テーマ・レーマ構造と文頭の語順
著者 幸田 薫
雑誌名 静岡大学教養部研究報告. 人文・社会科学篇
巻 19
号 1
ページ 110‑90
発行年 1983‑09‑01
出版者 静岡大学教養部
URL http://doi.org/10.14945/00008501
テー一マ・レー一・・マ構造と文頭の語順
幸 田
薫e。問 題 設 定
最近10年余りの間に,かつて曖昧であったり,諸家によって食い違いの 多かった「既知・未知」,「旧情報・新情報」,「主題・解題」,「伝逮価値」
などの機能的文分析の概念の精密化ないし整理が進むと同時にtこれらの 概念を適用することにより,さまざまな欝語現象に新たな解開の可能性が 開けてきた。しかし,伝達価値の一種である伝達ダイナミズム(co斑muni−
cative dynamism)と並んで,ドイツ語における主題・解題の概念につい ては,いぜん明確な規定がなされておらず,これを用いた言語現象の説明 にもこれといって見るべきものはないように思われる。そこで本稿では,
ドイツ語の主題を表示する需語手段であるとされる文頭の語順の分析を通 じて,ドイツ語においてそもそも主題・解題概念の雷語学的に有用な規定 は可能であるかどうかを探ってみたい。以下,問題点をさらに具体化する ために,代表的な主題・解題の定義と文頭語順の研究を瞥見しておくこと にしたい。
主題・解題のさまざまな定義づけにほぼ共通しているのがs
1,文はそれについて述べられている主題部分と,主題について述べ ている解題部分より成る
という考えであろう。そして,より具体的には諸家により,
2つ︾4ζ﹂
文法主語・文法述語 論理主語・論理述語 文頭成分〔のうちの一一SS〕
1日亭青幸侵。xe,}青幸侵
・それ以外の文部分
などがそれぞれ主題・解題に対応させられてきた。これだけ多種の対応の させ方が行われていることだけからも,1のような概念規定が大まかすぎ て役に立たないことが分かるが,同時にこれは,そこに何らかの有用な概 念が未分析のままに秘んでいることを想定させるのに十分な状況をなして いるとも言えよう。仮に,この種の言語学的に有意義な概念があるとすれ ば,それは,2〜5のそれぞれの場合に別々に認められる,1の変種概念
なのか,それとも,2〜5の分節が一致するような文一一それはひじょう に多いケースであるが一に認められる共通概念なのかのいずれかであろ う。このような見通しをつけた上で,ひとまず言語外の概念に留っている
1から離れて,4で言及された文頭の機能の研究を概観してみることにし
よう。
ところが,この研究史の初期は,文頭に主題概念を割り当てたプラハ学
派のMATHESIUSの考えのK. AMMANNによる導入とその修正の歴
史に他ならない。まず,Boost(1955,82)は,文頭成分のすべてが主題 とはいえず,そのうちから6, 7のような強め(Hervorhebung)のある ものは除くべきだとした。
さ
6, Ein Buch will er lesen.
ぐ の
7, 1hn schatze ich.
(以下,文中の最強アクセントを で,第2次アクセントをcで示す。)
vこれに対して,Benes(1971,165f)は,情報構造の観点から,強めの ある文頭成分のうち,7のような旧惰報を表し,対照を受けているものは,
明らかに主題であり,Boostがこれを除外したのは誤りであったと指摘し た。また,Enge1(1976,43 f)は,逆に主題の範囲を7のような強めの ある旧情報のみに狭め,8,9のような強めのない旧情報成分には接続機 能(Anschluβfunktion)を割り当てた。
8, Das kann doch ich nicht wissen、
9。 ぜ4げder Alm gil)t es keine S茸nde。
確かに,この研究の発展において,主題の範囲は文頭機能の分析に伴っ てますます精密化してきており,文頭に言及する主題・解題の定義が最も 言語に近い形で行い得ると言えそうである。しかし,三者の基準としてい るのはあくまでも1で挙げた概念規定に近い直観であった。
その間,生成統語論の観点から話題化変形の名の下にどのような統語構 成素が文頭に倒置されうるかの研究が行なわれたが(例えば,Huber/
Kummer,1974,96 ff),変形の条件ないし機能は意識的に考察の対象から はずされた。Altmann(1980)はこの点を指摘して,話題化変形に,「真 の(echt)」話題化と,「偽の(unecht)」話題化があるとし,後者には10 のような訂正の機能のみを割り当てた。
10,A:Edith hat die Terassenwohnung genomm、en,
B:Ne加,認8 Ladenu/ohnung hat Edith gen◎mmen.
