<研究ノート>他者との相互作用が障害児者の言語及 びコミュニケーションに及ぼす影響
著者 大井 学
著者別表示 Oi Manabu
雑誌名 金沢大学教育学部紀要 教育科学編 = Bulletin of
the Faculty of Education, Kanazawa University.
Educational science
巻 41
ページ 85‑100
発行年 1992‑02‑28
URL http://hdl.handle.net/2297/20188
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研究ノート:他者との相互作用が障害児者の 言語及びコミュニケーションに及ぼす影響
大井学
ResearchNote:HowlnteractionswithOthersAffectLanguageand CommunicationinHandicappedlndividuals・
ManabuOol はじめに
この論文の目的は,障害をもつ子どもまたは 成人の言語及びコミュニケーション能力の獲得 に対し,他者との相互作用がどのような影響を あたえるのかという問題について,最近10年間 に英語圏及び日本で行われた研究を展望するこ
とである。
この10年間は,60年代おわり頃から始まっ た大人の言語入力の乳幼児の言語獲得に対する 影響についての研究に基づいて,障害児の言語 獲得を援助するための相互作用中心のプログラ ムが開発されてきた時期である。障害をもたな い子どもの言語獲得における大人の役割にかん する研究は現在も進行中であり,それらの成果 が次々と臨床的に応用されつつある。とはいえ それは英語圏に限ったことであり,日本の状況 はまったく違う。研究の量質ともに英語圏が圧 倒的である。
ここではまず英語圏における状況を整理し,
それに日本での研究動向をつけ加えることにし た。いずれの場合も研究対象はほとんど言語ま たは発達の遅れをもつ幼児と母親との相互作用 であるが,最近では精神遅滞あるいは失語症の 成人と施設職員やSTとの相互作用,子どもの 場合でも学齢児と担任教師,さらには子どもと 仲間などとの相互作用も取り上げられ始めてい る。日本における研究はできるだけ幅広く検索 したが,英語圏については次の七つの学術誌の 1981年から最近までのナンバーを参照した。
JournalofSpeechandHearingDisorders,
JournalofSpeechandHearingResearch,
AmericanJournalofMentalDeficiency (MentalRetardationLBritishJournalof CommunicationDisorders,TopicsinLan guageDisorders,JournalofChildLanguage,
ChildDevelopmentである。なお結果の類似す る研究は省略した。また出版物としてMarfo
(1988),Beveridgeetal(1989)が有益な情報 を提供してくれた。
非障害児の研究の概要
障害児にかんする研究を展望する前に,障害 をもたない子供にかんする研究の最近の動向を 示すことにする。なおその詳細は別に報告した
(大井,印刷中a)。大人の育児語の特徴の抽出 に始まったこの分野の研究は,80年代には子供 の発話と大人の発話の相互関連に焦点が移り,
今後は認知と社会性の発達や言語獲得装置と言 語入力との組み合わせを考慮する方向へ進もう
としている。
相互作用の相手として取り上げられるのは主 に母親だが,父親,同胞,同級生,教師などと の相互作用も検討され始めている。子供は1歳 から3歳までの初歩的な統語的発話段階の場合 が多い。子供の獲得内容は統語論的,形態論的 な側面からの検討がほとんどである。
言語入力の影響は,それを直接に子供が獲得 する場合と,会話の活性化を通じて全般的に獲 得が促される場合との両面からとらえられてい る。直接の影響が広く認められているのはり 平成3年9月4日受理
、
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は他者との相互作用を充分に言語獲得に役立て ることができておらず,それは相互作用の性格 が非障害児の経験しているものと違っているか らであるという仮定が強力な役割を果たしてき た。障害児との相互作用と非障害児との相互作 用の比較が盛んに行われ,その結果に基づいて 障害児との相互作用を修正するプログラムが提 案されてきたわけである。
こうした仮定はある程度まではあてはまるこ とがわかっている。少数ではあるが相互作用中 心のプログラムによって障害児のコミュニケー ションが改善されたという知見(Pricel989)が ある。これらのプログラムは,障害児の経験す る相互作用において見られる,大人の側では命 令や質問が多くて応答が少ない,子供側では開 始が少ないという偏りを修正しようとする。し かしそのような修正が有効に行われたのかどう か,また修正の結果がコミュニケーションの改 善にどう影響しているのかについては検討され ていない。また効果が報告されているのはダウ ン症や発達遅滞の幼児で初期統語発話の段階に あるものに限られている。いかなる発達状態の,
どのような障害をもつ子供に有効なのかが明ら かにされなければならないし,それは大人と子 供の相互的な伝達行為の関連において具体的に 検証されるべきである。
厳密な手続きを経ない事例研究や非公式の観 察では,少なくとも子供からの開始の増加,-
