てんかんの治癒
抗 てんかん薬 はいつやめ られ るか
1 は じ め に
てんかんの約10%は自然治癒 に至 るといわれい る。 したが って,抗てんかん薬治療の進歩 した今 日では, これ よ りもはるかに大 きな治癒率が期待 されて当然であろ う。ただ,実際の ところ,現在, その治癒率が どの程度の ものかについては,十分 に確かなことはわかっていない。 さらに, どのよ
弘前大学医学部神経精神 医学教室
福 島 裕
うな患者が治癒 し易いか, どの ような状態 になれ ば治癒 した と考 えられるか, といった問題 につい て も,不明な点が多いのが現状である。
この間題 に関す る研究の現状 については,後 に 述べ ることとし, まず,筆者が この間題 に関心 を 抱 き,い くつかの文章 を書 きなが ら考 えて来た経 過 を述べ ることか ら話 を進め よう。
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・‥‑‥‑:‑‥‑:‑:‑:‑=‑:‑:‑=‑‥‑:‑:‑:‑‥‑:‑:‑‥‑:‑‥‑:‑:‑:‑:‑:‑‥‑:‑‥‑:‑:‑:‑‥‑:‑:=学 苑
表l 治療中1tの時期 (1974) (い 発作完全抑制 :少なくとも3年間。
成人では,5年以上。
(2)以前の発作頻度が少なかった例では,頻度の多 かった例 よりも慎重に。
(31 思春期以前には,服薬中止を開始 しないほうが よい。
(4) 精神症状 (知能障害 も含む)がない,明らかな 器質的脳障害がない,脳波が正常化,などの因 子は,服薬中止の判断のための好条件。
表2 治療中止の時期 (1984)
(1)少なくとも3年間(′」、児期以後では5年間以上) の発作抑制期間が前提。
(2)中止後の発作再発率は,小児 (ただ し,満0歳 発病例は除 く)では30%以下,成人を含む対象 では30%以上の報告が多い。 したがって,小児 ではより再発の危険が少ないと考えられる。
(3) 良性小児てんかん ・小発性アブサ ンスでは,忠 春期以後になれば,安全に服薬中止を行える可 能性は大 きい。小児の大発作の再発率 も低いと いわれている。 しか し,成人の大発作では必ず
しも低いとはいえない。
(4) 2種類以上の発作合併例では,単一発作型の場 合よりも発作再発率は高い。
151神経症状や知能障害を合併する例での再発率は l笥い。
(6)治療開始後,比較的速やかに発作が抑制された 例では再発率は低いといわれている。
(7) 思春期以前には服薬中止を試みない方がよいと いう意見 もある。
(8)脳波所見 (正常脳波 ・発作波消失)はA E D中 止の判断の決め手 とはならない。
Ⅱ 筆者 の治療 中止 の時期 につ いての意見 表1は1974年 にあ る本の 中で筆者 が示 した治療 中止 の時期 の判定 の 目安 であ る。 ただ し, これ は それ まで の欧米の著名 なて んかん学者 の記述 や研 究報告 の内容 をまとめ, 自分 の経験 に照 ら して, 妥 当 と思 われ る要点 を記 した ものであ る。 とこ ろ が, その後, てんか んの予後 の研 究 を重 ね る うち に, この規準 に疑 問 を感 じる よ うにな り,1977年
に書 いた 「てんかんの経過 と予 後」 に関す る文章 で は, この間題 に関 して は,単 に過去 の文献 を紹 介す るに留 め た。 しか し, さらにその後,1984年 になって, てんか んの治療 中止 の判定規準 につ い て問 われ, 「絶対 に確 か な, あ るい は,安 全 な規 準 で はないが」 と断 って,表2の よ うな規準 を示 した。 もちろん, これ には,それ まで間の臨床経 験 か らの判 断が加 え られて い る。
Ⅲ 発作 の消失 と治癒
臨床 的 には,治療 に よ り発作 が完 全 に抑 制 され る と発作消失 と判定 され る。 で は, どの位 の期 間 発作 が なければ発作消失 と判定 して よいか。発作 消失 とい う言葉 に は, その後 も発作 が お こ らない であ ろ うとい う予想 を含 む語感が あ り, さらに, 治癒 につ なが る判 断規準 に も関 わ るので, この こ とは重要 であ る。 そ こで, まず ,治療 中の患者 で の発作 消失 と発作 再発,つ ま り,治療 に よ り発作 が消失 したか にみ えて,治療 中に もかかわ らず発 作 が再発す る ものはないか, あ る とす れ ば, どの 位 の割合 でみ られ るか とい うこ とを検討 してみ る 必要があ る。
1976年 に,それ までの10‑15年 間継続 的 に治療 , 経過観察 を行 って きた97例 のてんか ん患者 につ い て, その臨床経過 を検討 してみた。 この場合 ,3
年 間以上発作 が なけれ ば発作消失 と判定 す るこ と と したが, その結 果,調査 時点 での発作消失率 は
48例 (49%)であ った。 ところが, 各症例 の経過 を縦継 的 に検討 してみ る と,調査 時点 で発作 が消 失 してい ない と判定 された49例 の うち17例(35%)
