研究ノート
正常利益につ い て(2)
木 正 幸
Ⅴ 会計情報の利用者への利点
会計構造に正常利益概念を導入しよぅとすることは,財務諸表上の伝統的純利益紅加え て,企業の正常利益の公開を要請するものである。正常利益の報告は,当該企業に関心の ある利害関係者ばかりでなく,会計情報の利用者にとって二著しく役立らうるものと期待さ
れるが,ことでは正常利益の報告によって,種々の情報利用者一−・普通株主,優先株主,
債権者,経営者,労働組合,政府機関山∵が,どのような効用をうるかについて検討して みよう。
(1)普通株主
普通糠主による情報要求の目的ほ,−・般的紅いって,つぎのこ点に.あると思われる。
① 株式の購入・保有・売却に.関して意思決定をするために,株価との関連で,株式の 評価廃する。
④ 企業の法的所有者として,議決権行使にさいしての意思決定のため疫,経営の業績 を判断する。
伝統的損益計算書に示された純利益は,①の目的のため紅,長い間,投資家や証券アナリ
ストにとって不可欠な財務的デー・クーとして利用されてきた。今日」・般に行なわれている 株式の評価方法がまだ開発されていない時代においてほ,評価方法の公式中に決定変数と して,実際利益または平均利益を使用していた。しかしながら,1957年以来,とうした実 際利益を変数とした伝統的評価方法はほとんどすべての証券分析家紅よって捨て去られ,
今日広く支持を得ている方法は,将来の一足期間における見積利益または配当金からある 種の数学的方法にもとづいて,現在価値もしく隠見積価値を算定するという方法である。
こうした方法のうら,実務上しばしば用いられる株式評価の方法は,利益の資本還元方法,
ーー∫4才一
正常利益について(2)
311
現在価値法,需給に影響を与える心理的要因を評価する方法,などである。最後の方法を 除いて,それらを公式で示せほ,つぎの通りであろd
利益の資本還元方法;
l∴・=i.∴JJ√
Ⅴ¢1‥…株式の価値
gβ
将来の平均年次利益㌢・。 利益の危険調整率
配当の資本還元方法:
Vd=オdルd
Vd…1・・・ひ株式の価値
叛卜川・瀾凍の年次配当所得(平均年次利益と配当支払率の頼)
タ・d………配当所得め資本還元率
キャシユ・アーニングの資本遜元方法
Ⅴ。/=よ云/ルc/
ぴ。/′・株式の価値
jけ∴ 州キャシユ・フロー・アーニング
(一傭当りについての,純利益クラス減価償却費もしくは非現金支
出項目)
rけ…」資本還元の危険調整率 現在価値法
y=て否十
十…+て所+て打砕 P穐
β2
ぐ1+∬)2
y…… ・・‖・株式の価値
玖,か2…か花………各年に期待される配当
g‥‥……割引率
P循……、…紹年次に予期される株価
これらの実瞭的方法に加えて,最近でほ,いく9かの理韓的方法も開発され,・株式評挿 に際して多かれ少なかれ適用されている。たとえば,Walterモデル,Miller&Modig軸ni モデル,Lerner&Carletonモデル,である。
ゎれわれ軋現行実務のもとで,なお企業利益が株式評価の主賓鱒決定変数であるとい
第48巻 第2号
−J42・− 312
うことを上記の評価方法から読みとることができよう。これらの評価方法のうち,あるも のは企業利益の代り紅配当金を使用するが,配当金は年次利益と配当支払率の積である。
ここで注意されなければならないことは,現在の株式評価方法の公式中紅,現在でも過去 でもない将来の利益が用いられているということである。証券分析家が将来の一一株当りの 利益を推定する際に使用している方法の一つは,一・株当りの過去の利益から趨勢線を求め
る方法である。信赦しうる見積りを得るためには,過去の利益が分析され,かつ恒久的変化
を反映させうるように修正されなければならない。ところが,過去の利益を分析し,修正 するという作業ほ専門的な証券分析家の場合はともかく,普通株主にとっては,複雑であ り余りにも技術的である。こうした場合,もし正常利益が会計報告されているならば,こ の作業を助けるだろう。すでに.述べたように,企業の正常利益は正常な経済的・政治的条
件下庭.おける企業の成長バク−1/紅従って稼得せられる期間利益であり,代替的会計方法 や手続の首尾一・賞しない適用,物価変動,最気変動等の影響を除去した過去の利益の趨勢 を示したものである。それゆえ,普通株主が現在の株式の価値を判断するためにも,ま た,将来の企業利益を予測し投資価値を判断するため紅も役立ちうるのである。
⑧の目的についてみれば,伝統的利益数値は経営者の業績評価に対する役立ちとして余 りに.も貧弱といえる。この数値は有能な経営者によって指揮された従業員の英知ないしそ の生産性の成果である其の利益と経営者が統制することも茸任を負うことも出来ない外部 変動要因庭よる利益の混合物である。この外部変動要因はあるときは.企業利益を高め,あ
るときは引き下げる。このため株主は経営者に.対して∵無用の誤解をする場合もある。正常 利益は臨時的要因を除去した利益であるから,それは経営者の手腕と能力を正確濫.反映し
た業績利益である。株主ほ正常利益を使用することによって,経営管理の効率紅ついて適 切な判断を下せ,経営者に対する無用の誤解も回避することができる。
さらに,正常利益の報告ほ配当利益の安定化を通じて,全株主が効益を受ける。企巣の 配当行動について,John.Lintnerはつぎのように,いっている。
「ほとんどの企業は目標配当支払率を持続させるよう追求する。しかし,配当は収益増 の後,ラツグをもって増加する。収益増がはっきり確認でき,比較的恒久的にあらわれた 後でのみ配当は.増力ロされる。ひとたび配当が増加されてしまうと,新しい水準を持続すべ
く絶え間ない努力がなされる。もし収益が減少すれば,再び収益回復がないであろうとい うことが明確紅なるまで,配当は.維持される。」
したがって,配当額と収益額の比率を安定させることが一・般に.支配的な配当方針である
正常利益について(2) ーJ4∂−
313
