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防御義務の有無に関する判断基準の検討

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(1)

■アブストラクト

アメリカにおいて責任保険者が防御義務を負うか否かは,第一に訴状にお ける主張から判断されるが,訴状における主張が担保範囲外のものであって も,外部情報により被保険者の責任が担保範囲内であることを保険者が知っ ている場合,防御義務を負うという可能性基準ルールを用いて通常判断して いる。このため,例外的な状況を除いて,保険者は防御義務を負うことにな るが,防御義務を負う状況の中には保険者と被保険者との間に利益衝突を生 じさせる状況がある。そこで,保険者の権利を保護するために条件付の防御 を認めることもあるが,そのような防御では利益衝突は解消されない。また,

利益衝突を解消する制度としての宣言的救済判決は万能の制度とはいえず,

このような場合の解決手段として十分ではない。アメリカでは保険者が防御 義務を負う範囲が広いことから,被保険者の利益に資する面もあるが,多く の悩ましい利益衝突の状況も作り出しているといえる。

■キーワード

責任保険,防御義務,アメリカ法

. はじめに

アメリカの責任保険契約においては,一般的に,被害者である第三者から

防御義務の有無に関する判断基準の検討

アメリカ法の近時の動向

深 澤 泰 弘

*平成27年 月19日の日本保険学会関東部会報告による。

/ 平成28年 月 日原稿受領。

(2)

の被保険者に対する損害賠償責任の追及につき,保険者が被保険者に代わっ て防御する義務(いわゆる 防御義務(duty to defend))を負う旨の定め が約款上に存在する1)。我が国においても,任意自動車保険等において,保 険者が示談代行を行う旨の定めがあり,アメリカにおける防御義務と同様の 義務を保険者が負う状況が存在するが,アメリカにおいては,自動車賠償責 任保険,住宅総合保険及び企業包括責任保険等,一般的で主要な責任保険契 約において,保険者はこのような義務を負っている2)。このように責任保険 契約では,保険者は被保険者に対して損害てん補義務を負うだけでなく,防 御義務も負うことがあり,これは他の損害保険契約にはない責任保険契約に おける顕著な特徴であるといえる。このような防御義務の存在により,被保 険者は次のような利点を享受することができる。すなわち,被保険者は通常,

自らが訴えられた不法行為訴訟(責任訴訟)において防御をするための費用

(弁護士報酬や訴訟に関するその他費用)を容易に支出するだけの余裕はな く,また,有能な弁護士を見つけ出し選任することや防御を管理することも できない。保険者の防御義務により,保険者が責任訴訟の専門家である弁護 士を被保険者の防御にあたるよう任命し,防御費用も通常保険者が負担して くれるので,被保険者は以上のような懸念から解放される3)

また,保険者においても次のような利点がある。すなわち,保険者は責任 訴訟において実績のある有能な弁護士を選任することで,訴訟の過程におけ る攻撃防御方法の選択,和解の申出に対する承諾の可否等,訴訟における排 他的な管理権を得ることができる。これにより被保険者に対する損害賠償額 を,被保険者が選任した弁護士による責任訴訟において認められるであろう 損害賠償額よりも低く抑えることができ,保険者の支払う保険金額を節約す

1) Robert H. Jerry,Ⅱ & Douglas R. Richmond, Understanding Insurance Law at 792‑793 (5th ed. 2012).

2) Kenneth S. Abraham, Insurance Law and Regulation : Cases and Materials at 624 (5th ed. 2010).

3) Tom Baker & Kyle D. Logue, Insurance Law and Policy : Cases and Materials at 473‑474(3d ed. 2013).

(3)

ることができる。また,保険者の選任する弁護士は,被保険者に対してなさ れる根拠のない請求や過大請求を見つけ出して排除し,それらに基づく訴訟 が提起される可能性を減少させる。さらに場合によっては,被害者である第 三者と被保険者との共謀による保険金の支払を防ぐことができる4)

このように責任保険者に防御義務を認めることにより,被保険者及び保険 者にとって大きな利点があることは間違いない。しかし,責任保険契約では,

このような防御義務があるからこそ,保険者と被保険者,さらには防御を担 当する弁護士等の間において,様々な利益衝突が発生するおそれがある。ア メリカにおいてはこのような利益衝突に関する裁判例が相当数存在し,様々 な角度から多数の研究がなされている。そこで,本稿ではアメリカ法におけ る責任保険者の防御義務に関する分析・検討を行う。このテーマに関しては 既に優れた先行研究が存在する5)が,これらの論文が公表されてから十数年 が経過し,その間にもアメリカにおいてはこの問題に関して多くの裁判例や 論文が公表されている。また,現在アメリカ法律協会(American Law In- stitute,以下 ALI という。)において,責任保険法におけるリステイト メントの作成作業が行われており6),その中においても防御義務に関する規 定が定められている。ALI のリステイトメントは我が国の法研究や実務に おいて少なからぬ影響を持つものといえるので,その内容には大いに関心が 寄せられる。我が国においても一部の責任保険契約には防御義務の規定が存

4) Douglas R. Richmond, Liability Insurerʼs Right to Defend Their Insureds, 35 Creighton L. Rev. 115, 116 (2001).

