は じ め に
1936年 に ノ ー ベ ル 生 理 学・医 学 賞 を 受 賞 し た
Sir
Henry Dale
によりヒスタミンの作用が見出されて以来,現在までその生理的および病態的作用について多くの研 究が行われている.近年,遺伝子ノックアウトマウスが
H1〜H4
受容体,ヒスチジン脱炭酸酵素(HDC),ヒスタミン
N―メチル転移酵素(HNMT)で作成され て お
り,さらに
H1
受容体のX線解析も報告されている.ヒ スタミンはアレルギーの起因物質として考えると「悪 玉」と考えられていたが,最近の研究からヒスタミンと その前駆体であるヒスチジンの生理作用は生体にとって 有益であることが多い.善玉としてのヒスタミンの生理 作用の観点から,アレルギー疾患治療において脳内ヒス タミン神経系は抑制すべきではない.ヒスチジンとヒスタミン
ヒスタミンは,アミノ酸である
L―ヒスチジンか ら
HDC
によってビタミンB
6を補酵素に合成されるモノア ミンである(図1).主な産生細胞は,視床下部結節乳 頭核に細胞体を持つヒスタミン神経,胃ECL
細胞,マ スト細胞,好塩基球などである.胃ECL
細胞は,ガス トリンやアセチルコリンの刺激によりヒスタミンを放出 し,H2受容体を介するヒスタミンの作用により壁細胞 から胃酸が分泌される.マスト細胞や好塩基球は,細胞 内の顆粒中にヒスタミンを貯蔵しており,感作された状 態で抗原の刺激により脱顆粒が引き起こされる(図2).遊離される生理活性物質には,ヒスタミン以外に,プロ スタグランジン類,PAF(血小板活性化因子),インタ ーロイキン,TNF
α,プロテアーゼなどの酵素,ヘパリ
ンなどがある.PAF(血小板活性化因子),インターロ イキン,TNFα
はアレルギーの遅発相に関与し,これら の生理活性物質は相互に作用を増強する.最近,抗PAF
作用のあるH1
拮抗薬ルパタジンが市販されて,PAFに 再び注目が集まっている1).谷内 一彦
東北大学大学院 医学系研究科 機能薬理学
日耳鼻 123:196―204,2020
「第120回日本耳鼻咽喉科学会総会ランチョンセミナー」
薬理作用から見た理想的な抗ヒスタミン薬治療
アトピー性皮膚炎,花粉症,食物アレルギー,蕁麻疹などアレルギー疾患は多 くの国民が罹患している.抗ヒスタミン薬は即効性があるのが利点であり,アレ ルギー治療における中心的薬物である.開発初期の第一世代抗ヒスタミン薬はア レルギー疾患に対する効果が認められる一方で,強い鎮静作用(眠気,疲労感,
認知機能障害),口渇,頻脈といった抗コリン性作用,そして心毒性などの副作 用が問題視されていた.現在,花粉症やアトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾 患症状の緩和に非鎮静性抗ヒスタミン薬が
First―line treatment
であり,非鎮静 性抗ヒスタミン薬のアレルギー疾患への長期投与の治療効果は高い.日本では過 去に鎮静性抗ヒスタミン薬が格段に多く使用されていたが,古典的抗ヒスタミン 薬の使用はアレルギー性疾患には世界中のガイドラインでほとんど推奨されてい ない.鎮静性抗ヒスタミン薬は制吐剤,抗動揺病,抗めまい薬などの使用に限定 される.脳内ヒスタミン神経系の機能に配慮し,脳内移行のより少ない非鎮静性 抗ヒスタミン薬が第一選択として求められる.その非鎮静性を判断する場合に,ヒスタミン
H1
受容体占拠率を用いることを推奨している.ヒスタミンH1
受容 体占拠率の最新データと薬理作用から見た理想的な抗ヒスタミン薬治療について 提言する.キーワード
:
ヒスタミン,抗ヒスタミン薬,アレルギー疾患,非鎮静性総 説
食事由来のヒスタミンも重要である.食事由来のヒス タミンに関連して古くからヒスタミン食中毒が知られて いる.魚介類中の遊離のヒスチジンが,HDC産生菌の 増殖により多量のヒスタミンが生成されることにより発 生する.通常,経口投与されたヒスタミンは腸管に高発 現しているジアミンオキシダーゼによってすぐに分解さ れる(図1).脳内ヒスタミンは,ドパミン,セロトニ ン,ノルアドレナリンのような特異的再取込み機構がな いために再利用されず,主にグリアに発現し て い る
