静岡大学教育学部附属教育実践総合セ ンター紀要
m13p.255〜270(2007)
〈 論文〉
不登校の息子を持つある母親 との面接過程
The process for consultating a lnother whose SOn is in non‐
attendance at school原田唯司
Tadashi HARADAは じめに
本報告は
,中
学校入学後 しばらくたってか ら不登校状態 となった長男を持つ母親 との継続面 接 の過程 をまとめた ものである。本 クライエ ン ト(以
下Clと
表記)は
面接 の過程で,長男 と の関わ りのあ り方や内面的世界の理解の仕方に視点の転換が生 じ,長
男の不登校 を含めて自身 が抱えているさまざまな課題 を整理 し,そ
れ らの解決に向けて前向きに取 り組 もうとする心構 えがで きるようになった.そ
こで,Cl自
身が抱 えている諸問題 に対する認識の変化の様相 を 跡づ けなが ら,母親 としての自分 と長男 との間の適切な心理的距離を探 し出す ことの意味や,本
Clを
はじめ として中年期 を生 きる女性が遭遇す る可能性のあるさまざまな困難な課題への 対処の仕方,さ
らにそうした人生上の課題 に直面 して苦 しみやつ らさを感 じている来談者を支 える面接者(以
下Coと 表記)の
役割な どについて考察する。事例の概要
(1)来談者 :女性
,47歳 ,有
職.(2)主訴 :長男
(12歳 ,中
1)の不登校(3)家族構成 :本 人
,長
女(20歳
,大学3年
生),長
男(12歳 ,中
学1年生)(4)面接の期間 0回 数 :200x年 6月
27日
〜200x+1年 7月10日
(イ ンテーク面接1回を含む).
本面接 は
12回
.(5)問題の状況 :前 年の4月の夫の自殺をきっかけに長男
(当
時小学6年
生)が登校 をしぶ りだ した。その後担任教師や級友たちの援助によって何 とか登校を続けていたが,自
宅の差 し 押 さえの関係で転居 を余儀 な くされた秋 口より断続的な不登校を繰 り返 し,中
学入学後 はしばらくの間登校 を続 けたものの
, 5月
の連体明けよリー切学校 に行かな くなった。Clは
来談す るまでの ここ1年ほ どの間,夫の 自殺 とその後始末,さ
らには夫の実家 との確 執 といった精神的に多大なス トレスを発生 させ る事態に直面 してきた。それ らが決着を見ない うちに長男の不登校の問題が重なったせいか,来談当初は精神的にも肉体的にも相当に追いつ められているような印象を受けた。体格が小柄であることにもよるが,謙虚でお とな しく,自
己を主張す るタイ プではな く,い
わゅる家事 に仕事 に奮闘す るといった 強い母"と
い うイ メージではない。(6)来談 に至 るまでの経緯 :長 男は中学校の入学式か ら
10日
間ほどたった頃より登校時に腹 痛や下痢 といった身体症状が出現 し始めて,だ
んだん登校す ることができな くな り, 5月
の連 体明けか ら一切登校 しな くなった。その間CIは ,中
学校 の担任教師や養護教諭 と頻繁 に連絡 を取 り,面談するな どの努力を重ねるが,長男の不登校状態に変わ りはなかった。養護教諭から病院でのカウンセ リングを勧 め られた こともあって
,Clの
知 り合いを通 して精神科単科病 院の医師に相談 した ところ本相談室を紹介 され,直ちに長男 ともども来談することとなった.面接の過程
以下 に
12回
の面接の過程 をClの
自分 自身に向けられた課題 に対す る意識化 の程度 によって4つ
の時期に分 け,長
男の言動や様子 に関す る情報 も織 り込みなが ら報告す る。なおり「」 は
Clの
もしくは間接的にCIか
ら得 られた長男の発言,< >は Coの発言を示す。
[第
:期とまどいと混乱
(第
1回〜第3回 )]
第1回
(200x年
7月11日
)夫は周囲の反対を押 し切って
5年
前に脱サ ラをして新 しく会社 を立ち上げたが, 2年
ほ ど前 か ら次第に資金繰 りが悪化 して とうとう会社が倒産 し,多
額の負債を抱えたまま来談約1年前 の4月 に家族 を残 して自殺 した。Clは
「泣いているヒマもな く」,残された借金の返済のため に再び働 き始めた.生命保険金 もほ とん ど得 られず,債権者 との交渉や会社の後始末,弁護士 との相談な どがCl一
人の肩 にの しかか り,「
よ くノイローゼにな らずにこれまでやつて来た と 思 う。」ほどに苦 しい日々を送つて来た.警察か ら
Clに
夫の死の連絡があ り,Clは
長男にその事実 を伝 えると,長男 は泣 き出 してひ じょうに動揺 した様子であつたが,一方Clを
な く゛さめるような発言 も行 つた。その後の葬式 の当日には,他の人が取 り乱 していたのに対 して
,長
男は冷静なそぶ りを見せ,か
えつて祖父に対 して 「おじいちやん,泣かないで.」 な どと気丈な振 る舞いを見せていたのが印象に残っ た という
.そ
の後長男はお盆を過 ぎる頃か ら次第に元気がな くなってい くように見え,そ
れで も2学
期の最初 は休むことな く登校 していたが,自
宅が差 し押 さえの関係で10月
に学区外のア パー トに引っ越 した(学
校の特別な計 らいで在籍校 にそのまま通学)頃か らだんだん学校 を体 みがちにな り,早退することも多 くなつた。 また,身
体症状(頭
痛や腹痛)が伴 い始 め,週に1日 程度 しか登校できないようになった。
