Instructions for use
Title レジン複合型MTAと高周波電流の直接覆髄への応用 [論文内容及び審査の要旨]
Author(s) 伴, 眞吾
Citation 北海道大学. 博士(歯学) 甲第14532号
Issue Date 2021-03-25
Doc URL http://hdl.handle.net/2115/81241
Rights(URL) https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/
Type theses (doctoral - abstract and summary of review)
Additional Information There are other files related to this item in HUSCAP. Check the above URL.
File Information Shingo̲Ban̲abstract.pdf (論文内容の要旨)
Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP
学位論文内容の要旨
博士の専攻分野の名称 博士(歯学) 氏 名 伴 眞 吾
学 位 論 文 題 名
レジン複合型MTAと高周波電流の直接覆髄への応用
キーワード: レジン複合型MTA,MTA,高周波電流,直接覆髄,デンチンブリッジ
直接覆髄を成功させるためには,歯髄への感染を防止して露髄部に修復象牙質を形成させる 必要があり,覆髄材には封鎖性と抗菌性,生体親和性,硬組織誘導能が求められる.現在,広 く使用されているmineral trioxide aggregate(MTA)は優れた臨床成績が得られる一方で,
歯質接着性がなく硬化時に血液汚染があると強度が低下したり封鎖性が低下したりするなどの 問題がある.近年MTAの主原料であるポルトランドセメントにメタクリル酸エステルを組み合 わせ,トリ−n−ブチルボラン(TBB)を重合開始剤としたレジン複合型MTAが開発された.これ は,MTAと同様の抗菌性,生体親和性,硬組織誘導能に加えて,MTAにはなかった歯質接着性を 有することが報告されている.しかし,直接覆髄に用いた場合にMTAとどのような差があるの かは明らかにされていない.一方,高周波電流は古くから電気メスとして使用されており,切 開だけではなく,止血や殺菌にも用いられている.直接覆髄成功のためには無菌的な処置や止 血が重要とされていることから,高周波電流を露髄部の殺菌や止血に用いることで,直接覆髄 の成功率向上が期待される.また,高周波電流は硬組織形成の促進効果も報告されており,ラ ット頭蓋骨に作製した骨欠損に 520kHz の高周波電流刺激を加えると,骨形成が著しく促進さ れるとされている.これらのことから,高周波電流は短時間で止血,殺菌できると同時に歯髄 内でも硬組織形成を促進して,直接覆髄の成功率を向上させたり適応範囲を拡大できたりする 可能性がある.そこで本研究は,直接覆髄にレジン複合型MTAと高周波電流を併用することの 有効性を明らかにする目的で行った.
実験には5週齢のWistar雄性ラット36匹を用い,全身麻酔下で上顎左右第一臼歯近心咬合
面を露髄させた.実験は,直接覆髄日:露髄当日/2日後,覆髄材:MTA/レジン複合型 MTA
(SMTA),高周波電流の通電:有/無,を組み合わせて合計8群で行った.各群とも覆髄後ただ ちに4-META/MMA-TBBレジンで仮封した.高周波電流は,周波数520 kHz,デューティ比 70 %,
90 Vで0.2秒間通電した.本実験は国立大学法人北海道大学動物実験委員会の承認を受け,同 指針に従って行った (承認番号19-0091).
観察期間は,露髄後直ちに覆髄した群では1週と3週,露髄2日後に覆髄した群では3週と し,観察期間終了後にマイクロCT撮影を行い,脱灰薄切標本を作製してヘマトキシリン−エオ ジン重染色し,3週後の試料は組織学的に分類を行った.組織学的分類は,①近心髄角部,② 髄腔近心部,③髄腔中央部,④髄腔遠心部,⑤歯根部に分けて各部位ごとに炎症性細胞浸潤の 面積の割合で次のように行った.①炎症なし:ほとんどない.②軽度炎症:1/2以下.③重度炎 症:1/2以上.④変性・壊死:1/2以上で組織や細胞が消失.また,各部位の象牙質様硬組織形 成状態を面積の割合で次の4群に分類した.①なし,②1/2以下,③1/2以上,④全面.さらに,
新生象牙質様組織が髄腔壁と連続して形成されている部位で,最も露髄部に近い部位をデンチ ンブリッジ形成部位とした.統計学的分析は尤度比検定を行った.
露髄直後に高周波電流を通電せずにMTAで覆髄した場合,MTA直下には変性した組織はほと んどみられず炎症性細胞が浸潤していたが,SMTAを用いた場合には,髄角部の歯髄は変性して おり,髄角部や冠部歯髄近心部の炎症性細胞浸潤は MTAより SMTA を使用した方が有意に少な かった.既存象牙質と連続するデンチンブリッジの形成は,MTA では髄角部でほとんど生じる
ことはなく,冠部歯髄近心部で生じることが多数であったのに対して,SMTAではほとんどが髄 角部で生じており,両群間に有意差が認められた.
また,露髄直後に直接覆髄した場合,高周波電流の通電により髄角部での炎症は,通電しな い場合に比べて有意に減少し,象牙質様組織は有意に増加した.一方,高周波電流の通電によ る歯髄の変性・壊死の範囲は,露髄2日後の方が露髄直後に比べて拡大する傾向がみられ,露 髄2日後に覆髄した場合でも,高周波電流の通電を行うことで炎症は有意に減少した.
SMTAがMTAより炎症を抑制したのは,SMTAの方が変性範囲は広かったことから,強アルカリ 性で抗菌性が強く発揮されたためではないかと考えられた.また,変性した歯髄と象牙質様組 織が混在している部位が多数観察されたことから,歯髄が変性することは象牙質様組織の形成 を阻害しないと考えられた.また,SMTAの方がMTAより露髄部に近いところでデンチンブリッ ジが形成されたのは,SMTAの方が炎症抑制効果に優れていたため,象牙質様組織の形成にも有 利に働いたのではないかと思われた.
高周波電流の通電により炎症が減少したのは,露髄部近傍で蒸散や熱変性によって殺菌され たためと考えられた.また,露髄直後より露髄2日後の方が広範囲に歯髄は変性したが,これ は細菌感染によって歯髄に壊死や炎症が生じて,健全な歯髄より電流が流れやすかったためで はないかと考えられた.熱変性が広範囲に生じるということは,殺菌範囲も拡大すると考えら れ,露髄後歯髄に感染した症例でも,高周波電流を通電してから直接覆髄することで,成功の 機会を増やせる可能性があると思われた.高周波電流の通電により象牙質様組織の形成がわず かに増加したが,直接覆髄の成功のためには止血が重要とされており,実際に露髄部に通電す ることですべての歯で止血が十分に行えたこと,歯髄全体で象牙質様組織の形成が促進された わけではなかったことから,歯髄の細胞を分化させたというより止血の影響が大きかったので はないかと考えられた.
以上より,レジン複合型MTAはProRoot® MTAより炎症を減少させ,デンチンブリッジを露髄 部に近い位置で形成させるとともに象牙質様組織の形成量を増加させること,さらに高周波電 流を露髄部に通電することは炎症を軽減させ,象牙質様組織の形成量を増加させることが明ら かとなった.