非線形を考慮した直流他励電動機の動特性解析
知 野 照 信* *
1. ま え が き
直流電動機は構造,保守及び価格の面で交流電動機に比べ不利な点があるが,低速か ら高 速までの全範囲にわたって運転性能が優れ可変速の用途に広 く利用されている.卑 近では, サイ リスタ電源を用いて容易に効率良 く制御できるようになったので,広範囲の速度あるい は負荷変動状態下で 使用される機会が多 くな り, その動特性の解明が 必要 となってきてい る.
サイ リスタ電源で運転される直流他励電動横の特性に関する研究は数多 く発表されている が,ほとんどの論文 ( 1 ) 〜 ( 5 ) が電動機の線形モデルを仮定 して解析を進めている.しかし,動特 性,特に,始動特性を扱 う場合は, ブラシを含むために起 る電機子電流の大きさに対する電 機子回路抵抗値の変化.磁気飽和による電琉子インダクタ' /ス値の変化及び電機子電流変化 に伴 う励磁電流の変動は,後述のように特性に影響を及ぼし,電動槙の線形モデルでは不十 分であると考えられる.また,計算機の発達普及した今 日,シ ミュレーシ ョン技術はます ま す重要 とな り, より精密な電動枚モデルが必要 となっている.
本論文では,電践子回路抵抗及びインダクタンスの非線形性並びに電政子電流変化による 励磁電流の変動を考慮 した電動枚モデルを提案 し,そのモデルを用い,サイ リスタ電源で運 転される直流他励電動機の動特性をディジタルシ ミュレ‑シ ョ. /により解析し,種 々の特性 を明らかにす る.
2 . 非 線 形 を考 慮 した 電 動 梯 モ デ ル 2・ 1 電動機基本式
自動制御系あるいはシーケンス制御系の中に組み i o 込まれている小形の直流電動機は,始動時に電圧が
直接印加され始動され るため,定格電流の数倍の始 動電流が流れ,前述のような非線形性が生 じる.従 って,精密な電動機モデルを求めるためには非線形 要素を考慮 しなければならない.図 1 に示す直流他 励電動掛 こて,いま,非線形を考慮 した電機子回路
抵抗を R a * ,電機子回路インダクタl /スを L a * と 図 1 直流他励電動践
し,電機子回路が励磁回路へ 影響を及ぼす 相互インダクタンスを M a とすれば,電動機の 励磁回路及び電機子回路に成立する電圧方程式はそれぞれ ( 1 ) , ( 2) 式 となる.
* 昭和 5 2 年7 月 29 日電気学会全国大会,昭和 53 年1 0 月4 日電気四学会北陸支部連合大会にて発表
* *電気工学科助手
受付原稿 昭和 54 年 9 月28 日
1 8 長野工業高等専門学校紀要 ・第 1 0 号
V/‑Rfi /IL F % ‑M a x
v o ‑R a * i q + 誓 ㌢ + b M f i /a ‑M q 告
ここで ,R/: 励磁回路抵抗 ,Lf: 励磁回路インダクタンス , Vf: 励磁電圧 ,i /: 励磁電 流 , ♪M/: 直流政定数 ,Va: 電政子電圧 ,i a . :電機子電流,a I: 電動機角速度 ,♪: 柾封数
一方,運動方程式は次式で与えられる.
P M/ i / i a ‑J % ・ fo w+T o ・T (3) ここで ,I: 負荷を含む慣性モーメン ト ,fo: 粘性摩擦係数 , T o: クーロン摩擦 トル ク, I:負荷 トル ク
2・ 2 電動機モデルと実測結果
直流他励電動機の一例 として,定格出力 1 0 0 W ,定格電圧 1 0 0V ,定格電流 1 . 4A ,極数 2 , 定格回転数 1 8 0 0 R.P.M. の電動機について,電動横モデルを求める.
図 2 に電機子電流 と電機子回路抵抗及び電校子回路イl /ダクタンス特性の実測結果を示す.
周囲で実線は非線形計算のための近似関数をプロットしたものである.抵抗値の測定は( 6 ) , 供試機を外部駆動枚で回転 させておき,励磁回路を開放 し,電壊子回路に直流電圧を印加 し, その電圧電流特性か ら実効抵抗を求めた.非線形性は始動直後が最 も大きいので,回転速度 は非常に低速で測定 した.このため,残留磁気による発生電圧は非常に小さく無視できるも のとなった.インダクタンス値は,交流インピーダンス法により測定 し,交流電流に直流電 流を重畳 して求めた.
