効用の測定について
久 武 雅 夫
I.効用の測定に関する問題点
効用の概念は古くから経済学IC取り入れられながらいまだにその概念 構成や理論的な位置づけについて学者の見解が分れている。ある学者は 乙の概念を基礎として理論を構成しようとするに対レ,他の人々はζの 概念構成IC疑義があるとしてこの概念を回避して理論を構成している。
問題は効用を数量的IC測定できるかどうかというζとである。もし効用 が数量的IC測定できるという乙とであれば,経済理論がカパーし得る領 域は著しく拡大され,とくに厚生経済学あるいは公共経済学における政 策提言の可能牲が大きくなるのに反し,効用の測定を断念しなければな らないとすれば,実際11:解決を要する問題,たとえば所得税率を公正11: 決定する問題。あるいは公的財と私的財との配分の問題などについて,
科学的な発言をすることが著しく制限される。 ζれまでの傾向としては,
理論の厳密性を尊重する学者は効用概念を回避しながら,効用概念を基 礎として築かれた理論の成果をできるだけ取り入れようと努力したのに 対し, cardinali stとよばれる一部の学者たちは執念深く効用の測定万法 を研究しつづけ,今固までに決定的といえないまでも栴当の成果を挙げ ている。
効用測定の可能性を証明した代表的な業績として,フリッシュの研究 とノイマン・モルゲンシュテJレンの研究とが挙げられる。前者は1932年 に公刊された彼の著書NewMethods of Meαsuring Mαrg田α!..Utility K発表され,とれに先立つ彼の初期の研究(21を拡充整備したものである。
彼は乙の研究において,効用測定の可能性を証明したばかりでなく,実際 の測定をも詩みている。それにも拘らず彼の理論が論理的厳密性を尊重
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する学者たちによって受け入れられず,効用概念回避の方向に理論の発 展が見られたことは,後IL指摘するように,彼の論証11'.論理的厳密性壱 欠く点があったためと思われる。一方ノイマンたちの業績はリスクを含 む事象の選捉を行なう場合IL.効用が客観的な量として確定し得ることの 証明であり,リスクを含まない確定事象の選摂についてはそのまま適用で きない。しかしその論証は論理的に厳密であり,その成功はcardinalist たちを勇気づけて,効用測定理論の行きづまりを打開する突破口となっ た。一方において,ノイマンの方法をさらに具体的に展開し,またはと れを適用して実際IL.効用の測定を試みた一連の研究があるω反面,フリ ッシュの線IL.沿ってリスクを含まない財の場合について効用を測定しよ うとする読みが数多く発表されるようになった?本論では効用測定の論 理的構造の問題に焦点を合せ,後者に属する研究の中でフリッシェ自身 が発表した新らしい方法およびその他の若干の方法を取り上げ,どのよ
うな点で以前の理論が改善されたかを明らかにしたいと思う。
その前IL.明らかにしておかなければならない乙とは,効用計測の問題 には二つの測面があるというζとである。一つはある個人についてその 効用が測定できるかどうかという問題であり,今一つは異なる個人の効 用を比較したり集計したりすることが可能かどうかという問題である。
後者が前者を前提とすることはいうまでもないが,前の問題が解決され でも後の問題は別個の問題として残る。というのはかりに個人の効用が 計測可能である乙とが立証されたとしても,効用の単位をどれだけの大 きさにするかは任意であるし,乙の単位を異なる個人について共通に定 めるということは,単位そのものが主観的な判断IL.依在するので困難で あるから,効用の個人間の比較は一般的に不可能と考えられている。
cardinalistたちはとの問題をつぎのような方法で解決しようとしてい る。まず単位の問題を解決するためK,財の効用の代りに財の限界効用 の財IL.対する弾力性を用いる?財の量をzとし限界効用;(;>u(x)で表わせ
d叫x) x ̲ dJogu(x)
