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清代刑法に於ける窃盗罪

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清代刑法に於ける窃盗罪

著者 森田 成満

雑誌名 星薬科大学一般教育論集

13

ページ 1‑42

発行年 1995

URL http://id.nii.ac.jp/1240/00000196/

(2)

清代刑法に於ける窃盗罪

田 成満

  目 次

言:⁝⁝⁝⁝・⁝⁝−⁝⁝⁝⁝・⁝⁝⁝⁝⁝:⁝・⁝⁝⁝⁝⁝⁝:・:⁝⁝⁝⁝⁝⁝・⁝・⁝⁝⁝⁝・⁝・⁝⁝ 二

第一節 窃盗罪の体系⁝⁝⁝⁝−⁝:・:⁝⁝⁝⁝⁝⁝・⁝⁝⁝:⁝⁝⁝・⁝⁝⁝⁝⁝⁝:・:⁝⁝:⁝⁝⁝ 一一一

第一款 窃盗罪の構成要件⁝⁝⁝⁝⁝⁝・・⁝⁝⁝⁝⁝⁝:・⁝:⁝⁝⁝⁝⁝・:⁝⁝⁝⁝⁝⁝・:⁝⁝− 三

第二款 窃盗罪の特別罪⁝⁝⁝⁝・⁝⁝・⁝⁝⁝⁝⁝⁝:・⁝⁝⁝:⁝⁝⁝・:⁝⁝⁝⁝⁝⁝・:⁝⁝:⁝二七

第二節 窃盗罪の刑罰と賊物⁝⁝⁝⁝⁝⁝・⁝−⁝⁝⁝⁝⁝・⁝⁝⁝⁝:⁝⁝・⁝⁝⁝⁝⁝⁝:・⁝⁝:⁝三四

第一款 窃盗罪の刑罰⁝⁝⁝⁝⁝⁝・・⁝⁝⁝⁝⁝⁝:・⁝⁝⁝⁝:⁝⁝・⁝:⁝⁝⁝⁝⁝・:⁝:⁝⁝⁝三四

第二款 賊物の還付と金銭の追徴⁝⁝⁝・⁝⁝⁝・:⁝⁝⁝⁝⁝⁝・⁝⁝⁝⁝:⁝⁝・⁝⁝:⁝⁝⁝⁝・・三五

語 ⁝:⁝⁝⁝⁝⁝・⁝⁝⁝⁝⁝⁝:・⁝⁝⁝⁝⁝⁝:・⁝⁝⁝⁝・⁝⁝・・⁝:⁝⁝⁝⁝⁝・⁝:⁝⁝⁝⁝⁝・四一

1

(3)

2序言

本稿は財産犯罪の基本的類型である窃盗罪の構造を見ることを通して︑清代刑法に於ける財産権︑即ち︑物や利益に対

する保護の仕組みの特徴やさらには清代社会の特徴の一端を窺うことを目的とする︒

は所有権法や家族法と関係する︒それ故︑所有権法や家族法との関わり方に留意する︒また︑窃盗罪以外の財産

罪にも目を配ることを通して︑逆に窃盗罪の特徴や財産犯罪に於けるその位置を理解する︒

まず︑清代の刑法法源の立体的な仕組みの中で窃盗罪の体系を見る︒窃盗罪は︑主体︑客体と行為等の特徴に着眼して

類型化されている︒初めに︑尋常の窃盗罪︵﹁尋常窃盗﹂︑﹁凡盗﹂︶の構成要件とその特徴を明らかにする︒それは窃盗と

う行為を軸に︑窃盗罪が成立する外枠を見ることである︒次いで︑何に着眼したどのような特別規定があるかを跡づけ

ることによって︑窃盗罪の特別罪を見る︒

して︑さらに︑窃盗罪に対して何を考慮してどのような刑罰を科し︑賊物をどのように処理しているかを検討する︒

会経済史の分野には︑先学による厚い研究の蓄積がある︒しかし︑法律的側面に着眼して窃盗罪︑あるいは︑広く財

罪の仕組みを解明する本格的な過去の業績は殆どない︒それ故︑本稿はその大部分を第一次史料に依拠する︒史料は

律例と刑案が中心となる︒

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第一節窃盗罪の体系

第一款 窃盗罪の構成要件

法の法源の仕組みの特徴に由来することであるけれども︑清代刑法に於ける犯罪の体系を構造的にはっきり理解する

ことは一般的には容易ではない︒罪刑法定主義をとる現代法は厳格に解釈される成文法の枠の中でしか犯罪は成立しない

ら︑成文法によって体系を理解できる︒

清代刑法では律や条例の条項とその適用だけではなく︑個別的な事案について皇帝の裁可を得て時になされる両請や比

付のあり方を見て体系を窺うことになる︒両請や比付がなされるので︑犯罪成立の範囲や刑罰の軽重の枠は︑いずれも現

法に比べてはっきりしない︒もっとも︑窃盗罪に限ればその成立要因が意外に限られていることを反映して︑両請の事      ②

案 を検索できないし︑比付されることもそれ程多くないので比較的体系をとらえ易い︒

体系は法の内容ぱり一般法と特別法に分かれ︑立体的である︒そ・︑には法形式による優劣はなく︑制定の先後と内容

よ.て優劣が決勤︒

財産犯罪には領取の粗暴性︑背信性の有無や領得が被害者の意思によるか否かという行為の特徴に着眼して︑窃盗罪よ

り刑の重い強盗罪や槍奪罪等の構成要件と刑の軽い構成要件が存在する︒横領罪や背任罪がはっきり独立して存在しない と・︑うに清代刑法に於ける財産犯罪の特徴三つが商る︒           常の窃盗罪とは︑他人の動産をそれと知りながら︑所有者の意思と信頼に背いて敢えて自分の物にする犯罪である︒

3 体について︑尋常の窃盗罪は人であること以上の限定をしていない︒

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4       ⑥窃盗の客体は他人の動産である︒刑律窃盗条のような律例等の史料に言う﹁財﹂や﹁財物﹂は動産を意味する︒

