︿研究ノート﹀
西 ド イ ッ 民 事 上 告 法 の 展 開 (上 )
1 一 九 六 九 年 八 月 一 五 日 の 負 担 軽 減 法 以 降 ー
一二
三
四
五 はじめに
負担軽減法下におけるBGHの事件処理状況
受理上告制の導入(以上本号)
連邦憲法裁判所の決定
およびそれ以降におけるBGHの事件処理状況
結語
片 野
β良はじめに
西ドイッ民事上告法は︑連邦通常裁判所(以下︑BGHと略す)の負担を軽減するために︑一九六九年八月一五日に
へ ﹃民事事件における連邦通常裁判所の負担軽減のための法律﹄CGesetzzurEntlastungdesBundesgerichtshofesinZivil‑
sachen.以下では︑負担軽減法と呼ぶ)を制定したが︑その成果は一九七〇年から一九七二年の期間︑一時的にBGHの
西ドイツ民事上告法の展開(上)一〇九(1)
一一〇(2)
ヨね負担軽減をもたらしたにすぎなかった︒そこで︑一九七五年七月八日﹃民事事件における上告法改正のための法律﹄
(GesetzzurAnderungdesRechtsderRevisioninZivilsachen.以下では︑民事上告法改正法律と呼ぶ)が制定され︑BGH
に上告受理・不受理について一定の場合に裁量を認める受理上告制(Annahmerevision)が導入された︒ところが︑上
告の受理・不受理をBGHの自由裁量に委ねることに対して︑連邦憲法裁判所は︑上告の受理・不受理を決定するに際
し各部の負担量CArbeitsbelastungdesjeweiligqenSenats)を考慮することは法治国家原則および平等原則に違反し︑違
憲であるとする一連の決定を下した︒
そこで本稿では︑負担軽減法下および民事上告法改正法律下におけるBGHの事件処理状況を︑特に後者において
は︑連邦憲法裁判所の決定がBGHの事件処理状況にどのような影響を及ぼしたのか︑あるいは及ぼさなかったのか
を︑検討したいと思う︒そして︑将来わが国の民事上告法においても裁量上告制を導入すべきか否か︑導入すべきであ
るとした場合どのような裁量上告制を導入すべきか等の問題を検討するための足がかりとしたい︒
注<1>BGBI°一Qっ゜1141.
(2)一九七五年五月五日の法務委員会の報告における指摘(菊.Nirk,GedankenzumneuenRevisionsrechtinZivilsa‑
Chen,BB1975,S.1173による)︒この時期における具体的なBGHの事件処理状況については︑後述=六頁以下参
o
CM)BGB1.IS.1°︒①ω゜なお︑この改正法を紹介するものとして︑小室直人﹁西ドイッ民事上告法の基本的改正﹂ジュリ
スト六四六号(昭五二)二二八頁がある︒
二 負 担 軽 減 法 下 に お け る B G H の 事 件 処 理 状 況
︹1︺負担軽減法の制定
ハ ヤ負担軽減法は︑その成立に際し︑簡素化された決定手続を導入することに対する弁護士会の激しい反対があり︑また
すでに法律草案理由においても上告法の基本的改正が予告されていたため︑当初から過渡的な応急措置として︑期限付
ヨレきで成立した︒したがって現在は︑この法律が適用される上告事件は全くといってよいほどなくなっているが︑この法
律は︑上告金額の増額による上告制限のほか︑簡素化された決定手続を上告審手続に導入することによってBGHの負
担を軽減しようとの意図を有するものであり︑上告制限以外の方法による最高裁判所の負担軽減策を検討する際の参考
になると思われる︒そこで以下では︑この法律の内容および帰結を見ていきたい︒
注(1)弁護士会の反対のほか︑連邦参議院(じσ=a①ω﹁讐)においては若干の州が法律草案に反対し︑基1E ‑'‑‑1 1Q(Grundsatz‑
revision)を導入することを要求し︑また連邦議会(Bundestag)では一連の議員が︑基本上告を支持し︑そして上告
金額の徹底的な引上げを拒否した(H.Arnold,DieNeuordnungdesZugangszumBundesgqerichtshofinZivilsa‑
Chen,JR1975,S.487Fn.18)°なお"基本上告(Grundsatzrevision)という用語は︑基本的gym?義(grunds警zliche
Bedeutung)にもとつく許r'上告(Zulassungsrevision)S用語が使用せられる以前に︑このような上告を指すものと
して使用されたものである(<ぴq1.H.Priitting,DieZulassungderRevision,1977,S°圏)︒
(2)=.Arnold,a.a°O°S.487.当初は︑一九七二年九月一五日までの三年間に適用期間を制限されていたが︑一九七二
年八月七日の改正により一九七五年九月一五日まで延期された︒この延期の原因は一九七二年の連邦議会の早期の解散
によるといわれている(R.Fischer,ZurEntwicklungdesRevisionsrechtsseitdemBestehendesBundesgqerichts‑
西ドイッ民事上告法の展開(上)?1一(3)
二(4)
hofes,DRiZ1978,S.6Fn.26)°(3)野村二郎・ヨーロッパの裁判(昭五九)九六頁によれぽ︑一九七九年に処理された上告事件のうち︑負担軽減法一条