この時期長男は
Clに ,「
授業 に集中できない。周 りが騒が しいのが煩わ しい。」「むな しい。なぜ
5年
間通った同じ道 を通 えないのか。」な どと自分の こころの中にある苦 しみを訴 えてい た。立ち退 きを迫 られた ことについてはClか
ら事情 を説明 したが,「
引っ越 した くなかった。」 な どと言 うのみであつた。また,夜中に父親や手放 さざるを得なかった飼い犬の写真 を取 りだして泣いていた ことがあ り
,TVで
火葬場のシーンがでてきた ときに,顔色が真つ青 にな り,冷や汗 をかき
,ふ
るえ出す こともあつた。Clに
よれば,「
夫の死の当時の長男の様子 よ りも, こうした印象の方がきつい気がする。」 という.長男は父親 とは大の仲良 しで
,日
曜 日のたびごとに釣 りに出かけた り,犬の散歩に一緒につ いて行つた りしていた。今で もClに
「パパが叱って くれれば僕 は学校 に行 ける。」な どと言 う. 逆 にClに
対 しては 「アンタ」呼 ばわ りを した り,「
パパの足下 にも及 ばない。」な どと否定的 な言葉 を出す.Clは
たいへんな思いを して家族の生活を支 えているのは自分であるとい う思 い もあることか ら, こうした長男の母親像 には反発 とい らだちを覚えるが,そ
の気持ちを長男 に面 と向かって表出することは避 けている。Clに
対 しては,概ね<大
好 きだつた父親が突然 にいな くなって しまつた こと,し
か も本人 に とってあまりに理不尽な理由による父親の死の衝撃か らお子 さんはまだ立ち直つていないよ不登校の息子を持つある母親 との面接過程
うに思われ る。>と伝え
,自
分 を支えていた ものが急に取 り外 されて しまったことによるや る せなさや無力感,自
責の念 といったような感情が長男のこころの奥底にあることを母親 として できるだけ理解 しようとするように という趣 旨の助言を行った。第
2回 (200x年
7月25日
)母親か ら見て長男の性格や行動をどのように とらえているかを尋ねた ところ,言下 に 「幼稚 ですね
.自
分の我 を通す までだだをこねる小 さい子のようです。」 と述べ,Cl自
身の懸命 な努 力に引き比べて学校 にも行かず家で無為 に過 ごしている長男の姿を否定的に見た り,情けない 思いを持っていることを伝える。 また,「
が まん していられない.」 「集中できない.」 ところが 目立つ とも述べ,全体 として年齢相応の自我の形成が不十分で,幼さを多分 に残 していること へのい らだちや もどか しさを表出 している。さらに,家庭 でのClと
の話題 はテ レビゲームや マンガ,食べ ること,野球 くらいで,「
それ以外のことは頭の中にないです。」 と断言的口調で 述べて,幼稚 な息子 とい うClの
長男 に対す る否定的なイメージがかな り強固であることをう かがわせた。Clは
,長男が断続的不登校か ら不登校状態 となった4月
か ら5月にかけて,担任 と頻繁に 連絡を取った り,面談に出かけた りして,事態の解決のために能動的に行動 してきた.し
か し なが ら,Clも
長男 も担任の ことを嫌 いではないが,あ
ま りに一生懸命で熱心過 ぎて,話が担 任か らの一方的内容に終始することが多 く,せ
っか く同席 しても長男は無言でいるか途中で席 を立つ しかな く,Clも
黙 るしかないような状況であった とい う。その上,長
男 を こころの 病"と
か お父 さんが亡 くなったか ら学校 に来れない"な
どと独 り決め しているような ところ があるので,一度 「少 し勘違い してませんか?」 と担任の言動 を批判 した らその後はあまり連 絡を して来ないようになった.そ
の過程で,長男が望んでいた野球部への入部に関 して,担任 が勝手に気 を回 して無理であることを長男に告げた という事実が発覚 し,Clは
担任 をは じめ とする学校側の姿勢に強い不信を感 じるとともに,入部がかなわなかった ことが長男の不登校 の一つの原因であるとい う見方を持つようになった.長男には小学校時代か ら仲の良い友だちが
4人
ほ どいて,た
まにではあるが家に遊びに来た り,電話 し合 った りしている。その うちの一人に釣 りに誘われて一緒に出かけたが,長男 は キヤステイングを一回 もすることな く,た
だその子の後 ろで見守っているだけだった という.Clの
日か ら見て長男は友だちに とて も気 を遣 っているように見え,部活や試験 な どで相手が 忙 しかった りするとこちらか ら電話 もかけないようにしているし,た
だひたす ら相手か ら電話 が来 るのを待 つているような ところがある.Clは
このような長男の友人 に対する関わ りの仕 方を指 して,「
自ら退 くような感 じ」 と形容 している.COは
,長男の不登校 に対 して母親 として何ができるのかをCoとともに考 えるのが この面接 の場であること,そ
の中で長男の家庭での言動の様子や家族や友人 との対話や交流の様子などを母親の目という観点から話題として出して欲しいこと,ま た,Cl自 身が抱えている悩みや
課題 につ いて もこの場で遠慮 す ることな く表 出 してか まわない ことな どを伝 えた。
第
3回 (200x年
9月4日
)長男が初めて単独で相談室を訪れた日 (8月 1日,本人面接の第
3回
目)の