つづきの会話におけるターン数の増加,使用す る伝達手段の拡大などがしばしば報告されてい る。それらの検証も必要だが,それ以上にター ン・テーキングの改善が言語獲得につながるも のかどうかについて明らかにしなくてはならな い。言語獲得の援助を最終目標とする限りこの こと抜きにはすまない。非障害児の場合は会話 への参加を促すことが言語を学ぶ機会を拡大 し,それはそのまま言語の獲得につながる可能 性が高い。これに対して障害があると機会の拡 大は獲得の充分条件にならないことがある。
しかし他方で言語獲得には直接つながらない キャストである。Farrer(1990)は2歳前の子
供に対する,動詞句などを追加,修正,入れ替 えるリキャストに含まれる形態素が,半年後に 子供の獲得する内容となることを見いだした。
これに対し拡充や話題を継続させる発話は,全 般的な獲得を促す効果を持っていた。会話を誘 発する発話も間接的な影響が確認されている。
大人からの真の質問,確認及び明確化の要求が,
動詞,助動詞,補助動詞の獲得,MLUに影響 することが見いだされ,それらの発話が子供の 応答を誘発し,子供が言語入力を受ける機会を 増やしていることが示唆されている(Hoff
-Ginsberg,1986,1990,Yoder&Kaiserl990)。
相互作用において大人が発話を子供の発話に 関連づける方略としてSnow(1987)は,統語的 及び意味的複雑さを子供に合わせる微調整,子 供の注意の焦点または子供の話題に即して話す 意味的随伴性,及び子供に予測可能な規則化さ れた相互作用に発話を位置づける慣例化の3つ を指摘している。大人は形式と内容だけでなく 機能(または使用)についても関連づけを行っ ている。意図的伝達の発達に大人からの帰属が 影響している(Vedelerl987)。子供と大人との 間での談話的な調整は前言語段階から行われて おり,それが子供の話題確立技能に影響するこ とが見いだされている(Golinkoffl986)。会話 における再開始の試みが関係詞や時制の獲得に 影響する可能性も示唆されている(McTear l985)。この他大人の発話が相互作用の起きる文 脈(0,Brien&Nagell987),育児についての 文化的な要請の違い(Morikawal988),子供の
特徴(Smolakl986)に影響されていることも
明らかにされている。
障害児との相互作用をめぐる問題
他者との相互作用は障害を持たない子供に対 するのと同じように,障害児の言語獲得にも影 響を及ぼしていると考えられるが,これまでの ほとんどの研究は,それが同程度にではないの ではないかという予測に基づいている。障害児
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としても,別の効果が期待できる場合がある。
大人との相互作用が活性化されると,言語以外 の事柄を学習する機会を増やす可能性がある。
子供が年少である場合は教育的な働きかけを受 け入れる素地を広げることになる。コミュニ ケーションがうまくとれないことは教育プログ ラムへの参加を妨げるおそれがあり,それらを 予防するという観点から,早期の相互作用中心 のプログラムを見直してみることが重要である
(Wilkoxl989)。
同じようなことが情緒障害の問題にもあては まる。精神遅滞成人における引っ込み思案や,
攻撃,妄想に似た反応などの問題は,純粋に心 理学的な問題というよりも,コミュニケーショ
ンの失敗にともなうものであることが多いと考 えられている(Price-Williams,1989)。
障害児の経験している相互作用に何らかの偏 りがみられるとしても,それは必ずしも一律に はあらわれない。相互作用は文字どおり参加者 の相互的な関連ですすむものであり,同じ子供 であっても相手が異なればまったくちがった相 互作用が起きる場合がある。逆にまた同じ大人 であっても子供が異なればまったく違う結果が もたらされうる。Tiegerman(1984)は3歳か ら5歳の言語障害の母親の言語行動と非言語行 動の開始と応答における用い方に著しい個人差 があることを見いだした。Cardoso-Martins
(1985)は前言語期にあるダウン症児の母親の ことばは,群全体では非障害児の母親に比べ,
命令文が多く直示文が少〈,子供にあったラベ ルをあまり使わないがn群内の分散も大きかっ たことを報告している。Conti-Ramsden(1989)
は子供の病因,重症度,年齢,学習スタイル,
気質,動機と,親の障害受容,重さの見方,能 力の見方,人格,動機,家族の支持をどの組み 合わせでさまざまに異なった相互作用がありう ることを示唆し,従来行われてきた非障害児と の単純な比較に疑問を投げかけている。
偏った相互作用は,偏った環境の産物ではな いかという疑問も表れ始めている。障害児者に
対する非障害者の社会的な態度(Leudarl989)
や,施設収容という状況(McLeanl991)が非 障害児者のそれとは異なる特異なコミュニケー ション環境を作り出す可能性が高いと考えられ る。
相互作用に偏りがあるのかどうか,それが言 語獲得の妨げになっているのかどうか,偏りが あるとすればそれに非障害者及び障害児者それ ぞれの要因がどのように影響しているのか,偏 りを修正することは言語獲得やその他の能力の 改善になんらかの影響を与えるのか,こうした 基本的な問題についてまだ結論がでていない。
指示性と応答性にかんする仮定
障害をもたない子供の場合に比べ,大人は障 害児に対してより指示的で子供の伝達に対する 応答性が低いという知見は,就学前の言語障害 児及びダウン症を中心とする中軽度の精神遅滞 幼児との相互作用にかんする研究で繰り返し示 されてきた。Cross(1984)は言語障害児との相 互作用にかんする研究を展望し,母親の発話が 次のような特徴をもつとしている。まず談話上 の特徴としては子供の発話に意味的に随伴する ことが少ない,子どもの発話を受け入れない,
