検察官出席の有無が判決言渡しの
効力に及ぼす影響
一最決平成19・6・19を契機として−
Ⅰ.はじめに
Ⅱ.事実の概要および判旨
Ⅲ.検察官不出席のまま行われた判決言渡しの効力
Ⅳ.判決宣告手続の終了時期と検察官出席のもとで再度行われた判決言渡しの 効力
Ⅴ.判決の「効力」に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反
Ⅵ.いわゆる著反正義の実質的判断基準
Ⅶ.おわりに
Ⅰ.は じめに
刑事訴訟法(以下,とくに断らない限り条文は同法を指す)342条は,
「判決は,公判廷において,宣告によりこれを告知する」と規定する。そ して,そこでの「公判廷」の構成について,282条2項は「公判廷は,裁 判官及び裁判所書記が列席し,且つ検察官が出席してこれを開く」と規定
している。
このような公判廷の構成,とりわけ判決宣告期日における検察官の出席 に閲し,最高裁判所第二小法廷は,平成19年6月19日付の決定(刑集
一1− 29−1−128(香法2009)
ノヽ
61巻4号369頁:以下,本決定という)において,第一審での判決宣告 期日に検察官が出席していなかったことは,判決に影響を及ぼすことが明
らかな訴訟手続の法令違反(379条)にあたるとの注目すべき判断を示し た。後述するように,その前提として本決定は,判決宣告期日の終了時期 やその後に行われた判決言直しの効力など,判決宣告手続をめぐる刑訴法 上の重要な問題点について最高裁として初めての判断を示しており,その 意味で本決定は,今後「判決宣告手続をめぐる種々の問題解決のための一
(2)
判断基準を提示するものとして,重要な意義を有する」ものということが できよう。
他方,そのように重要な意義を有するだけに,本決定に関してこれまで
(3)
公表された評釈においても,いまだ理論的に十分検討し尽くされていない 点がないわけではない。そこで本稿は,本決定の検討を契機として,本決 定をめぐる刑訴法上の問題点について理論的に立ち入って検討を加え,本 決定の位置づけを明らかにするとともに,さらにその作業を通じて,最高 裁が本件を判例として取り上げた背景ないしはその意図についても言及し ておくことにしたい。
Ⅰ.事実の概要および判旨 1.事実の概要
本決定において前提とされた具体的な事実の経過は,以下のとおりであ る。
(1)本件被告事件の第1審は,福井地方裁判所において単独裁判官によっ て審理された。平成18年8月11日,同事件の第2回公判期日が開か れ,審理が行われて結審し,第3回公判期日(判決宣告期日)が同月 18日午後4時30分と指定告知された。
(2)同月18日午後4時30分ころ,上記裁判官が同裁判所第2号法廷に入 廷した。同法廷には,裁判所書記官が列席し,被告人及び弁護人が出頭
29−1−127(香法2009) 一 2 − 七
の上在廷し,また,押送担当の刑務官が2名在廷していたが,検察官は 出席していなかった。
(3)上記裁判官は,本件被告事件について,判決の主文を朗読し,理由の 要旨を告げ,上訴期間等の告知をした。その後,被告人,同裁判官の順 で退廷した。裁判所書記官及び弁護人は,法廷内にとどまった。
(4)上記裁判所書記官が ,書記官席から,裁判官室に戻った上記裁判官に 電話し,検察官が出席していなかった旨を告げた。同裁判官の指示を受 け,同書記官において,押送担当者に連絡を試みたが,被告人は既に同 裁判所庁舎を出発していたので,被告人を法廷に戻すよう勾留場所の福 井刑務所に電話連絡した。
(5)被告人は,同刑務所に到着したが,上記(4)の電話連絡があったことか ら,直ちに再び同裁判所に押送された。
(6)検察官は,同日午後4時42分ころ,上記裁判官は,同日午後4時53 分ころ,被告人は,押送担当の刑務官2名と共に同日午後5時1分こ ろ,それぞれ上記法廷に入廷した。そして,当初の判決宣告から約30 分後,同裁判官は,「先ほど検察官が不在だったので,もう一度検察官 出席の上,判決を言い渡します。」と述べた上,上記(3)で宣告したのと 同一内容の判決を宣告した。その際,検察官,弁護人及び被告人から何 ら異議の申立てはなかった。
(7)同月29日,被告人は判決に対し控訴したが,検察官は控訴しなかった。
(8)名古屋高等裁判所金沢支部は,同年12月14日,第1審の判決宣告手 続には,検察官の出席のないまま開かれた点で軽視できない違法がある が,その違法は判決に影響を及ぼすような重大なものということはでき ないとして,被告人の控訴を棄却した。
(9)これに村し,被告人および弁護人が,①重大な法令違反(「本件第一 審判決に検察官が出席しなかった違法は重大であり,これを破棄しなけ れば著しく正義に反する」),②重大な量刑不当などを主張して上告し
(刑集372頁以下参照),とくに前者に関して最高裁が職権で判断を示し
− 3 − 29−1−126(香法2009)
たのが本決定である。
2.判旨
上告棄却。
最高裁第二小法廷は,弁護人の上告趣意は,単なる法令違反,量刑不当 の主張であり,被告人本人の上告趣意は,単なる法令違反の主張であっ て,いずれも刑訴法405条の上告理由にはあたらないとしたうえで,職権 で次のような判断を示した。
「以上の事実関係によれば,第1審裁判官は,判決宣告期日として指定 告知された日時である平成18年8月18日午後4時30分ころ,裁判所書 記官が列席し,被告人及び弁護人が出頭の上在廷する法廷で,判決の主文 を朗読し,理由の要旨を告げ,上訴期間等を告知した上,被告人の退廷を 許し,被告人は法廷外に出たものであるから,この時点で,判決宣告のた めの公判期日は終了したものというべきである。その後,同日午後5時過