は過去 に3年 間以上 の "一過性 の"発作 消失期 間 が あ るこ とがわか った。 その一過性 の発作消失期 間の長 さは,3年 間が7例 ,4年 間が5elJ,5年 間が1軋 6年 間が4例 とい う内訳 で あ った。 こ の ような結果 か らみ る と,発作抑制期 間3年 とい う期 間は発作消失 と判定す るための期 間 と して は 短す ぎる ようであ る。
さらに, その後,10年 間以上 も発作が抑 制 され てい る例 で も,治療 中 に もかか わ らず,発作 が再 発 す る場 合が あ る ことを経験 し, その よ うな3例
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学 苑=:‑:‑:‑:‑:‑:‑:‑‥‑:‑:‑‥‑=‑‥‑‥‑‥‑:‑:‑:‑‥‑‥‑=‑=‑:‑‥‑‥‑=‑=‑‥‑:‑‥‑:‑:‑:‑‥‑:=
を報告 した。それ らは,いずれ も,原発全般てん かん (大発作)であった。そこで,大発作で は, 長期発作抑制後で も発作の再発 を生 じ易いのでは ないか と考 えた。
そこで,改めて,1980年 に11‑23年間の治療例 137例 につ いて,治療 の結果 と経過 を検討 してみ た。 この場合は,5年間以上の発作抑制 をもって 発作消失 とす ることとした。その結果,調査時の 発作消失率 は36%であったが,仝例 の20%では, 経過 中に一過性の発作消失 (5年間以上の発作抑 刺) を示 していた。なかで も,大発作 (29%)で は発作消失後に再発 をみた例が多かった。一方, 小 児 良性 部 分 て ん か んで あ るBECCT (benign epilepsyofchildren withcentro‑temporalEEC foci)では,再発例 はなかった。
以上の ような成績か ら,やは り,大発作で は長 期間発作が抑制 された後で も,発作の再発 をみる 危険が大 きい と考 え られ,一方,BECCTで は, 一旦発作が抑制 されると,その後は発作 をみる危 険は少ない もの と推定 された。
そ こで,BECCTについて,さらに症例 を増 して, 治癒判定の可能性 を検討 してみた。 この場合 は,
Age 8 10 12 14 16 18 20 Correlation between ageand remission.EEG丘ndings
図1
3年間以上の発作抑制で発作消失 と判定すること として症例 をまとめた。
症 例 は43例 で あ り, 何 れ も初 診 時 の脳 波 に Rolandic (centro‑temporal)dischargeを示 し, いわゆ るSylvianseizureを主 とす る臨床発作 を
もつ ものである。 これ らの うち,5例では,治療 を中止 し,18例では薬 を減量 しなが ら経過 をみて いるものであ った。
調査時点で,38例 (88%)は発作消失 と判定 さ れた。発作消失後の再発 を示 した ものが1例 あっ た。 ところが,各症例の脳波 を縦断的にみてゆ く と, これ を大 きく2群 に分けることが出来ること がわか った。つ ま り,典型的なBECCTの脳波像 (Rolandicdischarge)の まま経 過す る もの とそ の経過 中に他の種類の発作波が出現す るようにな る もの とである。上記の発作再発の1例 は,後者, つ ま り経過か らみて定型的 とはいえない群 に属 し ていた。 この研究の対象では前者の群の ものが38 例であったが, この ような脳波の経過 を示す群で
は,発作 再発 はみ られなか った訳 で,定型 的 な BECCTで は3年間の発作消失期 間があれば,そ の後は発作再発はない もの と推定 された。 この よ
表3 Reportsonrelapserateafterdiscontinuanceof AEDtherapy
Author (year) Su bjectNo・sd:蕊 :二fO,:ef0..ow‑upr霊 …e
Yahretal (1952) Zenkeretal (1957) C 1
Merritt (1958) Strobosetal (1959) Jtitjl‑Jensen (1964)
J'dluLトJensen (1968 )
Sato (1966) HoloWacnetal (1972) Holowach
Thurstonetal (1982) Groh (1975) 011er‑Daurella
etal Oller‑Daurella
etal (1976) (1987)★
Janz
solme,̲Bu,khardt(1976) JanZ etal (1983)★ Tamal (1977) Rodin, John (1978) Ernersonetal (1981)t ShinnaretaT (1985)t Overwegetal (1981)★ F'6rster
SchrnidbergeT‑ (1982)★
Todt (1984)★
5885402886437rT一〇8713/b841331/b5114
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表4 治療 中止後の発作再発の危険因子
莞肩年令
tltJJの期間発作消失
治亮のおく九
遺伝負EEZ
莞作型 中止年令 リズム睡眠・覚醒
発作消失期間
知能障害
夕良 脳頚
小 児
Ehersozlet al (1981) Lblo屯Ch Thur8tOZl p rt・ial)
etal (1982) cQJZlblned.