HNMT
により分解されるためにストレス時に欠乏しや すい4).アレルギー起因物質としてのヒスタミンは 悪者 で あるが,ヒスタミンやヒスチジンなどの内因性イミダゾ ール化合物は,生体内で 善玉 物質として機能してい る.ヒスチジンの効用として ① がん予防,② 骨粗鬆 予防,③ 脳血管性認知症予防,④ アミロイド
A β
を減 少させて認知機能を高めるなどの抗アルツハイマー病作 用,⑤ 抗糖尿病作用,⑥ 抗不安・抗ストレス・抗疲労 作用,⑦ 抗肥満作用が考えられている.ヒスチジンは 魚肉(カツオ,ハマチ,ブリなど)に最も多く含まれる 必須アミノ酸で,抗不安,ストレス軽減,認知機能亢進,食欲抑制作用がある5).同様に内因性イミダゾール化合 物であるカルノシン(β―alanyl―histidine)も抗ストレス 作用が知られている2).
図
1
ヒスタミンの合成と分解ヒスタミンは必須アミノ酸ヒスチジンから合 成される.分解酵素は中枢と末梢で異なる.
イミダゾール骨格を持つ化合物の共通の作用 として,①
Antioxidants,② 細胞内外にお
け るMetal chelating(Ca
2+,Zn2+,Cu2+),③
pH Buffering Activity,④ ヒスタミン神
経の活性化作用などがある2).図
2
マスト細胞からの遊離抗原刺激に伴い多くの生理活性物質が遊離する.ヒスタミンは即時反応に関与して,神経の活性化,
血管透過性の亢進,血球系の炎症部位への動員(recruitment)等を起こす(文献1より引用改変).
温熱などの物理的刺激や化学的刺激(化合物48
/
80,d―ツボクラリン,パンクロニウム,マストパ ン,サブスタンスPなどのsecretagogues)によっても生理活性物質の遊離が起きる.最近,secre-
tagogues
による遊離に関与するMas
関連G蛋白質受容体(Mrgpr)が同定されている3).抗ヒスタミン薬の開発
抗ヒスタミン薬はイタリアの薬理学者
Daniel Bovet
により1937年に開発されて,アレルギー疾患に効果が認 められる一方,抗精神病薬や抗うつ薬などの原型にもな った.そのために抗精神病薬や抗うつ薬の多くが強力な 抗ヒスタミン作用を持つ.1957年にBovet
はその薬理学 的業績によりノーベル医学生理学賞を受賞している.第 一世代抗ヒスタミン薬は血液―脳関門を通過するために 鎮静作用が強いという欠点があった.H1受容体への選 択性が少なく,抗コリン作用による口渇,尿閉,頻脈な どの副作用が表れる頻度も高かった.過量投与による心 毒性の問題も指摘されていた.これらの重大な欠点を克 服すべく,H1受容体選択性が高く,脳内移行性が低 く,血漿中半減期の長い第二世代抗ヒスタミン薬が開発 された.国内外のアレルギー性疾患ガイドラインで,脳 におけるヒスタミンの生理作用を遮断しない中枢移行性 の少ない非鎮静性抗ヒスタミン薬の使用が第一選択薬と して推奨されている.抗ヒスタミン薬の分類は,世代ではなく鎮静性の有無 で鎮静性(sedating)と非鎮静性(non―sedating)に分 類する方が合理的である.抗ヒスタミン薬の
H1
受容体 に対する結合親和性は大きく異なる.第一世代抗ヒスタ ミン薬の鎮静作用は強いが,H1受容体への親和性は弱 い.抗うつ薬や抗精神病薬の一部は古典的抗ヒスタミン 薬よりH1
受容体に強く結合し,そのpotency
の違いは 200倍以上である.非鎮静性抗ヒスタミン薬のH1
受容 体への結合親和性(potency)も大きく異なる.しかし 抗ヒスタミン薬のpotency
は大きく違うが,最大反応(Emax)で表される臨床的有効性
efficacy
は十分な用量 では同じである.非鎮静性抗ヒスタミン薬は結合親和性(Potency)が強められたことに関連して抗炎症作用は増 大している.しかし心血管系の副作用や鎮静作用は非鎮 静性抗ヒスタミン薬ではほとんどなく,長期使用しても 安全である.アレルギー疾患治療薬としての古典的鎮静 性抗ヒスタミン薬は基本的に不要である.最近,非鎮静 性抗ヒスタミン薬としてデスロラタジン,ビラスチンが 新薬として日本でも承認されている.