5) 原和朗 責任保険者の防御義務と利益相反 損害保険研究59巻 号93頁以下

(1997年),広瀬裕樹 アメリカにおける責任保険者の防御義務㈠(二・完) 名 古屋大学法政論集179号71頁以下(1999年),181号189頁以下(2000年)(以下 広瀬① ㈠(二・完) という。),広瀬裕樹 責任保険者による防御と利害対立 に関する一考察 保険学雑誌580号123頁以下(2003年)(以下, 広瀬② とい う。)。

6) ALI のホームページには現在 RESTATEMENT OF THELAWLIABILITY INSURANCEDiscussion Draft (April 30, 2015)(以下 ディスカッション・ド ラフト という。)の段階まで公表されている。

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在する以上,アメリカと同様の問題が発生している(または今後発生する可 能性がある)ため,このテーマに関して最新の議論や裁判例を踏まえてアメ リカ法を検討することには大きな意味があるものと思われる。しかし,本稿 においては紙幅の関係上,全ての論点について検討することは不可能である ので,防御義務の有無の判断基準といった論点に絞って検討を行う。防御義 務に関しては,保険者と被保険者の利益衝突に関する問題(特に解決義務に 関連する問題)や防御弁護士の行為規範の問題等,検討すべき重要な論点が 多数残されているが,それらは別稿で扱うことにする。また,我が国の防御 義務に関する諸問題を整理し,アメリカ法の示唆から我が国の防御義務がど うあるべきかについての検討も非常に重要であるが,別の機会に譲る。

. アメリカ法

2.1 防御義務の有無の判断基準

⑴ 訴状における主張ルール

責任保険者が約款の規定を根拠に防御義務を負うことは間違いがない7)が,

どのような場合に防御義務を負うのかについて約款には詳しく記載されてい ない。責任保険者がしかるべきタイミングで防御を行わず,それにより被保 険者に損害が発生したとすれば,保険者は防御義務違反として後述するよう な責任を負わされることになる。したがって,どのような場合に保険者に防 御義務が発生するのかという点は非常に重要な問題となる。この点について は判例法理により一定の基準が示されている。

伝統的・一般的な立場は,訴状(complaint)における被害者たる原告の 主張(allegation)から判断するという立場である8)。この立場によれば,防 御義務の有無は,原告の訴状に記載されている主張と,当該責任保険の約款 文言とを照らし合わせたうえで,判断されることになる。すなわち,訴状の

7) Jerry & Richmond, note 1 at 793.

8) Jerry & Richmond, note 1 at 798‑800, Ellen S. Pryor, The Tort Liability Regime and the Duty to Defend, 58 Md. L. Rev. 1, 23 (1999).

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記載内容が真実であるとすれば,保険者に損害てん補義務が発生するという ような場合に,保険者に防御義務が発生することになる9)。このような判断 基準は 訴状における主張ルール(complaint allegation rule)(以下 CA ルール という。), フォーコーナーズ・ルール(four-corners rule)(訴状 の 全 文 言 を 参 照 す る こ と か ら )10), エ イ ト コ ー ナ ー ズ・ル ー ル( eight- corners rule)(訴状の全文言を約款の全文言と照らし合わせたうえで参照 にすることから)11)等と呼ばれたりする12)。本稿では ALI のディスカッショ ン・ドラフトに倣い CA ルールと呼ぶことにする。

CA ルールの最大の利点はルールの適用基準が明確であるということであ る13)。訴状において保険担保の対象となる主張がなされているかという客観 的な基準だけで責任保険者の防御義務の有無を判断するため,保険者にとっ ても被保険者にとっても責任保険者の防御義務が発生するのか否かの判断に 比較的困難が伴わないですむ。また,保険者は訴状における主張についての みを検討すればよく,被害者の請求について調査する必要がないから,その 分の費用を節約することができる。その結果として保険料の低減につながる ことから,保険者にとっても保険契約者にとっても経済的効率性の観点から 利点があるとも指摘されている14)

しかし,CA ルールにはいくつもの問題点がある。まず,被害者である原 9) ., Hartford Cas. Ins. Co. v. Litchfield Mut. Fire Ins. Co., 876 A. 2d 1139, 1144 (Conn. 2005), Capitol Indem. Corp. v. Elston Self Service Wholesale Gro- ceries, Inc., 559 F. 3d 616, 619 (7th Cir. 2009).

10) ., Ramos v. National Cas. Co., 642 N. Y. S. 2d 290 (App. Div. 1996), State Farm Fire & Cas. Co. v. Helminiak, 659 N. E. 2d 385 (Ohio C. P. 1995).

Randy J. Maniloff & Jeffery W. Stempel, General Liability Insurance Coverage : Key Issues In Every State at 111 (3d. ed. 2015).

11) ., Potomac Ins. Co. of Illinois v. Peppers, 890 F. Supp. 634, 637 (S. D.

Tex. 1995). Pryor, note 8 at 23.

12) 原・前掲注5)及び広瀬① ㈠・前掲注5)の文献では プリーディング・ルー ル(pleading rule) と呼ばれたものである。

13) Jerry & Richmond, note 1 at 799.

14) .