と考え.られても,企菓は実際紅は配当の支払を安定化しようと努めるのである。こうした 配当支払の安定イヒによって,主として配当所得紅生活を依存する多くの株主は一層福祉の 向上をはかることができる。正常利益の報告は配当支払の安定化を強化せしめ,それは.株 主にとって好ましいことである。企菓ほ由当の支払が変動することを回避するため,目標 配当支払率を伝統的報告利益紅結びつけるというよりも,むしろ正常利益に結びつけるだ ろう。正常利益は本質的紅企業利益の長期的趨勢であるから,その数値ほ利益の成長バク 一ンに従って毎年平均的に移行する。したがって,企業の配当支払ほ景気の後退時払おい ても,安定し捜乱されることがないのである。配当支払の安定化は所得の主たる源泉を配 当所得に依存する株主の福祉の安定に・寄与するが,とのことほ全での株主グループ紅まで
拡張して議論してよいであろう。かかる議論を支持するための決定的な経験的研究はまだ なされていないが,配当支払の安定化は高い株価を導くという先験的根拠が期待去られ る。この−・般化の根拠としては次の諸点が指摘されよう。
まず第一・に,投資家は.変動する配当よりも,受領することが確実な配当に高い価値をお く。したがって,安定配当を行なっている企業ほ,配当紅変動のある企業よりも低い必要 収益率(aIequired rateofreturn)をもつであろう。それゆえ,安定配当の企業の株価 は変動配当の企業株価よりも高い。
第二に,:主として配当所得に生活を依存する株主ほ,配当の最低限が比較的確実である 企業の株式に対して:,高いプレミ・アムを審んで支払う0
第三紅,安定した配当支払を行なっている株式は法的に上場株としての資格がある。勿 論,株価中上昇は.,株式所有者の富を増加せしめる。
配当支払の安定化紅もとづく,企業の価値ニー換言すれば,株主の富− の極大化は,
株価の理論モデルを分析し,解釈することによって検討される。たとえば,WalteI・モデ ルを考えてみよう。
p=鋸‡(丘Lrβ)
P
P・・仙普通株式の価値(時価)
β叫…一・株当りの配当 E・…‥−・株当りの利益
′・……投資収益率 p……∴市■場資本還元率
第48巻 第2号
l−J・JJ− 314
このモデルによれば,もし当該企業が配当を支払わなければ,投資収益率が市場資本還 元率よりも大であるとき,企業の価値すなおら株式の価値は極大となり,もし株主に配当 として全額利益を分配するならば,市場資本還元率が投資収益率を上回るとき,極大とな るということを教えている。このことは;GordonやMiller−・Modiglianiのモデルについ てもあてはまる。しかしながら,安定した支払配当率を維持するという現行実務のもとで は,ここに提示された理論モデルとはとんど反対のことが行われているのである。この現 象は発3図を使って説明できる。企業の収益は事業の繁栄期に増加し,その期間には資本 う大トを上回る収益率を生む投資機会が豊富にある。しかし,企業は全部の利益を留保し,
収益性のあるプロクエクトに再投資する代り紅,目標配当支払率に.従らた多額の配当金を 発3図 仮定された企業の報告利益と正常利益
(千トル)
25 30 35 40 、(年)
5 10 15 20
分配するであろう。A,C,Eはそれぞれの期間軋応して,利益のうち最大額が分配され ている時点である。一方,不況期が接近するにつれて,企業の利益ほ逓減し,収益性のあ る投資ははとんど存在しなくなる。企業は株主妃対して,余剰利益の全部もしくは大部分 を支払う代りに,革当という形でごく少額を分配する。B,D,Fはそれぞれの期間に応 じた利益のうち最少額が支払われる時点を示している。もちろん,こうした企業の配当行 動は株主の富の極大化をさまたげるであろう。
しかしながら,もし企業の会計実務において正常利益概念が採用せれら,かつ,企業の目
正常利益について(2)
315 −J45㌧−
樟配当支払率が正常利益に基礎をおいているならば,企業は漸次的に増加する配当鶴を利 益から支払うであろう。この結果,不況期に・おいては余剰利益の十分な額が株主紅分配せ
られ,好況期においてこは,再投資のために,多額の利益が留保せられる。それゆえ,企 業の配当行動は,理論モデルに示された株主の富の極大化を幾分はかることになるであろ
う。
(2)優先株主
優先株主の場合も本賀的にほ普通株主と同様なことがいえるだろう。優先株主ほ通常議 決権を葡しないが,所定の配当率に到達しない場合紅議決権が生じ,経営者の業績評価に 対する意思決定問題に膚面する。さらには,特定の財務的問題一営業譲渡,合併,買収 清算等帆船に.対しても,優先株主は議決権を行使せざるを得ないだろう。正常利益ほ企業 / 利益の潜在的成長を示すものであるから,優先株主の意思決定のために役立1ちうるのであ
る。Amlingに.よれば,優先株の分析には2つの基準が使用される。優先株−・・株当りの純 資産と配当補填(dividend coverage)がそれである。一億当りの純資産基準ほ企業が清 算される際に.優先株の表示価額を償うたゆの企業の能力を示すものである。これに対し,
配当補填基準は配当の支払が確保される嘘囲を決定するものである。配当補填は企業利益 と優先配当額の総額の比によって決定される。実務上,証券アナ・リストは,好況・不況の 年度の利益を封辞に考慮するた鱒,過去5年ないし10年紅わたる企業の平均利益を分子と
して使用する。本質的にいって,証券アナリストほ配当補填の決定に際して正常利益を使 用しているのである。それゆえ,普通株式の場合と同様に,正常利益の報告ほ優先株の財 務的資源配分に.関して投資家が判断を下すために不可欠な情報を提供するものである。
(3)債権者
債権者は資金の貸付に際して,信用状態の良否ならび紅支払能力の有無に.ついて判断し
なければならない。債権者の判断の基礎となる資料は企業の内部またほ外部に求められる が,財務諸表は企業の内部に求められる最も重要な資料である。債権者が財務諸表を分析 する主たる目的は,債権が満期日おいて,安全に回収されうるための支払能力の有無に.閲