様子か ら語 り始 めた。行 く前 に本人 は来 るのをいやがっていたが,母親 に励 まされて結局 1時間早 く到着.相談室
"に
着いてからも母親に「帰つてもいぃか?」 と電話するなど,乗り気ではなかった。しかし,第
3回
面接終了後 しばらくの間(1週
間 くらい)は
元気な様子で,家の手伝いをしたり,早起きするようになった。
‐8月 下旬に体みを取ることができたので,長男に旅行を提案 したところ,長男は迷わず「四 国に行きたい。」 と答え,旅程の具体的な計画は長男が立案 した。四国はかつて家族
4人
で旅 行した先であり,思
い出の土地であつた。旅行中, S川
の橋の上から河原でバーベキューをし ている家族を見ていた ときの表情が とても寂 しそうで,Clの
印象に強 く残つた。また,父親を 「あの人」 と呼び
,空
を指 して 「あの人(父
親)が学校に行けない元凶である。」 と言 うよ うなこともあつた。Clは
,今回の旅行を通 して長男に対 して 「新 しいことに対する緊張感が強い子ですも」 とも とらえるようになった.た
とえ│ゴ「飛行機に初めて乗ったときなど明らかにそれ とわかるほど 硬直 していたし,新幹線以外の乗 り物に乗つた ときには必ず酔つていた。」。Clは
長男が 「ど うしてあんなに緊張 しなければならないのだろう?」 と思い, これまでの長男 とは異なる新 し い面をあらためて発見 した気がしたという.やや突き放 したような言い方が気になり
,ま
た 「幼い子」「緊張感が強い子」 というこの時 点におけるClの
長男のとらえ方にはいずれも否定的なニュアンスが伴つていたので,COは<本当に体調が思わしくなかったのかも知れないが
,長
男なりに今度の旅行を意味づけていて, かつて家族そろつて旅行に出かけたという思い出の場所で,父親はもういないということをあらためて自分の気持ちの中で確認 しなければならなかつたのではないか
?だ
から,ふ
だん以上 に緊張 していたように見えたのではないか?>と述べた.す
るとClは
しばらくの間考えつつ, やがて同感 したそぶ りで,「
今思えばそうだつたのかも知れません。でもそのときには,長
男 の世話の方がたいへんで,と
てもそのようなことを感ずるゆとりはありませんでした.」 と語る。
Coには
,長
男の不登校だけでな く,夫の死以降直面せ ぎるを得なかつたさまざまな困難な 課題 に対 してClは
誠実 に対応 して来てはいて も,や
は りまだ夫の死か ら受 けた心理的な衝撃 や傷つ きが癒 えていないことや こころの奥底には引き続いて夫に対する哀惜の念や愛着 と恨み の ような対 となる感情が横たわつていることが感 じられ,Clは
いまだ こころにゆ とりがな く,混乱 と動揺のただ中にあるように思われた。一方,面接の回を重ねるにつれて,長男に対す る
Clの
素直な感情が次第 に表出され るようにな り,ま
た,面接過程で取 り上 げ られた数々の話 題 に対す るCl自
身の認知や感情,評価 な ども比較的 自由に語 ることができるようになつた こ とか ら,本面接の場 をCl自
身が 自分 の思いをス トレー トに表現で きる機会 として位置づ けて いることを感 じ,今後 とも定期的に面接を続 けてい くことを提案 した。[第
‖期長男理解の進展 と自分の関わ りの振 り返 り
(第 4回
〜第6回 )]
第
4回 (200x年 10月
3日)
`前回に引き続 き,夏体みの旅行 について語 り始 める。今 の時点で今回の旅行 について振 り 返つてみると
,長
男の希望で昔の家族旅行の思い出の土地へ出かけた ことや長男が普段 にな く 緊張 した様子であつた ことな どを,そ
の ときに長男な りに内面で感 じていた ことが今になってよ くわか るような気がす るとい う。そ して
,「
もしかす ると自分 も娘 もこの子の本音が現れ る のを待てなかつたのか も知れません。」「夫の死以降 これまでの間,自
分が長男の ことを仕切 っ不登校 の息子 を持つある母親 との面接過程
て しまっていたように思います。」「自分が長男 自身の代わ りに口を出す ことで,長男が伸びて い くはずの ところをかえってそいで しまったのではないか と感 じます。」などと,問わず語 り に
,こ
れ までの長男 との関わ りの持 ち方 についてのClと
しての思いを語 り始 めるようになっ た。 さらに,「
学校 に行 けないこと自体が長男に とって大 きなプレッシャー となっていた とこ ろに,自
分 も娘 も長男に対 してきつい言葉をかけた り,厳しい態度 をとった り,い
ろいろな要 求を突 きつ けて きた ことが,長
男 をよ りいっそ う追 いやって しまったのではないか と思いま す.」 と,自
らの反省の意を込めて,ま
た自分 に言い聞かせ るように して これ までの長男に対 する姿勢を振 り返 る発言が相次ぎ,長
男の心根 を理解 しようとす る兆 しが見え始 めた.Cl自
身が抱 えてい る問題 について も,ま
だ夫の会社の残務整理が完全 には片づかずに,忘
れた頃になって債権者か らの電話が 自宅にかかって来 ること,会社の整理の問題 はこちらで弁 護士を立てているので直接債権者 と対話する必要 はないのだが,電話がかかって くる以上は応 対せ ぎるを得ないので
,そ
のたびごとに申 し訳ない という気持ち と法的には決着が付いている はず という気持ち との板挟みにあって苦 しい思いをすることな どを,訥々 としか ししっか りし た回調で語って くれた.さ