(6)

告は訴状において つの訴因だけを主張するとは限らず,複数の訴因を主張 することが考えられる。被害者が保険担保の対象となる訴因と,対象となら ない訴因とを主張してきた場合,防御義務は発生するか。典型的な事例とし ては,被害者が訴状において第一に被保険者の故意による損害の賠償を,第 二に被保険者の過失による損害の賠償を求めてきた場合があげられる。この 場合,全ての訴因に対して防御義務が発生するというのが多くの裁判所の考 えである15)。本来ならば担保の対象とならない訴因については防御の対象に はならないはずである。しかし,保険担保の対象となる訴因だけを防御する ということは不可能であるため,全てについて防御を行う必要があるとされ ている16)

次に,訴状に記載されている主張からは防御義務の有無を判断しがたい場 合にどのように処理するのかという問題がある。例えば,被害者の損害賠償 請求においてはさほど重要ではないため,訴状には事故が発生した正確な時 刻が記載されていない(例えば夕方頃などという記載しかない)が,保険者 にとっては,時刻によっては担保範囲外となるため重要な事実であるといっ た場合である。このような場合は,保険者の防御義務が保険契約(約款)か ら生じる義務であるということから,契約(約款)の解釈の一般原則に従っ て処理される。すなわち,訴状の記載内容があいまいで防御義務が生じるか 否かが不明確であった場合にどのように処理されるかが保険約款に明確に記 載されていない以上,約款作成者不利の原則に従い,被保険者に有利に解釈 されるべきであるということになる17)。したがって,このような場合,責任 15) ., State Farm Gen. Ins. Co. v. Mintarsih, 95 Cal. Rptr. 3d. 845 (Ct. App.

2009).

16) 興味深い事例として,Buss v. Superior Court, 939 P. 2d 766(Cal. 1997)が ある。Buss に対する27の訴因のうち,責任保険証券で担保される可能性のあ るものはたったの つであったが,カリフォルニア州最高裁は保険者の全訴訟 における防御義務を認めた。ただし,訴訟終了後,保険者に担保範囲外の請求 に帰する防御費用を被保険者から回収することを認めた。このような担保範囲 外の請求に帰する防御費用の回収の可否についても,アメリカでは議論がある。

17) Jerry & Richmond, note 1 at 802.

(7)

保険者は防御義務を負うことになる。

そして,特に問題となるのは,訴状において主張されている内容と客観的 な事実が異なる場合に,CA ルールを厳格に採用する,すなわち,訴状にお ける主張のみで防御義務の有無を判断すると,妥当な結論を導けなくなる可 能性があるということである。例えば,訴状において主張されている訴因や 事実は保険担保の範囲に含まれるものではないが,保険者は調査等からこれ が記載内容や主張方法の誤りであり,実際には保険担保の範囲内に含まれる ものであると認識している場合である。この場合,CA ルールを厳格に適用 すると,保険者は訴状における主張から防御義務の有無を判断すればよいの で,責任保険者に防御義務が生じることはないという結論になるが,このよ うな結論が妥当ではないのは明らかであろう。

このように CA ルールは訴状における主張の内容に防御義務の有無が大き く依存することになるため,被保険者は訴状を作成する原告(の弁護士)の なすがままの立場に置かれてしまうことになる。また,これにより場合によ っては被保険者と原告が共謀をすることもありえ,問題であると指摘するも のもある18)

⑵ 可能性基準ルール

以上のように CA ルールを厳格に適用すると妥当な結論を導けなくなる場 合が存在する。そこで,訴状における主張は防御義務の有無を考える上で出 発点とはなり得るが決定的なものではなく,保険者は防御義務の有無を判断 する際に知っていた,または合理的に知り得た訴状には記載されていない訴 状外の事実をも考慮に加えなればならないというルールを採用する裁判所が 現れた19)。また,このルールは,訴訟の開始時だけでなく,訴訟の経過中に

18) Jerry & Richmond, note 1 at 800.

19) ., Walk v. Hartford Cas Ins. Co., 852 A. 2d 98, 106 (Md. 2004), Miller v.

Westport Ins. Corp., 200 P. 3d 460 (Kan. 2009).

(8)

知った,または知り得た情報についても適用される20)

このような判断基準は 可能性ルール(potentiality rule)21)とか 外部 証拠ルール(extrinsic evidence rule)22)などと呼ばれている。本稿では ALI のディスカッション・ドラフトに倣い 可能性基準ルール(potential basis rule)(以下 PB ルール という。)と呼ぶ。このルールにおいても,

保険者の防御義務の有無は未だに保険担保の範囲内であるか否かで決定され ることには変わりない。しかし,訴状における主張だけでなく,訴状外の事 実も用いて(それも訴状の提出時だけでなく),被保険者の責任が担保範囲 内である可能性があるか否かを判断することになるため,CA ルールを採用 する場合に比べ,保険者が防御義務を負う状況は格段に拡張されることにな る。

PB ルールを用いると,訴状における主張内容では保険担保の範囲外であ るが,保険者が訴状における主張は誤りであり,実際は保険担保範囲内であ るという事実を有している場合,責任保険者は防御義務を負うことになる。

それでは,逆に訴状においては保険担保内であるとの主張がなされているが,

訴状の主張が不正確または真実でないという外部情報を保険者が有している 場合には,保険者が防御を拒絶することは認められるのであろうか。このよ うな場合については,さらに細かく場合に分けて検討する必要がある。

まず,保険者は所有する外部情報により,被害者の主張は根拠のないもの であることを確信している場合(例えば,真実であれば担保範囲内の主張で あるが,根も葉もない主張であるのでそもそも被保険者が損害賠償責任を負 うことがないというような場合),一般的に,保険者は訴状の主張が不正確 または真実でないということを理由に防御を拒絶することはできない。とい うのも,通常保険者は根拠のない,虚偽の請求に対しては防御を行うことを 20) W9/PHC Real Estate LP v. Farm Family Cas. Ins. Co., 970 A. 2d 382 (N. J.

