<論説>安全配慮義務裁判例の再検討(1)
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(2) た様々な検討がなされて来ている。しかし、その多くは、特に判例についてみれば、その一部を取り上げた、学理的、. 概念整理的な検討であり、事案の詳細を踏まえた実践的検討は必ずしも多くなかったように思われる。また、これま. で主に近来型の労働危険を意識した労災予防法学の分野で研究を行ってきた筆者が、予防と補償は一体である、との. 基本に立ち返り、自身の若干の研究成果を踏まえ、判例を中心として、この義務の詳細を振り返って検討することか らは、何らかの新たな示唆を汲み取ることができるのではないか、と考えられる。. 二、個別的検討. かような問題意識から、以下、先ずは虚心坦懐に、個別的検討を進めることとする。. ︻. 1︼陸上自衛隊八戸工場事件(一審一昭和四六年一 O月三O 日東京地裁判決・訟月一九巻三号四O頁、二審一昭. 和四八年一月コ二日東京高裁判決・訟月一九巻三号三七頁、上告審一昭和五O年二月二五日最高裁第三小法廷判決・ 民集二九巻二号一四三頁) ︿事実の概要﹀. 昭和四O年七月二二日、陸上自衛隊 (Y(被告、被控訴人、被上告人))八戸駐屯地車両整備工場において、訴外. K運転の大型自動車の後進中の事故により、訴外Aが死亡した。遺族(両親) である X (原告、控訴人、上告人)ら. は国家公務員災害補償法一五条により補償金七六万円を受領したが、自衛隊遺族会会誌の記事の情報や、私的な場で. の自衛官や事務官との会話などから、 それら以外の補償はないと思っていた。しかし、四四年七月に民事損害賠償請. 2-. 一. 1号 第5 2巻第 近畿大学法学.
(3) 安全配慮義務裁判例の再検討(1). X の数二+精神的苦痛に対する慰謝料一五O 万円十弁護士費用. 求の方途の存在を知り、同年一 O月六日に、本件事故は、 Y の安全保障義務違反により生じたものであるとして、(う べかりし利益一一一二万円ー (受領した補償金)) ・ 一 -. 六 七 万 円 H七三九万円余りの支払を求め、訴えを提起した。. 本件における主たる争点は、第一に、 Yは安全保障義務不履行による損害賠償義務を負うか、第二に、時効の成否、 ー. 、 X Yが特別権力関係にあったことを根拠に、補償法所定の補償以外に損害賠償 にあった。第一点目につき、 Yは. 義務を負わない、等の主張をした。第二点目については、本件事故による損害を知った時点より三年を経過している、. 等としたが、 Xらは、 Xらが本件事故による損害を知ったのは、民事損害賠償請求の方途の存在を知った四四年七月. 頃である、また、 Y の時効援用は、 Yが上記補償金をあたかも損害賠償金の全てであるかのように Xらを誤信させ続. けた経緯や、本件事故の加害者は国であり、証明困難の問題はないこと、等から権利濫用に当たる、等として対抗し. た。また、趣旨としては予備的なものと思われるが、 Y には職務上遺族を援護すべき義務があり、従って、民事損害. 賠償請求訴訟の方途の存在を告知すべき義務があったのに、これを怠って損害を与えた以上、不法行為上の賠償責任 がある、との主張もなされた。. ︿一審﹀ Xら請求棄却 詳細不明. - 3.
(4) ︿二審﹀控訴棄却、原判決維持. Xら主張の会報記事、 Y の自衛官、事務官らの回答については、﹁Xら主張の告知義務の存在を認めることは困難で. あり、当時関係自衛官、事務官らが本件事故について補償法に基く補償以外に損害賠償責任が Y にあることを明確に. 認識していたことを認めるに足る証拠はなく、また、法律専門家でない関係自衛官、事務官らにこれを期待すること. も無理と解されるから、右記事、回答に関する事実はまだ右故意、過失の存在を認めさせるに足らず(※罫線部筆者 添付、特に断りのない限り以下同じこ、他にこれを認める証拠もない。. 次に、 Y の安全保障義務不履行による損害賠償義務負担ついては、被災者は、﹁通常の雇傭関係ではなく、特別権. 力関係に基づいて Y のため服務していたのであるから、 Yは本件事故について補償法に基づく補償(それが十分であ. るか否かはさておき)以外に債務不履行に基く損害賠償義務を負担しないものと解するのが相当であり、 Xらの右主 張も理由がないといわざるを得ない﹂。. ※対する Xは、上告。特に二審が Y の損害賠償義務を否定する根拠となった特別権力関係論につき、以下のように. 主張した。即ち、自衛隊員を含む国家公務員の勤務関係の法的性質は、:::特別権力関係ではなく、雇傭関係ないし. 雇傭関係類似の関係というべきである。現行憲法は、その七三条四号に見られるように、﹁公務員関係についても法治. 主義の原理を適用し、公務員に対する命令強制についても、法律の根拠を要求しているものというべきだからであ る ﹂ 。. ﹁さらに、公務員も労務を提供し、使用者たる国がその対価として俸給を支給し、公務員になるかならないかは本人. -4-. l号 第5 2巻第 近畿大学法学.
(5) 安全配慮義務裁判例の再検討(1). の自由であり、両当事者の一致なしには公務員関係は成立しえない点において、通常の雇傭関係と共通し、:::何ら 公務員関係を雇傭関係と本質的に区別するものではない﹂。. 更に、公務に於ける安全保障義務の内容につき、以下のように主張した。即ち、﹁Yは、労務者の労務に服する場. 合と同様に、公務員に対し公務遂行のための場所、設備等を供給すべき場合には、公務員が公務に服する過程におい. て、生命、健康に危険が生じないように注意し、物的及び人的環境を整備する義務を負っているというべきであり、. 本 件 事 故 は Yが右義務を悌怠したことによって生じたものであるから、 Yは右義務違背に基づく損害賠償義務を負っ. ているものと解すべきであり、これを否定した原判決には法令の解釈適用を誤った違法がある﹂。. ︿上告審﹀原判決破棄差戻し. ﹁思うに、固と国家公務員(以下﹃公務員﹄という。)との聞における主要な義務として、法は、公務員が職務に専. 念すべき義務(国家公務員法一 O 一条一項前段、自衛隊法六O条一項等)並に法令及び上司の命令に従うべき義務. (国家公務員法九八条一項、自衛隊法五六条、五七条等)を負い、国がこれに対応して公務員に対し給与支払義務(国. 家公務員法六二条、防衛庁職員給与法四条以下等)を負うことを定めているが、国の義務は右の給付義務にとどまら. ず、国は、公務員に対し、国が公務遂行のために設置すべき場所、施設もしくは器具等の設置管理又は公務員が国も. しくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理にあたって、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮す. べき義務(以下﹃安全配慮義務﹄という。)を負っているものと解すべきである。もとより、右の安全配慮義務の具. 体的内容は、公務員の職種、地位及び安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によって異なるべきものであり、. -5-.
(6) 自衛隊員の場合にあっては、更に当該勤務が通常の作業時、訓練時、防衛出動時(自衛隊法七六条)、治安出勤時(同. r v. 、 . 、. ,市川 N. ナ. A-aih. 法 七 八 条 以 下 ) 又 は 災 害 派 遣 時 ( 同 法 八 三 条 ) のいずれにおけるものであるか等によっても異なり得べきものである. が、国が、不法行為規範のもとにおいて私人に対しその生命、健康等を保護すべき義務を負っているほかは、. る場合においても公務員に対し安全配慮義務を負うものではないと解することはできない。けだし、右のような安全. 配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務. として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきものであって、国と. 公務員との聞においても別異に解すべき論拠はなく、公務員が前記の義務を安んじて誠実に履行するためには、国が、. 公務員に対し安全配慮義務を負い、これを尽くすことが必要不可欠であり、また、国家公務員法九三条ないし九五条. 及びこれに基づく国家公務員災害補償法並びに防衛庁職員給与法二七条等の災害補償制度も国が公務員に対し安全配. 慮義務を負うことを当然の前提とし、この義務が尽くされたとしてもなお発生すべき公務災害に対処するために設け られたものと解されるからである。. そして、会計法三O条が金銭の給付を目的とする国の権利及び国に対する権利につき五年の消滅時効期間を定めた. のは、国の権利義務を早期に決済する必要があるなど主として行政上の便宜を考慮する必要がある金銭債権であって. 他に時効期間につき特別の規定のないものについて適用されるものと解すべきである。そして、国が、公務員に対す. る安全配慮義務を慨怠し違法に公務員の生命、健康等を侵害して損害を受けた公務員に対し損害賠償の義務を負う事. 態は、 その発生が偶発的であって多発するものとはいえないから、右義務につき前記のような行政上の便宜を考慮す. る必要はなく、また、国が義務者であっても、被害者に損害を賠償すべき関係は、公平の理念に基づき被害者に生じ. 6-. l号 第5 2巻第 近畿大学法学.