Altmannは2つの話題化の区別を,分裂文への書き換え可能性に求め,
56 (1eg)
偽の話題化には,対話文テストによってさらに,発書内容の訂正(10の場 合)と聴者の前提の訂正の2種を設けているなど,客観化の可能な操作を 導入した点が評価できるが,BOOSTに始まる伝統的研究で認められてい た区別は抜け落ちている。
客観的な方法を用い,かつ精度の高い研究としてPheby(1975)と Haftka(i981)が挙げられよう。両者は, M. A. K, HALLIDAYのテー マ概念に準拠して,再び文頭成分のすべてを主題としたが,前者はイント ネー一ションの観点から,後者は旧情報・新情報,既知・未知などの観点か ら文頭機能を詳細に分析しており,特に後者は文脈によっては不適格とな る文を観察する方法を取り入れることによって,文頭磧究に新生面を開い たといってよかろう。
以上見てきたように,文頭研究は主題概念と不即不離の関係を保ちなが ら,方法の客観化を通じて徐々に書語そのものの分析に向かってきたと言 える。そこで,上記Pheby, Haftkaの研究を足掛りに,本稿ではさらに この方向を進め,文成分が文頭に位置できるための条件を,対照,強調お よび伝達重要度,既出・未出,既知・未知,旧情報・新情報の4つのテー マ・レー一マ構造の概念との関係において求めていくことにしたい。その結 果。1の意味での主題e解題に秘んでいる有用な概念が自つと明らかにな (1)
るであろう。なお,本稿では,インフォ 一一マント調査と並んで,2つの短 編物語集をデータとして用いた。例文中,BないしRとあるのは,それぞ れ Brecht(1965)およびRoth(1976)からのi採集例文である。また,
取り扱う文成分は,主語と文頭に立つと定動詞倒置を慧き起こす文成分の うち名詞的文成分に限ることにする。
1。対照強調と文頭の語順 1,1 対 照
幸田(ig82,22 ff)において,2種の対照を区劉し,それぞれ次のよう に定義した。
1ヱ。対比的対照一テキスト中の2文間において,PαQβR:PγQδRの 関係がある場合,αとγおよびβとδは対比的対照をなす。
12,対立的対照一・一一テキスト中の2文聞において,PαQ;nicht(PβQ)
の関係がある場合,aとβは対立的対照をなす。 nicht( )とは ( )内の文の否定を表す。
(ただし,P, Q, Rは任意の構成素とし,αとβおよびγとδは,それぞ
れ同一の統語環境にある同一の統語範疇に属する文成分とする。また,公 式は語順規則適用前の基底語順に適用するものとし,対照対の一方は言語
的文脈に現れていなくともよい。)
11と12は,それぞれ,Haftka(1981,748)の対比対(の形成および同 定にgPheby(1975,65)の一次的対照およびtW−一一的対照に当たる。 Haftka
の例文にPhebyのイントネー一ションを付けて一例ずつ挙げておこう。
t リ サ
13. Die宅er→ihat zwar ein Auto, aber Isolde→ihat eine groβe ぴ W◎hrmng.(・一 11)
り14,Der Donkeymarn Jonny\lh劉t Jan verbrannt.(鵠12)
(なお,以下,→,/,\はそれぞれ,平板,上昇,下降イントーネー一.シ ョンを表す。1は,HALLIDAYの情報単位の区切りに該当する。)
13,14の文頭成分は主語であるが,主語以外の成分に対照が置かれた場 合,これが文頭に立てるか否かを調べてみよう。まず,対比的対照の場合
は,文頭への倒置が可能である。
15,Was hat der Lehrer dem Vater und dem Sohn gegeben?
サ t
Ssa, Er hat dem Vater・→lein Buch und dem Sohn→lein Bild gegeben.
ぐ や l
15b, Dem Vater→lhat er ein Buch nd dem Sohn→1 ein Bild gegeben.
16,Was hat deτLehrer mit dem Vater und dem Sohn gemacht〜
t さ t
の16a, Er hat den Vater→igetr6stet, i aber den Sohn→laus−
geschimpft .
そ l t t
16b, Den Vater・→Ihat er getr6stet, i aber den Sohn→・}ausge−
s〈)hi加pft.
ここで注意したいのは,対比対は同一の情報構造をもった旧情報成分で,
意味上の共通性によって一グループを成すことである。テキスト調査から は,対比対の一方が比較級や最上級を含んでいることが多いことが分かっ た。2例を挙げておく。
17,So schenkten wir dem Wirt einen Ktibe1…, Dem Kellner schenkten wir eine alte, erbrochene Konservenbttchse…, und einem 2uM Lohal gehb ptigen Mdidchθn ein schartiges Taschen−
messer,… (B,210)
18,Urlanb habe er heute, einen viel ldngeren Urlaub nehme er in einigexx Tagen, sobald er … (R,86)
58 (107)
17からは,対比対の一方は,倒置されないこともあり得ることが分かる。
そこで,対比対が一グループを成す点を条件として規則を立てると,
19, PαQβR:PγQδR瓢αPQ6R:γPQδR 条件:(α,γ)∈A(旧情報)
ところで,対比的対照には,11の公式申のaとγ,βとδの関係がnur,
auch, aberなどの不変化詞に伴われることによって,特定化されている ことが多い。これらの場合は,対比対は不変化詞によって含意され,言語 的文脈に現れないことが多い。若干の例を挙げておく。イントネーシHン の表示は省略する。
イ,PαQβR:PαQ一βR型(nur型)
20。 Ein Freund kam und brachte Nachricht von Rabold, kein Brief ほ
war da, Geld nur schickte er.(R,52)
t
21. Einen so schbnen Namen trdgt keiner, wie Sie, hier.(R,66)
ロ。PαQβR:PγQ一βR型(aber型)
ロ22。 …,aber!廊プmich in Cardiff war es doch ziemlich hoch,…
B,144)
23。 …ich bin eigentlich nicht immer gut zu ihr gewesen. Aber
ロ 1hnen bin ich gut。(R,43)
ハ. PαQβR:PγQβR型(auch i型)
24。…,daβdas sch6ne Madchen ein 911tes Restaurant kannte,一・t、
び
Und auch den Kellner ka㎜nte sie,…(R,160)
り25,Aber selbst die Priester sah ich den Soldaten nach zum Fluβ gehen. (B, 301)
イ〜ハにおいても,対比対は文頭に倒置されずに基本語順の位置に留ま ることもありうる。つまり,対比的対照を受けていることは,文頭に立て るための部分条件ではあるが,必要十分条件ではない。
次に,対立的対噸照が置かれた文成分が文頭に倒置されうるかどうかを調 べてみる。26のような単なる新情報を表す文成分は,倒置され得ないが,
27のような対立的対照があるそれは倒置が可能である。
26。Weエn hat der Lehrer das Buch gegeben?
の26a。 (Er hat es)dem SchUler(gegeben),
り26b。 *Dem Schtiler\ihat er es gegeben.
り27。Wem hat der Lehrer das Buch gegeben?