 およそ︑窃盗に既に着手して︑財を得なければ答五十で刺字は免除する︒ただ︑財を得れば賊を分けたか賊を分けていないかに関係

なく︑︵複数の人からの窃盗は︶一人の所有者で重いものについて︵罪を論じ︑共同した窃盗は︑︶賊を合わせて罪を論じ︑従者はそれ

れ一等を減じる︒⁝初犯は右小腎縛上に窃盗の二字を刺し︑再犯は左小腎縛に刺し︑三犯は絞監候とする︒⁝

もそも︑財産犯罪は管理可能な有体物を客体とする︒液体である水は独立した客体としての財物とはならない︒他人

費用を出して囲った境界の明確な私有の水を勝手に引いたとき︑水に着眼して水を盗取したと構成するのではなく︑土

地の利用を侵害したときに準じてとらえている︒刑律盗田野穀麦条に嘉慶年間に二度改正された次のような条例が付され  m

る︒

民 間の田畑で︑もし︑自分の土地の中に於いて技術と力を費やして︑池塘を築き︑溜あて蓄えている水が︑業主が水車で田に入れお

えているか︑まだかには関わりなく他人が勝手にひそかに放って自分の田に潅概したら︑夜間か日中かは問わず︑その潅概した田畑の

畝 数に応じて︑他人の田を侵佑したときに照らして⁝処断する︒⁝

不 動産︵﹁田宅﹂︶は有体物であり︑そして︑不動産を不法に自分の物にするものもいるけれども︑窃盗罪は成立しない︒

       ロ対しては︑別に戸律田宅門に盗売田宅条︑典売田宅条がある︒土地やその定着物の一部を分離したとき︑その部

動産となり︑窃盗の客体となる︒もっとも︑実際上︑問題になるのは穀草樹木を取ったり盗掘するとき等であり︑い      ⑨ も特別規定がある︒       09 は時に取引きの客体となる︒例えば︑奴脾は売買されるし︑違法行為ではあるけれども︑自分の妻妾や娘を典雇し      む

妻 妾とすることもある︒しかし︑人体に対しては窃盗罪は成立しない︒

       軽微な価値しかない動産は客体とならない︒可罰的違法性がなければ既に構成要件に該当しない︒それ故︑軽微な価値

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しかない動産は他の犯罪の客体になることはあっても︑窃盗の客体にはならない︒乾隆年間末葉の説貼に二つの事案が紹      03 介 されている︒真昼に広野で数個の柿を盗んでも窃盗にはならないという︒

  ⁝河南省が上奏した趙文科が程壬午が張大元の土地の中の柿の果実を摘み取り︑談判したけれども承服しないので︑趙文科は進み出

解 を勧めたところ罵られたので腹を立て程壬午を蹴って傷つけて死なせてしまった一案は︑程壬午は真昼に広野で柿の果実数個を

摘み取ったのであって︑窃盗に比べることはできず︑趙文科を闘殺によって絞を適用するといっている︒また︑陳西省が上奏した武小

仰児等が彼の土地の中の豆を摘んだので切って傷つけて死なせてしまった一案は︑武小孟を檀殺として絞を適用し︑いずれもす

そのようにせよと返答して書類に整理してある︒この二案は︑いずれも田野の疏果を摘み取り殴られて死んでしまったものである

けれども︑ただ︑細かく事案の情況を調べると︑程壬午は道で通りかかってついでに柿の果実を数個摘み取ったのであって︑窃盗に比

られない︒そこで闘殺に照らして罪を定めた︒劉仰児が劉法児等とかたらって豆を盗み摘んだのは︑あるいは袋を使ったり︑あるい

は銭袋を使って詰め込んでおり︑実際︑窃盗である︒それ故︑罪人として罪を定めた︒情況が同じではないので律の引用も︑また︑違

うのであって︑処理にデコボコがある訳ではない︒⁝

定 的な価値を持つ財物︵﹁実賊﹂︶が手に入ったときに賊物と評価する︒現金に換える可能性のはっきりしない銭票や

票︑銭帖は財産犯罪の客体にならない︒票を持っていればだれでも直ちに換金できるものは願となるけれども︑まだ支

払い期限の来ていない銭票や支払いのときに署名を必要とする本人にしか支払われない銭票は虚賊であって︑賊ではな盗       o い︒道光初年の四川司の審理した劉泳泰が漏若瑳の銀両銭票を槍奪した一案はこの趣旨を記してい劃︒

⁝票の中に﹁票を見︑自署を見て銀を渡す﹂の文字がはっきり註記されて︑票があっても自署がなければ銀を取ることはできないと

法  いっている︒賊を計算して罪を科することはできない等々︒銀銭各票を槍窃したとき︑もし︑賊犯が票を持っていれば直ちに使えるの  であれば︑もともと︑現賊と異ならない︒それを使ったかどうかを論ずる・﹂となー︑賊を計算して罪を科するべきである︒もし︑盗ん清  だ票が︑あるいは期限を定めて銭を支払ったり︑あるいは本人を確かあて始めて銭を渡すのであれば︑賊犯が盗んだ票は実際の銭のよ

  うに使えないのであるから実賊として罪を科することはできない︒⁝

5

(7)

6 物は窃盗の客体とはならない︒刑律盗田野穀麦条の総註は人の手が加わっていない柴草︑木石のような無主物には      09窃盗は成り立たないと記している︒

 ⁝山野の柴草や木石の類いは︑もともと物主はない︒人はだれでも取ってよい︒ただ︑他人が力を使って伐採して積み集めたら︑そ

その人の物である︒勝手にそれを持っていけば︑自分の物ではない物を取るのであって︑それは盗である︒それ故︑また︑上のよ

うに罪を科する︒

留意しなければならないのは︑私法上の権利はなくても窃盗罪は成立するということである︒禁制品に対する窃盗罪も

あり得る︒刑律盗軍器条は︑民間人は所有できない軍器を盗んだときは私有物を盗んだのと同じように凡盗として処理す  06⑰るとする︒

 およそ︑︵人が受け取って家に置いてある︶軍器︵衣甲︑鎗刀︑弓箭の類い︶を盗んだものは︑賊を計算して凡盗として取り扱う︒もし︑︵民間では︶禁止される軍器︵人馬甲︑傍牌︑火筒︑火磁︑旗轟号帯の類い︶を盗んだものは︑被害者が既に私的所有権を得ている

