形楡の種類・大きさ・位置・方向を調整する作業を 通して,関係性を考慮した形楡の使い方を自分の中で形成し,定着する

10

(13)

ことが期待される.

 以上の作業を行うことにより,形楡に慣れ,使い方を身につけること が可能になると考えた.ディジタル教材の何度も繰り返し操作できる利 点を活かし,形楡を用いて試行錯誤する中で,形楡についての気付きや 学習の定着がなされると推測する.

(14)

3.ディジタル教材の概要

3.1ディジタル教材のシステムデザイン

 事前調査の結果を元にディジタル教材を試作した.ディジタル教材は MicrosoftVisua1Stuai02010を用いて開発し,.NETFramework4.O以 上がインストールされたWinaows環境での使用が可能である.

 システムが満たすべき要件として,①絵の申から形楡を抽出すること が可能な点,②形楡を特定の画像に自由に配置できる点,③形楡の種類・

大きさ・位置・方向を変更できる点,④試行錯誤が可能な点,の4点が 挙げられる.そこで,①に対しては任意の画像(マンガ)に含まれる形 楡を線で囲んで抽出することが可能な『鉛筆モード』,②と③に対しては あらかじめ準備した形楡の中から選択し,大きさ・方向を修正したうえ で,ドラッグ&ドロップで形楡を配置することが可能な『形楡モード』,

④に対してはキャンバス内を自由に消すことができる『消しゴムモード』,

および編集した操作をキャンセルすることが可能な『Rest㎝e機能』を

実装した.

 鉛筆モード(図9)および消しゴムモードは,市販のペイントツールと同 様の機能を有し,描く線の太さや,色についても変更することが可能で

ある.次に,形楡モード(図10)は,あらかじめ準備した形楡の中から,

使いたい形職を選択すると,左側のスペースに選択した形職が表示され,

縮小・拡大・回転・反転という調整が行えるようになっている.また,

表現技法のひとつであり,セリフなどに用いる吹き出しも形楡と同様に 扱える.編集した形楡はマウスで画像上にドラッグ・ドロップすること で,画像に形楡を追加することが可能である.また,Restore機能は1O 操作まで作業を戻すことが可能である.作成した画像はbmp方式,gif 方式,png方式のいずれかで保存することが可能である.

12

(15)

職認く

国区團国

自由に糧琶蟻く

③隻の太さ琶選んでくださいさ

盛サー・ 一一一

書蕃ゆ色を選んでくださし、

   睡口

書左の8壇1こ撞いて(たさい.

・マうスは鰻っくり藺がして泓

キャンパス

ここに

画像を読み込む

図9 ディジタル教材の画面(鉛筆モード)

糊を姜…■く  醐奄=保有≡ 元に管す  最鮒らやり直し  背星壷室彗す

筐礎㊥

團阿国圃国璽 目圃回国目凶 ロロ目目団匝 囮駅回回□麗

囹国  固

回目m團口

□圓◎團画

一1囮國

同同

図10 ディジタル教材の画面(形喩モード)

(16)

3.2ディジタル教材で用いる形喩

 ディジタル教材で用いる形楡を表2に示す.用いた形楡は,竹熊(1995)

の「ひと目でわかる「形喩」図鑑!」を元に,教育場面で使用する可能 性のある形楡を抽出し,簡単に描ける形とした.また,同じ意味を持つ 形楡であっても,イラストに挿入しやすいよう使用頻度の高い形で複数 用意した.【ナワ】や【点描1などの形楡は,描写が容易ではなく,教育 場面での使用も少ないと考えられるため本教材に使用する形楡には加え

ていない.

表2 形喩の意味

c

雨,汗,涙,唾液,鼻水,など 水 の表現に用

いられる.

水滴 物理的な水の表現に用いられることもあれば,冷 ρ や汗のように,実際には目に見えない心理的な意

味を持たせることもある.

Iu十一

水中で息を吐くときなどに出る 物理的な泡 の

表現の他に,酔うなどの 意識の混濁 ,シャボ ン玉のイメージから, 夢見心地の様子 などを

表現する.