ば,限界効用の弾力性は一一・dx u(x) 一一一ーで表わされる。dlog x ζの数
効用の測定について 5
1直はzの単位にも,またu(x)の単位11::も無関係である乙とlは式を一見し て分る乙とである。他方乙の弾力性を測定する乙とが可能であるとすれ ばζれを積分するζとによって限界効用を測定する乙とができる。
すなわち弾力性がzの関数として測定せられるものとし,乙れをf(x) とすれば
du(x)
一一一一一dx u(x) =f(x)
となり,乙れを積分してu(x)を求めると u(x)= Ke f 4主d X
となる。 Kの値はxの単位と,効用の単位のとり方に依存するが,同一 個人11::おけるzの異なる値比対する限界効用の比はこれで確定するζと になる。またu(x)をさらに積分することによって全部効用の値も確定す るEとができる。
そ乙で効用測定に関する第一の問題,すなわち個人の効用を測定する 問題は,乙の限界効用の弾力性を測定する問題11'.転化できる。しかも個 々の財の限界効用の弾力性を測定する代りに貨幣の限界効用の弾方性を 測定するというのがcardinalystの一般のやり方である。貨幣(または所 得)の限界効用の持力性(とれを貨幣弾力性と略称する)から貨幣の限 界効用を求め,乙れに財の価格を乗ずるζとによって財の限界効用を求 めることができるからである。そζで問題は貨幣弾力性を測定できるか というととに帰する。これは本論の主題であるから,後段IL譲ってもう 一つの問題11::移る。
それは異なる個人の効用の比較の問題である。 ζれは各個人の効用の 共通尺度を定める乙とによって解決されるがζれは一般には不可能であ る。そ乙で田rdinalistたちが採用した方法は,社会全体あるいは集団全 体の効用壱測定する代りに,平均人の貨幣弾力性を測定する方法である。
たとえば効用計測方法の開拓者であるフリッシュはその初期の著書S町
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聞もproblemedeconomie pure.1926においてはパリ消費紐合連合の消費 統計を用い,またそれに続く著書NewMethods of Meαsuring Mαγginal
Utility. 1932においてはアメリカ9都市の家計調査(1918‑19年)に基 ずいて貨幣弾力性を計算している。したがって求められた弾力性は乙れ らの集団の平均的家計の弾力性であり, Eれによって得られた効用はそ の集団全体の効用を代表するものと考えてよいというわけである。乙の
ζとはこの集団が平均人の集団であると見倣すζとを意味し,そこに問 題がないわけではないが,第一次近似としては許されるζとであろう。
つぎに異なる個人の効用の比較については,効用の大きさを比較する代 りに貨幣弾力性の大きさを比較するという方法をとる。すなわち貨幣弾 力性の大きさが相等しい個人は効用IL関して同じ位置にあると考えるの である。 Eれについてはつぎのような論拠が考えられる。
いま貨幣の限界効用は逓滅的であるとし,しかもその逓減のしかたは 所得Tの増加にしたがって次第に小さくなるものとすれば,限界効用の 曲線QRは第 1図のように上方 I<'..凹で,ど乙までも T軸とは交わらない ような曲線として描かれるであろう。(第1図) rは実質所得, ωは所得
wlQ の限界効用を表わす。いま所得
A
の大きさをONで表わし, ONI<'.. 対応する限界効用をNPとし,
P点で限界効用曲線 QRI<'..接線 を引き, ω軸, T軸と交わる点 R をA, Bとすれば貨幣弾力性晶
一
一 ON
0 N 第1図 B r の絶対値は百百で表わされるか ら,ある限度を超えると所得Tが大きくなるにしたがって品の絶対値は 小さくなる。したがって限界効用と 品とはl対1の対応をなすから,限 界効用の大きさを判定するのK 品を用いる乙とができる。たとえばすべ ての個人の限界効用曲線の形状が同一であると仮定すれば貨幣弾力性が 等しいというζとは所得の分配が平等であるEとを意味することになる。
A Q A