抗ヒスタミン薬による鎮静作用
ヒスタミンはアレルギーや炎症のメディエーターとし て古くから知られていたが,神経における局在は長く不 明であった.1984年に
Watanabe
らによりヒスタミン神 経系の局在が明らかにされた6).ヒスタミン神経系はそ の機能として覚醒作用と認知機能促進が特に重要なアミ ン神経系である7).ヒスタミン神経は覚醒時に強く発火 し,H1,H2受容体を介して直接にあるいは脳幹のアセチルコリン神経,ノルアドレナリン神経,無名質のアセ チルコリン神経,視床のグルタミン神経を興奮させて大 脳皮質機能を強力に賦活させる.ヒスタミン神経による 大脳皮質機能活性化機能は強力で,その覚醒や認知機能 亢進に密接に関係している.
ヒスタミン神経系の局在する視床下部後部は古くから 覚醒と睡眠に重要であることが知られていた.既に1946
年に
Nauta
は睡眠・覚醒に関する視床下部仮説として,視床下部前部を睡眠中枢,視床下部後部を覚醒中枢であ ると提唱している8).またヒスタミン神経に対して,視 床下部前部の
preoptic area
がGABA
により抑制性線維 を送っている.カフェインはアデノシン神経を介して視 床下部前部のGABA
神経を抑制して覚醒作用を引き起 こす.強い病的な眠気を起こすナルコレプシーで消失す るオレキシン神経はヒスタミン神経を強力に賦活する.ヒスタミン神経は覚醒中枢として重要な機能を持ち,そ の作用を遮断する
H1
拮抗薬は催眠作用がある.欧米の 教科書は,鎮静性抗ヒスタミン薬はベンゾジアゼピン系 と同様に「睡眠薬」としても記載されている.ただし,鎮静性抗ヒスタミン薬を夜に使用すると翌日まで持ち越 す
hangover(薬の二日酔い)が生じる場合が多い
9).最 近,H3アンタゴニストPitolisant
が依存性のないナルコ レプシー治療薬としてEMA
とFDA
が承認した10).鎮静作用には眠気とインペアード・パフォーマンスが あるが,眠気イコール鎮静作用と勘違いしている場合が 多い.感情には感情体験と感情表出があり,眠気は感情 体験,インペアード・パフォーマンスは感情表出であ る.ヒトを対象に感情を研究する場合は「眠い」などの 感情体験を調べることができるが,動物を対象にした感 情研究の場合は感情表出のみが研究対象となる.また高 齢者に鎮静性抗ヒスタミン薬を投与することはアルツハ イマー病の発症リスクを高める.中枢に移行する抗コリ ン作用を有する薬剤(鎮静性抗ヒスタミン薬を含む)を 長期に使用した場合,不可逆的な認知機能の低下を来す ことが報告されている11).