しでである。信用分析を目的とした債権者の財務諸表分析はかっては流動性と危険性につ いてのみなされたが今日では収益性についてもなされる。流動性・危険性についての比率 ほ比較的静態的であり,過去および現在の信用価値を示す良い指棟であるが,それは将来 の債権保全のための支払能力の予測指標としては適切でない。将来の債務履行の最大の保 証は,ごく短期の貸付ほ別として,将来の有望な収益性が決め手となろう。このよう紅考え
第48巻 策2号
ーJ46− 316
ると,収益性比率が企業の将来の収益独得能力のおおよその指標として信用分析紅使用さ れることは明らかである。しかし,繰り返し指摘したように,比率の分子となる伝統的利 益ほ企業の業績利益を呉に反映するものでは.ない。したがって,それを企業の将来に.おけ
る潜在的利益もしくほ収益性の予測指標として使用するときほ,重大な判断の誤りを犯か すことになろ。そうした場合,もし正常利益が用いられるならば,将来の予測は多いに改 漬され,偵権者は信用分析に.おいて適切な判断を下し得ることに.なる。
(4)経営者
経営管理ほ協働的集団が共通目榛に向って指揮する過程であり,それは酎画,組織,指 揮,統制の基本的機能から構成される。経営管理者がこれらの機能を円滑に行うためにほ 情報を必要とする。とうした情報のうち,会計情報は,封画と統制に.関する経営管理上の
意思決定に最も適切な情報である。正常利益の報告はこうした封画と統制という経営管理 の二大機能に.役立ちうるものである。そこでまず計画機能について考えてみよう。計画 とは将来何がなされるべきかに.ついて決定することである。近代企業における計画ほ通常 多くの形態をとるが,企業の存続と発展のために最も重要な討画は利益計画である。利益 討画は,本質的に.いっで,ニつのパターンがある。すなわち,長期利益計画と短期利益計
画である。
長期利益計画:長期的性格(1年もしくほ2年以上)を有する利益計画は.企業の利益目 棟の決定とその目標達成のための広範囲な戦略計画に.焦点があてられる。
短期利益計画:短期的性格(通常1年以内)を有する利益計画は長期利益目棟の効果的 達成を保証する業務計画の展開紅焦点があるが,それは,また,現在の企業資源と企業環 境に.関する制約と機会を認識したものである。
計画過程は基本的に,機会の認級,目梗設定,前提の確立,代替案の決定,代替案の評 価,代替案の選択,計画の実施,検討と評価から構成されている。利益計画において−,目
標は利益の最低水準,資本収益率,一億当りの利益などのような財務的目標で表現され,
しかも,各々の代替案の予測される結果がこれらの財務的目棲に従って要約され,検討さ れるのである。
正常利益の有用性は計画立案の前提を設定する段階及び代替案の決定を行なう段階に.存 する。すなわち,正常利益と報告利益の差異を分析すること把.よって,種々の代替案のも
とでの利益が将来の封画期間の景気循環要因や不規則変動要因によりどの程度影響される か見積られるのである。もし,時系列モデルが企業の所得流列を正確に反映し,そのモデ
ーJ・ノ7−・・
正常利益に.ついて(2)
317
ルが正常利益の推定に使用されるならば,これらの景気循環要因や不規則要周の影響ほ,
差異分析を行なわなくても自動的に推定さ叫るであろう。さらに,正常利益の報告によっ て,売上高の伸びが漸次的に変化する企業は将来達成可能な利益数値を推定でき,計画期 間内の毎年度の財務的目標を設定することが容易となる占
統制機能に関する限りでは正常利益の役立らはとくわずかであると思われる。有効な統 制の本質的構成要素は,業縫標準の設定,フィードバックシステムと芸任中心点の確立,
差異の修正,である。正常利益の報告は組織単位の各水準に・おける原価や関連あるデータ ーーの報告を意図したものでほないし,当該年度の経済的・政治的条件下での実際の活動成 果に関する情報を含んでもいないので,その限りでは統制に・役立たない。しかし,統制ほ 其の潜在的成果に.対する当期の活動成果の評価であると考えられるから,.正常利益はその 潜在的成果の近似値として役立ちうると思われる。
正常利益の報告によって得られると期待される経営者の他の利点ほ,株主から無用の誤 解を受けることを回避できる点にある。人間行動の法則に従えは,人間行動は本質的に・意
図的であり,かつ,その動機は種々の動機を生む原因(たとえば,身体的欲求,目標達成 や成功への欲求,失敗や失望を避ける欲求,認知への欲求等々)の影響匿よるものである
といわれる。もしそうであるならば,経営者が経営管理を効率的に・遂行しうるためには,
かかる人間行動の法則によって.,ある程度まで条件づけられていると考えなければならな い。すなわち,経営者の職務に.対する熱意や活力は否定的結果に遭遇すれば,経営者の動 機が脅かされて,結局,経営者の組織体に・対するモヲ−ルや忠誠心ばかりでなく,経営管
理の効率が逓減しがらである。これまで繰り返し述べたよう紅,伝統的報告利益は経営者 の業績を其に冶理的紅反映したものではないので,その業績曙関して,株主から不利紅誤 解されるという可能性がある。その反面,正常利益の報告があれば,経営者の業績は,よ
り信頼しうる尺度(企業の正常な利益)に・よって評価されること紅・なる。このことから,
株主の誤解に起因し・て生ずるプラストレ−ジョンからの経営管理の効率ないしモラールの
低下は削減されるものと期待され畠のである。
(5)労働組合
労働組合と経営者の間に存する問題は多くあるけれども,とりわけ,賃金決定問題が団 体交渉における最も重要な問題である。賃金交渉に際してしばしば用いられる基準咋r,
(1)比較賃金,(2)生産性,(3)支払能力,(4)生活費および経済環境,(5)家計予静であ る。支払能力基準が賃金交渉に用いられる際湛・は,財務諸表が主たる情報源となる○通常
簿48巻 第2号
ーーーJ・Jざ−
318労働組合が企紫の支払能力を決定する指頗としては,(1)流動比率(2)−・株当りの配当,
(3)総資本収益率,(4)一億当りの利益である。同様に.,財務諸表からの情報は企業の生