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Jam寸 en88n ((i996684)) pm t mal overveg el:al (1981) prl皿arT
gOZlOraliZE)a
30才く 30才 < +7 +7
+
徐波長点 両側性発作波 予測の役に立たない
その他
Janz etal (1983) CPS + 10‑30才
ollOr功言trOalF (、1987) ≡慧,'inGe‑TaC' ‑ ・ ⊥ 一 一
‑+
c P S :冴 牲部分発作 o T C :全 身けいれん発 作 comt)ined.:混合莞作
うな仮定 に基づ いて, これ ら38例 の最終発作 と centro‑temporalEEC foci(Rolandicdischarge) の消失率 をみた ものが図1である。 20歳で100%
の発作消失,脳波上のRolandicdischargeよ りも 臨床発作が先 に消失す るとい うことがわかる。
Ⅳ 治療 中止後の発作再発 に関す る研究 表3は, これまでに発表 された治療中止後の発 作再発に関する主な研究の まとめである。発表年 順 に並べたが,年順が繰 り上げ られて並べ られた ものは,その上の もの と同一対象,前者 を含 む対 象,あるいは同一施設の対象による研究である。
研究の方法がそれぞれ異 なるので, これ らを一概 に比較す ることも出来ないが,小児てんかんでの 再発率 は20‑30%とみて よいであろう。 つ まり, 数年 間発作 が抑制 され た状 態で治療 を中止す れ ば,70‑80%の患者では治療中止 に成功す るとい うことである。 これに対 して,成人てんかんでの 成績 は一般 にわ るい。Overwegら (1981)の成 績では3年間発作消失後に治療 を中止 して,63%
一 ・園係なし一十? :多い、+ :有意に多い、十十 :卸 て有意
が9ヵ月以内に発作の再発 を示 している。
この種の研究の初期の ものは,内容の点で不備 な ものが多い。そこで, ここで,改めて, 1980年 以後の研究 ときちん とした方法で行 われたJuu1‑ Jensen(1964, 1966)の研究 をと りあげて,治療
中止後の発作再発 に関す る危険因子 とされるもの について まとめてみた (表4)。
各報告がすべて同 じような因子 をとりあげて検 討 しているわけではない し, また,判定の方法に も違いがある。しか し,これ らの報告の内容か ら, 抗てんかん薬治療 中止後の発作再発危険因子 は, 表5のように まとめることが出来るのではないか
と考 えた。
ここで,脳波の評価が意外 に低いことに驚か さ れるか も知れない。 しか し,脳波が正常であると い うことは,発作再発の危険の判断のためには意 外 に当てにな らない ものであるとい うことは留意 してお くべ きである。 ただ し,脳波が全 く役に立 たない とも言 えない。PenryとRakel(1986)10)
は治療中止の判断のための脳波所見の 目安 として
学 菟=:‑:‑:‑:‑:‑‥‑:‑:‑=‑==:=:‑‥‑:‑:‑:‑:‑‥‑:‑‥‑:‑:‑‥‑=‑:‑‥‑=‑:‑:‑=‑:‑:‑:‑:===
表5 発作再発の危険因子 (fとめ)
Aかな り確かな因子
1 発作型 複雑部分発作 (+全身けいれん発作) 混合発作
2 治療 開始 の遅 れ,発作抑制の遅 れ 3 ^/卜因,神経症状
4 知能障害 5 短 い発作抑制期 間
B なお不明な因子 1 発病年齢 2 治療 中止年齢 3 脳波
4 睡眠‑覚醒 リズム と発作 との関係
C 関係 ない と思 われる因子 1 遺伝負因
表6 服薬 中止後の発作再発 と脳波所 見(1986)
1)正常脳波 はあてにな らない
2) しか し,発作波が出硯 していれば,正常脳波の 場合の約2倍 の危険率 となる。
〔脳波の経過〕
3)背景波の発達が正常であ った ものは危険率 は低 い。
4)発作波が消失 していった例の再発率 は低 いD