Super. Ct. App. Div. 2009).

21) Robert H Jerry Ⅱ, The Insurerʼs Right to Reimbursement of Defense Costs, 42 Ariz. L. Rev. 13, 22‑23 (2002).

22) Maniloff & Stempel, note 10 at 112.

(9)

約束しており,以上のような状況はまさに根拠のない,虚偽の請求に該当す るからである23)。したがって,結果として被保険者に第三者に対する損害賠 償責任が生じない(保険者の防御のおかげであるともいえるが)ため,保険 者に損害てん補義務が生じることはない場合であっても,保険者は防御義務 を負うことになる。 防御義務は損害てん補義務より広い などといわれる ゆえんである24)

次に,訴状の主張によると,被保険者の責任は保険担保内である(例えば,

被保険者の過失による被害者に対する損害の発生を主張している)が,保険 者は,調査等により得た事実により,被保険者の責任は免責規定に該当する

(例えば,被保険者の故意による損害の発生)と考えている場合である。結 論からいうと,この場合でも,多くの裁判所では保険者に防御義務を課して いる25)。すなわち,このような外部情報を理由に被保険者に対する防御義務 の提供を怠ると防御義務違反となる。

これに対して,保険者の有する外部情報が被保険者の責任に関することで はなく保険担保に関すること,すなわち,保険担保の範囲内ではないという ことを示す情報であるときはどうか。このような場合,保険者は外部情報に より保険担保が存在しないことを証明できれば,防御を提供する義務を負わ ないものと考えられている26)。例えば,訴状において被告が 被保険者 で ある旨の主張がなされているが,保険者は当該被告が約款上の 被保険者 には該当しないことを知っている場合(よくある例としては,事故を起こし

23) 200 P. 3d 419, 423 (Kan. 2009).

24) ., Wooddale Builders, Inc. v. Md. Cas. Co., 722 N. W. 2d 283 (Minn.

2006), Fieldston Prop. Owners Assʼn v. Hermitage Ins. Co., 945 N. E. 2d 1013 (N. Y. 2011).

25) ., Lennar Corp. v. Auto‑Owners Ins. Co., 151 P. 3d 538 (Ariz. Ct. App.

2007), State Farm Gen. Ins. Co. v. Mintarsih, 95 Cal. Rptr. 3d 845 (Ct. App.

2009).

26) ., Rowell v. Hodges 434 F. 2d 926, 929‑930 (5th Cir. 1970), Navajo Freight Lines, Inc. v. Liaberty Mut. Ins. Co., 471 P. 2d 309, 315 (Ariz. Ct. App.

1970).

(10)

た運転手が所有者から使用許可を得ていない者である場合),保険者は被保 険者でない第三者を防御する必要はない。したがって,争いのない事実が,

被保険者が問題となっている事案において保険担保を有さないということを 示す場合,保険者に防御を控えることを認めている27)

2.2 防御義務違反の効果とその回避方法

⑴ 防御義務違反の効果

責任保険者が防御義務を負っていたにもかかわらず,それを履行しなかっ た場合,防御義務違反を理由に責任保険者は一定の責任を負う。以下では簡 単にどのような責任を負うのかについて整理を行う。

防御義務は契約に基づく義務であるから,保険者は被保険者に対して防御 義務違反により(補償的)損害賠償責任を負うことになる28)。このような損 害賠償の具体的な内容として,まず弁護士報酬が挙げられる。被保険者は,

保険者が不当に防御を拒絶した場合,被害者との責任訴訟において自ら弁護 士を選任し,報酬を支払わなければならなくなる。これは防御義務違反がな ければ被保険者が負担しなくて良かった費用である。したがって,被保険者 はこの弁護士報酬について,合理的な範囲内で保険者に対して請求をするこ とが認められる29)。また,このような場合で,被保険者が借金をしなければ 弁護士報酬を工面できないことを保険者が予見可能であった場合,結果的損 害賠償として借入れに伴う利息の支払も請求することができる30)。さらに,

証人費用,訴訟費用及び調査費用など訴訟に伴う他の支出についても,保険 27) ALI のディスカッション・ドラフトにおいても PB ルールを原則としつつ,

第13条 項において,被告が被保険者であるか否か(同項⒜号),問題となる

車両が被保険車両であるか否か(同項⒝号)については,例外的にあらゆる事 実や事情を考慮して判断し,否である場合は防御を控えることを認めている。

, ALI, note 5 at 99.

28) Jerry & Richmond, note 1 at 818.

29) T. A. Schifsky & Sons, Ins. v. Bahr Constr., LLC, 773 N. W. 2d 783 (Minn.

2009).

30) Jerry & Richmond, note 1 at 819.