27a。 (Er hat es)dem Sch廿1er(gegeben).
27b。 Dem Sch貸1er\1hat er es gegeben.
26では,先生が本を与えた人が必ずしも生徒だけである必要はないが,27 ではそうである。つまり,27のみ対立的対照の定義,PevQ:nicht(PβQ)
に当てはまる。なお,27のβは闊題となっている人々からαを除いた人々 をなしている。また,0節の10のような訂正文の場合も,対立的対照の定 義に当たるが,Ctとβは前後の文脈から明確に発見できる。αが,βと同 統語範購にあるβ以外のすべての要素である例として,28が挙げられる。
28,》Nirgendsw・hin!《−sagte Fallmerayer・》Bei伽θ%wiU
ich bleiben!《 (R,86)
いずれの場合でも,対比的対照の置かれた文成分βは,基本語順に留っ ていることも文頭へ倒置されることも可能である。そこで,次の規則を立
てよう。
29, PαQ:nicht(PβQ)..Slt!liS.t αPQ:PβQ
対立的射照も,文成分が文頭に立つための部分条件であり,必要十分条 件ではないことを確認しておこう。
1、2,強 調
強調の現れる文脈は,幸田(1982)では30のように定義した。
30,nicht−e( )によって,( )内の事態を話・者または聴者が期待 していないことを表すと,nicht−e(PaQ):PαQという関係が成立す る時,αには強調が置かれる。ただし,公式の前段は言語的文脈には 現れない。
まず,旧情報成分の強調の場合を見てみよう。これは,Haftka(1981,
757)が,r提出されたテーマの有標的保持」, Pheby(1975,139)が「結 合的対照」と名付けているもので,その機能は,前者によると,「今・話 したXがまさに…」(Da wir gerade von X gesprochen haben)とノx°ラ フレーズされ,後者によると,特定の文脈で提起された対象が全く新しい 文脈で話題になる場合とされている。ここでも,Haftka(ユ981,757)の 例文にPheby(1975。139)のイントネ・…i…ションを付けて挙げると1
31,工solde→lhat eine groβe Wohnung・
可能な訳として,「このイゾルデがね,大邸宅を持っているんですよ。」な どが考えられよう。32,33もこれに類する例であろう。
32,Sie trug ein Lorgn◎n, es waτdamals bei manchen Leuten Mode・
ob sie nun schwache oder n◎rmale Augen hatten. Das Lorgnon hob sie nun an die Augen,…(R,101)
6◎ (105)
33, In、 dem Stadtchen gab es ein Kinotheater. Der】Besitzer war …. Er hatte ein Kino geg痴ndet, wei1…, Er verkaufte….
lns Kino ging ich mit Anna.(R,58)
次に,新情報部分の強調の例を見よう。30の定義からは,訂正文にも強 調が置かれることになるが,これは,しばしばs諸家によって訂正文が強 調アクセントと名付けられていることと符合する。訂正文とは別の新情報 部分の強調として,34,35に見られるように,急に行なわれた行為を生き 生きと活写する場合とか,急に思いつかれた新情報を感情のままに表出す
る場合がある。
34,》Wiedersehen, Kettner!《klingt,s herUber. Rosen werfen sie.
(B,17)
35。 ,und alle zollten sie ihm den verdienten Beifall. 》Recht hat er, recht!《riefen sie alle auf einmaL(R,185)
さらに,期待からの逸脱が不満や非難を伴う場合が多い。
36, E勿BtZch will er lesen!(=:6)
37, 魏%hielt man stets als Muster der ganzen Klasse v◎r,…(R,7)
36は「本なんかを彼は読みたがっている」。37は「こんな彼が手本として クラス全体の戒めのために持ち出された」とでも訳すことができよう。
(37のihnの指示対象は,括弧付きの「優等生」であり作者は否定的な目 を向けている。)
以上の諸例を通じて,強調を受けた文成文は倒置されうる。そして,こ こでも,強調は文頭に位置するための部分条件であると思われるので,次 の規則を立てることにする。
ept.38, 捻icht−e(PαQ):PαQ→nicht−e(PcrQ):αPQ
2。チーマ・レ■一一マ構造と文頭の語順
本節では,対照・強調の含まれていない文について,以下で規定する伝 達重要度,既出e未出,既知・未知,旧情報・新情報の4つのテPtマ・レ
t・・・・… }構造と文頭の語順との関連を調べ(2,1節),これらの4条件によっ
て説明がつかない場合は,第5の条件が何かを考察する(2.2節)。具体 的には,上記4条件を文成分のテキスト素性として捉え,これらの素性を 条件として,いわゆる語題化変形規則を作製することが申心となる。その 際,随意的規則としての話題化をなるべく義務的規則に近づけることをR 指す。1節の対照・強調に係わる随意的規則3つについても,同時に義務
的規則に変じることになろう。以下,本論で前提する概念を規定してお
く。
{3)
39。伝達重要度(comm磁nicative importance)一一文脈から切り離さ れた文の各成分が持っている相対的な機能価値。原則として語順上s 後ろに置かれる成分ほど高く,文アクセントを受ける成分が最も高い。
Haftka(1981)は基本語順の研究から次の序列を得た。( )内の 数字が小さいほど機能価値は大きい。
時・因由の副詞成分(1①→主語⑧→場所・手段の副詞成分㈲吻聞接圏的 語⑤弗4格以外の直接目的語㈲→4格の直接目的語②→文アクセント
←・主格または4格の述語(1)・・e・・一 方向の副詞成文㈲←形容詞または前置詞 述語(7)←動詞(9}
40,既出・未出一一言語的文脈においてsすでに現れたか否か。
41,既知・未知一一班知とは,内容的には,言語的文脈および言語外の 場面などから,それと同定できること(必ずしも指示対象の同定では ない),形式的には,定表現や総称的用法および再出の特定的用法の 不定表現によって表されるもの,未知とは既知以外のものを示す。
42,旧情報・新情報一一一聴者が(当然〕前提としている〔と話者が思っ ている〕情報を述べる部分と,聴者にとって新しい〔と話者が思って いる〕情報を述べる部分。ある文の新情報とは,その文に対し当該文 脈で適切と思える補足疑間文を作ってみたとき,疑問詞で置き換えら れた部分に,1日情報はそれ以外の部分に対応する。
2。1 4条件との関係 2。1。1 テキスト初頭文
テキスト初頭文とは,新情報の既知でかつ未出の語(以下,既知・未出 語と呼ぶ)と未知語から成る文である。未知語のみから成る場合もある が,これは便宜上,2。1,2節のテキスト中間文に含めることにする。
まず,Haftkaの例文を見てみよう。
43。Herr Meier hat nach dem Umzug dem F∫ank die Eisenbaha ins Zimmer gestellt.