蹴りだ

歩行の軌跡2などの動きの表現の他に,熱さ 吹きだ や,怒りを表す 蒸気 吐息 ,蹴ったりぶっ

かったりした際の 衝撃 ,などの表現に用いら

(ホコリ れる.

蒸気)

14

(17)

光芒 一般的な 星 の表現の他に,キラキラ光り輝く

(星・火 イメージを表す 光輝 反射光 ,強い衝撃を

花) 表す 激突の火花 ,心理的なショックを表す 理的火花 に使用される.

」し

■「

怒りで頭に血がのぼり,血管が大きく浮き出た

血管 形.

怒り を表現する際に使用する.

物を焦がした時などに発生する,焦げた黒い煙.

r

焦煙 ィ理的焦煙 の他に,期待はずれなどの 幻滅

t. を表現したり,深い失敗感や徒労感を表したりす

○。

る.

衣服の破れなどを表す ツキ

ツキ 実際のツキだけではなく, いじけ や, 貧乏・

古さ など人物の内面や心理的な意味でも用いら

れる、

傷などの ケガ を意味する記号.

ケガ 絆創膏は,マンガの人物がケガをすると張り付く が,これは現実の絆創膏ではなく,「ケガ」を意 味する記号として使用されている.

・ I

h  ● ■

。     

@・ ..

7

文字記 疑問符や感嘆符

文章で用いる際と同じように,絵の中でも使用す

る.

(18)

音楽記

@号

音楽 の表現をする際に使用される.

ケ楽のイメージから, 楽しい 雰囲気を表す際 ネどにも使われる.

矢印

方向 を表す記号.

}ンガでは,人物の視線を表すために用いられる アとが多い.

天使の

@輪

を表す際に使用される.

電球 物理的な電球ではなく, ひらめき など心理的 ネ意味を表現する際に用いられる.

ハート 愛情 を示す記号として用いられる.

ワた,破れたハートは 失恋 を意味している.

平行線

i動線)

動きの軌跡 や, スピード を表す効果.

蜻フの背後から尾のように引くなどして使用さ

黷驕A

垂直線

i動線・

@他)

雨 の表現や,平行線と同様に 動き を表す シ,顔に用いると, 蒼白 を意味する.

斜線 i動線・

@他)

ψ\\

平行線と同様に 動き の表現に用いられる他,

eを表現する 陰影 の表現や, 照れ などの jを染める表現に使用される.

16

(19)

曲線

(動線) 動き を表す動線として使われる.

4

太陽などの を表現したり,見る者に 注目

い!

させるために用いたりする.また,ハッとするな 集中線 どの 気づき や, 感触 音声 を視覚化する 際にも使用される. 動き を表す際に用いられ

享 ㌣二   ることもある.

盲       ・、ュ  .一ざ∫〃1一・

湯気 を表現する際に用いられる.また,頭に 波線 湯気の表現をつけることにより, 怒り を表現

することもある.その他, 匂い (特に悪臭)を 表現する際にも使用される.

ギザギ 集中線 と同様の使い方だが,それよりも強い

印象の際用いられる.

(衝撃) また, 衝撃 を表現する際にも使用する.

ジグザ

ギザギザ同様集中線の一種.

(電波 電気 電波 超音波 磁気 怒鳴り声

音波) とを表現する際使用される.

)1

残像 の効果をもつ.

残像線 震え の表現の他, ゆっくり動く様 や,局

1

所的な 動き の表現に使用される.

(20)

螺旋は 無限 を象徴する形.

螺旋 ゚まい や 失神 催眠状態 くらくら る様子などを表現する際に用いられる.

心情風景 として用いられる.

楽しい 雰囲気を表現する際に使用される.ま

た,少女マンガでは,登場人物の背景に描かれる など特有な使い方をされる.

カケア

、、、 装飾的な 陰影 効果に用いられる.

3.3教材の使用方法

 実装したディジタル教材を用いた学習は,第2章の考察で抽出された 3点を踏まえ,①形楡の認識②イメージにあった形楡の使用③形楡の関 係性の表現の手順で行うことを想定している.以下,各プロセスにおけ

る操作手順について説明する.