らに,夫の親か らこれまでに何度か一緒 に住 もうとの提案があった が,Clと
しては法事が らみの ことで先方に不信感 を持 っていることを理由に気乗 りが しない こと,
しか し転居することが長男にとって転機 になるか も知れない とい う期待 もあって,正直 考 えあ く゛ねていることな ども説明 して くれた。
債権者か らの電話は昼間にかか ることが多 く
,こ
れ までは長男が応対することが多かったち 先 日もしば らくぶ りに電話があった ときも長男が受 けたが,そ
の 日の夜 その旨を長男がClに
伝 えた とき,「
ママが怖が るほ ど恐 ろ しい人ではないよ。そんなにび くび くす る必要 もない よ。」 と言い添 えたそうである。 また,Clの
誕生 日に,知
らない うちに貯 めた小遣いを使 って ささやかなプレゼ ン トを して くれた とい うエ ピソー ドも紹介 して くれた。Clは
こうした一連 の長男の言動や態度を述べつつ,長
男の優 しさや母親 に対する思いや りの気持ち,娘(姉 )と
比較 してClを
守 るかの ような行動 に,こ
の ところあ らためて気づか され るようになった という。
Coは <お
子 さんの よい面 についてのお母 さんの話を聞けたのはおそらく初 めてだ と思い ます.お
そらくこれ まではお母 さんか ら見てお子 さんの悪い面や否定的な ところにまず目が向 か うことが多 く,優しさや思いや りなどもともとお子 さんが持っていた特徴を見失っていたの ではあ りませんか?>と
問いかけると,Clは
頷いて 「その とお りか も知れ ません。」 と述べ,続 けて 「9月以降
, 2人
で一緒に行動 した りす ると 強さ"み
たいなものが出てきた と感 じま す。」 と少 しほほえみを浮かべつつ語った。第
5回 (200x年
‖月7日)夏体み以降,娘と同級の大学生に週1回家庭教師に来てもらっている。長男は当初 は気乗 り しない様子でったが
,こ
のごろは楽 しみにしているようで,予習や復習をきちん とこな し,家庭教師 自作の数学の練習問題 を一生懸命 にや っている。 また1回の うち
30分
以上 は,公園で キャッチボールをした リファミコンをした り,楽しく遊んでいるな ど,長男が年長の同性 との 交流を楽 しみに‐している様子が語 られる。また,先週長男の友だちを送 っていった帰 りに
,「
しば ら く『故郷』に入 ってないか ら,行 ってみ るかな。」 と言い出 し
,Clが
「行 きた くない。」 と答えた ところ,「
ママはこだわ りす ぎ。僕は前に進みたい。ヤマはいつ まで も引きず りすぎだ。開き直つた方がいい。」 と言われ,Clは とて も驚いた とい う
.さ
らに,「
ママのように引きずっていると,僕は前を向いて行 けない。引きずるのをやめるのが無理ならば
,肩
の荷を下ろしてそばに置いた ら?」 とも言い,こ
れ ら一連の長男の言葉か らClは
長男の成長ぶ りを実感 した。Clは ,「
自分 はこれ までにも反省 や過去を振 り返 ることが多 く,ま
たいろいろなことが現在 もわき出 している状態にあるが,そ
れに比べて長男は強 くなっていると思 うし,ま
た,頼りになってきた。 自分だけが置いて行か れ るような気がするようになつて来 ました。」 と述べている。Clは ,「
1日 1日 をムグに過 ごしているように見えるが,あ
の子はあの子な りに違 って来た な,何か考えているんだな と思 うようにな りました。」「長男が学校に行かないか らこそ,彼の少 しずつの成長 を見守って行 くことがで きると思います。」「娘の時 よりも長男の成長を感 じ取 ることがで きるような気が します.」 「小学校時代の担任の先生に『お母さんも成長されました ね』 と言われ,素直に嬉 しく思います。」な どと述べ
,長
男だけではな くCl自
身 も,今回の長 男の不登校 をきつかけとしてさまざまな思いや苦 しみを経験 してきた ことが,自
分 自身の心理 的成長を促 した という実感を持つようになっている。さらに
Clは ,「
今度の ことがなければっただがんばるお母 さん,突っ走 るだけの自分で しか なかった と思います。長男が学校 に行 きたい と言い出すまではそのままにした らいぃよと言え るようにな りました。」「肩の荷を下ろしている自分 を見守 る自分 を意識できるようにもな りま した.」 と最近の心境 について語 つた。 また,母親の古い友人で同じように子 どもの不登校 を 経験 した人か ら,「
自分は子 どもが不登校だつた5年
間にいろいろなことを学ぶ ことがで きた。いろいろハ ンデイがあると思 うが
,ほ
かでは得 られないものをいつぱい得た と思 うようになる よ.」 とア ドバイスされたこともあ り,「
自分一人ではないことがわか りました。長男 自身 も学 校 を休んでいなければ気づけなかつた面を経験 していると思います。不登校 とい うことで失っ た面 もあるとは思 うが,決してマイナスだけではない と思います。」 と述べている。また
Clは
,長男の行 きしぶ り・不登校が生 じてか らの この1年間を,「
子 どもたちの強 さを 教 えられた1年で した.子どもたちをよろしくではな くて,子どもたちによろしくの1年で した。」 とも述べ,夫の死のシ ョックに苦 しむ母親に対 して
:「