43a, Nach dem Umzug hat Herr Meier dem Frank die Eisenbahm ins Zimmer gestellt.
43b。*Dem Frank hat Herr Meier nach dem Umzug die Eisenbahn ins Zimmer gesteUt.
62 GO3)
44。Der groβe Bruder hat dem Frank eine E圭senbahn geschenkt,
44a, *Dem Frank hat der groβe Bruder eine Eisenbahn geschenkt.
44b。 *Die Eisenbahn hat der groβe Bruder Frank geschenkt.
Haftkaは,43,44から複数の既知・未出語間では,基本語順が適用され るのが普通であるが,状況設定語(時・所の副詞)と主語に限っては,ど ちらを文頭に立てるかは話者の選択に委ねられていると言う。43と43aと の選択は,情報構造の別によって,決定できない。43は45によって,43a は45aによって問うことができるがいずれもテキスト中間文である。
45,Was hat Herr Meier gemacht?
45a, Was ist nach dem Umzug passiert?
そこで次の規則を立てよう。
46・X〔+主語+新情報〕YムAXY条件:Xキ…1謄侵…
A
ところが,インフォーマントによると,44bはあり得るしe Haftkaは 挙げていないが,43において,die Eisenbahnを倒置した文も考えられる という。これらの文は,明らかに,Was ist mit der Eisenbahn passiert?
によって問われる情報構造を持っている。しかし,テキスト初頭文でこの ような情報構造が現れるのは,あの汽車のおもちゃはどうなったのか,と いう強い関心が発話時に聴者にある〔と話者が前提した)ときとか,小説 の書き出しで,汽車のおもちゃが以前から話題の中心になっている場面に 読者を直接ひきずり込むことによって文体的効果を出そうとするときなど,
例外的な場合である。従って,これらもテキスト中闇文と見なされる。
次に,既知・未繊語を1つ含んだ文を観察してみよう。例文はHaftka のものである。
47,Ein groβer Junge hat dem Frank eine Eisenbahn、 geschenkt.
47a。 Dem Frank hat ein groβer Junge eine EiseRbahn geschenkt.
48。 *Eine Eisenbahn hat der groβe Junge Frank gegeben.
Haftkaは,47,48から,既知・未出語が1つで残りがすべて未知語のと きは,この既知・未出語を文頭に立てることができるが,未知語はそれが 基本語順において取るべき位置より前に繰り上がることはないとしてい
る。ところが,インフrk・一マントによると,47aはdemに指示性が強く 含まれており,強調が感じられるという。すると,43b,44aでもそうで あったが,対照,強調のないテキスト初頭文では,主語は倒置を受けられ
るのに対して,斜格は受けられないことになる。
2,1.2 テキスト中聞文
テキスト中聞文には,既知・既出語を含む文と未知語のみから成る文が ある。まず,前者の場合をインフォーマント調査により見ていく。
49,Wa曲at der Lehrer gemacht?
49a. Er hat einem Sch掘er ein Buch gegeben.
49b. *Einem SchUler hat er ein Buch gegeben.
49c, *Ein Buch hat er einem Kind gegeben.
49から未知語は既知語を飛び越えて文頭に倒置され得ないことが分かる。
50。Was ist mit dem Schttler passiert?
50a,*Dem Schttler(*Dem,*lhm)hat ein Lehrer ein Buch gegeberL 51,Was ist mi亡dem Buch passiert?
51a。 Ein Lehrer hat es(das Buch)einem Kind gegeben.
5ユb, Das Buch(Das,*Es)hat ein Lehrer einem Kind gegeben・
52。Was hat der Lehrer mit dem Sch斑er gemacht?
52a, *Dem Schttler(*Dem,*lhm)hat der Lehrer (er)ein Buch gegeben.
53。Was hat der Lehrer mit dem BUch gemacht?
53a, Der Lehrer(Er)hat es(das Bu,ch)einem K短d gegeben・
53b, Das Buch(Das,*Es)hat der Lehrer(er)ei強e磁Kind gegeben.
50〜53のいずれの問に対しても,基本語順を守った回答文は適格文である
(ただし,代名詞は決定度に従って並べ換えられる)。まず,50aと52b,
53aと54bとを比較すると,ここでも,4格の倒置はOKだが,3格の
それは対照を含意してしまうことが分かる。そこで,規則54を立てよう。
54・X〔‡1罐報〕Y°黙AXY条件:Xキ…旧翻…
A
51aと51b,53aと53bの区別は疑問文テストによってはできないので,
この場合の倒置の動機は不明である。そこで,51b,53bは規則54が随意的 に適用されたものと考えておき,2.2節で詳しく立ち入ることにする。
次に,テキスト中間文のうち未知語のみから成る場合を見てみよう。
55。Was ist passiert?
55a, Ein Lehrer hat einem Kind ein 8hch gegeben.