ときの罪と同じである︒⁝

  ところで︑財産上の利益を窃盗の客体とする史料を検索できない︒財産上の利益が客体とならないことは︑他の財産犯

も当てはまり︑清代に於ける財産犯罪の特徴の一つである︒他人の物を占有しているものが︑それを処分して財産的

利益を取得することはあるけれども︑それは財物取得の一形態であって無形の財産的利益を客体とする犯罪としては構成

しない︒運送するべき官物を換金しておいて︑納入する場所で新たにそれより安い同種の物を買って官に納あることに      08よつて差額の利益を手にする監守の官員を自盗の罪に処するとする戸律転解官物条がある︒そこでは官員は無形の利益を

取 得しているけれども︑差額の利益を自盗の客体と考えてはいない︒

客体を考えるときに留意しなければならないのは︑家産を法律的にどのようにとらえたら良いかということであ

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       ⑲   る︒家産とは個々の物に対する概念ではなくて︑増減する収入と支出の価値の総体であるとされている︒それ故︑家産に

対する窃盗罪というとき︑正しくは家産を構成している個々の動産に対する窃盗罪ということになる︒

して︑家産の法律関係について︑中田薫博士や仁井田陞博士は家族員の独立した人格の存在を前提にして家産の所有       ⑳ を考えて合有とされる︒ただし︑尊長が家族員に対する教令権を持つとする︒滋賀秀三博士は家産の処分や家産分割等

於いて家族員が享有する権限の内容に着眼して︑それを自由になし得るものを所有者としてとらえ︑父子同居型の家で       ⑳父︑兄弟同居型の家では兄弟の所有とされる︒

しかし︑人格のとらえ方の違いを反映して︑家の外と家の内では法の仕組みが大きく違うのであって︑それ故︑家の外

有関係と家の内の支配関係の体系の違いに留意して見ていく必要がある︒諸先学とも家の外の所有権法体系の存在を

した上で家産をとらえようとせず︑家の内にも物権である所有権が存在することを前提として分析されている点で筆

者とは基本的な理解が異なる︒また︑官法と民間秩序に分け︑さらに︑権利か否かにも注意した法の存在の仕組みと保護

着眼した構造的なとらえ方を目指していない点で筆者とは分析の方法も違う︒

同居の家族が家産に対ξ外観上窃盗に類似す・ヂ打蓼なす・とはあ軸しかk窃盗罪は成立しなか・たらしい.

そこには人格に対する直接の侵害はなく︑同居している家族の関係を否定するような犯罪性が存在しなかったからであ

る︒窃盗罪が問題になるのは動産についてである︒父子同居型の家における父以外の家族や兄弟同居型の家に於けるその

外の家族が尊長の指示によらずに勝手に家財を利用︑処分をすると檀用罪が成立するし︑父が不公平に家産分割す

ると分析不公の罪にな︑けれども窃盗罪は成立しない.そし誌兄弟間に於いては家産分割後の盗売にすら不応為罪しか

ず︑窃盗罪が問題になることは事実上なかったと思われる︒

7 に︑窃盗という行為の特徴を見る︒窃盗は第一に狭義の盗取に入る︒広義には他人の物を不法に領得する行為が盗取

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8 ある︒狭義には領得罪は盗取と所有者の意思により交付されるものに分かれる︒盗取とはその人の意思に沿わずに他人

物を領得する侵奪的行為を指す︒

盗 取のいわば主観的要素として︑いわゆる不法領得の意思の存在を要件とする︒︷窃盗して自分の物とする︒︵﹁窃盗⁝入

己﹂︶︸他人の物であることの認識のほかにこの意思があるときに盗取となる︒自分の物にするという意思を欠く棄殿は窃      ㈱

盗 とは異なり︑棄殴罪となる︒

守の官員が銭糧等の物を他の官用に流用する行為も盗取にはならない︒自分の物にしていないからである︒監守自盗

条を準用するとする戸律那移出納条の総註は︑那移出納は別の官用に充当するといっても侵盗入己とは同じではないと記   ㈱している︒庫銀を侵盗した崇倫永はすでに死亡しているので︑子の崇倫永を監禁して追及し賠償させるとする通行されて

例とされた乾隆十二年の事案は︑州県官が倉庫を侵蝕するのは公のために流用したのと比べることはできないと記し︑      ⑳︵﹁州県官侵蝕倉庫︑非因公那用可比﹂︶那移は盗取にはならないことを示している︒

当該財物あるいは同種の物を返すつもりで借りる一時的な使用も不法領得の意思がないので︑盗取にはならない︒戸律

用受寄財物条は受寄した他人の財物や畜産を勝手に使っているものについては坐賊として処理し︑偽って死んだとかな

くしたとかいったときは返す意思が無いとして︑窃盗罪の刑罰からそれぞれ一等を減じるとする︒この規定の総註は︑不

領 得の意思の存在が盗取の要件となることを記している︒

 およそ︑人が寄託した財物や畜産を受けとって︑勝手に使っているものは︑まだ︑償還する心があり︑これをくすねようとしている

ものではない︒それ故︑坐賊として処理し一等を減じる︒もし︑畜は死に財はなくしたと詐言すれば︑欺騙しこれを隠匿するのであり︑

もうという心がある︒それ故︑窃盗に准じて処理し一等を減じる︒−

だ︑本来︑もとの物を返すことのできない借用は盗取となる︒当然︑返す意思がないと考えられるからであろう︒戸

(10)