Q p
p
効用の測定について 7 Q
A
0 N B R 0 N R B O N B
第2図 第3図 第4図
R
限界効用曲線が第2図のように上11:凹であっても T軸と交わる(貨幣 の限界効用が0となる)か,または第3図のように上ζl凸でT軸と交わ る場合には第1図の場合と反対に 品の値はγの増加とともに大きくな る。 ζれらの場合11'..は貨幣弾力性と限界効用は1対Iの対応をするけれ ども,フリッンュは乙のように一面の値がTの増加関数となることはあ り得ないと主張しているI~ この点は現実l乙晶を計測する乙とによって明 らかにすべきととであるが,常識的11:考えても所得の限界効用がOとな ることはあり得ないと思われるから,乙れらの場合を排除してよいであ ろう。また第4図のように限界効用曲線11'..凹凸のある場合leは一品の値 が単調でなく,増減するので,一面と限界効用の聞の1対lの対応が存 在しなくなる。したがって品の等しいζとは必らずしも限界効用が等し いことを意味しない。もちろんζの場合でも Tの種々な値に対する晶の 値を実際11:計測して乙れをf(r)の形で表わせば,晶を積分する乙とによ って効用関数を導く乙とができる。しかし多くのcardinalistたちは第1 図の場合を前提として一品をTの減少関数と考え, 品の値を所得の大 小の尺度と見倣しているようである。
そ乙で問題は貨幣弾力性の測定の方法にしぼられる訳であるが,乙れ についてはフリッシュが考案した等量法とよばれる方法がある。彼はと れをその初期の著書「純粋経済学の問題についてJにおいて発表し,つ づいてこれを改良した他の幾つかの方法を第二の著書「限界効用測定の 新方法」において発表している。乙れらの幾つかの方法は統計資料の適 用の仕方の相違によるものであり,基本的11'..は同じ理論11'..基ずいている
ものであるから,等量法について簡単11'..説明する。
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財zの限界効用を包(x),名目所得を物価指数Pで割った実質所得をT, 所得の限界効用をω(γ),財xの価格をPとすれば,次の関係が成立する。
山)/喜=初(r)
去 はzの 実 質 問 を 表 わ す 。 い ま 子αとおけば上の式は 印 刷=w(r)
となる。己の式はrをzおよびαの関数として表わしている。乙の式から logw(r)= I。gα+logu(x)
d logw(γ)
貨幣の弾力性は一一一ーで表わされるから,もしd log r Tが変化してもzが変 化しない場合IC:は
必竺出.':)_=出笠三 d log r d log r
となって, h Tは何れも客観的に計測可能であるから,貨幣弾力性晶 も計測可能となる。 Tとzとの関係はエンゲル関数によって別個に与え られるが,エンゲル関数はr=r(α,x)の形となるから, zを一定とすれ ばαはTの関数となり,上の式からwがTの関数として成立する乙とが 立証せられる。したがってこの場合の問題はzを一定としαとTとの関 係を求める統計技術の問題IL限られる乙とになる。
乙れで効用計測の問題は理論的IC:は解決したように見えるが実は乙ζ
IC:一つの問題がある。それはzの限界効用を叫x)とおいたことである。
ζのととはzの効用がzのみの関数であって,他の財の量とは独立であ ることを意味する。しかし一般には xの効用は zのみでなく他の財 s' z などの関数でもあるから, u(x)の代りIC:u (x, y, z・・・・・・)と置かねばなら ぬ。そうするとx,y,z,…ーなどをすべて一定にしてαとTの関係を求め るという統計技術上ほとんど不可能な問題K当面しなければならないし,
またすべての財が一定であるとすれば,実質所得Tも一定となり, w(r) の弾力性を求める乙とができないという理論上の困難もある。
それのみでなく,エンゲル関数が
T宮 r(αhα2,α. .,..... 品y,z,・…・・)
効用の測定について 9 向