電機子電流変化に伴 う,電機子回路 と励磁回路の相互誘導係数 ( 〃。 )の測定は,励磁回路 に抵抗を接続 し,供試機を低速で回転させておき,電機子回路に直流ステップ電圧を印加 し,
to o E∬ 2 LO
.B S ・
(
H ). D 7 ' ( V ) . D u
0 1 2 3
Ic( A) 図 2 R a * ,L a * の非線形特性
そのときの励磁回路の電流変化のピーク 値を測定 し 〟 βの値を求めた.電流の応 答波形は歪んでいるので正確な値を求め ることは困難であるが,概略値は求める ことができる.
前記仕様の直流他励電動概を用いて, 電源電圧 5 0V ,励磁電流 0 . 1 5A とし,電 圧をステ ップ状に印加 したときの無負荷 時電動機角速度 ( a l ) ,電機子電流 ( i a )及 び励磁電流 ( i f) の応答波形を図 3 に示す.
同図( a ) は非線形性を考慮 した ( 1 ) , ( 2) 式 及び ( 3) 式の連立徽分方程式をルンゲク
ッタ法で解いた計算結果で,桝は実測波
形である.計算に用いた電動機諸定数を
非線形を考慮 した直流他励屯動機の動特性解析
図 3 電動故の始動特性 表 1 花動機諸定数
励磁回路抵抗
励磁回路イソダクタンス 相互イソダクタンス 直流機定数 餌性モーメソ ト 粘性摩擦係数
クーロン摩擦 トルク
Rf‑6 86. 7 0 エ′‑3 6. 3 H M a =0. 3 5 H M/‑3. 2 2 H
I‑4 . 36 × 1 0一 N・ m・ S3 /F ad I . ‑ 1 . 21x1 0‑ 1 N. m・ S/ f ad T 。 ‑0 . 01 9 N・ m
蓑 1 に示す.電機子回路抵抗 R a *
及び インダクタソス L a * は図 2 の値 を用いた.計算結果 と実測結 果は非常に良 く一致 し,電動機角 速度 は応答波形の細部につい て も 良 く一致 している.励磁電流 の変 化については,計算結果のプ了が全 般にやや小さ くな ってい るが, こ の原因は,励磁電流が変動す る要因に,電機子電流に対す る相互誘導 しか考えていないか ら で,その他′整流時の コイル短絡電流の影響な どが考え られ る.図 3( a ) の点線は電動機 を線 形モデル として計算 した結果 で, この時の電機子回路抵抗は 1 4. 9 L 2,イ ンダクタソスは0.1 2 8Hであった.非線形 モデル と比較す ると,時定数で 6 6. 7%,冠流 の最大値で ‑2 3 . 1 % の差 が生 じ,非線形 モデル導入の必要性を示 している.
この ように,電機子回路抵抗,インダクタンスの非線形性並びに電機子回路 と励磁 回路 と の相互 インダクタンスな どの測定は容易で, これ らを考慮 して計算すれば非常に精密な問動 機 モデルが得 られ, シ ミュレーシ ョン技術が実際の設計 な どに十分活用 され るもの と考 え ら れ る.
3. デ ィジタル シ ミュレー シ ョン
サ イ リスタ電源で運転 され る直流電動機の特性は,半導体の逆方 向電流阻止特性のた め動 作条件に よ り,電政子電流連続及び不連続 の二つの状態が生 じ非線形系 となる.従 って,そ の動特性は非常に複雑 とな り,電流不連続状態での電流通電期 間の算定が困難で,現在 ,節 析的には求め られない とされ てい る ( 4 ) . 整流電源で運転 され る場合は, 電源電圧 と電動機逆 起電 力の大小関係に よ り,電流通電開始時点が決 まるとい う問題が加わ り,更に解析が複雑 とな る.その上電動機の非線形性を考慮 して動特性を解析す るためには, シ ミュレ‑シ ョソ 法に額 らざるを得ない現状である.
サ イ リスタチ ョッパ屯源及び全波整流電源で運転 され る直流 他励電動機の静特性の説 明は,
20 \ 長野工業高等専門学校紀要 ・第1 0 号
すでにいろいろな文献で述べ られているので省略 し,本章ではデ ィジタルシ ミュレーシ ョン について簡単に述べる.