小児への鎮静性抗ヒスタミン薬使用も注意が必要で,
特に長期投与は危険性がある.痙攣素因の小児における 鎮静性抗ヒスタミン薬使用は,痙攣を誘発し,その長期 使用は肥満になる可能性が高い.小児でも鎮静作用の発 現頻度は高く,学習能力を低下させる.実際に7歳児の 観察研究で,鎮静性抗ヒスタミン薬を長期使用した場合 に
IQ
を10程度低下させる可能性が報告されている12).FDA
は「鎮静作用を期待して小児に鎮静性抗ヒスタミ ン薬を使用してはいけない」との考えを示し,2歳未満 のOTC
風邪薬(鎮静性抗ヒスタミン薬を含む)の中止 を勧告,製薬会社が自主的に回収している.小児における鎮静性抗ヒスタミン薬の臨床的有効性
Efficacy
は証明 できず,副作用のみが現れる可能性が高いので,原則,使用しない.最近,生後6カ月以上の乳幼児にも使用で きる非鎮静性抗ヒスタミン薬レボセチリジン,フェキソ フェナジンが販売されている.
ヒスタミン関連遺伝子ノックアウトマウス研究 われわれはヒスタミン関連遺伝子ノックアウトマウス を用いてヒスタミン系の機能研究をしている.ヒスタミ ン
H1
受容体遺伝子ノックアウトマウス(H1KO)は活 動期に動きが悪く,また休止期に睡眠が不十分であり,体重が増加しやすい13).動物においてヒスタミン神経が 活発に
H1
受容体に作用していると摂食行動が抑制され ることは古くから明らかにされている.またヒスタミン 神経を賦活するH3
受容体アンタゴニストは覚醒レベル を上げて自発運動量を増加させ,また摂食量を減らす.強力な
H1
拮抗作用のある非定型抗精神病薬や抗うつ薬 により生じる肥満はH1
受容体を介する14).過去に日本 の小児科医は経験的に鎮静性抗ヒスタミン薬を食欲増進 に用いていたが,間違った使用法である.覚醒と睡眠のリズムと肥満に関しては全く別な現象と 考えられていたが,現在は密接な関係があることが分か ってきている.2006年に
Nature
誌において「正常な睡 眠・覚醒リズムを保って肥満を治そう」という記事が掲 載されている15).非鎮静性抗ヒスタミン薬により正常な 睡眠・覚醒リズムを保つことが最終的に肥満防止になる ことは十分に理解できる.ヒスタミン受容体は大脳皮質(特に前頭葉),扁桃体,
視床下部に多く分布することからストレス反応に関係す る.われわれは,H1KOを用いてストレス反応や痙攣閾 値におけるヒスタミン受容体の役割を研究している.
H1KO
は前頭葉機能と海馬機能に関連する認知機能低下 が観察される.しかし扁桃体機能に関連する恐怖条件付 けは逆に亢進している16).前頭葉にはH1
受容体が多く 存在しており,その欠損により前頭葉の機能不全を起こ す.鎮静性抗ヒスタミン薬は,このようにストレス抵抗 性を低下させる可能性がある.脳内ヒスタミン含量を増 加させるヒスチジンやカルノシンに抗ストレス作用があ るとして機能性表示食品として販売されている.鎮静性抗ヒスタミン薬はその単独では痙攣を引き起こ す可能性は低いが,痙攣を引き起こす閾値を下げる.鎮 静性抗ヒスタミン薬(ケトチフェン,シプロヘプタジ ン,クロルフェニラミン,ジフェンヒドラミン)はネズ ミの電撃痙攣を悪化させるが,エピナスチンやフェキソ フェナジンは影響しない.痙攣素因のある患者における 鎮静性抗ヒスタミン薬の使用は痙攣を誘発する可能性が
高い.観察研究で鎮静性抗ヒスタミン薬が幼児の熱性け いれんを重症化することが報告されており,熱性けいれ ん診療ガイドラインでも「熱性けいれんの既往のある小 児に対しては発熱時における鎮静性抗ヒスタミン剤使用 は熱性けいれんの持続時間を長くする可能性があり推奨 されない」と記載されている17).ただし,嘔吐や動揺病 に関係する