官車船条は︑監守の官員が官の車船等を私借したときの規定である︒そこでは借用は盗取にならない︒ところが︑

条は銭糧のような代替性のない物については︑私借したり︑交換すると償還の契拠を立てても盗取となると   蹴      ⑳ する︒戸律私借官物条に付せられている輯註は次のように記している︒

⁝銭糧を借用すれば︑償還するのは︑もはやもとの物ではない︒官物を借用しても︑まだ︑もとの物で返せる︒⁝

取は︑また︑その人の意思によらずに他人の物を領得することを指す︒ともかくも意思による交付がある詐取や嚇取

ような騙取は盗取にはならない︒詐取とは偽りだまして財物を取ることであり︑嚇取とは人を畏灌してその持つ財物を

取 る行為である︒

それ故︑詐岡行為とそれに応じた交付がなければ︑詐取にはならない︒例えば︑沈没した船から流れ出た貨物を取るの

は窃盗であって詐欺ではない︒

よらずに占有を離れ︑まだ誰も占有していなかったり︑偶然占有した物に対する領得である︵拾︶得は広義はと

もかく︑盗取には含まれない︒拾得については︑戸律得遺失物条は次のように記してい㎞.侵奪性が小・いとき︑所薯

在 する物であ・ても盗取とはならない・

よそ︑遺失した物を手にしたら五日の内に官に送り︑官物はすべてを官に返し︑私物は人を呼び出して確認させ︑その半分は物を 取った人・与え・褒美とし︑半分はなくした人・返させる.もし︑三吉以内・確認する人が出て・なかったならば︑全部与える︒五

日の期限を過ぎても官に送らなかったなら︑官物は賊として処理する︒⁝私物なら賊として二等を軽減し︑その物の半分は入官し半分

は所有者に与える︒もし・無主なら全部入官する・⁝

9    者の物を取ったとき︑この律条が準用される︒刑律白昼槍奪条に付されている条例は船が沈没したときの規定であ

(11)

10 ㎞・生存者の物を取・たときは盗取とな㎞・死亡が先にあれば盗取にはならなW・

 ⁝もし︑溺れ死んだ人命が先にあり︑弁兵が漂失した無主の船の貨物を見てすくいあげて自分の物にしたら︑得遺失官物に照らして

 賊として罪を論じる︒

  第二に窃盗は窃取である︒窃取も公然と財物を取る公取も盗取であって︑窃取は盗取の一態様である︒窃取であること

によって︑窃盗がさらに細かく性格づけられる︒そこでは違法性と責任が総合的に考慮されており︑窃取に広い意味が含

まれているところに窃盗罪の構成要件の特徴の一つがある︒

  まず︑窃取は人格に対する粗暴な侵害を伴わない取得を指し︑通例︑被害者にも不用心であったという落ち度がある︒

徒党を組んで武器を持っていても入室して威嚇しなければ強盗にはならない︒威嚇の存否と程度によって強取と鎗奪︑

窃取を分ける︒人数の多寡や武器の有無や在途か在野か昼夜の別によってそれらを事実上推定する︒清代初期江西省の人︑      ㈹その著書﹃福恵全書﹄の中で︑次のように記している︒

   ⁝人が少なくて凶器がないのを槍奪といい︑人が多くて凶器を持つのを強劫という︒また︑不意に出て威嚇して取るのを槍といい︑

  力を用いて取るのを奪という︒大体︑槍奪とは道の途中の白昼人が誰でも見ている土地にあるのであって︑もし︑夜間人が見ていない

あれば︑窃盗である︒⁝もし︑道の途中で夜間に人から奪うのも︑また︑槍奪として処理し︑それを窃盗と言うことができない

 のは︑道の途中であることを重視し槍奪を重視するからである︒それが強盗より軽いのは︑凶器を持たないだけの理由である︒⁝

  また︑槍奪と窃取の区別の基準を徒党を組んでいたか︵﹁彩衆﹂︶すきを伺ったか︵﹁伺隙﹂︶に置いて処理している事案

  ωある︒

そして︑窃取は人に知られない非公然の行為である︒野荒らしに関する戸律檀食田園瓜果条は︑他人の田園の瓜果を檀      ⑫ したとき︑賊に坐して論じるとしているだけであって︑窃盗罪としてはいない︒このことについて︑輯註は檀食は人に

(12)

られるのを意に介していない行為故︑窃取にならず︑それ故︑盗取にもならないと解説し︑軽微な価値しかない客体で      83⑭ あるから窃取にならないのではなく︑客体ではなく︑行為に着眼し窃取ではないとしている︒野荒らしについて︑現代刑

法が軽微な価値しか持たない物故︑刑を軽減しているのとは意味づけが異なる︒もっとも︑清代刑法に於いても極めて軽

微な価値しかない物は︑窃盗罪の対象にならなかった訳であるし︑管理が極めて緩やかである物は尋常の窃盗に准じて軽         

  く処罰している︒価値が少なく管理も極めて緩やかな物について窃盗罪が成立するか否かは流動的であったし︑窃盗罪の

  枠の中に入ったとしても刑罰は軽かった︒

また︑窃取は︑他人が占有している他人の物を領得することであるのが一般的である︒しかし︑自ら占有している他人

物を領得することもある︒例えば︑律例に見られる︑財物の形態を変えて領得する費用や財物の形態を変えない領得で      岡

  ある自盗︑拐帯は自ら占有している他人の物を領得する行為である︒ただ︑それらは独立した犯罪行為類型となっていて︑

      幽

通 例︑窃盗罪にいう窃取には含まれない︒

拐帯とはその財物について︑委託に基づく占有があるときであり︑それ故︑その占有は現実的支配のはっきりした携帯

として理蟹れている︒乗船している人がその船に置い口いる物を船戸が取ると窃盗であり︑拐帯とはならない︒その財

物については︑具体的な運送の委託関係がないからであぷ︒

しかし︑財物について具体的な委託関係にある物を取ったとき︑常に拐帯の罪として問責する訳ではない︒受託者の独

法 立性が高いとき︑例えば物の運送を職業としている脚夫が旅商人の物を拐帯したときは窃盗となる︒運送業であれば︑そ け本来︑信頼性が高い訳であ.て︑委託者の落ち度は小さい︒他方︑旅商人に与える墨口は極めて大きい︒乾隆九年