(11)

者から回復することが認められる31)

次に,保険者の損害賠償責任は保険金額の上限を超えた部分にも及ぶであ ろうか。保険者が防御の拒絶をした後,被保険者(または被保険者が自ら選 任した弁護士)により被害者との責任訴訟が行われ,その結果,保険金額を 超える損害賠償責任を被保険者が負うことになった場合,保険者は保険金額 を超えて当該損害賠償金の全額につき責任を負うだろうか。これに関しては,

防御義務は契約に基づく義務であるから,保険者が防御義務に違反したとし ても,保険金額を超える部分の責任は負わないというのが大多数の裁判所の 見解である32)。ただし,訴訟の直前になって突然保険者の選任した弁護士が 何の理由もなく辞任を申し出たことにより,被保険者が急遽代わりの弁護士 を選任し弁護を依頼したため,十分な準備ができず保険金の限度額を超える 損害賠償額の判決が下されてしまったといった場合等は,そのような結果が 出ることは容易に予見できたとして,契約責任として限度額を超える部分に ついても,保険者が責任を負う可能性があるとの指摘がある33)。また,保険 者の不合理な防御義務の不履行は不誠実な(bad faith)行為であるとみなさ れ,不法行為責任に基づき保険金額を超える損害賠償責任を負わされること もある34)

また,保険者は防御義務違反により,防御または和解における管理権や,

被保険者と保険担保に関して争う権利(被保険者の責任が担保範囲外である と抗弁を述べる権利)を失うことがある35)。すなわち,一度防御を断った

(防御義務を怠った)以上,それ以降は被保険者と被害者との訴訟や和解に 保険者は関与できず,また,判決や和解が確定してしまうと,保険者は被保

31) . Woodliff v. Cal. Ins. Guar. Assʼn, 3 Cal. Rptr. 3d 1 (Ct. App. 2003), Hebela v. Healthcare Ins. Co., 851 A. 2d 75 (N. J. Super. Ct. 2004 .

32) R. T. Vanderbilt Co. v. Contʼl Cas. Co., 870 A. 2d 1048 (Conn. 2005), Miller v.

Secura Ins. Mut. Co. of Wis., 53 S. W. 3d 152 (Mo. Ct. App. 2001).

33) Jerry & Richmond, note 1 at 820.

34) Wolf v. League General Ins. Co., 931 P. 2d 184, 188‑189 (Wash. Ct. App. 1997).

35) See, ALI, note 5 at 152‑154.

(12)

険者に対する保険担保に関する抗弁権まで失うことになり,後に被保険者に 対する訴訟において争えなくなる可能性がある。

⑵ 防御義務違反の回避方法

以上のように責任保険者は防御義務に違反するといくつもの責任を負わさ れることになる。したがって,訴状における主張が担保範囲外であり,外部 情報からも担保範囲外であるということに確信が持てる場合や,外部情報か ら被告が被保険者に該当しないことが明らかであるというような場合以外は,

防御義務を履行せざるをえないであろう。しかし,その場合,次のような悩 ましい状況が生じることがある。例えば,被害者の訴状には被保険者の不法 行為を理由とする損害賠償請求の主張がなされているが,保険者としては外 部情報から被保険者のこの責任は保険約款上の免責事由に該当するものでは ないかと考えている。この場合,被保険者の利益のためには保険者は被保険 者に責任がないという方向で最善の防御を尽くすべきであろうが,それをや り過ぎると保険関係における自己の免責事由の主張・立証のためには不利に 作用することになるであろうから,防御を控えるといったことが生じるかも しれない。防御義務より生じる保険者と被保険者の典型的な利益衝突の場面 である。

そこで,保険者は被保険者と 不放棄合意(nonwaiver agreement) を 締結したり, 権利留保(reservation of rights) の通知を被保険者に送付し たりすることで,被保険者に防御を提供しつつ,後に保険契約上の抗弁を主 張することができるようになる。

不放棄合意は,保険者と被保険者との契約であり,保険者は防御を提供す ることを合意する一方で,被保険者は,保険者が担保に関して争う権利を維 持しながら防御することを合意する。権利留保の通知は,保険者が,被保険 者に対する請求について調査し,防御することを引き受けるが,担保に関し て争う権利は維持することを被保険者に告げる一方的な通知である36)

36) Jerry & Richmond, note 1 at 873‑875.

(13)

保険者としては防御を提供しているので,防御をしないことによる防御義 務違反を問われることはなく,被保険者としては条件付とはいえ保険者から 防御を提供してもらうことができる。しかしながら,保険者が後に担保の問 題について争う権利を維持しながら防御を行うのでは,保険者と被保険者と の間の利益衝突状態は解消されない。したがって,保険者から不十分・不適 切な防御が提供される危険性が被保険者にはつきまとう。そのような状況の もとで防御を提供されたくないという被保険者は当然に存在する。そこで,

被保険者は保険者から不放棄合意を求められたとしても,それに応じなけれ ばならないわけではなく,自己の判断でそのような合意を締結しないことも できる37)。また,権利留保の通知がなされたとき,被保険者は,保険者が提 供する防御を拒絶して,自ら弁護士を選任し報酬を支払い,後に保険者から 当該弁護士報酬等を含む費用を請求することを認める裁判例も存在する38)。 このような場合,保険者からすると防御管理権を失うことになるので,後に 責任保険者の責任が認められた場合,自らが防御を行っていた方が安上がり であったという状況が生じるかもしれない。そうであるからといって,この ような制度を利用せずに防御を行うと,後に担保の問題で争うことは禁反言 であるとして(または権利放棄をしたものとみなされて),そのような権利 を失うかもしれない39)。したがって,保険者及び被保険者の双方にとって悩 ましい問題を抱えており,このような状況における救済の手段として両制度 は十分であるとはいえない。

そこで,保険者が責任訴訟の防御を提供する前に,あるいは責任訴訟を防

37) . at 874.