(7) 安全配慮義務裁判例の再検討(1). た損害の公正な填補を目的とする点において、私人相互間における損害賠償の関係とその目的性質を異にするもので. はないから、国に対する右損害賠償請求権の消滅時効期間は、会計法三O条所定の五年と解すべきではなく、民法一 六七条一項により一 O年と解すべきである﹂。. ︿整理﹀. 安全配慮義務は、公務雇傭関係と民間雇傭関係のいずれにも適用される(民法上の雇傭契約における保護義務、. 本判決から以下のことが判明する。即ち、 ' ' ' t. E-A イ. ). それと区別する趣旨で、労働法上、労働契約特有の義務として登場した安全保証義務、公務雇傭関係事案たる本. -7-. 、 、 ,. 件で宣言された安全配慮義務、の各個につき、その異同の解明を試みた研究として、例えば、奥田昌道・﹁判例. 研究﹂安全配慮義務法理の形成と展開(以下﹁形成と展開﹂と呼ぶ)一三九頁を参照されたい)。. 安全配慮義務の内容は広範なものであるが、あくまで使用者のコントロール可能な範囲内でなすべき義務とし. 同時に、雇傭関係以外の関係にも敷街さるべきことを想定している、と考えられる。この点、柴田保幸・(判例. という判示は、基本的に、それが民間雇傭関係のみではなく、公務関係にも妥当することを述べている。しかし、. 安全配慮義務が﹁ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間に負うべき義務﹂である、. 安全配慮義務は、不法行為規範とは一線を画している。. 安全配慮義務は、対象者の職種、地位、同義務の問題となる状況等に応じて異なる。. て捉えられている。. ( 2 ) 3 ) ( 4 )(. 日 (.
(8) 研究)形成と展開三一二頁によれば、この判示は、﹁安全配慮義務が、﹁雇傭契約に関して認められているのみな. らず、判例によって、契約締結交渉関係においても、第三者のための保護効を伴う契約に関しても、信義則上の. そ. 義務として承認されている﹂ドイツの法理と同様の解釈を採用したものである、とされる。しかし、奥田前掲三. 二二頁は、﹁これは、特別権力関係論や労働法学者のいう労働契約本質論に深入りすることを避けたために﹂、. のような﹁表現となったのであろうかと思われるが、民法の方では﹃特別な社会的接触﹄による保護義務関係は、. まだ契約関係(﹃ある法律関係﹄のない場合をも含めて(契約締結のさいの過失論など)、これを契約責任的に構. -8-. 成しようとして提唱されたのであり、本判旨よりも広い場合を考えている﹂、と述べている。. 安全配慮義務は、公務員が国に対して負っている義務を遂行するために必要不可欠なものと考えられている。. 安全配慮義務は、公務員災害補償法制度とは別に、 その前提として存在するものと考えられている。. 安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求の時効については、国だからといって会計法の適用はなく、国が加害. 一般私法の適用がなされる。この解釈は、判断基準のあり方こそ異なるものの、昭和四. 給付で填補されない損害(物的損害、慰謝料等)については、不法行為損害賠償請求で処理されて来たが(浦川道太. 従来、労働災害(公務災害) の発生に際し、労災補償法(国家公務員災害補償法又は地方公務員災害補償法)上の. 主張した柔軟な解釈は否定ないし無視されている。. 一一二六頁)。安全配慮義務は債権法上の義務だから、時効は一 O年となる。とはいえ、その起算点について X側の. 一年一一月一日最高裁第三小法廷判決・民集二O巻九号一六六五頁において既に確立していた(柴田前掲三一四、. 者の損害賠償事案でも、. 7 )( ( 8 ) ( 6 ). 1号 第5 2巻第 近畿大学法学.
(9) 安全配慮義務裁判例の再検討(1). 郎・判例評論二九六号(判時一 O八五号) 一八O頁は、雇傭契約上の保護義務を認めた最も古い判例は、大正八年八. 月三O 日大審院判決・刑録二五輯九六三頁にまで遡ることを指摘している)、昭和四七年には既に、下級審レベルで. 使用者の労働契約又は雇傭契約上の安全保証義務違背を理由とする契約責任を認める例が見られるようになっていた (例えば奥田前掲三一九頁を参照されたい)。. 契約責任を採ることのメリットは、時効(民法一六七条と七二四条)、過失の存否に関する立証責任分配(債務不. 一六六条に定める﹁権利ヲ行使スルコトヲ得ル時﹂の解釈のあり. 履行では原則使用者が負担)、等にあったが、後者については、後の︻2} 事件最高裁判決で、労働者側に分配され、 前者についても、後掲︻4︼事件におけるように、. 方によっては、不法行為法による方が有利な場合もあり得る。従って、訴訟上は、両責任の追求が合わせてなされる. ことが多い (現に、著名な電通事件最高裁判決では、不法行為法上の責任が認められている)。しかし本件で、安全. 配慮義務違反が主張された背景には、明らかに時効の問題があった。即ち、 Xらは、当初、自賠法に基づく不法行為. 損害賠償請求として本件訴訟を提起し、安全配慮義務違反に基づく契約責任を主張したのは、本訴提起から三年以上. 経過した昭和四七年九月に至つてのことであった。請求権競合の考え方を援用して、本訴提起を以て、安全配慮義務. 違反に基づく損害賠償を求める裁判上の催告が含まれており、時効は中断した、と解する余地もあったが、本判決は その考えを認めなかったと解される(以上、柴田前掲三O九iコ二六頁他参照)。. ︻ 2︼航空自衛隊ヘリコプター墜落事件(一審一昭和五一年二月二一日東京地裁判決・訟務月報二二巻三号六三五. 頁、二審一昭和五四年五月一四日東京高裁判決・訟務月報二五巻九号二四三五頁、上告審一昭和五六年二月一六日最. 9.
(10) 高裁第二小法廷判決・最高裁判所民事判例集三五巻一号五六頁) ︿事実の概要﹀. 一名が重. 訴外A は、昭和三二年に航空自衛隊に入隊し、二等空曹として勤務していたが、同三九年九月一 O 日、搭乗したへ. リコプタ l のロ lタlブレ!ド(回転翼)が、突如一枚飛散し、搭乗者九名中、訴外Aを含む八名が死亡、. 症を負う事故が発生した。原因は、 ヘリコプターのロ lタlブレ!ド一枚の飛散であり、更に直接の原因は、 ロー. タlプレ lドを差し込む筒方の器具である、 ロlタlブレ!ドソケットの疲労破断であった。これは、 ソケットの製. 造過程における切削工具による極めて微細なきず(ツ lルマ iク)があって、ここに応力が集中したことによるもの. m w F H e g Z⑦の⑦∞∞ mHaM1). という)。. 1 0-. であった。 本件事故については、 その他、以下のような事情が認められている。. そもそも、本件ヘリコプターは、昭和三五年七月に、航空自衛隊が米国から無償供与されたものであり、供与の際. のヒストリカル・カ lドには定期修理完との記載があった。航空自衛隊ではヘリコプターの飛行時間・期間をもとに 整備体系を設け、点検整備を行っていた。. 自 m 己却さ. 出発し、設計側と部隊整備の双方からの資料に基づいて決定されていた (これをアイラン方式(目見. k r z 一﹃唱。25ロ. 障の時期と摩耗による故障発生時期との中間期に非常に故障の少い安定した安全な時期がある﹂という基本認識から. これには、ω飛行前点検、ω飛行後点検、ω飛行二五時間毎の定時飛行後点検、ω飛行一 0 0時間毎の定期検査、 ω最長四五ヶ月毎に民間航空機会社への委託定期修理等があり、特にω の時期は、﹁すべての物の故障状況は、初期故. 近畿大学法学 第 5 2巻第 l号.