母親自身の発話の反復が多い。使われる文の形 式と機能については,命令文が多く平叙文が少 ない,Wh質問が多くyes-no質問が少ない。そ のほかに発話の総量が少〈,流暢性が低い。文 の長さは一致した結果がない。精神遅滞児の場 合についてみるとCunningham(1981)は,2 歳から8歳の中軽度遅滞児と母親との相互作用 では,1歳半から4歳半の非障害児と母親との それに比べて,母親は指示的で,子供が従った 場合にもそれに応答せず,相互作用の開始が少 ないこと,子供は開始が少なく応答性が乏しく 一人で遊ぼうとすることを見いだしている。
しかし必ずしも一致した結果が得られてはい ない。Maurer&Sherod(1987)は1歳から の2年間におけるダウン症児と母親と相互作用 を精神年齢でマッチさせた対照群と比べ,指示
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性に差がないことを見いだしている。不一致は 多くの場合マッチングにおいて用いられた指標 の違い,及び指示性と応答性の定義の違いによ ると考えられており,生活年齢で合わせた場合 は差が表れやすく,精神年齢や言語発達の水準 でマッチさせると差がみられないという知見も 多い(Pricel989)。しかしCardoso-Martins&
Mervis(1985)は精神年齢,言語発達水準のい ずれでマッチさせた場合でもダウン症児の母親 の方が指示的であるという結果を示した。指示 性の指標となっているのは,命令発話,質問〉
話題の転換,ターン数,発話の長さなどさまざ まである。応答性の場合はあまり不一致がない ようであるが,障害児に対する応答性の方が高 いという結果(Fisherl987)もある。
指示性は言語発達を潜在的に抑制する,子供 との共同注意の成立を妨げるなど否定的に評価 されてきたが,それらとは異なった見方もでて きている。親子によって指示性の程度に相当の 差があるのではないかという立場,指示性と応 答性は相互に独立しており,後者が保たれてい れば言語発達を抑制することはないという立 場,指示性の内容によって区別が必要であり,
指示性にも言語発達に対して促進的な要素があ るとする立場である。
Mahoney(1990)は2,3歳のダウン症児の 親子について,会話中の母親のターンが子供に 比べて相当に多い群(インパランス群)と,ほ ぼ均衡している群(バランス群)とが区別でき ることを見いだし,それらの2群と発達年齢で 合わせた非障害児母子とを比較した。母親の発 話を命令のみ,応答と同時に命令,応答のみに 分類したところ,行為,注意,及び情報の要求,
試験質問などの命令発話はインバランス群の母 親がバランス群の母親の2.4倍あり,バランス 群の母親は非障害児群の母親の1.4倍であっ た。その結果ダウン症児の方が非障害児よりも 相互作用において受身的で,それはインバラン ス群でより顕著であった。母親の指示性は子供 の行動とは無関係で,子供の注意に関係しない
話題に対する注意を求めたり,より難しい行為 を求めたりする結果であったので,指示性が問 題である可能性が示唆された。
Crawley&Spiker(1983)は2歳のダウン症 児母子において,母親の指示性と応答性の程度 の掛け合わせにより,6つの下位群が区別でき
ることを見いだしている。Tannock(1988a)は ダウン症幼児の母親は発達年齢及び言語水準で マッチされた非障害児の母親に比べて,話題の 統制が多いが,非応答的ではないことを見いだ した。かれらはさらに子供に応答の義務を負わ せたり,話題を転換したりして話題を統制する ことが,子供の黙っているときに多くみられる ことから,不活発で応答的でない子供を参加さ せる方法として用いられ,会話に参加させる適 当な方法となっている可能性があるとみなし た。またTannock(1988b)は母親が子供の応 答を誘発しようとする応答統制には,子供の話 題を共有するのに用いるのと,子供の話題無視 で用いるのと2通りの場合があることを見いだ し,前者の場合は確かに応答統制が共同注意を 妨げるが,話題の開始と維持は成功しており,
子どもの話題を見過ごしてしまう後者の場合よ りは支持的環境を与えるとしている。さらにダ ウン症児でも非障害児でも,母親は子供が相互 作用に入っているときに応答を統制し,参加を 維持しようとすることを見いだし,応答統制を 減らすことは言語学習の機会を減らす危険があ るとしている。ダウン症幼児が母親の指示的な 発話からなんらかの利益を得ている可能性を Tannockは示唆している。
精神遅滞や言語障害をもつ幼児の母親の発話 がなぜ指示的になるのかという問題はまだあま り検討されていない。Davis(1988a,b)は精神 遅滞児及び言語だけが遅れている子供に対する 母親の発話は自由遊び場面では指示性の程度が 統制群と変わらず,何かを教える場面では指示 性が高くなることを見いだし,指示性はより進 んだ行動を子供に求めるために高まると考えて いる。Tannockはダウン症児の母親について,
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子供が不活発なために相互作用に入るよう促す 方略としての指示的行動という考えを提案して いる。Mahoney(1988)はダウン症児の母親が,
子供の非言語伝達には注意を向けているが,積 極的にはつきあわず,自分の選んだ話題で話そ
うとし,活動を求めることを見いだした。
精神遅滞及び言語障害をもつ幼児の開始が少 ないという結果は多くの研究で一致したもので ある。母親の発話に対する応答性が低いことに ついても研究の結果は一致している。ただし正 常知能をもつ言語障害児の場合は開始が少ない のは同じだが,応答性が低いということはない