産性を決定するためにも用いられる。生産性の指標としては,(1)営業利益率,(2)自己 資本回転率,(3)設備投資の収益率である。
企業の賃金支払能力の決定に.際して,財務諸表がこれまで貴重な資料として用いられて
きたが,労働組合は決して現行財務諸表に満足して:はいない。WilbuI・F.PillsbuI・yの調 査によれば,労働組合の指導的研究者は団体交渉のためには現行財務諸表を不適切である
と考えていると述べている。彼らは.大企業が毎年利益を平準化するために用いてこいる会封 実務を非艶するとともに,損益計算書渡農産的活動成果の正確な報告酋であるぺきに・もか
かわらず,公表財務諸表紅おける減価償却引当金の水増し,価格上昇時のLIFOに・よる棚 卸資産評価方法,種々の引当金の設定などを通じての会計操作に・よって,袈実な描写がな
されていないと主張して:いる。そのような欠点に加えて,賃金交渉は将来適用される賃金 決定をめぐってしばしば行なわれるにもかわらず,現行財務諸表は澄に過去の状態を反映 しているに.すぎない。将来の賃金支払能力を決定する最も重要な要因は凋来の収益性でお
るほずである。しかし,現行財務諸表は澗兼佃収益を適切に描写せず,P/L上の利益は次 期以降大きく変動することもあるのである。
それでは,労働組合が正常利益の報告庭.よって受ける利点ほ如何なる点であろうか。そ
れは,単に.企業の現在の支払能力を評価するばかりでなく,団体交渉匿おける賃金協定に 決定的影廟を及ぼす将来の支払能力を示す信瀕しうる情報が得られる点に・存するのであ る。
(6)国民経済
正常利益に.関するこれまでの議論は,ミクロレベルに.おける種々の意思決定に関してな されてきたのであるが,われわれはつぎに・マクロレベルにおいて正常利益の報告から如何 なる利点が得られるかについて検討しよう。
(i)経済データーの改巻
近年,経済会計(しばしば,社会会計もしくほマクロ会計ともいわれる)ほ,国民経済 の分析と評価のために不可欠準用具の一つとなっている。経済会計レステムほ,基泰的に は,国民所得・生産物勘定,国際収支表,資金フロL一表,投入産出表から成り立っている。
経済会計は,国民経済的視点紅立って,一億期間の国民経済活動を測定し,整理し,伝達 する会計であり,それは.,一周の経済構造の分析と評価のための情報提供に基本的任務を
道薄利益について(2)
319 ・−J49−
もつのである。経済会計の諸勘定から得られる情報は,財政金融政策,国際貿易,一・般経 済政策等の諸分野における意思決定の基礎として,もっぱら使用されている。
企業利益は国民所得勘定の重要な構成要素の一つであり,その推計は,実務上企業の支 払う法人税を基礎とし,より迅速な推計が必要とされる場合に.は,公表財務諸表も使用され
ている。しかし企業利益チーターの収集は,いかなる源泉が使用されるかに.かかわらず,
常に「比較可能性」a)欠如という蚤安な問題を内包している。Henry R.Jaenicke はつ ぎのように言っている。
「経済会計における統言1数値の多くは,納税申告書や公表財務諸表のデータ−せ集計す ることによって得られ,しかも,そのような報告書の作成に.際して入ってくる代替的に認 められた会計実務が;集討に際しての付随的諸問題にも、かかわらず,経済会計システムの
申に入ってくる。その結果,ある子会社ほ定額法の減価償却方法を採用し,ある子会社は
級数法を,さら紅別の子会社では定率法を採用している損益計罫書の連結と何んら異な らず,かかる比較可能性欠如の影智は経済会計レベルにまで混入してくるのである。」
いうまでもなく,企業利益の比較可能性の欠如は,国民所得勘定の信緻性を狙い,かつ,
かかる勘定の分析と評価から導かれる経済的意思決定の適切性を疑わしくせしめる。比較 可能性の欠如ほ・,基本的に,つぎのニ?の源泉から生じる。まず第一・に・,如何なる企業にお いても,代替的な会計方法や会計手続が首尾一周して適用されていないということであり,
第二には,すべての企業が,所与の時点で,同一・取引に同一・会計方法を適用していないとい う事実に.よって,差異を増大せしめているということである。第一・の点に.関してほ,正常 利益の報告を会計に導入することによって,除去もしくは著しく緩和される。すなわら,
正常利益決定の欝一・段階ほ,首尾一周しない会計方法の影響を除去するために,選択され た報告利益の原系列の修正を行なうことである。第一・段階を経た利益数腿は,会計方法の 首尾−・賞しない適用からの歪曲を排除した数値となる。そしてさらに・第二段階において,
この利益数値はカレントな価格水準に修正される。ここで得られる企柴利益は,すでに,
ある程度までミクロレベルで利用可能であり,この段階で,国民所得勘定の作成に際しての 比較可能性を確保するための集計データ−の修正はもはや必要でなくなる。このように,
ざ.クロレベルにおける基礎的データーの改良は,明らかに・,経済会計のために有用であり,
また信頼性や健全性に対して大きな貢献をなすもので奉る。さらに・,企業の潜在的な真の 利益を反映する新しいディメソジョンとしての正常利益データ・−は,料金決定や価格規制
といったマクロレベルでの種々の経済的意息決定のために有用な変数として用いられるも
貨48巻 寛2号
−ヱ5クー 320
のと,我々は期待されよう。
(ii)自動安定化装置
経済体系の中に恒久的に組み込まれ,政策当局の意識的,積極的な行動なくして,自動 的に経済安定化の効果を生む装置ほ自動安定化装置と呼ばれる。たとえば,個人所得税,
法人税,社会保障および失業保険制度,農産物価格支持制度などが通常安定化要因として あげられる。自動安定化装置の出現によって,経済の所得循環の効果は縮小し,時間の推 移とともに経済活動の水準ほ安定化する。たとえば,雇用水準および資金水準の上昇は高 い税区分屑に該営する租税負担.者の数のみならず,租税負担者の絶対数を増加させる。こ
の結果,個人所得税の納付紅起因して生ずる貨幣額は増加し,したがって,所得水準の急 激な増加はここでチェックぎれる。反対に.,不況期が接近すれば,租税負担者の減少と低