(11) 安全配慮義務裁判例の再検討(1). 前記ソケットは飛行使用時間およそ一五0時間、同七五0時間経過後にそれぞれ整備済みソケットと交換されてお. り、およそ一五0 0時間使用後は新品と交換される予定であった。本件事故は前固定期修理から四三ヶ月後、次固定. 期修理まで二ヶ月の時点で生じたものであり、供与前の定期修理以降、同修理は行われていなかった。. の点検・検. 事故原因となったソケットのツ 1ルマ lク(製作時の切削痕)は精密検査によらなければ発見できず、定期修理に. ω i ω. よる他ないが、前回の業者委託の定期修理では発見できていなかった。また、整備基準によれば、 査では、 ソケットの顕微鏡による精密検査は、特に義務づけられてはいなかった。. 航空事故調査委員会では、本件ヘリコプターは前記整備体系に従った整備がなされ、この点での何らの手落ちもな いと判断された。. その後、国である Y (被告、被控訴人、被上告人)より公務災害認定が下り、葬式費用及び見舞金等として計一八. 六万余りが訴外朝夫の両親(遺族) である X (原告、控訴人、上告人)らに支給された。 Xらは、四九年二月に、本. 件訴え(不法行為損害賠償請求のみ)を提起し、五O年四月には、その主張に安全配慮義務違反に基づく債務不履行 構成を追加した。さらに、五月には、主張を債務不履行構成のみに限定した。. 、 X 2一一五O O万(うち各々一 000万、五O O Xらの請求内容は、先ず、慰謝料分として、 x l一二000万. 一七五O万 円 ず え を 請 求 。 ま た 、 控 訴 審 段 階 で 、 新 た. 一二六七万円強(賞与分)、六四二万円強(年金分)を併せた額四七九七万円強を、 X ら. 万については簡易裁判所での調停に付されたが不調に終わる)。次に、逸失利益相続分(うべかりし利益)として、 二八八七万円強(俸給分)、. 二名各々が二分の一ずつ相続した額二三九八万円強のうち、 に追加弁護士費用として一五O万円分ずつを追加請求した。. -11.
(12) 本件での主な争点は、第一に、 Y の安全配慮義務違反の有無、第二に、時効の成否、にあった。第一点目につき、. Xらは、訴外朝夫は公務遂行中であり、 Y には、彼の搭乗したヘリコプターにつき事故発生のおそれのないよう安全. を配慮すべき義務があった。にもかかわらず、 Yは、各部部品の強度、構造及び性能が相当に疲労していた本件ヘリ. コプタ Iを完全に整備しないまま就航させて本件事故を発生させたもので、訴外朝夫らに対する安全配慮義務を尽く. さなかった、等と主張した。要は、整備の不完全なヘリコプターを就航させた点を安全配慮義務違反と主張したもの. である。対するYは、平素から常に最大の注意と余裕をもって維持管理していたし、整備体系上安全配慮に欠けると. ころはなかった旨主張した。また、事故の直接原因は、製造時の欠陥と推定される旨も述べている。第二点目につい. ては、 Xが、昭和四九年二月の提訴時点で消滅時効は中断された旨主張したが、 Yは、仮に損害賠償請求権の存在を. O年の消滅時効にかかり、昭 一. 認めたとしても、先ずは慰謝料請求権につき、民法七二四条(不法行為法上の消滅時効規定)が類推適用され、三年 の消滅時効にかかり、昭和四二年九月に消滅した、また、財産上の損害についても、 和四九年九月に消滅した、 と主張した。. ︿一審﹀ Xら請求棄却. 本件事故原因は、 ローダ lブレ!ドソケットの疲労破断であり、 Xら主張のような、 シャフトが長いためロ lタ ! 部の振動が激しかった点等に特別の問題があったものではない。. ﹁国と国家公務員(以下﹃公務員﹂という。)との間において、国は公務員に対し、国が公務遂行のために設置すべ. き場所、施設もしくは器具等の設置管理にあたって、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義. 1 2-. l号 第5 2巻第 近畿大学法学.
(13) 安全配慮義務裁判例の再検討(1). 務(安全配慮義務)を負っているものと解すべきであり(最高裁判所第三小法廷昭和五O年二月二五日判決、民集二. 九巻二号一四三頁)、本件のように分とん基地への定期運行のためのヘリコプターに搭乗して、人員及び物資輸送の任. 務に従事する自衛隊員に対しては、 ヘリコプターの飛行の安全を保持し、危険を防止するために必要な諸般の措置が. 要請されるところであり、右措置の中にヘリコプターの各部部品の性能を保持し、機体の整備を完全にすることが含 まれることは当然である﹂。. 認定事実から、要するに、﹁本件事故は、:::(※航空自衛隊の採用していた)整備体系を実施するだけでは、本. 件事故発生時までに発見し、ないしは新品と交換して除去することが不可能であった部品の欠陥に基因するものと認 められる(※括弧内三柴添付)﹂。. ﹁そこで問題は、本件事故発生時前に、ツールマ lク発見の可能性がある定期修理が:::すくなくとも四三ヶ月くら. いの周期で行われ:::、又は取付品の定期交換として新品のソケットとの交換:::のための期間がすくなくとも一 O. 六0時間と定められる:::仕組みになっていない航空自衛隊の整備体系が自衛隊員の生命を危険から保護するものと. して不合理、不完全であるかどうかという点に絞られるのであるが、右整備体系そのものに不合理ないし不完全な点 があったことを認めるに足りる証拠はない﹂。. ︿整理﹀. 判決は、機体整備の完全な実施が安全配慮義務の内容に含まれることを述べつつも、航空自衛隊が作成していた整. 備体系に則れば、整備状況に違反はなかったとしている。そこで焦点はその整備体系自体の合理性に移るが、ここで. 1 3.
(14) はそれが不完全と認める証拠はない、とされ、よって安全配慮義務違反はない、とされた。 つまり、合理的な整備体. 系に基づく措置が行われていた以上、尽くすべき配慮は尽くされていた、という判断であり、安全配慮義務の手段債. 務的性格がよく示されている、といえよう。但し、整備体系の合理性を示す確たる裏付けは示されておらず、 それが. その当時の一般的な科学的認識に照らした判断なのか、最高度の科学的認識に照らした判断なのか、等、具体的な基. 準は明らかにされていない。実際、国賠法上の請求事件であり、事故原因が本事件ほど究明されたわけではなかった. が、戦闘機の機体、 エンジン、搭載部品等に欠陥があり、定期整備後五0 日間も格納庫に置かれていたにも拘らず、. 航空団司令や飛行隊長ら上官が整備点検結果の確認を怠って訓練飛行に就かせたため、墜落事故が生じたとして、国. の責任を認めた判例もある(昭和五四年一 O月一八日東京高裁判決・判タ三九七号五二頁。但し、この事件では、事. 故原因の不明もあり、具体的な整備基準の有無、同基準の遵守、整備基準の合理性等が問題とされたわけではなく、. むしろ、事故原因の究明に必要な航空事故調査報告書の提出を国側が拒んだことで、民事訴訟法三一六条を根拠に原. 告側の有利に解されたことが、 その責任認定の重要な理由とされている)。また、本判決の前後に﹁下級審判例で認. められた安全配慮義務の内容は、極めて高度の結果発生の回避義務を前提としたものであ﹂ った、とする分析もあり. (後藤勇・判タ四一一号一一四頁)、この時期、安全配慮義務の具体的内容、違背の基準については、多くの民法学者 や労働法学者の関心が注がれ、分析が進められた。. なお、損害賠償請求の実体判断で決着したためか、時効について、特段の判断は示されていない。. ※控訴段階では、双方より新たな主張が展開された。先ず、前掲第一点目につき、 X側からは、本件事故の直接原. -14-. 1号 第5 2巻第 近畿大学法学.