(Cunninghaml985)。開始の乏しさは子供が 言語を学ぶ機会の減少につながるとみなされて いる。母親の発話の指示性が子供の開始の乏し さをもたらしているという仮定が,相互作用の 偏りを修正をめざすプログラムの前提になって いる。しかしその仮定はまだ充分に検証された わけではない。Girolametto(1988a)は精神遅 滞児に対する母親の発話の指示性を減らして も,子供の話題を維持する母親の発話,及び母 親による新しい話題の提供に対して,子供がそ れに応じることは改善されないと報告してい
る。
母親の発話の応答性,特に子供の話題に沿っ て話すことは子供に対して過度の認知的な負荷 なしに会話への参加を保障する役割を果たして いる。Mahoney(1988a)は1歳から3歳のダ ウン症児について,母親が子供の伝達に応答的 で子供の話題に沿って話す場合に,子供がより 言語を使い,応答的になることを見いだしてい る。しかし応答の仕方によっては必ずしも有益 な結果が期待できない場合もある。Fisher
(1987)はDAが10カ月から17カ月のダウン 症児と同発達水準の非障害児とを比べ,母親の 応答性はダウン症児に対しての方が高いことを 見いだし,ダウン症児は伝達の改訂や反復を求 められないために,子供からの開始が減ってい る可能性を示唆している。Fisher(1988)はさら に母親の応答性を減らすとダウン症児からの開
姑が増大することを明らかにした。過度の応答 性は子供が積極的に伝達手段を使ったり,組み 合わせたりする機会を減らす危険性がある。
高い指示性と低い応答性という対立図式はあ る程度までは当てはまるが,障害児の経験して いる相互作用の特徴を説明するのにはやや単純 すぎる。この図式は非障害児との比較によって もたらされてきたものである。障害児の経験す る相互作用の特徴を理解するには,群間だけで なく群内の比較や相互作用の詳細な分析が必要 であることを,ここでみた研究は示している。
焦点が限られた研究
指示性一応答性対立という大きな枠組みでは なく,障害児と大人との相互作用をもっと限定 された視点から検討することが試みられてい る。
Conti-Ramsden(1990)は就学前の言語障害 児で他に問題をもたない者について,母親から のリキャストがどのように行われているのか を,MLUが同一の1,2歳児の場合と比べた。
言語障害児の母親は応答,承認,明確化要請の ためにリキャストを使うことが少なく,情報要 求,断定,命令のために使っていた。また言語 障害児の母親は子供の発話との結束性をもつ発 話よりも,新たに何かの意味を加える発話を応 答に用いた。これは母親が開始の乏しい子供と 積極的に会話しようとする結果とみなされ,子 供が言語を処理する機会が減少する危険性が示 唆されている。実際にYoder(1989)は知能障 害がなく,言語表出のみが遅れている就学前の 言語障害児に対する母親のWh質問による明 確化要求,確認要求の多少が子供の1年後の助 動詞,補助動詞の獲得を予測することをみいだ
した。
前言語期の精神遅滞児に対する大人の応答性 にかんする検討が若干見られる。Wilkoxetal
(1990)は意図的伝達段階及び前意図的段階に ある幼児と母親との相互作用のビデオ記録をS T,教師,母親が見た場合の,子供の伝達の再
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認に非常に大きな個人差があること,ある子供 について再認性の高い大人が別の子供では再認 が少ないという,組み合わせに特殊な問題がみ られた。Yoder&Feagans(1988)は11カ月 の子供と母親との相互作用場面のビデオ映像に ついて意図帰属を行わせると,重度児の母親は 軽度児の母親よりも高い頻度で意図帰属を行っ ており,自分の子供だけでなく未知の子どもに ついても同様であった。重度児の親は子供の自 分に対する視線や発声を伝達的とみなしていた のに対し,軽度児の母親はおもちゃに対する視 線や発声を伝達的とみなしていた。重度児の母 親は相互作用を維持し,かつ自分が安心するた めに,非障害児に比べてより微妙な行動を解釈 しようとすると考えられた。子供が明確な手が かりを示すようになっても,このような意図帰 属が続くなら伝達の発達にとって有害となる可 能性が示唆された。
Wooton(1989)は重度遅滞のあるダウン症児 の音声に対して,母親が応答しない原因につい て検討し,子どもが音声に身ぶりや視線を協応 させるかどうかと音調的な特徴の有無とが応答 に影響すること,また絵本場面では母親が教え ようとするために子供の音声が無視されること を見いだした。
こうした焦点の絞られた研究は,障害児の経 験する相互作用の性格を明らかにし,治療に対 して有用な情報を提供するものと期待できる。
質問が多く,それは3歳以下の子供に対する話 し方に近いこと(Gardnerl989),就学前及び学 齢の多動児の場合,母親は注意の誘導と行動の 統制を試みるために指示的となり,子供の多す ぎる質問にたいして非応答的になること
(Mashl982),反響言語のない自閉症児では,
概念的に単純な内容の質問,及び「はい-いい え」質問,子供の話題に意味的に沿った質問が,
子供の応答性を高めること(Curciol987),な どの報告がある。
家庭外のコミュニケーション環境
障害児の場合も相互作用研究の主流は母子の 遊び場面を対象とするものであるが,非障害児 と同じように非母子の相互作用も若干検討され ている。
Vandell&George(1981)は3歳から5歳ま での聴覚障害児が教室で同年令の聴児と遊んで いる場面について検討し,聴児同士または聴覚 障害児同士の方が,聴覚障害児と聴児との組み 合わせに比べて,相互作用が長く続くことをみ いだした。聴覚障害児の開始は拒否されること が多く,また背後から話しかけられるというこ