H1
受容体は脳内に存在するために鎮静性抗 ヒスタミン薬は制吐剤や抗動揺病薬として有用である.第二世代非鎮静性抗ヒスタミン薬
鎮静作用の強い方がアレルギー効果も強い との錯 覚があるが,抗アレルギー作用と鎮静作用は全く異な る.鎮静作用を低減するには親水性の官能基(―COOH,
―NH2)を導入して,脳・血液関門(BBB)を通過しに くくする.また第二世代抗ヒスタミン薬は薬剤排泄ポン プであるP糖タンパクの基質になり,BBBに発現して いるP糖タンパクによる積極的な汲み出しを受けて脳へ 移行しない.第二世代非鎮静性抗ヒスタミン薬は,親水 性の官能基であるカルボキシル基型(図3
:
ビラスチ ン,レボセチリジン,フェキソフェナジン,オロパタジ ン,ベポタスチンなど)あるいはアミノ基型(図4:
エ ピナスチン,メキタジン,デスロラタジン,ロラタジ ン,ルパタジンなど)に分類できる18).カルボキシル基 型はH1
受容体に特異性が高く第一選択薬として使用し やすい.アミノ基型は特異性が低くほかの受容体(ムス カリン受容体,PAF受容体など)も遮断する.脳内移行性の低下に関与する因子は,大きな分子量,
生理的
pH
における荷電,親水性,トランスポーターな どがある.非鎮静性抗ヒスタミン薬はP糖タンパクの強 い阻害剤ではなく,酸塩基解離定数(pKa)による荷電 が大きな影響を持つ19).ビラスチンとフェキソフェナジ ン のpKa
は ほ ぼ 同 じ で,生 理 的pH
7.4で 双 性 イ オ ンzwitterion
として,プラスとマイナスの両極に解離して 脳に移行しにくい(図5).第二世代抗ヒスタミン薬の血液中薬物動態は第一世代 と比較して改善されて使いやすくなっている.最高血中 濃度到達時間(Tmax)が短いほど即効性があり,血中 濃度半減期(T1
/
2)を参考にて投与回数が決定される(図6).
ヒスタミン
H1
受容体占拠率による鎮静作用の評価 われわれは,抗ヒスタミン薬の鎮静作用に関してPET
を用いた脳内ヒスタミンH1
受容体の占拠率測定により 客観的に評価している.図7にH1
拮抗作用のある医療 用医薬品の脳内ヒスタミンH1
受容体占拠率を示す.例 えばセチリジンは用量依存的に脳内に移行して20mg
ではかなりの
H1
受容体が占拠され,軽度の認知機能障害 が認められる.第一世代抗ヒスタミン薬(鎮静性)が 50%以上の脳内H1
受容体を遮断するのに対して,第二世代はおおむね30%以下である.ただし, 第二世代 と称していても必ずしもゼロではなく,第一世代との違 いは中枢移行性の相対的な差である.われわれは
H1
受 容体占拠率により3群に分けることを提唱して,H1受容体占拠率が50%以上を鎮静性,50〜20%を軽度鎮静 性,20%以下を
non―sedative(非鎮静性)と分類してい
る.非鎮静性抗ヒスタミン薬の中でも,その鎮静作用に は大きな差がある.抗ヒスタミン薬の鎮静作用について
Hindmarch
教授 らは文献解析を行っている20).抗ヒスタミン薬のプラセ ボ対照無作為化二重盲検比較試験の検索を行い,各世代 図3
カルボキシル基型非鎮静性抗ヒスタミン薬カルボキシル基型非鎮静性抗ヒスタミン薬を分子量の順に並べている.中枢神経系治療薬の平均の分子量
は
310Da
程度であり,フェキソフェナジンとビラスチンは450以上で脳内に移行しにくい.受動拡散の場合,分子量が小さいほど膜透過性は増加する.非鎮静性