(15) 安全配慮義務裁判例の再検討(1). 因であるロ lタl ・ブレ 1ドのソケットは、 ヘリコプターにとって最高の枢要部品であったこと、 ヘリコプターが無. 償供与されたものであったこと、等から、精密検査を施すべきであったし、その旨整備基準にも記載すべきであった。. また、整備基準を制定・変更・改訂するに当たっては、 その当時における実施可能な航空機に関する最高水準の科学. 技術を駆使して検査・整備をなしうるよう、所要の定めをする義務があった旨、等が主張された。ここでは、本件事. 故後に Yがソケットについての詳細な整備規定を設けたことも、 その裏付けとして指摘された。また、 ローダ l ・ブ. レ!ドが木製で疲労していたのに、その交換をしなかったことがソケットの破断を招いたこと、も指摘された。更に、. その趣旨は必ずしも明らかではないが、こうした安全配慮義務違反を、各担当職が職責違背として行ったことにも言. 及された。対する Y側は、 やはり整備基準に従った整備を行っていたこと、本件ではソケットの原始的欠陥が事故原. 因と考えられること、使用過程で生ずる欠陥は目視や触手で発見できる以上、整備基準に精密検査が定められていな. くてもやむを得なかったこと、等を主張した。次に、時効については、 X側から、昭和四八年一月の本件請求の一部. についての調停申立、又は、四九年二月の本件提訴により、中断の効果が生じている、との主張がされたが、 Y側は、. Xらの安全配慮義務に基づく請求が昭和五O年五月である以上、時効成立は明らか、と主張した。. ︿二審﹀控訴棄却. ﹁国は、国家公務員に対し、国が公務遂行のために設置すべき場所、施設もしくは器具等の設置管理にあたって、. 国家公務員の生命および健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負っているものと解すべ. きであり、本件のようにヘリコプターに搭乗して人員および物資輸送の任務に従事する自衛隊員に対しては、 ヘリコ. - 15-.
(16) プタ l の飛行の安全を保持し、危険を防止するために必要な諸般の措置が要請されるところであり、右措置の中にへ. リコプタ 1 の各部部品の性能を保持し、機体の整備を完全にすることが含まれることは当然である。 そして、本件事. 故が:::ソケットの内側に存したツ Iルマ lクに基因することは前記のとおりであり、 ソケットが重要な航空機部品. の一つであることは疑いをいれないから、本件における Y の安全配慮義務違背の有無を判断するにあたっては、本件. 事故当時本件ヘリコプターと同型機:::の部品、なかんずくソケットについて航空自衛隊の整備体系上どのような整. 備がなさるべきものと定められていたか、本件ヘリコプターのソケットについて、定められたとおりの整備がなされ. ていたかどうか、ならびに右整備体系そのものに不備がなかったかどうかの諸点を検討しなければならない﹂。. ローダ!・ブレ!ドが木製だったことについては、﹁ロ lダ!・ブレ Iド を 取 り か え て い れ ば 本 件 事 故 は 発 生 し な かったであろうという事情:::は認められない﹂。. 米からのヘリコプターの無償供与後、精密検査がなされなかった点については、有償、無償を問わず、﹁就航前に. 、 一. O六0時間余であって、整備基準に定める一、. Xら主張のような精密検査を行わなければならない整備体系上の義務が存したことは、証拠上認めえないから、::: 整備基準に反したものということはできない﹂。 ヘリコプターの総飛行時間(ソケット使用時間)についても、. 五0 0時間に達していない。. フォームと呼ばれる一定形式の報告書でも、整備担当者、パイロット双方の従来の点検で整備済みないし異常なし との経過であったことが認められている。. ﹁したがって、 Y には整備基準に反した事実が認められず、 この点についての Y の安全配慮義務違背は認められな. 1 6-. 1号 第5 2巻第 近畿大学法学.
(17) 安全配慮義務裁判例の再検討(1). い ﹂ 。. ﹁そこで、前記整備体系そのものに不備がなかったかどうかについて、さらに慎重に検討する必要がある﹂。. 本 件 事 故 前 に ツ 1ルマ!クを発見できた可能性は、顕微鏡による精密検査のほかはなかったが、このことと、 その. ﹁義務づけ規定を設けなかった整備体系の当否とは、別の問題である。けだし、整備体系は、航空事故の防止を最大の. 目的として周到に立案、作成せられるべき問題であるものの、航空機用部品は、高度の精密性のある工場において生. 産され、 かっ、高度の品質管理と検査のもとに出荷されるのが一般であるから、当該部品に故障が発生しやすいとい. うような特段の事情がない限り、右部品の品質に信を置き、受入れ後(一定時に) 一々顕微鏡等による精密検査を行. うとしない整備基準を定めることも十分考えられるところであり、このような整備基準を定めたからといって、その 整備体系を直ちに不合理、不完全であると断ずることはできないからである﹂。. 本件事故機はアメリカで高度の品質管理と検査の下に出荷され、本件と同様原因の事故は日米ともに一件も報告さ. れていないこと、等から、﹁本件のような事故は、事故発生当時全く予測されなかったことが認められる﹂。. ﹁これらのことかョりすれば、前記整備体系には十分の合理性が認められ、これを不合理、不完全なものとみなすこと. はできない。(本件事故が起った結果か冨りすれば、 ソケットの新品との交換あるいは定期修理をより早期に行うよう. 整備体系に定めておけば、事故は起りえなかったであろうと考えられないではないが、右交換および定期修理につい. ては、:::航空機整備の過去の経験、部品の耐久性の検討、 アイラン方式の考え方等に基づいてその各時期が定めら. れているのであって、整備体系所定の右時期を不合理、不完全と認めることはできないと。. 事故後の整備基準の改訂についても、﹁整備体系は固定的なものでなく、過去の経験、とくに同機種に発生した故. - 1 7.
(18) 近畿大学法学 第 5 2巻第 l号. 障、事故等を重要な参考として、逐次改正されてゆく性質のものであるから(:::)、右改正がなされたことをもっ て前記整備体系の不合理、不完全を推認しえないことは、 いうまでもない﹂。. ﹁したがって、整備体系そのものに不備があったことも認めえないところであって、これを理由とする Xらの安全配 慮義務違背の主張は採用することができない﹂。. 担当職の職責違背に関する﹁Xらの:::主張は、:::本件において Xらが Y に安全配慮義務違背があるとする上記 多岐にわたる主張を、右担当職員らのここの職務にあてはめて言い直したにすぎない﹂。. ︿整理﹀. 本判決は、基本的に一審と同じ判断枠組みを維持し、整備基準違反の有無、整備基準自体の合理性、完全性、とい. う順で判断を加えているが、控訴段階での Xらの主張に応えてより精鍛な判断を下している。この際、先ずは整備基. 準違反の有無の観点から判断さるべき、とする意図が、 一審に比べても強く打ち出されている。. その意味でも、本判決のポイントは、整備基準の合理性判断にあるが、この点、判決は、 その時々の事情を基に合. 理性判断をなすしかなく、事故後に改正されたからといって、元の基準が合理性を欠くとはいえない旨明言している。. 一定時に一々精密検査を行うべき規定を設けていなくてもやむを得な. ここでは、問題となった部品が、高度の精密性を有するものである以上、出荷された製品については、特段の事情の ない限り、 その品質に信を置き、受け入れ後、. ぃ、との立場が採られている。これは、間接的には、 Y側が主張した製品出荷時点での欠陥を示唆するものともいえ. るが、基本的に、過去の経験等に基づく予測可能性を基準に置いた判断と思われる。少なくとも、予測可能性を超え、. 1 8-.