られ嘉慶十五年に改正されている刑律窃盗条に付された条例は次のように記している︒結果として流通を強く保護

1      60  することになる︒

(13)

およそ︑店家︑船戸︑脚夫︑車夫で商民から窃盗したり︑盗賊を集めて賊物を分けたりしたら︑首従を分けて賊を計算して常人に照1  らして処断するほか︑捕役が窃取したときの例に照らして︑それぞれ枷号二か月を加える︒

を受けて占有してから自分の物にしようという気持ちを抱いたとしても窃盗となる︒嘉慶十四年に通行された楊起       馴雲が王祥麟の布を盗んだ一案がある︒

  ⁝この事案は︑楊起雲が王祥麟の布を運ぶことを請負い︑確かに先に窃取する心はなく︑途中で運送費用が足りなくなって盗む気を

起こした︒人の財物を拐帯したときの律に照らして賊七十両を計算して杖八十徒二年として刺字は免除する︒曹国琉は楊起雲が預けた

を使ったので預かった人の財物を勝手に使ったとして賊に坐して一等を減じて半分にして罪を科し答三十とする︒王幅相は客

を勝手に当典して二十四両を得た︒また︑預かった物を使ってしまったとして答二十とする等々︒

するに︑船戸と脚夫は同じく客の貨物を請け負って運ぶ人である︒その道中で盗売すると商人の旅に害となる︒情況は同じである︒

船戸が窃盗を為すと例には常人が窃盗をしたとして処断するとある︒かつ︑脚夫︑車戸が客の貨物を盗売したとき︑従来︑すべて窃盗

らして処理してきて書類が整理されている︒楊起雲は脚夫であって︑請け負って運び盗売した︒当然︑財物を拐帯したことに照ら

して処断するのは良くない︒楊起雲を改あて窃盗して賊七十の律によって杖八十徒二年にし顔に刺字した上に︑捕役が窃盗をしたとき

例に照らして枷号二か月を加える︒

       ⑫㈹倒商人の物ではないときには拐帯となる︒乾隆五十六年のつぎのような説帖がある︒

江 司︒査するに窃盗の一項は︑誕騙︑局騙︑拐帯および受寄した財物を費用する四項と事は互いに近いけれども︑情況はそれぞれ

う︒罪名もまたそれによって異なる︒律註に形を隠し顔を隠しひそかに人の財物をとると窃盗となる︒故に︑臓が満貫になると絞候

とする︒もし︑言葉巧みに他人を誘惑してその財物を取っ.て返さないのを証騙といい︑罠を仕掛けて人をその中に入れて財物を与えざ

るを得ないようにするのを局騙といい︑たまたま︑人の財物を持っていて機に乗じて携帯するのを拐帯といい︑人が物を寄託するのを

けて返さず偽ってなくしたというのは︑寄託された財物を費用したという︒四者は皆自分の所有ではない物を取っているけれども︑

被害者にも︑また︑誘惑されたし︑しっかり保管してなかったし︑間違って寄託し︑偏って信用した落ち度がある︒実際に窃盗を犯し

たのとは間がある︒それ故︑その手にいれた臓を計算して窃盗に准じて論じ︑罪は満流に止まる︒

民の荷物を運ぶことを請け負い︑あるいは︑人に代わって銀物を運送して途中で窃取して逃げた事案は︑事柄は拐帯に似て

(14)

て︑忍び込み泥棒とは︑やや違う︒ただ︑客商が行に入って人夫を雇いすべての荷物を全部渡して運送させるのは︑店家︑船戸が客

商の道中の頼りになるのと事態は異ならない︒ひとたび︑持ち逃げされれば大事なお金はすべてなくなり︑進退極まる︒その情況は尋

常の窃取と比べても憎むべきである︒それ故︑各省には旅行に害があるので直ちに実際窃盗を犯したときの律に照らして処理している

ものがある︒全体を詳しく調べ勘酌してみるに︑脚夫が客民の荷物財物を運送していて途中でひそかに取って逃げて賊が︸貫を越えて

ば︑実際旅行に害がある︒すべて窃盗の律に照らして処罰する︒もし︑旅している客商でなく︑ただ︑銀を預かり貨物を運送して

もらっていて拐逃されたら︑すべて拐帯律に照らして処断する︒謹んで説帖を備えて指示を待つ︒

  第二に︑上下主従関係があるときに於いても︑受託者の独立性が強く専業に近ければ既に占有していても拐帯ではなく︑

窃盗になる︒例えば︑店員も独立性が強く︑専業に近ければ脚戸扱いとなる︒

司︒王発財は盟店の標役である︒商人の張三益は彼に盟課の銀を運送させており︑運司の護票を持たせている︒その犯人は運送

中で銀を窃取して逃げた︒賊千六百両を計算する︒王発財を倉庫銀百両以上を窃盗した例によって絞に処する︒

    また︑小作人が木を盗売したとき︑刑律盗山野柴草木石条に照らした上で︑看守している人故︑一等を加えて処罰して      ㈱  る事案がある︒拐帯としてとらえてはいない︒

 提督・竃季三・朱玉虎・山地を耕作してい・のに小作料・支払・ていな・︒また︑思・三て橿松柏・大小・樹株を盗売す・

る  こと百七十余株になり︑京銭百七十千を受けとった︒賊を計算すると八十両となる︒ただ︑土地にはまだ墓は作られていない︒墳樹を

売 したのとは同じではない︒盗山野柴草木石は窃盗に准じるという律に照らして杖九十徒二年半とする︒ただ︑その犯人は看守する

ら︑盗売する人となったら︑劃酌して一等を加えて杖百徒三年として刺字は免除する︒ に︑独立性の乏しいものが取.たときは︑拐帯となる︒現代刑法が独立平等な人格を前提にして︑上下主従関係にあ