とも多かった。
Conti-Ramsden&Taylor(1990)は4歳か ら6歳でMLUが11-2.2の範囲にある重度の 学習困難児と非障害児とが同じ教室にいる場合 に,教師がどのように話しかけているのかを検 討し,教師主導であれば異なる能力の子供集団
との会話が成立することを見いだしている。
Brinker(1985)は3歳から22歳の重度遅滞 児と非障害児との相互作用を,非障害児の参加 する特殊教育場面,学校の食堂,体育館,運動 場などで観察し,子供同士の働きかけが分離場 面よりも多いことをみいだした。
McLeanetal(1991)は施設に収容されてい る重度遅滞成人の場合,ルーティン化された活 動の中で伝達機会が提供され,大人が伝達を待 つようにし,身ぶり伝達に積極的に応答するよ うにした実験的なコミュニケーション環境でみ 障害の性格による違い
精神遅滞や言語障害とは別の障害をもつ子供 が経験している相互作用にはやや異なった特徴 がみられる場合がある。これらの子供について の報告は少ない。1,2歳の聴覚障害児につい ては子供が伝達において受動的で,母親が支配 的であること(Wedell-Monningl980),言語発 達が正常範囲にある3歳半から5歳の構音障害 幼児に対する母親の発話は,生活年齢及び言語 能力で合わせた子供のそれと比べると,非限定 質問が少なく,答を選ばせる質問及びyes/no
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られるさまざまな身ぶりが,通常の施設の生活 では観察されないことを見いだした。これは重 度遅滞成人が従属行動を期待されるでだけで,
伝達の機会も与えられず期待もされないこと,
施設のスタッフは彼らの伝達を待たず,実際の 行動を進めるだけで注意を共有しないこと,伝 達が失敗した場合に修理への努力が励まされな いこと,重度遅滞成人の非慣習的な伝達方法が 周りにわからないことなどによると考えられ た。
これらの家庭外のコミュニケーション環境が 障害児者の言語獲得に及ぼす影響は,早期に主 に家庭内の母子相互作用において言語を学んで いるとみなせる非障害児の場合に比べて相当に 大きいと思われる。こうした研究がさらに必要 である。
新しい研究の方向は障害児の相互作用に特徴 的な問題を,取り除かれるべき偏りとして片づ けてしまわずに,もっと積極的に検討の対象と するところから開拓されると思われる。それに は相互作用の特殊な出来事,たとえば共同注意 の崩壊やターン・テーキングの中断などについ て検討し,それに影響している要因を特定する ことが含まれる。また過度の指示性など障害児 に特有な相互作用スタイルが,どのようにして 形成されてきたのか,それがどのように変化し て行くのかという,障害児の親子独自の関係の あり方を,子供の学習に対する有益な面の可能 性も考慮しながら検討することが含まれる。
相互作用を通じた言語獲得の援助 統語形態モデルの提供
リキャストなどによって提供される統語と形 態のモデルが直接子供の獲得内容となるという ことを利用した指導の方法が提案されている。
Schwartzetal(1985)は動作性IQが85以上 で言語表出がMAより1年遅れた水準にある
2,3歳の言語障害児に,垂直的文法構成から 水平的文法構成への移行を利用した多語発話の 指導を試み成果をあげている。
Scherer&O1swang(1989)は反響言語があ り統語的な発話の乏しい自閉症児に対して,子 供の自発的発話または模倣発話を大人が拡充 しそれを子供が再び模倣するという手続きを 用いて,行為と対象などの意味関係をもつ発話 を形成している。しかし自閉症児の場合,こう した直接の模倣は自発的な統語的発話の産出に つながらないという知見もある(Tager-Flus‐
berg&Calkinsl990)。
研究課題
比較研究を通じた偏りの抽出というパラダイ ムは今後もなお採用されていくことになると思 われるが,それは研究結果の不一致と解釈の混 乱を引き起こしてきたことから,一方では方法 論上の洗練が求められると同時に,別のパラダ イムが模索されていくことになると思われる。
従来のやり方で検討しなければならないのは,
まず相互作用の起きる文脈または活動の認知的 及び社会的な複雑さの影響である。それが障害 児の能力の範囲にあるかどうかは相互作用にお ける主導権の行方に関連すると思われるが,こ の点についての検討はほとんどない。次に相互 作用の相手となる大人の行動のばらつきの問題 がある。それが何に影響されているのか,その 結果もたらされる相互作用スタイルのちがい は,どの程度の影響を子供の言語とコミュニ ケーションに与えるのかなどの検討が必要であ る。また従来の研究は子供の発達上の特徴につ いての統制がかなりゆるやかであり,それが混 乱をもたらしていると思われるので、,特定の特 徴だけをもつ下位群に限定した検討が必要であ
る。
指示性一応答性仮定に基づく指導
主に初期統語的発話の段階にある精神遅滞 児,言語障害児を対象とし,その母親の相互作 用スタイルを統制しようとする早期プログラム がいくつか提案されている。
Mahoney(1988b)は子供に対してより応答
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ほど複雑でないこと,相互作用における活動は 子供の能力以上に難しくないことが必要とな 表1TRIPにおける目標の階層
日常ルーティンとしてのターンテーキング 子供の発達水準に合わせる