, a,,αョはそれぞれ%,y, zの実質価格の逆数 の 形 と 山 〉 いdirの み で な く … の 関 数 と 山 , 鵠 の 値 も確定しない。したがってζの場合すべての財の需要量と, z以外の財 の実質価格11'.変化がないという仮定をおかなければならない。
このような困難を避けるためにはどうしても他の財と独立な財zを選 んで, ζれを媒介として効用を測定しなければならない。そζで起る問 題は,効用の計測を前提としないで,どうしである財の効用が他の財と 独立であると判断できるかという問題である。
フリッシュは1959年のEconometricaNo2711'.効用の測定11'.関する新らし い研究を発表しているが,乙の中で彼は家計消費の対象となる財の少な くとも一つが他の財11'.独立である乙とを前提として,貨幣弾力性を算出 する式壱導き出している。そして彼はζの効用の独立性壱判断するのに 財の交差弾力性が 01こ第しいという基準を用いればよいと主張している。
いま第 i 財の需要量を山,その価格を P• とすれば第 z 財の需要の第 k 財の価格11'.対する交差弾力性はつぎの式で定義される。
ぉ =dx, .主主 ,. d P• X<
ととろで彼はある篠件の下でx..は次のように書く乙とができると論じ ている。
乙乙 IL伽は第 k財の限界効用を表わす。したがって取・= 0であること は第k財の効用の変化が第i財の需要11'.影響のない乙とを意味し,した がってz財とk財は独立である。そのある条件というのは貨幣の限界効 用が一定というととであるT
貨幣の限界効用が一定であれば晶の値はOとなり,貨幣弾力性を改め て計測する必要はない。しかるに貨幣弾力性を測定するためには効用が 独立である財を選ぶ必要があり,効用の独立性を判定するために貨幣の 限界効用を一定と仮定するととは,目的と矛盾した仮定を置くζとになる。
IO
効用の独立性を判定するのに他の方法があれば問題は解決する乙とに なる。つぎの節で効用測定の理論的基礎を吟味しよう。
ごキ L
Ill分配理論と効用測定との関連については次の論文を参照されたい。
村上雅子,分配の公正1r関する経済理論.展望,理論経済学, Vol.25.1974. 筆者の乙の論文執筆Ir関連して,参考資料1rついて村上教授の助力を得t:cとを 付記する。
(2) Ragnar Fr;sch Su, un pγobleme deconomic p町e.192p p. 184
(3) J von Ne田 副n副dO.Morgenstern Theory of Gαmes and Ee師 側icBeha叫"・
1943 pp. 15 31
141 たとえばつ吉田ような研究がある。
M Fdedman田dL J. Savage The Ut;Ety Analys;s of Chokes lnvo!v;ng R;sk :
J.P. E. 1948. Aug.
H Markowitz."The Utilityof Wealth:J P. E. 1952. Apr.
REi田 町 田dR.Strntz Flight Insurance and the Theory of Choice ,
J P E. 1961. Aug.
R. Schlader. A田lysisof Decisions Wld°' Unc°'如nty.1969 (5)たとえばつぎのような研究がある。
R.Frisch A Ccmplete Scheme for Computmg All Direct and Cross Demand Elasticities in a Model with Many Sect。rs':Ecouomefricα1959. Jan.
D卵 白nicUtility Eeommetrica 1964 July
C.Clark:'The Martonal Utility of Income'; Oxfo,d Economic Papen 1973 July W.Fellner. Operational Utihty. The Theoretical Back!Oound and a Measurement.