ぎころ,勾留場所に戻った被告人を呼び戻して検察官出席の上で再度行わ れた判決の宣告は,事実上の措置にすぎず,法的な効果を有しないものと いうほかはない。
そうすると,同日午後4時30分ころに行われた本件第1審の判決宣告 手続には,刑訴法282条2項違反があり,この違反は判決に影響を及ぼす
ことが明らかというべきであるから,これが判決に影響を及ぼすような重 大なものではないとした原判決の判断は,法令の解釈を誤ったものといわ ざるを得ない。しかしながら,上記のような本件の経過等にかんがみる と,第1審判決の上記法令違反は,これによって被告人に実質的な利益侵 害を生じさせるものではなく,かつ,事実上検察官も直ちに判決を了知し ているものと認められるから,原判決は,上記法令解釈を誤った違反はあ るものの,いまだこれを破棄しなければ著しく正義に反するものとは認め られない。」
五
29−1−125(香法2009) − 4 −
Ⅱ.検察官不出席のまま行われた判決言渡しの効力
1.問題の所在
上述のとおり,「本件は,事実に争いのない覚せい剤の自己使用の事案 であったが,一審の単独裁判官が,判決宣告期日に検察官の出席がないま ま判決を宣告したことから,その手続の適否が問題となったものであ
(4)
る」。しかし,そもそも検察官が出席していなかったという手続的な暇庇 が,判決言渡しという訴訟行為の成立自体をも否定する性質のものであれ ば,その有効・無効を論じるまでもなく訴訟上それを無視してよいことに
(5)
なり,その後の上訴審による是正等を問題とするまでもない。そこで,こ れらの問題を検討する前提として,そもそも当初の判決宣告手続における 検察官の不出席という暇症がそれほど重大なものかどうかを,少なくとも 理論的には予め明らかにしておく必要があろう。
なお,訴訟行為の中でもとくに判決言渡しとの関係では,不成立と似て 非なる概念として「当然無効(ないしは絶対無効)」という概念が日本の
(6) (7)
学説でも承認され,また判例上も承認されるに至っている。そもそも「判 決の当然無効とは,一応成立した判決が当然に本来的効力を発生せしめえ ない程度に重大な暇庇を帯びていることをいうと定義されている」とこ ろ,「その意義をいかに解するかについてはかなりの相違がある」のであ るが,それらの学説においても,少なくとも「判決の当然無効は判決の不 成立(非判決)とは異なり,当然無効の判決といえども一応成立している ために,判決の成立に伴う効力,すなわち形式的確走力は生じうるので あって,それゆえ,当然無効の判決に対しても,上訴のみならずとくに非
(8)
常上告はこれをなすことができるとする点においては,一致している」。
たとえば,学説において共通して指摘されているのは,同一の事件につい
(9)
て二重の実体判決が確定した場合の後者の判決についてである。
上訴その他の不服申立をまつまでもなく「終局裁判の内容的効力が生じ
㈹ (11)
ない」という点で判決の不成立と共通する面もあるが,訴訟行為としては
→ 5 − 29−1−124(香法2009)
「一応成立」している以上,「存在に伴う効力はやはり生ずる」(公判の裁
11ご・
判では,訴訟係属は消滅し,これに対する不服申立てもできる)という点 で厳密には区別すべきものであるし,本稿でも以下区別して論じる(この 点については,後述・Ⅳ.4も参照)。
2.訴訟行為の成立・不成立の基準
訴訟行為の成立・不成立の基準については,「法のみとめる訴訟行為の 定型に合致」しているかどうか(訴訟行為の構成要件が充足されているか
11、く、
どうか),「訴訟法上認められた定型に合致」するかどうか(定型上の本質
両、
的概念要素を充足するかどうか),「一応,訴訟行為の型にあてはまる」か
(15) (16)
どうか,「訴訟行為の外観」を備えているかどうかといったものが提起さ れてきている。
もっとも,これらの各学説は,必ずしも相互に排斥し合うものではない であろう。むしろ問題は,訴訟行為の定型にせよ,訴訟行為の外観にせ
よ,その具体的な内容がなにかである。この点は個々の訴訟行為の性質(換 言すれば,当該訴訟行為の構成要件)により規定される面があることは否 定できないが,しかし,従来の学説が不成立の訴訟行為として共通して例
3 武
示してきたのは,非裁判官のした裁判,非検察官のなした公訴提起類似行
㈹
為(たとえば,検察事務官がその名前で起訴状を提出した場合)など,当
;l〜▲l
該訴訟行為の主体が「無権限者であることが明らか」な場合であったこと からすれば,少なくとも,訴訟行為の定型にとって本質的な要素として は,当該訴訟行為の「権限の明白性」の有無を,まず挙げることができる であろう。
このような権限の明白性を,判決の宣告という訴訟行為との関係で表現 すれば,なによりもそれは裁判官によって言い渡されることを要すること を意味するものといえる。この点に閲し,すでに1949年に団藤重光博士 により,判決が訴訟行為として成立するための条件として,「第一に裁判 官によって為されることが判決の構成要件に属する」と指摘されていたこ 錮
29−1−123(香法2009) − 6【
伽 とも,その点を示唆するものと理解できよう。
さらに団藤博士によれば,「判決として成立するためには,それが判決 という形式において為されるか又はその内容の解釈によってその判決たる
ごごと
ことが看取されることを要する」ものとされる。この点に関して,たとえ ば団藤博士によれば,主文の言渡しさえも欠く場合には,その判決として
幽
の成立を否定すべきものとされる。そしてこの点は,「権限の明白性」と の対比でいえば,いわば当該訴訟行為の「方式の明白性」に反しているか どうかの問題と呼ぶことができるのではなかろうか。仮にそう呼べるとす れば,たとえば,全く判決の宣告の体裁をとらず単に判決書を交付して終