子 どもたちか らいつ まで もめそめ そしていてはいけない とい うメッセージが送 られたんだ と思っています。子 どもたちがそれぞ れのや り方で自分を支えたのだ と思います。子 どもの姿を見なが ら自分は後 をついていつた,そ うい うように思える自分 になつて行 きました.」 とい うように
,自
らと子 どもたち との間の 関係の再解釈 を行い。 この間の経験が母親 自身に とって積極的な意味・意義を持 つていること を見いだ している。最後 に
Clは ,「
この ような ことを話せ る自分 を発見 して よかつた と思います。」 とも述べ, これ までの一連の面接の過程で,Cl自
身が冷静 に経過 を振 り返 りつつ,自
分 と長男 との関係 を深め,長男の現在の姿を受 け入れ るとともに,母親 自身の自己の再評価・再価値付 けを行い 始めているように思われた.第
6回 (200x年 12月 12日
)H月 30日
に中学校か ら,担任が交代 したのでその紹介 と長男の様子を聞 きに来 るために家庭 訪問 したい とい う連絡が来た。最初 は知人の家で面会す ることを学校側 は要望 していたが,Clと
しては何か特別 な扱いをされているようで割 り切れない気持ちであつたので,家
に来て もらうことを希望 した。そのことを長男に告げると最初 は動揺 し,「
誰 とも会いた くない。」 と不登校の息子 を持つある母親 との面接過程
言つていたが,本人が継続面接のために相談室に出かけて帰った頃には
,朝
とはうつてかわっ て朗 らかな様子が見 られた。 また,こ
こ lヶ 月 くらいの面接の様子 を明 る くClに
話 して くれ た。12月
5日に中学校の教務主任 と新 しい担任 とが2人
で家 を尋ねてきた.長
男は 「先生,働き 過 ぎじゃない?」 とか,「
テス ト持つてきて もいいよ.」 な どと軽 口をい うな ど,明
る く話をす ることがで き,Clと
して も少 し安心 した。その後時々担任がテス トを持つてきた り,様子 を 見に来ているようであるが,本人はそのたびごとに先生 と会話ができ,も
らったテス トもやっ てみた りしている。Clか
ら見て も先生 と普通 に会 えた ことで とて も嬉 しそ うで,そ
の喜びを 全身で表現 していた。張 り切 って先生にお礼を言 うな ど,9月
の頃にはとて も考 えられなかっ た態度だ とClは
感 じている.また,先日2ヶ月ぶ りに小学校時代の友人が訪ねてきて,映画を一緒に見に行 った り家 に泊 まった りした。小学校時代のケンカ相手で もあったのだが,久しぶ りに友だち と遊ぶ長男の様 子 を見て
,Clは
「互いにがまんできるようになったんだなあ と思います。」 と述べ,子どもの少 しずつの変化を素直に喜ぶ気持ちになっていることを表 している.
最近父親の様子 をよ く聞きたが り
,「
お父 さんは僕の ことをどういうように思っていたのか な?」 「僕 を必要 と思っていた?」 な どと話 しかけて来 る。以前(今
年の春休み頃,中
学入学 前)は ,「
パパ は僕たちを生かすために死んだ。」 とか 「命 と引き替えに僕たちを救って くれ た。」な どと父親 を高 く評価 していたが,今回は父親に対 して,「
男 として責任を取 らないんだ よな.」 「かわいがって くれたのに,最後 はこれ じゃあねえ.」 な どと突 き放 したようなものの 言い方をするようになって来た.12月
9日にそんな話をして,こ
れ まで美談的に父親のことを 語 つていたのが,客観的に見 ることがで きるようになった とClは
長男の変化 を受 け止めてい る。線香 をあげることもしない し,Clか
ら見て長男は父親 に対 して 「クールになった。」 と感 じている。大好 きだった父親
,思
い出に残 る父親,理想化 された父親,家族 のために働いていた父親像 か ら,家族のことを考えずに勝手に死んで しまった父親 として距離を置いて冷静に見つめる対象となるというように, この時期の長男に父親像の再構成に向かっている姿を認めることがで きる。 Clも こうした長男の変化について前向きに受け取ろうとする構えができ
,父親 との距 離を置き始めていることを Clと しても肯定的に理解しようとしている。
‐方,夫の残 した会社の残務整理が まだ終了せず,債権者 との間でまだ問題が片づかない状 況が続 いている
.ま
た,続けて 「自分 (Cl)の実家か らも戻 って きた方が よい とも言われて います し,仕事について も身体的に疲労が蓄積するので どうしようか と考え始めています。娘 が就職するまではこちらにいたい とも思 うのですが・・0.」 とも述べ,自
分 自身および家族 に関わる課題 を整理 し始 めている様子が うかがえた。│
[第
Ⅲ期長男の『後退」 と新 しい出発の自覚
(第 7回
〜第9回 )]
第
7回 (200x+1年
2月13日
)年末か ら年明け後の長男の様子 について
,「
冬体みが終わった頃か らまるで潮が引 くように 家 に閉 じこもりがちにな り,落ち込んでいるようです.」 と述べ る。年明け早々に長男が大切 に飼 っていたモルモ ッ トがClの
ミスが原因で死んで しまい。長男は相当取 り乱 して,「
昼間 ま た自分一人になって しまう。」 と言 つて動揺 した様子を見せ,Clに
対 して 「どうしてそ うクールなの?」 な どといって責める口調であつた。
また
,「
なぜ僕 を生んだのか?本