H1
抗ヒスタミン薬の多くはP糖タンパクの基質 であり,BBB通過がさらに制約される.カルボキシル基型はH1
受容体に特異性が高くアレルギー疾患 の第一選択薬として推奨できる.光学異性に関与する不斉炭素を*で示す.光学異性ではないが,立体構 造の異なる幾何異性体(シス―トランス異性体)に関与する二重結合を#で表記.MW : 分子量図
4
アミノ基型の非鎮静性抗ヒスタミン薬ルパタジンとロラタジンは体内で薬物代謝酵素
CYP
により結合親和性の強いアミノ基型(デスロラタジン)に 変化し,デスロラタジンとして作用する.アミノ基型はH1
受容体特異性が低くほかの受容体も遮断する.ルパ タジン:
抗H1+抗 PAF+抗コリン作用,デスロラタジン :
抗H1+抗コリン作用,ロラタジン :
抗H1+抗コリ
ン作用,エピナスチン:
抗H1+抗 PAF+抗ロイコトリエン,メキタジン :
抗H1+抗コリン作用.ルパタジン
は抗PAF
作用があるが,デスロラタジンとロラタジンの抗PAF
作用は弱い.*光学異性に関与する不斉炭素.の抗ヒスタミン薬の鎮静作用発生比率を算出している.
この解析でも第二世代抗ヒスタミン薬の一部に用量依存 的に軽度鎮静作用があることが明らかになっており,
PET
を用いたH1
受容体占拠率の結果とほぼ一致してい る.Hindmarch教授は,真の 非鎮静性 抗ヒスタミ ン薬の条件として,通常の用量を超えて投与しても鎮静 作用の発生はないことを挙げている.われわれは血漿中薬物濃度と
H1
受容体占拠率の関係から,「非鎮静性で あるためには血漿中薬物濃度が高くてもH1
受容体結合 を減少させてはいけない」を条件としている.島根大学 の川内らは 脳内に移行しない抗ヒスタミン薬 (non―brain―penetrating antihistamines : NBP)とし て 非 鎮 静
抗ヒスタミン薬をさらに細分類を提案している19).フェ キソフェナジン,ビラスチン,デスロラタジンがそれに 図5
ビラスチンとフェキソフェナジンの酸塩基解離カルボキシル基型は分子内に正電荷(N+)と負電荷(COO−)の両方を持つ双性イオン
zwitterion
であ り,生理的pH
7.4で完全に解離する.例えばビラスチンとフェキソフェナジンのpKa
はほぼ同じで,生 理的pH
7.4で双性イオンとして解離する.さらにビラスチンとフェキソフェナジンは分子量が450以上で ありBBB
を透過しにくい.ビラスチンとフェキソフェナジンは薬理学的に似ているが,その違いはビラ スチンの効力Potency
がフェキソフェナジンより数倍強いことである.図
6
抗ヒスタミン薬の血液中薬物動態: Tmax
とT
1/
2Tmax
が短いほど即効性がある.連続投与の場合3〜4半減期(T1/
2)で平衡に達する.すなわちT
1/
2が10時間の場合,30〜40時間で定常状態になるために,1日1回投与で蓄積しない.各薬剤添 付文書から抜粋.組織の半減期は血液中半減期とは異なり,脳の半減期は血液中より長い.そのため に鎮静性抗ヒスタミン薬を夜に使用すると脳内に蓄積して鎮静作用が翌日まで持ち越す9).当てはまる(図8).
平成30年7月に「航空機乗組員の使用する医薬品の取 り扱いに関する指針」が公表されて,ビラスチン,フェ キソフェナジン,ロラタジン,デスロラタジンが推奨さ れているが,ロラタジンには軽い鎮静作用があるため注 意が必要である.特に増量した場合にはロラタジンは脳 内に移行する21).
薬理作用から見た理想的な抗ヒスタミン薬治療 非鎮静性抗ヒスタミン薬の長期使用は効果を上げる.