T四 Ec冊mnicStulies m抗eTrodition of Irv1噌 Fisher. 1967 S.Maita!."Public Goods and Income Distributwn .Some Fuxther Results~
Econometrica. 1973 May
(6) R Fr.sch. New Methods of Mearndng Mαrginal Utility. 1932. p.15 フザッシュ自身は己の弾力性という名称の代りに可援性(flexibility)という用語 を用い,可境性の逆数を弾力性と呼んでいるが, EEでは最近の一般的な用法に 従って弾力性の名称を使用した。
171上の注IS)lr掲げたFrisch 0)初白論文のp.189注(9)を参照。
(8) Frischの同上白論文のp.184参照。
2.効用測定の論理的基礎
効用の測定の前提として独立財の脊在が必要である乙とをフリッシュ の所論に関連して述べたが,独立財を用いれば効用の測定が可能である
効用の測定について 11 乙とを論証した古典的な学説として7イツシァーの学説が挙げられるT
いま乙ζfl'.フィッシァーの学説を紹介するζとは省略するが,乙ζで問 題となるのは効用の測定可能性を前提としないで,独立財をどうして定 義し得るかという乙とであり,フイッシァーはこの問題については全く 触れていない。
財Aの量がαであるときの増分L1aの効用が財Bと独立であるというζ
とは,消費量が(α,'b)であるときのLiaの効用と,消費量が (a,b') (た だしbキb)のときの』αの効用とが等しいということであり,いいかえ れば財空間(α,b)における財の増分Aαと(a,b ')における財の増分』 α
とを比較して両者の価値を同ーと判断するζとである。効用理論は財の 選択行為を通じて効用の大小を規定しているが,乙のような財空間の異 なる点における財の増分は選択の対象とならないと考えるのが普通であ るから,選摂行為を前提とする効用の定義からは独立財を定義するζと は困難である。しかし何等かの方法によって異なる点11'.おける財の増分 の価値の比較が経験的に可能であるとすれば独立財を客観的に定義する 乙とも可能となる。
2財の効用がたがい IL独立であるときは, 2財の組合せの効用は各財 の効用の和に等しいことを容易K証明する乙とができる。いま財A, B の組合せ(α,b)の効用をU(α,b) とする。独立性の仮定KよってAの 限界効用はαのみの関数となる。
したがって
a
dUa
=世(α)。乙れを積分すればU(α,b) =!世(α)dα+C (Cは任意定数)
=A(α)+C
いまα=Oとおけば A(α)=0となる由〉ら U(O, b)=C
したがってCをB(b)とおくことができる。 A(α,) B(b)はそれぞれαの効 用, bの効用を表わす。上の関係から
U(α,b) =A(a)+ B(b)
12
逆11'.効用の加法性が成立するときは効用が独立であるととは自明である から独立性と加法性とは異語同義である。したがって何等かの方法で効 用の加法性を立証する乙とができれば効用の可測性を根拠づける乙とが できる。
効用の可測性を証明するもう一つの方法として限界効用逓減の法則を 経験上自明の事実として承認するという方法がある。いま効用を単なる 序数と考え,財x.・M・・・xnl1'.対する序数的効用の一つをU(x・,・""""Xn)と すれば,すべての効用指標はU(x,...... xn)の単調変換によって得られ るから,乙れをF(U)で表わす己とができる。 Fは単調変換関数を表わ す。いま乙の関数を用いて限界効用逓減の法則を表わせば,財xd1'.対す
る限界効用はF ・務であるから
F"起 + F'~く OdX< dx!