い税区分層の増加によって,税収入は減少する。それゆえ,所得水準の急激な下降ほ自動 安定化装暦の作動紅よ.って緩和される。
一方,伝統的な企業利益は所得水準の変動を促進する用具となっている。すなわら,企 業は繁栄期にほ株主に多額の配当を支払い,不況期に.は,全く支払わないか,とく少額の
配当が支払われる。賃金把ンついてみれば,賃金労働者は支払能力基準と結合した賃金政策 によって,繁栄期に.多額の賃金を受け取り,後退期には,彼らの所得ほかなり削減する。
このような企業の賃金および配当行動は,経済の上昇・下降期に・おける可処分所得の変動 を増巾せしめる。さらに,伝統的会計実務紅おいて,歴史的原価で測定された費用は価格 の変化に.たいして硬直的である。つまり,売上収益紅対して比例的に.変化しない。とのた め,企業利益は繁栄期に.おいて過大表示され,不況期に.は過小表示され,このような誤っ た利益報告は,結局経済活動の変動を一層悪化せしめる作用を及ぼすのである。というの は,そのような利益は経営者をして,繁栄期催過度の拡張をせしめたり,不況期に.活動を
過度紅縮小せしめる原因となるからである。
伝統的企業利益紅対比すると,正常利益は自動安定化装常と類似した経済用具となろ う。もし,正常利益が配当政策の主要な決定要因として採用されるならば,株主に対する 配当支払を平準化させるだろう。また,正常利益は賃金の支払能力基準の基礎となるもの であるから,好況および不況期の賃金の変動を最少限のレベル紅維持させるだろう。かく して,正常利益は所得水準の安定化をたかめる。加えて,正常利益は物価変動の影響を除 外してあるので,伝統的企業利益の場合のように,経営者をして経済活動の変動をさらに 増巾させるように導くものではない。
正常利益について(2) ーJ∂ノー 321
(iii)資本維持
一周の経済ほその資本または生産能力が維持され,あるいは拡張されて,ほじめて豊か に.なっていく。それゆえ,「資本維持」は所得の経済的概念のどのような定義紅おいても
認識されているように.思え.る。たとえば,.丁.R.Hicksほ「彼が一週間のうら消費しえ て,しかも週末紅おける彼の経済状態が週初におけると同一∵であることを期待しうるよう な最大額である」と定義する。またA.C.Pigouは「静態的状態において,所得は年間 の総生産物から資本ストックを完全に維持するに必要なものを控除したものである」と述
べている。
所得の経済的概念が企業に.適用されるとき,純利益は企業の収益獲得能力を担うことな く,配当(理論的には現轟から将来にわたっての配当)として分配できる最大額である,
といえよう。
会計測定に関する限り,資本の維持は会討の主要な目的の−てつであると考えられるか ら,それは非常に.重要な問題である。しかしながら,伝統的会計ほ,物価上昇期に,実質 資本の侵蝕を防止することができない。収益に・古い取得原価を対応させる結果,純利益数 値は過大に.なる。投下した資本は何年聞かにわたって回収されるけれども,回収された貨 幣ほ投下した債幣の購買力をもたない。
現在,物価水準の変動を認識し,企業の実質資本を維持するために・,数多くの方法が提 案されている。とりわけ,物価指数にもとづいて財務諸表の全部修正を行なうことが完全 な解決策とみなされている。企業の報告利益を物価指数で修正することは正常利益会計に ぉいて絶対不可欠な−・部分であるから,その限りにおいて,正常利益ほ企業の実質資本維
持をはかるための強力冬用具となるであろう。したがって,国民資本および生産能力の侵 蝕ほ幾分防止せられることとなろう。
以上の諸点に.ついて要約しておこう。
正常利益は会計情報の利用者に対して,一・時的な変動要因紅よって歪曲されていない会 計情報を提供をする。こうした情報は利用者紅多くの.メリットをもたらすものと(少なく とも先験的な理由で)期待される。投資家は,投資意思決定にさいして,あるいは業綴評価 や経営者について判断する際紅,信親しうる情報を得るであろう。政策決定に正常利益が 採用されるならば,株式の市場価値の極大化や配当支払の安定化をはかることができる。
正常利益の報告ほ債権者紅対して,信用評価のために重要な情報を提供する。労働組合 ほ団体交渉に際して企業の支払能力を決定するにあに有用な情報を得たり,真金所得の安
322 第48巻 第2号
ーJ∂2−
定化によるメリットがある。経営者は利益引画と統制のための信頼しうる情報を得ること かでき,かつ株主による無用の誤解を回避できる。
国民経済紅らいても利点がある。正常利益は自動安定化装置として作用するとともに,
実質的国民資本および生産能力の維持を高めることができよう。
ⅤⅠ正常利益と会計理論
こ.れまでわれわれほ,正常利益の基本的概念と,それが会計情報の新しいディメソジョ ンとして,多様な利用者グループ紅対してどのような有用性をもつかに・ついて議論してき た。つぎに,われわれは会計理論のプレTムワ−クとの関連で,正常利益概念の妥当性に ついて検討し,、ついで正常利益と報告利益の差異を財務諸表上でどのように取扱うぺき カ
(1)全部理論の構造
EricL.Kobler・の会計学辞典によれば,理論はつぎのように・定義されている。
① 定義および公式的ないし非公式的な推論のルールとともに,−・連の事実の説明,ま
たはある種類の具体的ないし抽象的な操作の取扱を指向する,公理および定理を含む
−・組の命題
④ ある探究の分野またほ技術に関する体系的な知識の集まり
⑧ 探尭への指針とするために.提示された命題
これらを会計に適用すれば,理論とは(1)会封実務を評価する際に一・般的参照の枠組を 提供し,(2)新たな会計実務の展開の指針となる,広範囲償
わたる原則の集合いう形態をとった論理的推論である。かく して,会計理論の構造は,他分野の知識体系と同じく,本質 的に,一・組の,理念もしくは目的,公準(基本的な仮定),お よび原則から成立する。