、ご・1■
了した場合もまた,このような方式の明白性を欠く場合として位置づける ことができるであろう。
以上より,訴訟行為の成立・不成立を導く基準としては,さしあたり(∋
当該訴訟行為の権限の明白性を欠くかどうか,そして②当該訴訟行為の方 式の明白性を欠くかどうかを本質的な基準として論定できるように思われ
る。
3.本件における暇庇の程度
では,かかる基準を本件についてみるとどうか。そもそも判決の宣告と いう訴訟行為に関して刑訴法が予定している定型とは,公判廷において宣 告すること(342条)であるが,これを上記①及び(∋の基準に即して具体 的に見ていくと,①裁判長が,②公判廷で主文および理由を朗読し,また は主文の朗読と同時に理由の要旨を告げることが必要とされている(刑訴 規則35条)。
そこで問題は,訴追当事者たる検察官の出席が上記の①②に含まれる のかどうかである。具体的には,②訴訟行為の方式性の問題として,判決 を言渡す公判廷を構成するにあたって訴訟当事者の出席が本質的な要請と 言えるかどうかであろう。
しかしながら,従来の議論に鑑みれば,この点については否定的に解さ
− 7 − 29←1−122(香法2009)
ざるを得ないように思われる。すなわち,これまで②との関係で問題とさ れてきたのは,文字通り訴訟「行為」主体の側(この場合には判決を言渡 す側)の方式性であり,そこでは公判廷という場で言渡すこと自体は観念 されていたとしても,それ以上に訴訟当事者の出席までは,少なくとも訴 訟行為の成立・不成立のレベルでは,必ずしも含まれていなかったからで
(姻
ある。
このような意味で,「一般に訴訟当事者の出席は判決宣告に不可分の構 成要件ということはできず,判決の成立を否定するほどの頂庇とはいえな
囲
い」のであろう。このことは,現行刑訴法の解釈論としても基礎づけるこ とができる。すなわち,「判決宣告に必要不可欠な要素である判決裁判所 の構成に関する法令違反でさえ,控訴理由とするにとどめており(刑訴法 377条1号),判決裁判所の構成員でもない検察官の不出席が,判決の不 成立,あるいは当然無効を導くと解するのは,均衡を失するものというべ
ご丁
き」だからである。
このように考えると,本件においても①担当裁判官が②公判廷において 判決の主文を朗読し,理由の要旨を告げるなどした以上(上記Ⅰの1〔2〕
および〔3〕),少なくとも判決の言渡しという訴訟行為の①権限の明白性 及び②その方式の明白性という本質的な要件は十分に充たされていると言 わざるを得ない。したがって,本件法令違反もまた,判決言渡しという訴 訟行為の成立自体を否定すべきほど重大・深刻な澱痕とは言えないことに なる。
Ⅳ.判決宣告手続の終了時期と検察官出席のもとで再度行わ
れた判決言渡しの効力 1.判決の外部的成立の時期
上述のように,刑訴法上「判決は,公判廷において,宣告によりこれを 告知する」ものとされる(342条)。そして,かかる宣告によって判決は
29−1−121(香法2009) − 8 −
組
外部的にも成立し,それ以後は,「原則として,その裁判をした裁判所自 らその裁判の取消・変更をすることができなくなり,これの取消・変更は
銅
上訴によるほかないことになる」。このように外部的成立の時点を基準に,
取消・変更の可否を画一的に区分する理由は,判決の宣告には,その宣告 内容に即して,保釈等の失効(343条),勾留状の失効(345条),上訴期 間の進行(358条)など,訴訟当事者とくに被告人にとっては重大な法的 効果を伴うため,その「成立内容および時期については手続上の明確性・
安定性が要求されて」いるからである。 朗
これを本件についてみると,上述のとおり,検察官の出席を欠いている とはいえ,担当裁判官が公判廷において被告人に対して判決の主文を朗読 し,理由の要旨を告げるなどして訴訟行為の外観を備えるに至っており,
その時点をもって判決が直ちに外部的にも成立したものと解する余地もな
糾
いわけではない。もしそうだとすれば,検察官不出席という蝦庇は,後に 検察官出席のもとで再度宣告された判決によって治癒されるかどうかを論 ずるまでもなく,直ちに上訴審によって是正されるべきものとなろう。
しかし,これまでの判例の展開を踏まえる限り,判決の宣告の終了を もって直ちにその外部的成立を認めてよいかは,いわゆる判決の言直しの 効力という問題とも関連して,より慎重な検討を要する問題である。この 点に閲し,以下,これまでの判例の展開を踏まえセ検討する。
2.いわゆる判決の言直しの効力〜従来の類型
これまで判決の言直しの可否ないしその効力が論じられてきた事例は,
「裁判長が判決書又はその原稿を誤って朗読した場合にこれを訂正する」場
鋤
合(「宣告〔誤読〕の訂正」)や,「いったん宣告した判決の内容を変更し
縛
て改めて宣告する」場合(「内容の変更」)」に大別できる。そして,両者 の類型については,それぞれ最高裁判例がある。
○
− 9 − 29−1−120(香法2009)
(り 宣告〔誤読〕の訂正
まず前者(誤読)の類型に関して,最判昭47・6・15刑集26巻5号 341頁がある。
この事実は,原審裁判長が被告人およびその弁護人の在廷する法廷にお いて原判決主文の宣告にあたり,「被告人を懲役1年6月に処する。」と朗 読すべきところを,誤って「被告人を懲役1年2月に処する。」と朗読し,
次いで判決の理由の要旨を告げ,上訴期間等の告知を行い,席を立ちかけ たところ,弁護人から,判決内容を確認する趣旨の質問を受けたため,同 糾 裁判長は,即座にその場で同被告人の刑は懲役1年6月である旨および今 一度主文を朗読する旨を告げ,直ちに主文を朗読し直したというもので あった。