3・ 1 サイ リスタチ ョッパ電源で運転 される場合
直流他励電動機をチ ョッパ電源で運転 した場合,電機子電流連続及び不連続 の二つの状態 が生 じる.電流不連続時のチ ョッパー周期は,次の三つのモー ドか ら成立つ.
モー ド Ⅰ 電動機が電源か ら電力を供給 され駆動される期間で, ( 1 )〜 ( 3) 式が成立す る.
モー ド Ⅱ 電動機が電源か ら切推 され,モー ドⅠで電機子に蓄え られた電磁エネルギー が フ リーホイール ダイオー ドを通 じて放出される期間で,電機子の電圧方程式は次式 となる.
O‑
Ra・ i a ・ 些 禁 + P M f i f W ‑ Ma 告 (4) 励磁回路の電圧方程式,運動方程式はそれぞれ ( 1 ) , ( 3) 式 となる.
モー ド Ⅲ 電動機が有す る運動エネルギーに より,だ行運転 している期間で,次式が成 立す る.
O‑J % ・f o w ・T o ・T (5)
次に,電機子電流連続の場合は,モー ドⅢが生 じない状態で,チ ッヨパ一周期はモー ドⅠ, モー ドⅡか ら成 り,電動機の始動時,重負荷時あるいはチ ョッパ周波数が高い場合に生 じる.
デ ィジタルシ ミュレーシ ョンは次の ように行 う.先ず モー ドⅠの ( 1)〜 ( 3) 式をルンゲグッ タ法で解法 し ,i / ,i a 及びa I を計算す る.モー ドⅠの最終値をモ‑ ドⅡの初期値 とし,モー ドI lの ( 4) 式及び ( 1) , ( 3) 式を解法する.モー ドI lでは i a ≧ 0の判定を行い , i a > 0のとき は電流連続で, チ ョッパ一周期が終る. モー ドI lで i a‑ 0 となった ときモー ドⅢ の過程に 移行 し,モー ドⅢの ( 5) 式を解法 La J を求める.
3・ 2 単相全波整流電源で運転 される場合
単相全波整流電源で運転 される場合 も電機子電流連続及び不連続の二つの状態が生 じ,電 流不連続時は,更に, フ リーホイール ダイオー ドが通電 して不連続 となる場合 と,通電 しな いで不連続 となる場合 とに分け られる.
電動機が駆動され るモー ドⅠでは,電機子回路の電圧方程式は次式 となる.
Ems i n( 叫i ・O a+0 β ) ‑ Ra ・ i a ・撃 . ♪M/i / a‑Ma 告 (6) ここで ,Em: 電源電圧の最大値 , a J o:電源角周波数 , O a . '制御角 , O p: 制御角か ら電流 が通電す るまでの角度
励磁回路の電圧方程式,運動方程式は,それぞれ ( 1 ) , ( 3) 式 となる.モー ドⅡ及びモー ド
Ⅲはチ ョッパ電源の場合 と同様である.
シ ミュレーシ ョン法は,チ ョッパ電源の場合 とほぼ同様であるが,サイ リスタが点弧 し電 流が流れ る時点は,α 制御された電源電圧の瞬時値が逆起電力より大 きくなる時点であるこ
と及びモー ドⅠで も i a ≧ 0の判定をす る必要があることを考慮す る.
非線形を考慮 した直流他励電動機の動特性解析 21
4. 実 測 結 果 と シ ミ ュ レー シ ョン結 果
ここでは,前記仕様 の直流他励電動機を用いて,電動機始動特性の実測結果 と第 2 章で述 べた電動機 モデルを用いた デ ィジタル シ ミュレーシ ョソ結果 との比較及び シ ミュ レーシ ョン に よる解析結果について述べ る.
4・ 1 サイ リスタチ ョッパ電源で運転 される場合
図 4 に,チ ョッパ回路の屯源電圧5 0V,周波数1 0 0 Hz ,チ ョッパー周凋j( T) に対す るオン 期間 ( To , , ) の比 T o , . /T‑0. 6 として,電動機を無負荷運転 した ときの電動機角速度 ( a 1 ) 及び 電機子電流 ( i a) の始動特性を示す.同国( a ) はシ ミュレーシ ョソ結果,P がま実測結果であ る.
シ ミュレ‑シ ョソ結果 と実測結果は良 く一致 してい る. このよ うに シ ミュt /‑シ ョソ法に よ
w m L ー ー ー 1 .