第4図解示されているように,会計原則の形成は財務報告 の理念もしくは目的から出発する。ついで,企業活動を支配 する経済的・政治的・社会的環境を抽象化することに・よっ て,会討公準が設定される。そして最後に,会計公準に・演繹 的推論を加えて,会計原則は導出される。
第4図 会計理論の構造 理念もしくは目的
二 環境の抽象化
↓ 会 計 公 準
演繹的推論
↓ 会 計 原 則
−ヱ5β−
正常利益について(2)
323
このような会計理論の構造匿従えば,ある会計実務の安当性はそれが会計原則もしくほ 会討公準と首尾一層しているか否かに依存する。それゆえ,会計理論の枠内紅おける正常 利益概念の妥当性は会討公準にま寸する準拠性の如何紅よって適切紅決定されるだろう。
(2)正常利益と会計公準
会計公準は三つの基本的属性をもっている。まず籍−・に,会計公準ほその数が少ないこ と,第二に,会封原則が導出される基本的な仮定であること,第三濫.,経済的・政治的環 境と経営体の全部門の思考様式ないし慣習の所産であること,である。
アメリカ公認会計士協会「会計研究公報」1号によれば,会計公準は三つのカテゴリ−
紅分けられる。すなわら,A環境的公準(1.豊的表現,2.交換,3,実体,4.期間,5.測定 単位),B付随的公準(1.財務諸あ2.市場価格,3.実体,4.暫定性),C当為的公準(1ゆ継 続性,2.客観性,3.首尾一項催,4.安定的単位,5.公開明示)である。最初の二つのグルー プの会計公準が現行会討実務を記述する命題であるに射し,最後のグル十プの公準は会計 実務に.おいて,常に.要請されている公準である。会計理論は「あるべき」原則や手続が展 開される場合のフレームワ−・クを形成するものであるから,当為的公準は,会計実務を評 価し,その妥当性を決定する場合の最も適切な基準であると思われる。かくして,われわ れは正常利益概念の妥当性を当為的会計公準に照らして検討してみよう。
「継続性」(Contin11ity)ほ正常利益概念において基本的なものである。正常利益概念 の展開に.さいして,企業は−・般紅無限の生命を有すると仮定される。それゆえ,企業は正
常な経済的・政治的状態からそれた状態の下で,しばしば営業活動を行なうのが通常であ る。このことほ企業利益の変動をもたらす。しかし,そのような変動すなわち臨時的利益 は究極的には消去される。こうした理由で,臨時的利益は企業利益の報告粧さいして分離 されなければならない。正常利益概念は.継続企業の仮定に基礎をおいているので,将来の
存続期間における利益は確実に知ることはできない。かくして,正常利益は,現在まで把 蓄積された純財産および将来の利益のプロ−の現在価値の函数ではなく,企業利益の過去 および現在のプロ−の函数であると定義される。
「客観性」(Objectivity)の
の命題を必ずしも逸脱するものではないといえる。現行会計実務は「会計研究公報」1号の
「客観性」の公準紅おいて要請されている客観性よりも,より以上の客観性を強調する。
たとえば,会計研究公報の「客観性」の公準は評価において現在価値概念の使用を拒否す るものではないが,現在価値概念はこれまで会計実務上妥当なものとして承認されてはい
解48巻 舞2葛
Ljβぜ一L さ24
ない。正常利益概念は厳密な客観的基準で記録された利益データーから導出された利益で あるから,論理的な意味において,主観的ではなく,客観的であるといえる。正常利益 概念が「客観性」の公準紅合致す・るか否か,さら紅別の観点からながめることができる。
正常利益は生のデー・クーというよりもむしろ本質には「見積り」である。しかし,「客 観性」の公準はすべて−の見積りを客観的でないものとして.排除するものでは決して:ないo MauIice Moonitzはつぎのようにいっている。
「まず第一・に,≒客観的、という用語は,別の有能な調査官が検証して≒偏りのない≒
という意味である。このような用語に.おいては,見積りまたは予測も,過去の完全な出来 事に.もとづく限り客観的であるということが出来る0」
正常利益デー・クーほ過去の完全な経済的事象を記録し要約したデー・クーせ基礎に・,明確 な統計的手続を加えること紅よらて,報告利益の時系列から推定される。この意味も正 常利益は上記の客観性の条件を満足させる。正常利益がどの程度客観的であるかは,現行 会計実務において使用されている「客観性」の用語の意味を綿密に調らべることによって 理解されよう。W.A.Paton&A.C.Littletonはつぎのように・述べている。
「ここ.にいう モ客観的≒とは,事実を個人的な偏見から乱すことなし紅表現することを 指している。すなわち,心理状態,希望,偽瞞の作為などの個人誤差が結果紅影響を及ぼ すことを示唆する も主観的、という言葉と対照的なもゐである。≒客観的証拠≒とは,そ
れゆえ,非個人的でその当事者の根拠なき意見またほ希望と対照的に・,もっとも関係の深 い当事者に.とって外的な証拠である。」
CurtisH.Stanleyは財務会計における客観性をつぎのように考えてし、る。
「客観性とは,財務会計実務に.おいて採用されている手続が,合理的に・熟練したアカウ ンタントならば,同じ条件のもとで,本質的に同じ結果をもたらすというように,営業活 動について測定可能な財務的事実を反映している報告書となって−いるという要件を指すoJ
Harold E.Arnettはいっている◇
「酬い客観的であるためには,データ−が非個人的セある必要がある。しかし,モ非個 人的、というのは,厳密な構造のもとでというより,適用上に・おいて,非常に弾力的であ
る。もし,データ−が実体の出来事を反映するのに有用と考え.られるならば,…‥・…そ
のデータ−は独立した当事者間での取引交換に起因する必要はない。金額が合理的に近似 する限り,正確に決定される必要はないo」
正常利益ほ,統計的技法によって実際のデータ・−から見破られるという意味で,非個人
正常利益に.ついて(2) −J∂5−
325
的である。統計的に正常化をする特定の手続および使用される適切なパラメ−・クーの値を