技能間の調節可能範囲を知る 子供の行動スタイルに合わせる ターンテーキング・エピソードを長くする 子供の興味に合わせる
親のマンドを減らす 親子の楽しみを増やす 親の応答性を高める 子供の行動を発達的に理解する 子供の行動を読みとる ターンテーキングのバランスをとる ターンの複雑さを減らす 子供の世界にはいる 一緒に遊ぶことを増やす
薑
薑
薑 薑
薑 薑
三夕鬘 鬘
蓼
的になり,より支配的,指示的でなくなるよう に親を促すための,Transactionallnterventio、
Program(TRIP)を提案している。プログ ラムの目標は表1のように階層化されている が,上下関係は絶対的なものではなく,上位の 行動を下位の行動よりも先にマスターする場合 もある.これらの達成に二つのパラダイムに基 づく指導の方略が用意される。
第一のパラダイムはターン・テーキングで,
これには二つの目標がある。一つは親子のター ン数及び長さを同じにするターン・バランス,
もう一つは相互作用の焦点を統制する機会が親 子で対等となるようにし,少なくとも50%以上 のターンを子供の開始した活動への応答とす る。これらのために八つの指導方略があり,ター ン・バランスのためにはターンを短くする,自 分のターンの後に子供の応答を待つ,子供に ターンをとるよう信号を出す,身体的にターン を促すの4つがある。親の応答性を増大させる のには,子供を模倣し子供についていく,親に 自分の指示発話の数に気づかせる,質問を減ら す,子供にもう一つターンがとれるようにする。
第二のパラダイムは相互作用における合致で あり,大人の相互作用スタイルが子供のそれに 対してあっていること,相互作用の焦点または 話題が子供のその時点での興味に沿っているこ と,大人の行動は子供の情報処理能力を超える
図1ELIPの指導要領:遊びから会話にいたる相互 的な発達
□子供国大人が漸進的に子供に合わせる行動
る。TRIPは2から32カ月の子供とその親に ついて9カ月から11カ月試行され,親の場合は ターン・テーキングと相互作用の合致の両面で 改善が見られ,子供の発達年齢,言語年齢,運 動年齢の増加が見られた。
オハイオ州立大学のNisongerCenterで開 発されてきたEnviromentalLanguagelnter -ventionProgram(ELIP:McDonald&
Gilletel988)は重度遅滞児とかかわる親と専門 家を対象とする。-人遊びから,社会的相互作
表2言語及び会話の発達を妨げる問題と解決方略 問題となる理由
大人の行動の問題
子供はもっと自分の考えを伝え るかもしれない
子供は学習のために他者の話題 にとどまる必要がある 子供は受け身になり、学習機会 を失い、伝達と失敗とを結び付 けてしまう
話題の支配
子供に話題を支配させる 質問と命令に絞る
なぜ重要か 方略
子供は自分の話題なら言語を学 ぶ動機づけが高まる
子供は他者の視点を学ばなけれ ばならない
受け身的な子供は伝達を期待し ていない
子供の話題に沿う 大人の話題に子供をいれる 伝達を期待することを示す
三
ラZ 彩夛百 語
ことばの意味
三
Zzコミュニケーション
動き音声
菫
二
多多2 杉;社会的な遊び
ターン・テーキングによる相互作用
三
三
行為一意味-人遊び二
ilzZ
杉2
大井学:相互作用と障害児者の言語及びコミュニケーション 93
用,前言語的伝達,言語と会話にいたる過程(図 l)において,大人が子供に漸進的に合わせて いくことを基本的な指導要領とする。それぞれ について妨害となる問題及び解決の方略が示さ れている。表2にその一部を示す。
InterReactiveLearning(INREAL:
Weissl980)はコロラド州で開発された。その 特徴は大人からの発話誘発のための状況設定な どを行わず,自然な方法をとること,反応的言
表31NREALにおける反応的言語技法
表4ハーネン両親プログラムのコース モジュール1観察
センターを訪問し専門的な評価を受ける評価フォー ムを完成させるための家庭訪問
1子供に何を期待すべきか
親によるコミュニケーション評価チェックリスト モジュール2子供のリードに従う
2子供の学習を助ける役割
子供の開始に応答するよう親を励ます 3ターン・テーキングの維持が会話を進める
子供を励まして話題にとどまらせることを親に教え る復習のための家庭訪問
4子供が学べるような応答 親の応答の方略 5期待を広げる-歩み寄り
子供のよりよい応答の引き出しかた 復習のための家庭訪問
モジュール3遊びと音楽 6目的をもった遊びと音楽
言語を刺激する遊びと音楽の選び方 7-緒に本をよむ
本の選び方と読み方 復習のための家庭訪問 8要約と復習 ミラリング
セルフトーク パラレルトーク
リフレクテイング エキスパンション
子供の非言語的な動きによ る表現を観察し、まねる 子供との共同活動で大人の 参加内容を話す
共同活動における子供の参 加について話す
子供のことばに耳を傾け、
非罰的に繰り返す 子供の不完全なことばに耳 を傾け、関連する文法的、
意味的、音韻的な要素を加 えて広げる
子供のことばに耳を傾け、
話題の一部に関連する情報 を加えて広げる
た。指導群の子供は,子供の話題に対する母親 の継続発話により多く応答し,3つのターンが 続くようになり,子供からの話題転換が増え,
ターン数,言語ターンの割合が増加,用いる語 彙が多様になり,母親を無視することが減った。
オーストラリアで開発された早期環境的言語 治療プログラム(TheEarlyLanguagelnter‐
ventionProgramPricel989)も上記の二つ のプログラムと似ている。ゲームなど家庭で使 える活動が提供され,子供の評価と適切な方略 のための親向けのビデオが用意される。効果に ついては,6カ月間で子供のターン数の増加,