(19) 安全配慮義務裁判例の再検討(1). 一審同様、損害賠償請求の実体が否定されているためか、特段の判断はなされていない。. いかなる財政負担を伴っても、 ただ単に、科学的に最高度の措置を採ることを事業者に求める趣旨ではない。 時効については、. ︿上告審﹀││上告棄却││. ﹁国が国家公務員に対して負担する安全配慮義務に違反し、右公務員の生命、健康等を侵害し、同人に損害を与えた. ことを理由として損害賠償を請求する訴訟において、右義務の内容を特定し、かっ、義務違反に該当する事実を主. 張・立証する責任は、国の義務違反を主張する原告にある、と解するのが相当である。しかるところ、本件記録及び. 原判決の判文によれば、 Xらは右の法理に従って国の負担する具体的な安全配慮義務の内容及び右義務に違反する事. 実について主張をし、原審もまた、本件事故の原因を確定したうえ、右法理に従って、 Yが本件のようなヘリコプター. に搭乗して人員及び物資輸送の任務に従事する自衛隊員に対してヘリコプターの飛行の安全を保持し危険を防止する. ためにとるべき措置として、 ヘリコプターの各部部品の性能を保持し機体の整備を完全にする義務のあることを明ら. かにし、この見地から、 Xらの主張に基づき、 Y につき具体的に義務違反の事実の存否を判断し、 その存在を肯認す. ることができないとしたものである。したがって、原判決には所論立証責任の法則を誤った違法があるとは認められ. ない。所論中、原審が、 その必要性の認められないことを理由として文書提出の申立を却下したことの違法をいう部. 分は、 ひっきょう、事実審の自由裁量に属する証拠申出の採否につき不服をいうものにすぎず、 その他、原判決の判. 断の過程に所論の違法はなく、所論引用の大審院判例は事案を異にするか、又はその趣旨を異にするものであって、 本件に適切でない。論旨は採用することができない﹂。. -19-.
(20) ︿整理﹀. 本判決においては、上告理由で Xらより主張された、安全配慮義務内容の特定と義務違反の事実の立証責任に関し、. ﹁国の義務違反を主張する原告にある﹂とした点が、重要な判決部分として後に大きな影響力を持っている(本来必. 要のなかった、この一般論の一人歩きを警戒する批評として、小林秀之・判例評論二七三号(判時一 O 二二号) 一頁、萩津清彦・ジュリ七七六号一四O、 一四一頁ほか)。. すなわち、 Xらは、上告理由において、原審は、﹁本件事案における立証責任は、 Xらにあるが如く解して Xらの. 本訴請求を排斥した﹂。しかし、﹁﹃凡そ、損害賠償を請求する者は、請求権発生の原因たる事実を証明すれば足り、. 債務不履行の事実は、之を立証する責任はない﹄(大判、大八・七・二二民録二五・一三四四頁、大八・一 0 ・二O、. 同一八九九夏) のであり、又﹃債務者において給付義務を免れんとするには、給付の不能が、自己の責任に帰すべか. らざるの事由によることを立証しなければならない﹄(大判大一四・二・二七集四・九七頁)ことは、夙に判例の認. められるところである﹂。更に、この理を本件に当てはめ、 Yが自己の責めに帰すべからざる事由(不可抗力や被災. 者の過失)に因ったものであることを立証していない以上、責任は Yが負うべきである、と主張した。この点が上告. 理由のポイントになっていた (最高裁は、 その余の部分については、原審の判断をそのまま支持している)。. なお、従来の下級審判例では、本判決と同旨を述べるものもあったが、 一般論としてその旨を述べても、実際上、. たとえ具体的な義務違反が特定されなくても、業務起因性が認められること等を根拠に義務違反を推定するものもあ. り、本判決の趣旨と必ずしも一致するわけではない。また、安全配慮義務内容の特定を労働者側に求めつつ、 その履. 行の立証責任を明確に使用者側に負わせるものもあった (以上の判例につき、特に萩津前掲一四一頁を参照された. - 20-. J ¥. l号 第5 2巻第 近畿大学法学.
(21) 安全配慮義務裁判例の再検討(1). い)。概して、本件上告理由引用の大審院判例の趣旨を汲むものであったといえよう。他方、学説上は、債務不履行に. (安全配慮) 基づく損害賠償請求一般の立証責任分配原則に従い、ω (安全配慮)義務違反の事実、ω損害の発生、ω ω帰責事由の不存在、. 義務違反と損害との因果関係、につき、労働者側に主張・立証責任を負わせ、使用者側には、. につき主張・立証責任を負わせる見解が通説であり、 その意味で、本判決はこれに従ったもの、とする見解がある. (以上、竹下守夫・﹁判例研究﹂形成と展開一二二二頁以下、特に三三四、三三五頁)。このような学説の傾向は、当初、. 前記大審院判例のように、債務不履行構成をとるだけで、不法行為構成に比して、過失の証明責任が転換されたり、. 実体的注意義務ないし賠償責任の加重といった効果が生じることに対し、主に医師と民事責任との関係から反省が迫. られたこと(山本隆司・民商法九三巻五号七三九頁)によるものと思われる。しかし、 それまでの学説は、おおよそ. 前記大審院判例と平灰を合わせており、また、実際上、 ω の立証とωの立証は不可分であることが多いわけだから(竹 下前掲三三八頁、中嶋士元也・保原 H山口 H西村編労災保険・安全衛生のすべて二九九頁)、通説も、ω の立証に力 点を置く、即ち、ω の立証の中で ω(の不存在) の立証も積極的に使用者に求める趣旨であった、とも考えられる。 ω の立証に力点を置いて、即ちその厳格な立証を求める旨判示した本判決には、 それが安全配慮 その意味で、むしろ. 義務違反に該当する事実の主張・立証責任に関する初めての最高裁判決であり、かっ、従来の下級審判例の分裂状況. に終止符を打った、という事実と併せ、相応の意義が認められているといえよう。但し、判示が一般論にとどまり、. と の具 ωω. 立証を要する違反事実の具体的範囲を明らかにしていないことから(それが明らかにならなければ、前記. 体的な区分もつき難い)、 一般論の適用可能性を欠き、従って、その価値自体を減殺する、との趣旨の指摘も多い。労. 働安全衛生法などの適用を受け、安全配慮義務違反の立証が比較的容易であるような場合と、 そうでない場合とで判. -21-.
(22) 旨の理論の適用を考え分けるべき、との指摘もある(萩津前掲一四二頁)。有意な指摘と思われる。. ︻. 3︼川義事件(一審一昭和五六年九月二八日名古屋地裁判決・労働判例三七八号七五頁他、二審一昭和五七年一. O月二七日名古屋高裁判決・判例時報一 O五八号七三頁他、上告審一昭和五九年四月一 O 日最高裁第三小法廷判決・ 最高裁民事裁判例集三八巻六号五五七頁他) ︿事実の概要﹀. 訴外Aは、昭和五三年三月、高校卒業後、 Y (被告、控訴人、上告人)に入社。同年四月頃、先輩より、元Y の従. 業員で、 一年先輩に当たる無職の訴外Tを紹介され、 しばらく飲食や話を共にした。しかし、訴外Tは、在職中から. Yの商品である反物類を盗み出しては換金し、退社後も親しくなった新入社員を訪ねたりしながら、隙を見て盗みを. 続けていた。訴外 Aも、直に彼の不法目的を知り、警戒するようになった。七月には、訴外Tが盗難未遂事件を起こ. し、これを防止した宿直中の従業員が直属の上司や訴外Aら若手従業員に伝え、今後、彼を社屋に入れないよう申し 合わせたが、上層部には報告しなかった。. こうした中、訴外Aは、八月一三日午前九時i 一四日午前九時までの二四時間宿直勤務を命じられ、 Y社屋(以下、. 一度目はトイレを借りると言って中に入ったが、﹁社長がもうすぐ帰ってくる﹂、という訴外A のウ. 本件社屋と呼ぶ)内に一人だけ残ることとなった。そこに、新入り従業員が宿直担当であることを知っていた訴外T が現れた。彼は、. ソにかかり、退出した。しかしあきらめきれず、二度目は、ブザ iに応じて訴外Aがくぐり戸を開けたところを許可. 無く無理矢理入り込んだ。訴外Aは訴外Tに冷たい態度をとり、暗に退去を促したところ、立腹し、訴外A に、商品. - 22-. l号 第5 2巻第 近畿大学法学.