二項の決定によって処理されたものは三件である︒
︹2︺負担軽減法の内容
ω負担軽減法は次のように規定していた︒
第一条
一九七二年九月一五日までは︑ZPO五四五条による上告について︑以下の特別規定が適用される︒
ハ 第一項ZPO五四六条による高等裁判所の上告許可が行われない場合︑上告は︑不服対象額が二万五千マルクを
越える財産権上の請求に関する訴訟にかぎりこれを許す︒
第二項上告裁判所は︑上告裁判所の裁判官が一致して上告が理由がなくかつ口頭弁論の必要がないと認めるとき
は︑口頭弁論を経ることなく裁判をなすことができる︒当事者は前もってこれについて教示されかつ審訊さ
れなければならない︒この手続の前提条件は決定において確定されなけれぽならない︒そのほかの棄却理由
は必要でない︒
第三項上告が決定によって裁判されないときは︑口頭弁論期日を職権によって指定し︑当事者に告知しなけれぽ
ならない︒
口頭弁論期日の告知の時点と口頭弁論との間に存しなければならない期間については︑ZPO二六二条の
規定を適用する︒
第四項上告裁判所の裁判は︑
を付すことを要しない︒
︿第二条乃至第六条省略﹀ 上告裁判所が手続上の過誤についての不服申立てを理由がないと認める限り︑
ただし︑ZPO五五一条による不服申立てについてはこの限りではない︒ 理由
右のように︑負担軽減法の内容は︑ω上告金額(つまり不服対象額)を一万五千マルクから二万五千マルクに引き
上げ︑㈹口頭弁論を経ないで︑かつ詳細な理由を付することなく︑決定によって上告を棄却する権限を上告裁判所に
認め︑㈹絶対的上告理由の場合を除き︑手続上の過誤の場合には全く理由を付する必要がないとするものであった︒
ハヨ ②負担軽減法の下における実務については︑以下の点が注目される︒
まず第一に︑上告提起は上告奏効の見込みについてあらかじめなされる上告審弁護士の意見に左右されていたことに
注意しなけれぽならない︒このような上告審弁護士の意見は︑上告期間経過前に上告審弁護士が調査を行うための十分
るねな時間が存在する場合にのみ可能であるが︑高等裁判所の判決の送達はしぼしぼ行われず︑したがって一ヵ月の期間は
経過しなかったので︑調査の結果︑上告奏効の見込みのない場合には︑上告は提起されなかった︒上告提起後に上告奏
効の調査が行われた場合︑GKG三六条によれぽ裁判手数料は上訴取下げの場合二分の一に引き下げられるので︑この
ことが︑奏効の見込みのないあるいはほとんど見込みのない上告が上告提起後取り下げられることに︑力を貸した︒か
くて︑かなりの数の上告事件が上告提起後上告理由書提出前に取り下げられていた︒
上告理由書が提出されたときは︑まず裁判長が︑この上告理由は決定手続における処理が問題となるか否かを審査し
た︒当該事件が口頭弁論を必要とすることが判明した場合︑若干の部においては︑当事者に上告について口頭弁論が開
かれ︑通常の上告審手続で処理されることを知らせるために︑当事者にこの旨が通知される慣行が存在した︒
当該上告事件が決定手続における処理に向くときは︑詳細な判断を下す一人の報 Qi# (einBerichterstatter)が指定
西ドイッ民事上告法の展開(上)三(5)
四(6)
された︒この報告者が︑上告は理由がなく︑かつ口頭弁論が実施されても他の結果は期待しえないとの判断を下し︑そ
して裁判長もこの判断に同意したときは︑両当事者の代理人に︑当部は上告を口頭弁論を経ないで決定によって棄却す
るか否かを協議する旨の通知がなされ︑これに対する意見表明の機会が与えられた︒裁判長あるいは報告者が前記の点
について疑いを持つときは︑右の通知をすべきか否かについて部において協議が行われた︒この通知にはときどき短
い︑稀には長い理由が付されていたので︑当事者は上告の不服申立てが検討されたことを知ることができた︒もっと
も︑かかる理由は必要なものではなく︑したがってしぽしぼ理由は付されなかった︒この通知がなされ︑弁護士自身も
上告奏効の見込みが少ないと認めたときは(実際そのような場合に︑部の協議が他の結論に達することは全くありそう
もないため)︑弁護士は上告取下げを勧めた︒上告人が訴訟救助の認可をも求めている場合には︑右の決定と同時に︑
部によって判断された訴訟救助申請却下の裁判も付されていたため︑弁護士は︑例外的場合を除いて︑上告の取下げを
勧めた︒けだし︑このような場合︑すでに部による上告に対する判断がなされているからである︒なお︑通知後の上告
取下げの数(眠部は除く)は︑一九七〇年が一七六件︑一九七一年(=月一日まで)が一二八件であった一九七一
年の決定による棄却件数は三三九件であり︑その比率は1:2.64である︒一九七〇年および一九七一年における︑
眠部を除く各部の全処理件数は不明であるが︑BGH全体の全処理件数と通知後の上告取下げの件数は︑一九七〇年‑
二一五四件・一七六件(八二七%)︑一九七一年ー一九九六件・一四六件(七・一一=%)である︒また︑決定による棄
却と通知後の上告取下げとの関係は︑一九七〇年‑五一五件(棄却)︑一七六件(取下げ)︑卜︒.92:1であり︑一九七一
年ー四五〇件(棄却)︑一四六件(取下げ)︑ω﹄°︒"一である︒
右に述べたように︑負担軽減法下においては︑弁護士による上告取下げの勧告︑および上告事件を決定手続において
処理する旨の通知が︑BGHの負担軽減に少なからず寄与していたことが注目される︒