当はお母 さんに とって僕 はじやまなのか?僕
は必要のない 人間だ.グラグラと家にいるだけだ。」な どと眉間にしわを寄せ,下か らClを
のぞき込むように して言 う
.Clを
部屋 にも入れない し,昼夜逆転 の生活 に戻 つて しまつた。先の主 旨の発言 は6年
生の3学
期頃(学
校 に行 けな くな り始 めた頃)に
も,今年の 5月 頃(中
学校 を不登校 し 始めた時期)に
もあって,そ
の後 はそうした発言はなかつたが,ま
た復活 して しまつたか と思 う。いつ もは遊びに行 くことが多い近所のおばさんの家 にも出かけようとしない し,長男が 自 ら始めたサイクリングにも行かな くなっている.家庭教師 とはこれまで通 り半分 は学習,半分 は遊び ということで特別変わった様子はないが,以
前はやっていた予習をこの ころはあま りや らないようになった.中
学校の先生 も定期的に来て くれているらしいが会話 している様子 はな い し,そ
の ときの様子な どをClに
は伝えようとしない.Clは
こうした年明け以降の長男の全般的な閉 じこもり傾向に直面 して,かえって仕事 に一 生懸命打ち込む ようにな り,長男 に対 してあま り声 をか けることは しない ようになった。Cl はまた,「
去年の今頃(長
男が小学校6年
生の3学
期で,不登校状態が定着 し始めた とき)の
方が もう とつ らかつたです。」 とも述べている。他方
,「
手遅れになるのではないか?自分 は仕 事 に逃 げているのではないか?」 と自間 自答 し,「
また こんな感 じなのか。 また 自分 自身が長 男に対 して過ちをす るのではないか と思って しまいます。」 とい うような不安 も表明 している.Coは
年明 け以降の長男の後 ろ向きの変化 に直面 して再び不安 と混乱のただ中に投 げ込 まれ たClの
気持ちを共感的に受 け止め,長男の気持ちを理解 し焦 らず変化 を待つ とい う夏以降のClの
長男 との関わ りのあ り方 を認める とともに,不登校状態 を自力で克服す るまでにはいろ いろな段階を経過す るのであ り,そ
の中には一見後戻 りしたか と思えるようなことも起 こりう ることを説明 し,あ
せ りや無力感が生ず るか も知れないが,長男に対 してはこれ まで通 りの対 応の仕方を継続す るよう心がけることを助言 した.第
8回 (200x+2年
3月13日
)長男の継続面接 日と同日であ り
,相
談室 まで長男 と同道 して きたが,気
分が悪い とい うこと で担当者 とも相談の上長男の面接は中止 し,母親面接のみ行 つた。前回の面接以降2月下旬の ことであつたが
,長
男が誘われてある友だちの家に行 つた ら,A
とい う長男 とは小学校1年生以来の友だちもたまたま遊びに来ていて,久しぶ りに再会するこ ととなった。以前
2軒
とな りに住んでいて長男が昨年9月に引つ越 しをしてか ら久 しぶ りに 会 つた親友である.Clに
よれば,Aと
は以前か ら行 き来 していて長男に とっては気 を遣わな いでい られ る唯一の友だちで,他の友だち とではつきあいの深 さが異なるという。その後Aか
ら電話があると長男は喜んで出かけるようになった。
Aは
長男の他の友だち とは違って,自
宅 に遊びに来た ときにはClと
も娘(姉 )と
も気軽 に話 をす るし,長男 に とってAは
何か特別 な 存在で,「
こころを開 くことができる.」 相手であると考えている。久 しぶ りの親友 との交友関 係の復活 によって,長
男はひ と頃に比べて表情 に明 るさが戻 り,い
ろいろな活動 を積極的に行 うようになって きた。Coが ,<偶然 とは言 え,ち
ようどタイ ミングよ く仲の良かつたA君
と
再会できた ことが,こ
の ところ閉 じこもりがちであつたお子 さんを再び外の世界に向かわせた
ので しよう。>と述べ ると,Clも
安心 した表情で この ところ とげ とげしさが薄れてきた こと,
落ち着いた様子が見 られ ることな ど長男の様子 について語つた。
不登校 の息子 を持つある母親 との面接過程
また
,こ
の前3回
忌があった ときに長男の様子を見ていると,あ
らためて亡 き父親 と雰囲気 や顔立ち,仕草な どがそっ くりであることに気がついた。「とくに ふわっ とした優 しさ"は
夫 と共通 していると思います
.そ
れは ほっ とするような一言を他人に対 して言える"と
い う ことで,他人への配慮に優れているとい うことです。」。 これまでの面接の過程では母親の日か ら長男の性格や気質の面で優れていると思 う点や長所 を指摘する発言はほ とん ど見 られなかっ た ことを考 えると,長
男の よい点 を正当に評価 しようとす るClの
姿勢 を強 く感 じ取 ることが で きた.続 いて
Clは
,夫の墓の問題 について経緯 を説明 して くれた。夫 との死別以降のClが,自
身 の課題 として長男の不登校の問題以外に3つ
の課題(債
務の処理および夫の墓をどこにするか,転職・異動
)を
抱えてい ることについては,こ
れ までのClの
発言か らCoが
推測 していた こと であるが,今までは とくにClの
方か ら詳 しく説明 され ることはなかった。Coは ,こ
こに来てCl自