る従たるものが現実に把握している物を取ったとき︑従たるものには占有はないとして︑窃盗罪とするのとは対照的であ3      W       ぼ る︒雇工人︑奴僕が時に臨んで取ったときは拐帯である︒嘉慶二十二年の説帖に次のように記されている︒

(15)

  湖広司が調べて題してきた康方古が曽大輪の銀を窃取して↓貫を越えた一案︒査するに︑康方古は雇われて曽大輪の店の中の傭工で

1  あり︑その店の店員の劉茂輪に連れ添って各郷村に出向いて帳銀千三百余両を手にし︑その犯人に先に持って帰らせた︒その犯人は銀

  を窃取して逃げる気を起こした等々︒述べる情況に即していえば︑拐帯に近い︒窃盗と言うことはできない︒ただ︑その巡撫が取り調

たその犯人の供述は︑その気を起こして銀を窃取して逃げたという︒もし︑時に臨んでその気を起こしたのなら︑拐帯であって窃取

   はない︒もし︑気持ちが先にあれば窃取であって︑拐帯ではない︒かつ︑取り調べて明らかになったところによると︑その犯人はい

   もは店で銀銭を運んでも︑全く間違いはない︒もし︑その犯人が人夫でもっぱら雇われて︑店員と銀銭を運んでいるのであれば︑脚

したときの例に照らして拐帯か窃取かに関係なく︑すべて窃盗と同じように処罰する︒もし︑雇われた傭工で︑もっぱら銀銭

  を運んでいるのでなければ︑拐帯と窃帯に分けて処罰する︒供述と事実が一致しない︒差し戻してやり直しを命じられたい︒

⁝今その巡撫が取り調べた供述にはその犯人が気持ちを起こして銀を窃取して逃走したとある︒実際に窃盗を犯し一貫を越えている

絞候として処罰する︒しかし︑述べている描く銀を窃取した情況は︑また︑途中で拐帯している︒審と断が符合しない︒その犯人

雇われて曽大輪の店の傭工となった︒もとの書類には主僕の名分の有無を記しておらず︑供述によれば︑その犯人はいつもは店で銀

を運んでいて全く人が付き添わなくても今まで間違いはなかったという︒脚戸と異ならなかったようである︒もし︑その犯人が脚戸

もっぱら雇われて曽大論の店で銀物を運んでいるなら︑脚戸が窃取をなしたときの例を見て︑実際に窃盗を犯したとして処罰して︑

  間違いはない︒もし︑その犯人がもともと︑脚戸ではなく︑店の傭工として雇われ︑もっぱら店の銀銭を運ぶのではなければ︑それは

  店の傭彩であって︑拐帯と実際に窃盗を犯したのと分けて処罰し︑直ちに死刑としてはならない︒供述する事実はまだ不明瞭である︒

  断罪に出入りがあるので︑別にはっきりと取り調べて処断するべきである︒

そして︑拐帯には被害者にも人を不用意に信用した落ち度がある︒

そして︑このように託管︑経理するものの窃盗は︑現代刑法の背任に似て背信性を要因としている︒乾隆盛五十年に作       69られ︑嘉慶六年に改正されている刑律親属相盗条に付されている条例に次のように記されている︒

居の無服の親属で日頃交流がなく︑互いに財物を盗んだとき︑律に照らして減等して処理するほか︑もし︑もともとの知り合いで

田を管理し︑財物を経理することを受託して義務を果たさず勝手に窃取して自分を肥やし累を残し害を与えれば︑凡人の窃盗として臓

を計算して処罰する︒なお︑律に照らして刺字は免除する︒貫に満てば︑尊長は律に照らして杖百流三千里とし︑卑幼は絞監候として

緩決一回の後に例に照らして減じて発する︒

(16)

きりした契約に背けば︑常人の窃盗として処理し︑親属関係があっても︑減刑されない︒

  次に︑窃盗罪に於ける窃盗行為の成立に至る過程を時を追って︑窃盗罪の始まりと完成について見る︒

  窃盗の着手時点は︑行為の具体的態様等によって異なる︒例えば︑侵入盗は住居侵入開始の時点に着手を認める︒刑律

      $o

盗 条の総註は次のように注釈している︒

らないのに乗じてひそかに取るのを窃という︒およそ︑窃盗をもくろんで盗所に行って壁に穴を開けたり︑垣根を越えたりし

ら被害者が気付いて追い出し財を手にできないとき︑財を得られなくても︑盗に既に着手している︒⁝

そして︑窃盗は財物を掌握したときに完成して既遂となる︒ただ︑その具体的な時点は財物の属性によって同じではな      刷い︒刑律公取窃取皆為盗条に次のように記されている︒

およそ︑盗は公取︑窃取は皆盗となる︒公取は盗む人が公然とその財物を取るをいう︒強盗や槍奪のようなものである︒窃取は形を

を隠してひそかにその財物をとるをいう︒窃盗︑すりのようなものである︒皆盗である︒器物銭吊︵以下官と私を含めていう︒︶

類いは︑移し動かさなければならない︒盗所を離れて始めて盗となる︒珠玉宝貨の類いは︑手に入れて隠せばたとえ盗所にあってま

持ち去っていなくても︑また︑盗となる︒木石重器は人力では適わない︒その場所を動かしたとはいっても︑車に積んでいない間は窃  まだ盗とはならず盗として処理はできない︒馬牛駝顧の類いは勝手に囲いを出なければならず︑鷹犬の類いは自分の管制に入って初める  て盗となる︒⁝ このように容易に移転できない物は︑移転できる状態になったときに窃盗は既遂と評価される︒それだけ既遂の時点は

くなる︒例えば︑刑律盗園陵樹木条の挟註は木を切って車に積み込むか園陵を出るまでは殿物として処理すると記して清  勧

る︒それまでは未遂であり︑なお︑かつ︑窃盗罪の未遂としてではなく︑殿物罪として問責するとしている︒

15

  留意しなければならない第一は︑既にはっきりと現実的に支配している物に対する盗取は︑いわばいわゆる即成犯であ

(17)