となる。単調変換により F>Oである。..,,..,.の符号はd'U ζの法則を認める α'X<
以上は負でなければならぬ。しかしF"は変換関数の形によって正とも負 と色なり得るから,上の不等式が常に成立するためには変換関数の形を 制限しなければならない。乙れは部分的にせよ効用が単なる順序数では なく,順序の定め方11'.制約がある乙とを意味するから,いわば準基数的 な性格をもっζとになる。 F"=Oとすれば変換はl次変換となり効用は 完全に基数として定義せられる。
限界効用逓減の法則もこれを吟味すれば,財空間の異なる点における 効用の比較を認めるζとになる。財の量がzのときの.dxの効用と, x+
JxのときのAxの効用とを比較して後者が前者より小さいと判断する乙 が限界効用の逓減であるからである。なお乙の法則を承認するだけでは 財の効用の完全な可測性を証明することができない理由は,乙の法則で は同一財の増分を比較するだけであるから, ζれによっては独立財の寄 在を証明することができないζと,および乙の法則では効用の大小関係 を判定するだけであって,効用が等しい関係を確定する乙とができない
効用の測定1rついて定について 13 から,効用の尺度を決定し得ないζとによるものである。
以上の検討によって効用を測定可能な量として定義するためICは,独 立財の存在,または加法的な効用の寄在,あるいは効用関数の1次変換 の可能性を単なる仮定としてではなく経験的に実証する必要がある乙と が分った。乙のことは決して不可能なζとではなく,実際にそのような 試みが行なわれた例をつぎに掲げたい。
効用の独立性を利用した例としてはマァシァルの効用概念を挙げる乙 とができるTマァシァルはある財に対してその個人が支出を承諾する最 大の貨幣額でその個人のその財に対する効用を測っている。乙の測り万 は極めて素朴で常識的ζl見えるが,私の解釈によれば乙れは十分に論理 的l乙解明できる定義である。一般に一定量の貨幣の効用はその貨幣を用 いて最大の効用を得るような財の組合せK基ずいて決定せられるが,実 際にある財の効用を測定しようとする場合は,必らずしもその財が他の 諸財と最適結合の状態にあるとは限らない。したがってこの場合測定の 尺度として用いられる貨幣の効用と測定せられる財の効用とは異なる財 の組合せに基ずいて決定せられるものであり,その効用はたがいに独立 なものである。たとえば財A, Bがそれぞれ最適結合(α,b)にあったと して, Aの僧分L1aを評価するのに,財(α+』b,b) I乙支出しでもよいと 思う貨幣額と,財(α,b)IC支出してもよいと思う貨幣額の差でLiaを評 価するというのがマァシァルの方法である。乙の場合(α+LIα,b)IC支 出しようとする貨幣額Mの効用は実は乙の貨幣額で購い得る財の最適結 合(α;b)の効用IC等しいから,財空間の点の比較として見れば点 (a,b)
と点(α,b) を比較している' ζとになる。ただこの場合問題となる乙と はdαの大きさが変るlとじたがって(α, b) が移動するという' ζとである。
したがって乙の万法による効用の測定は近似的ICは成立するとしても厳 密なものではない。
効用の相加性を利用した例としては,サムエノレソンの初期の論文があ る?この場合IC問題となるのは個々の財の効用ではなく,貨幣所得の効
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用である。各個人は任意の特定の期聞において将来の効用の総和を最大 ならしめるように行動すると仮定せられる。乙の仮定の中IC:異なる時点 における効用を加算できるζと,すなわち効用の加法性が仮定せられて おり, ζれが経験上自明の乙ととして承認されておるのである。
貨幣所得をzとし, t時間後におけるZの効用を現在時点で割引した値 をV(x, t)とすれば,個人は
T = l'v(x, t)dt
を最大にするように行働する。ただしOは現在時点, bは特定の任意期 間の終期である。効用の割引率をπとすれば, V(x, t)は次の式で与えら れる。
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U'(x)=λe'"−市
となる。 λはラグランク乗数である。所得zをtの関数として表わすx(t) から, tをzの関数として表わす乙とができるから,上の式から効用関数
U(x)を確定する乙とができる。
Eの分析はある期間の総効用を最大にするように,所得の現在価値が 一定の範囲で所得の時間的分布x(t)を操作し得る乙とを前提としている。