身の課題の うちの 1つ について彼女 自身の日か ら悩みを語 りかけてきた ことは,彼女 自 身が これ らの問題 をどのように解決 してい くかが自分のこれか らの生 き方を決定 してい く際に 重要であるとい う認識をこの段階で持ち始めていることの現れであろうと解釈 した。最後 に借金問題が片づいたこ`とが報告 された。 まだ精神的負荷
(知
り合いの保証人に対する 申 し訳なさなど)は
残っていて,心情的にはつ らい というが,長
男がひ と頃の引きこもって し まった状態か ら抜 け始めていることを実感 しているせいか,表情 は明 るい。第
9回 (200x+1年 4月 17日
)最初 に
,長
男の2年
生への進級が認められ,新しい担任が明 日来訪 して くれ ることにな り,Clは
一安心 した こと,さ
らに長男 もそのことを素直に喜んでいるとの報告があつた。Coが
最近の長男の家庭での様子 について尋ね ると,Clは
よ くしゃべ り,表情 も明 るい と嬉 しそうにいう。「(相
談室に)行って来れたか らだ と思います。何か全身が軽 くなった感 じがt
ます。」 とも語つた。長男は前 日か ら明 日が相談室 に通 う日であることを母 に告げ
,期
待 して いるようなそぶ りを見せ るとい う.家の中で一人でぶ らぶ らしていることについて娘(姉
)からきつ く叱 られた ときには, これまでは反論することがで きな くて部屋 に閉 じこもって じまっ ていたが,最近 は娘
(姉 )か
ら小言 を言われて も動 じないようになってい るとClか
ら見た長 男 と娘 との関係の様子が説明され,長男を好意的に見ている母親の姿勢が伝わって来 る。また
,Clは
長男 に対す る肯定的な気持ちの具体的現れ として以下の ようなエ ピソー ドを聞 かせて くれた。母親のよ く行 く美容院の美容師さんか ら,「
表面的には幼稚に見えるけれ ども,あの子 と話す と
,あ
きないね。 どこで観察 しているのかわか らないが,も
のごとをよ く見てい る。」 と言われたそうである。母親 はそれを受 けて長男のことをCoに 「遠回 しに気づかせ るよ うな言い方をする子なんです。 どこでそういう見方をするのかわか らないけど・・・」 と肯定 的な口振 りで言 う。また,長男 は
Clと
共通す るものを見つけたい と感 じているのか,疲れてい る母親 を見て気 遣 うような発言や一緒に行動 したい とい う気持ちをClに
伝 えることが多 くなってきた とい う。「去年の秋以降旅行にも行かない
,ま
た行 けないようになっているので,そ
の ことを十分 にわ かった上での長男な りの対応なのかな とも思います」。何 とな く母子間に気持ちの交流ができ つつあることを示すエピソー ドであるように思われた。Cl自
身が抱えてい る課題の一つである3回
忌の ことについて,「
いよいよ節 目が近づいて来た と思います。 自分 としてはこの
3回
忌を一つの区切 りとして新たな生活に臨んで行 きたい と 考えています.」 と述べ,新しい段階への出発点 として位置づ けたい という決意表明であるよ うに思われた。また,こ
の発言 を契機 として ここ2年
間苦 しんで きたClの
胸 の内をさらけ出 し,「
この2年
の間何を してきたのか軌跡がないように思えます。わか らない うちに月 日だけ がたつて しまつたように感 じます。長 い2年
間で,『
また今 日も生 きなければ』 とい う気持ち だけで進んで来た と思います。」 と述べ,さ
らに,そ
のような気持ちを抱えて必死 に生 きてき たのは自分だけではな くて長男 自身で もあった とい うことをClが母親 として理解 しつつある ことを,「
自分だけでな く長男 自身 もそうい う日々を重ねて きたのか も知れ ません。『なぜ こん な ことに?』 とい う気持ち と『勝手に自殺 した夫に対す る恨みの感情』が これ まで自分を支え て来 ました。」「この ところそうした気持ちは薄れ,寂しい という気持ちを強 く感 じるようにな りました.自
分がそこまで思 うのであれば,長
男はもっ と寂 しいはずだ と思 うのです.」 「自分 のそ うい う気持ちの変化 を長男は敏感に察知 して くれていると思えるようにな りました.」 な どの発言で示 している。夫の死 とそれに伴 うさまざまな トラブル(借
金・債権者 との関係,夫の実家 との関係
,自
分 自身の仕事の問題)の
中で,わ
き目もふ らずひたす らその日その日を必 死 に生 きてきたのが,こ
こにいたってようや くこの2年
間の自分の気持ちを整理することができるようになったことを
Clは
自覚 し始めている。そうした
Cl自
身の気持ちの変化が,長
男に対す る見方を肯定的・受容的な方向に変化 させ,「自分 と長男 とは裏表の関係にあると思 うようにな りました.」 とい うように
,内
容 は異なっ てはいて も,Clと
長男が苦 しさを感 じていた ことについては共通 していることを得心で きた ことに結びついていると考えられ る。「自分 も気持ちを表に出せ るようになった し,会社で も 思った ことを言えるようにな」 り,長
男に対 して 「どこかに認められない部分があつた」 と述 懐 し,「
長男が学校 に行 けない状態であるのも,そ
うした行動 とい う形で 自分 に反応 していた んだな と思います。長男 もそうい う行動を取 ることで自分で自分を苦 しめているところがある と思います。」 とい うように,自
分の気持ちを分析すると同時に長男の内面の状態を思いや り, 推測 し,わ