55b。 *Einem Kind hat ein Lehrer ein Buch gegeben.
64(101)
55c, *Ein Buch hat ein Lehrer einem Kind gegeben,
55から明らかなように,未知語のみから成る場合,基本語順から逸脱する vLことは許されない。ただし,Benes(1973,46)は,状況設定語と主語と
の語順交換が可能であることを指摘している。
56。 Eine Frau lebte in einem kleinen Haus.
56a。 In einem kleinen Haus lebte eine Frau。
vBenesは,56と56aの区別は,既知・未知によっても,研清報・新情報 によってもつかないから(なぜなら,旧情報は既知成分でなければならな い),文頭の位置とそれ以外の部分への文の分節の型,つまり,HALLI・−
DAYのtheme−rhemeを取り入れる必要があると説いた。
ところが,56と56aの区N,ljは, Haftkaが「テーマ成分でない成分のテ
…一}化」と名づけた文頭の有標機能の考えによって説明できるように思わ れる。 ∫
57, Ein Schneider i hatte einen S◎h】n.
この文は,日本語で意味的に2xeラフレーズすると「昔,仕立屋がありまし た。彼には息子が一人おりました。」とでもなるだろう。つまり,ここで は,文頭成分は,未知成分を表すべき不定冠詞がついているにも拘らず,
無理矢理,旧情報(繍既知成分)としての解釈を強いられている。Trejan
(1961,35)の58に対する説明はこの点で興味深い。
58,In Todesangst folgte das junge Mまdchen…an den Weiher;
dort war im Schilf eine◎ffnung, eine TrepPe fithrte hinunter.
最後の文では,Treppeまたはhinunterのいずれにも第1次アクセント が置かれる。前者に置かれると,動詞よりもTreppeの方が文の叙述対
象となる。また,後者に置かれると, Hier gab es auch eine Treppe,
sie fuhrte hinunter. と書き換えたのと同様の意味をなす,という。
Haftkaによるとこの種の文頭機能は,二 。一一ス文の始まりに典型的に 現れる。そして,倒置成分も多数見られる。
59, An einer Beτufskrankheit bes◎nderer Art ist ein H琶ftling der
StrafanstaIt Kumula(Schweden)erkrankt.
これらのことから,未知文頭成分は,対比,強調のない限り,新情報と しても,いわば疑似旧情報としても解釈される。したがって,56と56a では,疑似i日情報が異っている点で区別できることになる。
文頭成分が既知成分となりやすい傾向は,数量詞のついた文成分の場合,
意味を変える。、Kirkwood(1969,103−104)の例文と説明を見てみよう。
60。 Viele Studenten standen v◎r der Universitat.
60a, Vor der Universitat standen viele Studenten.
Kirkwo◎dは,60は「特定の学生のうち多くの者は大学の前に立っており,
他のものは別の所に立っている」という意味を持ち(英語ではMany of the studentsに当る),60aは, 「大学の前にたくさんの学生が立ってい る」という不特定の意味を持つ,といっている。数量詞のついた鼠的語の 例を作って,インフrk 一マントに尋ねたところ,やはり,文頭位置に立つ
と特定的な解釈を受けるらしい。
・61。 Drei Bttcher habe ich vielen Leuten gegeben.
61a. Ich habe vielen. Leuten drei Bttcher gegeben.
61は,drei BUcherが,特定の本A, B, C, D…のうちの3冊(与える人 によって組合せは別々であってよい)を意味するが,61aでは,不特定の 多数の本のうちの3冊を意味するという。このように,文頭の位置が,未 知成分を既知にしたり,未知・既知に関して不特定の数量詞表現を特定化 したりする機能については,本稿では。 Es gibt X, was ist mit X?と いう情報構造を与えておくに留めたい。
最後に,既知・既出語と既知・未出語を含むテキスト申間文に簡単に触 れておきたい。
Haftka(731)は,既知・既出語を押えて既知・未出語が文頭に立つ場 合を,主題変更(Themawechsel)と名付けている。 Haftkaの例文を見
てみよう。
62, … diese Uhr ist Anziehungspunkt ftir viele Besucher. Die Berユiner kennen sie als markanten Treffpunkt.
62の第2文は,63のように書き換えても知的意味は同じである。
63, Sie ist den Berlinem als markanter Treffpunkt bekannt.
63は,Was ist mit dieser Uhr?によって,62は, Wie sind die Berliner dieser Uhr gegentiber?によって問われる情報構造を持っている。つまり,
既知・未出語であるdie Berlinerは,63では薪情報警62では旧情報をな
している。既知・未出語が旧情報をなす場合は,予期しない要素のテ・・・・…マ としての取り立て(Angreifen einer nicht erwarteten Einheit als The−
ma)あるいは分離的対照(dissoziativer Kentrast)と, Haftka(781)お よびPheby(124)が名付けている文頭の有標機能と見なされる場合が多 い。64は,Haftkaの例にPhebyのイントネーシscンを付けてある。
64。(…ich wusch ihm die Wunde…aus.)Verbandsf:eug→ihat一
66 (99)
ten wlr nicht,
65, (Erzahlen Sie bitte ttber sich selbst!)一・Ich bin verheiratet.