38) Ballmer v. Ballmer, 923 S. W. 2d 365(Mo. Ct. App. 1996). ただし,このよう な立場は一部の裁判所において用いられているだけであり,多くの裁判所では 被保険者の同意が得られなくても,争う権利を留保しながら防御を行うことが できるようである。ALI のディスカッション・ドラフトにおいても,基本的 にこの多数派のルールを採用しており,特定の場合にのみ保険者による独立の 弁護の提供を義務づけている。 , ALI, note 5 at 125‑126.

39) , ALI, note 5 at 121‑122.

(14)

御しながらも,それとは別に,保険者と被保険者の法的な権利義務関係を明 らかにするために 宣言的救済判決(declaratory judgment) を得ること ができれば,保険者の防御義務の有無に関する問題は解決される。保険者は 防御義務を負うことが明確になれば,和解を促進したり判決額が低くなるよ うに努力したりするようになり,上記のような利益衝突の状況は解消される ことになる。したがって,宣言的救済判決を得ることができれば(特に責任 訴訟前に),それが最良の方法であるといえる。しかし,宣言的救済訴訟は 判決が下されるまでに時間がかかることがある40)。とりわけ,宣言的救済訴 訟における主たる争点が,被保険者と第三者との責任訴訟における争点と重 なる場合,宣言的救済訴訟で下された判断が責任訴訟においても効力を有す るため,(おそらく保険者が防御活動を行っている)責任訴訟の判決が下さ れるまで,宣言的救済判決が下されないといったことが起こりうる41)。この ような場合,宣言的救済判決を求めた意味は全くないものといえる。また,

保険者は宣言的救済訴訟と責任訴訟の二重の手続を踏まなければならないた めに,訴訟経済の観点からも,あまり使い勝手のよい制度であるとはいえな い。

裁判所によっては,このように宣言的救済判決における争点と責任訴訟に おける争点が重なる場合,被保険者を以下のような理由から害することにな るため宣言的救済訴訟を提起すること自体認めないとするものもある42)。た とえば,保険者と被保険者との宣言的救済訴訟では免責事由である被保険者 の故意が争点となり,被保険者と第三者との責任訴訟では被保険者の故意ま たは過失による責任が争点となるとする。この場合,宣言的救済訴訟におい て被保険者は自身の行為が過失でなされたことを主張・立証できればそれで よいが,そのような判決が認められると,第三者との責任訴訟において自身

40) Jerry & Richmond, note 1 at 876.

41) .

42) ., State Farm Mut. Auto. Ins. Co. v. Allstate Ins. Co., 684 N. W. 2d 14 (Neb. 2004), Great W. Cas. Co. v. Cote, 847 N. E. 2d 858 (Ill. App. Ct. 2006).

(15)

の行為に故意はもとより過失もなかったことを証明しようとしていた被保険 者の努力は水の泡になるといえよう。宣言的救済判決の利用においてはこの ような点を問題視する見解がある43)。また,被保険者は保険者との訴訟にお ける費用を負担しなければならず,本来であれば訴訟(ここでの訴訟は第三 者との責任訴訟)の費用負担から免れるために責任保険に加入したのに,責 任訴訟の費用だけでなく宣言的救済訴訟の費用まで負うことになるのでは,

被保険者の合理的な期待が裏切られるといった事態を招くこともある44)。し たがって,宣言的救済判決においても,依然として悩ましい問題は残された ままとなる。

2.3 検 討

以上の議論を踏まえて,判断基準として PB ルールを採用することを前提 に,保険者の防御義務の有無について今一度整理を行う。まず,訴状におい て主張されている被保険者の責任が,担保範囲内である場合(例えば,被保 険者の過失による責任を主張している場合),担保範囲外である場合(例え ば,被保険者の故意による責任を主張している場合),そのどちらも主張し ている場合,そして訴状における主張からは不明である場合の パターンに 分けることができる。仮に厳格な CA ルールを採用するならば,訴状におけ る主張が担保範囲外の主張である 番目の場合には,保険者は外部情報から どのような情報を得ていたとしても,はじめから防御義務を負わないことに なる。次にこの パターンの各々において,保険者が外部情報により,被保

43) Pryor, note 8 at 36‑37. しかし,このような場合,被保険者は責任保険 における保護は受けられるのであるから,被保険者が一切の責任を認めたくな いという場合以外は,それほど問題にはならないのではないだろうか。

44) . at 37‑38. しかし,このような費用は,保険者と保険担保において争いに なったときには常に生じるものであるから,責任保険の防御義務の場面に特有 のものではないし,保険者が不誠実にこのような訴訟を提起している場合には,

保険者の不法行為責任を問うことで,事後的ではあるがそのような費用を回収 することもできる。

(16)

険者の責任が担保の範囲内であるということを認識している場合,担保の範 囲外であるということを認識している場合,そして,外部情報からでは担保 内か担保外か不明である(確信が持てない)場合(外部情報がない場合を含 む)の パターンが考えられる。以上から パターン× パターンの12パタ ーンに場合分けをすることができる。これが次の表である。

この表から明らかな通り,PB ルールの下では保険者が外部情報から被保 険者の責任が担保範囲外であるということを認識している場合でも,防御義 務を負わなくて済む状況は,非常に限られているということが分かる。すな わち,訴状における主張により被保険者の責任が担保範囲外であり,さらに 保険者が有する外部情報においてもそれが担保範囲外であるということが確 かである場合(⑤)か,保険者の有する外部情報から責任訴訟における被告 が被保険者に該当しない等,争点となっている被告の責任以外の事柄が担保