(23) 安全配慮義務裁判例の再検討(1). 展示場の畳式部分に正座するよう命じたが、反抗的な態度が改まらなかったため、ビニール紐で首を絞める等して殺 害した。. ω社屋自体は堅固なつくりになっていた。ω社屋. 事件当時の本件社屋の状況は以下のようなものであった。即ち、. そこに. 内では、高価な反物や毛皮が、施錠された保管庫等に収納されずに陳列されていた (但し、これは業界の常識上特異. ω防犯ベル・防犯灯等の設備はなかった。ωくぐり戸が夜間出入り口となっていて、. なものではなかった)。. の ぞ き 窓 や イ ン タ ー フ ォ ン は な く 、 来 訪 者 は ブ ザ i で知らせることになっていた。防犯チェーンもなかった。従っ. て、夜間宿直中に誰かがブザ 1ボタンを押しても、社屋内にいる宿直員はくぐり戸を開けて見ないと相手を確かめる. ことは困難であり、くぐり戸を開けた途端その者が社屋内に押し入ってしまうと、退去させることは非常に困難で あった。. なお、 Y では、訴外T在職中の昭和五二年一 O月頃から商品の紛失事故が発生しており、五三年七月には、前記の. 盗難未遂事件があった他、本件事故前には、訴外Tから訴外A宛に電話があり、 Y代表者が不審に思ったため、訴外. Tとは交際しないよう注意を促していた。その後、代表者や Y従業員がとると無言で切れる電話や、明らかに訴外T. と思われる声の不審電話が続いていたが、 Yからは、戸締まりを厳重にするよう宿直員に命じるに留まっていた。. そこで、訴外A の両親である Xら(原告、被控訴人、被上告人)が、 Y の安全配慮義務違反を根拠に、逸失利益、. ω訴外A の逸失利益の相続分として、計一八三O万円余り、ω. 慰謝料、葬祭費、弁護士費用を求めて提訴。請求は、. Xら自身の精神的苦痛に対する慰謝料として、計二000万円(※このうち最大八O O万円分についてはYも認めて. ω葬祭費として、計五O. いるが、前提となる責任の存否について争っているため、必ずしも意図が明らかでないて. -2 3.
(24) ω弁護士費用として、二O. 万円(※ Yは四O 万円分が相当としているが、これが承認の意図かは明らかではない)、. O万円。以上、合計四O八O万円余りから労災保険支給額六O O万円余りを差し引いた約三四八O万円を請求。. 一般的に、物的設備、物的環. 本件の争点は、第一に、安全配慮義務の一般的内容及び本件に於ける具体的内容、ならびにその違反の有無、第二 に、過失相殺の可否、にあった。第一点目につき、 Xらは、先ず、安全配慮義務には、. 境の整備義務に加え、労働者への十分な安全教育、適正な人員構成ないし人員配置等の人的環境整備義務がある、と. し、特に本件に即しては、従前からの盗難事故の多発、不審電話の着信等の経緯からも、以下のような義務が存した. が、果たされなかった旨主張した。ω宿直員に対する注意事項や禁止事項等の従業員教育・安全教育の徹底、ω宿直 状況を逐一報告させるなど、最新の注意を払った従業員の宿直業務の管理、ω盗賊の侵入、加害行為を慮った物的防 ω専門の警備会社への夜間警備の委任、同刷新入り従業員へのベテラン従業員の配置、等。 犯設備の十分な整備、また、. 一般的に安全配慮義務を負っていることは認めるが、殺人犯を予. 対する Yは、何よりも、本件事故が一般的危険が労働者の就業中に現実化したものであり、 そのような場合に使用者 は責任を負わないこと、を主張。使用者が抽象的、. 測し、 その対策を講ずる具体的安全配慮義務はなかった、と述べた。また、本件社屋の構造や商品保管方法にも欠陥. はなく、本件事故は、訴外A自身が訴外Tと交遊関係にあったため、私的に招かれたものである、と主張した。第二. 点目については、 Yより、ω従前からの注意にもかかわらず、訴外Aが訴外Tと交遊関係を持っていたこと、ω訴外 Aが訴外T の犯行につき報告を怠っていたこと、ω訴外Aが、申し合わせに違反して訴外Tを社屋内に立ち入らせた ω訴外Aの油断ないし警戒不足、等を根拠に、大幅な過失相殺が相当と主張されたのに対し、 Xは、 その全て こと、. を一切否認した。. - 24-. 1号 第5 2巻第 近畿大学法学.
(25) 安全配慮、義務裁判例の再検討(1). ︿一審﹀││原告請求一部認容、. 一部棄却││. ﹁使用者は労働契約に基づいて労働者からの労務提供を受領するに当り、使用者がなした具体的労務指揮または提. 供した場所、施設等から危険が労働者に及ばないように労働者の安全につき配慮する義務があると解されるところ、. 本件についてみると、前認定によると使用者であるYは訴外A に対し、昭和五三年八月一三日午後九時から二四時間. の宿直勤務を命じ、宿直勤務の場所を本件社屋内、就寝場所を同社屋一階商品陳列場と指示し、これらの場所を訴外. A に提供したのであるから、 Yは右指示した宿直勤務ないしは右提供した場所から危険が発生しないように危険の発. 生そのものを防止するか、発生した危険から容易に逃れられるように回避措置を講ずる義務があったといわねばなら ない﹂。. ω ﹁宿直勤務の場所である本件社屋内に、宿直勤務中に盗賊等が容. ﹁本件につきこれを更に具体的にいうならば﹂、. ω ﹁万一盗賊が侵入した場合はこれが加えるかも知れ. 易に侵入しないように物的設備(例えばのぞき窓)を施す﹂、. ない危害から逃れることができるような物的施設(例えば防犯ベル)を設ける﹂、﹁そしてこれら物的条件を十分に整. ω ﹁宿直員に対する教育を十分に行って宿直員の危険回避に関する知識を高め、. 備することが困難であるときは﹂、. 危険に対する適切なる対応能力を要請し、もって物的条件と相まって危険が労働者に及ばないようにするヘ﹁義務が. あったものといわねばならない。右使用者に課せられた具体的安全配慮義務の内容は、本件労働契約の趣旨、内容、. 命じた宿直勤務の内容、提供された勤務場所及び施設等を総合し、これら事実関係のもとで条理上導き出されるもの ということができる﹂。. しかし、﹁使用者のなした具体的労務指揮または提供した場所、施設等から生じたものではなく、これらとは無関係. - 2 5.
(26) 近畿大学法学 第 5 2巻第 1号. に生じた危険や、右具体的な労務指揮または提供した場所、施設等から生じた危険であっても使用者にとって管理し. 得ない事由或いは予見し得ない事由によって生じた危険については、もともと使用者に防止義務を課することができ ないというべきである﹂。. ﹁そこで本件につき判断するに、 :::Yは本件社屋を所有し、高価な商品を多数陳列、保管して営業のために使用. し、かつ訴外Aをして宿直させ、右社屋内に一定時間留まるよう命じたものであるから、 Yは右社屋を場所的に管理 していたとともに宿直業務そのものも管理していた﹂。. ﹁そこでつぎに予見可能性の点につき判断するに﹂、盗難の予見可能性については、﹁Y の本件社屋内における商品保. 管状況は開放的であって、犯罪の危険性ある者が見ると悪心を起こす虞れなしとしない状況であって、 Yとしては休. 日とか夜間に盗賊が社屋に侵入すること、正規来訪者が万引等の方法で窃取することを予見することは可能であった. といわねばならない。特に:::昭和五二年一 O月頃から商品の紛失事故が発生し:::ていたのであるから、宿直勤務 中の盗難は十分に予見可能であったというべきである﹂。. 殺人の予見可能性については、﹁何らかの方法で侵入した盗賊が宿直員と対面したとき、特に宿直員が一人であると. きは、宿直員の対応如何によっては、盗賊が宿直員に危害を加えることがあるかも知れないということは予見可能で. あったというべく、この点が予見できる以上、危害の程度はその延長線上において予想される最悪の程度を想定すべ. く、:::高価な商品を陳列、保管してある社屋内に一人宿直を命ずる場合は、宿直員の安全について右の知き最悪の. 状況を予想することは特別困難なことでもなく、使用者に対して不可能を強いることにはならない﹂。. ﹁右の如くY には具体的安全配慮義務があったにも拘わらず Yは宿直員に対して戸締りを厳重にするよう指示した. - 26-.