母親のことばの減少したことが報告され,2語 発話水準以上の子供では母親の発話にコメント
とフィード・バックなしの命令文が多いと,言 語発達が遅くなる。
イギリスではMcConkey(1979,1988)によっ て親むけ及び教師むけの話し方,遊び方のガイ ドが提供されると共に,ビデオを見ながら討論 する方法がとられている。
これらの他に試行的なものとして仲間の相互 作用によるものがある。(Goldstein&Ferrell l987)。3歳から5歳の障害児と教室で接触する
エキスパテイエイション
語技法(表3)の利用,そのための相互作用の ビデオ記録の分析である。その効果は就学前の 言語障害児について(Weiss),学齢の重度遅滞 児について(Heublein印刷中)確認されている。
ハーネン早期言語両親プログラム(The HanenEarlyLanguageParentProgram Girolamettol988a,1988b)はトロントで開発 されたもので,11週間に8回の夕方のグループ セッションと家庭訪問が3回行われる。家庭訪 問では両親と子供の相互作用がビデオ記録さ れ,それをプログラムの方略を教えるのに用い る。プログラムには言語治療士のほかに,プロ グラム経験者である障害児の親が共同指導者と して参加する。親に対する指導内容は表4に示 す。MLUO-L4のダウン症児を含む発達遅滞 児とその両親に対して行われた結果,指導群の 母親は非指導群の母親に比べて,子供が無反応 でも応答し,話題を変えず,自分自身のターン が少なく,話題が継続し,子供への視線が増え
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同級生に,障害児のことばの模倣,拡充,明確 化要請などの方略が教えられた結果,障害児の 応答性が高まった。
これらのプログラムは親に対するガイドとし て始まったが,言語治療士以外の教育・治療の 専門職や,施設において介護に当たっているス タッフ(Owensl987)など非専門職種まで含め る方向に展開している。これらの場合では,言 語治療士は直接的な治療技術だけでなく,さま ざまな人々を対象となる障害児者とのコミュニ ケーションを軸として統合する役割も求められ るようになっている。そのための訓練プログラ ムにかんする研究はまだ行われていないようで ある。
児に対する母親の発話を,前言語期の非障害児 に対するそれと比較検討している。その結果,
規定的て、否定的な発話内容が多く,子供の発声 に応じることが少ないこと,重度児の場合は発 話が長く代名詞が多いこと,さらに学齢の重度 児では指示的発話が多く,発話中に対物的な働 きかけが乏しく,子供の発声の強化が乏しいこ とが示された。また松尾・加藤(1990)は中軽 度遅滞児に対して養育態度が拒否的な母親の発 話が,実際には拒否的発話をせず,むしろ応答 的で、あることを見いだしている。
三浦ら(1986)は聴覚障害幼児と母親とのコ ミュニケーションの成立に対して,母親が応答 的であること,指示的でないこと,子供が見て いるときに母親が話しかけることが影響するこ
とを見いだした。
小沢・滝(1985)は吃音幼児の母子コミュニ ケーションについて検討し,母親が自分から話 し,子供から話しを引き出そうとするのに対し,
言語治療士は子供の発話に応答し,受け入れよ うとするという違いがあるとしている。
綿巻(1988)はダウン症児と大人との会話を,
開始と応答,遡及と前望という枠組みで分析し,
子供の応答を引き出す大人の働きかけと,子供 の発話への大人の応答によって会話が成り立っ ていることを示した。ダウン症児の前望性の低 さと自己遡及が少ないことがこれに関連してい ると考えられた
大井・大井(1988)は語用能力が言語の他の 面に比べて未発達な言語障害児の不適切な発話 が,伝達意図の未分化な状態で大人から発話を 誘発される結果もたらされる可能性を,治療者
との相互作用の分析を通じて示した。
本郷(1985,1986)は統合保育の場面における 障害児と非障害児及び保母との相互作用を検討 し,一つの会話あたりのターン数の短い子ども は,発声のみ,あるいは叙述の働きかけをされ た場合,見るだけか無視することが多いこと,
ターン数の多い子どもは発声と動作,あるいは 指示の働きかけに対してに明確な行動変化を起 日本における研究動向
非障害児に対する母親の発話がどのような音 韻上の特徴をもっているかということや,伝達 機能の分布とその年齢的な変化などが検討され てきたが,言語入力が獲得に与える影響にかん する研究はほとんどない。田原(1985)は2歳 及び4歳の子供に対する母親のリキャスト,拡 充について検討し,そこで用いられた発話が1,
2カ月後の子供の発話レパートリーに含まれる ことを見いだしている。
障害児の場合は母親の発話の特徴の非障害児 の母親との比較,相互作用過程の分析などが試 みられているが,言語獲得への影響を取り上げ たものは少ない。
70年代にダウン症及び脳性麻痒の幼児を対 象とする後藤ら(1976a,l976b,1977)によるも のがある。これは母子言語関係の成立を規定す る要因に焦点が置かれ,相互作用スタイルより は相互作用の過程の談話的,会話的な角度から の分析がなされている。そこでは非言語行動が 言語関係の成立に影響することが見いだされて いる。また清水・八木(1975)は聴覚障害幼児 に対する母親の発話を検討している。
80年代には研究は若干増えている。松尾・加 藤(1984,1985,1989)は前言語期の中重度遅滞
大井学:相互作用と障害児者の言語及びコミュニケーション 95
こしていることを見いだした。さらにターン数 の多い子供の場合は,ターンを分類して保母の 働きかけとの関係を分析する必要性を示した