3.3.1  多n0)言2識

 第一の表現技法を記号単位で認識することが困難な点については,絵 の中から形職を抽出し,鉛筆モードで抽出した形楡にマークする作業を 通して習得させる(図11).これにより,普段目にするマンガやイラス トの中でいかに表現技法が使用されているか認識させ,その効果の理解 を促す.使用するイラストの一覧を図12に示す.4個については学校現 場で用いることを意識した場面のイラストで,動きや感情などの形楡を 複数用いている.また,1個については普段目にするマンガに形楡が多 く含まれることに対するアウエアネスを志向したものである.(図13)

画像に丸をつける際,線の色を選択できるので,形楡の種類別に色分け するなども可能である.

18

(21)

備9く

モード

。○{欄元I:震す●観からや。■し犠。〜竈サ

国風蟹{

9語に筐蟹薦く

♂標φ左きき選んでくだ膏も、

1.り     オ

ε一●の色ε誠てくだ菖い.

  睡口1

3絶囎轄;:響いてく紀冒い、

・平ウス榊コくり1海しそ魁

い㌦亡。c @  

   もへ

。   乱

カ ・o

図11 抽出した形喩を線で囲む様子

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図12 形喩の抽出に使用するイラストの一覧

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図13 形喩の抽出に使用するマンガ(実際のものを使用)

3.3.2イメージにあった形喩の使用

 形楡を認識していても,自己のイメージにあった使用をすることが困 難な点については,形楡モードを用いて形楡がついていないイラスト素 材に形楡を挿入する作業を通して,形楡の使い方を習得させる(図14).

ここでは,主に, 楽しい顔 悲しい顔 すごく怒っている顔 などの 感情や, ゆっくり動くボール はやく動くボール といった動きなど,

単体の対象物に対してテーマに沿った形楡の使い方を習得させる.用意 したイラスト素材は女の子の3種類の表情と,無表情な顔記号,ボール の描かれた画像である(図15).それぞれのテーマにあった素材を選び,

そこに形楡を付け足していく.また,与えられたテーマ以外にも自由に 色々な形楡を実際につけたり外したり,組み合わせたりする試行錯誤を 通して,形楡を用いた表現の仕方を定着させていく.

 操作手順としては,形楡をつけたい場所に合わせて大きさや角度を調 整し,自分のイメージに近づける.形楡の種類だけでなく,大きさや位 置,角度によっても画像の印象は変わるため,形楡の大きさ・位置・角 度も試行錯誤の対象となる.また,自分の使いたい形楡が用意された素 材の中にない場合は,鉛筆モ ドをつかうことにより,自由に書き入れ ることができる.鉛筆と同様の機能を備えた消しゴムモードもあるので,

不要な部分のみを消すこともできる.

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(23)

図14 形楡モードを用いて形喩を配置する様子

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図15 イラスト素材一覧

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3.3.3イメージ相互の関係性の表現

 3.3.2において形楡の使い方を形成していても,表現しなければいけ ないイメージが1画像に複数個存在する場合,それぞれの関係性を表現 することが必要となる.たとえば,図16の場合,怒っている男性と困っ ている子ども,割れた植木鉢,呆れている犬を相互に関連付けて形喩を 配置する必要がある.そこで,3.3.2と同様に,課題となる場面に合っ た表現になるように,形楡の組み合わせや配置を考えながら操作するこ

とにより,関係性の表現方法について習得する.ただし,3.3.2では形 楡を単体の対象物(ボールや顔)に場面を無視して貼り付ける作業のみ であったが,今回は「リレー競技でバトンを手渡す様子」など,表情の 表現と動きの表現が同時に複数個存在するため,登場人物や対象物が一 個とは限らず,表現する上で適当な形楡の向き・位置が発生する.そこ で,課題となる場面に合った表現となるように,形職の向きや配置を考 えながら操作する.準備した画像は「問題がわからなくて悩む女の子と,

元気に回答する男の子」「ボ』ルで植木鉢を割ってしまい,怒られて泣き そうな男の子と,怒る男性」「転んで痛がって泣いている男の子と,そこ に駆け寄り心配する女の子」「ドッヂボールで勢いよくボールを当てられ アウトになった様子」の4種類である(図17).

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図16 場面に合わせた形喩を挿入する様子

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参照

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