(27) 安全配慮義務裁判例の再検討(1). のみで、本件社屋について物的設備の充実並びに宿直業務についての従業員教育をしなかったことが前認定事実から. 明らかに認められるから Y に は 右 安 全 配 慮 義 務 に つ い て の 不 履 行 が あ っ た も の と い う べ く 、 右 不 履 行 と 本 件 結 果 発 生 との聞には相当因果関係があると認められる﹂。. そこで、本件損害につき以下判断する。逸失利益の額については、合計一八三O万円余りで当事者に争いはない。. 慰謝料については、﹁Xらは右訴外A に対する安全配慮義務の不履行を理由として、訴外A死亡を原因とする近親者固. 有の慰謝料請求をすることはできないと解するのが相当﹂。﹁しかしながら:::、不法行為構成による慰謝料請求の当. 否につき判断するに、 :::Yには本件事故発生に関し予見可能性があったと認められ、これに対し結果回避の措置を. とるべき義務あるにも拘わらずこれを怠ったことが明らかであるから、 Y には訴外A の本件事故による死亡につき過. 失があったと認められ﹂る。﹁すると Yは訴外A死亡によって受けた Xらの精神的苦痛に対する慰謝料を支払う義務. あるところ、 :::Xらが受けた苦痛の程度その他諸般の事情を総合し、これに後記訴外A の過失を劃酌すると、.. 合計六五O万円:::と認めるのが相当である﹂。その他、葬祭料として計五O万円を認める。. ω訴外Aが訴外T の盗難を知りつつ上司に報告せずにいたこと、ω ﹁自己の宿直日にも反物. 過失相殺については、. を盗むために来るであろうことが予見できたにも拘わらず事前にこれを防ぐための特別の対策をとっていなかったこ. ω ﹁本件事故当日午後九時頃訴外Tが:::不審な行動に出ていることを知っており、:::更に警戒を強めなけ. と ﹂ 、. ω ﹁訴外Tが中に入った後の訴外A の対応. ればならないのに、:::再度訴外T に社屋内に入られてしまったこと﹂、. も必ずしも適切であったとはいえないこと﹂、﹁等の落度が認められる﹂。. ﹁ところで使用者には、前述のとおり、労働契約関係に付随して信義則上労働者の生命・健康等につき安全を配慮. - 2 7.
(28) すべき義務を負わされているが、右義務は使用者に対してのみ負わされるものではなく、具体的状況のもとでは労働. 者に対しても負わされる義務と解すべきである﹂。﹁すなわち具体的状況によって労働者自身自己の生命・健康等に危. 険が及ぶことを予見し、または予見し得べかりしときは、そしてその危険から回避することが可能であるときは、労. 働者は自己の生命・健康等の安全を確保するため右危険から回避すべき義務があるといわねばならない﹂。. ﹁訴外Aはかねてからの反物窃取の犯人が訴外T であることを知り、訴外A宿直の当夜訴外Tが再び反物を盗むた. めに社屋内に入って来ることを予見することができたというべきであるから、訴外Aは宿直を命じられた者としてこ. れを防止するため上司に打ち明ける、同僚と再度相談するなどの方法により対策を立てる義務があったといわねばな. らない。そしてそのようにすることができたにも拘わらず、:::かかる対応措置を何ら講じないで最悪の結果を招い. てしまったものであり、これは:::宿直員としての自己の生命・健康等の安全を確保すべき義務の不履行というべ. く、これを被害者の過失として、:::劃酌するのが相当である。:::過失相殺分は三・五割と認めるのが相当﹂。. 以上、逸失利益+葬祭料一労災保険金 H 一二八O万円弱。ここから過失相殺分、既払いの見舞金六O万円を引いた. 七七O万円余りに、慰謝料六五O万円、弁護士費用一四O万円を加えた一五六O万円余りが、 Y の負担する損害賠償 額となる。. ︿整理﹀. 本判決は、公務関係に関する八戸工場事件最高裁判決の判断を踏襲し(もっとも、同判決内で、 その判断枠組. 本判決から、以下のことが判明する。 E. 4EaA. 、 ‘ . , , , 、 ‘ , , ,、. - 28-. 1号 第5 2巻 第 近畿大学法学.
(29) 安全配慮義務裁判例の再検討(1). みが民間雇用関係に適用可能なことが宣言されていた)、更に、それが、おおよそ物的環境整備と人的環境整備の 両面にわたる趣旨であることを明らかにしている。. 本件において、 それは、 のぞき窓の設置や防犯ベルの設置等といった、十分な物的防犯設備の整備、従業員教. 育・安全教育の徹底による危険回避知識、危険対応能力の向上、等の義務として具体化されている。. 安全配慮義務の具体的内容は、労働契約の趣旨、内容、命じられた勤務の内容、勤務場所及び施設等を総合し. て、事実関係の下で条理上導き出されるものと考えられている。この点について、後に、最高裁は、労働者の職. 種、労務内容、労務提供場所等安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によって異なるべきものである、と. 使用者の管理し得ない事由や予見可能性のない事由などによる危険は、帰責性の問題というより、 そもそも安. 述べており、労働契約の趣旨、内容が削除され、逆に労働者の職種が加えられている。. ω. ω )を. 全配慮義務の対象とならない、と考えられているように思われる(この点につき、浦川前掲一八一頁脚注. 参照されたい)。ちなみに、予見可能性の判断において、予想される危害は、予想される最悪の程度を想定すべ き、とされている。. 慰 謝 料 請 求 に つ い て は 、 本 件 被 害 者 が あ く ま で 訴 外 亡 訴 外 A である以上、本来近親者固有の慰謝料請求はでき. ないが、本件ではY に﹁不法行為法上の﹂過失があることを考えると、慰謝料請求を認められる、としている。. これは、債権債務(契約)関係に基づく慰謝料請求は当事者にしか認められないのが原則だが、不法行為法上の. 構成をすれば、民法七一一条により、被害を受けた者が直接請求可能、との趣旨と考えられる。. 過失相殺に関連し、安全配慮義務は使用者のみならず﹁具体的状況のもとでは﹂労働者も負担する義務である. - 2 9. ( 2 ) ( 3 ). ( 5 ). ( 6 ).
(30) l号 第5 2巻第 近畿大学法学. としている。. 損害賠償額の算定に当たり、労災保険金の控除と過失相殺については、いずれを先に行うべきか議論があるが、. 一八O頁が指摘するように、安全配慮義務は、作為義務であることが殆どとはいえ、結果責任義. と捉えた判断ということになる(山本教授のこの分析は、 そもそも安全配慮義務という概念の特質は、こうした第三. れが問題となる具体的状況等に応じるとはいえ、通常の不法行為規範における注意義務とは異なる責任加重的なもの. の賠償責任の帰責性を認めたものと解される。山本前掲七四二頁の分析に従えば、これは、安全配慮義務自体を、. ) ﹂ 。 川前掲一八O頁. ωからすると、本判決(さらに後の二審・上告審判決)は、まさにこのような観点から、使用者. 浦 き盗犯にともなう殺害はその防止すべき義務の射程内であって、 そこに因果関係の中断を論じる余地は全くない (. ﹁具体的な安全配慮義務が宿直員が曝される犯罪行為による危険を回避することを内容としているならば、本件の如. 境に置くとするならば、 それを補正するものとして信義則上安全配慮義務は必然的に生じる (浦川前掲一七九頁)﹂。. が労働者を第三者による危害の高い環境に置き、あるいは第三者の危害に対する一般的自己防衛機能を減少させる環. らも、かような事情下では、介在事情に関する予見可能性が否定され易い (山本前掲七四二頁)。しかし、﹁使用者側. ることは、抵抗があるであろう﹂。因果関係中断論によるか、相当因果関係説によるかはともかく、因果関係の観点か. による故意的な行為については、これらの危険から被用者を保護する措置を施すべき:::作為義務を一般的に承認す. 務(目立o -mω25SE名ESC ではないから、﹁本件で問題となったような盗賊による殺害のような企業外の第三者. 浦川前掲一七九、. 本件では、労災保険金の控除後に過失相殺が行われている。. ( 7 ). そ. - 3 0. 」 ー.