このような事案に関して最高裁は,「被告人に対する宣告刑は懲役1年 6月としてその効力を生じたものと解すべきである」として,かかる言直 しを有効としている。もっとも,この昭和47年判決では,判決の言直し がどの時点まで許されるのかについてまでは,いまだ明示的な判断が示さ れなかった。
(2)内容の変更
この点に関して明示的な判断が示されたのは,上記・後者の類型(判決 内容の変更)に関する最判昭51・11・4刑集30巻10号1887頁において である。
この事案は,第1審の単独裁判官が,判決宣告期日において,併合審理 していた共同被告人とともに,被告人に対し判決の宣告をした際,いった ん懲役1年6月,5年間の保護観察付き刑の執行猶予とする旨の主文を朗 読した後,前刑の執行猶予期間が既に経過しているので保護観察付き刑の 執行猶予にしたものであること及び執行猶予期間中は善行を保持しなけれ ばならないことなどを説示し,控訴期間等の告知をしたところ,列席の裁 判所書記官から,被告人の犯行が前刑の保護観察期間中のものである旨指
29−1【119(香法2009) −10−
九
摘されたこともあって,他の共同被告人に対し判決の宣告を終わった旨を 告げてこれを退廷させたうえ,被告人を在廷させたまま記録を検討し,約 5分後に,先に宣告した主文は間違いであったので言い直すと告げて改め て懲役1年6月の実刑を宣告したというものである。
これに関して最高裁は,次のように判示したうえで,この場合の判決の 言直しは有効であるとの判断を示した。
「…判決の宣告は,裁判長(一人制の裁判所の場合には,これを構成 する裁判官)が判決の主文及び理由を朗読し,又は主文の朗読と同時 に理由の要旨を告げることによって行うものであるが(刑訴規則35 条),裁判長がいつたんこれらの行為をすれば直ちに宣告手続が終了
し,以後は宣告をし直すことが一切許されなくなるものと解すべきで はない。判決の宣告は,全体として一個の手続であって,宣告のため の公判期日が終了するまでは,完了するものではない。また,判決 は,事件に対する裁判所の最終的な判断であって,宣告のための公判 期日が終了するまでは,終局的なものとはならない。そうしてみる
と,判決は,宣告のための公判期日が終了して初めて当の裁判所によ っても変更することができない状態となるものであり,それまでの間 は,判決書又はその原稿の朗読を誤った場合にこれを訂正することは もとより〔…上記・昭和47年判決の引用〕,本件のようにいつたん宣 告した判決の内容を変更してあらためてこれを宣告することも,違法 ではないと解するのが相当である。このように解することの妨げとな る法令の定めのないことはいうまでもなく,また,このように解する ことにより被告人その他の当事者に不当な不利益を与えたり,手続の 明確性・安定性を害するものでもない。」(1890−1891頁:下線及び〔〕
内は引用者)
ノヽ
下線部で示したように最高裁は,主文及び理由の告知と,判決宣告のた
一11− 29−1−118(香法2009)
囲
めの公判期日(判決宣告手続)の終了とを区別し,後者が終了してはじめ て判決は外部的に成立するのであり,それまでの間は,誤読の訂正にせ よ,内容の変更にせよ,判決の言直しをすることは可能であると判示し
郎)
た。このように両者に若干の時間的間隔を持たせるのは,まだ「判決を是 正可能な段階で明白な蝦庇が発見された場合には,即座に訂正し,判決を やり直す方が訴訟経済に適い,また被告人にとっても手続上の負担を回避
朗
できるメリットがある」からである。
もちろん,「判決の宣告は,大多数の被告人にとっては,一生に一度 の,将来の運命にかかわる重大事と思われるから」,とくに言直しによっ て判決の内容が不利益に変更される場合には,「被告人の心理や立場につ いては,万全の配慮を」して,言直しの許される時期は,原則的には,理 由の朗読またはその要旨の告知が続いている閉までとし,かつその内容
掴
も,誤読の場合に限って認めるべきと主張することも可能である。しかし ながら,この点に関して最高裁は,上記引用部分の末尾でも明言している ように,判決宣告のための公判期日が終了するまでであれば,たとえ被告 人に不利益に言直される場合であっても,被告人等に不当な不利益を与え たり,また手続の明確性・安定性を害するものではないとの立場を示唆し
鍋
た。
3.判決宣告手続の終7時期
そこで次に問題となるのは,いつの時点をもって判決宣告手続が終了す るのかである。この点に閲し本・平成19年決定は,「裁判所書記官が列席 し,被告人及び弁護人が出頭の上在廷する法廷で,判決の主文を朗読し,
理由の要旨を告げ,上訴期間等を告知した上,被告人の退廷を許し,被告 人は法廷外に出たものであるから,この時点で,判決宣告のための公判期
日は終了したものというべきである」と判示した。
これまでも下級審においては,いったん被告人が退廷した後に改めて呼 び戻したうえで言直した判決は,すでに判決宣告手続が終了していた以上
29−1−117(香法2009) −12−
七
無効であるとの裁判例が積み重ねられていた。しかし,それらはもっばら
㈹
判決「内容」の修正・変更に関する事例であり,本件のように,言直しに よる当初の手続の蝦庇の治癒(換言すれば,判決の「効力」)が問題となっ ている場合とは厳密には事案が異なる。その意味で,「本決定は,本件の ように判決宣告手続にかしがあった場合についても,従前判決の言い直し や判決内容の変更の場合について最高裁判例で明らかにされていた法理を 適用し,判決宣告のための公判期日の終了をもって,本件のような手続上 のかしを補正して宣告をやり直す時期限界とし,更には,判決宣告のため の公判期日の終了時点の一場合を示し」たものと位置づけることができる