るということである︒着手と同時に既遂と評価されたことが︑刑律常人盗倉庫銭糧条の総註の次の記述から推定される︒

16

  ⁝監守が自盗というのは︑財を自分で持っているからであり︑家で取るようなものである︒得財不得財をいわないのは︑盗めば直ち

得財となり︑不得財なら盗ではないからである︒⁝

方︑現実的に支配していてもその程度が低いときは︑占有していないものに対する窃盗と同じく着手と既遂の間に時

経過がある︒

第二に︑財物を手にした後にそれを捨てても得財であるし︑逆に︑その後それが所有者の手に戻れば得財にならないこ

とがある︒得財は︑被害者に損害が発生したかどうかも含めた概念であり︑厳密には窃取行為が完成したという意味の既

とは異なることがあるのであって︑窃盗が既遂となった後の状況をも含あてある程度時間的な幅の中で評価するもので

ある︒被害を知る前に被害者がその財物を回復してしまっているときは︑得財にはならない︒

未遂罪とはならないという点で意味を持つのであって︑既遂になってしまうとそのことよりも︑得財か不得財か

に なる︒

ところで︑それを適用して保護するに値する物に対する支配を︑不安なく享有できるという利益が窃盗罪の保護法益で

ある︒ただ︑所有権を保護法益とするのが原則ではあるけれども︑事実上の占有が保護されたり︑所有権と共に人と人の

頼 関係を保護しているととらえた方が良いこともある︒

  第一に︑通例︑窃盗罪は他人が占有している他人の所有権を侵害する犯罪である︒もっとも︑それが法律上︑所有や占

       脚有する権原のないものであっても︑法律的手続きによらずに奪取することはできない︒それ故︑それは刑罰的非難に値す

る方法による奪取行為から保護される︒ただ︑権原なく占有する他人から自分の所有物を取り戻す行為は他の犯罪が成立

(18)

することがあるか否かはともかくとして︑窃盗罪にはならない︒貴州巡撫の上申に関係する道光二十五年の説帖がある︒

害者の安允興が高間生と羅二恵の家に行って︑原賊を捜し出して持ち去った︒それを羅二患︑羅玄患等が追いかけて鎗

奪 し高間生を負傷させた一案である︒

  ⁝形は槍奪に近いけれども︑ただ︑その槍奪の原因を突き詰あると︑実際︑被害者に窃賊を見つけて持ち去られたからである︒当然︑

を守って格闘したときの例によって処理するべきである︒巡撫はいきなり羅二恵等を槍奪して人を傷つけたときの例に照らし

けて軍と徒に処した︒これは本例を捨てて他の条文を引いている︒直ちに例に照らして修正するべきである︒羅二恵は窃盗したの

賊を計算すると軽罪なので議論しないものは除いて︑窃盗して盗所を離れているといっても︑時に臨んで賊を守って格闘し︑傷は金

はなく︑傷は軽くて治癒したときの首犯として改めて辺遠に発し充軍とする例によって︑辺遠に発して充軍するべきである︒⁝

ところを離れて︑それ故︑窃盗のときからそれなりの時間が経ってから取り戻した安允興の行為に対する窃盗罪

適用が問題になってはいない︒

    第二に︑前述のように︑窃盗罪は︑また︑委託物を安全に保管してもらえるという商人の運送人に対する信頼関係に運       醐  背いたときに成立する︒そこでは運送人が自ら占有している︒

  また︑家族との関係に於ける家産に対する権利は︑窃盗罪の保護法益とはならないことにも留意する必要がある︒

  註 本稿呈・実体面誓眼して窃盗罪を見る︒

ぼ 両請は成文を適用した案とそれとは異なる解決の二つの案を上申して︑むしろ成文法理の調整を願うものである︒比付は成文法を誘彗麹割詩鰭鷲睦に吐つ判断であるとい三中村茂夫﹁比付の機能﹂︷﹃清代刑法研究三束 泉大学出版Aべ

7    時には類似の構成要件を持つ規定に基づかない比付もあるという︒︵同右稿一七五頁︶構成要件には犯罪行為の枠を示す機能と量1

  刑の事情としての機能があったことと関連して︑比付には構成要件の拡大であるものと類推であるもの︑あるいは︑犯罪性の大小を

(19)

    とらえて量刑の参考とするものがあった︒比付の事案をどちらとしてとらえるかは史料の評価の問題である︒1  ③ 律が条例に優先するというようなことはない︒

ω  律例の条項は︑必しも体系的に整理されていないので慎重に見ていく必要がある︒︷拙稿﹁清代刑法に於ける因果関係﹂︵星薬科大

学一般教育論集第八輯︑一九九〇年︶一〇一頁︑一〇二頁︸︒

  ⑤ そして︑窃盗罪は有意犯であるので︑犯罪を認識していることが要件となる︒特に留意しなければならないのは︑他人の物である

ということを認識していることが︑窃盗罪が成立するために必要であるということである︒︵本稿三一頁︑三二頁も参照︶︒嘉慶八年

次の説帖は︑無主の犬と思って捉取したものに窃盗罪を適用していない︒︵刑案匪覧巻一八︑刑律盗馬牛畜産条﹁広西司 査律載盗

計賊以窃盗論等語⁝嘉慶八年説帖﹂︶︒

広西司︒査するに︑律には民間の犬を盗むものは賊を計算して︑窃盗として処理すると記してある等々︒律意を細かく解釈すると︑

実際︑犬を畜産の一つとして︑もし︑被害者の家の中にあるのを︑あるいは引っ張って門外に倫窃したとき律によって窃盗として処

する︒もし︑広野漫地で人に捉取されたら︑それを窃盗ということはできない︒なぜなら︑犬が自ら広野を往来するのは器物の広

野にあって人が看守しなければならないのと同じではない︒それに乗じて良いことに︑捉取しても︑取ったものは決して誰の畜かを

     らない︒もし︑殺傷したとき︑直ちに檀殺として処理するのは人命を慎重に扱うことにはならず︑かえって︑刑罰の濫用につなが

る︒旧案を検査するに︑広野で犬を盗んで︑人が看守していない器物を援用して処理したものはない︒⁝と記して︑広野にあった蒙

漢の犬を捕まえ殺した楊及梁を殺害した蒙勝漢について︑檀殺ではなく︑闘殺の責任を問えとしている︒

   