(31) 安全配慮義務裁判例の再検討(1). 者損害惹起型事案を含め、﹁一般的な業務関連性に基づく損害防止措置義務の具体的内容を最初に定立するところか. ら出発する﹂ところにこそ存在する(山本前掲七四七頁)、との見解に則っている)。特に本件では、被用者を﹁宿直. という:::第三者の犯罪行為に遭遇しやすい危険な環境に置いていたのであるから(浦川前掲一七九頁)﹂、戸締まり. の指示等のほか、何ら物的防犯設備や安全教育を施さなかった以上、そこに安全配慮義務不履行を認定したことには、. 十分に正当性が認められよう(他方、和田肇コ雇傭と安全配慮義務﹂形成と展開一三九頁以下、同﹁安全配慮義務﹂. ω業. の三つを. 民法の争点 E四二頁以下では、安全配慮義務とて基本的には通常の注意義務と異ならないとの立場を採りつつ、. ω第三者加害の可能性の客観的存在、ω事故発生の予見可能性と防止措置実施可能性、. 務遂行との関連性、. 要件を充足する場合に、原則的判断を修正する見解を説いている。山本前掲七四二頁は、本件はこの要件も充たすも. のであり、本判決は、この観点から使用者の責任を認めたとも考えられる旨述べている。山本教授は、新美育文﹁﹃安. 全配慮義務﹄の存在意義﹂ジュリ八二三号九九頁を参照しつつ、同義務概念の存在意義自体を改めて問い質している. から、このような分類を重視するが、昨今の訴訟では、その両者を以て訴えられることが多いから、実務上それほど. 大きな実益は感じられない。また、当の新美教授自身は、本判決の評釈(形成と展開三五八頁)において、本判決も. また不法行為法上の注意義務で十分に説明のつくものであり、特にこのような分類の必要は存しない、との立場を維 持している)。. なお、本件と同様、過激派暴漢による敷地内侵入及び殺傷事件に関する、朝震駐とん地自衛隊殺害事件昭和五四年. 四月二七日東京地裁判決・判タ三八九号一 O三頁では、銃器を奪取するため、制服や階級章を着用して幹部自衛官に. 変装し、普通乗用車に乗車して駐とん地の営門を通過した犯人が、巡察中の自衛官を刺殺した事故について、事故発. -31-.
(32) 生当日の駐とん地の警備体制が服務規則、同細則等に従い平常通り行われ、営門出入者の取扱をはじめとして制度上. も運用上も格別欠けるところのなかった以上、国の安全配慮義務違反は認められない、と解されていた。しかし、本. 判決後の同事件控訴審判決(昭和五七年一二月二三日東京高等裁判所判決・訟月二九巻六号一 O八O頁他)は、本件. 事故が、国の安全配慮義務の履行補助者である駐屯地司令および警衛司令が、営門出入の管理を適正にし、もって駐. 屯地内の自衛隊員(動哨勤務中の者を含む)の生命、身体を危険から保護すべき安全配慮義務の違反があったために. 誘発されたものと認められる以上、国は損害賠償責任を負う、とし、上告審(昭和六一年一二月一九日最高裁第三小. 法廷判決・訟月三三巻九号二二一九頁他)も、国の予測可能性を肯定し、その責任を認めた。ここで控訴審は、その. 安全配慮義務の具体的内容として、過激派の活動が活発で、彼らの駐とん地への出入もあった当時の時代状況からす. ω過激派活動家の制服着用による不法侵入を予想し、ω営門の警衛勤務者に対して、外観上幹部自衛官と見え. れば、. る者に対しても、営門を出入りする際、原則として身分証明書の提示を求めて身分の確認を徹底させるようにし、ま. ω営門出入者の所持する私物品、出入車両及び搬出入物品の点検に関し、警一衛勤務規則に具体的な警衛勤務要領. た 、. 一審より高度の内容を認めている。本. を定め、またはこれについて適切な指示、命令をし、もって、自衛隊幹部でない者が幹部をよそおって営門から不法 侵入することがないように営門の出入を管理すべき注意義務があった、とし、 判決の影響が推察される。. ※控訴段階では、. X側より、ω注意義務違反、即ち過失に基づく不法行為損害賠償請求、ω訴外 A自身の慰謝料一 ω X ら自身の精神的苦痛に対する慰謝料各五OO万円(計一 000万円)、の主張が新たに. 000万円とその相続、. - 32-. l号 第5 2巻第 近畿大学法学.
(33) 安全配慮義務裁判例の再検討(1). 加 え ら れ た 。 対 す るY側 は 、 本 件 事 故 が あ く ま で 訴 外Aと 訴 外T間 の 交 遊 関 係 に 基 づ く 私 的 な 事 件 で あ る 旨 を 繰 り 返 し主張した。. ︿二審Vl--控 訴 棄 却 、 原 判 決 一 部 変 更 1 1. ﹁控訴人は、本件事故は訴外A の 意 思 に 基 づ い て 訴 外T の 侵 入 を 許 し 、 正 座 の ま ま 殺 害 さ れ る と い う 異 常 な 態 様 で 発. 生 し た か ら 、 仮 にY に お い て 物 的 設 備 及 び 従 業 員 教 育 の 面 で 安 全 配 慮 義 務 の 不 履 行 が あ っ た と し て も 、 右 債 務 不 履 行. - 33-. と本件事故の発生との聞には因果関係が存在しない旨主張する。. し か し な が ら 、 訴 外T は 二 度 目 に 本 件 社 屋 を 訪 れ た 際 、 訴 外A の 意 思 に 反 し て 本 件 社 屋 内 に 侵 入 し て い る の で あ り 、. 訴 外A は 訴 外Tを 歓 迎 し て い な い ば か り か 、 同 人 に 対 し て 暗 に 退 去 を 促 し て い た こ と 前 認 定 の と お り で あ っ て 、 ま た. -、同人が訴外A の 頚 部 を 絞 め 上 げ た と き 、 訴 外A は 抵 抗 し た こ と が 認 め ら れ る 。 こ れ ら の 事 実 を 考 慮 す る と 、. ぞ き 窓 や 防 犯 チ ェ ー ン が 設 置 さ れ て お れ ば 、 訴 外T の 侵 入 を 防 止 す る こ と が 可 能 と な り 、 ま た 、 防 犯 ベ ル が 設 置 さ れ. て お れ ば 、 訴 外T が 本 社 社 屋 内 に 侵 入 し た 後 で も 同 人 を 屋 外 に 排 除 す る こ と が 可 能 で あ っ た と 考 え ら れ る し 、 こ れ ら. は ﹁ 明 ら か で あ る か ら 、 こ れ ら の 点 で 訴 外A にも過失があったと認められる。. の設備が同人に与える心理的効果の点から見ても、少なくとも本件のような最悪事態を避けることは十分可能であっ たというべきである﹂。. ω i ω. 過失相殺について、 一審認定の. そ し て 、 訴 外A の こ の よ う な 過 失 は 、 前 示X の 過 失 と 相 合 し て 本 件 事 故 発 生 の 原 因 力 と な っ た も の と い う べ き で あ る. か ら 、 本 件 損 害 額 、 を 算 定 す る に 当 た り 右 訴 外A の 過 失 を 劃 酌 す べ き で あ る 。 し か し な が ら 一 方 、 訴 外A は 本 件 事 故 当. の.
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