(本郷1989)。本郷(1988)はまた集団場面にお ける障害児の相互作用にかんする研究を概観し 方法論的な検討を行っている。
大井(1989a,1990,印刷中b)は言語発達遅滞 の幼児,学習障害児,重度精神遅滞児,話しこ とばのある自閉症児について,大人との会話ま たは相互作用が成立しなかったエピソードと成 立したエピソードについて比較し,それに影響 する大人の応答についての語用論的な分析を 行った。大井(準備中)はまた前意図的段階か ら意図的伝達段階への移行期にある重度精神遅 滞児と非障害乳児とに対する,大人からの伝達 意図の帰属について検討し,重度遅滞児に対す る帰属の個人差が乳児に対する場合に比べて大 きいことを見いだした。
大人の発話が予測できるように慣例化されてい る必要がある。長崎ら(1991)は軽度遅滞のダ ウン症幼児に対して,大人及び仲間との共同行 為ルーティンを利用して名詞と動詞の拡大及び 二文節動詞構文の獲得を促している。畦上
(1990)は遊びのフォーマットを設定して,言 語発達遅滞児と治療者及び母親とのコミュニ ケーションを促進し,場面に合った要求言語行 動及び、言語によるやりとりが形成されたことを 報告している。
大井(1989b,投稿中)は前言語期の重度精神 遅滞児の要求意図をめぐる大人との交渉を通じ て,ちょうだい身ぶりと視線との協応,ついで 到達などの指示身ぶりの使用を促進できたこと
を報告した。そこでは重度遅滞児の前言語伝達 技能の制限には大人の応答の不適切さが影響し ている可能性があること,大人の応答方法を適 切にして,子供との交渉が行われるようにすれ ば,伝達技能が改善されることが示唆された。
これらの研究は日本でも相互作用に焦点をお いたプログラムが有効であることを示唆してお り,その開発に向けた基礎的な研究の蓄積と共 に,実用にたえる評価と指導の手続きを作成す るための投資が求められる。
相互作用を通じた指導
国内で独自に開発されたプログラムはまだな い。コロラド大学で開発されたINREALが 竹田らによって設立された日本INREAL研 究会のもとで利用され始めている(竹田・田中 1988)。指導法研究の焦点は主に言語発達遅滞幼 児と治療者とのコミュニケーションの成立に関 連する要因の探索に当てられている(日本IN REAL研究会1991)。適用対象は学齢の精神 遅滞児や自閉症児,失語症者に広がってきてい る。大井ら(1989)は中度精神遅滞の中学生の 教室における教師及び同級生との会話について INREALを適用し,生徒からの会話の開始 の増大をはかった。また金沢大学教育学部付属 養護学校(1991)では自閉症児についてもIN REALにそった指導を行い,大人との安定し た相互作用を確立することが,痛癩,情緒的な 混乱,攻撃性を減らすのに有効であることが報 告されている。
相互作用が言語獲得に促進的であるために は,それが起きる文脈が子供によく理解され,
まとめ
英語圏における非障害児にかんする研究は,
大人からの言語入力と子供の言語獲得機構との 関連及び認知的,社会的発達の相互作用への影 響を射程距離に入れ始め,質的な飛躍を遂げよ
うとしている。これまでの研究はすでに強いイ ンパクトを障害児にかんする研究と実践に与え てきたが,今後一層妥当性の高い指導方法が開 発されることが予想される。
この論文で取り上げたものから考えるとこれ までの障害児にかんする研究は次のような状況 にある。
1)偏りとその修正というパラダイムによっ て,指示性と応答性にかんする仮定の検証が試 みられてきた。それは初期統語発話の段階にあ
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し基礎的な研究は散発的にしか行われておら ず,指導プログラムの開発には至っていない。
英語圏で得られた知見は,言語及び文化の違い を差し引いても,今後の日本における相互作用 研究にとっては有用なものであると考えられ
る。
る精神遅滞または言語障害をもつ幼児について は妥当することが確認されているが,相互作用 スタイルの修正が言語の獲得にどのように影響 するのか,その他の言語水準にあるものや異な る障害をもつ者に当てはまるのかどうかは充分 わかっていない。
2)指示性と応答性という対立図式は障害児の 経験する相互作用の特徴を説明するのには不十 分であり,相互作用の過程にかんする限定され た分析が求められる。それはまた別のパラダイ ムをとる研究につながる。そこでは排除すべき 偏りとみなされていたものを見直し,共同注意 の崩壊などの相互作用における特殊な出来事の 機構,相互作用スタイルの偏りの積極的意義な
どが検討されることになる。
3)それと関連して従来の研究範囲を広げる必 要がでてきている。母子に限定されない家庭外 の相互作用が障害児の言語獲得に与える影響,
障害児と大人とのそれぞれの特徴の組み合わせ が相互作用に及ぼす影響などが検討されるべき である。
4)指示性と応答性にかんする仮定に基づく指 導プログラムはある程度の成功をおさめてい る。これらの主要な適用対象は就学前の障害児 とその両親であるが,言語治療士以外の専門職 や非専門職に対する訓練に利用し,学校や施設 におけるコミュニケーション環境の適切化を試 みるという発展がみられる。
5)日本でも若干ではあるが障害児に対する母 親の発話の特徴にかんする検討,障害児とのコ
ミュニケーションの成立に影響する要因の検 討,会話の分析が行われている。指導のプログ ラムはINREALのほかには見あたらない。
指導法研究として慣例化された相互作用の効 果,意図をめぐる交渉の意義が検討されている。
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