糾 姻
であろう。最高裁としては初めての判断である。
もちろん,このことから直ちに,被告人の退廷の有無が判決宣告手続の 終了時期を画する絶対的な基準と解すべきではあるまい。この点に関して は,そもそも「被告人が許可なく退廷しても判決を宣告しうる(刑訴法 341条)以上,被告人の退廷という事実それ自体が判決宣告期日の終期を 画するわけではなく,それは裁判所の終局的な判断が下されたことを受け
㈹ てなされたものである必要があ」るという点が重要であろう。そうだとす れば,本決定もまた,被告人が退廷したという事実それ自体を重視したと いうよりも,むしろ裁判所の終局的な判断が下されたうえで被告人は退廷 したという事実関係を前提として,「判決宣告のための公判期日の終了時
掴
点の一つの場合を示した」ものと解すべきであろう。
4.本件における判決の言直しの効力
かくして本決定は,本件における判決言直しの効力について,「勾留場 所に戻った被告人を呼び戻して検察官出席の上で再度行われた判決の宣告 は,事実上の措置にすぎず,法的な効果を有しないものというほかはな
㈹ い」と判示した。従来,判決言直しの効力に関する裁判例が,その効力を 否定するうえで単に「無効」と宣言していたことに比べると,本決定はそ れよりもやや強い口調で本件言直しの効力を否定しているように見える。
−13− 29−1−116(香法2009)
そこで,本決定が本件言直しの法的な効力をどのように位置づけているも のと解すべきかがここでの問題である。
この点に関しては,まず,本決定は本件言直しの判決が単なる無効にと どまらず,当然無効にあたる旨判示したものと解することも可能である。
すなわち,たとえ当初の暇庇を治癒する効果をもたず,また内容的な効力 は生じないとしても,「一応,判決の外観を備えているのであるから,む しろ成立に伴う効力を伴うというべき」として,その存在に伴う効力が生
㈹
ずるものと解する余地もないわけではない。
しかしながら,本件言直しの前提として留意しておくべきは,従来の判 決「内容」の修正・変更に関する裁判例とは異なり,本件においては,後 述する通り,当初言渡した判決自体がすでに(その賎庇の重大性ゆえに)
無効であるという点である。そして,当然無効の判決に対しても上訴は可 能なのであるから(上記・Ⅲ.1),本件のような場合に,無効な判決に続 いてさらに無効な判決が続くとなれば,控訴も2回可能ということにもな
りかねない。また,「法的な効果を有しないものというほかはない」とい う本決定の文言を,その文理に忠実に解釈するなら,その有効・無効を論 じるまでもなく訴訟上それを無視しても差し支えないことをも示唆するも のではあるまいか(上記・Ⅲ.1参照)。
このように考えると,本決定は,本件言直しは訴訟行為として不成立で ある(成立していない)旨判示したものと解することができるように思わ れる。そして,仮にこのように理解することができるとするなら,本決定 は,訴訟行為の方式性の問題としても,判決を言渡す際の「公判廷」とい う要件が充たされるためには,単に「法廷」という場所的な要件だけでな く,さらに「公判期日において」という時期的な要件も必要であることを 示唆したことになる。
他方,最高裁がそのように訴訟行為の不成立をも示唆しうるほど,やや 強い口調で判示したことの背景に,何らかの積極的な意図ないし姿勢を読 み取ることも不合理ではあるまい。そして,本件言直しの効力を強く否定 29−1−115(香法2009) −14−
五
することによってどのような示唆が得られるかといえば,判決宣告手続の 要式性の遵守を強く求める姿勢ということになろう。では,最高裁はなぜ そのように要式性の遵守を強く求めたのか。この点については次の379条
との関係で後述する(Ⅴ.5)。
Ⅴ.判決の「効力」に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続 の法令違反
1.379条をめぐる従来の議論
(1)問題の所在
このように,言直された判決は無効であって法的な効果がなく,した がって当初宣告された判決の暇庇を治癒しうる効力がないとすれば,当該 賎庇を是正するには,もはや上訴審によるほかないということになる。
もっとも,刑訴法379条は,訴訟手続の法令違反が控訴理由となるには,
それが「判決に影響を及ぼすことが明らかであること」を要求している。
そして,原判決はこれを否定したが,本決定はこれを肯定しつつも,その 理由を明示していない。そこで,原判決と本決定の違い,さらには本決定 の意義及び射程を検討する前提として,まずは「判決に影響を及ぼすこと が明らか」の意義に関する従来の議論を整理しておく必要があろう。
(2)「判決に影響を及ぼすことが明らか」の意義
この点に閲し,従前の学説は一般に ,「判決に影響を及ぼす」と「明ら か」に一応分けたうえで,「判決に影響を及ぼす」とは,「その違反がなかっ たならば,原判決と異なる判決がなされていたであろうという因果関係が
㈹
ある場合をいう」として,因果関係の問題として理解してきた。この場合 の因果関係とは,当該法令違反がなければ異なる判決に法律的に到達した
㈹ かどうかという意味で,いわば規範的な因果関係である。
その上で,かかる因果関係が「明らかに」認められなければならない。
一15− 29−1−114(香法2009)
して,そのように解される契機となったのは,最大判昭
3 0
・6
・2 2
刑集9巻8号1189頁〔いわゆる三鷹事件上告審判決〕であった。そこでは,
起訴状朗読前に予断偏見を生ぜ、しめる虞のある被告人らの陳述を許したこ と等が379条違反にあたるとの検察官の上告趣意に関し,次のように判示