受容体はアゴニストが結合してはじめてシグナル伝達が 生じ,情報が伝わるものと考えられていたが,アゴニス トであるヒスタミンが存在しなくてもヒスタミン受容体 が多く発現している状況などでは反応が伝わることが明 らかとなった.このヒスタミン非存在下におけるヒスタ ミン受容体の活性化状態を「構成的活性」という.また 抗ヒスタミン薬は構成的活性化状態では,インバース・
アゴニストとして働き,ヒスタミン受容体を活性化状態 から非活性化状態へ抑制する.アレルギー状態の人は肥 満細胞からのヒスタミン遊離がなくても反応が伝わるた め,花粉症シーズン前に抗ヒスタミン薬を投与する初期 療法はヒスタミン作用の直接の遮断ではなく,構成的活 性の抑制によるアレルギー反応抑制を期待して行われて いる.このような観点からも,副作用の少ないカルボキ シル基型の非鎮静性抗ヒスタミン薬は1カ月単位の長期 使用が望ましい.
非鎮静性抗ヒスタミン薬は効果がない時は増量する.
非鎮静性抗ヒスタミン薬の
H1
受容体に対する結合親和 性(Potency)は大きく異なる.その結合親和性(=Po-tency)の違いは100倍以上である.効力である Potency
から,非鎮静性抗ヒスタミン薬は低Potency
群(ロラタ ジン,フェキソフェナジン),高親和性群(ビラスチン,デスロラタジン,エピナスチン,レボセチリジン)に分 類できる.しかし抗ヒスタミン薬の
potency
は大きく違 図7
脳内ヒスタミンH1
受容体占拠率ヒスタミン
H1
受容体占拠率によるH1
拮抗薬の鎮静性評価.正常健康男子にH1
拮抗薬を経口単回服用後のTmax
時点にて[11C]ドキセピンを投与して H1
受容体をポジトロン放出断層法(PET)にて測定.占拠率デー タは平均±SD.抗うつ薬ミルタザピン,抗精神病薬オランザピンは鎮静作用が強く最小用量で多くのH1
受容 体を占拠する(薄い灰色で表示).少量で脳内H1
受容体を占拠するオランザピン(5mg)は化学療法誘発性悪 心・嘔吐にも保険承認されている.H1受容体占拠率が20%以下では認知機能障害が観察しにくいために「非鎮 静性」に分類している.*:
点眼薬eye drop,iv :
静脈内注射.#:
オロパタジン5mg
を朝夕2回4週間連続 投与した場合,H1受容体占拠率は15%から55%に増大する.それ以外は単回経口投与(文献2,21,22より引 用して改変).うが,最大反応で表される臨床的有効性
efficacy
は十分 な用量では同じである.このような観点から安全性の高 い非鎮静性抗ヒスタミン薬は効果が不十分な時は増量す ることが望ましい.最近,日本皮膚科学会が非鎮静性抗 ヒスタミン薬の2倍量まで増量を推奨するガイドライン を日本国内で初めて作成している23).ただし,日本の添 付文書で増量が明確に記述されているのはルパタジンの みで,通常は「症状により適宜増減」と記載されてい る.またNBP
のビラスチンとデスロラタジンの増量は 日本の添付文書上では承認されていない.お わ り に
2002年に 理想的な抗ヒスタミン薬 の基準作成に関 する
CONGA
(Consensus Group of New Generation An-tihistamines)という国際会議に参加したことがある
24). その際に外国のアレルギー研究者から日本における鎮静 性抗ヒスタミン薬の使用頻度が異常に高いことを指摘さ れた.欧米人から見ると日本における鎮静性抗ヒスタミ ン薬の使用は奇異に思われていたが,現在,鎮静性抗ヒ スタミン薬が抗アレルギー薬としてほとんど使用されていない現状を大変好ましく考えている.アレルギー疾患 に対する抗ヒスタミン薬投与に対しては効果と鎮静作用 の両面を十分検討してから薬剤を選択することが重要で ある.できるかぎり中枢神経抑制作用が少なく,確実な 効果を有する非鎮静性抗ヒスタミン薬を選択すべきであ る.