Kind6r habe ich keine.・・e
66。 Einen Urlaub hatten sie nicht, Ihr ganzes Leわen war ein ein−
ziger Urlaub.(R。53)
Haftkaは,この種の文頭機能を, Was…betrifft,…によってパラフレ ーズしている。64については,「包帯はといえば。私たちは持ち含わせて いなかった」と訳せるだろう。64〜66の文頭成分は,総称の名詞句と考え られ,それらの既知性は概念としての既知であること,そしてこれらの概 念は全く「予期せぬ」ものではなく,先行文脈から意味上予想できるもの である点に注意しだい。 しかも,述部動詞は,すべてhabenでありイデ ィオム化している。64〜66に対してはsHaftkaの「テー一マ成分でない成 分のテー一マ化」の場合と同様,惰報構造を決める疑問文テストの作製が間 接的なものとなるであろう。つまり, Was X betrifft, haben YX?な
どとなろう。
2,2 4条件以外の条件との関係
前提で,4つのテー一マ・レーマ構造と文頭の語順との関係を見た。その結 果,テキスト初頭文では,状況設定語と主語は,情報構造の選択によって置
き換えが可能であるが,その他の成分は基本語順に従わねばならないこと,
そして,テキズト中聞文では,以下の4つの場合を除いて,情報構造によ って文頭の語順は決定可能であることが分かった。本節では,情報構造に よって決定不可能な3つの場合について,その決定要因を探ってみよう。
イ,新情報の主語と旧情報の目的語が含む文において,どちらが文頭に立 つかの決定要因。ロ。1日情報の主語と照情報の目的語を含む文において,
どちらが文頭に立つかの決定要因。ハ,3格目的語は文頭に立てず,4格 欝的語は文頭に立てたのはなぜか。なお,二。指示代名詞の倒置は適格で あるが,人称代名詞のそれは不適格とされたのはなぜかについては扱わな
い。
2。2。1新情報の主語と旧情報の目的語を含む文 まず,前節で問題となった文を挙げてみよう。
67. *Dem Sch灘er(*Dem,*lhra)hat ein Lehrer ein Buch gegeben.
68。 Ein Lehrer hat dem Schtiler(dem, ihm)ein Buch gegeben.
69。 Ein Lehrer hat einem Schtiler das Buch(das, es)gegeben.
70。 Das Buch(Das,*Es)hat ein Lehrer e圭nem Kind gegeben.
67,68では主語も3格目的語も人を表すものであった。ではe3格が物,
主語が人を表す場合はどうか。
71。 Dem Problem haben sich viele Fors¢her gewidmet.
72。Dieser Sache muβman genauer nachgehen.
71,72は,対照,強調を含まずに可能である。このことから,69,70にお いて,4格が人の場合は不適格になる可能性が予測されるがsはたしてそ の通りである。
73。*Den Sch銭1er hat ein Lehrer einem Kaufmann vorgeste11t.
74,*Den SchUler hat ein Lehrer gesehen.
しかし,主語がmanの場合は,例外である。
75、 Den LokomofivfUhrer wie den Heizer−sie waren beide tot −hatte man bereits fortgeschatft.(R,177)
76,Den Chauffeur muβte man in der Luft zerreiβen.(B,111)
67,68では。動詞がgebenという3・4格支配の動詞であったが,3格 のみを支配する動詞においても,3格の人が1格の人を越えて倒置できな いのは同じである。
77,*Dem SchUler kam ein Lehrer entgegen.
78,*Dem Sch慧1er hat ein]しehrer geholfen.
以上のことから,倒置の可能性は,当該文成分自身の格によってではな く,人間か人間でないかという意味素性によって決定されることが分かる。
しかし,なお,人間を蓑す斜格がすべて倒置不可能とは結論できない。主 語が物を表す場合が未検討だからである。
の の の の さ ニ の の の
Dem Sch拠er gefa1ユt ein Gαn灘de.
De斑Lehrer geh6rt eine groβe Firma.
Dem Sch貸1er fehlt Geld.
De熱Sch撮er beei獄dmckt ei無Ge玄n…ilde.
Den Lehrer{iberraschte ein Gewitter.
Den Lehrer erinner重e ein Tra鷲】m an seineロSchtiler.
Dem Lehrer st6β亡Bier auf.
Dem Sch斑er gen毛igt ein Glas Bier.
Dem Sch磁er u批erlaufeロoft Fehler.
物の場合は}倒置がOKであることが分かる。したがって,68〜78までの 事実は,79〜87から入を表す主語と人を表す霞的語のみの関係において捉 えるべきであることになる。つまり,
68 (97)
88。人を衷す目的語は,人を表す新情報の主語があるときf倒置され得
ない。
したがって,規則54は次のように変えねばならない。代名詞であるか否か はひとまず置く。
89・X〔‡塾薯報〕Y〔‡騰〕Z瓢BXAYZ
A B
条件:A・・〔一一人〕または B瓢(一人〕
ところで,89の変形を惹き起こす条件,つまり新情報の主語と旧情報の 目的諮のどちらが文頭に立つかの決定要因について目を移そう。旧情報が 目的語のみのときの,情報構造を問う疑問文は,Was passiert mit〜?
であった。次の例文を見られたい。
90,
90a,
90b,
90c,
インフォー一マントによると,90aは,
90bは,私が巻き込まれた出来事を私の視点から叙述し,90cは,私の経 験について叙述している。また,9◎aは。物語の中などでしか出て来そう にないと言う。そこで,90aは現象文,90bは,私の経験を述べた90cに近 いから,現象経験文,90cは経験文と特微づけることができよう。
同様のことはs物を表す斜格の倒置についても言える。
91a、 Ein Lehrer hat das Buch einem Sch蔽er gegebeR.
91b、 Das Buch hat ein Lehrer einem Sch劔er gegeben.
91c、 Das Buch wurde v◎n einem Lehrer einem Sch撮er gegeben.
物の場合,ある出来事に巻き込まれることは,経験ではなく,成り行きな いし経緯どして捉えるべきであろう。そこで,90aは現象文,91bは現象 経緯文,91cは経緯文として特微づけることができる。類例を挙げておく。
92、 Ich dachte, diese Banke h銭tte der Bischof, als sie n◎ch jwng waren, in die Erde gepflanzt−(R,58)
93、Diese Ph◎tographien hatte sie ihm zu seinem Geburtstag ge−
schenkt。(B,73)
また,manを主語とする場合,文頭成分が人でも物でも,この文頭成 分の性質を表す文となっている。
Was passiert mit dir〜
Eine M慧cke hat mich gestoche葺.