ト・刑訴379条の場合は,訴訟手続の法令違反が判決に影響を及ぼす べき可能性があるといつだけでは,控訴理由とすることはできないの であって,その法令違反がなかったならば現になされている判決とは 異る判決がなされたであろうという蓋然性がある場合でなければ,同 条の法令違反が判決に影響を及ぼすことが明らかであるということは できないのである。そして以上の判決については,絶対的控訴理由
(377条378条)に当る場合は常に相当因果関係があるものと訴訟法 上みなされているものと解すべきであるが, 379条の場合には,裁判 所が当該事件について具体的に諸般の情況を検討して判断すべき問題 であって,或る訴訟手続の法令違反は当然に判決に影響あるものと解 し,或はその影響の可能性があれば足ると解するがごときは,同条の 法意に反するものといわなければならない。
J
(下線は引用者) してそれを否定した。従前の学説のように,
r
判決に影響を及ぼす」と「明らか」とを必ずし も蔵然と区別してはいないものの,上記・下線部分の前半で示したように,「判決に影響を及ぼす」とは,
r
その法令違反がなかったならば現になされ ている判決とは異る判決がなされたであろうj という因果関係の問題とし て位置づけたうえで,異なる判決が出される「可能性jがあったというだ けでは足りず,そのような結論に至る「蓋然性jがある場合でなければな らないとした。なお,最後の下線部分で示したように,最高裁は,そのよ うな因果関係の存否の判断に際しては,具体的な事情を検討して判断すべ一
一ph v
噌'i
29‑1ー113(香法2009)
このように従来の学説は,
I
判決に影響を及ぼすjの意義として,当該 法令違反が判決の「内容jに影響を及ぼすかどうかを主に検討していたが,これに対しては,判決「内容jへの影響を検討する以前に,判決の「効力 (有効性)Jそれ自体を問題にすべき場合があるとする見解が主張され,現
倒
在ではかなり有力化しつつある点が注目される。
この有力説によれば,
I
例えば,被告人の出頭を要するのにその出頭な しに判決の宣告がなされた場合被告人の出頭をまって判決の宣告をした としても判決の内容が異なってくるとは考えられないから,手続の違法が 判決の内容に影響を及ぼすとは言いにくいが,このように判決宣告手続に 関する効力規定に違反した場合には,判決それ自体が無効となり,した倒
がって,違法は判決に影響を及ぼすというべきである」とされる。この場 合,判決それ自体が無効となるのは,
I
当該手続過程に適正手続ないし公制)
判の基本原則に反する重大な違法があるからjである。そして,そのよう に違法の程度が重大で、あるにもかかわらず,判決内容には影響しないとい うだけで379条の控訴理由にあたらないとすれば,
I
上訴により無効な判関
決を是正する機会が失われることとなり妥当でない」というのが,かかる 有力説の論旨であろう。
もっとも,このような有力説と従前の学説とは必ずしも矛盾するもので はあるまい。実際,上記有力説においても,両者の関係を整理して,
I
判 決への影響のうち,論理的にはまず,判決自体の有効性に影響を及ぼすか どうかを検討し,これが否定されたときに判決の内容に影響を及ぼすかど(時
うかを検討すべきJものとされている。すなわち,従来あまり意識されて いなかった判決の効力に影響がある場合について問題提起し,従来の問題 類型との整理を図った点に,かかる有力説の理論的な功績が認められよ
う。そして,このような問題類型の整理は,本決定の意義を理解する上で
‑ 17 ‑ 29‑1‑ll2 (香法2009)
も有意義であると考えられる。
2.原判決及び最高裁昭和31年判決の位置づけ
本決定の意義を検討する前提として,まず,本決定とは結論を異にした 原判決から検討する。
(1)原判決の判旨
原判決は,本件において「…被告人及び原審裁判官が退廷しただけでな く,被告人が裁判所庁舎外に出たという上記事実関係に照らせば,判決宣 告のための公判期日は既に終了したとみるべきである。そうすると,その 後に裁判所庁舎外にいた被告人を呼び戻し,検察官立会いの下で改めて同 一内容の判決宣告を行ったからといって,検察官不在のまま行われた上記 判決宣告手続の違法が治癒されるものではない」としたうえで,検察官不 在でなされた判決宣告手続には「軽視できない違法がある」としながらも,
次のように判示した(上記・刑集376−377頁)。
本件第1審「第3回公判期日は,事件審理のために開かれたものでは なく,既に結審し判決宣告のみのために開かれたものであるところ,
検察官がかかる公判期日に出席しなかったからといって,直接,被告 人の権利が害されるものではない。また,本件では,後に,検察官が出 席して行われた判決宣告においては,従前と同一内容の判決言い渡し がなされたに過ぎず,その内容を言直したようなものとは事案を異に するから,被告人に,当初の判決宣告に際して検察官が不在であった という違法を主張して,原判決の破棄を求めることを許さなければな らないとまではいい難い。そうすると,検察官が控訴の申立てをして いない本件の事実関係においては,上記の訴訟手続の法令違反は,判 決に影響を及ぼすような重大なものということはできない(最高裁判 所昭和31年2月10日第二小法廷判決・刑集10巻2号159頁参照)。」
29−1−111(香法2009) 一18−
このような原判決の判示を,上記のような379条をめぐる理解との関係 でどのように位置づけるべきか。この点を検討するうえでは,上記・引用 の末尾で原判決により引用されている最高裁昭和31年判決を検討するの が有益であろう。この事実は,本件のように判決宣告手続における検察官 の不出席が刑訴法379条に当たるかどうかを直接取り扱ったものではない が,本件とよく似た事案であり,本決定の意義を検討するうえでも参考に なる。