抗ヒスタミン薬使用法は薬理学から以下のように提案 することができる.① 即効性があり,副作用の少ない 非鎮静性抗ヒスタミン薬がアレルギー疾患の第一選択.
長期投与しても基本的に安全.② 非鎮静抗ヒスタミン 薬の臨床的
Efficacy
には差がないが,効力Potency
は大 きく異なる.③ 効果が弱い症例にはPotency
の強い薬 に変更する.さらに効果が弱い場合には作用点の異なる ほかの抗アレルギー薬の併用を考える.④ 体内で代謝 される薬(Pro―drug等)は単剤使用が原則.⑤ 粘膜へ の局所投与(点眼・点鼻)も非鎮静性抗ヒスタミン薬を 使用.⑥ 鎮静性抗ヒスタミン薬は制吐剤,抗動揺病,抗めまい薬として有用.⑦ 夜に鎮静性抗ヒスタミン薬 を使用するのは翌日に薬酔い(hangover)の危険があ る.⑧「眠くなる方が効果(Efficacy)は強い」は間違 った錯覚.⑨ 小児アレルギー疾患にも副作用低減の観 点から非鎮静性抗ヒスタミン薬が第一選択.⑩ 抗ヒス タミン薬の場合,新薬の方が効果と安全性に関して改善 されているが薬価は低く抑えられている.
文 献
1)Mullol J, Bousquet J, Bachert C, et al : Update on ru- patadine in the management of allergic disorders. Al- lergy 2015 ; 70 Suppl 100 : 1―24.
2)Yanai K, Yoshikawa T, Yanai A, et al : The clinical phar- macology of non―sedating antihistamines. Pharmacol Ther 2017 ; 178 : 148―156.
3)McNeil BD, Pundir P, Meeker S, et al : Identification of a mast―cell―specific receptor crucial for pseudo―allergic drug reactions. Nature 2015 ; 519 : 237―241.
4)Yoshikawa T, Yanai K : Histamine clearance through polyspecific transporters in the brain. Handbook Exp Pharmacol 2017 ; 241 : 173―187.
5)Yoshikawa T, Nakamura T, Shibakusa T, et al : Insuffi- cient intake of L―histidine reduces brain histamine and causes anxiety―like behaviors in male mice. J Nutr 2014 ; 144 : 1637―1641.
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図
8
血漿中薬物濃度と脳内H1
受容体量の関係H1
受容体拮抗薬投与後の血漿中濃度変化と脳内H1
受容体量の関係の模式図.鎮静作用が全く起 きないためには血漿中薬物濃度が高くても脳内H1
受容体結合を減少させないことが必要.脳に 移行しない抗ヒスタミン薬(NBP)としてフェ キソフェナジン,ビラスチン,デスロラタジンが 挙げられる.「非鎮静性」であっても用量依存的 そして連続投与で脳内に移行する場合があり,感 受性の高い患者は眠気を感じる.鎮静性抗ヒスタ ミン薬は濃度依存的にH1
受容体が急速に占拠さ れるので,強力な鎮静作用がある(文献18,19,21より引用して改変).
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利 益 相 反 に 関 す る 事 項: ラ ン チ ョ ン セ ミ ナ ー はMeiji
Seikaファルマと大鵬薬品の援助を得て開催され,その講演
内容に関して著者が企業等と相談することなく自身の考えと してまとめた総説である.本総説 内 容 に 関 連 し て 著 者 は GSK,大鵬,サノフィ,杏林,エスエス製薬から研究費(共 同研究,学術指導)を得ている.また過去3年間に大鵬,協 和発酵キリン,田辺三菱,Meiji Seikaファルマ,味の素か ら講演謝金・原稿料を得ている.
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東北大学大学院医学系研究科機能薬理学 谷内一彦