しかし実際には乙のような操作は可能ではないので,乙の方法を効用の 計測に用いることはできない。実際IC:可能なのは貯蓄と消費の操作によ って総効用を最大にする乙とであって, ζのことを前提として効用計測 の方法を述べたのが後に述べるフリッシュの新らしい研究である。
効用の相加性を利用したいま一つの例としてノイマンとモルゲンシュ テルンの理論があるT彼等の理論を紹介する乙とは省略するが,その要 点だけ述べればつぎのとおりである。二つの排反事象A, Bがそれぞれ
効用の測定陀ついて 15 αと(1ーα)の確率で起るとき, Aの効用をuとし, Bの効用をuとす れば, Aの効用の期待値はαuであり, Bの効用の期待値は(1 α) vで ある。 A, Bは排反事象であるから,このこつの効用は独立であると考 えてよい。したがってA, Bの結合事象の効用,すなわちAかBの何れ かが起る乙との効用は乙の二つの効用の期待値の和すなわちαu十(1ーα)v l乙等しい。
すでに述べたように効用は単調変換が可能である。結合効用11'..単調変 換を施したものは, A, B各効用IL同じ単調変換を施したものの和に等 しいはずである。そ乙で乙の変換関数をVとすればつぎの関係が成立す る。
VIαu+ (1ーα)|=αV(u)+(1ーα)V(v)
ノイマンたちはζの式からVが1次関数に外ならぬζとを示す乙とによ って,効用が計測可能であるととを証明している。変換関数を1次式に 限定すれば効用が計測可能になる乙とは,すでに限界効用逓減の法則11'.. 関連して述べたととである。変換関数が1次式であることを保証する条 件が効用の加法性であり, ζの加法性は確率を伴なう排反事象について
は明らかに成立すると考えられる。
以上によって,効用が計測可能であるための論拠として,効用の独立 性,加法性または1次変換の可能性の何れか一つが保証せられる乙と,
およびそれらの根底となる前提としては財空間の異なる点における財の 増分の比較が可能であるととを明らかにし得たと思う。効用測定の可能 性は乙のような前提を満足するような経験的事実が得られるか否かにか かっている。そのような探究の一部を本節に紹介したが,次節11'..乙のよ
うな探究の新らしい読みの2, 3を紹介し論評を誌みたいと思う。
注
(1)久武訳 フィッシァー.価値と価格由理論の数学的研究。(原著1892)pp.4‑8 (2) A.Marshall. Prinoiples of Economics. 8th吋 pp.92‑95
(3) P Samuelson."A Note on Measurment of Utility:• Review of Economic Studies. Vol.6 1936‑37
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(4)前節注( 3~照。
3.効用測定の若干の事例
ノイマンたちの方法による効用の測定については理論的にはその可能 性が証明されでおり実測の資料および方法11:関する問題が残されている だけであるといってよい。しかしフリッシュたちの方法に沿う,リスク を含まない効用の測定については独立財の定義あるいは効用の加法性と いう前提条件を如何に確立するかという問題が残されており, ζれにつ いての理論的研究がいまだに続けられている。と乙では比較的新らしし かっ注目すべき研究の2' 3について,乙の問題がどのように解決され ているかを吟味したい。
まずフリッシュ自身がζの問題の展開を試みた2つの論文を取り上げ よう。その1つは次の論文である。
A Complete Scheme for Computmg All Direct and Cross De‑
mand Elasticities in a Model with Many Sectors:Econometricα 1959. Jan.
乙の論文の本来の目的は家計調査による各種費目の支出比率とエンゲ ノレ弾力性を用いて財の価格弾力性を測定することができることを立証し,
Eの方法によって価格弾力性の計算が統計資料の利用という見地から著 しく容易になることを示す乙とにある。彼はこのことが家計費自民対す る欲望が互いに独立であるζとを前提とする乙とによって解決できる乙 とを明かにしている。貨幣弾力性を測定する乙とはとの論文の本来の目 的ではないが,主記の前提条件が満たされれば貨幣弾力性の測定が可能
となるので,理論的には乙の論文は貨幣弾力性測定IC関する研究といっ てよしまた彼はエンゲル弾力性を用いて貨幣弾力性を算出する式を導
き出している。
フリッシュはこれらの乙とを証明するために欲求の弾力性という概念 を用いる。いま家計消費の対象となる2つの財の量(実際には金額で表