訴状における主張 外部情報 防御義務を負うか否か

担保範囲内

担保範囲内 負う。 ①

担保範囲外 負う。但し,条件付防御。例外負わない。 ②

不明 負う。但し,条件付防御。 ③

担保範囲外

担保範囲内 負う。 ④

担保範囲外 負わない。 ⑤

不明 負う。但し,条件付防御。 ⑥

担保範囲内と 担保範囲外の両方

担保範囲内 負う。 ⑦

担保範囲外 負う。但し,条件付防御。例外負わない。 ⑧

不明 負う。但し,条件付防御。 ⑨

不明

担保範囲内 負う。 ⑩

担保範囲外 負う。但し,条件付防御。例外負わない。 ⑪

不明 負う。但し,条件付防御。 ⑫

(厳格な CA ルールが採用される場合,④ ⑥は防御義務を負わないということにな る。⑩ ⑪ ⑫については訴状における主張からでは不明である場合,防御義務を負 わない旨の明確な規定があれば防御義務を負わないことになる。)

(17)

範囲外であるといったような場合(② ⑧ ⑪の一部)のみ45),保険者は防御 義務を負わないで済むことになる。それ以外の場合は,原則として防御義務 を負うこととなり,外部情報により担保範囲外であるということを確信して いる場合(② ⑧ ⑪)は,宣言的救済訴訟を提起したり,責任訴訟の段階で は不明である場合(③ ⑥ ⑨ ⑫)は,後に担保に関して被保険者と争う権利 を維持するために,不放棄合意や権利留保の通知の制度を利用したりしなけ ればならない。このような状況は保険者にとって過度な負担を強いることに なり,防御費用が必要以上にかさむといった結果を生じることになる。

そこで,外部情報は防御義務が発生する可能性のある情報だけを利用する のではなく,あらゆる情報や状況を考慮して防御義務を判断すべきである

(それゆえ,訴状における主張が担保範囲内であっても,外部情報により防 御義務が否定される場合もあるべきである)と主張する立場がある46)。この ような立場によると,宣言的救済判決を得ることなしに防御を拒否すること ができ,後に保険者の判断が間違っていたというときだけ,防御義務違反が 認められることになる。それゆえ,宣言的救済訴訟の数を減らし,訴訟経済 に資するだけでなく,防御費用も抑えることができる点で保険者だけでなく,

保険契約者側にとって望ましいと考えられている47)。しかし,このような立 場は一般的ではなく,ALI のディスカッション・ドラフトにおいてもこの ような立場を採用していない。その理由として,このような立場をとると,

被保険者が,より多くの状況において,自身の防御の資金を工面し,その後 これらの費用を回復するために契約違反に基づく訴訟を保険者に提起しなけ ればならないといった不安定な立場に置かれることになる。そして,このよ うな訴訟が費用のかかるものであり,被保険者が訴訟を提起することを躊躇

45) この場合でも被保険者の請求が担保外であることの宣言的救済判決を得る必 要がある場合がある。ただし,このような場合は,宣言的救済訴訟も認められ るであろうし,比較的速やかに判決を得ることができるかもしれない。

46 ) Pryor, note 8 at 1, Susan Randall, Redefining the Insurer ʼ s Duty to Defend, 2 Conn. Ins. L. J. 221 (1997).

47) ALI, note 5 at 103‑104.

(18)

するようなものである場合,このような事後的救済の可能性では被保険者に とってほとんど慰めにならないと指摘する48)

以上により,アメリカ法では非常に広い状況において,保険者の防御義務 が発生するものと判断される。アメリカでは,限られた状況を除き,被保険 者はほとんどの場面において,条件付である場合もあるが保険者からの防御 を受けることができるのである。我が国においては,被害者が被保険者に故 意があることを主張している場合には,それがなんら合理的な根拠に基づく ものでないなど免責条項の適用がないことを容易に知り得るような場合以外 は,免責条項の適用があり得ることを理由に示談の代行を拒むことが許され るとして,被害者の主張だけで特段その証明等も必要なく保険者の義務の不 履行を否定したという事例が存在する49)。アメリカであれば⑥の状況に該当 し,保険者は条件付であっても良いが防御を提供しなければならない。我が 国の状況に比べると,アメリカ法の状況は被保険者に好ましく保険者に厳し いものであるといえよう。

. 防御義務から生じる保険者と被保険者の利益衝突状況の整理

保険者が防御義務を条件付で履行する場合,保険者と被保険者との間に利 益衝突が生じることについては既に確認した。これに対して,保険者が外部 情報から被保険者の責任が担保範囲内であると認識している場合(上記①

④ ⑦ ⑩)であっても,保険金額に上限がある場合,保険者と被保険者との 間で利益衝突が発生することになる。というのも,保険金額に上限がない場 合,保険者は被保険者に対して無条件に防御を提供することになり,両者の

48) . at 104.