かつてあげたい,認めてあげたい とい うように,Clの
長男 に対す る見方や感情 に 転換が生 じた ことが うかがわれる. '
さらに続 けてClが仕事上出会 うさまざまな人々の家族関係の問題 を引き合いに出 して
,「
私 が仕事 としている介護の現場で も,家族関係の病理が反映 しているという実例 をこれで もか と 言 うほ ど日常茶飯事 に日の当た りに してい ます。そ うした実例 を体験 す る中で,娘が 自分 に『 これ以上悪いことはないか ら。』 と述べた意味が よ くわか るようにな りました。」「介護の現 場で出会 う人々の抱える恨みや悲 しみの感情やそれで も家族がいることによって生ず る癒 しの 実態に直面することで,生きているだけで まだいい と思えるようになった し
,そ
うい う中で も 救われ るもの,す
が るものがあるんだ とい うことが実感で きました.仕
事 を しなが らエネル ギーをもらつた と思えるようにな りました.」 「この2年
間を総括で きる自分がいることを発見 してよかった と思います。 自分は残 された家族 を一生懸命支えてきたが,実は家族によって自分が支えられてきたのではないか と実感で きるようにな りました。長いスタンスで自分たちが 置かれた状態を見つめることができるようになった と思います。」 と述べ,夫の死後
2年
とい う時間を経て,自
分 自身 と長男をはじめ とす る家族共同体の これ までを総括 し,今後の生 きる 指針へ とつなげていこうとする姿勢を自覚 し,新たなる家族の再生に向けて積極的に,前向き に取 り組んでいこうとする決意が表明された重要な面接機会であつた と思われ る.不登校の息子 を持つある母親 との面接過程
[第
Ⅳ期長男像の再構成 と今後の展望
(第 10回
〜第12回 )]
第
10回 (200y年
5月15日
)前回以降の長男の様子について,最近体調を崩 し本 国も面接 を受 けた くない といっていると い う。 また連体明 け以降
A君 (第 8回
参照)の
ところに遊びに行 くのをぱった りとやめて し まった といい,や
や長男の心理面の状態が思わ しくないのではないか と気遣 う様子である。それで も
Clは
,最近の長男の様子で 「特筆 され ること」 として,長
男が 自発的にウオーキ ングを始 め,「
2ヶ月かけてやせ たい。」 といって朝や昼間に近 くの公園 まで出か けるように なったことと,「
ゲームはもうや り尽 くした.外に出た方がや りたいことがある。」 と言い出 し て,積極的な様子が見 られるようになったことを挙げている。連体最終 日に夫の弟の家族が こち らに来て泊 まった。義弟夫婦 と
Clと
が法事の ことで相談 を している中身を聞いていて,長
男 は 「この ごろBさ ん(最
近Clの
ことを名字で呼ぶ ことが 多い とい う)は
,他人に対 して悪 口を言 うことが多いん じゃない?」 な どと言 つてClに
対 し て批判的な発言を行った。 また,以
前 は 「僕はお母 さんに とって どんな存在なんだろう?じゃ まになっているのかな?お母 さんの悩みの うち70%は
僕だね。」 とか,「
僕 は生 まれて来ない方 が よかった。」な どと言 うことがあったが,今では 「以前はそう思っていたけれ ども,今はそ んなふ うには思わない,仕事 もしているしね。」 とか,「
少 しは休んだ らどう?」 「(Clが
債務 や法事の問題で苦 しんでいることを理解 して)お
金は天下の回 りもの。」「僕が こうしているか らお母 さんも疲れ るんだよね。」「働 いているのは僕のためだよね。」などと言 うようになった。これ らの発言を聞いて母親は
,こ
のように母親の苦労を考慮することができるようになった 長男の変化 を心か ら喜ぶ とともに,こ
うした一連 の長男の言動の変化 を体験 し,そ
の意味をClな
りに解釈す る中で これ までの長男への対応 を振 り返 り,自
分な りに総括 を行 っているか のような発言が見 られた。た とえば,「
夫の自殺後 自分が何 をすればよいかわか らない状態が 続いていました.思
えば長男に対 して自分が言つてはならないことを言つて しまったのかも知 れません。夫の ことが片づかないのに長男 まで こんな状態になって しまって・・0と
い うよう な言葉 を長男に対 して投 げかけていたのか も知れ ません。」 と述べ,夫の死,借金返済,夫の 実家 との関係その他経済面での処理などを一度 に抱えてたいへんであったこれまでを振 り返 り,これ らの問題が一通 り決着・結論が出せそうな現在にあって
,
この段階でおそらく初めて自覚 的に母親 としての長男へのこれまでの対応のあ り方について吟味・検証 し始めている様子が う かがわれた。Coは :<中
学校2年
生への進級が認められた ことを家に訪ねてきた担任教師を通 じて知った ことが 自信や 自己への信頼感を高める方向に働いている>可
能性 を指摘 し,<そ
の ことが母親 に対する対等な話の仕方や態度に示 されているのか も知れ ません。>と
述べた。Clも
新 しい 担任 と話 し合 うことができた ことや英語が大事 と言われて自発的に勉強するようになったこと を述べ,家庭教師や相談室に通 うことの意味づ けも長男な りに明確 にされているように見える と言い,Clか
ら見て長男が何か 「軽 くなったような感 じ」がするという.第‖回
(200x+1年
6月12日
)6月