選択する際紅判断が入ってくるけれども,個人的バイヤスが見積り紅、入ってくるという ことほない。ⅤⅠⅠでほ正常利益の測定方法が種々示されるが,いずれの方法においても,
その見積りから得られる正常利益データー・は熟練した会計担当者ならば,全く同じか本質 的に同じ結果を得るだろう。このことは.,正常利益概念と財務会計実務における「客観性」
との間の−・致を意味している。
「首尾−・貰性」(Consistency)の公準ほ会計実務紅おいて特に強調される公準の一ヤ⊃で ある。この公準は非常に屈要であるため,監査基準ほ監査人に対して,当該企業の財務諸 表が一・般に公正妥当と認められた会計基準紅従って作成されているか否か,およぴ,適用
された会計基準が前期との関連で首尾一・賞しているか否か,に.ついて明確に意見を述へる ことを要求している。
「首尾−・異性」の公準ほ企業の営業活動と財政状態庭ついて,各期間の比較可能性を保 証する点匿主目的をもっている。首尾一層性は,本質的に・,つぎの三つのタイプ年分類で
きる。
(イ)垂直的首尾一層性…同じ日付の財務諸表相互間での首尾丁・負性
(ロ)水平的葛尾一項性…各期の財務諸表相互間に.おける首尾「眉性
(ハ)三次元的首尾−・異性‥…小同一・時点で同種の組織体もしくは−・般的に組織と比較す
るような三次元的首尾一周性
垂適的首尾一周性は損益計算書と貸借対照表に.おける同じ(または同質的)項目に対し て,同叫・の会割方法や会計手続を適用することを意味する。こうした項目に.葛尾一層性を 欠けば,たとえば,所定の時点でP/Lの減価償却費静定の基礎として資産の歴史的原価を 用い,BノS上ではこの資産に対して評価価値で表示するということが生じる。正常利益概 念は明らかに垂直的首尾丁貫性を犯すものではない。というのほ,正常利益は主上して報 告利益をその構成部分に分割するということであり,B/Sの資産評価を変化させるもので
はないからである。
「首尾一・貫性」の公準ほ.通常水平的首尾一層性紅ついていわれる。水平的首尾−・貫性は 期間利益の比較可能性が保証せられるように,代替的会計方法や手続の首尾−・賞しない適 用に伴なう差異を報告利益から除去することを目的とするものである。正常利益測定のメ
カニズムほ,企業利益の時系列に.おいて,こうした変動差異の正確な修正を行なう手続を 不可欠な手続として含むものであるから,正常利益概念は水平的首尾−・貫性にヨリかなっ
鴇48巻 弟2号
L−J5∂一 326
たものといえよう。
異なる企業間の比較可能性を保証する第三のタイプの首尾一項性は,たとえ,AICPA の会計研究公報に示された「首尾一層性」の公準に.おいて要求せられていなくて−も,この ような比較可能性を保証することほ望ましいことである。ある会社の営業活動の成果や財 政状態と他の会社のそれらとを比較する際の信頼しうる基礎として,会計情報が有効に用 いられるならば,会計情報の効用ほ一・段と高まるだろう。すでにⅠⅠⅠにおいて述べたよう に,異なる会計方法の適用の企業利益紅与える影響ほ,報告利益の原系列が十分長けれは,
正常利益測定の過程でかなり平準化されるから,異なる企業間の利益比較の歪曲は極小に なるだろう。それゆえ,三次元の葛尾一層性ほ正常利益の報告紅よって高められる。
「安定的単位」(Stable unit)の公準は安定した測定単位にもとづいて,会計報告書を 作成することを要請するものである。この公準ほ首尾一署性の公準と密接に.関連する。も
し,測定単位が安定していなければ,水平的首尾一層性は維持できなくなる。実体の経済 事象ほ貨幣単位で測定されるが,貨幣単位の価値すなわち貨幣購買力が安定せず,時の経 過とともに著しく変動するときに.ほ,この安定的単位の公準は,異なる期間の会計デー ターが意味をもちうるように,貨幣購買力の修正をすすんで行なうものと解釈される。
AIthurAnderson&co.はつぎのよう紅いって:いる。
「財務諸表ゐ目的ほ企業実体の財政状態と営業活動の成果を公正把捉供することであ る。このことほ,実体の損益静定を要請ものであり,かつ,その静定に廃しては多くの場 合,貨幣価値の変化が伴なうという事実があるから,安定的単位の公準ほ会計の価値を破 壊することなく,会計目的に.かなうという点で重要である。
貨幣の価値あるいはいかなる国の貨幣単僚も事実としてあり,またそのような財務的事 実は財政状態に対する会計の公正性を決定する際に考慮しなければならないもめであるか ら,財務諸表の作成に際して,貨幣単位の購買力の変化の影響を無視するという公準は存 在しないと思われる。明らかに.,そのような擬制的公準の仮定とその使用ほ;会計の目的
と信頼性を否定し,報告書それ自体の価値と公正性を破壊するであろう。」
このような事実ほ,正常利益概念を形成する際に,認識されている。正常利益概念は貨 幣の購買力の変動を除去するように構築されている。正常利益概念は価格水準の変化に対 して修正を行なうのであるから,この概念は安定した購買力を有する貨幣単位にもとづい て経済チーターの測定を行なうべしとする安定的単位の公準にむしろヨリかなったものと いえよう。
正常利益について(2) −J∂7−
327
公開明示(DisclosuIe)の公準は,「首尾−・異性」の公準に.似−こ,現行会即実啓上特に蛮 要な公準であると考えられる。監査人は,財務諸表監査を行なう把.際して,情報の公開が合 理的かつ適正に行なわれているか否かについて意見を表明しなけれはならないo AICPA の職業的行為の基準に従えば,当該財務諸表の意見表明把.あたって,財務諸表上明らか にされてはt、ないが,監査人が公開することが財務諸表を誤解させないため軋必要である
と思われる重要な事実を知りつつ,これを明らかにしなければ,職業を傷っける行為とし て,会員は有罪であると考えられている。
「公開明示」の公準は劇務諸表の利用者が財務諸表によって誤解するという事態を防止 する点軋その目的をもつものである。しかしながら,何が公開明示されなければならない かを決定することが其の問題である。というのほ,公開されなけれはならない事柄が何で あるか紅関して,何んら…・般的−−・致ほないからである。