(2)最高裁昭和31年判決の意義
事案は,付審判請求事件としての特別公務員暴行陵虐被告事件におい て,第1審判決宣告期日に公訴の維持にあたる指定弁護士が出席せず,
(珂
(本件公訴事実に対し不起訴処分をした)検察官が出席したというもので あった。これに対して弁護人が,上告趣意の中で先例を引用しつつ,判決 宣告期日といえども,本来出席すべきでない検察官が出席したばかりか,
出席すべき検察官の職務を行う指定弁護士の出席がなかった以上,「右公 判廷は貴庁の判示する公判廷ではなく,従って本件第1審判決は憲法第 82条の『公開の法廷』で言渡されていないから法律の定める手続に違反
した有罪判決(憲法31条)であり無効である」と主張した。
この点に閲し最高裁の法廷意見は,「所論は判例違反と違憲をいうけれ ども,原審で主張判断のない事項であるから上告適法の理由とならない」
梱
としたうえで,それに続けて「なお記録を調査するも,本件に刑訴411条 を適用すべき事由を認め難い」とのみ判示して,弁護人の主張を退けてい る。もっとも,後者のなお書きの判示部分については池田克裁判官の補足 意見があり,これが本・平成19年決定との関係では重要である。
池田補足意見は,本件において検察官の職務を行う指定弁護士が公判廷 への「出席を要することは,当該公判廷が審理のためであると判決言渡し のためであるとにかかわらない」としつつ,検察官の公判廷への出席が必 要とされているのは,現行刑訴法上,「判決裁判所の構成員としてではな
一19− 29−1−110(香法2009)
○
く,当事者主義の建前上,公判開廷の手続上の条件をなすに因るものと解 すべきであるから」,検察官不出席のまま公判廷が開かれたとしても絶対 的控訴理由たる「法律に従って判決裁判所を構成しなかった」場合にはあ たらないとしたうえで,次のように述べた。
本件判決宣告期日には「検察官の職務を行う弁護士が出席しなかった ばかりでなく,本来出席すべきでない検察官が出席したという二重の 違法を存すること,まことに所論のとおりである。しかし,これらの 前示の如くいずれも単なる訴訟手続法上の違反に過ぎず,且 違法は,
つ記録に徴しても明らかなとおり,右第一審第4回公判が事件の審理 のために開かれたものでなく,すでに結審して判決言渡のみのために 開かれたものであることを併せて考えてみると,判決には影響を及ぼ さないものと認めるのを相当とする。」(下線は引用者)
この池田補足意見に対しては,「刑訴法411条1号の解釈としてではあ るものの,判決内容に影響を及ぼさなければ『判決に影響を及ぼすべき法 令の違反』に当たらないものとする立場を示唆」したものと位置づけたう えで,「411条1号に関して述べられたものであって,379条との関係にお
鋤 いて先例として扱う必然性は乏しい」とする評釈もある。とはいえ,先の 有力説が指摘する,判決の「効力」への影響が,この池田補足意見におい ても決して考慮されていないわけではない。すなわち,最初の下線部でも 示されているように,判決内容への影響に言及する前に,まず暇庇の程度 の問題として,検察官の不出席(及び本来出席すべきでない検察官の出席)
という違法は,「単なる訴訟手続上の違反」にすぎないことが確認されて いるからである。
このような前提に着目して,これを先の有力説の分析枠組に位置づけて 再検討してみると,池田補足意見において検察官の不出席が「判決には影 響を及ぼさない」と判断された実質的な根拠は,その不出席という法令遠
29−1−109(香法2009) −20−
反が「単なる訴訟手続上の違反」にすぎず,それゆえ違法の程度としては 比較的軽微であると考えられた点にあるのではなかろうか。そうだとすれ ば,当該期日が判決宣告のみのためのものであったという点については,
当該違法が判決内容には影響を及ぼさないことを確認するための意味しか なかったと解することもできるであろう。
なお,この昭和31年判決に関しては,「極めて稀な事例であり,現行刑 訴法施行後の混乱期における一種の救済判例とみるべき」との評価もあ
梱
る。しかし,「池田裁判官の詳細な補足意見が述べられている」ことも判
(軸
例集に掲載された大きな要因であることも考慮すれば,池田補足意見は最 高裁の立場自体をも示唆するものと解する余地があり,そうだとすれば,
判決宣告手続における検察官欠席の違法の程度に関して池田裁判官が示し
材
た見解は,まさに本・平成19年決定によって否定されたと解するのが自 然であるように思われる。
(3)原判決の位置づけ
これに対して,本・平成19年決定の原判決は,池田補足意見とはやや 趣を異にし,判決「内容」への影響をかなり重視しているように見受けら れる。とくに,検察官の不出席それ自体は「軽視できない違法」であると 評価しながらも,本件第1審第3回公判期日は,すでに結審し判決宣告の みのために開かれたものであることを指摘しつつ,さらに,本件は判決内 容を言直したような事例ではないことを挙げて,「被告人に,当初の判決 宣告に際して検察官が不在であったという違法を主張して,原判決の破棄 を求めることを許さなければならないとまではいい難い」とした点は,原 判決の論旨の大きな特徴である。
他方で原判決には,判決の「効力」への影響との関係で,なお注目に催 する部分もないわけではない。とくに,結論部分(先の引用の末尾の部分)
で,本件で検察官が控訴を申し立てていない点を挙げている点は示唆的で ある。そのことは,たしかに本件検察官の不出席は「軽視できない違法」
−21− 29−1−108(香法2009)