summarybyPenry&Rakel
表6の よ うな内容 を述べ ているので参考 になろ
う 。
Ⅴ 抗てんかん薬治療 中止のガイ ドライン Deanとpenry (1986)10)は,最 近,抗 て んか ん薬中止のためのガイ ドラインを示 している (義 7)。 彼 らは,成人てんかん と小児てんかんに分 けて,その基準 を しめ しているが,成人の場合, この条件が満たされていれば,治療 中止 を考慮す ることが出来 るとい う。 一方,小児 については, この条件 によって,治療 中止の成功率 は75%であ るとしている。 成人てんかんの場合 は,掲げてい
表7 抗てんかん薬 中止のガ イ ドライン
1.成人の場合 1)原発全般 てんかん 2)単一発作型 3)30才以前であ ること
4)診断 と発作抑制が速やかであ った 5)脳波 は繰 り返 し正常
6)治療 に よ り2‑5年間発作消失
以上の ような条件であれば,治療 中止 に最 も適 し ている。
2.小児の場合 1) 2才以後の発症
2)神経学的 に異常 な く,知能 も正常 3)原発全般 てんかんの‑型 4)治療 によ り4‑5年 間発作消失
以上の ような条件であれば,治療 中止後 も75%の ものは発作 の再発 をみない。
Dean&Penry (1986)
る条件 も多い上,治療 中止の成否についての可能 性 に も含み を残す表現 をとっていることに注意 し てお く必要がある。
Ⅵ 抗てんかん薬治療 中止の実際
以上述べて きた ように,てんかんは治療 によっ て発作が消失 し, しか も,治療 を中止 して も発作 が再発 しない例,つ まり,治癒例が少なか らずみ られることは間違いない 。 しか し,一万,同 じよ うな治療経過 をとりなが ら,治療中止後に発作の 再発 をみる例があることも, また,事実である。
この両群 を分 ける因子‑ 再発危険因子‑ が何 か とい うことについて, これ までに多 くの研究が なされて来た。 しか し,そこに絶対確実な危険因 子 も, また逆 に絶対安全 という保障国子 もい まだ 示 されていない。そこで, これ までに示 されたガ イ ドラインは何れ も,一定の危険率 を含んだ,い わば歯切れの悪い ものに終わっている。 しか し, これを改めて考 えてみると,このような結果 しか 得 られなかったのは,てんかん全体 を一群 として
・‥‑:‑=‑:‑:‑‥‑‥‑:‑‥‑:‑=‑:‑:‑=‑:‑:‑:‑‥‑:‑:‑‥‑:‑‥‑:‑:‑:‑‥‑‥‑=‑:‑‥‑‥‑:‑:‑‥=学 菟
検討 して きたためではないか とい う点 に気付 く。
つ ま り,BECCTの例で述べ た ように,定型的 な BECCTの経過 をとる一群で は,発作再発の危険 はか な り低 い と考 え られる。 つ ま り,BECCTで は治療 中止の規準 をかな りはっきり示す ことが出 来 る可能性が大 きい。 この ように,てんかん型あ るいは発作型 ごとに,個 々に検討 して,そのそれ ぞれについて治療 中止の判定規準 を求めるように してゆけば,はっきりした規準 を示 し得 るのでは ないか と思われる。
ところで,抗てんかん薬治療中止 には, この よ うに一定の危険 を伴 うのが現状である。 上 に述べ たような,中止の規準やガイ ドラインは何れ もそ の点 を注意 している。 そ して, この ような現状か ら考 えて,上記の,いわばmedicalな規準 のみに よって,治療 中止の判断 を行 うのは適当ではない と考 えられる。 つ ま り,万が一,発作が再発 した ときに,患者や家族 に与 える心理的,経済的,社 会的打撃 とい うことも計算 に入れて,治療 中止の 判断 を行 うべ きである。medicalな判断 を中心 に しなが らも,そ こに,患者 のpersonal,socialな 要因 も考慮 に加 えて,治療 中止の適否 を判断する 必要がある訳である。
文 献
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