MicbaelN.Clletkovicllは「もし,意思決定の基礎として:財務諸表を使用するところ の,利害関係を有し合理的によく事情に.精通した読者に対して,全ての適切な情報が与.え
られなけれは,公開明示は不適切である」と指摘してこいる。E。S/HendI・iksenほ「公正」
と「完全な公開」という二つめ鏡板的な公開明示の概念を提示し,「公正な公開とほ,全 ての潜在的読者に対して−平等な取扱をすノるという倫理的目的を意味し,完全な公開は全て の適切な情報の提供を意味している」と述べている。
さ′て,、われわれほ正常利益デーーダーによってどのような情報が公開されるか紅胃を向け よう。まず第一・に,正常利益デー・ターは,正常な経済的・政治的条件下庭おける企業の経 営活動に.よって生み出された正常な稼得利益もしくほ潜在的利益を明らかにするd第こ に,当該期間における正常利益と報告利益の差異ほ∴正常な営業活動の成果把もとづくも のではなく,諸要因の襖合的所産としての利益部分を明らかにする。ⅤⅠⅠ紅おいて明らか
にするように,正常利益測定のプロセスは三段階(会計方法や手続の首尾一層しない適用 の修正,物価水準変動の修正,正常利益数値を得るための平準化プロセス)を経て行なわ れる。それゆえ,もしプロセス毎にチーターーを示すならば,この臨時的利益の主要な要因
も明らかにされよう。
これまでの議論からわれわれは,正常利益情報によiって会計情報の利用者が,一現在伝統 的な担益計罫書から麓得している営業活動に.ついての情報よりもー■段と重要な情報を獲得 できるものと,結論づけられよう。正常利益の報告は,会計情報の利用者紅対して,偏り がなく,しかも目的連合的な潜在的利益を提供する。そして,企業利益が,首尾一屠しない
第48巻 第2号
−−J5β− 328
会計方法や手続の適用,物価水準の変動,′男気変動,その他偶発的変動によって,どのよ
うに影響されているかを明らかにする。したがって,正常利益の公開は,会計情報の利用 者が企業の経常活動の効率に.ついて誤解するのを防止する,重要な環境情報を提供する。
かくして,if.常利益概念はChetkovichやHendriksenに.よって示された公開明示の意 味ばかりでなく,当為的公準としての「公開明示」の公準の主目的に適合するものと思わ れる。
これまで,われわれはAccounting R色search Study No.1。に示された全ての当為的
l 公準に,正常利益概念が一・致しているという分析を試みた。そしてこの概念が会計理論の
構造匿関連して,妥当であり,適切な概念であると論理的に潜論づけられる。
(3)正常利益の報告
すでに述、べ.たよう紅,特定の時点に.おける臨時的利益は零ではなく,正または負である。
このことは,一期間の企業の報告利益と正常利益の不一傲な・生ぜしめる。企業が正常利益 と臨時的利益を報告するために.選択可能な会計方法はらぎの三つの方法であぁと思われ る。
① 損益計算酋の本文中に.会計項目として入れて報告する方法
(参■ 損益計算書の脚注表示に.よって報告する方法
⑧ 補助的財務諸表で報告する方法
最初の報告方法を適用すれば,企業の会計帳簿に正常利益と臨時的利益は記録されるこ とになるが,⑧,⑨の報告方法に.よると,会計帳簿上は何の記入もなされない。損益計静 香の本文中の会封項目は一般に利用者が重要なものであると考えるであろうし,損益計静 沓の多くの脚注の中に.,あるいほ補助財務諸表の中に埋没せしめて表示するよりも,より
見やすいという利点から,①の方法が正常利益の報告方法として有効であると思われ声。
たとえどのような方法が適用されるにせよ,企業は種々の要因によって生七た臨時的利益 の額を報告しなければならない。このような報告がなされるならば,情報利用者に対して 環境情報を完全に公開するという目的が実現されることになる。
つぎにわれわれは,正常利益と臨時的利益が①の方法によればどのように.表示されるか を示すために,二つの仮設例を掲げてみよう。
例1A機械器具製造メ・一九−の197×年末における利益静定上の諸項目と金額はつぎ のとおりである。
売 上 高 $ 500,000
一J59−
正常利笹について(2)
329
売上 原 価 300,000 営 業 費 80,000 その他の費用 20,000
環境情報ほ197×年が「繁栄」の年度であり,したがって,会社の売上高は著しく増加 していることを示している。当該会社ほ正常利益の報普を採用し,統討的技法紅よって測 定された197×年の正常利益と臨時的利益はそれぞれ,$60,000と$40,000である。臨時 的利益の総額のうち,−$10,000はFIFOからLIFOへの棚卸資産の評価方法の変更に起 因するものであり,$2,00bぉよび$48,000はそれぞれ物価水準の上昇,泉気変動紅起因 するものであるということが,正常利益の測定において判明している。
例2 B会社ほ.住宅建設業を営んでおり,197×年末に.おける損益計静香上の諸項目と 金額はつぎのように.なっている。
売 上 高 $ 200,000 売上原 価 120,000 営 業 費 70,000
その他の費用 15,000
会社の経営状態はユ97×年にかなり感化している。というのは,当社の生産物需要は経 済発展期において少ないからである。当期の正常利益は$40,000と推定され,臨時的利益 は−・$45,000である。臨時的利益の内訳ほ.前年度よりも低い減価償却率の適用に・よって$
10,000,物価水準の上昇紅よって$2,000,不利な景気変動その他の原因庭・よる−−$57,000 である。
正常利益と臨時的利益を示したA社,B社の損益計算書は,つぎのとおりである。
A 杜 損益計算書
自197×年1月1日 至197×年12月31日
売 上 高
売上原 価 売上総利益 営 業 費 営業利 益 その他の費用 純 利 益
500,000 300,000 200,000
80,000 120,000
20,000 100,000