Mich hat eine M銭cke gestochen,
Ich bin von einer M茸cke gestochen worden.
出来事を第三者の視点から叙述し,
94, Diesen kindischen KCi.nstler Pauli konnte man leicht an die Luft setzen.(R,ユ4)
95. Korallen ka㎜man morgens, mittags, abends und in der Nacht,
セ
輔・tragen,。鱒 (R,184)
さて,以上のような薪情報の主語と旧情報の目的藷との文頭での入れ替
く4)
わりは,久野(1973)の視点の概念によって説明できるように思われる。
つまり。新情報を表す主語が文頭に立つ文では,視点が文全体の表す現象 に向けられており,そこに参与している個々の文成分には向けられていな い。それに対して,旧情報を表す主語が文頭に立つ文では,視点がこの文 成分に向けられている。この説明は,後に見るように,文頭一般の機能に 対して当てはまると思われる。そこで,随意規則89は次の様な義務規則に 変えることができる。
89a・X〔灘報〕Y〔欝〕Z駄BXAYZ
A B
条件:A・:〔一一入)または B==(一入〕
2,2.2 旧情報の主語と旧情報の目的語を含む文
まず,88を書き換えた96が妥当することを確認しておこう。
96,人を表す旧情報の霞的語は,人を表す旧情報の主語があるとき,倒 置され得ない。
97。Was hat der Lehrer mit dem Schtiler gemacht ? 97a,*Den Sch灘er hat der Lehrer gesehen.
97b、*De】m Sch養1er ist der Lehret nachge王aufen.
97c。*Dem Sch灘eτhat der Lehrer ein Buch gegeben.(−5ユa)
97a〜97cは,対照を含意してしまい,97に対する答えとしては,主語を 文頭に立てなければならない。
次に,1日情報の主語と旧惜報の圏的語(ともに人を表す場合を除く)と の文頭での入れ替えはつねに可能ではないことを,98と99で見ておこう。
99は,Haftka(731)の例文で,テキスト初頭文である。
98。A:Gestern habe ich in einer Telefonzelle einen 1,000 Mark−
Schein gef魏nden.
B:Was hast du mit dem Geld gemacht?
98a, A:*Das Geld habe ich s◎fort zur Polizei gebracht.
70 (95)
98b。 A:lch habe es sofort zur Polizei gebracht.
99,Auf dem Berl iner AIexanderplatz steht die bekannte Weltzeituhr.
Diese Uhr ist Anziehungspunkt f縫r vieIe Besucher,
99a。 *Die Uhr werde ich Ihnen bei einem Spaziergang zeigen.
99b。 Ich werde Ihnen die Uhr bei einem Spaziergang zeigen.
99aで,倒置が不可能である理由をHaftkaは,決定度という概念に求 めている。つまり,人称代名詞,指示代名詞,定名詞,不定名詞の順に決 定度は低くなるが,一般に文成分は,より決定度の高い文成分の前には位 置できないという原則があるからだとする。しかし,この議論の出発点と なった前節の52a(100 aとして再掲)や101bでは,決定度によっては解 決できない倒置が見られる。
100, Der Lehrer hat das Blユch einem Kind gegeben.
100a。 Das Buch hat der Lehrer(er)einem Kind gegeben,
101。Wissen, Sie, daβheute im Theater D6n Car1◎s gespielt wird?
101a, Ja, ich weiβes.
101b、 Ja, das weiβich.
100aでは定名詞が,101bでは指示代名詞が人称代名詞の前にあり,決定 度の原則を破っている。
まず,考えられるのは,100aや101bでは,対照が置かれているのでは ないかということである。しかし,100aではeine磁Kind,101bではweiβ に最も強いアクセントがあることから,本来の対照とは認められない。も し,100a,101bに対照が認められるとすれば,それは,本来の対照が特 定の既知項目のセットから1つを選び出して他と対照させるのに対して,
不特定の未知項目のセットと対照させるものといえる。つまり,100a,101b では,それぞれ,先生がしたこと,ないし私が知っていることが,本ない しドン・カルロスが上演されること以外のものに対してもあることが意識 に昇っているが,100,101aでは,文中に述べられたことのみが,問題 とされている。同様に,99a,99bでは,それぞれ,私がしたことないし 私がするだろうことが,お金ないし時計以外のものに対してもあることは 問題としがたい。つまり,テキスト構成の観点から言うと,10◎a,101b は,前後の文脈にr彼」ないしr私」に関する叙述が予想されるのに対し て,100,101aは,これだけで完結したテキストになりうる。
98,99は。それだけで完結した情報になっているため,1日情報の圏的語 の倒置が不自然であったわけだが,逆に,前後に同様の情報構造を持った 文のあるテキストでは,旧情報の園的語を倒置しなければ不自然である例
を挙げてみよう。
102, Mein sch6nster t Ferientag
Ich fand einen Sonntag in den Ferien besonders schbn・ Ich fuhr mit meinem Freund zu meiner Tante. Ich stand morgens schon frUh auf. Ich ging dann mit meinem Freund zura Bahnhof.…
102は,Schoenke(i979,24 f)の例文であるが,彼女は,ヱ02を文体的に 単調で固く退屈であるとし,次の様に書き換えるべきであるという。
103,Einen Sonntag in den Ferien fand ich besonders sch6n. Ich fuhr mit meinem Frenud zu meiner Tante. Morgens stand ich schon frUh auf。 Dann ging ich mit meinem Freund zum Bahnhof.