ではあるけれども,いまだ判決の無効を来すほど「重大」とはいえないと 評価していることを示唆するものだからである。だからこそ原判決は,検
㈹
察官の責問権の放棄を通じてかかる蝦庇の治癒を認めたものと評価するこ とが可能となろう。
このように考えると,原判決と本決定との結論の相違の実質は,判決宣 告手続における検察官不出席という法令違反を,判決を無効にするほど重 大なものと考えるかどうかにあることが分かる。そしてこのような理解の 相違は,実は判決宣告手続における検察官出席の意義に関する理解の相違 に由来するものであるように思われる。この点も含め,以下本決定の検討 に移る。
3.本決定の位置づけ
上述のように,本決定は,とくに理由を示すことなく,「本件第1審の 判決宣告手続には,刑訴法282条2項違反があり,この違反は判決に影響 を及ぼすことが明らかというべきであるから,これが判決に影響を及ぼす ような重大なものではないとした原判決の判断は,法令の解釈を誤ったも のといわざるを得ない」とした。この判示部分を,282条2項違反が判決 に影響を及ぼすことが明らかであることを認めた前段部分と,原判決の判 断を否定した後段部分に分けることができるとすれば,各判示部分からそ れぞれ重要な意義を見出すことができる。
まず前段部分との関係では,これまで379条の「判決に影響を及ぼす」
場合として問題にされてきたのは,判決「内容」に影響を及ぼす場合であっ たが,最高裁は本決定を通じて,同条には判決の「効力」に影響を及ぼす
糾)
場合も含まれることを明らかにしたと言える。後者の効力に関わる場合に 閲し,最高裁がとくに上記・昭和31年判決及び池田補足意見において判 断を示していないのかどうかについては異論の余地もあるが,いずれにせ よ,「この点について,従来必ずしも明らかでなかった最高裁の立場を示
■■1「−\
したものである」ことは疑いない。
29−1−107(香法2009) 【22−
そのうえで判示後段部分との関係では,原判決の判断を否定したことの 反対解釈として,最高裁は本件法令違反が(第1審)判決自体を無効にし
うるほどの重大な顆庇であったことを肯定したものと評価することが可能 である。上述のとおり,本決定が前掲・池田補足意見を否定したものかど
うかについてはなお議論の余地もあるが,いずれにせよ,最高裁として判 決宣告手続における検察官不出席という暇庇が判決自体を無効にしうるほ
どの重大なま阪庇であることを示唆したのは初めてのことである。逆にその 梱
ことは,少なくとも法令違反の程度が重大である場合には,まさに上記・
有力説が主張してきたとおり,判決の「効力」に影響を及ぼすことが明ら
、−・・1
かな場合にあたることを示唆するものといえよう。
4.判決宣告手続において検察官に期待される役割
そこで生じる次の問題は,なぜ最高裁はかかる蝦庇を重大なものと考え たのかという点である。この点に関して,まず形式的には,本決定は「判 決宣告手続における要式性を重視し,原告官たる検察官が欠けることのか
梱
しは重大であると見たもの」との説明が可能であろう。しかし,そもそも 問題の本質は,最高裁がかかる要式性を重視したのはなぜか,換言すれば,
原判決とは異なり,検察官の責問権の放棄を通じて暇庇の治癒を認める余 地がないほど厳格に要式性の遵守を求めたのはなぜかという点にある。
そこで,これらの問題を突き詰めて考えていくと,結局のところ根本的 な問題は,判決宣告手続に出席することを通じて検察官に期待される役割 はなにか,そしてその役割は検察官自身によって放棄可能かどうかという 点に収赦されるように思われる。この点については次のように指摘する見 解があり,示唆的である。
「…かりに検察官の公判期日への出席がもっぱら訴訟当事者である検 察官の便宜を図るための要請であるとすれば,その利益を侵害された 検察官が控訴を申し立てず,責間権を放棄している以上,暇庇の治癒
−23− 29−1−106(香法2009)
を認める余地はある…。これに対し,検察官の公判期日への出席が適 正な裁判確保のためであれば,検察官の責間権の行使如何にかかわら ず,暇庇の治癒は認められないということになるだろう…。したがっ
て本決定が警察官の貢間権の放棄による梢庇の治癒を全く問題にしな
かったのは,現行法において検察官は裁判所の構成員でなくなったと はいえ,単なる当事者としての出席ではなく,裁判の適正を確保する
、■・サ
上で不可分のものと解しているためとみることができる。」
この見解によるならば,最高裁が本件法令違反を判決の無効を来すほど 重大なものと位置づけ,判決宣告手続における要式性の遵守を求めた背景 には,検察官が判決宣告手続に出席することにより,裁判の適正さという 検察官自身によっても放棄しえない利益の実現が期待されていること,そ
して当事者としても放棄しえないがゆえに,その裁判の適正さという利益 は公的な性格を有するものとの推測が可能である。
しかし,それでもなお,判決宣告手続に検察官が出席することでなぜ
「裁判の適正さ」という利益が実現されるのかという問題については,な お検討を要する。この点を明らかにするための手がかりとしては,やはり 検察庁法4条を挙げるべきであろう。同条は検察官の職務について,以下 の3つの職務を挙げている(便宜上,3つの項目に分けたうえ番号をつけ
て整理した)。
(1)刑事について,①公訴を行い,②裁判所に法の正当な適用を請求 し,且つ,③裁判の執行を監督すること。
(2)裁判所の権限に属するその他の事項についても職務上必要と認め るときは,裁判所に,通知を求め,又は意見を述べること。
(3)公益の代表者として他の法令がその権限に属させた事務を行うこ と。
29−1−105(香法2009) −24−