49) 大阪地裁平成 年 月 日交民30巻 号14頁,及びその控訴審である大阪高 裁平成 年 月 日交民30巻 号 頁。これらの事例は我が国において保険者 の防御義務の問題を扱う唯一の事例であり先例的価値のあるものであるが,原 審である大阪地裁判決については批判的な見解が示されている。山下友信 保 険法 435頁注151)(有斐閣,2005年),広瀬①(二・完)・前掲注5)227‑230頁 参照。これらの事例について別稿において検討する予定である。

(19)

間に利益衝突が発生する可能性はない。被保険者の責任が一切存在しないと いう結論を目指した防御活動を行うことにおいて両者の利害は一致するし,

仮に被保険者の責任が認められたとしても,より少ない金額の判決や和解が なされることに利益を共通にするからである。

これに対して,保険金額に限度額が設定されている場合には,次のような 利益衝突が生じることがある。被害者が保険金額の限度内で和解の申出を行 ってきたが,保険者としては,訴訟で争い判決を得るほうが低い賠償額で済 む(または全く支払わないで済む)と考え,和解に応じず訴訟を継続した。

その結果,保険者の意に反して判決では保険金額の上限を超えた損害賠償額 が認められ,被保険者としては保険金でてん補されない責任まで負ってしま うといった場合である。被保険者にしてみると,和解の金額が保険金の限度 額内であれば,いくらであってもそれほど関心はなく(もちろんその後保険 料が高くなる可能性を考えると低いにこしたことはないが),訴訟を継続す ることで,保険金の限度額を超える判決が出る可能性がある場合は,和解で 済ませたいと考える。これに対して,保険者は限度額を超える判決が出たと しても限度額の保険金さえ支払えばよいというのであれば,和解に応じず積 極的に訴訟を継続して,責任なしの判決かより低額の賠償金だけが認められ る判決を得ることに賭けたいと思ってしまうであろう50)

この場合に被保険者側の懸念が,損害賠償額と保険金額との差額を誰が支 払うのかという点だけであるのならば,保険者が自らの判断で和解に応じず 訴訟を継続し負けた以上,その責任を負うというルール(厳格責任とよばれ るもの)であれば問題とはならない。すなわち,保険者は和解を選択せず,

判決を得るという勝負に出たのであるから,そのような勝負にかかる費用に ついては自らで負担するということになる。被保険者においても,追加の支 出がないのであれば特に構わないと考える者も少なくないであろう。

しかし,和解(特に裁判以前の示談)で穏便に事を公にせずに済ませたか

50) このような問題につき検討を行っているものとして,広瀬②・前掲注5)123 頁以下参照。

(20)

ったのに,敗訴判決が出ることで評判に傷がつくといった被保険者側に賠償 金の支払といった事情以外の事情がある場合には,単に負けたら差額を支払 うから訴訟を継続したいという保険者の意向を単純に認めて良いかについて は検討が必要である。この点については,保険者の防御義務は防御権でもあ るので,保険者は権利としてどこまで主張できるのか,また,本稿では検討 することができなかった解決義務(duty to settle)のあり方に大きく関係す る問題である。

また,このような状況では全く逆のパターンの利益衝突も考えられる。そ れは保険者としては和解が妥当であると考え,和解金額も保険金額内である ことから,これを被保険者に勧めるが,被保険者としては自らに責任はない と信じており,評判等の問題から責任を負うことが望ましくないという場合

(特に専門家過誤訴訟が典型的),和解で解決されてしまうことは被保険者に 責任があったことを認めてしまうことになるため,被保険者としては,訴訟 を継続してほしいと考えているといった場合である。このような場合,保険 者は訴訟を継続しないと,後に防御義務(または解決義務)違反の責任を負 うことになるのであろうか。保険者としては,和解を被保険者に勧めた以後 は,継続することにつき疑問を感じつつ訴訟を行うことになるであろうから,

むしろ訴訟にかかわらせないようにすべきではないかという気がする。しか し,そうすると完全に訴訟を被保険者に任せるということになり必要以上に 経費がかかり,後に多額の支出を要求される(下手をすれば防御義務違反や 解決義務違反の責任を追及される)可能性がある。このような場合に保険者 としてはどの程度義務を果たさなければならないのか,このような利益衝突 を回避するための方法として,どのような方法が良いのかといった問題も存 在する。

. 結びに代えて

以上より,本稿ではアメリカ法における責任保険者の防御義務の有無に関 する判断基準について,アメリカ法の議論を整理し,どのような場合に責任

(21)

保険者に防御義務が発生するのかについて検討を行った。アメリカでは主要 な責任保険において防御義務の規定が存在するのが通常であり,防御義務の 有無の判断基準につき PB ルールを前提にすると,非常に多くの状況におい て保険者は被保険者に対して防御義務を負うことになる。そのような状況は,

被保険者が防御の提供の可能性について不安定な立場に置かれることはない という意味で,被保険者にとって望ましいものといえる。しかし,防御義務 が生じる状況が多いゆえに,保険者と被保険者との間の利益衝突が生じる状 況も多いのではないかといった感も否めない。アメリカではこのような利益 衝突における妥当な解決方法につき様々な試みがなされているわけであるが,

どれも決定打に欠けるというのが率直な感想である。それゆえにアメリカで は今も盛んに議論がなされているわけであり,そのようなアメリカの動向は 非常に興味深く,わが国にも有益な示唆を与えてくれるものであると思われ る。したがって,今後も継続して分析・検討を試みたい。また,本稿では実 際に議論となっている重要な論点につき,その存在を確認したのみで,検討 が行えなかったものが多数あるので,これらについても今後の研究課題とす る。

(筆者は岩手大学人文社会科学部准教授)

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