D 脅
ここで,視点の考えによって102の不自然さを説明してみよう。102では,
書き手が第三者の立場から「私」に視点を据えているのに対して,103で は,「私」の立場から「私」以外のものに視点を据えていると考えられる が,日記文としては,第三者の立場から自分を叙述するのは不自然であ
る。
100a,101bに立ち戻ると,H本語との対照の観点を利用して同様のこと が言える。例えば,10ユbはH本語に直すと,「それは知っている」とな り,「私はそれは知っている」というように主語が入ると不自然になる。
主語は,一つレベルの高い「主題」として背景に退き,いわば「二次的主 題」として,dasが取り立てられている。発話者は, ichの立場に立って,
dasに視点を合わせているのに対して,101aでは,第三者の(中立的な)
立場から,ichに視点を合わせている。
以上のことからe旧情報の目的語が旧情報の主語を押さえて文頭に立つ 条件は,視点の発出点が主語と一致し,この主語に関する叙述を表す文が (5〉
前後の文脈において現われていることであると考えることができる。
ところで,このような条件を満たす主語は,久野(1978,67f)の談話 主題(discourse topic)に他ならない。そこで,次の規則を立てることが
できる。
104・X〔+旧情報+主語+談話主題〕Y〔1購Z獣BXAYZ
A B
条件二A=〔一入〕または B ・=〔一一人〕
72 (93)
3、 ま と め
以下,まず,対照・強調のない文の文頭語順の規則性をまとめ,次に,
対照の置かれた文頭成分について,無標文と同様の扱いができることを示
す。
イ。基本語順(伝達重要度)に従った語順は,どのような情報構造にお いても可能である。
ロ,基本語順において取るべき位置が文頭以外で,かつ新情報を表す文 成分は,テキスト初頭文の主語を除いてs文頭に倒置され得ない。言いか えると,新情報を表す文頭成分は,主語または状況設定語のみである。
ハ。入を表す主語がある文では,人を表す目的語は,文頭に立ち得な
い。
二,新情報を表す主語が文頭に立つ文では,発話者の視点が文の表す現 象全体に向けられており(rテーマ成分以外の要素のテーマとしての取り 立て」を除く),旧情報を表す目的語が文頭に立つ文では,発話・者の視点 がこの目的語のみに向けられている。
ホ。旧情報を表す目的語が文頭に立つ文のうち,旧情報の主語を含む場 合は,視点の発出点がこの主語と一致するときである。
イ〜ホを,文頭の主題概念を仮定してまとめると,主題性は,a,基本 語順で前に位置する(伝達重要度が低い)ものほど強く,b,新情報より 旧情報の方が強い。aとbは矛盾しないことがほとんどであるが, aを破 ってbが妥当する場合は,c,旧情報成分のみに視点が据えられた時であ り,aとbがともに妥当しない場合は, d,基本語順における文頭成分
が,視点の発出点と・…一一・・iF致した時である。Cs dの視点の決定は,発話者の テキスト構成上の意図によっている。また,c, dの適用をブロックする より強力な条件は,e.人を表す目的語は,人を表す主語がある時は,文 頭に立てないことである。
対照が置かれた旧情報成分が文頭に立つ理由は,対照機能にあるのでは なく,aまたはdによっている。なぜならば,対照の定義PαQβ:PγQδ およびPαQ:nicht pβ Qにおいて, ec }γ,β が主語の場合, Pは φか状況設定語であるから,α,γ,β は,aによって文頭に立つ。ま た,的γ,β が目的語の場合は,対照対のそれぞれのPに同一主語,
つまり談話主題が含まれていることになるから,この主語が削除されない 限り,α,γ,β は,dの条件によって文頭に立つ。重要なことはs対 照の置かれた成分は,eの適用を受けないことである。また,強調の文頭
機能のみは,以上の文頭の語順規則に違反することによって生じる文体的 効果と考えられる。つまり,強調(アクセント)の置かれた文頭以外の文 成分を文頭に立てることによって,この強調の度合いをさらに高めること
ができるという意味で,規則38も,「強い強調」を表す場合の義務規則と して取扱うことができる。
本稿の考察の結果,文頭の主題性の雷語学的に有意義な定式化はa〜e および,基本語順のそもそもの決定要因を,視点の置きやすさのハイエラ
,・・一・・一 Lーの観点から綜合したものになろうと思われる。基本語順の決定要因
と並んで,主語性,論理主語(意味格)性との関係など議論し残した問題 もあるが,本稿では,a〜e間の相互関係を明らかにし得たことで満足し なければならない。
註
{1}インフォー一マントとして御協力下さったH・Steinberg先生(東京外国語大学)f H.Wels先生(静岡大学)にこの場を借りて感謝いたします。
(2)副詞的文成分の語順,イントネーションについては・別稿rテーマ・レーマ構造 と副詞」 (発表予定)を参照されたい。
{3}Sgall et al.(1973)は,基底文を対象として・伝達重要度は・統語格ではなく 意味格によって決まるとしているが,表属文への適用の際には・統語格が基準とな る。例えば,受身・分のi籔底語L順は、Haftka(1981,748 f)によると・主語一voa十 3格であり,von+3格(動作主格)一主語(対象格)の順ではない。基底文の統 語格と意味格が相違する場合は,ごく限られている。(Lenerz ・1977,100ff参照)
(4)情報構造検索のための疑問文テストによって,両者を区別することは不可能では ない。両文に可能な疑問文を作ってみると,例えば,91aは, Was ist passiert?
とWas ist mit dem Buch passiert?によって間われるが,91bは,前者による 問いかけが不可能である。しかし,いずれにせよ,1日情報・新情報以外の概念が必 要であることに変りはない。
㈲ 1臼情報の主語と1臼情報の霞的語の文頭での入れ替わりについても・疑問文テスト にょる区別が可能である。つまり,文頭に圏的語が立った文に対しては,例えば,
100aに対しては, Was hat der Lehrer mit dem Buch unter anderen ge−
macht?という問いかけがでぎる。
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