‑ I ■ T ‑ 8 T r O r 8 d r1
ど a' L
≒ ‑ ‑ 賢 二 : ; ; : jj ‑ ;
( a)
図 4 チョッパ電軒で運転される電動機の始動特性
れば,過渡時に刻 々と変化 し,解析的に 1 ・ 0 は現在求め られないとされてい る電流不
連続時の通電期間が 自動的に決定 され,
かつ,電洗連続不連続時の状態を統一的 。〇・ 6 に扱 うことができるので,電動機特性の i 全容が容易に得 られ る.
図 5 に,電源電圧 ( E)と定格電圧 ( Er ) の比 E/ E,杏/ ミラメータとし,電動機角 速度を a J n ‑ ♪M/i / a J / E と正規化 し,無負 荷時におけ る To l ' / T と a J ' 'の関係を示 した. To " /T と aI ' lの特性は比例性がな
丁 =ワ / 如ノ 2 A }・
〇 〇・ 2 0 ・ 4 辛 〇・ 6 08 ' ・ 0 図 5 知負荷時電動機速度特性
く 仙 ̀ほ飽和す る傾向 とな り ,To " / T が
約 0. 3以下で 伽 は急激に変化 し, 0. 4以上では 伽 の変化は小 さ く , To " / T に対す る 肋 の制御性能が悪い ことがわか る. これは,電流断裁期間に生 じる逆起電力が撫負荷のた め大 き く , To " / T 変化に対す る電機子電圧の変化が小 さいためである. 負荷を負えば制御性能 は良 くなると考えられ,図 6 に,負荷を Tn‑( T o + て ) R C / PM/ i / E と正規化 し, I, Iを/tラメ ータとし ,To " / T と A I " の関係を示 した.これ よ り ,To l l / T に対す る 肋 の制御性能は負 荷を負 うに従 って良 くな っていることがわか る.
図 7 に,無負荷で始動 した とき,定常状態の9 8%に連す る周期数 ( N)と電動駄角速度 ( W" )
22
1 . 0 0. 8 C0. 6
ら
0. 4 0. 2
0
長野工業高等専門学校紀要 ・第 1 0 号
o o・ 2 0・ 4 T o nO・ 6 01 8 1 ・ O r
図 6 負荷時電動機速度特性
300 200 1 00
≧ 50 30 20 1 0 5 3
0 0. 2 0 . 4 0. 6 un 図 7 始動時間特性
0. 8 1 . 0
t 図 8 電動機の過渡応答
の関係を シ ミュレーションによ り求めた結果を示す.周期数 Ⅳ はほぼ始動時間を表わす と考え ても大差な く,始動時問は ,To n / T‑ 1即ち直流電圧を印加 した
ときに達す る速度の約 1 /2 の速 度 となる To n / T の値で, 最大 となることがわか った.また, 同一速度で比較す ると,電圧が 低い程始動時間は短 くなること がわかる. これ より,電動機制 御系を設計す る場合,電圧を低 く L To n / T は大 きいところで 使用す ることが,応答の面で望 ましいといえる.
図 8 に , 7‑0 . 0 3 4 Ⅳ・ 桝 の軽 負荷時に ,To n / T‑0 . 2 の定常 状態か ら To n / T を 0. 8, 0 . 2と 変化 させた ときの応答をシ ミュ レーシ ョンよ り求めた結果を示 す.減速時は加速時に比較 して 応答が著 しく悪 くな っている.
これは To n / T を 小 さくして減 速す る方式であるか ら,電潰電 圧は一定で制動力が働かな く, しか も減速中で もオ ン期間で電 流が流れ,電動枚が駆動エネル ギーを供給 されなが ら減速す る ためである.同図の点線は,電 機子回路両端に50 βの制動抵抗 を接続 し ,9 0 ms 問発電制動 し た場合をシ ミュレ‑ショソした もので,応答時間が著 しく改善 されていることがわかる.
4 ・ 2 単相全波 整流電源で 運 転 される場合
図 9 に,電源電圧 50V ( 実効 値) , 周波数 60 Hz ,制御角 6 00
として,電動機を無負荷運転 し
非線形を考慮した直流他励電動機の動特性解析 2 3
8 . 0 r 8d l ‑
̲ ̲ ̲ ⊥ ̲ニ ‑ 血 ′
I ‑