⑥  大清律例︷﹃大清律例彙輯便覧﹄︵光緒二九年︑成文出版社影印︶を使用︸巻二四︑刑律窃盗条︒

   m  同右書巻二四︑刑律盗田野穀麦条︑条例=二︒この条例制定のきっかけとなったのは︑乾隆五八年に裁可された播鯨秀が播士徳を

    り殺した一案である︒藩銃秀が工事をして蓄えている水を播士徳が勝手に盗んだので紛争となり切り殺してしまったものである︒

川や池の水は一般的には融通して誰でも利用して良い︒ただ︑他人が工事してはっきり境を作っているときは勝手に放流できない︒

硫 秀は罪人に対する檀殺となるとする︒次のような一節がある︒︵駁案新編巻三二︑四六頁a﹁窃放他人蓄水以潅己田新例﹂︶︒

  ⁝およそ︑天の雨や地の泉は人の汲むに任せ︑もともと自分の物にすることはできない︒民間で自分の力で自分で溝塘を築き水を

  溜めて潅概し︑不時の必要に備えるものについては︑もし︑両家がその塘堰を共有していれば互いに規則を作って対等に引いて潅概

  する︒もし︑一つの家が勝手に多く放水すれば理にもとるけれども︑窃盗として処理することはできない︒もし︑各自で力と資本を

  費やしいるのであれば︑掘った池塘にはそれぞれ境界がある︒もし︑蓄えている水が人に密かに放たれ苗に水を与えようというとき

を盗んだものはその田の稲に栄養を与え︑かえって水を蓄えていたものがその苗を枯らしてしまう︒一家の食べ物に事欠き一年

  中苦労して働いたのに浪費したことになる︒蓄えた水が盗まれるのは︑これを財物を盗まれるのと比べて︑更に切実である︒財物は

(20)

    まだ後で賠償できるけれども︑水は流れてしまえば返らないからである︒これら水を盗むという人情は︑更に窃盗よりも悪い︒⁝

律 例巻九︑戸律盗売田宅条︑同書同巻典売田宅条︒

  刑律に盗田野穀麦条︑盗園陵樹木条等の規定がある︒︵同右書巻二四︑戸律盗田野穀麦条︑同書巻二三︑盗園陵樹木条︶︒

00  ﹃臨時台湾旧慣調査会第一部報告書 清国行政法第二巻﹄︵大正二年︑汲古書院︑一九七二年︶八一頁以下︒

   ω蝉の略取︑略売等については刑律に略人略売条の規定があるし︑妻妾の典雇については戸律婚姻門典雇妻女条がある︒︵大

  清律例巻二五︑刑律略人略売条︑同右書巻十︑戸律婚姻門典雇妻女条︶︒

  拙稿﹁清代刑法に於ける因果関係再論﹂︵星薬科大学一般教育論集第一一輯︑一九九四年︶一一八頁︒

03  刑案雁覧巻七︑戸律檀食田園瓜果条﹁江西撫 題郵玉書殴死温水子一案⁝乾隆五十七年説帖﹂︒

    同右書巻一五︑刑律白昼槍奪条﹁四川司 審辮劉泳泰槍奪漏若瑳銀両銭票一案⁝道光九年説帖﹂︒同様の趣旨から処理している事案

として︑続増刑案睡覧巻六︑刑律白昼槍奪条﹁奉天司 此案張得先因聴従槍奪擬徒在配脱逃⁝道光十五年説帖十六年題結﹂︑同右書同

同条﹁安徽司 査班正杭糾允黄友得等槍奪得賊⁝道光十四年説帖﹂︑同右書同巻窃盗条﹁安徽司 杏賊犯馬老児等畳窃案内起獲銀票

   一紙⁝道光七年案︑同右書同巻同条﹁陳西司 査賊犯倫窃銭票例内錐無計賊科罪明文⁝道光十三年説帖﹂等がある︒

清律例巻二四︑刑律盗田野穀麦条︑総註︒

  同右書巻二三︑刑律盗軍器条︒

 漏税している税法上違法な財産も保護される︒ただし︑刑は軽減される︒同治九年の次のような条例がある︒︵同右書巻二四︑刑律

白昼槍奪条︑条例二七︶︒

を槍奪したら︑槍奪本律に照らして処断する︒もし︑漏税の物であれば︑その罪から勘酌して一等を減じる︒  ・れと同じ蔓により処断されている事案として︑刑案讐続編巻+︑刑律白昼槍藁置隷司此案前拠該督審明林撲子起意−

る   同治六年説帖﹂がある︒被害者に違法性があっても犯罪が成立することは︑不法原因給付であっても詐欺罪となることにも見受けら る︒乾隆六年に定あられ嘉慶応六年に改正された条例がある︒︵同右書巻二五︑刑律詐欺官私取財条︑条例一︶︒

に  ⑱ 大清律例巻一二︑戸律転解官物条︒賀秀三﹃中国家族法の原理﹄︵創文社昭和四二先以下警董・と記方︶七五耳

00  中田薫﹁唐宋時代の家族共産制﹂︷﹃法制史論集第三巻下﹄︵岩波書店︑一九七一年︶所収︸︒仁井田陞﹁中国の家父長権力の構造﹂

 ︷﹃中国法制史研究 奴隷農奴法︑家族村落法﹄︵東京大学出版会︑一九六一年︶所収︸三五九頁〜三六三頁︒

9  閻 滋賀著書一四九頁以下︒1  民事法秩序は裁判規範である官法と民間秩序に分けて見ていくのが良い︒そして︑官法にはその保護を人民との間で直接に約束し

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